• 検索結果がありません。

ヌクレオソームの構造とその情報

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ヌクレオソームの構造とその情報"

Copied!
36
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ヌクレオソームの構造とその情報

慶應義塾大学環境情報学部 斎藤輪太郎

(監修)・野崎慎 (著)

平成

23

2

7

(2)

Epigenetics

21

世紀の科学は生命科学がリードすることになるだろう.「20世紀の夜明けに,アルベルト・アイ ンシュタインとマックス・プランクが宇宙の基本公式を記述していた頃, 生物学者はイヌがどのよ うにヨダレをたらすかに関する研究でノーベル賞を受賞していた」

(Check Hayden, 2010)

という言 葉には,ワトソンとクリックが

DNA

の二重らせん構造を発見してから今日まで, どれほどすさま じいはやさで生命科学が進歩してきたかが如実に表れている.そして,2003年のヒトゲノム解読以 降,現代の生命科学はゲノムワイドな解析を取り扱うことが可能となり, さまざまな知見が蓄積さ れている. また, 生命科学の研究の進展とともに, シーケンスやアレイといった技術が急速的に 発展し, 巨大なデータが蓄積され続けている. これらの巨大なデータをどのように統合的に扱い,

新しい発見をするかという問題に対し, バイオインフォマティクスと呼ばれる情報解析の技術を用 いて生命を解明しようという学問に注目が集まっている.そして,最近の研究では

DNA

の一次配 列の変化を伴わずに後天的な修飾によって行われる「エピジェネティクス」と呼ばれる一群の制御 機構の存在が明らかとなった.この機構は真核生物における特徴的な制御方法であり,その代表格 として

DNA

のメチル化やヒストンの修飾が挙げられる. これらの修飾の多くは可逆的であり,非 常に柔軟な制御である. また組織の特異性も高く,多細胞生物の形成に大きく関わっていることが 示唆されている. ヒトゲノムの解読が終了した現在において, ゲノム配列だけからは知り得るこ との出来ないこれらのエピジェネティック制御の理解が生命科学研究の使命の一つに挙げられてい る. エピジェネティクスの研究はまだ歴史が浅く, 不明瞭な部分が大半を占めているが, ヒスト ンは

DNA

を梱包し,核内に折り畳むだけではなく,そのポジションや修飾によって様々な機能を 持つことが明らかにされている. 特にヒストンの修飾の組み合わせによって様々な特徴的な機能を 引き出すというヒストンコード仮説は

Strahl

Allis

によって

2000

年に提唱され, それを支持す るデータが蓄積されている.

本冊子では,現在知られているヒストンに関する情報を網羅的に収集し,その総説について記述 した.エピジェネティクス研究はすさまじい速度で進展しているため, 網羅的な総説が存在してい ないことが問題となっている. そこで, エピジェネティクスの初学者はこの冊子を読むことで,も しくは現在世界中で繰り広げられているエピジェネティクス研究を理解できるように構成している.

特に後半においては,これらからの

20

年間でエピジェネティクス研究の軸となる問題について記述 した.

ヒストンを取り巻くエピジェネティクス研究はすさまじい早さで進展しつつあり,これからの生 命科学への貢献が期待されるだろう.

2011

1

19

野崎慎

(3)

目 次

1

ヒストン

4

1.1

ヒストンの構造

. . . . 4

1.2

ヌクレオソームの構造

. . . . 5

1.3

ヒストンの進化

. . . . 6

2

ヒストンコード

7 2.1

ヒストン修飾とその機能

. . . . 7

2.1.1

ヒストンのメチル化

. . . . 9

2.1.2

ヒストンのアセチル化

. . . . 11

2.1.3

その他のヒストン修飾

. . . . 11

2.2

ヒストン修飾認識ドメイン

. . . . 12

2.3

ヒストンクロストーク

. . . . 13

3 DNA

メチル化とヒストン修飾

15

4 small RNA

とヒストン修飾

18

(4)

H2B

H4 H3

H2A

1:

ヒストンタンパク質の概略図

黄色い丸い樽状のタンパク質がヒストンタンパク質を表している. このように

4

つのコアプ ロテインが

2

コピーずつ集まりヒストンが形成される.

1

ヒストン

1.1

ヒストンの構造

真核生物のゲノムは核内に折り畳まれている.ヒトゲノムに関しては, 塩基対だけで

2 m

の長さ に達するとされている. このような巨大なゲノムを核内に折り畳むために, クロマチンという繰 り返し構造を形成することが必要となる.ヒストンタンパク質はそのようなクロマチン構造の形成 で,中心的な役割を果たしている.ヒストンは

H2A,H2B,H3,H4

という

4

つのヒストンコアタ ンパク質が

2

コピーずつ集合することでヒストン

8

量体として形成される

(図 1). そのヒストン 8

量体の周りを約

147 bp

DNA

が, 左巻きのスーパーヘリックスで巻き付くによって, クロマチ ンの構成単位であるヌクレオソームが形成される

(Luger et al., 1997; Kornberg and Lorch, 1999)

.そ れぞれのヒストンコアタンパク質は球状の

C

末端側とヒストンテールと呼ばれる鎖状の

N

末端側

2

つの特徴的な構造を持つ. それぞれ

4

つのヒストンコアは

histone fold domain (HFD)

を共通 の構造ドメインとして持つ. これらは

3

つのα-helices (α1,α2,α3)と, それを分断する

2

つの ループ構造

(L1,L2)

からなる. ヒストン同士は

H3

H4,H2A

H2B

という逆行性のペアが それぞれ組み合わさることで,複合体を形成する

(Arents and Moudrianakis, 1995; Luger et al., 1997;

Zlatanova et al., 2009)

ヒストンを構成するアミノ酸残基をみるとそれぞれヒトにおいて,H2A

130 AA,H2B

126

AA,H3

136 AA,H4

103 AA

からなっている.真核生物でのヒストンコアタンパク質の保

存性は高く, どの生物のヒストンもほぼ同じアミノ酸によって構成されており, 少しの変異でも致 死に至ることが示されている. それぞれのヒストンコアには,N末端側から

30

アミノ残基付近ま でに多くの翻訳後修飾可能な残基が存在している.ヒストンにおける翻訳後修飾は細胞内で重要な

(5)

2:

ヌクレオソームとリンカーの概略図

ヌクレオソームが周期的に形成され,それぞれのヌクレオソームはヒストンに巻き付かないリ ンカー領域によって分断されている.黄色い丸がヒストン,赤い線が

DNA

を表している.

役割を果たすことが知られており, 集中的に研究が行われている1. ヒストンにおける修飾可能な 残基を紹介していく.まず,ヒトにおける

H3

内で現在報告されている修飾可能な残基は

R2,K4,

K9, S10,K14,R17,K18,K23,R26,K27,S28,K36,P38,K79

である.左のアルファベッ トが残基の種類

(リジン: K, アルギニン: R

,トレオニン: T ,セリン: S, グルタミン酸: E,

プロリン: P),右の数字が開始メチオニンを除いた

N

末端側からのアミノ酸残基数を表している.

H4

内では

S1,R3,K5,K8,K12,K16,K20

が報告されている.そして

H2A

内では,S1,R3,

K5,T119

が,H2B内では

K5,K13,S15,T120

が報告されている

(Bairoch et al., 2005)

.ここに 列挙した多くのアミノ酸残基をみても, ヒストンは多くの翻訳後修飾可能な残基を持っていること が伺える. これらの修飾可能なアミノ酸残基が,真核生物の細胞内において様々な機能と関連して おり,ヒストンが単なる

DNA

を梱包するための部品ではなく, 多くの制御機構における要として 用いられている.

1.2

ヌクレオソームの構造

真核生物の染色体

DNA

は, ヌクレオソームとよばれるヒストンに

DNA

が巻き付いた領域と,

リンカーとよばれるヒストンに巻き付いていない

DNA

がむき出しの領域が繰り返すことでクロマ チン構造を形成している

(Kornberg, 1974; Olins and Olins, 1974; Oudet et al., 1975)

.ヌクレオソーム では,ヒストンに約

147 bp

DNA

1.67

周巻き付いて形成される

(Luger et al., 1997).また,

それらヌクレオソームの間に存在するリンカー領域は約

50 bp

DNA

からなっている

(図 2) (Van

Holde, 1989; Yao et al., 1990)

.さらに,大域で染色体の構造を観ていくとクロマチン構造もその凝集

度合いから, ユークロマチンとヘテロクロマチンと呼ばれる

2

つの構造タイプに分けることができ

1修飾による制御については後述する.

(6)

る. ヘテロクロマチンはクロマチン同士が密に凝集している状態を指し, ユークロマチンはクロ マチン同士が凝集していない状態のことを指す. このようなクロマチン構造の変化は転写制御と関 連していることが知られている.

ゲノム上において,約

200 bp

の周期で現れるヌクレオソーム領域であるが,これらのポジション がどのように決まっているかについては様々な議論が行われている. 現在考えられているヌクレオ ソームポジションを決定する因子として,DNA配列選択性,DNAメチル化,ヒストン修飾,ヒス トンコアタンパク質のホモログであるヒストンバリアント,そしてクロマチンの構造に関係するク ロマチンリモデラーなどが挙げられている

(Segal and Widom, 2009)

.この中でも

DNA

配列選択性 については,盛んに研究されており,DNAとヒストンの親和性に関する研究で,DNA配列の塩基 組成の違いで少なくとも

5000

倍の親和性の差があることが示されている.また,DNA配列はその 構造的な特徴から,塩基配列の組み合わせによって物理的に生じる曲がりやすさ

(bendability)

や,

DNA

のらせん構造の特徴性によって親和性が異なることも示唆されている

(Drew and Travers, 1985;

Widom, 1992; Lowary and Widom, 1998; Widom, 2001; Thastrom et al., 2004; Gencheva et al., 2006)

他にも

in vitro

の研究で

in vivo

におけるヌクレオソームポジションを再現することができたり, 染

色体

DNA

塩基配列だけから機械学習を用いた手法により

in vivo

におけるヌクレオソームをおおま かに予測できたりすることが可能となっている

(Ioshikhes et al., 2006; Segal et al., 2006; Peckham et al., 2007; Yuan and Liu, 2008; Ogawa et al., 2010)

.しかし,DNAのどのような配列特徴がヌクレオ ソームの形成に重要であるかは明らかとされておらず, 今もなお研究が続けられている.

1.3

ヒストンの進化

真核生物において, クロマチン構造を形成するヒストンは重要なタンパク質であるが, ヒストン タンパク質がどこから派生し, 真核生物に現れたかについては不明瞭なままである. ヒストンタン パク質の保存性解析では,バクテリアでは未だヒストン様タンパク質が発見されていないものの

(最

近,ヒストン様タンパク質

(HU)

が発見されたが詳細は不明である

(Balandina et al., 2002)),古細

菌においてはヒストンの

HFD

とホモログなドメインを持つタンパク質が発見されている

(Sandman and Reeve, 2006; Garrett and Klenk, 2007).さらに, これらは古細菌の主な 3

つの門

(ユリアー

キオータ門,クレンアーキオータ門,ナノアーキオータ門)で発見されており,真核生物と古細菌 の共通の祖先に存在していたという可能性が示唆されている

(Sandman and Reeve, 2006).ヒスト

ン様のタンパク質の保存性に関して, さらに古細菌の中で詳しく調べていくと,HFDを含むタン パク質はユリアーキアでは確認することができるが,クレンアーキアの中ではケナルカエウムを除 くほとんどにおいては確認出来ないことが報告されている.これらの結果から

HFD

を含むヒスト ンの祖先タンパク質は,

1.

クレンアーキア以降失われた

2.

ユリアーキアとクレンアーキアの分化後に生まれた

3.

真核生物とユリアーキアの間で水平伝播が起きて, 真核生物から持ち込まれた

3

つの仮説が考えられている. これらの検証がヒストン誕生に迫るためには必要であるが, 今 のところ古細菌において生じたタンパク質なのか, 真核生物において生じたタンパク質なのかはま

(7)

だ分かっていない

(Sandman and Reeve, 2006)

. 真核生物におけるヒストンとの比較を行うと,R10,

R19,K53

T54

DNA

への結合に重要であると予測されているが, その領域に関しては古細

菌において高い保存性が示されている

(Decanniere et al., 2000)

.しかし,古細菌におけるヒストン は構造レベルでは真核生物におけるヒストンとよく似通っているが,配列レベルではそうとはいえ ない.さらに, 古細菌におけるヒストンは真核生物におけるヒストンの

N

末端側鎖状ペプチドと ホモログな配列を持ち合わせていない.真核生物において, 鎖状の

N

末端テールはヒストン修飾 と関連し, 細胞内における様々なエピジェネティクスな制御に必要とされている部位である. そ のような部位を古細菌では持ち合わせていないということは, ヒストンはどの時点において

N

端テールを獲得したのかという問題を提起する. また, 古細菌の一部で真核生物においてヒスト ンの脱アセチル化を行う

histone deacetylace (HDAC)

のホモログ遺伝子が発見されており, 古細 菌においても真核生物と同様にヒストン修飾を行う機構があるのではないかということが示唆され

ている

(Sandman and Reeve, 2006)

.これらの問題は,古細菌のゲノム解読やタンパク質の同定とと

もに明らかにされ,さらにそれらの機能同定によって, ヒストンとその修飾による制御機構のルー ツを明らかにするだろう.

2

ヒストンコード

2.1

ヒストン修飾とその機能

真核生物においてヒストンは

DNA

を梱包するためのタンパク質としてだけではなく,ヒストン

N

末端テールにおけるリジン, アルギニンなどにおける修飾によって,様々な細胞内のプロセ スと関連することが知られている. ヒストンで起きた翻訳後修飾から, それと相互作用するタン パク質によって様々な機能が引き出されるという「ヒストンコード仮説」が

Strahl

Allis

によっ

2000

年に提唱された

(Strahl and Allis, 2000)

.ヒストンにおける翻訳後修飾の種類として, リン 酸化, メチル化,アセチル化, ユビキチン化,SUMO化,

ADP

リボース化,脱アミノ化, ビオ チン化,そしてプロリンの異性化など, 多く修飾が知られている.このように, ヒストン上には 多くの修飾可能なアミノ酸が存在している. 修飾の種類や, 修飾サイトの組み合わせによって現 れる機能はこれまでに数多く同定されており, ヒストンコード仮説を支持している

(図 3).

ヒストン修飾によって引き起こされる様々な制御はエピジェネティック制御の中核を担っている.

以前から転写開始点付近におけるヒストンのアセチレーションやメチレーションが転写制御に関わっ ていることは知られていたが, 詳しいことは不明瞭なままであった. しかし,近年におけるクロ マチン免疫沈降

(Chromatin immunoprecipitation: ChIP)

法, アレイ技術, シーケンシング技術 の発達に伴い, ゲノムワイドなヒストンの修飾状態の同定が可能となった. これにより, ヒスト ン修飾に関する様々な知見とデータが蓄えられてきている. ヒストンの修飾と関連する制御として は, 転写

(転写開始, 伸張, 終結, スプライシング),DNA

修復,DNA複製, クロマチンの凝 縮などが挙げられる.転写の活性化は主にプロモーターへの転写因子の誘導,もしくは阻害が修飾 されたヒストンを認識するタンパク質が仲介することによって行われる.DNA修復では,DNA 傷をうけた領域に特異な修飾を受けたヒストンを配置することで, それを認識するタンパク質を仲 介して行われる.

DNA

複製とヒストン修飾の関係性については示唆されているものの,まだあま り研究が進んでいない状態である. クロマチンの凝縮に関しても特異的な修飾を受けたヒストンを

(8)

A P

P

H3

H4

H2A

H2B

ARTKQTARKSTGGKAPRKQLATKAARKSAPATGGVKKPH

SGRGKGGKGLGKGGAKRHRKVLRDNIQGIT

SGRGKQGGKARAKAKSRSSRAGLQFPVGRVHRLLRKGNY

PEPAKSAPAPKKGSKKAVTKAQKKDGKKRK

M M M

M

M M M M MM

M M

M M

A A A A

A A

P P

P

A A A

A A A A

A A A

A

3:

修飾することができるヒストンテール上のアミノ酸と修飾の種類

それぞれのヒストンコアタンパク質において,修飾可能なヒストンテール残基とその修飾例 を示した.左側のアルファベットの並びは

N

末端アミン酸テールを示し,右側の大きな紺色の丸

C

末端アミノ酸球形ドメインを示している.青い丸の

A

はアセチル化,赤い丸の

M

はメチル 化, 紫の丸の

P

はリン酸化を表している.ここに示すように,それぞれ修飾の組み合わせは多 様である.

(9)

認識するタンパク質によって行われる.このように多くのヒストン修飾が存在するが,以下修飾と それによって引き出される機能を一つ一つ紹介する.

2.1.1

ヒストンのメチル化

ヒストンのメチル化はリジンとアルギニン上で起きる. 現在, ヒストンのメチル化は主に転写

DNA

修復,クロマチンの凝集に関与していることが報告されている.それぞれのアミノ酸上に おいて,リジンは修飾基が

1

つの場合のモノメチルリジン

(Kme1),2

つの場合のジメチルリジン

(Kme2),そして 3

つの場合のトリメチルリジン

(Kme3)

3

つのメチル化パターンが知られてい

る.またアルギニンも修飾基が

1

つの場合のモノメチルアルギニン

(Rme1),2

つのメチル基が非対 称な場合の非対称ジメチルアルギニン

(Rme2a), そして 2

つのメチル基が対称な場合の対称ジメチ ルアルギニン

(Rme2s)

3

つのメチル化パターンが知られている

(図 4). メチル化されるサイト

がヒストン上であっても,メチル基のつき方の違いで引き出される機能が異なる場合がある.リジ ンとアルギニンにおけるメチル化はプロモーターに転写因子を誘導することで転写の活性化に関与 し, またヘテロクロマチン化に関連するタンパク質を誘導することでヘテロクロマチン化を促し,

転写の不活性化に関与する.

H3K4me

は転写開始との関係性についてもっとも研究が進められているヒストン修飾の

1

つで

あり,主に転写開始点

(transcriptional start site: TSS)

付近において見られる.H3K4me3はその 中でも特に

TSS

直近

(-200 -50 bp)

に位置するヒストンにおいてよく観られ, ヌクレオソームの 除去と転写活性化に関与している.H3K4me1

2

3

と同様に転写開始の活性に関連しているが,

H3K4me3

TSS

直近に頻度のピークを持つのに比べ,TSS から少し離れたところに頻度のピー

クを持つ.何故

TSS

周辺において,修飾数によってポジションが異なるかについてはまだ明らかに なっていない.

H3K27

のメチル化も主に

TSS

付近に位置するヒストンに観られる.H3K27me3は転写抑制に関

わっていることが示唆されており,

Hox

遺伝子の発現のサイレンシングに関わっていることが知ら れている. 一方, モノメチル化されている

H3K27me1

は抑制遺伝子よりも活性遺伝子付近に位置 していることが知られており,H3K27me3と違って転写活性との関係が示唆されている.このよう

H3K27me1

3

のようにヒストン上のポジションは同じであっても修飾するメチル基の個数が

異なることでその関係する機能も異なっている例が示されており, これは, ヒストン修飾による 制御の複雑さを表しているといえる.

H3K9

のメチル化はヘテロクロマチンの形成と遺伝子の抑制に関与していることが知られている.

H3K9me2

me3

は抑制遺伝子付近

(± 10 kb)

に主に位置する.H3K9me3

Heterochromatin

protein 1 (HP1)

をプロモーター周辺に誘導し,ヘテロクロマチンを形成する.しかし,一方

H3K9me1

は活性遺伝子周辺に位置することが確認されている. これは

H3K27

におけるメチル化と同様, ヒ ストンポジション上での修飾基数による制御の変化を表しているのかもしれない.

H3K36me3

は活性遺伝子の

TSS

下流の遺伝子内領域に位置することが知られており, 転写伸張

に関係していることが示唆されている.そして活性遺伝子の

3’

末端でも見つかっていることから,

リン酸化されたセリン残基

(S2ph)

を持つ

RNA

ポリメラーゼ

II (RNA polymerase II: Pol II)

との 関係性が示唆されている.また

EAF3

タンパク質と

Rpd35

ジアセチラーゼ複合体を誘導し, 周囲

(10)

4:

ヒストンにおけるリジンとアルギニンの修飾

ヒストンのリジンとアルギニンにおける修飾について示した.上図はリジンのメチル化

(mono-

di-

tri-methyl)

とアセチル化

(ac)

について,下図はアルギニンのメチル化

(mono-

2a-

2s-

methyl)

について表している.

(11)

のヒストンにおける脱アセチル化を行うことで, コード領域内部における不必要な転写開始を抑制 する働きがある

(Carrozza et al. 2005

Cuthbert et al. 2004; Joshi and Struhl, 2005; Keogh et al., 2005)

H3K79me3

は抑制プロモーターよりも活性プロモーター付近に位置することが示されている.H3R2

のメチル化は核内受容体を仲介した転写を共活性化する

coactivator-associated arginine methyltrans-

ferase 1 (CARM1)

によって行われる. これにより,H3R2のメチル化が転写活性と関連すること

が示唆されているが,H3R2me1

me2

共に活性遺伝子との関係性は見つかっていない. 以前の研

究では

H4K20

のメチル化は抑制クロマチンの形成と関連していることが示唆されていた. しかし,

最近の研究では

H4K20me1

me3

はゲノム上での分布が異なり,H4K20me3がヘテロクロマチン に関連している一方で,

me1

は活性遺伝子のプロモーターやコーディング領域に位置していること が多いことが報告されている. また

DNA

修復にも関連していることが知られており,

H4K20me

細胞周期チェックポイントタンパク質である

Crb2

が共役して

DNA

修復が引き起こされる

(Sanders et al., 2004)

. 共役するタンパク質である

Crb2

は,double tudor domainを通して

H4K20me

を認 識して

DNA

修復部位に誘導される

(Botuyan et al., 2006)

. また

Crb2

DNA

修復部位周辺にお いて, リン酸化が誘導されたヒストンバリアントである

H2A.Xph

に対して

BCRT

ドメインを通 して認識し,H4K20me

H2A.Xph

2

つに結合することでその部位に安定的に留まる.ヒトに

おいては

p53BP

1によって行われる.

2.1.2

ヒストンのアセチル化

ヒストンのアセチル化は転写,DNA修復,DNA複製といった様々な機能と関連している. メチ ル化と違い, アミノ酸に対して

1

つの修飾基を付けることしか出来ず, リジンのアセチル化

(Kac)

しか存在しない. ヒストンのアセチル基はアセチル化を触媒するヒストンアセチルトランスフェラー

(histone acetyltransferase: HAT)

と脱アセチル化を触媒するヒストンジアセチラーゼ

(histone

deacetylase: HDAC)

といった

2

つのタンパク質によって可逆的に行われている. 転写制御におい

てはメチル化による制御と違い, 今のところ転写抑制に関係する制御はなく,転写活性に関係する 修飾しか見つかっていない.H3K9ac,H4K12ac,

H2BK5ac,H4K16ac,H3K14ac

は転写活性と 関係することが知られている.ヒストンのアセチル化は

DNA

修復との関係性についても研究が進 められている.G2 期において,DNA損傷がない場合は

H3K56ac

が観られないが,DNA損傷が ある場合は

H3,H4

のジアセチラーゼが抑制され,H3K56ac が多量存在することが報告されてい

(Celic et al., 2006;Maas et al., 2006)

2.1.3

その他のヒストン修飾

ヒストン修飾の種類として, メチル化とアセチル化の他にもリン酸化, ユビキチン化,

SUMO

化,ADPリボース化, 脱アミノ化,そしてプロリンの異性化が挙げられる. リン酸化はヒストン 中のセリンとトレオニンに起きる.H3S10におけるリン酸化は

H3S10ph

を認識する他のヒストン 修飾タンパク質の足場となり, 転写,DNA修復, クロマチンの構造に影響を与える.哺乳類にお けるヒストンバリアントである

H2A.X

はダメージを受けた

DNA

周辺

(数千 kb)

に広く配置される ことで

ATP

依存性リモデリング活性を持つ

INO80

複合体を誘導し,DNA修復を行うことができ る. また

H2AS129ph

H4S1ph

はそれぞれ

Mec1, Casein kinase II

というタンパク質を仲介し,

(12)

非相同末端再結合を通して,二本鎖切断修復によって

DNA

修復を行う. ユビキチン化は

H2A

H2B

中のリジンに起こる大きな修飾である. リン酸化同様に他の修飾の足場になることが知られ ており, 転写,DNA修復に関与することが知られている.uH2AK119 (H2AK119がユビキチン化 を受けている状態を指す)は, ポリコーム群タンパク質

(Polycomb group protein: PcG)

内に見つ かっている

Bmi/Ring1A

タンパク質を仲介して転写抑制に関与している

(Wang et al.,2006). 逆に uH2BK120

はヒトにおいては

RNF20/RNF40

UbcH6

を仲介し,出芽酵母では

Rad6/Bre1

を仲 介して転写の活性化に関与している(Zhu et al.,2005).しかし,多くのメカニズムや機能性は不明 であり, クロマチンに追加因子を誘導することで, もしくはその大きさから物理的にクロマチン をオープンにしておくことによって制御と関係していると考えられている.他の

2

つの修飾につい てはあまり研究が進んでいないが,SUMO化はヒストン中のリジンに付加可能であり,H4,H2A,

H2B

において修飾を受ける残基が見つかっている.ユビキチン化と同様, 大きな修飾である. ア セチル化とユビキチン化と競合し, その結果転写抑制に関連しているとされている

(Nathan et al.,

2006).ADP

リボース化はグルタミン酸に付加可能である. 今のところ,H2BE2ar1においてのみ

見つかっている.

ADP

リボース化は

mono-か poly-で負荷することが可能であり, それぞれ MARTs (MonoADP-ribosyltransferase)

PARPs (Poly-ADP-ribosepolymerase)

という酵素によって行わ れている.転写制御と関係しているとされているが,そのメカニズムや詳しい機能性は分かってい ない(Hassa et al. 2006).脱アミノ化は

Peptidyl arginine deiminase type IV (PADI4)

酵素によっ

H3

H4

におけるアルギニンがシトルリン

(Cit)

へと変化する修飾である.メチル化可能なアル ギニンをシトルリンに変化させることによってメチル基の付加を阻害することができ, アルギニン のメチル化による転写制御に影響を与えると考えられている. また

in vitro

における

PADI

4 酵 素の研究により,Rme

Cit

は可逆的であることが示唆されている

(Hidaka et al., 2005). プロリ

ンは

cis

型と

trans

型の

2

つの構造異性体を持ち, プロリンの異性化は

P-cis

から

P-trans

へと異 性化する修飾である. 構造が変化することでポリペプチドの構造が変化し, 他の部位への修飾を 阻害する.現在

H3P38

におけるプロリンの異性化が見つかっており,これは

H3K36

への

Set2

よるメチル化を阻害し,転写制御に関係する

(Chen et al. 2006).しかし,他の修飾同様, その詳

しいメカニズムや他の機能性については知られていない.これからの研究で, ここに列挙した以外 のヒストン修飾, もしくは列挙したけれども未だ知られていないヒストンの機能が明らかとなって いくだろう.

2.2

ヒストン修飾認識ドメイン

ヒストン修飾はそれだけでは機能を持たず, 修飾部位を認識して結合するドメインを持ち, 機能 を仲介するタンパク質が重要となる. 既に多くのドメインが発見されており, それらは真核生物で は普遍的に存在していることが知られている. これからドメインの種類と認識するヒストン修飾部 位について紹介していく.

bromodomain

は約

110

アミノ酸残基からなるドメインである.多くの クロマチン関連タンパク質で発見されており, リン酸化されたリジンと相互作用することが知られ ている. クロマチンのリモデリングや転写の活性化に関連するヒストンのアセチル化を担う

HAT

と共役する

co-activator

のほぼ全て

(例: p300

CBP-associated factor)

において

bromodomain

が見つかっている.chromo (CHRomatin Organization Modifier) domainはハエで見つかった約

60

(13)

アミノ酸残基からなるドメインである. このドメインを持つタンパク質の多くはクロマチンの構造 を凝集させることでヘテロクロマチン化に関連している

(Zeng and Zhou, 2002). chromodomain

を持つタンパク質は

3

つのグループに分けることができる.1つ目は

N

末端に

chromodomain

を持 ち,さらに

chromoshadow domain

と呼ばれる領域を持つタンパク質である. 例としてショウジョウ バエにおける

Su(var)205,HP1

などが挙げられる.2つ目は

1

つの

chromodomain

を持つもので例 として

Drosophila protein Polycomb (Pc)

が挙げられる.3つ目はタンデムな

chromodomain

を持 つもので, 例として哺乳類における

Chromodomain-helicase-DNA-binding protein1-4 (CHD1-4)

が挙げられる.chromodomainを含むタンパク質はメチル化されたヒストン

(H3K9me)

に結合する ことができる

(Kornberg and Lorch, 1999; Wyrick et al., 1999; Bannister et al., 2001; Jacobs and Khorasanizadeh, 2002; Min et al., 2003; Tajul-Arifin et al., 2003; Joshi and Struhl, 2005).PHD (Plant Homeo Domain) finger

はシロイヌナズナのホメオドメインタンパク質である

HAT3

におい て発見された

Cys4-His-Cys3

モチーフ配列からなるドメインである.PHD fingerは約

50 ?80

アミ ノ酸残基からなり,ヒトにおいては

100

以上のプロテインがこのドメインを持つことが分かってい

(例: p300,CBP,Polycomb-like protein).bromodomain

chromodomain

などの他のドメイ ンと共役して働くことが多い.ING2,YNG1

NUR

などのいくつかのタンパク質における

PHD finger

H3K4me3

に結合することが報告されている

(Pascual et al., 2000; Bienz, 2006; Shi et al., 2006; Taverna et al., 2006).また SMCX

という

PHD finger

を持つタンパク質が

H3K9me3

に結合 することが報告されていることから,PHD fingerはメチル化されたリジンに結合できるのではない かということが示唆されている.Tudor domainはメチル化されているヒストンに結合する

(Huang et al., 2006). ヒストンジメチラーゼを含む JMJD2A

Tudor domain

H3K4me

H4K20me

に結合することが報告されている.Malignant brain tumor (MBT) repeats

H3

H4

における メチル化したリジンに結合するモジュールである.MBT repeatsは約

100

アミノ酸残基からなり,

MBT

を持つ

CGI-72

H3K4me1

H4K20me1

に結合することが報告されている

(Eryilmaz et

al., 2009).Trithorax (TRX)

ヒストンメチルトランスフェラーゼ複合体のサブユニットで保存され

ている

WDR5

が持つ

WD-40 repeat

H3K4me0-3

に結合することが知られている

(Couture et

al., 2006).14-3-3

タンパク質は

H3S10ph

に結合することが示されており, リン酸化トレオニンと

リン酸化セリンに結合することが可能であることが示唆されている

(Macdonald et al., 2005; Winter et al., 2008; Karam et al., 2010). このように多くのヒストン認識結合ドメインとその結合サイト

が知られており, これらのドメインとヒストン修飾が相互作用することで初めてヒストンコードが 可読なものとなる. まだ知られていないヒストン認識結合ドメインの解明や, 現在知られていて もまだわかっていない修飾部位への結合の研究がヒストンコード仮説解明のためには重要である.

2.3

ヒストンクロストーク

ヒストンの修飾間での修飾クロストークは様々なヒストンコードを構成すると考えられている.

ここで述べるクロストークは, ヒストン上における修飾がヒストン上の他の部位の修飾に影響を与 える場合を指す. いくつかの場合で,ある

1

つの残基における修飾が他の残基に対する修飾能力を 変えることが知られている

(Lee and Zhang, 2008; Lee et al., 2010). よく知られている例を見てい

くと,H3S10phがヒストンアセチルトランスフェラーゼである

Gcn5

を促し,H3K14のアセチル化

(14)

(H3K14ac)

が行われるというヒストンクロストークを挙げることができる

(Cheung et al., 2000; Lo et al., 2000).Gcn5

にはヒストン修飾認識ドメインである

bromodomain

が存在しているので,こ れを仲介して

H3S10ph

に結合し,

H3K14

をアセチル化するものと考えられる.また

H3K14

の修飾 状態を除去して, 周囲の修飾状態を調査する研究により,H3K14における修飾の除去は

H3K4me3

が特異的に失われるも,

H3K4me1

2

は失われないことが示された

(Nakanishi et al., 2008).こ

れらの結果より,H3K4のメチル化はその修飾数によって異なる経路を持っているということが示 唆されている. このように,付加するメチル基数によって経路が異なっているということは大変興 味深く,ヒストンコードをより一層複雑なものとしている. ヒストン修飾酵素はよくマルチサブユ ニット複合体で発見され, それらのサブユニットはヒストンを修飾する部位とヒストン修飾を認識 して結合する部位に分けられることが多い.NuAヒストンアセチル化酵素複合体のサブユニットの

Yng1

における

PHD finger

は,メチル化された

H3K4

を認識して

H3K14

のアセチル化のために

アセチル化酵素を誘導する

(Martin et al., 2006; Taverna et al., 2006). また,Yng1

と関連してい

ING2

もメチル化されている

H3K4

に結合することができる.

ING2

はヒストン脱アセチル化酵 素内に存在することが知られており, メチル化された

H3K4

は様々な修飾, もしくは脱修飾のた めの足場になっていることが分かる

(Shi et al., 2006). クロストークは修飾, もしくは脱修飾を

誘導するだけではなく, あるアミノ酸残基における修飾がその周辺のアミノ酸残基への酵素による 認識を阻害する例も知られている. 例えば

H3R2

にメチル化が起こると酵母では

Set1/COMPASS

に,哺乳類では

COMPASS-like

複合体によって行われる

H3K4

のメチル化を阻害することが報告 されている

(Guccione et al., 2007; Kirmizis et al., 2007). このように様々な方法によってヒスト

ン上における修飾同士が相互作用する. また, ヒストン修飾は酵素以外の因子の誘導も阻害する ことが知られている. 例えば

HP1

はヘテロクロマチンに関連するタンパク質であり,メチル化さ れている

H3K9

に結合することができるが,付近の

H3S10

がリン酸化されていると結合できない ことが示されている

(Fischle et al., 2005; Mateescu et al., 2008). そして, 同一なヒストンコア

タンパク質におけるアミノ酸残基の修飾間クロストークだけではなく, 別のヒストンコアタンパク 質上における修飾とクロストークを行う

trans-histone

クロストークが存在する例が示されている.

FOSL1

の転写調節において

H3

のリン酸化が

RNA Pol II positive transcription elongation factor

(P-TEFb)

に必要な

H4

のアセチル化を誘導することが示されている

(Zippo 2009).この制御に関

するキナーゼ活性を持つ

PIM1

H3S10

をリン酸化することが知られているが,H3S10に関わる キナーゼとして他にも

MSK1

MKS2

が知られている.最近の研究で,PIM1によるリン酸化と

MSK1/2

によるリン酸化では, タイミングとその領域が異なることが示されている.MSK1/2

FOSL1

のプロモーター付近において,H3S10のリン酸化を仲介するが,PIM1

H3S10

のエンハ

ンサー付近において,MSK1/2によるプロモーター付近の

H3S10

のリン酸化後に行われることが 示された. また

FOS1

のエンハンサーにおける

H4K16ac

H3S10ph

を受けるヒストンと一致し ており,RNA interference (RNAi) によって

PIM1

をノックダウンすることで,H4K16 のアセチ ル化も失われることから,H3S10

H4K16

trans-histone

クロストークを行っていることが示唆 されている.14-3-3 (γ,ε,ζ)タンパク質は上記したが

H3S10ph

を認識して結合し,H4K16のア セチルトランスフェラーゼである

MOF

を誘導することが知られている.

14-3-3

ε,ζ は,FOSL1 のエンハンサーとプロモーター両方において確認できる

(Karam et al., 2010). しかし,14-3-3

γ だけは, エンハンサーにおいてのみ

MOF

を誘導し,プロモーターには誘導しないことが報告され

(15)

ている.MOFを誘導することによって起こる

H4K16ac

を持つヒストンは, リン酸化されたリジ ンに結合することのできる

bromodomain

を持つ

bromodomain-containing protein 4 (Brd4)

によっ て結合することが可能となる.それに続き,Brd4と関連して

P-TEFb

が誘導され,Pol IIを転写 伸張促進のために

Pol II

のリン酸化を行う.これら一連の結果より,Zippoらは

trans-histone

クロ ストークが転写制御に関与していることを明らかにした

(Zippo et al., 2009). 他にも,H3K4me,

H3K79me

H2B

ユビキチン化の関係を挙げることができる.最近では

uH2B

が直接

H3K79me

に関与していることが示されており

(McGinty et al., 2008),uH2B

H3K4

メチル化複合体である

COMPASS

を誘導し,H3K4のメチル化を起こすというクロストークも知られている

(Shilatifard,

2006).これは酵母で見つかった現象であるが,最近の研究では哺乳類で広く使われているクロス

トークであることが示唆されている

(Kim et al., 2009). またこれらの H3K4me,H3K79me

,そ して

uH2B

は活性化されている遺伝子付近に集中していることも示されている

(Martin and Zhang, 2005; Minsky et al., 2008). そして, 同ヒストンにおけるテール間の修飾のクロストークだけでは

なく, 周辺のヒストンとのクロストークも興味深い.uH2Bが周辺の別ヒストンの修飾に影響を与 えるかという実験では,

uH2B

を持つヒストンでしか

H3K79me

は確認されず,別ヒストンへの修 飾影響はないことが示唆された.このことから

uH2B

に結合するタンパク質はそのヒストンにおい てのみ

H3K79

をメチル化することができると考えられる

(van Leeuwen et al., 2002; Henry et al., 2003; Klose and Zhang, 2007). ヒストンクロストークの解析は複雑なヒストン修飾ネットワーク

を解き明かすために必要であり, ここで記述したように様々なヒストン修飾間でのクロストークが 既に示されている. しかしこれらは知られている修飾の一部の関係性でしかない.1つ目の問題と して, ヒストンは

4

つのコアタンパク質が

2

コピーずつ集合することで形成されているが,それぞ れ同一ヒストン内に存在する

2

つの

H3

H4

における修飾がどのように相互作用するかというこ とはまだ示されていない.2つ目の問題として

uH2B

の研究で少し行われたが, 隣り合うヒストン 同士でどのようなクロストークを行うかということも示されていない.3つ目の問題として, まだ 時系列データが蓄積されておらず実際のインタラクションの同定が難しいことが挙げられる.これ らの

1

1

つの解析が複雑なヒストン修飾ネットワークを解き明かす鍵となるであろう.

3 DNA

メチル化とヒストン修飾

DNA

メチル化とヒストン修飾は真核生物においてエピジェネティック制御を担う

2

つの核であ る.DNAメチル化は原核生物, 真核生物を問わず見られる現象であり,進化的にも古くから存在 することが知られている.DNAメチル化は原核生物において制限酵素による切断から守るための 自己と非自己の認識に使われており, 転写制御との関係性は知られていない. 一方真核生物におい ては, ヘテロクロマチン化などに関連し, 転写やトランスポゾンの抑制などに関与していること が知られており, ヒストン修飾と同様に組織特異的なパターンを示し,分化や組織特的な制御に重 要であることが知られている. これら原核生物が持つ

DNA

メチル化酵素と真核生物が持つ

DNA

メチル化酵素はホモログであることが知られている. また, 真核生物では全ての種において

DNA

メチル化酵素が保存されている訳ではない. 酵母や線虫などのモデル生物はこれらのメチル化およ びメチル化酵素を持ち合わせていないことが知られており,進化の上で欠失したと考えられている.

DNA

メチル化酵素が認識し, メチル化される

DNA

配列は様々であるが,動物では一般的に

CpG

(16)

という

di-nucleotide

におけるシトシンが修飾されることが知られている.シトシンはメチル化さ

れて

5-メチルシトシンになった後に脱アミノ化されるとチミンになってしまうため,DNA

の修復

が困難になる.そのため

CpG

di-nucleotide

は真核生物における進化の上で減少していることが 知られており,CpGが多量存在する領域は

CpG island

と呼ばれている.CpG island はプロモー ターの上流などに見られることが知られている. 最近では

CpG

のみならず

CHG

CHH

のシト シンがメチル化されていることが明らかとなった. また植物ではシトシン以外にアデニンのメチル 化が知られている. 一方ヒストンは上記したように, バクテリアには存在せず, 古細菌もしくは 真核生物以降で獲得されたと考えられている. このことからも古くから存在する

DNA

メチル化と ヒストン修飾は違う経路を辿って進化してきたことが伺える. しかし,最近となってこの

2

つの エピジェネティクスな修飾が高等生物においては,お互い影響を及ぼし合っている例が報告されて いる

(Cedar and Bergman, 2009). ヒストン周辺の DNA

メチル化を誘導することが知られている 修飾として

H3K9me

H3K27me

が挙げられる. また, 逆に

DNA

メチル化を阻害することが知 られている修飾として

H3K4me

やアセチル化されたヒストン全般が挙げられる. 最近の研究では

DNA

メチル化のプロファイルがヒストン修飾を仲介して決められているというモデルが強く支持さ れている

(Cedar and Bergman, 2009).このモデルでは,DNA

メチル化のパターンは

de novo

DNA

メチル化が起こる前にヒストン修飾によって決定されていることを示唆している

(Ooi et al., 2007)

de novo

DNA

メチル化は

DNA methyltranseferase (DNMT) 3A

DNMT3B

の複合 体と

DNMT3L

によって行われることが知られている

(Ooi et al., 2007).DNMT3L

はメチル基付 加の活性を失っているが,ヒストン

H3K4

に結合して,DNAメチルトランスフェラーゼを

DNA

誘導し,DNAメチル化の起点になることが知られている.しかし,H3K4にメチル化を受けたヒ ストンは

DNMT3L

H3

への結合を阻害することができる

(Ooi et al., 2007). この DNMT3L

結合を阻害する

H3K4

のメチルトランスフェラーゼは,DNAに直接結合した

Pol II

に誘導される

(Ooi et al., 2007). これらより転写が活性化している状態では, プロモーター周辺において DNA

のメチル化を行うことができないことが示唆されている

(図 5). 他にもヒストン H3K9

のメチルト ランスフェラーゼである

G9a

とヒストン脱アセチル化活性を持つ酵素の複合体による

de novo

DNA

メチル化の誘導が知られている.この複合体は局所的なヒストンの脱アセチル化を行い, 転 写を抑制することが知られている. 同じ残基上において, メチル化とアセチル化を同時に行うこと はできないが, ヒストンの脱アセチル化によりヒストン上の修飾をリセットすることで,

G9a

によ

H3K9

のメチル化を可能にする.H3K9meを持つヒストンは

chromodomain

によって結合する ことが可能であり, そのドメインを持ちヘテロクロマチン化形成を促進させることが知られている

HP1

のヒストンへの結合が可能となる.最終的に

G9a

を含んだ複合体が

DNMT3A

DNMT3B

を誘導し,de novo

DNA

メチル化を行う

(Feldman et al., 2006; Epsztejn-Litman et al., 2008).

さらに,動原体周囲のサテライトリピートにおけるヘテロクロマチン化においても, このような ヒストン修飾と

DNA

メチル化の関係性が知られている.これらのサテライト配列では

SET domain

を含むヒストンメチルトランスフェラーゼである

SUV39H1

SUV39H2

H3K9

のトリメチル化 を行い,ヘテロクロマチン化に関与する.SET domainとは高等生物において保存されているおよ

150

アミノ酸残基からなるモチーフ配列であり, クロマチン構造の調節に関係し, それを通し て転写の活性化, もしくは抑制化に関与することが示唆されている

(Dillon et al., 2005).これら

のタンパク質はサテライト配列内の

CpG

をメチル化するために

DNMT3A

DNMT3B

を誘導す

(17)

5: DNA

メチル化とヒストン修飾の関係性

DNA

メチル化とヒストン修飾の関係性の例を示した.赤の線は染色体

DNA

を表し,その上の小 さな丸はそれぞれ,修飾可能な塩基を表している.上図では,

DNMT3L

がヒストンに結合し,

DNMT3

を誘導して

DNA

のメチル化を行っている.下図ではヒストンにメチル化が起きており,

DNMT3L

が結合できず,

DNA

のメチル化が阻害されていることを表している.

(18)

(Fuks et al., 2003; Lehnertz et al., 2003).このヘテロクロマチン化のプロセスは RNA

の二本 鎖構造を認識する

Dicer

を仲介して開始されている.RNA-induced silencing complex (RISC)

SUV39H1

SUV39H2

を誘導すると思われる動原体周辺の領域を標的にしていることが報告され

ている

(Fukagawa et al., 2004; Kanellopoulou et al., 2005; Sugiyama et al., 2005). ヒストン修飾

がどのように

DNA

メチル化に影響を及ぼすかということを見てきたが,これから

DNA

メチル化 がヒストン修飾パターンの維持にどのような働きをしているかということについて見ていく.DNA 複製の際, メチル化されていた

CpG

は複製後, 娘鎖がメチル化されていない状態になる. これ をヘミメチル化状態という. これは複製複合タンパク質と関連して働く

DNMT1

によって娘鎖も メチル化されることで,両鎖がメチル化されている状態が維持される

(Leonhardt et al., 1992). 最

近の研究で,DNMT1

SRA domain

というヘミメチル化状態の

CpG

に結合するドメインを持つ

UHRF1

とともに複製時にヘミメチル化

DNA

となっている

CpG

を探し,メチル化状態を維持す

ることが示されている

(Bostick et al., 2007; Sharif et al., 2007; Achour et al., 2008).一方,ヒス

トンは

DNA

複製の際,複製フォークによってクロマチン構造が崩されるため,そのあとでもう一 度再構築する必要がある. このとき

DNA

メチル化による目印がその再構成の際に役立つことが知 られている.DNA メチル化とヒストン修飾の関係は

MECP2

MBD2

といったメチルシトシン 結合タンパク質によってまず認識され,これらは

DNA

メチル化領域にヒストンアセチルトランス フェラーゼを誘導する

(Jones et al., 1998; Nan et al., 1998). また DNA

メチル化は直接

H3K9

ジメチル化と関係していることが報告されており,G9aと複製複合体に付随している

DNMT1

が相 互作用することにより,DNAメチル化が起きている領域で同時に

H3K9

のジメチル化を起こすこ とができることが報告されている

(Esteve et al., 2006).他にも DNA

メチル化が

H3K4

のメチル 化を阻害することが示されており

(Lande-Diner et al., 2007), 植物の DNA

メチル化が起きている 領域では,H2A.Z がヌクレオソームから除去されることが示されている

(Zilberman et al., 2008).

H3K4me

H2A.Z

も転写活性に関係する事が知られており, これらからも

DNA

メチル化が転写

抑制に関係することが示唆されている.

DNA

メチル化とヒストン修飾の関係性については高等生 物における複雑なエピジェネティクスな制御を明らかにするためにも, 今後ますます力が入れられ る研究だろう. 現在は修飾の開始における関係性に過ぎないが, このような組み合わせを複雑な ヒストン修飾のネットワークに組み込んだときにどうなるかということは非常に興味深い. また,

原核生物から存在する

DNA

メチル化と真核生物において獲得されたヒストン修飾がどのように邂 逅し, お互い相互作用するようになったのか,またそれによってどのような制御が可能になったの かということも興味深い問題である.

4 small RNA

とヒストン修飾

真核生物では多様な

non-codig RNA

の発見が続いているが,その代表例として

RNAi

に関連す

short interfering RNAs (siRNAs)

microRNAs (miRNAs)

などの

small RNA

が挙げられる.

これらの

small RNA

RISC

RNA-induced transcriptional silencing complex (RITS)

などに 取り込まれることで機能する.RISC

RITS

は取り込んだ

small RNA

と相補的な塩基を持つ配 列を標的にし,エフェクター複合体として働く

(Hamilton and Baulcombe, 1999; Hammond et al.,

2000; Zamore et al., 2000; Bernstein et al., 2001; Elbashir et al., 2001; Verdel et al., 2004). これ

図 2: ヌクレオソームとリンカーの概略図 ヌクレオソームが周期的に形成され,それぞれのヌクレオソームはヒストンに巻き付かないリ ンカー領域によって分断されている.黄色い丸がヒストン,赤い線が DNA を表している. 役割を果たすことが知られており, 集中的に研究が行われている 1 . ヒストンにおける修飾可能な 残基を紹介していく.まず,ヒトにおける H3 内で現在報告されている修飾可能な残基は R2,K4, K9, S10,K14,R17,K18,K23,R26,K27,S28,K36,P38,K79
図 4: ヒストンにおけるリジンとアルギニンの修飾
図 5: DNA メチル化とヒストン修飾の関係性 DNA
図 6: nascent transcript model の概略図

参照

関連したドキュメント

テキストマイニング は,大量の構 造化されていないテキスト情報を様々な観点から

The mGoI framework provides token machine semantics of effectful computations, namely computations with algebraic effects, in which effectful λ-terms are translated to transducers..

An example of a database state in the lextensive category of finite sets, for the EA sketch of our school data specification is provided by any database which models the

A NOTE ON SUMS OF POWERS WHICH HAVE A FIXED NUMBER OF PRIME FACTORS.. RAFAEL JAKIMCZUK D EPARTMENT OF

Then, an algorithm is established as the way of transformation of so called associated matrices, formed as a result of local inspection of patterns, into invariant ones which

A lemma of considerable generality is proved from which one can obtain inequali- ties of Popoviciu’s type involving norms in a Banach space and Gram determinants.. Key words

Let Si be the 2 -category in the sense of [11, XII.3] whose objects are admissible sites C (Denition 3.6), whose 1 -morphisms are continuous functors C → D preserving nite limits

de la CAL, Using stochastic processes for studying Bernstein-type operators, Proceedings of the Second International Conference in Functional Analysis and Approximation The-