研究ノート
精神保健福祉士のスーパービジョンシステム構築について
−新潟県上越地域における多機関協働の取り組みから−
江間 由紀夫
要旨:精神保健福祉士に対するスーパービジョンは、スーパーバイザーの人材 不足や研修機会の少なさから、十分な広がりを持ちえていない状況にある。
本研究では、この問題に対処すべく、地方において所属機関や組織の壁を超 えた多機関協働によるスーパービジョン体制を構築した事例を検討した。その 活動は、「最低限の知識の共有」「ピア・コンサルテーションによるスーパービ ジョンの質の維持」「スーパービジョンを軸にしたネットワークの創出」によっ て支えられていた。また実践課題としては「業務としての位置付け」「スーパー バイザーのスキルアップ」が明らかとなった。
これらのことから、精神保健福祉士のスーパービジョン体制確立のために は、地域を基盤とした多機関協働のシステムに日本精神保健福祉士協会の認定 スーパーバイザー等による専門的コンサルテーションを組み合わせたシステム が有効であると考える。
キーワード:精神保健福祉士 ソーシャルワーク スーパービジョン
*1東北文化学園大学医療福祉学部
Ⅰ.緒言
日本のソーシャルワーカーにとってスー パービジョンは、かねてよりその必要性が 認識されていながら十分な実践が行われて こなかったもののひとつである。精神保健 福祉士にとっても、スーパービジョンの実 施は大きな問題となってきた。日本精神保 健福祉士協会(以下、日本協会)が行った調
査1)では、スーパービジョンが実施されな い理由として、「スーパービジョンを行え る人材の乏しさ」が指摘されており、スー パービジョンを実施する際の体制の問題と して「スーパービジョンの機会や情報が少 ない」、「スーパーバイザーが身近にいな い」、「費用がかかる」などの結果が見られ ている。
こうした状況を受けて、日本協会は2002 年度よりスーパーバイザーを養成するため の「認定スーパーバイザー養成研修」を開 始し、独自の認定制度を設けた。この研修 は、基礎編と応用編に別れており、スー パービジョンの基礎から演習、実践のフォ ローアップまでがプログラム化されている。
研修修了者を協会による認定スーパーバイ ザーとして位置付けており、今後リーダー シップをとって活躍する人材育成の場とし て期待されている。
しかしながらこの養成研修は、今年度を 含めて6年間の間に4回開催されたのみで あり、1回の定員が10~20名ほどでしかな い。開催地域も東京近辺に限られてきたこ とから、地方の精神保健福祉士にとって は、受講に必要な費用および時間の負担が 大きいという問題もある。したがってこの 養成研修のみでは、日本各地の精神保健福 祉士が抱える「スーパーバイザーが身近に いない」という問題を解決するにはかなり の年月がかかる事が予測される。
ここで視点を変えてスーパービジョンを
「高い質を持った一部のソーシャルワー カーが行う技術」ではなく「一定の現場経 験に達したソーシャルワーカーが、自らの 専門性の向上と後進の育成のために担うべ き役割」と捉えてみる事にしよう。すなわ ち、ある程度の現場経験を持ったソーシャ ルワーカー全てがスーパーバイザーとして の役割を担って行かなくてはならないとす る。無論、ただ経験を積み重ねただけでは 良いスーパーバイザーとなることは難しい。
この体制を実現するには、ソーシャルワー カーが主体的に学び、研鑽し合うシステム
を身近なレベルで達成していくことが不可 欠である。
今回報告する「上越地域スーパービジョ ン研修会」の活動は、大都市圏から離れた 地方の精神保健福祉士が任意で集まり、自 分たちの地域における新人の育成のために 組織や機関の枠を超えた独自のスーパービ ジョンシステムを構築した事例である。こ こでは、そのシステムの成立過程と実践を 通して見いだされた意義と課題を明らかに することで、日本における精神保健福祉士 のスーパービジョン体制のあり方について 検討したい。
Ⅱ.方法
新潟県上越地域で開始されたスーパービ ジョン実践活動について、その誕生から現 在に至るまでの活動を当時の記録および関 係者からの聞き取りを基にして整理し、活 動の特徴や意義を検討することで、地方に おける独自のスーパービジョン体制構築の 可能性とその課題の克服について考察する。
Ⅲ.結果
1.対象地域の背景
今回、事例として取り上げた上越地域 は、新潟県の南西部の上越市を中心とし、
妙高市、糸魚川市の3市が含まれる広範な 地域である。その面積は東京都よりやや狭 い程度で、3市を合わせた人口は約30万人 である。人口の中心は上越市であり、妙高 市、糸魚川市ともに山間の集落も多く、冬 期間には降雪量の多さから交通が困難とな る地域を含んでいる。
精神保健福祉関係の資源は、上越市に集
中しており、入院施設のある精神科の医療 機関があるのは上越市のみである。糸魚川 市には精神科の診療所が1カ所あるもの の、片道1時間以上かけて市外まで受診に 出かける人も多い。
またこの地域は、1970年代から精神障害 者の地域生活支援の活動に取り組んできた 歴史があり、精神障害者の社会復帰を支援 する施設(精神保健福祉法・障害者自立支 援法による施設および小規模作業所等の法 外施設を含む)が医療機関の数に対して比 較的多いことも特徴として挙げられる。
2.上越地域スーパービジョン研修会の結 成と活動経過
上越地域スーパービジョン研修会の結成 から活動休止までの経過を当時の記録を元
に整理し、その活動内容の特徴から5つの 時期に分類した(表1)。以下、各時期にお け る 活 動 内 容 を 概 観 す る。(以 下、ス ー パーバイザーをバイザー、スーパーバイ ジーをバイジーと略す)
1)準備期
上越地域では、以前から地域の精神保健 福祉士の勉強会が定期的に継続して行われ ており、組織や施設を超えた交流が維持さ れていた。2002年10月、こうした土台を背 景に上越市内の社会福祉法人が主催した スーパービジョン研修注1)に参加したベテラ ンの精神保健福祉士3名が中心となり、地 域の現場経験10年以上の精神保健福祉士に 呼びかけてスーパービジョン体制整備に向 けての集まりを立ちあげた。
この最初の呼びかけの際に用いられた文
表1.上越地域スーパービジョン研修会の活動経過
研修会の主な活動内容 年月
分類
上越市内のA社会福祉法人が主催したスーパービジョン研修に地域のPSW数名が参加。
研修に参加したPSWが地域の経験10年以上のPSWに「SVについての検討会」を開く 呼びかけ文を発送
2002年10月 準備
期
第1回会議。参加者それぞれのスーパービジョンに対する想いを話し合い、地域での SV実施に向けて継続した勉強会を開催する事を決定
2002年11月
基本文献の読み合わせ及びスーパービジョンに関する意見交換を重ねてSVに関する 基本的な理解の共有を行う
2002年12月
?2003年3月
A法人のSVを受けたバイジーを招き、SVの実際とバイジーの立場からの実際を聞く 2003年4月
SV実施に向けて体制面の整備。実施体制、留意すべき事、契約書内容の検討などを行う 2003年5月
バイザーとバイジーのカップリング、契約体制の決定 2003年6月
試 行 期
第1クールのスーパービジョン実施。(9ペア)毎月のバイザー委員会によって、実施 状況の報告とピアコンサルテーションを行う
2003年7月
?2004年1月
バ イジーグループの実施。SVを受けての感想を話し合ったものをまとめてバ イザー 委員会にフィード バック
2003年12月
1クールを終えての振り返り、バイジーアンケートの実施 2004年1月
?2004年2月
第2クールのカップリング決定(8ペア)
2004年3月 調
整期 SV経過の確認と今後の検討を行う。バイザーアンケート実施(11月)、バイザー・バ イジー合同会議実施(12月)
2004年9月
?2005年2月
第3クール決定。(9ペア)SV期間が組み合わせにより半年?1年となる。バイザー委 員会も数ヶ月おきの開催となる
2005年3月 安
定期 2006年6 バイザー・バイジー合同会議実施、第4クールのカップリング決定。(7ペア)
自立支援法対応等で活動困難となり一時休会となる 2007年4月?
休 止
期 2008年8月 活動再開に向けて研修会を開催
書の中には、自分たち自身のスーパービ ジョン体験の無さに不安を持ちながらも
「質の向上は(若手もベテランも)共通の課 題」であることや「スーパービジョンを行 う事で共に成長していく」こと、さらには スーパービジョンが「実習受け入れや新人 と一緒に仕事をする自分たちの世代の役割 ではないか」という言葉が記されている。
ここから、この研修会が結成段階からスー パービジョンに対して「ある程度の経験を 経たワーカーの役割」という意識と「共に 成長しながら実施していく」という意識を 持っていた事をうかがうことができる。
2002年11月7日に第1回の会合が開かれ、
参加者それぞれのスーパービジョンの体験 及びスーパービジョンに対する意識につい ての意見交換が行われた。このときに各参 加者からスーパービジョンに対する自分た ち自身の知識や技術面での不安が話されて いる。そこで、まず準備期間を設けてスー パービジョンに対しての理解を深める事と なり、先述のスーパービジョン研修で用い られたテキストを基本文献として全員で読 み合わせを行うことが決定した。
以後、毎月1回のペースで文献の読み合 わせとその内容に対する意見交換という形 で勉強会が続けられた。基本文献として用 いたテキスト注2)が北米で行われている スーパービジョンをモデルとしていたこと から、現在の上越地域で取り入れていくた めの対応も併せて検討されていった。ま た、他にもソーシャルワーカーのスーパー ビジョンについて書かれた文献の読み合わ せや、既に法人内でスーパービジョン体制 を取っていた高齢者福祉領域の施設からバ
イジーの経験を持つワーカーを招き、実際 のスーパービジョンの経験とバイジーの視 点から見た課題等について学ぶ機会も設け られた。
2)試行期
約半年の準備期間を終え、次の段階とし てバイジー対象者の確認とスーパービジョ ンの実施方法および契約についての検討が 行われた。この段階でのポイントは、スー パービジョンを特定の組織や法人で行うの ではなく、組織や機関の壁を越えて広く実 施しようとした事にある。これは、法人内 スーパービジョンが持つ管理的側面をでき るだけ小さくし、支持的側面および教育的 側面に重点を置く事を重視したことによる。
バイジー対象者は、主に経験5年未満の 精神保健福祉士に呼びかけて希望者を募っ ている。初回のスーパービジョンの組み合 わせは、バイザー委員会が担当し、法人内 スーパービジョンとの区別をつけるために もバイジーとバイザーが同じ法人や関係法 人の人間同士にならないように配慮して1 対1のペアが決定された。
スーパービジョン実施の頻度や方法に関 しては、各ペアが独自に決めて行うことと なった。ただしこの段階では、1クールを 月1回程度 6ヶ月として、実施の効果やそ の後の希望などについて検討していく事が 研修会全体のルールとして定められている。
その他の基本的な事項は、バイザー委員会 が作成した契約書に定めておき、各ペアで 確認して進めることとなった。
契約書注3)には、スーパービジョンの目的 として「精神保健医療福祉に従事している ソーシャルワーカーの専門知識と技術を向
上させ、専門職としてのアイデンティティ を確立し、クライエントのQOLを高める援 助や権利擁護のための実践に役立てるこ と」と記されている。また、スーパービ ジョンで取り扱う内容としては、「クライ エントの援助に関係することのみ」とし、
バイジーの個人的な問題や所属機関の問題 については取り扱わないこととした。
実際の活動では、 バイジーが用意した 実践事例に対して、バイザーとバイジーが 話し合う形で行われることが多く、ほとん どのバイザーが支持的機能に重点を置いて いた。
一方、バイザー側のスーパービジョンに 対する不安や課題への対応として、月1回 のバイザー委員会が継続された。バイザー 委員会では、スーパービジョンの進み具合 や実施方法に関する情報交換、不安や疑問 点などの確認が行われた。
3)調整期
第1クールが終了した後には、バイジー へのアンケートとバイジーのみのグループ を実施し、スーパービジョンを受けた感想 を話し合ってもらった(表2)。バイジーに とっては、他の機関の先輩精神保健福祉士 に実践を整理して話を聞いてもらうこと が、自分の実践を振り返ったり、認めても らう機会となっていた。一方で緊張した
り、所属が違う上でのやりにくさを感じた りするとの意見も見られている。ただし全 体としては好評であり、ほとんどのバイ ジーがスーパービジョンの継続を望んでい た。
ここで出された意見を集約し、バイザー グループにフィードバックさせて第2クー ル実施に向けての準備が行われた。またバ イザーへのアンケートも行われ、スーパー ビジョンを実施したことがバイザー自身の 気づきや振り返りの機会となったことや、
スーパービジョンの方法について迷いや悩 みを抱えていることが明らかとなった。バ イザー個人およびバイザー委員会の今後の 課題としては、「スーパービジョンの知識 を深めること」、「知識やスキル向上のため の学習会の実施」が挙げられていた。
第2クールでは、8ペアでのスーパービ ジョンが実施された。第2クール終了時に は、バイザーに対するアンケートやバイ ジーとバイザーの合同ミーティングを実施 し、スーパービジョン体制に対する意見を 共有していった。
4)安定期
第3クールからは、スーパービジョンの 実施期間を各ペアが必要に応じて半年から 1年の間で選択することとなった。バイ ザー委員会も毎月ではなく数ヶ月(3ヶ月
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~6ヶ月)おきの開催となった。この段階 になると、バイザー委員会の役割は、当初 のピア・コンサルテーション的なものから、
スーパービジョン体制のコーディネート部 分が中心となっていた。また、スーパービ ジョンを続けてきた上で個々のバイザーが 感じてきたスキルアップの必要性などにつ いて話し合われ、外部から講師を呼んで独 自の研修会を実施することが検討されてい た。
第3クール終了時にもバイザー・バイ ジー合同ミーティングが実施され、第4 クールのペアが決定された。
5)休止期~現在
4クールにわたるスーパービジョンの実 施で、バイジー対象となる精神保健福祉士 の多くがスーパービジョンを経験し、活動 自体は一通り安定期に入ったかと思われた。
しかしながら、2006年から2007年にかけて 障害者自立支援法施行への対応にバイザー の多くが時間を取られることとなり、個人 が時間外対応でまかなってきたスーパービ ジョン体制の維持が困難となった。また、
当初予定していた新人たちへのスーパービ ジョンが一通り行われたこともあり、2007 年度は一時活動休止することとなった。
2008年度に入り、各組織・機関に新人no 精神保健福祉士が入職してきたこともあ り、スーパービジョン体制の再開が検討さ れた。ただし、従来のシステムをそのまま 再開せず、もう一度活動を振り返ることが 検討され、8月に日本協会の認定スーパー バイザー養成制度の担当者でもある研究者 を招いてスーパービジョンに関する研修会 を独自に開催している。
このときには、バイザー委員会のメン バーから、自分たちの活動が正しかったか どうかの評価の必要性を感じていたこと や、スーパービジョン体制の継続の負担な どについての話題があげられていた。しか し研修会の場で自分たちの活動の意義を再 確認することとなり、次年度から新たに再 開する方向で検討が進められている。
3.上越地域スーパービジョン研修会の活 動の意義と課題
上越地域スーパービジョン研修会の活動 では、一時休会するまでの4年間に4クー ル、延べ33名に対するスーパービジョンが 行われている。アンケートやバイザー・バ イジーの合同ミーティングでの意見から は、スーパービジョンに対する一定の評価 も得られており、バイザー・バイジー両者 にとって契約に基づいて所属機関以外の精 神保健福祉士と実践に活かせるものとして のスーパービジョンを経験できたことは大 きな意義があったといえる。
一方これらの活動は、開始準備時点から 所属組織・機関の壁を超えた実践を意識し て計画された。これはスーパービジョンが 職務管理的になってしまうことを避け、バ イジーができるだけ安心して話せるように するためではあったが、同時に守秘義務の 問題やスーパービジョンによるサジェス チョンとバイジーの所属機関内の指導との 矛盾が生じる可能性の問題も抱えることと なった。
そのためバイザー委員会では、スーパー ビジョンの契約書を作成し、バイザー・バ イジーが共に守るべき問題を明確にしてい
る。守秘義務に関しては、スーパービジョ ンで用いる事例のプライバシー保護に十分 な配慮を行うことと、バイザーとバイジー が共に守秘義務を負うことを契約書に明記 して双方が常にこの問題を意識するように している。スーパービジョンと所属機関の 指導との矛盾の可能性に関しては、バイ ザーのピア・コンサルテーションの場であ るバイザー委員会がお互いのスーパービ ジョンの動向を共有することによって問題 の発生を極力防いでいた。こうした配慮に より、4年間の活動の中で問題となる出来 事が生じることは無かった。
またバイザー委員会では、個々のスー パービジョンの詳細な内容を明かすことは 無かったが、主要なテーマ、スーパービ ジョンの方法、バイザー自身の対応や悩み などについて話し合われていた。各バイ ザーがどのバイジーを担当しているか互い に認知していたが、委員会ではバイジー個 人の問題を扱わないこととしており、バイ ザー委員会で話し合われた内容がバイジー の所属組織における評価に影響しないよう に留意されていた。
バイザーの間で課題として最も話題に上 がったことは、自分たちのスーパービジョ ンが本当に適切であるかどうかの評価で あった。ピア・コンサルテーション的な活 動やバイジーからのフィードバックなどを 取り入れてはいたが、具体的な評価を得る 機会が少なく、個々のバイザーがスーパー ビジョンのスキルアップを希望していた。
外部から講師を呼んでの勉強会やコンサル テーションを受ける機会を設ける案も検討 されていたが、活動中にはそうした機会を
得ることができず、一時休会中の2008年8 月に研修会が実施されることとなった。
以上のようにスーパービジョンの実施中 に明らかとなった課題に対しては、それぞ れ対応が検討され、部分的ではあるが解決 策が取られている。しかしながら、解決さ れていない重要な問題としてスーパービ ジョンの公的な位置付けがあいまいな点が 残されている。スーパービジョンの内容に 関しては、契約書や委員会による合議を 持って問題が生じないように配慮されては いるが、あくまで任意の団体による活動で あることからバイザーもバイジーも自分の 時間を使ってスーパービジョンを受けるこ とになる。特にバイザーの負担が大きく、
安定した継続のためには勤務時間の一部に 含めるなど組織内での体制との調整の部分 が必要であるが、その点については未だ有 効な対策が得られていない。
Ⅳ.考察
上越地域スーパービジョン研修会の4年 に渡る活動経過からは、試行錯誤しながら 取り組んできた過程が明らかとなった。そ の過程は、日本協会が行う養成研修とは異 なりスーパーバイザーを養成することより もスーパービジョンの実践に重きを置いた ものであった。また仲間同士でスーパービ ジョンを行うピア・スーパービジョンや経 験豊かなスーパーバイザーを中心にしたグ ループスーパービジョンの実践も各地で聞 かれるようになってきたが、上越地域スー パービジョン研修会の活動とは、バイザー とバイジーの1対1の関係を重視している 点で違いが見られる(表3)。
上越地域スーパービジョン研修会の活動 の意義は、それまで「経験が無い」「人材が 無い」といったことを理由に取り組みが遅 れていたスーパービジョンを地方のソー シャルワーカーたちが互いの組織・機関の 壁を超えて自ら実践と学習を取り入れなが ら地域で共有できるシステムとして構築し たことにある。その活動は、既存のネット ワークを基盤として、まず新人育成を地域 の共通課題として取り組み、自分たち自身 も学びながら試行錯誤の実践を行っていく という形で始められた。スーパービジョン に対する知識や技術が不足しているという 実感は、逆にバイザー同士やバイザー・バ イジー間の話し合いを継続させることとな り、結果的にそれまで意識されていなかっ た新しいネットワークの形を生み出すこと にもつながっている。つまりスーパービ ジョンを軸としたネットワーク形成は、活 動の中から必然的に生じてきた過程であ り、上越地域スーパービジョン研修会の目 的はあくまでもスーパービジョンの実施に あったといえる。
この活動の重要な点は、スーパービジョ ンを個人の問題とせずに、地域の共通問題 として取り組んでいることにある。この姿 勢が多機関の協働によるスーパービジョン 体制を生み出すこととなり、結果的に新し いネットワーク形成にも繋がることとなっ た。
複数の施設・機関の精神保健福祉士によ る活動において、以上のような関係が年単 位で維持できた背景には、元々地域での勉 強会実施などの他機関との交流が存在して いたことがあるが、バイザー委員会の活動 自体が1つのネットワークの形成の場と なっていたことも大きい。スーパービジョ ンを軸にした組織・機関を超えた教育のシ ステムは、個々のバイザー・バイジーのペ アだけでなく、バイザー委員会、バイジー グループのグループ活動などをネットワー ク化していくことで、地域全体のソーシャ ルワークの質を上げる活動に繋がっていっ たと思われる。
福 山 ら2)は、日 本 に お け る ス ー パ ー ビ ジョンの現状に関して、所属機関内での行
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われるスーパービジョンと所属機関外で行 われるスーパービジョンの二層があり、か つスーパーバイザーが実践を行うソーシャ ルワーカーであるか否か(同質性・異質性)
の4軸構造の分類を行っている。その中で 同質性スーパービジョン体制の負の部分・
限界として、専門性を制限したり特定の方 法論に偏る可能性やスーパービジョンと職 場の方法論の違いによる葛藤の発生をあげ ている。福山らの分類にならえば、上越地 域スーパービジョン研修会の活動は、所属 機関外・同質性のスーパービジョンとなる が、バイザー・バイジー関係が閉じた関係 ではなく、地域で共有できるシステムとし て機能していることでこうした問題を小さ く留めることが可能であると思われる。
また、バイザー委員会に参加したバイ ザーのほとんどが「スーパービジョンの経 験が無い」という共通した不安を持ってい た。それゆえ、互いの活動を話し合う学習 と研鑽の場としてバイザー委員会が月1回 のペースで開催されてきたのだが、結果的 にこの場がピア・コンサルテーションの場 として機能することとなり、スーパービ ジョンを行う際の課題および対処法の共有 と互いのスーパービジョンの質を維持する 役割を担ってきた。このことは、スーパー ビジョンが実施されない理由として日本協 会の調査で明らかになった人材の不足とい う問題に対してひとつの解決法を示してく れるものと考える。
一方、スーパービジョンの実践を重ねて 行く中であらためてスキルアップの必要性 が課題として明らかとなった。しかし、こ のことは地域独自のスーパービジョンの意
義を否定するものではなく、日本協会が養 成する「認定スーパーバイザー」が各地の こうした活動のコンサルテーションを実施 できるような体制を組むことが可能となれ ば、地域における実践とスキルアップの両 面に貢献していけるのではないかと思う。
これらの活動をさらに広域でネットワーク 化していき、有効なスーパービジョンシス テムに関する情報交換ができれば、日本の 精神保健福祉士のスーパービジョンの実践 の場を大きく広げることが可能となるだろ う(図1)。
活動の中で解決しえなかった課題として は、通常業務の枠内に正式な位置づけを持 てなかったことが挙げられる。障害者自立 支援法施行の影響を受けて活動が休止状態 になるなど、業務量に左右されてしまうよ うな脆弱性を抱えたシステムのままでは、
スーパービジョンの本来の役割を見失う可 能性も危惧される。
以上のことから、スーパービジョンを必 ずしも質の高い研修を受けたものだけが担 う役割ではなく、地域のソーシャルワー カーが共に成長していくための基本的な協 働システムとして業務内に位置付けること と、外部からの研修やコンサルテーション も併用してスーパービジョンの質と量を確 保して行くことが今後のスーパービジョン 体制の充実に必要ではないかと考える。
謝辞:本研究に関して多大なご協力をいた だいた上越地域スーパービジョン研修会 の皆様に厚く御礼申上げます。
(注)
注1)社会福祉・医療事業団による「長寿・
子育て・障害者基金「特別分」助成事業」
として社会福祉法人上越老人福祉協会が 開催した「実践的スーパービジョン研修・
養成事業」。2000年から3年間の継続事 業として行われた。この研修では、コロ ンビア大学大学院の教員による講義と ワークショップが行われている。
注2)上記の研修会の2001年度報告書であ り、2002年度研修のテキストとしても用 いられた「平成13年度 実践的スーパー ビジョン研修・養成事業報告書」(社会福 祉法人上越老人福祉協会発行)を基本テ キストとして用いている。これは、実際 に研修で学んだ経験を共有することで スーパービジョンの基礎を理解しやすく
なると考えられたことによる。
注3)契約書に関しては、全文掲載に関し ての了承を得ていないため、内容の一部 紹介にとどめ、資料としての添付を見合 わした。
引用文献
1)柏木昭,松永宏子,荒田寛,他.精神 保健福祉士のスーパービジョンおよび研 修の体系化に関する研究.精神保健福 祉 2000;31(1):39-46.
2)萬歳芙美子.ソーシャルワーク・スー パービジョンが直面する課題.福山和女,
編著.ソーシャルワークのスーパービ ジョン−人の理解の探求.京都:ミネル ヴァ書房,2005;239-246.
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