コミュニケーション力診断と授業との連携 加 藤 竜 哉
Communication Skill Assessment and its Connection with Class Contents
Tatsuya Kato
Abstract
In order to study the communication skills of the students, Business Communication Skill Assessment (BCSA) was used, and class contents were examined and revised.
As a result, the understanding of BCSA by freshmen in academic year 2012 could be developed to the same degree as sophomores in academic year 2009.
Resulting from this, the examination and revision of classes using BCSA results was shown to be effective.
はじめに
本学は、平成22年9月に「就職できるコミュニケーション能力育成事業」の取り組み名称で、
文部科学省「大学生の就業力育成支援事業」の選定を受けた。本取り組みは、「社会人とし て必要な力」と実践的な「専門的知識」を学生が主体的に習得し、地域社会・時代が求める 人材の変化に柔軟に対応できる職業人の育成を行うことを目的に、企業から最も必要とされ る「コミュニケーション力」と「行動力」をPDCAサイクルに則って育成する事業である。
短期大学の2年という短期間で、「コミュニケーション力」を伸ばしていくためには、その 力を定量的に測る ものさし が必要である。その ものさし として、導入した外部診断 テストが、CompTIAのビジネスコミュニケーションスキル診断(Business Communication Skill Assessment 以下BCSAと略記)である。
本学は、前記採択事業の一環として、BCSA診断を2010年4月から開始した。文部科学省
の「大学生の就業力育成支援事業」は事業仕分けによって中断したが、BCSA診断は現在も
継続的に利用している。
本報告は、2009年入学者から実施したBCSA診断の結果と、共通科目の一つである「ビジ ネス実務」科目の修正(時期・内容など)における、PDCAサイクルの実践について報告する。
BCSA とは
1)BCSAは、広範囲で日常的なビジネス・コミュニケーション・シーンで必要なスキルの活 用度合を、「信頼性」、「共感性」、「理論性」の3つの柱で診断し、自己のビジネス・コミュ ニケーションに関する強みや弱みをチェックできる診断ツールである。3つの柱の中で「信 頼性」は、身だしなみ・マナー、配慮・常識、言葉遣い・敬語、動作・表情、話し方・抑揚・
間の取り方などの基本的スキルを、「物理的環境の管理」、「信頼の獲得と維持」、「言語・非 言語の効果的使用」の3つのスキルで診断する。「共感性」はコミュニケーションの土台で あり、たとえば他者との実際のやりとり、聴くこと、質問の仕方、話し方、雰囲気作りなど を「心理的環境の管理」、 「表現方法の調整」、 「質問の活用」、 「相手からのメッセージの対応」
という4つのスキルから診断する。「理論性」は相手から納得を得ること、たとえば「計画」 ・
「実施」・「評価」・「改善」のPDCAサイクルを回すこと・計画すること、相手からの評価を 感じ取ること、自己評価による改善などを「コミュニケーションの準備」、 「コミュニケーショ ンの評価」という2つのスキルから診断する。診断はすべてコンピュータで行う。質問に答 えていくことで、前述した9つのスキルと『総合的な理解度(以下、理解度と略記)』が、パー セントスタイルのレーダーチャートで出力される。レーダーチャートと診断のコメント、さ らには改善への指針が受診者ごとに画面上に表示され、データを適宜印刷できる。
BCSAの診断は、1年次前期終了時期の7月から8月頃を1回目の診断時期とし、2年次 のスタート時期の4月から5月頃を2回目の診断時期とした。2回実施するので、学生は半 年間でのコミュニケーションスキルの差、すなわちBCSAの3つの柱の理解度と9つの各ス キルについて、半年間の差分を確認することができる。実施時期を図1に示す。
なお、BCSAの診断結果は2部印刷し、1部を学生自身が保管し、1部をキャリア相談室
入学 1 年前期学習 1 年後期学習 2 年前期学習
BCSA 診断
1 回目 BCSA 診断
2 回目
差分チェック
図1:BCSA 診断時期
が進路カードと共に保管し、進路支援に活用することにした。また2010年度からは、「ビジ ネス実務」の授業内でも診断結果を利用することとした。
BCSA診断は、2009年12月からの導入準備期間を経て、2009年入学者が2年次に進級した 2010年4月、全学生に対し初めて実施した。その後、毎年の入学者に対し継続的に実施して いる。
結果報告
( 2009 年入学者の BCSA 診断とビジネス実務科目)
2010年3月までのビジネス実務科目は、 「ビジネス実務ⅠA(1年前期、 45分×15回)」、 「ビ ジネス実務ⅠB(1年後期、45分×15回)」、「ビジネス実務ⅡA(2年前期、45分×15回)」、
「ビジネス実務ⅡB(2年後期、45分×15回)」であり、マナーに関する講義と演習を主体に 少人数で行い、45分の短い時間で集中して行うことを特徴としていた。2009年入学の学生が 当時学んだビジネス実務科目を図2に整理する。前述したように、2009年入学者のBCSA診 断は、2010年4月に実施したので、本学最初のBCSA診断は「ビジネス実務ⅠB」履修後の 時期となる。その結果を図3に示す。
図2: 2009 年入学の学生が学ぶビジネス実務科目の流れ
ビジネス実務ⅠA
45分×15回 ビジネス実務ⅠB
45分×15回 ビジネス実務ⅡA
45分×15回 ビジネス実務ⅡB 45分×15回
1 年 2 年
前期 後期 前期 後期
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
30 40 50 60 70 80 90 100
頻度
理解度(%)
2010年 4 月 2 年生 ̲ 理解度の分布
平均 75.23
標準誤差 0.697212 中央値(メジアン) 75.92 最頻値(モード) 75.92 標準偏差 9.909237
分散 98.19299
尖度 0.017793
歪度 ‑0.46751
範囲 50
最小 46.29
最大 96.29
合計 15197.13
標本数 202
図3:2009年入学の2年生 BCSA 結果
図3にはBCSAの総合的スキル指標である理解度をヒストグラムで表してある。理解度の 平均値は、75.23%であった。専門学校生の理解度は72.7%、短期大学生は76.1%との値も ある
2)ので、短期大学学生のBCSA理解度は、75%から76%程度であると認識した。
(2010年入学者の BCSA 診断とビジネス実務科目)
BCSA導入の目的のひとつは、コミュニケーション能力に関わる授業の見直しとその評価 にある。2010年4月に入学した学生では、BCSA診断1回目と2回目の間に位置する1年後 期の「ビジネス実務ⅠB」の内容を再構築した。具体的には、マナー中心の授業からコミュ ニケーションの考え方とスキルを身に付けることができる内容に変更するとともに、1回あ たり45分の授業時間を90分に設定した。ただし半期の単位数は1単位であったので、後期7.5 回(実質8回)の授業として設計した。「ビジネス実務ⅠB」を担当する教員は複数名いる。
そこで教員間の質的向上を図るために連携を強化した。具体的には、事前に授業設計を詳細 に行い、設計に基づき授業で配布する資料をすべて新たに作成した。さらに後期授業が開始 される1か月程度前にTTT(Train The Trainer)を実施し、教員間の意識レベルを一致さ せるとともに、TTTの結果を踏まえてレッスン設計の修正と配布資料の修正を行った。後 期スタート後は、授業のたびに担当教員間で振り返りを行い、その結果を元に次回の授業展 開と、必要があれば資料の追加・修正を行った。
2010年入学者に対する BCSA 診断結果を表1に示す。表1から、2010年度の「ビジネス 実務ⅠB」履修前後で、BCSA理解度の平均値は73.42%から79.63%と、6%向上している ことがわかる。この結果を図3すなわち2009年入学学生の2年次結果と比較する。図3と 表1の2年次データでは母集団が異
なるため、F検定を実施し等分散で あることを確認した後、t検定(p 値0.05)を行った結果、2009年入学 者の2年次データと2010年入学者 の2年次データとの間に有意差有 を得た。すなわち、2009年入学者 の 2年次における BCSA 理解度平 均値75.23%と、2010年入学者の2 年次における BCSA 理解度平均値 79.63%の差+6%は、有効である と判断できた。この結果は、2010年 に再構築した「ビジネス実務ⅠB」
年 度 平成22年度
学 年 1 年 2 年
実施時期 2010年8月 2011年5月
平均 73.42 79.63
標準誤差 0.661994045 0.70435735 中央値(メジアン) 72.22 79.62 最頻値(モード) 72.22 77.77 標準偏差 9.100913467 9.449945491 分散 82.82662594 89.30146978 尖度 0.018594023 0.137249681 歪度 ‑0.367575735 ‑0.603862413
範囲 48.15 44.44
最小 44.44 51.85
最大 92.59 96.29
合計 13876.88 14334.26
標本数 189 180
p <0.05
表1:2010年入学者の BCSA 理解度統計データ
の効果であると推定した。仮に「ビジネス実務ⅠB」を従来の内容とした場合には、1年次 のBCSA理解度平均値73.42% (2010年入学者)と、 2年次のBCSA理解度平均値75.23% (2009 年入学者)との差になると仮定できるので、結果からその差が+2%になると推定した。よっ て、2010年度の「ビジネス実務ⅠB」の改善効果は、BCSA理解度の平均値を+4%押し上 げたと考えられる。
さらに、2009年入学者の2年次データと2010年入学者の2年次データを比較したところ、
図4に示すように、ヒストグラムは明らかに右側にシフトしていること、2010年入学者の BCSA理解度90%を越える頻度は、2009年入学者の結果と比較し、約2倍になっていること もわかった。
以上の結果、2010年に実施した「ビジネス実務ⅠB」の科目内容の変更は、BCSA理解度 の平均値を従来よりも約4%上げる効果があると期待でき、学生のコミュニケーション力向 上に効果があると判断した。
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
30 40 50 60 70 80 90 100
理解度(%)
2010年と2011年の 2 年生 BCSA 理解度
p<0.05 2009年入学者 2010年入学者
頻度
図4: 2010 年の2年生と 2011 年の2年生 BCSA 理解度
( 2011 年入学者の BCSA 診断とビジネス実務科目)
2011年度は、東日本大震災の影響により入学が5月にずれるなど、学校生活に多くの影響 があった。その状況下にもかかわらず、2011年入学者が受講するビジネス科目の修正は、前 年に引き続き実施した。具体的には、前年度の「ビジネス実務ⅠA(1年前期、 45分×15回)」
と「ビジネス実務ⅠB(1年後期、90分×7.5回)」を新たに「ビジネス実務Ⅰ」とし、後期
90分の15回、2単位の授業とした。また「ビジネス実務Ⅰ」を共通科目のビジネススキル科
目群の科目として位置づけ、英語学科と生活科学科福祉こども専攻ライフデザインコース1
年生の必修科目とした。さらに、選択科目対象の学科に所属する学生に対しては、顧問など から積極的履修を呼びかけてもらい履修を促した。授業設計ならびに資料などは、前年度の 振り返りを実施し改善を行った。
2011年入学者に対するBCSA診断結果を表2並びに図5に示す。これらのデータは、「ビ ジネス実務Ⅰ」履修前後のデータと考えてよい。表2から、2011年入学の2年次における BCSA理解度は、平均値で80.38%となり、1年次(2011年8月データ、73.11%)に比べ約 7%上昇(p<0.05)し、中央値・最頻値ともに80%台となったことがわかる。また図5から、
BCSA理解度のヒストグラムも右側 にシフトしたことがわかる。なお、
2010年入学者の1年次および2年次 のデータと2011年入学者のデータに 若干の数値上昇があったため、有意 差の検定を行ったが、1年次および 2年次とも2010年度と2011年度との データについて有意差は認められな かった(p>0.05)。
この結果から、2011年入学者に対 しても「ビジネス実務Ⅰ」の授業効 果が認められたが、「ビジネス実務
ⅠA」と「ビジネス実務ⅠB」が分
年 度 平成23年度
学 年 1 年 2 年
実施時期 2011年8月 2012年4月
平均 73.11 80.38
標準誤差 0.752952541 0.67170386 中央値(メジアン) 74.07 81.48 最頻値(モード) 72.22 85.18 標準偏差 9.989044252 8.809313541 分散 99.78100506 77.60400506 尖度 0.250061128 0.758977176 歪度 ‑0.606317786 ‑0.772222125
範囲 53.7 48.15
最小 40.74 48.14
最大 94.44 96.29
合計 12867.63 13825.12
標本数 176 172
p <0.05 表2: 2011 年入学者の BCSA 理解度統計データ
0 10 20 30 40 50 60 70 80
30 40 50 60 70 80 90 100
理解度(%)
2011年度入学者の BCSA 理解度
p<0.05 2011年 8 月 2012年 4 月
頻度
図5:2011年入学者の BCSA 理解度
かれていた2010年度との有意差が認められなかったことから、「ビジネス実務ⅠA」と「ビ ジネス実務ⅠB」の融合効果は少なかったと判断した。
以上、2010年度と2011年度の結果から、ビジネス実務の授業は、1年後期の半年間で BCSAの理解度を6〜7%上げることができ、「ビジネス実務ⅠB」の授業再構築は、BCSA 理解度の平均値を4%から5%向上させたことがわかった。
( 2012 年入学者の BCSA 診断とビジネス実務科目)
2012年度は、キャリア教養学科の新設に伴い、ビジネス実務科目内容を大幅に変更した。
すなわち2012年入学者に対しては、従来の1年次後期と2年次前期の履修時期を、すべて1 年次で履修が完了できるよう変更した。これは就職活動解禁が12月1日となり就職活動が1 年次の冬から開始されるようになったこと、前述した結果を踏まえてビジネス実務の授業は、
できるだけ早い時期から行った方が良いと判断したことなどによる。
科目としては、「ビジネス実務Ⅰ(1年前期 90分×15回 2単位)」、「ビジネス実務Ⅱ
(1年後期 90分×15回 2単位)」とし、キャリア教養学科はともに必修科目、他学科はと もに選択科目とした。選択科目の学生に対しては、前年同様さまざまな機会を利用し履修 を促した。科目の内容は、前年度の結果を踏まえながら、企業が求める人材をさらに明確に 打ち出し、独自の演習と課題の作成、単元ごとのミニ演習などを組み込むなどを含め多く の修正を加えた。2012年入学者の1年次 BCSA 診断結果を表3に示す。表3から、2012年 入学者の BCSA 理解度の平均値は75.64%となり、
2010年入学者の値(73.42%)および2011年入学 者の値(73.11%)と比較し、著しく上昇したこ とがわかる。それぞれの値とt検定を行い、有意 差有も確認した。また2012年入学者の1年次デー タ(75.64%)は、2009年入学者の 2年次データ
(75.23%)と差異がないこともわかる。
この結果は、ビジネス実務科目の内容変更と、
その履修時期が大きく影響していると示唆でき る。また2012年度は、共通科目の「人間学」、「現 代社会論」、「基礎演習」、「キャリアデザイン」な
どを含めた他科目との横断的繋がりも深まり、さらにキャリア教養学科では「インターンシッ プⅠA」が必須科目となるなど、ビジネス実務科目以外の科目との相互作用の影響も推察さ れ、2013年度のBCSA診断が待たれる。
平均 75.64
標準誤差 0.713689
中央値(メジアン) 75.92 最頻値(モード) 74.07
標準偏差 8.564264
分散 73.34662
尖度 1.541209
歪度 ‑0.8185
範囲 48.15
最小 44.44
最大 92.59
合計 10891.87
標本数 144
表3: 2012 年入学者のBCSA理解度
( 2009 年入学者からの BCSA 診断とビジネス実務科目)
以上2009年入学者からのBCSA診断結果を理解度の平均値で整理し、図6に示す。同図に は代表的なt検定の結果も載せておく。図6から、2012年入学者の1年次の値が前年度に比 べて大きく上昇したこと、2012年度1年生の値は2009年度の2年生の値とほぼ同じ値である こと、2010年度および2011年度の1年生と2年生の結果から、BCSAの理解度は半年間で約 6%上昇することがわかった。
73.42 73.11
75.64 75.23
79.63 80.38
70 75 80 85
2009年 2010年 2011年 2012年
理解度平均値(%)
入学年度 BCSA 理解度平均値の推移
1 年
p>0.05 p>0.05 p<0.05
p<0.05
2 年