神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』 第10号 2006年3月 85
『 修士論文要旨
教育産業の競争優位と社会的役割に関する一考察
一 少子化時代 における教育産業の人的資源管理 と生 き残 り競争 ‑
AStudyontheEffectsofCompetitiveAdvantageofEducation‑RelatedIndustriesAn dSocialRole.
‑HumanResourceManagementofEducation‑Re一atedIndustriesinUnder‑PopulationPeriodandGrowthCompetition一
神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士前期課程
椎 葉 聡
AkiraShiiba
l『キーワー ド
少子化、学力低下、多様化、人的資源管理、競争優位
現在の少子化 ・高齢化、国際競争の激化 を背景 に、教育産業 に対す る期待のニーズが高 まってい る。特 に近年の教育問題 として、ゆとり教育 によ る小 中学生の授業時間数の大幅削減 によ り、学力 低下が懸念 され、教育機 関への不信感が高 まって いることを考 えれば今後 も学習塾 ブームは続 くこ とが予想 され る。
しか し、教育産業 は企業 としての 「顔」 がある ため、社会貢献度 が向上すれば、当然、社会的責 任 も大 きくなる。 その社会貢献 を高めるためには、
まず条件 として 「信頼 されている」 ことが挙げ ら れ る。逆 に、信頼 を失 えば、社会貢献で きる環境
とは言 えない。
最近の京都府宇治市の学習塾で起 きた市立神明 小6年の堀本紗也 乃 さん (12)が学習塾講師 に殺 害 された事件が反響 を呼んでいる。殺害 した本人 は 「最初 か ら殺 すつ もりで刃物 をもっていった」
と供述 してお り、生徒 との人間関係 が原 因だった 話である。 この事件 を、 きっかけに社会 が教育産 業 に対す る関心は一層厳 しくなることは避 け られ
ない。学習塾 と しては
、「
いかに優秀 な教師 を集 めることが出来 るか」、「授業教科 をいかに分か り やす く教 えることが出来 るか」、 「合格実績 をどれ だけ伸ばす ことが出来 るか」 といった従来の関心 を越 えて、新たな課題が出来 た と言 えよう。そ ういった背景 もあ り、「教師の教師 と しての 適性」の見直 しによ り、近年の就職環境の悪化 を 打破 し、「定職 に就 かず進学 も しない若者」 の急 増 を止 めるためのニー ト対策、国際競争力強化に 向け、教育か らの国の建 て直 しを図 る目的 として、
教育産業 に対す る期待 が大 きいのである。
教育産業 と言 えば、かつて、教育機 関に不十分 もの を学習塾で補 う役割 を果 た していたが、少子 化 とい う社会環境 もあ り、学習塾の競争 は激 しく なっている。そのため、社会貢献のための企業 と 言 う側面 とは別に 「存続のための企業」 とい う側 面 も考 えなければ、学習塾 自体 が発展す ることが 出来 ない。発展のためには優秀 な教師 を育 てる環 境 を整 える必要 がある。雇 用 ・就業条件 ・報酬 ・ 人事の管理 を充実化 させ、社 内の社員 1人1人の
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人材育成 のための持続 的なキャリア形成 を見据 え その存在意義 を確立 させ るためには、教育産業内 た生涯学習組織の構築 を急 ぐことである。 の競争 がプ ラス作用 に働 き、欠陥商品 を減 らし、
つ ま り、教育産業の競争優位 の源泉 は 「ヒ ト」
であ り、製造業でい う 「商品」に値す る価値 があ るのである。採用か ら配置 ・異動、教育訓練、労 働時間、勤務場所、報酬、 といった ものに不公平 の無 い人的資源管理 を実現 させ ることで、社員の モチベ ー シ ョンが向上 し、「良 い教育 サ ー ビス
」
が出来 る、又は 「企業のために貢献で きる」 と考 えられ るか らである。
今 回の論文 では、事例研究 を2つ取 り上 げてい る。代表 的な例 として、静岡県に本社 を置いてい る現在東証一部上場 を果 た してい る秀英予備校、
もう一つ は、地方 の ローカル学習塾 を例 に挙 げ、
現在の動向 を探 っている。 その結果 によれば、現 段階では、 この業界の存在意義 は微妙 な ものであ り、社会貢献の課題 が大 きい。教育分野での社会 貢献 と言 え、欠陥商品 を大量 に出 している現状 は 否定で きない。最近の少子化の影響 は、個別指導 の人気 を引 き起 こし、将来の少子化 ・高齢化の社 会 に よる労働力不足 を克服 す るための、1人1人 の教育水準 を高め、従来のゼネラリス トの教育 よ りも個性化 を伸長 させ るスペ シャ リス トを多 く創 り出す取 り組み を してい く必要 がある。 また、高 学歴化の志向は、子供の自主性や自立性 を遅 らせ ている原因 となっているため、その課題 にも取 り 組むべ きである。
教育分野での企業存続 は今後 ます ます厳 しさが 増す ことが予想 され るため、既存の事業 を拡大 し てい く試み も必要不可欠である。い くつ ものハ ー ドル をク リアさせ、近年問題 とってい る様 々な社 会問題に取 り組む多角化戦略は重要 である。その 事例 として、今回は東京 リーガルマイン ドを取 り 上 げている。
このような点 を考 えてい くと、教育産業の現状 には不十分 な点が多 く、発展途上の段階にあると 言 えよう。 しか し、 この業界は、教育 とい う社会
的に責任の重い重要 な業務 を担 っているため、教 育機 関の 「ゆ とり教育路線」 に拍車 をかけ、存在 意義 を高 め る潜在能力 はあるとい う見方 である。