1.はじめに
外国語学部において、日本語専攻は他の専攻とか なり性質の異なる専攻である。「外国語学部なのに どうして日本語なの?」という質問を受けたり、ま た日本語専攻には留学生しかいないと誤解されたり することもあるように、外国語学部の中の日本語と いうのは、外部の人から見ると、どこか捉えがたい 印象があるようである。
ここでは、日本語専攻がどのようなところである かを理解していただけるよう、その沿革や他の専攻 とは異なる特徴などについて紹介したい。
2.日本語専攻の沿革
日本語専攻の端緒となるのは、昭和 29 年(1954 年)、
旧大阪外国語大学に設立された留学生別科である。
留学生別科は、国費留学生の日本語教育を行う機関 として発足し、日本の国費留学生教育の重要な拠点 として位置づけられてきた。この留学生別科との密 接な連繋のもと、昭和 52 年(1977 年)に旧大阪外 国語大学大学院外国語学研究科に、日本語学専攻(修 士課程)が発足した。この時には、学部には日本語 専攻がなく、大学院だけの専攻であったが、昭和 62 年(1987 年)には、旧大阪外国語大学外国語学 部に日本語学科が設置され、学部と大学院がつなが ることとなった。この学部の日本語学科が、現在の
外国語学科日本語専攻の母体である。そして、平成 19 年(2007 年)、大阪大学と統合することによって、
大阪大学外国語学部外国語学科の中に、日本語専攻 が設置され、今日に至っている。教員は、最も多い 時は 11 名であったが、現在は 6 名の専任教員と、2 名の兼任教員の計 8 名である。
大学院については、平成 19 年(2007 年)、大阪 大学と統合することによって、言語文化研究科言語 社会専攻の中に、日本語・日本文化実践コースと日 本語・日本文化専修コース(留学生に特化した人文 系大学院教育プログラム)の 2 コースからなる海外 連携特別コースとして設置され、博士後期課程も新 設された。このコースは、平成 24 年(2012 年)、
新たに日本語・日本文化専攻として、言語文化研究 科の中の独立した専攻となった。教員は、日本語・
日本文化講座所属の教員 6 名に加えて、日本語日本 文化教育センター(旧大阪外国語大学留学生別科)
所属の教員 18 名も加わって総勢 24 名となり、これ まで以上に充実した体制で教育・研究にあたってい る。
現在、言語文化研究科と外国語学部は他研究科の ように一体の組織ではないが、大学院日本語・日本 文化専攻と学部の日本語専攻は、実質的には、日本 語学、言語学、日本語教育学、日本文化学に関する 教育・研究を行う一つの組織として機能している。
3.日本語専攻の特徴
日本語専攻という名称は、特に日本人にとっては 自国の言語について学ぶ場所であることから、いさ さか内向きな専攻であるようなイメージを与えるか もしれない。しかし、日本語専攻は、学生定員 40 名のうち、30 名が日本人、10 名が留学生であり、
日本人学生と留学生が共に学ぶことを前提とした専 攻である。留学生は、中国、台湾、韓国からの私費
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Sayo TSUTSUI 1964年2月生
大阪外国語大学大学院外国語学研究科 日本語学専攻修士課程(1988年)
現在、大阪大学 言語文化研究科日本語
・日本文化専攻 教授 言語文化学博士 日本語教育学
TEL:072-730-5191
E-mail:[email protected]
大阪大学外国語学部外国語学科日本語専攻紹介
Osaka University, School of Foreign Studies, Japanese Section
Key Words:Japan, Japanese language, Japanese culture, international students
筒 井 佐 代 * 海外交流
留学生が計 10 名程度入学するのに加えて、ロシア、
ノルウェー、ポーランド、クロアチア、インド、マ レーシア、フィリピンなど、様々な国からの国費留 学生が若干名入学し、30 名の日本人学生と共に専 攻の授業を受けている。したがって、日本語専攻の 授業では、教室の中に留学生がいることが当たり前 の環境となっている。さらに、近年では、日本籍の 帰国生徒や、両親の仕事の都合で幼少期や学齢期を 日本で過ごした経験を持つ外国籍の人、中国帰国者 三世の人など、様々な言語的文化的背景を持つ学生 もおり、日本人学生と留学生という二分法ではくく れない、多様な学生が集まっている。この多様性が、
他の専攻とは異なる日本語専攻の最大の特徴である。
また、外国語学科の学生は、全員何か一つの外国 語を専攻語とすることになっているが、日本語専攻 の場合は、留学生は日本語を専攻し、日本人学生は、
外国語学科の他の 24 言語のうちのどれか一つの言 語を専攻している。したがって、日本語専攻の学生 全員が集まると、日本語を含めた 25 言語を学ぶ人 たちが集まることになる。このような状況は他の専 攻には見られないことであり、この点も日本語専攻 の多様性の一側面であると言える。
このような様々な学生が集まる教室で、日本人学 生は、留学生が日本や日本語に対して抱く疑問を知 ることで、日本を客観的に見る目を養い、留学生は 日本人学生と話し合い共に学ぶことで日本をより深 く理解することになる。その際に重要なことは、こ の異文化間の関わり合いの共通言語が日本語であり、
日本人学生も留学生も、日本語や日本文化について、
あるいは他の言語文化について、日本語で理解し議 論することができるということである。これは留学 生の日本語能力が格段に高く、また積極的に日本語 で関わろうとしてくれるからこそ可能になることで あり、このような留学生の意欲的な姿勢は、少なか らず日本人学生に良い影響を与えているようである。
一方で、留学生が自分の母語の感覚で日本語を使う ことによる摩擦も生じる。授業中のグループワーク がお互いの思うように進まないことも日常茶飯事で あり、日本人学生が留学生の意見に押されたり、あ るいは留学生が日本人学生の話し合いに入り込めな かったりといったこともしばしばである。それでも、
学生たちは日々異文化摩擦をくぐり抜けながら、よ りよい関係を構築しようとしており、その結果、知
らず知らずのうちに異文化コミュニケーション能力 を身につけているのではないかと思う。
日本語専攻の学生の就職先は、概ね他の専攻と変 わるところはないが、日本語専攻に特徴的であるの は、日本語教育に関する仕事である。日本語専攻に 来る学生のうち、日本人と留学生を合わせてかなり の割合の学生が、日本語教育に興味を持って入学し てくる。彼らは大学で日本語学や日本語教育学を学 び、学年に数名は、在学中に日本国内、あるいは海 外の教育機関で数週間から 1 年、日本語を教える経 験を積む。日本語専攻ではそのような学生のために、
国内では、独立行政法人日本学生支援機構の大阪日 本語教育センター、国際交流基金関西国際センター、
大阪大学日本語日本文化教育センター、および大阪 にある日本語学校、海外では、デュッセルドルフ大 学(ドイツ)、チュラーロンコーン大学(タイ)、チ ェンマイ大学(タイ)、ニーアン・ポリテクニック(シ ンガポール)に教育実習を引き受けていただいてお り、タイの高等学校にも毎年、学生を教師として送 っている。これ以外にも、学生は自主的に日本語教 師派遣のプログラムに応募したり、日本語教師を派 遣するボランティア団体を通して、あるいは直接海 外の教育機関に連絡を取るなど、様々な方法を使っ て、日本語教育の現場を体験しに出かけていく。彼 ら全員が、卒業後に日本語教師の職に就くわけでは ないが、学生としてではなく社会人として人前に立 ち、日本人のいわば代表として日本語を教えるとい う経験は、必ず将来において彼らの糧となり力とな るだろうと思う。
4.おわりに
このように、日本語専攻は、他の 24 言語の専攻 と同様、あるいはそれ以上に、日本の外とつながっ た専攻であり、常に誰かがどこかの国へと旅立ち、
また帰国してくるという、流動的で国際色豊かな場 である。これは学部の日本語専攻に限ったことでは なく、大学院日本語・日本文化専攻ではほとんどの 日本人学生が海外経験を積み、複数の国で日本語教 育の現場を体験する学生も少なくない。また、大学 院では留学生の方が日本人学生より多く、出身国も アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカなど 多岐にわたり、日本人学生がマイノリティであるよ うな状況が生じている。
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現在、旧大阪外国語大学時代も含めた日本語専攻 の過去の卒業生は、大学院の修了生も合わせると、
少なくとも 30 以上の国や地域で日本語教育に関す る仕事に携わっており、卒業生修了生間のネットワ ークも徐々に広がっている。日本の若者は内向きに
なったという批判が聞かれるが、日本語や日本文化 に対する興味や関心、知識があれば世界とつながる ことができるということを学び、世界中のどこの人 とでも臆することなく接することのできる姿勢を身 につけてもらうことが、私たち教員の願いである。
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