インバンク関係の変容を中心として ―
著者 鹿野 嘉昭
雑誌名 經濟學論叢
巻 58
号 2
ページ 25‑78
発行年 2006‑09‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011012
【論 説】
グローバル化,情報化と日本型金融システム *
―メインバンク関係の変容を中心として―
鹿 野 嘉 昭
1 は じ め に
第2次世界大戦後の日本における金融の大枠や取引慣行は,銀行部門を中核 として,人為的低金利政策,店舗規制・商品規制に代表される各種の競争制限 的規制,さらには公社債市場での起債調整などに支えられるかたちで,高度成 長時代に形成された.そうした規制が自由な価格形成あるいは価格を媒介とす る需給調整を阻害するなか,金融市場においては関係者間の利害調整により需 給のマッチングが図られてきた.たとえば銀行貸出市場においては高度成長時 代を中心に,メインバンク関係を基準とする信用割当が恒常化していた.一方,
1967年のOECD加盟を契機とする資本取引の自由化を受け,外資による乗っ 取り・敵対的買収の脅威から借り手企業を守るとともに経営権の安定化を狙い として,銀行と借り手企業との間での株式の相互持ち合いが強化された.こう した一連の流れのなかで,問題の解決に際しては関係者間の利害調整を重視す る日本型金融システムが形成されたということができる1).
* 本稿は2005年度日本金融学会春季大会での報告論文を指定討論者となった広田真一氏に加え,
北坂真一,北川雅章,新関三希代氏などから頂戴したコメントやサジェスチョンを踏まえて補筆・
修正したものである.松浦克己氏には,草稿の段階から種々ご指導をいただいた.いうまでもな く,ありうべき誤解等はすべて筆者の責に帰す.なお本稿は福澤満氏と共同で執筆したものであ るが,その後,同氏が実業界に転じ投稿資格を喪失することになったため、同氏の了解を得て鹿 野の単著として公表することになった。この事実を記すことにより,福澤氏に感謝することにし たい.また本稿の作成に際しては,日本証券奨学財団から2005年度研究助成を受けた.
1 )日本型金融システムの特色と形成については,たとえば鹿野(2001)を参照.
その後,1970年代後半になると,金融取引に課されてきた規制の緩和・撤 廃が強く求められるようになり,政府も漸進的に自由化を推進した.実際,わ が国における金融の自由化は為替・資本市場の自由化,金利の自由化,業務の 自由化を3本柱として実施されてきたが,そうした動きは折からの自由化,情 報化,グローバル化の流れを追い風として1980年代後半以降,急速な勢いで 進展した.その結果,日本の金融のあり方も変容を強いられるようになった.
実際,メインバンク関係や株式の相互持ち合いなど,日本に独特の特色とされ てきた企業と銀行との取引関係の態様も,資金調達に占める銀行借入依存度の 低下や持ち合いの解消が進展するなど,今や大きく変貌しつつある.
その一方で,日本の企業金融やコーポレートガバナンスに関する議論にお いては多くの場合,メインバンク関係は引き続き安定的に機能していると暗 黙のうちに仮定されるなど,日本型金融システムの変容は明示的に考慮され ていないといっても過言ではない.日本の金融の現状あるいは将来像を議論 するに際し,これは由々しき問題である.それゆえ,本稿では,メインバン ク関係が近年,グローバル化,情報化,さらには金融システム不安の高まり のなかでどのような変貌を遂げたのかについて実証的に分析することにより,
「メインバンク関係に代表される日本型金融システムが現在,どういう状況に あるのか」という問題に対する著者なりの見解を示すことにした.加えて,
メインバンク関係が変容したという結論が導かれた際にはそれを促した制度 的背景についてもあわせて検討し,21世紀日本における金融のあり方を議論 するうえでの基礎的な事実を明らかにする.
もう少し具体的にいうと,第1に,1990年代後半から2000年代初頭まで を分析対象に取り上げ,その時期に観察された企業金融上の変化を踏まえつ つメインバンク関係面での特色がどのように変化したのかという点について 有価証券報告書から得られたデータを用いて明らかにする.第2に,旧来の 特色の変化が借り手企業の経営財務状況とどのような関係にあるのかという 問題について,サンプルセレクションモデルという質的選択にかかわる統計
手法を用いて分析する.とりわけ,本稿の場合,全企業あるいは特定の産業 に属する企業に代えて,優良企業100社,問題企業100社の合計200社を分 析対象に取り上げ,借り手企業の財務内容との関連でメインバンク関係の変 容問題について実証的に検討するところに特色がある.そして,これらの分 析結果を通じて,経営危機に陥った借り手企業を融資銀行が挙って支えると いう姿が大きく後退したという意味において,2000年前後を境としてメイン バンク関係は構造変化を遂げた可能性が高いことが示唆された.
メインバンク関係の構造変化を促した要因のひとつとして,不良債権の認 定方法として1997年7月に新たに導入された自己査定が挙げられる.実際,
自己査定の導入以前においては,メインバンクを中心として融資銀行が一丸 となって資金支援を実施すれば,たとえ問題企業向け貸出であっても健全債 権とみなされ,貸倒引当金の繰り入れ(=損失の発生)を回避することができた.
しかし,自己査定の導入に伴い借り手企業の財務内容を基準として貸出債権 などの健全度合いが判断され,次いでその健全度合いに応じて所要の貸倒引 当金積み立てが義務づけられることになった結果,メインバンクを中心とし た銀行団による問題企業への資金支援が経済的合理性を喪失するに至ったと 考えられるからである.
グローバル化,情報化のうち銀行行動に強い影響を及ぼすのは,第1に自 由化であり,第2には銀行監督体系の改編である.前者については多数の論 者により古くから指摘されており,本稿の場合,後者を強調するところに特 色がある.すなわち,銀行の与信管理は銀行監督当局による資産査定を前提 として構成されるため,その変更は銀行と借り手企業との間の取引関係に大 きな影響を及ぼしうる.事実,問題企業向け貸出においては融資がメインバ ンクに集中するというメイン寄せの動きがみられた.このようにグローバル 化,情報化の動きは自己査定の導入という銀行監督制度の改編を媒介として 日本の銀行の融資行動ひいては金融システムのあり方に強い影響を及ぼしつ つあると観念できる.いうまでもなく,自己査定は銀行行政のあり方を裁量
型からルール型へと改編することを狙いとして導入された.その意味で,メ インバンク関係に代表される日本に独特な金融取引慣行も,グローバル化,
情報化への対応措置として実施された銀行監督制度の改編を通じて,関係者 間の利害調整から市場を通じた資源配分へと取引の透明性,公正性を高める と同時に関係者の責任を明確化する方向で見直しが進んでいると結論づけら れよう.
以下,第2章では日本型金融システムの特色としてのメインバンク関係の 意味するところとその役割に関する議論を要約した後,メインバンク関係に 関する先行研究を展望のうえ,問題の所在を明らかにする.第3章では,メ インバンク関係の特色が近年,どのように変化したのかという点について有 価証券報告書から得られたデータを用いて明らかにするとともに,そうした 変化が企業の経営財務状況とどのような関係にあるのかという問題について,
サンプルセレクションモデルという手法を用いて統計的に分析する.第4章 では,メインバンク関係の変容を促した制度的背景を探るとともに将来を展 望する.最後に,第5章では,本稿での議論を要約するともに今後の研究課 題を提示する.
2 なぜ今,メインバンク関係を問題とするのか
2. 1 日本型金融システムの特色としてのメインバンク関係
アメリカの銀行においては,預金者利益の維持・向上を重視のうえ,経営 危機に直面した企業への支援は原則行わないのみならず,経営財務内容があ らかじめ定められた財務制限条項(covenants)を超えて悪化した企業向け融資 については中断して回収するのが一般的となっている.これに対し,わが国 の場合,銀行と借り手企業との間には,経営危機に陥った借り手企業に対し ては融資銀行が金利の減免,緊急融資の実行,さらには債権放棄の実施といっ たかたちで支援の手を差し伸べるなど,通常の銀行取引を越えた緊密な関係 がみられる.こうした日本に独特な銀行取引関係は一般に,メインバンク関
係と呼ばれる.以下,それが意味するところについて簡単に説明する2). 日本の企業の場合,自己資本比率は20〜30%前後と,欧米企業の半分程 度の水準にとどまっている.そのため,設備資金の調達に際しては銀行融資 あるいは社債の発行に頼らざるを得ない.しかし,高度成長時代を中心とし て社債発行市場においては起債調整が実施されていたため,希望する金額だ けの資金を調達するのは事実上,困難な情勢にあった.これらの事実は,銀 行融資を反復して調達できるか否かが企業の成長・発展を大きく左右してい ることを意味している.一方,銀行貸出市場においては人為的低金利政策の下,
超過需要が恒常的に存在するとともに信用割当が常態化していた.それゆえ,
あとで詳しく論じるように1980年代半ばまでの間,借り手企業においては銀 行との間で良好な取引関係を構築のうえ,銀行融資を安定的に確保すること が経営上の重要な課題となっていた.
加えて,低い自己資本比率はより少ない資金で当該企業の株式=経営権が 取得可能なことを意味しているため,借り手企業においては乗っ取りや敵対 的買収の脅威を減じるとともに現経営陣の策定した経営方針を支持してくれ る「声なき安定株主」を多数確保することが不可欠となっていた.このよう な要請は1967年のOECD加盟に伴い資本取引の自由化が不可欠となったこ とを契機としてさらに高まり,そうした流れのなかで株式の持ち合いが進ん だ.一方,銀行の場合,業界内での規模・収益競争を勝ち抜いていくためには,
貸出・預金の量的拡大要請に協力してくれる借り手企業を取引顧客として多 数囲い込むことが経営戦略上の重要な要素となっていた.
このような銀行,借り手企業双方のニーズを満たすべく高度成長時代に形 成されたのがメインバンク関係と称される日本独特の金融取引慣行である.
この関係は,金利が規制され,市場の資源配分機能が有効に作用しないこと を前提として,互いに相手方の利益最大化につながるよう行動することを暗 黙のうちに確約するところに特徴があり,この点を捉えてメインバンク関係
2 )メインバンク関係の意味とその機能の詳細については,たとえばAoki and Patrick(1994)およ び鹿野(1994)を参照.
は通常の銀行取引を超えると観念されることが多い.たとえばメインバンク となった銀行に対しては,借り手企業からの要請に応えるべく,①設備投資 資金等の安定供給を確約する,②乗っ取り,敵対的買収のリスクを減じるべ く安定株主になる,③「いざ」という時には緊急融資等の支援措置を講じる,
などといったことが期待される.一方,借り手企業に対しては,①貸出,預 金や為替など各種銀行取引をメインバンクに集中し,当該銀行が銀行間の競 争上より有利な位置を確保できるよう協力することや,②銀行職員あるいは OBを幹部職員や役員として受け入れること,③通常では入手困難な借り手企 業のインサイダー情報を迅速に提供することなどが求められる.
このような互恵的色彩の強い取引関係をメインバンク関係と称するのであ る.ただし,メインバンクが借り手企業に資金の安定供給を確約するといっ ても,貸出ポートフォリオのリスク管理という観点からして,そこには自ず と限度があるのも事実である3).それゆえ,借り入れを依頼してきた企業がど んなに優良かつ親密な取引先であったとしても,借入希望額全額を1行単独 で引き受けることはせず,その代わり,要請額の2〜3割という融資銀行団 のなかで最も高い比率で引き受け,残りについては当該企業に対する経営監 視をきちっと行い,その安全性確保に努めることを表明して他の銀行に貸出 の実行を依頼してきたのである.
そして,ある銀行が特定の借り手企業との間でメインバンク関係にある場合,
当然のこととして,ある特徴的な事象が観察される.そうした事象は「メイン バンク関係に関する定型化された事実」と称され,一般に次の6つが挙げられる.
すなわち,①借り手企業はメインバンクを含めて多数の銀行と長期的かつ総合 的な取引関係を維持している,②個々の銀行の融資比率は安定しており,その なかでも最大の融資比率を有する銀行をメインバンクという,③メインバンク は借り手企業の株式保有に関しても融資銀行のなかで最大の比率を誇る,④メ インバンクは借り手企業に「お目付け役」として役員を派遣している,⑤メイ
3 )実際,大手都市銀行では新人研修に際し,たとえ優良企業向けの融資であっても,リスク分散 のため,自行融資額は3分の1以内に抑制するよう教育しているという話を聞く.
ンバンクは融資銀行団を代表して借り手企業の経営状況を監視する役割を他の 銀行から委ねられ,そうした役割や各種情報の伝達を日々の銀行業務の遂行を 通じて果たしているとされる.以上のような長期的,安定的かつ互恵的な取引 関係が成立していることを前提として,⑥借り手企業が経営危機に陥ったとき,
融資銀行団はメインバンクを中心として救済策を講じると観念されている.
2. 2 メインバンクに対する信認がメインバンク関係の基礎を形成する メインバンクといえば,融資順位第1位の銀行という側面が強調されること が多い.しかし,「定型化された事実」が示唆するように,実はメインバンク とその他の融資銀行との関係もきわめて重要となっているのである.というの も,ある銀行がメインバンクとして借り手企業に確約した資金の安定供給を充 足すると同時に貸出ポートフォリオにかかわるリスクを分散するに際しては,
融資銀行団の代表としての信頼を融資参加銀行から勝ち取ることが何よりも 重要となる.信頼がなければ資金の安定供給が困難となり,借り手企業との間 でメインバンク関係を構築すること自体,不可能となるからである.
それゆえ,メインバンクとしては融資参加銀行からの信頼を確保すべく借 り手企業の動きを普段から注意深く監視するとともに,問題が発見された場 合には是正措置の速やかな実施を求めるなどして,貸付債権の健全性維持に 腐心しているということができる.また,メインバンクの役割としては危機 に瀕した借り手企業に対する救済活動の実施が強調されることが多いが,そ うした措置はあくまでも「最後の手段」であり,いうまでもなく,発動しな いのがベストである.したがって,メインバンクの役割としては,救済活動 よりも普段からの経営監視行動のほうがより重要ということができる.
以上のとおり,メインバンク関係とは融資参加銀行からのメインバンクに 対する強い信認の存在を前提として構築された銀行と借り手企業との間の長 期的,互恵的な取引慣行であり,その安定性・持続性は融資参加銀行がメイ ンバンクの経営監視機能をどれだけ信頼するかに依存している.仮にまった
く信頼されなければ,リスクの分散はいうに及ばず,資金の安定供給も果た せなくなるなど,メインバンク関係自体,成り立ち得ないからである.それ ゆえ,メインバンクは当座預金の流出入などを通じて借り手企業の経営状況 を常時監視するにとどまらず,当該企業の成長・発展を支えることを表明す ることにより,他の銀行からの信頼を勝ち取るとともに貸出の実行を促して いるのである.そして,困難に直面した取引先企業にメインバンクが率先し て救済の手を差し伸べるのは,融資銀行団から負託された経営監視機能の有 効性を示すとともにメインバンクとしての名声を維持するためと考えられる.
2. 3 自由化,グローバル化,情報化で大きく変容した日本型金融システム このような特色を有するメインバンク関係は高度成長期から1980年代前半 にかけて最も隆盛をきわめたと観念されている4).実際,銀行貸出市場では,
借り手企業による旺盛な設備投資意欲を背景として慢性的に超過需要がみら れた一方で人為的低金利政策の採用に伴い貸出金利の変更を通じた需給の調 整機能が抑圧されていたため,信用割当が恒常化していた.そうした状況下,
銀行貸出市場においては価格調整に代わって量的調整が支配し,その基準に メインバンク関係が採用されたのであった.すなわち,メインバンクとなっ た銀行は自行の取引先企業からの借入要請の2〜3割を引き受け,残額につ いては他行に融資の実行を依頼する一方で,他の銀行がメインバンクとなっ た企業向け融資には一般融資銀行として参加するというかたちで借り手企業 の資金需要を相互に過不足なく充足し,資金面から日本経済の成長・発展を 支えてきたのである.
しかしながら,日本経済が1970年代半ばを境として投資超過経済から貯蓄 超過経済へと移行したのにあわせて,金融取引に課されてきた各種規制につ いても緩和あるいは自由化が必然的な流れとして段階的に実施された.とり わけ,1984年5月の日米円・ドル委員会での合意を契機として,わが国にお
4 )メインバンク関係と日本型金融システムとの関係や日本における金融自由化の進展状況につい ては,たとえば鹿野(2001)を参照.
いても世界的な自由化,グローバル化,情報化の動きに即応すべく,預金金 利の自由化,業務規制の緩和・撤廃や資本市場取引の自由化が一段と積極的 に推進されるようになった.こうした金融面での自由化の進展とともに借り 手企業による社債発行,増資新株の発行が容易となるなど,企業の資金調達 手段が多様化するなかで大企業の銀行離れが進み,銀行借入への依存度が大 きく低下した.
すなわち,1980年代半ば以降急速な勢いで進んだ自由化,グローバル化,
情報化という金融環境の変化は,これまでメインバンク関係を支えてきた基 礎的条件を崩壊させ,その意義や役割の見直しを迫ることになったのである.
実際,銀行借入の場合,メインバンクからは融資シェアの維持や期末協力預 金の要請などを求められることが多かった.高度成長時代,それらは銀行借 入の安定性を確保するためのコストとして容認されていたが,金融環境の変 化とともに借り手企業においては銀行取引に付随する各種の制約から逃れ,
経営・財務上の自由度を確保しようとする動きが漸次,広範化したからである.
このようにして,日本経済を取り巻く環境変化とともに,日本に独特な銀行 取引慣行であるメインバンク関係も変容を強いられることになった.
また,自由化,グローバル化のなかで日本の銀行行政のあり方も大きく変 貌した.これまでの間,日本の銀行行政は護送船団方式と揶揄されたように,
銀行保護色がきわめて強かった.そうした強力な銀行保護行政を政府が遂行 しえたのは為替管理によって内外金融市場が遮断され,国内で独自の監督行 政を展開できたからである.しかし,金融取引のグローバル化の進展ととも に為替管理が漸次自由化されるなか,銀行監督行政についても国際標準との 整合性確保を求められるようになった.
実際,1993年3月期決算以降,国際金融業務を営む日本の銀行に対しては バーゼル合意に基づく自己資本比率規制の遵守が義務づけられるようになっ たほか,1998年3月期決算からは銀行の資産査定に対して自己査定が導入さ れ,その査定結果の適切性が外部監査および検査により検証されることになっ
た.これを契機として,銀行による資産査定のあり方も大きな変更を余儀な くされた.すなわち,自己査定の導入に伴い借り手企業の財務内容を基準と して貸出債権等の健全度合いが判断され,次いでその健全度合いに応じて所 要の貸倒引当金積み立てが義務づけられることになった結果,メインバンク を中心とした銀行団による問題企業への資金支援が経済的合理性を喪失する に至ったのである.会計制度についても1999年3月期決算以降,国際標準に あわせるべく時価会計に基礎をおいた連結財務諸表を中心とする方向で漸次 改編され,現在に至っている.
2. 4 先行研究の展望
メインバンク関係が変容を余儀なくされた1990年代はちょうど,銀行の不 良債権問題が深刻化した時期とも一致していたほか,世界的にみると,企業 経営に対する規律づけ・監視機能あるいはコーポレートガバナンスのあり方 が大きな関心を集めた時期でもあった.そうしたなか,あとで詳しく述べる ように,わが国におけるメインバンク関係論も企業ガバナンスのあり方とい う文脈のなかでメインバンク関係を捉えて議論するという方向に重点が移っ た.このほか,メインバンクによる企業監視が十分でなかったことが資産価 格バブルの発生の原因のひとつとして作用したという捉え方が広まるなか,
学界におけるメインバンク関係に代表される日本型金融システムに対する関 心も1990年代半ば以降,漸次薄れていったということができる5).
メインバンク関係に関する研究は比較的新しく,シェーンホルツ・武田
(1985)を嚆矢とする.彼らは融資銀行団を代表して借り手企業の行動を監視 する代表的監視者としてメインバンクを捉えたうえでDiamond(1984)が提 唱した金融仲介の理論をメインバンク関係に適用し,メインバンクは借り手 企業の経営状況を審査・監視するとともにその結果を他の融資銀行に伝達す ることにより審査・監視費用の削減をもたらしているとして,メインバンク
5 )こうしたメインバンク関係をめぐる議論の変遷とその限界については,たとえば岡部(2003),
小佐野・堀(2002)を参照.
関係という日本に独特な金融取引慣行に対して理論的な説明を与えた.池尾
(1989),藪下(1992),Aoki and Patrick(1994)などの議論も,その延長線上に 位置づけられる.しかしながら,これら一連の研究では,メインバンク関係 が通常の融資関係との比較においてどのような特徴を有しているのかとか,
非メインバンクが借り手企業に対する監視という金融仲介機能の根幹を形成 する業務をメインバンクに嬉々として委託する根拠が明示されていない,あ るいは誰がメインバンクの行動を監視しているのかといった点が明らかでな い6).そのため,小佐野・堀(2002)や小佐野・小林(2004)が指摘するとおり,
説得力ある議論として広く受け入れられるまでには至っていない.
たとえば,Aoki and Patrick(1994)は「監視機能の互恵的委託(reciprocal
delegation of monitoring)」という概念を持ち出して,都市銀行は相互に借り手企
業に対する監視機能を委託しており,そうした互恵的な行動がメインバンク によるモラルハザードの発生を抑止していると主張する.しかし,メインバ ンクは都市銀行の間でも上位銀行に集中しており,そういった捉え方は事実 により否定されている7).加えて,高度成長期の日本では人為的低金利規制,
店舗規制など金融取引に対しては政府当局による厳しい規制が課されていた が,藪下(1992),Aoki and Patrick(1994)などにおいては蝋山(1992)がかつ て指摘したように,そうした日本型金融システムの特色との関連でメインバ ンク関係のあり方が議論されていない.
この問題を真正面から取り上げたのが鹿野(1994)であり,彼はメインバン ク関係を銀行と借り手企業間の互恵的な取引関係として捉えたうえで,高度成 長時代の金融構造との関係でメインバンク関係の意義とその機能について初 めて検討した.そしてまた,メインバンク関係については,先に指摘したとお り,借り手企業と銀行との間の互恵的な取引慣行として捉えたうえで,メイン バンクは取引先企業からの融資依頼に応えるべく融資銀行団のなかで最も高
6 )非メインバンクは借り手企業に対する監視行動をメインバンクに委託するという金融仲介の理 論に依拠したメインバンク論に対しては,三輪・ラムザイヤー(2001)が厳しく批判している.
7 )Aoki and Patrick(1994) の 場 合, メ イ ン バ ン ク に よ る 企 業 救 済 活 動 に 関 し て もreciprocal subordination という概念に基づき説明されているが,その現実妥当性は低いと判断される.
い比率で引き受ける一方,残りについては当該企業に対する経営監視をきちっ と行い,その安全性確保に努めることを表明して他の銀行に貸出の実行を依頼 するとともに,そうした表明を遵守するべく「いざ」というときには率先して 救済措置を講じてきたという考え方を提示した.多分,これが現在までのとこ ろ,メインバンク関係についての最も説得的な捉え方と判断される.
メインバンク関係を対象とする実証分析の場合,その安定性から企業救済 活動に至るまで数多くの研究があるが,ここでは企業救済活動に関する研究 成果を中心として簡単に展望する.こうした研究のなかで最も一般的なアプ ローチは,メインバンクは経営不振企業の救済に際し役員を派遣するという 事実に着目のうえ,役員派遣と当該企業の財務状況との関係を統計的に検証 するというものである.そうした研究成果としてはSheard(1994)や広田・宮 島(2001)などが挙げられるが,銀行による役員派遣と経営危機企業の財務内 容との間に統計的に有意な関係が見出されたと結論づけられるまでには至っ ていない.また,Morck and Nakamura(1999)は,メインバンクが役員を派遣 した後における借り手企業のリストラ状況を実証的に分析し,メインバンク 関係はむしろリストラの進展を抑制する傾向が強いことを明らかにしている.
もっとも,そうした実証分析の大半は1990年代前半までを対象としたもので あり,近年の動向は研究対象となっていない.
このほか,近年,企業ガバナンスのあり方という文脈のなかでメインバン ク関係を捉えて実証的に分析するというアプローチも増加している.たとえ ば,蟻川・宮島・齊藤(2003)は企業の設備投資行動との関連でメインバンク の監視機能を実証的に検証し,1997年11月に勃発した金融危機以降におい てメインバンクの融資比率が上昇したという強いメインバンク関係を有する 企業においては,高度成長期とは対照的に投資水準が低下したという分析結 果を報告している.この結果について彼らは,金融危機後における銀行の資 産圧縮が企業の投資行動を資金面から制約したと解釈している.また,堀内・
花崎(2004)は,株主やメインバンクは企業経営の成果引き上げという点にお
いては必ずしも有効に機能しておらず,むしろ市場での競争が経営の効率性 向上に寄与してきたという結論を得ている.これらの結論は興味深いが,借 り手企業の経営状況とメインバンクとのかかわりが必ずしも明確に規定され ていないという問題を抱えている点には留意する必要がある.
その一方で,自由化と経済のグローバル化が世界的に進展するなかでメイ ンバンク関係により特徴づけられる借り手企業と銀行との関係は変わったの か否か,また変わったとした場合,どのように変わったのかという問題を真 正面から取り上げた研究は,これまでのところ,存在しないといっても過言 ではない.実際,池尾・広田(1992)は,借り手企業の負債比率に関する記述 統計的分析に基づき銀行借入依存度,メインバンク依存度と借り手企業の資 本構成との関係を検証し,メインバンクの存在が負債コストの削減に寄与し ているという結果を得ている.しかし,彼らの場合,分析対象が1985年度か ら1988年度までの3年間にとどまるなど,自由化,グローバル化に伴うメイ ンバンク関係の変容は視野に入っていない.それゆえ,本稿では,先に掲げ た問題意識のうえに立って,1990年代後半以降を分析対象として,メインバ ンク関係を中心として日本型金融システムの変容問題について実証的な観点 から分析することにしたい.
3 有価証券報告書からみたメインバンク関係の変容
3. 1 分析データの説明
メインバンク関係が果たして本当に変容したのか否かという問題を統計的 に検証するに際しては,上場企業が投資家に対する経営財務内容のディスク ロージャー資料として公表している有価証券報告書がきわめて有用な情報を 提供してくれる8).それゆえ,本稿では,有価証券報告書に収録されている借
8 )実際,1999年度までの間,①長期借入金の銀行別内訳については財務諸表の「付属明細書」,
②短期借入金の内訳は「主要資産・負債の状況」においてそれぞれ開示されていた.連結財務諸 表が重視されるようになった2000年度以降は,単独財務諸表「主要資産・負債の状況」において 長短借入金の銀行別内訳が開示されているが,融資シェアの低い銀行からの借り入れについては
「その他」欄に一括計上して,記載を省略する企業が増加している.
入銀行一覧を利用して,借り手企業とメインバンクあるいは上位融資銀行と の取引関係の変容を実証的に探ることにした.その際,上場企業すべてを分 析対象として算出された平均値では,グローバル化や情報化に起因する限界 的な動きを捉えるのは困難といわざるをえない.そのため,本稿においては,
全企業あるいは特定の産業に属する企業に代えて,優良企業100社,問題企 業100社の合計200社を分析対象に取り上げるなど,限界的な観点から借り 手企業の財務内容との関連でメインバンク関係の変容問題について実証的に 検討することにした.
メインバンク関係に関する先行研究においては,多くの場合,メインバン クによる経営危機企業救済機能の実際に焦点が当てられているという事情も あって,問題企業のみが標本に採択されてきたといっても過言ではない.し かし,グローバル化,情報化との関連でメインバンク関係が変容したか否か を議論するに際しては,当然のこととして,優良企業による銀行取引行動に ついても分析対象に加える必要がある.こうした点にも配慮のうえ,本稿で は,問題企業に加え優良企業も標本に含めることにした次第である.その一 方で,優良企業,問題企業それぞれ100社を選択するのは結構難しい問題で ある.絶対的な基準が存在しないからである.それゆえ,ここでは,経済誌 として評価の高い「週刊東洋経済」による企業ランキングを優良企業,問題 企業の選択基準とした.
第 1 表は,本稿で標本企業に採用した優良企業100社,問題企業100社の 選択基準,業種別分布および利用に際しての留意点およびメインバンク比率 の算定方法を取り纏めたものである.この表からも明らかなように,「週刊東 洋経済」2002年6月15日号掲載の「強い企業ランキング」上位100社を優 良企業,「週刊東洋経済」2003年3月29日号掲載の「危ない企業ランキング」
上位100社を問題企業とすることにした.優良企業の場合,機械,化学・薬 品・ゴム,電力・ガスなど,日本を代表する大手企業が標本に採択されたが,
借入金残高では電力・ガス(全体の23%),建設・不動産・リース(同,15%),
その他金融(同,14%)や運輸・通信および卸・小売(同,12%)が大きな比重 を占める.一方,問題企業の場合,企業数では機械が最大となっているものの,
優 良 企 業 問 題 企 業
標本企業の選択基準 「強い企業ランキング」上 位 100 社
「週刊東洋経済」2002 年 6 月 15 日号
・ 2003 年 3 月期営業利 益予想が基準 ・ 財務内容が劣り,「危
な い 企 業 ラ ン キ ン グ」上位 100 社に計 上された企業は除外
「危ない企業ランキング」
上位 100 社
「週刊東洋経済」2003 年 3 月 29 日号
・ Z−値という財務指 標 か ら 算 出 さ れ た 2002 年 3 月期での危 険度指標が基準(た だし,証券取引所上 場企業に限る)
・ 借入残高が 20 億円未 満,融資銀行数が僅 少など,メインバン ク関係が成立してい るとは必ずしも想定 できない企業は除外
2001 年度末 2001 年度末
業種別構成 社数 借入金残高
(億円)
構成比,
%
社数 借入金残高
(億円)
構成比,
% 食品・繊維・紙パ 5 4,013 2.4 6 3,031 2.7 石油精製・窯業 6 6,444 3.1 5 1,969 1.8 化学・薬品・ゴム 18 2,767 1.9 10 5,144 3.3 鉄鋼・金属 4 19,654 7.3 7 13,411 5.4 機 械 23 15,931 9.5 26 16,602 9.7 建設・不動産・リース 7 31,530 14.5 22 38,983 40.3 卸・小売 8 38,329 12.0 15 44,012 20.1 運輸・通信 12 38,165 12.1 4 6,095 1.9
電力・ガス 11 52,583 23.3 0 0 0
その他金融 4 28,658 13.7 4 35,412 14.6
その他 2 152 0.2 1 416 0.2
合 計 100 238,231 100.0 100 165,079 100 第1表 標本企業の選択基準および業種別構成
借入金残高では建設・不動産・リース(同,40%)および卸・小売(同,20%)
が全体の6割強を占める.
対象期間については,1992年3月末および1997年3月末〜2002年3月末 の合計7会計年度末とした(一部,2月末および12月末決算を含む).2002年3 月末を終期としたのは,長短借入金の銀行別内訳の開示自体,連結決算中心 となるなかで2000年3月期決算以降,重要性の原則にしたがって有価証券報 告書への記載が簡略化されたため,優良企業を中心としてデータの入手が困 難化したという事情による.また,標本期間内に新規に上場した企業が一部 にみられたため,標本企業数が200社を下回る年もありうる.この間,優良 企業のうちおおむね20社程度は標本期間を通じて借入金ゼロという無借金経 営の状況にあった.
メインバンクの特定化に関連して広田・堀内(2001)は,東洋経済新報社編
『会社四季報』の【銀行】欄において最初に記載されている銀行(「四季報1位行」)
のほうが融資順位1位銀行という指標よりも適切であるとしている.こうし た指摘を踏まえ,本稿では,東洋経済新報社編『会社四季報』(2003年新春号)
取引銀行欄の第1番目に記載された四季報1位行が当該企業のメインバンク であると観念することにした.メインバンクの融資比率については,政府金 留 意 点 ・ 東洋経済新報社『会社四季報』の取引銀行欄の筆頭銀行をメ
インバンクとみなす.ただし,鉄鋼業など,実際の融資第 1 位銀行の融資シェアと メインバンクのそれとが大きく乖離 している場合には,第 1 位銀行を便宜的にメインバンクとす る.
・ 一部の企業においては 2000 年度以降,メインバンクの融資 額が非開示となっている事例が散見されたが,そうした場合 には,前後の期の融資シェアを基準として当該金額を推計す ることにした(3 期連続して非開示としている企業は標本か ら除外).
・ 優良企業で財務内容が良好な企業においては,ある銀行がメ インバンクであることを対外的に示すことを狙いとして,同 行 1 行からのみ少額の借入を実行するという動きが散見され た.こうしたタイプの借入については便宜上,借入金ゼロ企 業とみなすことにした.
融機関,外国銀行,銀行以外からの借り入れおよびCPを除く国内民間金融 機関からの借り入れを分母に採用して算出することにした.このほか,メイ ンバンク関係の変容を議論するうえでの参考計数として,サブメインバンク
(第2位銀行)およびサブサブメインバンク(第3位銀行)の融資比率について もそれぞれ算出することにした.なお,メインバンク比率等の算出に際しては,
日経ニーズ「金融機関別借入金」を用い,不明な部分については各企業発行 の有価証券報告書により補うことにした.
3. 2 分析方法
以上のようなデータを用いてメインバンク関係の変容を分析するに際して は,1992年3月末をベンチマークとして,その後,1992年3月末との比較に おいて銀行借入に占めるメインバンクのシェアがどのように変化したのかを 問題企業,優良企業という企業グループごとに検証することにした.加えて,
メインバンク関係の変容を検証するに際しては,サブメインバンクおよびサ ブサブメインバンクの融資比率も利用することにした.
このほか,借り手企業と銀行との取引関係を検証するべく,借り手企業1 社あたりの取引銀行数の推移についてもあわせてチェックすることにした.
しかし,有価証券報告書の記載要領の変更に伴い2000年3月末以降,融資 シェアの低い非メイン銀行(ぶら下がり銀行)等からの借り入れについては借 入銀行一覧表上,「その他」として一括計上する企業が増大したため,取引銀 行数を計算することが困難化しつつある.こうしたデータ面での制約に伴い,
借入銀行数の計算に関しては,1992年以降継続してデータが得られる企業の み(優良企業9社,問題企業70社)を対象として1992年3月末,1997年3月末,
1999年3月末および2001年3月末の4時点についてのみ実施した.
3. 3 分析結果
メインバンク関係のあり方自体,先に指摘したように,借り手企業による
銀行借入依存度の高さを前提としたものである.実際,たとえメインバンク の融資シェアが不変であったとしても,負債比率そのものが低下していれば メインバンク関係そのものが変容を余儀なくされている可能性を排除するこ とはできない.それゆえ,メインバンクの融資比率や取引銀行数の推移を分 析するに先立って,負債比率および社債・有利子負債比率の動向について検 討することにした.分析結果は次のとおりである.
(a)負債比率
借り手企業の負債比率は,第 1 図のとおり,全産業平均(銀行,証券,保険 を除く)でみて近年,低下傾向にあるほか,2000年以降は66〜67%の水準で 推移している.しかし,優良企業100社と問題企業100社という2グループ に着目すると,両グループの間ではかなり異なった動きが見出された.すな わち,優良企業の負債比率は1992年以降,全産業平均と同様に低下傾向にあ るが,その低下テンポは速く,1992年の71%から02年には62%まで△9%
第 1 図 負債比率の推移
(注) 全体は全産業平均(銀行,証券および保険を除く)
(資料)日経ニーズ「企業財務データ」
ポイント低下したことがわかる(全産業平均は△6%ポイントの低下).一方,
問題企業では逆の傾向が読み取れ,その負債比率は1992年の86%から2002 年には91%へと5%ポイント上昇している.この事実は,銀行離れが進んで いるのは優良企業に限ってのことであり,問題企業では逆に銀行との関係が 近年,より緊密になっていることを示唆している.
(b)社債発行高および社債・有利子負債比率
社債発行に関しても優良企業と問題企業との間で顕著な相違がみられ,優 良企業による発行高のほうが圧倒的に多い.たとえば1997年3月末以降の社 債発行残高(転換社債を含む)をみると,優良企業では27〜30兆円の間で推 移している一方,問題企業の社債発行残高は4〜5兆円と優良企業の6分の 1程度の水準にとどまっている.
また,社債への依存度合いを社債・有利子負債比率という指標で捉えると,
優良企業の場合,その値は第 2 図のとおり1992年3月以降,60%前後の水
第 2 図 社債有利子負債比率の推移
(注) 全体は全産業平均(銀行,証券および保険を除く)
(資料)日経ニーズ「企業財務データ」
準で推移するなど,負債による資金調達の約6割を社債発行に依存している,
あるいは銀行借入と社債発行との比重が逆転していることが確認できた.一 方,問題企業による社債発行残高は近年,減少傾向にあるほか,社債・有利 子負債比率も2002年には25%,全産業平均(銀行,証券,保険を除く,同50%)
の半分もしくは優良企業(同,61%)の4割の水準にまで低下している.この こと自体,問題企業は社債の発行が困難な状況下,銀行融資に頼らざるを得 ない事態に陥っていることを示唆している.
(c)メインバンクの融資シェア
第 2 表は,優良企業,問題企業向け融資に占めるメインバンクの融資シェ アの推移を業種別に示したものである.この表からは,次の4点が読み取れる.
すなわち,第1に,1992年3月末時点でのメインバンクの融資シェアは優 良企業,問題企業とも平均14%の水準にあったが,その後,経営財務状況の 相違を反映するかたちで対照的な動きをたどったことが判明した.すなわち,
優良企業の場合,達観するとメインバンクの融資シェアは概ね安定的に推移 した後,2000年3月末以降,低下傾向に転じたことがわかった.このメイン バンクによる融資比率の低下が顕著にみられたのは電力・ガスであり,これ らの業種に属する企業の場合,生命保険会社による融資比率の上昇がメイン バンク比率の低下を埋め合わせたかたちになっている.
第2に,問題企業向け融資に占めるメインバンクの融資シェアは,優良企 業向け融資に占めるメインバンクシェアの動きとは対照的に1999年3月末以 降,おしなべて上昇(いわゆる「メイン寄せ」の発生)したという事実が観察さ れた9).とりわけ,2001年3月末から2002年3月末にかけてはメインバンク の融資比率が平均22%から26%へと一挙に4%も上昇し,10年前(14%)と の比較においてほぼ2倍の水準になったという事実は特筆に値する.その背
9 )蟻川・宮島・齊藤(2003)も,1990年代後半,一部の企業を中心としてメインバンクからの借 入比率が上昇したことを確認している.しかし,彼らの場合,メインバンク関係と借り手企業に よる設備投資との関係に関心があり,そうした動きと借り手企業の財務内容との関係について明 示的なかたちで分析されるには至っていない.
第2表 メインバンクの融資シェアの推移 1.メインバンク融資シェア 変化幅(ポイント) 1992年 3月末1997年 3月末1998年 3月末1999年 3月末2000年 3月末2001年 3月末2002年 3月末92年 →02年92年 →97年97年 →02年97年 →99年99年 →02年 優良企業グループ ①食品・繊維・紙パ0.11370.15840.15730.15470.14470.13920.16720.05350.04470.0088−0.00370.0125 ②石油精製・窯業・土石0.19340.19060.20580.21740.15600.11990.1342−0.0592−0.0028−0.05640.0268−0.0832 ③化学・薬品・ゴム0.17220.22080.18510.17250.24060.21790.18870.01650.0486−0.0321−0.04830.0162 ④鉄鋼・金属0.13040.12620.11800.10690.10040.09520.1054−0.0250−0.0042−0.0208−0.0193−0.0015 ⑤機械0.16510.17040.15720.16900.17030.17570.16780.00270.0053−0.0026−0.0014−0.0012 ⑥建設・不動産・リース0.11680.12560.10440.10940.10970.11290.13020.01340.00880.0046−0.01620.0208 ⑦卸・小売0.10840.08030.08950.08420.08450.08360.0887−0.0197−0.02810.00840.00390.0045 ⑧運輸・通信0.08710.08850.09390.09030.09200.09100.08980.00270.00140.00130.0018−0.0005 ⑨電力・ガス0.17740.19900.19660.19110.17210.16300.1249−0.05250.0216−0.0741−0.0079−0.0662 ⑩その他金融NA0.12310.12980.13560.14240.14520.1347NANA0.01160.0125−0.0009 ⑪その他0.30470.18360.26530.30040.24950.24000.33090.0262−0.12110.14730.11680.0305 合 計0.13690.13750.13560.13460.13080.12640.1184−0.01850.0006−0.0191−0.0029−0.0162 問題企業グループ ①食品・繊維・紙パ0.26070.24760.25520.27900.28440.30520.39070.1300−0.01310.14310.03140.1117 ②石油精製・窯業・土石0.22130.18550.16180.19720.23540.29130.38770.1664−0.03580.20220.01170.1905 ③化学・薬品・ゴム0.16640.19190.22500.25260.23770.23560.27980.11340.02550.08790.06070.0272 ④鉄鋼・金属0.17260.18220.16580.14760.14580.14540.17380.00120.0096−0.0084−0.03460.0262 ⑤機械0.24480.24510.21690.24460.24730.24100.25480.01000.00030.0097−0.00050.0102 ⑥建設・不動産・リース0.18920.24430.27270.31560.35590.38750.44960.26040.05510.20530.07130.1340 ⑦卸・小売0.09790.11760.11480.13670.13330.14470.19920.10130.01970.08160.01910.0625 ⑧運輸・通信0.13610.13520.13310.15290.14090.12810.13640.0003−0.00090.00120.0177−0.0165 ⑨電力・ガス000000000000 ⑩その他金融0.09350.13650.13760.14450.14910.16380.17970.08620.04300.04320.00800.0352 ⑪その他0.15020.18260.18770.21230.22060.22880.23980.08960.03240.05720.02970.0275 合 計0.13660.17510.18080.20280.21630.22270.26370.12710.03850.08860.02770.0609 (注)1.メインバンク融資比率は,メインバンクからの融資合計を銀行借入合計で除して算出(借入金ゼロの企業を除く). 2.データが入手不能な場合,NAとした. (資料)日経ニーズ「金融機関別借入金」および各社の有価証券報告書
2.サブメインバンク融資シェア 変化幅(ポイント) 1992年 3月末1997年 3月末1998年 3月末1999年 3月末2000年 3月末2001年 3月末2002年 3月末92年 →02年92年 →97年97年 →02年97年 →99年99年 →02年 優良企業グループ ①食品・繊維・紙パ0.10130.14780.12300.12690.11850.11420.13050.02920.0465−0.0173−0.02090.0036 ②石油精製・窯業・土石0.12440.13340.15570.12410.10750.09510.1148−0.00960.0090−0.0186−0.0093−0.0093 ③化学・薬品・ゴム0.12990.12110.10170.09970.11910.12350.1031−0.0268−0.0088−0.0180−0.02140.0034 ④鉄鋼・金属0.09860.08430.08370.07610.06700.06200.0681−0.0305−0.0143−0.0162−0.0082−0.0080 ⑤機械0.11920.10540.11080.11630.22360.12440.1126−0.0066−0.01380.00720.0109−0.0037 ⑥建設・不動産・リース0.07730.08510.07160.09210.08670.07810.07990.00260.0078−0.00520.0070−0.0122 ⑦卸・小売0.07730.06720.06840.07190.06520.06460.0636−0.0137−0.0101−0.00360.0047−0.0083 ⑧運輸・通信0.08980.09030.09390.08900.08770.08630.0689−0.02090.0005−0.0214−0.0013−0.0201 ⑨電力・ガス0.07870.06430.05640.05490.05820.05390.0559−0.0228−0.0144−0.0084−0.00940.0010 ⑩その他金融NA0.08780.09220.09540.10380.11030.0961NANA0.00830.00760.0007 ⑪その他0.19000.22860.31820.24210.17860.20900.26800.07800.03860.03940.01350.0259 合 計0.08780.08230.07910.08180.08750.07830.0756−0.0122−0.0055−0.0067−0.0005−0.0062 問題企業グループ ①食品・繊維・紙パ0.15130.15730.16230.16110.13990.15960.15520.00390.0060−0.00210.0038−0.0059 ②石油精製・窯業・土石0.17700.12370.12690.11870.10990.10250.1026−0.0744−0.0533−0.0211−0.0050−0.0161 ③化学・薬品・ゴム0.09250.10870.10130.09960.10520.10530.09940.00690.0162−0.0093−0.0091−0.0002 ④鉄鋼・金属0.11510.10170.09940.09620.09290.10260.1100−0.0051−0.01340.0083−0.00550.0138 ⑤機械0.13750.13350.13690.14490.14400.14140.1207−0.0168−0.0040−0.01280.0114−0.0242 ⑥建設・不動産・リース0.11380.12360.13470.14300.14760.13110.12940.01560.00980.00580.0194−0.0136 ⑦卸・小売0.08330.10010.10020.11530.11090.12010.12200.03870.01680.02190.01520.0067 ⑧運輸・通信0.12740.12460.12220.12020.12700.11170.1196−0.0078−0.0028−0.0050−0.0044−0.0006 ⑨電力・ガス000000000000 ⑩その他金融0.06560.08150.08300.08650.09180.09610.09940.03380.01590.01790.00500.0129 ⑪その他0.14920.18260.18770.21230.22060.22880.23980.09060.03340.05720.02970.0275 合 計0.09320.10610.11000.11770.11950.11780.11770.02450.01290.01160.01160.0000 (注)1.メインバンク融資比率は,メインバンクからの融資合計を銀行借入合計で除して算出(借入金ゼロの企業を除く). 2.データが入手不能な場合,NAとした. (資料)日経ニーズ「金融機関別借入金」および各社の有価証券報告書
3.サブサブメインバンク融資シェア 変化幅(ポイント) 1992年 3月末1997年 3月末1998年 3月末1999年 3月末2000年 3月末2001年 3月末2002年 3月末92年 →02年92年 →97年97年 →02年97年 →99年99年 →02年 優良企業グループ ①食品・繊維・紙パ0.07230.11020.07100.05020.04760.04750.0475−0.02480.0379−0.0627−0.0600−0.0027 ②石油精製・窯業・土石0.10550.11410.10740.10680.08700.08850.0897−0.01580.0086−0.0244−0.0073−0.0171 ③化学・薬品・ゴム0.10670.09310.08640.08330.09590.09680.0851−0.0216−0.0136−0.0080−0.00980.0018 ④鉄鋼・金属0.07580.07590.06230.05620.04290.04330.0568−0.01900.0001−0.0191−0.01970.0006 ⑤機械0.08640.08920.08550.07730.17870.07410.0697−0.01670.0028−0.0195−0.0119−0.0076 ⑥建設・不動産・リース0.06520.05920.06180.06640.05580.05560.0613−0.0039−0.00600.00210.0072−0.0051 ⑦卸・小売0.06910.05220.05290.04830.03670.03850.0431−0.0260−0.0169−0.0091−0.0039−0.0052 ⑧運輸・通信0.07510.08410.08530.07910.08070.07670.0631−0.01200.0090−0.0210−0.0050−0.0160 ⑨電力・ガス0.05340.04430.04050.04310.04380.04150.0470−0.0064−0.00910.0027−0.00120.0039 ⑩その他金融NA0.04100.04190.05010.05020.06480.0534NANA0.01240.00910.0033 ⑪その他0.18180.20200.17740.18760.16670.15410.23510.05330.02020.0331−0.01440.0475 合 計0.06980.06190.05830.05820.06040.05460.0557−0.0141−0.0079−0.0062−0.0037−0.0025 問題企業グループ ①食品・繊維・紙パ0.10710.11700.11690.11470.09760.12440.12360.01650.00990.0066−0.00230.0089 ②石油精製・窯業・土石0.11930.09910.09360.10160.08450.08690.0807−0.0386−0.0202−0.01840.0025−0.0209 ③化学・薬品・ゴム0.07630.09650.09330.09400.08700.08760.0757−0.00060.0202−0.0208−0.0025−0.0183 ④鉄鋼・金属0.07240.06390.06340.05500.05030.05490.0437−0.0287−0.0085−0.0202−0.0089−0.0113 ⑤機械0.06970.07940.07320.06710.08180.07440.0695−0.00020.0097−0.0099−0.01230.0024 ⑥建設・不動産・リース0.08270.09480.09430.12870.09470.09160.09240.00970.0121−0.00240.0339−0.0363 ⑦卸・小売0.07110.07540.08550.09750.09230.10500.10670.03560.00430.03130.02210.0092 ⑧運輸・通信0.11480.11330.09740.10030.09920.09190.0978−0.0170−0.0015−0.0155−0.0130−0.0025 ⑨電力・ガス000000000000 ⑩その他金融0.06060.04550.06300.06660.07000.07670.07830.0177−0.01510.03280.02110.0117 ⑪その他0.14440.13610.13770.14130.13390.13660.1336−0.0108−0.0083−0.00250.0052−0.0077 合 計0.07230.07470.08070.09320.08430.08810.08710.01480.00240.01240.0185−0.0061 (注)1.メインバンク融資比率は,メインバンクからの融資合計を銀行借入合計で除して算出(借入金ゼロの企業を除く). 2.データが入手不能な場合,NAとした. (資料)日経ニーズ「金融機関別借入金」および各社の有価証券報告書
景としては,あとで詳しく述べるように政府による不良債権の早期処理宣言 を受け,非メイン銀行の問題企業に対する融資姿勢が急速に慎重化したこと が指摘できる.
加えて,金融界においてメイン寄せの動きが注目を集めるようになったの は,2003年4月に創設された産業再生機構の業務内容が明らかになった2003 年入り後のことである.しかし,銀行融資の現場では1999年前後から問題企 業グループ向け融資においてはメイン寄せの動きが静かに進行し,2001年3 月末以降,急速なテンポで進んだことがわかる.なお,メイン寄せの動きが 顕著に観察されたのは建設・不動産・リースおよび卸・小売であり,これら の業種での動きが問題企業全体のメインバンク比率に大きな影響を及ぼした ことには留意する必要がある.
第3に,サブメインバンクおよびサブサブメインバンクの融資比率をみる と,優良企業,問題企業のいかんにかかわらず,そのシェアは標本期間を通 じて概ね安定的に推移していることが確認された10).実際,サブメインバン クの融資シェアは8〜12%の間で,サブサブメインバンクの融資シェアは6
〜8%の間でそれぞれ変動している.このことはまた,経営危機に直面した 問題企業を資金面から積極的に支えていたのは,専らメインバンク1行となっ ていたことを示唆している.
第4に,問題企業グループにおいては1999年3月末以降,第 3 表に掲げた とおり,長・短融資合計ではメインバンクの座を維持しつつも短期融資順位 1位行(短期メイン)の地位を準メイン銀行などに明け渡すなど,これまでの 常識では考えられなかったような動きが短期借入比率の高い大手商社を中心 に観察された.たとえばニチメンの場合,メインバンクであるUFJ(三和)銀 行は同社の資金繰り安定化のため,短期融資から長期融資に重点を移行させ た結果,短期メインの座を1999年3月末以降,三菱信託銀行や農林中央金庫
10 )この点に関連して緑川(2004)は,東京証券取引所一部上場企業のうち財務危機に陥った企業 311社を分析対象としてメインバンクによる企業救済行動を検証し,メインバンクおよび準メイ ンバンクは支援の手を差し伸べたが,その他の金融機関は貸出金の回収に走ったことを明らかに している.
に譲ることになった.このほか,丸紅(メインバンクは富士銀行),川鉄商事(同,
第一勧業銀行)においても,同種の動きがみられた.その一方で,旭化成,ヤ マハ発動機,クボタ,積水ハウスといった優良企業においては,生命保険会 社のみから長期融資を受け,メインバンクからの借り入れは長短ともゼロに するという「メイン離れ」の動きがみられた.
(d)取引銀行数
日本の大手企業の場合,多数の銀行との間で融資取引を行っているところ に特色があるとされるが,借り手企業1社当たりの取引銀行数は近年,第 4 表のとおり優良企業,問題企業グループともに平均2割前後減少したことが 確認された.優良企業グループの場合,取引コストの削減を狙いとして取引 銀行を縮小しようとする誘因が強いことから,取引銀行数は1992年3月末の 平均22行から1999年3月末には平均17行へと5行減少した後,落ち着いた 動きを示している.
問題企業グループにおいても,取引銀行数は平均22行から18行へと4行 減少しているが,1999年3月末以降に顕著な減少がみられたところに特色が あるということができる.加えて,その背景に関しては,優良企業グループ とは異なり,①メイン寄せの裏側でシェア僅少なぶら下がり銀行による融資 がメイン主導で返済されたり,②ぶら下がり銀行自らが経営の健全性維持を 狙いとしてドライに融資を回収したりしたという貸し手銀行サイドの事情が 指摘できよう.実際,大手スーパーであるダイエーの場合,経営悪化が幾度 となく報道されるなか,取引銀行数は1997年の103行から2001年には75行 へと4年間で28行もの減少をみている.
3. 4 分析結果の含意
以上のようなファクトファインディングを踏まえると,メインバンクと称 される銀行による借り手企業支援やメインバンクを中核とした協調融資に類
(単位:百万円) 98年3月末99年3月末00年3月末01年3月末02年3月末 短期借入長期借入短期借入長期借入短期借入長期借入短期借入長期借入短期借入長期借入 ニチメン ◎三和(UFJ)銀行41,71338,98243,53636,22542,41241,55726,37155,1423,86084,735 三菱信託銀行35,80019,76044,80019,15147,39319,00017,30049,00010,80052,000 農林中央金庫31,15913,07240,08213,43128,04113,42036,08312,23939,1526,700 東京三菱銀行24,81046,00626,80044,14627,50342,71424,51946,12917,16247,694 丸紅 ◎富士銀行(みずほ)30,41957,74346,00556,44946,58075,59753,478n.a.32,66575,597 東京三菱銀行14,31565,24934,65952,86435,51154,83133,845n.a.34,34164,053 さくら(三井住友)銀行22,00023,48921,50023,779n.a.n.a.n.a.n.a.n.a.n.a. 川鉄商事 ◎第一勧銀(みずほ)26,4879,56529,9879,54330,12712,70026,2204,91423,3524,087 さくら(三井住友)銀行24,5015,65528,3735,63931,5694,17726,1434,68025,8632,787 東京三菱銀行18,84210,89928,9242,48533,8213,03228,6824,10420,6446,387
第3表 メインバンク関係の変容事例 (注)1.◎印はメインバンクを示す. 2.下線は短期借入,長期借入の融資シェア最大の銀行を示す. (資料)日経ニーズ「金融機関別借入金」
取引銀行数 増減数 1992年 3月末1997年 3月末1999年 3月末2001年 3月末92年 →01年92年 →97年97年 →01年97年 →99年99年 →01年 企業数優良企業グループ ③化学・薬品・ゴム3 社 30.026.022.022.7−7.3−4.0−3.3−4.00.7 ⑤機械314.015.313.713.3 −0.71.3−2.0−1.7−0.3 ⑧運輸・通信320.716.715.314.7−6.0−4.0−2.0−1.3−0.7 合 計921.619.317.016.9−4.7−2.2−2.4−2.3−0.1 問題企業グループ ①食品・繊維・紙パ4 社 17.818.318.517.3−0.50.5−1.00.3−1.3 ②石油精製・窯業・土石412.513.312.814.52.00.81.3−0.51.8 ③化学・薬品・ゴム713.914.613.713.0−0.90.7−1.6−0.9−0.7 ④鉄鋼・金属530.428.223.820.8−9.6−2.2−7.4−4.4−3.0 ⑤機械1918.217.616.715.5−2.7−0.6−2.1−0.9−1.2 ⑥建設・不動産・リース1531.529.327.823.9−7.6−2.2−5.4−1.5−3.9 ⑦卸・小売1124.323.122.120.6−3.6−1.2−2.5−1.0−1.5 ⑧運輸・通信418.319.019.818.50.30.8−0.50.8−1.3 ⑪その他113.013.013.013.00.00.00.00.00.0 合 計7022.021.220.118.4−3.6−0.8−2.8−1.1−1.7
第4表 借り手企業1社当たりの平均取引銀行数の推移 (資料) 日経ニーズ「金融機関別借入金」
似した融資構造の存在は現在も引き続き確認される.しかし,メインバンク 関係の役割や機能自体,1998年3月末以降のある時期を境として変容した,
あるいは構造変化を遂げたと観念しても差し支えないという結論が得られよ う.
たとえば優良企業グループの場合,計数面からは従来型の安定的なメインバ ンク関係が引き続き観察されうるが,銀行借入依存度が低下するなかでメイン バンクの借り手企業の経営財務戦略にかかわる発言権は低下したと観念する のが相当と判断される.あるいは,メインバンク関係を崩壊さすべき積極的事 由が見当たらないため,現状維持策が採用されているのかもしれない.ちなみ に,2005年9月に公表された企業財務調査会のアンケート調査によると,回 答企業のうち7割強がメインバンクを有するとする一方で,2割の企業が「メ インバンクとの取引関係は今後薄くなる」という回答を寄せていた11).このア ンケート結果は優良企業においてはメインバンク関係が希薄化しつつあるこ とを示唆しており,その意味で本稿での議論とも整合的と考えられる.加えて,
一部の優良企業においては先に指摘したように「メイン離れ」の動きが観察 されたが,そのこと自体,メインバンクあるいはメインバンク関係が,グロー バル化,情報化の流れのなかでかつてのような意義や役割を喪失しつつある ことを示唆している.
その一方で,問題企業グループにおいては,メインバンクを中心として融 資銀行が一丸となって経営不振企業を支援するという構図は姿を消し,メイ ンバンクなど融資シェアの高い一部の銀行だけが支援を継続するなど,メイ ンバンクの救済機関化が進んでいる.ぶら下がり銀行は資産内容の健全性維 持のため,問題企業向け融資については期日到来とともに回収する.そうし た行動に伴って発生した不足資金についてはメインバンクが新規に供与する というかたちでメイン寄せの動きが広範化するなか,メインバンクの救済機 関化が静かに進んだと考えられるのである.たとえば,大手スーパーのダイ
11 )2005年9月3日付日本経済新聞「メーンバンクと「関係薄く」2割」.
1. 優良企業 (単位:%,億円)
業 種 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年
① 食品・繊維・紙パ 15.5 84.0 3.4 82.7 254.3
② 石油精製・窯業・土石 81.6 22.6 5.9 69.5 101.6
③ 化学・薬品・ゴム −6.1 69.4 105.9 59.3 −25.0
④ 鉄鋼・金属 −136.9 −8.9 72.2 81.1 18.5
⑤ 機械 -0.5 106.0 85.6 85.5 13.3
⑥ 建設・不動産・リース 36.5 26.0 89.4 97.4 1649.9
⑦ 卸・小売 110.0 85.8 10.1 90.7 18.8
⑧ 運輸・通信 93.7 −49.0 107.4 6.4 8.7
⑨ 電力・ガス 73.8 69.1 −16.2 71.2 13.3
⑩ その他金融 170.3 29.1 195.4 35.7 −38.1
⑪ その他 89.4 33.3 −19.9 69.3 104.1 合 計 82.2 82.1 −22.5 79.6 0.1
<参考> −11,297 −5,661 2,501 −13,321 15,167 融資増加額 −2,015 −1,011 −562 −2,715 15 うちメインバンク分
2. 問題企業 (単位:%,億円)
業 種 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年
① 食品・繊維・紙パ 41.2 112.5 77.7 38.3 89.3
② 石油精製・窯業・土石 −45.9 307.7 125.7 1668.2 423.3
③ 化学・薬品・ゴム 1364 147.3 40.3 72.9 177.9
④ 鉄鋼・金属 56.6 −1.1 80.5 13.9 47.5
⑤ 機械 −12.2 58.8 127.7 69.8 35
⑥ 建設・不動産・リース 136.7 100.7 142.9 78.7 298.3
⑦ 卸・小売 77.3 31.7 74.9 57 238.4
⑧ 運輸・通信 9 32.5 49.9 −38.8 22.9
⑩ その他金融 92.3 102.6 94.5 111.2 104.8
⑪ その他 19.6 24.2 37.7 27.2 89.3 合 計 446.8 61.7 162.4 88.6 763.4
<参考>
融資増加額 227 9,049 −2,883 −10,365 −986 うちメインバンク分 1,014 5,584 1,799 −1,181 6,544
第 5 表 メインバンク融資額の限界増加率の推移
(注) 限界増加率の計算方法
融資増加額が正:(メインバンクの融資増加額)/(融資増加額合計)
融資増加額が負:(メインバンクの融資増加額)/((融資減少額合計)
−(メインバンク融資増加額))
(資料) 日経ニーズ「金融機関別借入金」