卒業生の近況報告 財団法人 花園病院
著者 渡邊 真伊
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 11
ページ 77‑79
発行年 2011
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010066/
東京家政大学附属 臨床相談センター紀要 第11集
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卒業生の近況報告
財団法人 花園病院
渡邊 真伊
私は、平成 20 年 3 月に東京家政大学大学院を 卒業し、医療、教育、福祉という多領域の現場で 非常勤の心理士として 1 年間経験の場を持たせ ていただきました。その後、財団法人花園病院の 常勤として勤務しています。この度、卒業生の近 況報告という貴重な機会をいただきましたので、
当院での心理士の業務内容と、卒業してからの現 在までを振り返りながら臨床 3 年目の心理士と して考えていることを述べさせていただきたい と思います。
私の勤務している財団法人花園病院は、山梨県 甲府市にある単科の精神科病院であり、外来施設、
入院施設から構成されています。現在の許可病床 数は、 234 床(精神科療養病棟、精神科一般病棟、
特殊疾患療養病棟)であり、精神科大規模デイケ ア、グループホーム、福祉ホーム B 型も併設され ています。 「精神障害者とともに創造する医療共 同社会の構築」という開設当時の理念の下に「ど のような障害者も自由で、幸福な、活き活きとし た生活を送ることができる社会」をつくる基点と なる病院を目指しています。医療が病院という限 られた場所で行われるだけでなく、地域全体を治 療の場ととらえ、地域に密着した開かれた精神科 病院として発展していくため精神医療に努めて います。病院スタッフは、医師、看護師、作業療 法士、ソーシャルワーカー、薬剤師、心理士と多 種職で協同しています。治療を受けている入院患 者さんは、統合失調症が多くをしめますが、外来 患者は、気分障害、神経症、パーソナリティ障害、
発達障害と様々な疾患をもった患者さんが受診 されています。
また、当院には、常勤の心理士が 3 名所属して います。外来・病棟担当に 1 名、精神デイケア担 当に 2 名が配置されています。現在、私は外来・
病棟担当をさせていただいていますが、その主な 仕事内容は、心理査定と心理面接です。心理査定 は、医師の依頼を受け、知能検査(WAIS-Ⅲ、田 中ビネー知能検査) 、投影法検査(ロールシャッ ハテスト、絵画描画法テスト) 、各種質問紙(文 章完成法、東大式エゴグラム、ミネソタ多面人格 目録など)を目的に合わせたテストバッテリーを 組んで実施しています。目的は診断のための病態 水準の把握や鑑別診断、精神保健福祉手帳や自立 支援診断書作成のための心理的所見、今後の治療 方針や心理的要因についてアセスメントと様々 です。心理面接は外来・病棟の患者さんを対象に、
1 回 30~50 分の枠で実施しています。心理検査
と同様に、医師からの依頼が必要になりますが、
患者さんの病状や医師の治療方針により心理士 に求められることが異なります。例えば、受容的、
支持的な関わりを求められる場合もあれば、それ に加えて内省、洞察を促すことを求められる場合 もあります。他にも、対人関係を円滑にするため のソーシャルスキルの獲得や、病識が欠如してい る患者さんには疾病教育を行っています。
心理査定、心理面接が主の仕事であると述べま
したが、他にも医療観察法のスタッフとしての仕
事も兼務しています。当院は医療観察法の指定医
財団法人 花園病院
療機関(鑑定機関、通院医療機関)となっていま す。心神喪失の状態で重大な他害行為を行った対 象者への医療及び観察をするスタッフは、医師、
看護師、作業療法士、ケースワーカー、臨床心理 技術者から成り立っています。心理士の仕事は、
鑑定期間中、通院医療期間中の心理検査、通院期 間中の心理面接や訪問です。
以上が私の仕事内容になりますが、卒業してか ら現在までを振り返りながら日々感じているこ とを述べさせていただきたいと思います。当院の 心理士としての勤務は 2 年目になりますが、勤務 当初は心理士としてどのように動いたらよいか ということに困惑していました。医療の現場で心 理士は何ができるのか、何を必要をされているの かという問いかけから始まりました。今でもその 問いかけは常にあり続けるのですが、当初と現在 ではその意識が異なるように感じます。どのよう に変化したかというと、当初は患者さんに対して
「自分 1 人で患者さんをなんとかしなくてはい けない」という意識が強かったように思います。
心理士という専門性を過度に意識しすぎたこと や責任感を感じて、柔軟な考えや身動きが取れな かったと振り返ります。現在の心境の変化として は、多種職チームの中で 1 人の心理士として動け るようになってきたと思います。以前は、外来・
病棟担当は 1 人でこなさなくてはいけないとい う孤立感があったようにも思います。医師、看護 師、作業療法士、ケースワーカーという専門家の 各々の視点があり、心理士として見立てが違うこ とがあることは当然です。しかし勤務当初は、チ ームとして同じ視点でなければいけないと考え ていました。つまり、心理士としての見立てや専 門性を主張することができずにいました。現在で は、視点が違うことが多種職チームの醍醐味であ ると理解し、互いの視点の違いを生かしていくこ
とが大切であると理解するようになりました。多 種職へ理解や尊敬を持つことで信頼関係が築け ることを学びました。スタッフ間の関係性の変化 したことで、業務においても肩のちからが抜けて いきました。心境の変化の背景には、臨床 3 年目 の心理士として未熟な部分がよく分かるように なったことも挙げられます。自分自身を見つめる ことで、今できることを丁寧に真摯に行っていく ことが大切であると意識が変化していきました。
このように意識を変えることで、働き方も変化 していきました。院生時代から恩師である先生に、
心理士のコミュニケーション能力の重要性を教 えていただきましたが、身をもってその大切さを 体験しています。心理士として待つという姿勢も 大切ですが、受け身だけの心理士では医療現場の 業務は難しいと感じます。例えば、心理面接も心 理検査も当院では医師の依頼が必要であると述 べましたが、医師の依頼を待つばかりではなく、
心理士から医師へ働きかけを行い心理検査や心 理面接へ繋げていくことが大切であると感じて います。
外来、病棟の全患者さんを対象に心理士が 1 人 で配置されているため、心理的サポートが必要な 患者さんの全てを把握することが難しいという のが現状です。その際、多種職で協同することに より各専門家による多角的な視点や情報が得ら れると実感しています。看護師やソーシャルワー カーからの情報提供により心理的な関わりを求 められることもあります。これも、チーム間もよ る信頼関係から始まるように思います。
臨床 3 年目となり、今できることの全てで患者
さんに真摯に向き合いたいと思うように意識が
変化していきました。そのように視点を変えるこ
とで、過度の力が抜け、自由さと柔軟さで動ける
ようになりました。現場では、多くのケースを受
渡邊 真伊