フォトニックルータにおける QAM 符号化光ラベル 識別用光導波路回路に関する研究
2018 年 9 月 博士(工学)
徳島大学大学院
先端技術科学教育部 システム創生工学専攻
井下 健輔
目 次
第1章 序論 1
1.1 研究背景 . . . . 1
1.1.1 フォトニックラベルルータ . . . . 2
1.1.2 光符号ラベル処理 . . . . 3
1.1.3 光符号の種類 . . . . 4
1.2 研究目的 . . . . 6
1.3 本論文構成 . . . . 7
第2章 光導波路解析 8 2.1 光の伝搬 . . . . 8
2.1.1 マクスウェル方程式と構成方程式 . . . . 8
2.1.2 境界条件 . . . . 9
2.1.3 導波路解析 . . . . 10
2.1.4 二次元導波路 . . . . 11
2.1.5 三次元導波路 . . . . 14
2.2 モード . . . . 17
2.2.1 二次元スラブ導波路のTEモード . . . . 17
2.2.2 二次元スラブ導波路における等価屈折率 . . . . 21
2.2.3 正規化周波数とモードの個数 . . . . 22
2.2.4 分散曲線 . . . . 23
2.2.5 放射モード . . . . 24
2.2.6 3次元導波路のモード. . . . 24
第3章 ビーム伝搬法 26 3.1 FD-BPMでの波動方程式. . . . 27
3.2 安定条件 . . . . 29
3.3 透明境界条件 . . . . 31
3.4 プログラムの組み方 . . . . 33
3.5 パデ近似演算子による広角解析 . . . . 35
第4章 QPSK光位相識別回路 42 4.1 光導波路素子 . . . . 42
4.1.1 方向性結合器 . . . . 42
4.1.2 Y分岐導波路 . . . . 42
4.1.3 非対称X-junction . . . . 43
4.1.4 位相シフタ . . . . 44
4.2 QPSK光位相識別回路の理論解析 . . . . 45
4.2.1 QPSK光符号識別回路 . . . . 45
4.2.2 QPRCの入出力関係 . . . . 46
第5章 光16QAM符号識別用導波路回路 48 5.1 QAM符号 . . . . 48
5.1.1 QAM信号とは . . . . 48
5.1.2 光QAM信号の生成方法 . . . . 49
5.2 最小出力強度における16QAM符号識別回路 . . . . 51
5.2.1 回路構成 . . . . 51
5.2.2 理論解析 . . . . 55
5.2.3 数値シミュレーション解析 . . . . 56
5.3 最大出力強度における16QAM符号識別回路 . . . . 59
5.3.1 回路構成 . . . . 59
5.3.2 理論解析 . . . . 61
5.3.3 後処理回路 . . . . 62
5.3.4 FD-BPMシミュレーション . . . . 64
第6章 雑音/ノイズ耐性の検討 68 6.1 最小出力強度識別回路 . . . . 68
6.1.1 位相特性 . . . . 68
6.1.2 振幅特性 . . . . 69
6.1.3 位相振幅特性 . . . . 70
6.1.4 ノイズ耐性 . . . . 71
6.2 最大出力強度識別回路 . . . . 78
6.2.1 位相特性 . . . . 78
6.2.2 振幅特性 . . . . 78
6.2.3 ノイズ耐性 . . . . 79
第7章 拡張性の検討 86 7.1 最小出力強度における光64QAM符号識別導波路回路 . . . . 86
7.1.1 64QAMの生成 . . . . 86
7.1.2 回路構成 . . . . 87
7.1.3 理論解析 . . . . 88
7.2 光16QAM符号の2シンボルラベル識別回路への拡張 . . . . 90
7.2.1 回路構成 . . . . 90
7.2.2 理論解析 . . . . 92
第8章 総括 93 8.1 まとめ . . . . 93 8.2 今後の課題 . . . . 94
謝辞 95
参考文献 96
付録 103
第 1 章 序論
1.1 研究背景
ここ10年以上インターネットの利用者が増え続けていて、総務省の通信利用動向調査 によると、インターネット利用者数は、平成17年で9000万人を超えました。2012年末 の利用者数は、過去最高の9652万人である。
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図 1.1: インターネット利用者と普及率
また、利用者によるトラフィックの増加や利用方法もゲームと連動させるなど種類が増 えたりしている。これらに伴い、大容量かつ高速なネットワークが要求された。基幹系 において、大容量伝送方式を用いたインターネット専用のブロードバンドが広がってい る。自宅でパソコンから利用している世帯でのブロードバンド普及率は、2012年末では、
85.9%であり、そのうち光回線は、54.8%となっている。光回線の普及により、伝送路に 光ファイバが用いることにより伝送路の情報量が増加した。これには電気通信では不可能 であった波長分割多重通信方式(Wavelengh Division Multiplexising; WDM)などの多重 通信技術の導入により数Tbps程度の情報量を可能にした。波長分割多重通信方式とは、
一度に単一波長ではなく多波長帯域を用いて通信するシステムである。しかし、光ネット ワークのノードにおける光ルーティング処理は、光電変換を行い電気的に処理している
(図1.2:既存ルータ参照)。また、すべての通信ネットワークのうちルータの消費電力が8
2
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図 1.2: 既存のルータと光ルータ
割をしめていることや、電気処理や光電変換を高速にするほど発熱の問題がある。ネット ワークのさらなる大容量・高速化を行う上で、光電変換や電気的処理が大容量・高速化及 び省電力化のボトルネックとなってくる。そこで、大容量かつ高速なネットワークを実現 するためには、光だけで情報をやり取りするフォトニックネットワークの構築が望ましい
(図1.2:光ルータ参照)。光ルータの実現のためには、ルーティングの光処理技術が重要 となる[1, 2]。
1.1.1 フォトニックラベルルータ
フォトニックネットワークの構成には、フォトニックルータが必要不可欠である。フォ トニックルータの中でもラベル情報に基づいてルーティングするシステムについて述べ る。フォトニックラベルルータの基本構成の一例を図1.3に示す。
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図 1.3: フォトニックラベルルータの例
図1.3に示すように、光ルータは、ラベル/データ分離、光バッファ、ラベル識別、ラベ ル付加等の機能がある。入力された光パケットは、ラベル/データ(ペイロード)分離器で ラベル部とデータ部(ペイロード)に分離される。ラベルは、ラベル識別処理部により識 別され、識別信号を光ゲートスイッチに送る。ラベル識別によりノードが開き、新しい ラベルを生成する。データは、光バッファで処理され、ラベル部で処理する時間を蓄え ている。最後に遅延したデータに新しく生成したラベルを付けて新しいパケットにして 伝送される。これを繰り返すことで伝送されるシステムとなる。これまでにフォトニッ クラベルルータを実現するために様々なシステムが多くの研究者により検討されている [3, 4, 5, 6, 7, 8, 9]。そこで、表1.1に手法と特徴を示した。本研究では、幾つかあるラベ ル処理のうち光符号ラベルを対象としている。
表 1.1: 光ラベル識別手法の主な例
方式 メリット デメリット
光シリアル - パラレル変換 高速処理 同期化 光ディジタル - アナログ変換 符号数 同期化
光符号 超高速 符号 / 復号器数 サブキャリア ヘッダの分岐容易 高速化
直交符号 時系列の制約が緩い クロストーク大 時空間変換 パルス幅が小さい 書き換え速度
能動素子が不要
1.1.2 光符号ラベル処理
光符号ラベル処理の研究の初期段階として、位相変調符号方式を用いて符号化された 光符号に対して、符号の違いを利用して識別する方法が提案された[10, 11]。提案された 方法は、2個1組の並列整数での相互直角機能を利用したものであった。このような位相 変換した光ラベルに対する処理が新しく提案され、研究対象となり始めた。但し、この 方式では限られた符号のみを対象をしているだけでなく、識別に必要な強度特性が問題と なった。
光ラベル処理に必要不可欠な強度特性を改善するため、複数のビットを用いてアドレス を表わし、ラベル処理する方式が提案された[12, 13]。この方式では、ルーティング表中 のラベルに相当する光符号が記録された光相関器郡が、ラベルバンクとして働き、入力光 符号とラベルバンク中の符号との相関を時間領域、波長領域、あるいは時間と波長領域 の両方を用いて、全光学的かつ同時並列的に演算する。光相関器は各光パケットヘッダの 光符号を復号し、符号の一致、不一致の場合に応じて、強度の異なる信号を出力するこ とで識別を行うものである。ここで、用いるラベルは位相変調方式の中で、光2相位相シ フトキーイング(BPSK)を用いている。また、ファイバーブラッググレーティング(Fiber
Bragg Grating; FBG)相関器を用いると多波長ラベルも使用可能になるメリットがある。
しかし、対象となるラベルの種類とラベルの数だけ光相関デバイスが必要となる問題点が ある。
その後、光相関デバイスを減らすための方法として、光符号分割多重通信(Optical Code Division Multiple Access; OCDMA)によるラベル識別が提案された[14, 15]。この方法は、
識別したい光符号に識別信号を干渉させ、光相関処理(自己相関と相互相関をとることで 生まれる強度差)により識別する方法である。このとき、チップパルスが時間的に重なる 部分において位相が一致する場合は光強度が足し合わされ、不一致の場合は弱くなる事を 利用して光検出器によって電気信号に変換し閾値判定することで光符号ラベルを判別す ることが可能である。また、OCDMAは通信方式であるため、異なる光符号パルスを同 じ時間上に重ね合わせることで生成される多重光符号ラベル処理も可能である。そして、
先ほどと同様の処理を行うことで幾つかの光パルス信号の中から光複合器のパターンと 一致する信号のみ自己相関が得られ、ラベル識別できるといったものである。しかしなが ら、用いる符号数の割にアドレス表記できる数が少ないといった問題点もあり、光符号の ポテンシャルを最大限活かしきれていないといったデメリットがある。
近年、符号数の問題を解決するため、1× N の光スイッチの研究が進められている。現 在、少ない入力ポート数に対して、多くの出力ポートを生み出す光デバイスは難しいとさ れている。従来から研究されている1× N の光スイッチは主に2つあり、その一つがブ ロードキャスト&セレクト方式である[16]。これは不特定多数に同時に同じ情報を送り、
受けて側がそれらを処理するといったものである。一般的にブロードキャスト&セレク ト方式では、1× N パッシブカプラと半導体光増幅器(Semiconductor optical amplifier;
SOA)を組み合わせた構成をとり、高消光比と低損失性といったメリットがある。しかし、
ポート数N の増加と共に信号対雑音(SN)比の劣化とSOAを用いることから消費電力の 問題がある。また、SOA中の非線形効果による波長間クロストークや波形歪みを抑制す る必要がある。
またもう一つの方法として、1× 2や2× 2スイッチを多段接続する方法である[17, 18, 19]。これはツリー構造やクロスバー構造を持ち、消費電力の観点で優位である。しかし、
ポート数Nの増大に伴い集積化できない問題点をもつ。
これらの問題点を解決するため、1× N のスイッチの研究が行われており、アレイ導 波路回路格子(arrayed waveguide grating; AWG)と同様の構造をもつ光デバイスが提案
された[20, 21]。入力ポートは1つであり、その信号をスターカプラで複数のアレイに分
岐し、各アレイにおいて電気光学効果やキャリア効果を用いて個別に位相シフトを与え る。複数のアレイをまた1つのカプラに集光させ、そのカプラにおいて希望する出力ポー トへ集光させることが可能である。このスイッチを2個用いてスネーク構造にすることで N × N光スイッチに応用することもできる。しかし、消光特性や偏波依存性といった問 題点がある。
1.1.3 光符号の種類
光符号の種類は、振幅による強度識別するオンオフ変調(On-Off-Keying;OOK)や位相で 識別するBPSK、光4相位相シフトキーイング(Quadrature Phase Shift Keying ;QPSK)、 振幅と位相で識別する直交位相変調(quadrature amplitude modulation;QAM)など様々
パターンがある。それぞれの光符号を空間信号配置を図1.4に示す。なお、QAMについ ては、多くの種類(例えば、8QAM、16QAM、32QAM、64QAM等)があるがその一例 として16QAMを示す。OOK、及びBPSKは、1シンボルで1Bit、QPSKは、1シンボ ル2Bit、2MQAM(M >3)は、1シンボルMBit(例えば、16QAMは、1シンボル4Bit)の 情報量を持っている。1シンボルあたりの情報量(Bit数)が多くなると雑音体制に弱くな るデメリットがあり、提案される光符号ラベル識別の多くは、1シンボルあたりの情報量 が1Bitや2BitのBPSKやQPSK符号を対象としたシステムや方法になっている。
I Q
I Q
(a) (b)
I Q
I Q
(c) (d)
図 1.4: 光符号の信号空間配置
((a):OOK (b):BPSK (c):QPSK (d):16QAM)
1.2 研究目的
当該研究室では、はこれまで、BPSKやQPSKに対してラベル識別する光導波路回路 を提案している[22, 23, 24, 25, 26]。 その他に提案されている多くのシステムについて も、光符号によって表される光ラベルを識別するデバイスやシステムである[3, 4, 10]。本 研究では、QPSKに比べてより符号効率のQAM符号に対するラベル識別を目的とする。
QAM符号では、上記で説目した通り、1シンボルあたりの情報量が多くなる。2MQAM では、シンボルあたり2M 個の符号すなわちMビットの符号を表すことができる。従っ て、低いbaudレートで高ビットレートの情報伝達が可能となる。これまで、QAM信号 生成のための様々の光集積回路による変調器が報告されている[27, 28, 29]。
また、QAMによる高ビットレートな伝送実験として、256QAM (64Gbps、帯域5.4GHz) や512QAM(54Gbps、帯域4.1GHz)、1024QAM(60Gbps、帯域4.05GHz)が報告されてい る[30, 31, 32]。多値の2MQAMでは、その多重度を高くすることによりシャノン限界に近 づき、多値PSKに比べ周波数利用効率が高いことがわかっている[33]。このようにQAM 符号に対する研究は、様々な部分で行われており、通信においてQAM符号の活用は、重要 となってくる。そこで本研究は、QAM符号の識別を目的にしている。また、本研究では、
QAM符号の中の16QAM符号の識別をメインの対象としている。なお、一部、64QAM についても検証を行う。QAM符号識別として我々のグループがBPSKやQPSKに対し てのラベル識別で用いた光導波路回路で提案する。なお、提案回路は、最小出力強度と最 大出力強度を用いた2つの符号識別回路を提案する。提案回路は、QPSK符号識別用回路 を用いて2段接続し、入力ポート2つに対して出力ポート16このデバイスである。そし て、入力ポートの1つには、基準信号を入力し、もう片方は、識別する16QAM符号を入 力する。その出力結果を用いて符号識別する。(回路構成により、最大強度と最小強度の 2種類の回路となる。)本提案回路は、QPSK符号識別回路を使用しており、その構成は、
波長依存性が少ない光デバイス素子のみ用いている。QPSK符号識別回路の基本と成る3 つの光デバイスのうち、3dB方向性結合器のみ波長依存性が少しだけあるが、本提案光回 路は波長依存性が抑えられているデバイスである。さらに、広い波長帯域(1.5-1.6µm)で うまく機能することを報告さえれていることから同等のことがいえると考えられる。つま り、次世代フォトニックラベルルータに必要な要素を全てカバーしている。これらのこと を第7次バデ近似を用いたビーム伝播法によるコンピュータシミュレーションにより明ら かにした。また、Optisystemによるノイズシミュレーションを行っている。また、2つ の提案回路のうち1つの提案回路については、を2段接続しての2シンボルの16QAM符 号に対する導波路回路やQPSKを3段接続した64QAM符号識別用導波路回路の拡張性 の検討をしている。
1.3 本論文構成
本論文は、全8章から構成されている。第1章では、序論として研究目的、本論文の概 容について説明する。第2章では、光の基本的性質及び基礎的な光導波路解析について述 べる。第3章では、提案回路の動作検証のために用いたビーム伝搬法(Beam Propagation
Method; BPM)によるシミュレーションについて述べる。第4章では、提案回路の構成要
素であるQPSK符号識別導波路回路について述べる。第5章では、提案する2種類の光
16QAM符号識別導波路回路について理論解析とBPMを用いたコンピュータシミュレー
ションでの結果について報告する。第6章では、提案する2種類の提案回路の雑音体制と して、位相、振幅、ノイズ耐性について報告する。第7章では、提案回路の1つの拡張性 について述べる第8章では、本論文をまとめ、今後の研究項目について述べる。
第 2 章 光導波路解析
光導波路を解析する場合、電磁波の伝搬を記述する方程式であるマクスウェルの方程式 を扱う。導波路の伝搬は、一般的にマクスウェルの式に対して、課程、近似、変形などを 施して、解きやすく変形した式を導出する。次に、その導出された式に対して、能率良く 安定に解くことが可能である解法を適用する。つまり、解くべき問題(光導波路)によっ て、最適な変形及び解法は異なる[34, 35, 36]。
2.1 光の伝搬
光は電磁波の一種なので電磁現象を表すマクスウェルの式で表される。但し、マイクロ 波と異なり、光の周波数領域では完全導体は存在しないので、電流項は存在しない。
2.1.1 マクスウェル方程式と構成方程式
電磁波の伝搬の様子はマクスウェル方程式(Maxwell’s equations)を解いて求められ る。電界をE[V/m]、磁界をH[A/m]、電束密度をD[C/m2]、磁束密度をB[T]、電流密度 をJ[A/m2]、自由電荷密度をρ[C/m3]とするとき、マクスウェル方程式は
∇ ×E = −∂B
∂t (2.1a)
∇ ×H = ∂D
∂t +J (2.1b)
divD = ρ (2.1c)
divB = 0 (2.1d)
で記述される。式(2.1a)はファラデーの電磁誘導法則、式(2.1b)はアンペアの法則、式
(2.1c)、(2.1d)はガウスの法則である。ここで、電流密度と電荷密度は連続の方程式
∂ρ
∂t + divJ = 0 (2.2)
を満たしている。
媒質中で分極(polarization)P[C/m2]や磁化(magnetization)M[A/m]が存在すると
き、構成方程式(constitutive equations)は
D = ε0E+P (2.3a)
B = µ0H+M (2.3b)
J = σE (2.3c)
ε0 = 8.854×10−12[F/m]
µ0 = 4π×10−7[H/m]
と書ける。ただし、ε0は真空中の誘電率(permittivity)、µ0は真空中の透磁率(magnetic permeability)、σは電気伝導率(electric conductivity)である。
電界や磁界があまり大きくなく、分極と電界の関係などが線形関数
P = ε0χEE (2.4a)
M = µ0χMH (2.4b)
で表せるとき、比例係数χEを電気感受率(electric susceptability)、χM を磁化率(mag- netic susceptability)という。式(2.4)を式(2.3)に代入し、
D = εε0E, ε≡1 +χE (2.5a)
B = µµ0H, µ≡1 +χM (2.5b)
とおくとき、εを媒質の比誘電率(specific dielectric constant)、µを媒質の比透磁率
(relative magnetic permeability)という。εやµは媒質の分極機構に依存するため、一般 には定数でない。
光導波路や光ファイバでは屈折率分布を既知として、電磁界分布やそれから派生する特 性を求めることが多い。屈折率nは
n2 =ε (2.6)
で比誘電率εと直接関係付けられる。よって、物理に近い分野では媒質中の誘電率が用い られること(ここでのεε0の値をεで記述することに相当する)が多いのに対して、導波 光学では、誘電率そのものではなく、比誘電率が多用される。しかし、光波領域では比誘 電率はほとんど使われず、屈折率nが使われる。
2.1.2 境界条件
図2.1のように、異なる誘電率ϵ1, ϵ2をもつ二つの媒質が接している状況を考える。境 界において、電磁界が満たすべき条件を以下に示す。
Et(1) =Et(2) (2.7a)
Ht(1) =Ht(2) (2.7b)
ο݈
S 㡿ᇦ
ߝଵ ߝଶ
A dA
݈݀
図 2.1: 境界の一例
式上での(1)、(2)の添え字は媒質の番号を表し、(t)は境界に接した部分の成分を表し ている。つまり、E, Hともに境界に接している成分が連続である必要がある。これらの 式は面Aで面積分することから証明できる。境界条件で、必要十分なのは、「電磁界の接 線成分は連続」である。しかし、解くべき問題によっては、境界に接する成分が解析に使 用する変数に含まれない場合がある。その場合、境界に垂直な成分に対する境界条件が必 要である。境界に垂直な電界成分Enに対する境界条件は次式にように与えられる。
ϵ1En(1) =ϵ2En(2) (2.8)
2.1.3 導波路解析
導波路は通常、図2.2 (a)、(b)のように三次元構造であり、コアとクラッドと呼ばれる 部分から成る。
屈折率の高いコアと屈折率の低いクラッドとよばれる部分が取り囲み、光はコアに沿っ て伝搬する。現在では、三次元構造について数値解析するソフトや計算機も存在してい が、三次元構造になれば計算も複雑になり、計算機の処理時間がかかる。そこで、図2.2 (b)のような三次元導波路を図2.2 (c)で二次元構造で近似して解く方法がある。この手法 を等価屈折率法と呼び、図2.2(c)のような導波路をスラブ導波路と呼ぶ。(「スラブ」と は、「平板」といった意味である。)
ここで、光の伝搬を解析する定番的な数値計算法である差分ビーム伝搬法を用いて導波 路解析を行う場合について簡単に述べる。図2.2 (b)において、仮に格子点数を「縦100,横 400」とし、図2.2 (c)では「横400」とする。図2.2 (b)をADI-BPM(Alternative Direction Implicit-Beam Propagation Method; 交互方向陰的差分法)で解くとすると、1ステップの 計算に「未知数400個、バンド幅3の連立一次方程式を100回」及び「未知数100個、バ
図 2.2: 三次元導波路と二次元スラブ導波路((a)光ファイバ (b)及び(c)Y分岐)
ンド幅3の連立一次方程式を400回」解く必要がある。図2.2 (c)では、1ステップの計算 に「未知数400個、バンド幅3の連立一次方程式を1回」解く必要がある。バンド幅3の 連立一次方程式を解くのに必要な計算量は未知数の個数に比例するので、「未知数100個、
バンド幅3の連立一次方程式を1回解く計算量を1」とすると、図2.2 (b)の計算量は800 となる。それに対して、図2.2 (c)の計算量は4となる。つまり、二次元構造で解く方が はるかに計算量が少なくて済むことが分かる。
但し、三次元構造は常に二次元構造で近似できるわけではない。等価屈折率法を用いて 二次元構造で近似することは、概念的に次のことを意味している。コアの部分では、常に y方向のフィールド分布が特定の形状であることを仮定している。ゆえにy方向偏微分の 項が定数となり、結果的にコアの屈折率が変化したような効果となる。つまり、常に光は 上下方向に閉じ込められている必要がある。光が上下方向に放射する可能性がある構造 に対しては、上記の仮定が成立しなくなるため、等価屈折率法を用いることができない。
また、むりやり用いることも可能ではあるが、精度が悪くなる。
2.1.4 二次元導波路
図2.3のようなスラブ導波路における光波の伝搬問題を解析することを考える。ここで、
波の伝搬方向をz方向にとし、一様な方向としてy方向をとる。y方向に一様な構造をも つので、電磁界成分の大きさのうち、y方向には大きさの変化は無いのでy方向の偏微分 は0となる。マクスウェルの方程式を成分ごとに書き下し、y/∂y = 0とおく。そこで、TE 波(Transverse Electric)とTM(Transverse Magnetic)波に分ける。
ග
y x
z
図 2.3: 二次元のスラブ導波路 まず、マクスウェルの式において、y/∂y= 0とおくと
−∂Ey
∂z +jωµHx = 0 (2.9a)
∂Ex
∂z − ∂Ez
∂x +jωµHy = 0 (2.9b)
∂Ey
∂x +jωµHz = 0 (2.9c)
−jωεEx− ∂Ey
∂z = 0 (2.9d)
−jωεEy +∂Hx
∂z −∂Hz
∂x = 0 (2.9e)
−jωεEz+∂Hy
∂x = 0 (2.9f)
となる。ここでTE波を解析する場合、変数をEyのみにすることが多い。式(2.9a)、式 (2.9c)をそれぞれz、xで偏微分し、式(2.9e)に代入するとEyだけの式が得られる。ここ
で、式(2.9a)をHxのみ左辺にくるように変形し、両辺をzで偏微分すると次式のように
なる。
∂Hx
∂z = ∂
∂z( 1 jωµ
∂Ey
∂z ) = 1 jωµ
∂2Ey
∂z2 (2.10)
式(2.9b)をHzのみ左辺にくるように変形し、両辺をzで偏微分すると次式のようになる。
∂Hz
∂x = ∂
∂x( −1 jωµ
∂Ey
∂x ) = −1 jωµ
∂2Ey
∂x2 (2.11)
式(2.10)と式(2.11)を式(2.9e)に代入すると、
1 jωµ
∂2Ey
∂x2 + 1 jωµ
∂2Ey
∂z2 −jωεEy = 0 (2.12)
両辺にjωµをかけて、
∂2Ey
∂x2 +∂2Ey
∂z2 +ω2εµEy = 0 (2.13)
光の分野ではµ=µ0であり、ω2εµは次のように書き換えられる。
ω2εµ=ω2ε0µ0εr =k02n2 (2.14) よって、次式が得られる。
∂2Ey
∂x2 + ∂2Ey
∂z2 +k02n2Ey = 0 (2.15) k0は真空中の波数であり、2π/λに等しい。式(2.15)がTE波を記述する基本方程式であ る。残りの2成分は次式で表される。
Hx = 1 jωµ
∂Ey
∂z (2.16a)
Hz = −1 jωµ
∂Ey
∂x (2.16b)
導波路をz方向に伝搬するモードの場合、Hx, Eyの値は大きく、Hzの値は小さい。電磁 波は横波であるといった性質を残している。
ここからは、TM波について述べる。式(2.9d)をExのみ左辺にくるように変形し、両 辺をzで偏微分すると次式のようになる。
Ex = −1 jωε
∂Hy
∂z = 0 (2.17a)
∂Ex
∂z = ∂
∂z(−1 jωε
∂Hy
∂z ) =− 1 jωε0
∂
∂z( 1 n2
∂Hy
∂z ) (2.17b)
また、式(2.9f)をEzのみ左辺にくるように変形し、両辺をxで偏微分すると Ez = 1
jωε
∂Hy
∂x = 0 (2.18a)
∂Ez
∂x = ∂
∂x( 1 jωε
∂Hy
∂x ) = 1 jωε0
∂
∂x( 1 n2
∂Hy
∂x ) (2.18b)
となり、式(2.17b)と式(2.18b)を式(2.9b)に代入すると、
−1 jωε0
∂
∂x( 1 n2
∂Hy
∂x ) + −1 jωε0
∂
∂z( 1 n2
∂Hy
∂z ) +jωµHy = 0 (2.19) となり、両辺に−jωε0をかけると、
∂
∂x( 1 n2
∂Hy
∂x ) + ∂
∂z( 1 n2
∂Hy
∂z ) +ω2µε0Hy = 0 (2.20) となる。また、光領域ではµ=µ0となる。さらに、ω2µ0ε0 =k02(k0 = 2π/λ)を利用して、
∂
∂x( 1 n2
∂Hy
∂x ) + ∂
∂z( 1 n2
∂Hy
∂z ) +k20Hy = 0 (2.21)
となる。なお、式(2.21)がTM波を記述する基本方程式である。残りの2成分は次式で表 される。
Ex = −1 jωε0n2
∂Ey
∂z (2.22a)
Ez = 1 jωε0n2
∂Ey
∂x (2.22b)
導波路をz方向に伝搬するモードの場合、Ex, Hy成分の大きさはEzに比べるとかなり 大きい。屈折率nに関する微分を無視すると、TE波とTM波の式は同じ形になる。導波 路解析の分野では、コアとクラッドの屈折率差を表す量として比屈折率△が用いられる。
比屈折率の定義は次式で示す。
△= n21−n20
2n21 (2.23)
n0はクラッド、n1はコアの屈折率である。比屈折率が小さい場合、次式ののような近似 が用いられる。
△= n21−n20
2n21 ≃ n1 −n0
n1 (2.24)
比屈折率が小さい導波路の場合、屈折率の微分項の値は小さいのでTE波とTM波はほ ぼ同じ特性を示す。つまり、TE波でTM波を近似することも可能である。
2.1.5 三次元導波路
式(2.9)から分かるように、マクスウェルの方程式は六つの変数を有する。これを解く
場合、微分の階数を上げて、変数の数を減らした方が都合が良いことがある。三次元問題 の場合、電界だけの式へもっていく方法と、磁界だけの式に導く方法の二つがある。三次 元問題の場合、成分ごとに書き下してから変形するのではなく、ベクトル表現のまま変形 する方法が用いられる。そこで、マクスウェルの式をもう一度以下に記載する。
∇ ×E =−jωµH (2.25a)
∇ ×H=jωεE (2.25b)
ここで、電界だけの式を導くには、式(2.25(a))の左から∇をかける。そして、式(2.25(b)) を用いると、
∇ × ∇ ×E=∇ ×(−jωµH)
=−jωµ∇ ×H
=−jωµ(jωεE)
=ω2µεE (2.26)
となる。ここで、ベクトル公式∇ ×(∇ ×E) = ∇(∇ ·E)− ∇2E及び、µ=µ0、ω2µ0ε= k02n2(k0 = 2π/λ)を利用すると、式(2.26)は次式に変形することができる。
∇2E− ∇(∇ ·E) +k02n2E (2.27) ここで、∇(∇ · ∇)はそのまま差分化して数値計算を行うと、不安定現象を引き起こすこ とがある厄介な項である。屈折率が不連続に変化する場所(例.コアとクラッドの境界)で は、電界の法線成分は不連続(∇ ·E̸= 0)になる。不連続な電界を∇(∇ ·E)のような表現 形式で取り扱うと問題が発生する。
それを解決する方法として、∇(∇ ·E)を次のように置換する。式(2.25b)の両辺に左か ら∇をかけると、
∇ ·(∇ ×H) =∇ ·(jωε)E
=jω(ε∇ ·E+∇ε·E) (2.28)
となる。ベクトル解析の定理より、回転(rot)をとった後、その発散(div)をとると0にな る。∇×はrotをとることを意味しており、∇·はdivをとることを意味しているため、式 (2.28)の左辺は0である。ゆえに、
ε∇ ·E+∇ε·E= 0 (2.29)
となり、移項して
∇ ·E=−∇ε·E
ε (2.30)
となる。この関係式より、
∇2E+∇(∇ε
ε ·E) +k20n2E= 0 (2.31) が得られる。左辺第二項は
∇ε= (∂ε
∂x,∂ε
∂y,∂ε
∂z) (2.32)
であるので、屈折率の空間微分も含む項である。屈折率は屈折率が変化する部分でのみ値 をもつため、一様な場所においてその値は0である。例えば、ステップ形の屈折率分布の 場合、境界でのみ値をもつ。屈折率変化が小さい場合、この項を無視できる。そこで、式
(2.31)の左辺第二項を考慮する。このとき、三つの成分が絡み合う連立偏微分方程式にな
る。これをベクトル波解析、又はフルベクトル波解析と言う。式(2.31)の左辺第二項を書 き下すと以下のようになる。
( ∂
∂x, ∂
∂y, ∂
∂z)(1 ε
∂ε
∂x,1 ε
∂ε
∂y,1 ε
∂ε
∂z)(Ex, Ey, Ez)
= ( ∂
∂x, ∂
∂y, ∂
∂z)(1 ε
∂ε
∂xEx,1 ε
∂ε
∂yEy,1 ε
∂ε
∂zEz) (2.33)
これにより、各成分ごとに表すことも可能となる。ここで、∂/∂x(1/ε·∂ε/∂y·Ey)は偏 波の結合を表す項であり、無視できることが多い。また、z方向に一様な構造をもつ導波 路においては∂ε/∂z= 0であり、z方向に伝搬する波のEzの大きさはEx,Eyに比べると かなり小さい値となる。ゆえに∂/∂x(1/ε·∂ε/∂z·Ez)は非常に小さい値になる。そこで、
二つの項を無視することができ、Ex,Ey,Ezだけの式に分離することができるので解くや すくなる。これをセミベクトル波解析と言う。Exに関するセミベクトル波解析の式は、
∂2Ex
∂x2 + ∂
∂x(1 ε
∂ε
∂xEx) + ∂2Ex
∂y2 +∂2Ex
∂z2 +k02n2Ex = 0 (2.34) となる。但し、セミベクトル波解析においては偏波同士の結合を表すことができない。例 えば、比屈折率が大きな導波路で、かつ「導波路の断面が非対称である場合又は、曲がり 導波路」においては偏波同士の結合が発生する。そのような場合はセミベクトル波解析で は不十分な場合が多い。また、左辺第二項は次のような表現もある。
∂
∂x(1 ε
∂ε
∂xEx) = ∂
∂x(∂lnε
∂x Ex) (2.35)
左辺第一項と第二項をまとめて次のように表現されることもある。
∂2Ex
∂x2 + ∂
∂x(1 ε
∂ε
∂xEx) = ∂
∂x 1 ε
∂
∂x(εEx) (2.36)
次に、磁界のみの式で導いてみる。まず、マクスウェルの式を再度、記載する。
∇ ×E =−jωµH (2.37a)
∇ ×H=jωεE (2.37b)
式(2.37b)の左辺から∇×をかけると
∇ ×(∇ ×H) =∇ ×(jϖεE)
=jϖ(ε∇ ×E+∇ε×E) (2.38)
∇(∇ ·H)− ∇2H=jωε(−jϖεµH) + ∇ε ε ×εE
−∇2H=ω2µεH+ ∇ε
ε ×(∇ ×H) (2.39)
移項して、
∇2H+k20n2H+∇ε
ε × ∇ ×H= 0 (2.40)
この式を展開し、大きさの小さな項を無視すると、磁界に関してセミベクトルの式が得ら れる。Hxに関するセミベクトルの式は次式になる。
∂2Hx
∂x2 + ∂2Hy
∂y2 − 1 ε
∂ε
∂y
∂Hx
∂y + ∂2Hz
∂z2 +k02εHx = 0 (2.41) フォトニック結晶を解析する場合、平面波展開法と呼ばれる方法が用いられることが多 い。誘電体導波路においては、電界は境界面で不連続であるが、磁界はすべての場所で連 続である。不連続を表すには多数の項が必要となるので、展開項数を少なく済ませるに は、常に連続な成分である磁界を用いた方が有利である。ゆえに、フォトニック結晶の解 析には磁界が用いられる。
2.2 モード
光導波路における諸現象を理解するには、モードに対する理解が必要である。モードの 概念は難しいので簡単にいうと、導波路を伝搬する光を幾つかのモードの和として表現 することができる。モードを導入することにより、様々な現象の定性的な理解も可能とな る。例えば、光波の蛇行現象がモードの干渉として説明することができる。
2.2.1 二次元スラブ導波路の TE モード
y方向に一様な構造をもつ二次元のスラブ導波路においては、マクスウェルの方程式は
T E, T M 波に分けることができた。また、二次元のT E波の方程式は二次元のスカラ波導
方程式と一致する。そこで、T E波の方が式が簡単なので、T E波について議論する。
y x
z
䜽䝷䝑䝗
䜽䝷䝑䝗 䝁䜰
図 2.4: 二次元直線導波路
一番基本的な導波路は、図2.4のような直線導波路であり、この導波路について説明 する。
∂2Ey
∂x2 + ∂2Ey
∂z2 +k02n2Ey = 0 (2.42) Hx = −j
ωµ0
∂Ey
∂z (2.43)
Hz = j ωµ0
∂Ey
∂x (2.44)
ここで、k0は真空中の波数を示す。波数は1mあたりの回転角を表すのでk0 = 2π/λであ る。λは真空中の波数である。n(x, z)は屈折率を表し、導波路のレイアウトを表す。Ey、
Hx、Hzはx,zの関数で複素数である。式(2.42)〜(2.44)から、Eyについて解けばよいこ とが分かる。Hx, Hzは式(2.42)、(2.43)よりEyから一意に求まる。但し、コアとクラッ ドの境界では境界面に接する成分が連続でないといけないので、Ey, Hzが連続でないと いけない。すなわち、Hzも考慮する必要がある。
Ey(x, z) =ϕ(x)e−jβzといった変数分離された形の解が存在するならば、それを求める。
但し、βは実数である。
図 2.5: 導波モードのイメージ
|e−jβz |= 1なので、この解は増減することなく、図2.5のようにz方向に伝搬し続ける 波を示す。Ey(x, z) =ϕ(x)e−jβzを式(2.42)に代入すると、z方向の一階微分は−jβをか けることに置換されるので、
∂2Ey
∂z2 =−β2Ey (2.45)
となり、次式のようになる。
∂2
∂x2(ϕe−jβz)−β2ϕe−jβz +k20n2ϕe−jβz = 0 (2.46) ここで、両辺をe−jβzで割ると、ϕ(x)が満たすべき方程式は、
∂2ϕ
∂x2 + (k20n2−β2)ϕ= 0 (2.47) となる。この時点で、βは未定である。後から示すが、βが特定の値をとるときのみϕ(x)e−jβz
は式(2.42)と以下の境界条件を満たすことができる。その境界条件は、二つある。
1.導波路に沿って伝搬する光波を示すので、導波路から離れた場所であるx = ±∞で フィールドEy, Hx, Hzは0になる。
2.コアとクラッドの境界面で電磁界の接線成分(EyとHz)は連続である。これは、ref eq2−44 より、Hz = j/ωµ0 ·∂Ey/∂xすなわちHzはEyのy方向微分に比例するので、境界面で Eyと∂Ey/∂xが連続である。
仮定よりEy(x, z) = ϕ(x)e−jβzなので、先ほどの境界条件は、
1.ϕ(x)はx=±∞で0となる。
2.コアとクラッドの境界でϕと∂ϕ/∂xは連続である。
となる。ϕはこの条件を満たし、かつ偏微分方程式
∂2ϕ
∂x2 + (k20n2−β2)ϕ= 0 (2.48) を満たす必要がある。
屈折率は、コアではn1、クラッドではn0の一定値をとる。そこで、図2.5の三つの領 域において式(2.48)の解析解を求め、その解を接続する。その解はk02n2−β2の符号によ り変化する。
k20n2−β2 >0 :ϕ=Acosαx+Bsinαx (2.49a) k02n2−β2 <0 :ϕ=Ceαx+De−αx (2.49b) ここで、場合分けをせずに統一して表現するために、
a=
√
β2−k20n2 (2.50)
として表し、根号の中が負のときは虚数を導入することにすれば、式(2.48)の解は、
ϕ(x) =Aeax+Be−ax (2.51)
と書ける。但し、aが虚数のとき係数AとBはお互いに共役な複素数である。各層にお
けるϕと∂ϕ/∂xを以下に示す。最初に上側のクラッドの場合は、
ϕ(x) :A1eγx+B1e−γx (2.52a)
∂ϕ
∂x :A1γeγx+B1γe−γx (2.52b) となり、次にコアの場合を示す。
ϕ(x) :A2eκx+B2e−κx (2.53a)
∂ϕ
∂x :A2κeκx+B2κe−κx (2.53b) 最後に下側のクラッドの場合を示す。
ϕ(x) :A3eγx+B3e−γx (2.54a)
∂ϕ
∂x :A3γeγx+B3γe−γx (2.54b) ここで、κとγの関係は、
κ=
√
β2−k02n21 (2.55a)
γ =
√
β2−k02n20 (2.55b)
である。導波モードのβはk0n0 < β < k0n1の範囲内に入らねばならないので、κは純虚 数であり、γは正の実数である。
ここで、κとγを導入するとβは式中には明示されないが、未知数はβのみである。そ こで、βのとりうる範囲について考える。境界条件を満たすには、ϕは図2.6のようにコ アの領域では正弦関数になり、クラッドの領域では指数関数にならなければならない。す なわち、k0n0 < β < k0n1でなくてはならない。
図 2.6: βの解
解の個数は導波路の幅、光の波長、比屈折率差△= (n21−n20)/(2n21)≃(n1−n0)/n1等 によって決定され、次のような性質がある。
1.左右のクラッドの屈折率が同じ、すなわち対称な屈折率分布をもつ導波路では、1個 以上のモードが存在する。非対称な屈折率分布をもつ導波路では、モードが1つも存在し ない場合もある。
2.モードの個数は導波路幅が広くなるほど多くなる(波長が短くなるほど多くなる) 3.モードの個数はコアとクラッドの比屈折率差が大きくなるほど多くなる。
屈折率分布が対称形でコアとクラッドの境界位置が−x1、+x1の2箇所にあるとき、各 モードの形は次のように変化する。図2.7(a)は一つ目の解であり0次モードと呼ばれ、(b) は二つ目の解であり1次モードと呼ばれる。0次、2次モードのように偶関数で表される モードを偶モード、1次、3次モードのように奇関数で表されるモードを奇モードと呼ぶ。
0次モードを基本モードと呼ぶこともあり、1次以下のモードを高次モードと呼ぶことも ある。
െݔଵ ݔଵ ݔ (a)
ݔ
െݔଵ
ݔଵ
(b)
図 2.7: 各モードでのϕ:((a)0次モード (b)1次モード)
n次モードのフィールドには、n+ 1個のピークがある。モードの次数とピークの個数 が一つずれているのは、偶関数で表されるモードの次数を偶数にするためである。これに 対して、三次元導波路のモードはE12x のように名付けられ、12はx方向とy方向のピー クの個数を表している。
2.2.2 二次元スラブ導波路における等価屈折率
モードは、ϕ(x)e−jβzといった式で表される。βは伝搬定数と呼ばれ、1mあたりの回転 角を示す。一方、屈折率nを媒質中をz方向に伝搬する平面波はe−jk0nzという因子を持っ ていた。そこで、等価屈折率neと呼ばれる量を
ne = β
k0 (2.56a)
β=k0ne (2.56b)
と定義すると、
e−jβz =e−jk0nez (2.57)
と、記載することができる。ここで、モードはz方向にe−jk0nezの因子で振動し、伝搬 する。一方で、屈折率neの一様媒質中を伝搬する平面波の波数はk0neである。どちら も、e−jk0nezの因子を共通にもっており、同じ位相速度となる。つまり、等価屈折率neは n0 < ne < n1という範囲内にある。
モードは波の進行方向にe−jβzという因子を持ち、|e−jβz |= 1なのでどこまで伝搬して も、増減しない。よって、形を変化させることなく永遠に伝搬し続ける。
マクスウェルの方程式は線形なので、一つの解が求まったらならばその定数倍もまた解 である。解が二つ求まったなら、その和もまた解である。例えば、ϕ1(x)e−jβ1zという解 とϕ2(x)e−jβ2zという解が求まったなら、
Ey(x, z) = Aϕ1(x)e−jβ1z+Bϕ2(x)e−jβ2z (2.58) もまた解である。複素振幅AとBの値は導波路の入射端における入射フィールドの形状 によって定まる。
2.2.3 正規化周波数とモードの個数
対称形の屈折率分布をもつスラブ導波路に存在するモードの個数は、正規化周波数νの 値を考えることにより求めることができる。
ν = d λπ
√
n21−n20 (2.59)
ここで、dは導波路幅、λは真空中の光の波長、n1はコアの屈折率、n0はクラッドの屈折 率である。
△= n21−n22
2n21 (2.60)
式(2.60)で定義される比屈折率差△を導入して、式(2.59)を次式のように変形できる。
ν = d λπ
√
n21−n20
= d λπ2
2n1
√
2n21−n22 2n21
=k0n1d 2
√2△ (2.61)
比屈折率差△はコアとクラッドの屈折率差が小さいとき、
n21−n20
2n1 = (n1+n0)(n1−n0) 2n21
≃ 2n1(n1−n0) 2n21
= n1−n0
n1 (2.62)
と近似されることも多い。
スラブ導波路に存在するモードの個数は、TEモード及びTMモードにおいてもνの値 のみで決定される。次のような関係がある。
• 正規化周波数が0〜1π/2の間ならばシングルモード
• 正規化周波数が1π/2〜πの間ならば2モード(マルチモード)
• 正規化周波数がπ〜3π/2の間ならば3モード(マルチモード)
• 正規化周波数が3π/2〜1πの間ならば4モード(マルチモード)
スラブ導波路の場合、上に示したように正規化周波数の値で、正弦関数(sin, cos)の零点 を境にしてモードの個数が決まる。この性質は、βを求める固有値方程式を図式解法で解 く事で証明できる。
2.2.4 分散曲線
コアの屈折率とクラッドの屈折率が与えられたとき、導波路幅を広くしてゆくと伝搬定 数βの値がどのように変化するかを描いた図(グラフ)を分散曲線と言う。例として、コ アの屈折率が1.51、クラッドの屈折率が1.5のとき、導波路幅を広くしていった場合の各 モードの等価屈折率を図2.8に示す。横軸は波長を基準とした導波路幅、縦軸は等価屈折 率である。等価屈折率neはn0 < ne < n1の範囲内にある。n0はクラッドの屈折率、n1が コアの屈折率である。図2.8は分散曲線である。横軸は波長で規格化された導波路幅、す
図 2.8: 分散曲線とフィールド形状
なわち導波路幅/λを表している。この図は、導波路幅を固定して波長を変化させた図と 考えることもできる。