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量子力学の確率と現代マクロ経済学の確率 利用統計を見る 福岡大学機関リポジトリ E6212 0019

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Academic year: 2018

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(1)

.問題の所在

経済学は物理学をモデルにしてきたと言われてきた。アダム・スミスの道 徳哲学はニュートンの自然哲学に範を取ったものであったし、限界革命の経 済学は力学、あるいは熱力学 を模倣している。だが、現代マクロ経済学の 数学レベルは高々 、 世紀の解析力学のそれに過ぎない。

ただし、一点だけ現代物理学と共有している部分がある。それは確率の利 用ということである。そこで、本稿では、量子力学における確率利用と現代 マクロ経済学における確率利用とを比較し、それぞれの特色を明らかにし たい。

ミロウスキーの諸著作を参照せよ。

量子力学の確率と

現代マクロ経済学の確率

好 裕

福岡大学経済学部

− 19 −

(2)

.量子力学の確率

物理学には元々決定論的な指向がある。それをもっとも端的に表すのが、 ラプラスのデーモン であろう。だから、量子力学という確率的な不確定性 を必然的に含まざるを得ない量子力学が 世紀初に登場したとき、大きな混 乱が起こった。光電現象でノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインも 最後まで量子力学を完全な理論として認めず、「神はサイコロを振らない」 と述べて抵抗を続けた。

最も典型的なのは、シュレーディンガーの波動関数における状態の重ね合 わせである。観測するまでの間、複数の状態が確率的に重ね合わさって存在 している。もっとも、当のシュレーディンガーはこのことを納得できずに、 シュレーディンガーの猫の寓話で気奇妙さを際立たせた。

量子力学の標準理論であるコペンハーゲン解釈では、観測によって確率的 に不確定な波動関数が収縮するとしている。観測されなかった確率的可能性 がなぜか一瞬にして消え去るわけである。

だが、客観的な状況が確率的である以上、すべての可能性は平等に存在せ ねばならないと、基本的に決定論的な物理学的思考では考えられる。そこに、 エヴェレットの多世界解釈が出てきて、相当数の物理学者に支持される理由 がある。収縮によって消えたはずの可能性も、別な世界で生き残り続けるわ けである。

要するに、量子力学では観測者とは独立に、確率的可能性が世界のなかに 実在すると考えているのである。現場の物理学者には当然と思われるが、素 朴実在論的な確率解釈が量子力学にも抜きがたく存在するということであ ろう。

そのラプラスが確率研究を行っていた意味については、別稿を用意したい。

− 20 −

(3)

.現代マクロ経済学の確率

これに対して、経済学では理論の道具主義的な理解にはそれほど抵抗がな いような気がする。だから、確率についても対象世界に実在するという解釈 をする必要がなく、言わば、対象と観測者の間に存在する ような感じであ る。最も分かりやすいのが、経済現象の観測者の観測能力に限界があるため、 事柄が理論によって決定論的には記述されず、そのために確率を必要とする という理解であろう。物理学では、それは観測装置の不完全性や理論の未完 成を意味するものであるから、アインシュタインには決して受け入れられる ものではなかった。

しかし、経済学では、ケインズもフリードマンも、理論を、経済的現実を 効果的に理解するための道具という見方で共通しているから、観測誤差とし ての確率項を受け入れるのが容易である。それに、経済学は物理学と違い、 命なき物質界を扱っているわけではなく、人間という意思決定でも行動でも 不安定な存在を扱っているという自覚があるから、そのような摂動は当たり 前という雰囲気もあるわけである。

マクロ経済モデルに確率が導入されたのは、計量モデルの誤差項としてで あった。これが理論モデルにも欠かせないものとして認識されるようになり、 攪乱項として登場してくる。だが、その性質は平均ゼロの正規分布に従うと いうものだから、期待値を取れば決定論的な世界が現れる。現代マクロ経済 学のDSGEモデルでも、確率的というところはあまり意味がないと、しば しば言われる所以である。

確かに、DSGEモデルの前身であるRBCモデルでは、攪乱項がホワイト

確率の哲学的解釈には、客観確率(弟ミーゼスの頻度説やポパーの傾向性 解釈)、主観確率、論理確率の三つがあるが、ここでの議論は方法論的な次 元のものであるから、関係してこない。

量子力学の確率と現代マクロ経済学の確率(山 ) − 21 −

(4)

ノイズであることを止めて単位根過程となり、それが景気循環を生み出して いた。現代のDSGEモデルでは、それが種々の確率的ショックとして一般 化されている。

ただ、生産性や選好のショックが確率的であることに意味は、経済主体に とって確定的には予期できないということであって、いったんショックが発 生すれば、それはもはや確定的なものになる。

.暫定的な結論

見てきたように、量子力学と現代マクロ経済学では、インプリシットな解 釈という意味で、方法論的な次元での確率の扱いが異なると思われる。さら に、現代マクロ経済学の確率はモデルに付加されたシッポにでも例えられる ものであり、量子力学のように理論に深く組み込まれたものになっていない。 このことは、量子力学と現代マクロ経済学の理論を数式で書き起こしてみる ことで明示できることである。

− 22 −

参照

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