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『境界の日本史 :

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図書館員の文献紹介と

      資料の活

日本の歴史 22

日本の歴史 60

『境界の日本史 :

 地域性の違いはどう生まれたか』

森先一貴,近江俊秀著

(朝日新聞出版)

本書の請求記号 210.2‖Mor

稲垣宏行

 明治初期の廃藩置県によって、三百諸侯と言わ れた「藩」が現在の「四十七都道府県」に変わっ たことはよく知られています。しかし本書は、この 四十七都道府県に匹敵する「境界」の萌芽が後期 旧石器時代から既に生じていたとしています。

 文化庁文化財第二課文化財調査官の著者たち は本書を二部に分け、第一部では旧石器時代か ら縄文時代、第二部では弥生時代から古代を中 心に論じています。日本の歴史を、従来のような 日本一国からではなく、地域ごとの視点から描い ています。

 旧石器時代、世界は氷期という厳しい気候下 にありました。海面は現在より100m以上も低く、

北海道や瀬戸内海などは陸続きでした。人々は 生活の糧を得るべく日本各地を移動し続けていま したが、後期旧石器時代後半期、現在の鹿児島 湾北部に位置する姶

あい

火山噴火による環境変化 が、その暮らしを大きく変えることになりました。

 それ以前はナウマンゾウなど大型動物が主に 生息していましたが、彼らに代わって中小型動物 が中心となり、狩猟形態にも著しい変化が生じ ました。以前は大型動物を狩る石器を作るため、

良質な石材を求めて遠隔地まで移動することもあ りましたが、その必要性が失われ比較的簡素な 作りの物でも事足りるようになったことから、石 器の形態が多様化したのです。

 姶良火山噴火以前、日本は平原の多い地帯で したが、噴火の影響で針葉樹林が拡大するなど 森林化が進み見通しの悪い場所が増えた結果、

獲物に気取られる心配が少なくなり狩猟も容易に なりました。また、寒冷な氷期から温暖期に入り 気候が安定したことで、食料資源の摂取可能な 時期や場所、資源の量も予測しやすくなりました。

 これらの現象が、人々の定住化を後押しし、

居住域を溝で囲む環濠集落が次々に築かれまし た。暮らしやすくなった環境によって人口も増加 し、「境界」が日本各地に生じていく発端となっ

たのです。

 弥生時代後期には定住化に伴い西日本各地で 戦争が頻発しました。人口の増加によって食糧事 情の問題や文化の細分化が生じたことも、これに 拍車をかけました。こうして現れたのが、集団同 士を調停出来る統率力の持ち主「首長」です。そ の中でも大和と河内(現在の畿内)の首長たちが 突出した勢力を持っていましたが、彼らが周辺地 域を纏め倭王権、後の朝廷へと成長していきまし た。やがて中国から導入された律令制度によって

「国―郡―里」の三層の行政単位によって境界が 政治的に固定されました。ただ、それとは無関係 に出来上がったものもあります。前述の西日本と、

東日本です。

 発端は大海人皇子(後の天武天皇)が壬申の 乱の際に東国の兵の力を借りたものの、彼らの精 強さに危機感を抱き、交流を意図的に制限してし まったことにありますが、その萌芽は弥生時代か らあったと本書は指摘します。西日本に普及した 稲作技術が、東日本に広まるまで100年も要した ことから、その地の人々が西日本からの文化を拒 んだと見ているからです。そしてそれは、地形や 気候、資源などが異なる土地柄によって生まれた 地域文化によるものと考えられます。

 本書は従来の日本史と異なる視点から描かれ ており、特に旧石器時代から弥生時代にかけて は専門的な記述も少なくなく、難解に思うかもし れません。しかし突き詰めれば、これらは地域に 暮らす人々の知恵や必要性から生じたもので、我々 の常識のみでも理解は難しくないと見受けられま す。首長の登場や東日本との境界なども、元はそ うした形から生まれたものです。そしてそれは日 本史以外にも言えるのではないでしょうか。本書 を一読してそんなことも感じました。

いながき ひろゆき(司書・管理運営課)

参照

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