• 検索結果がありません。

の抗菌作用と作用機構の解析

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "の抗菌作用と作用機構の解析 "

Copied!
110
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

博士論文

コウホネ由来化合物

6, 6’-dihydroxythiobinupharidine(DTBN)

の抗菌作用と作用機構の解析

平成 29 年 3 月 岡村真弥

岡山大学大学院

医歯薬学総合研究科

博士後期課程薬科学専攻

(2)
(3)

目次

要約 ··· 1

略語 ··· 3

第一章 序論 ··· 6

第一節 はじめに ··· 6

第二節 MRSA, VRE ··· 7

第一項 MRSA ··· 7

第二項 MRSA感染症の治療 ··· 8

第三項 VRE ··· 9

第四項 VREにおけるvancomycin耐性機構 ··· 10

第五項 VRE感染症の治療 ··· 13

第三節 薬剤耐性菌感染症に対する新規抗菌薬の候補化合物··· 14

第一項 新規標的を有する化合物 ··· 14

第二項 既存抗菌薬と併用効果を有する化合物 ··· 14

第四節 Topoisomerase··· 16

第一項 I型Topoisomerase, II型Topoisomerase ··· 16

第二項 II型Topoisomerase阻害剤 ··· 17

1) Quinolone系抗菌薬 ··· 17

2) Novobiocin ··· 19

第五節 本研究の目的 ··· 20

(4)

第二章 6, 6’-dihydroxythiobinupharidine(DTBN)の単離 ··· 21

第一節 要約 ··· 21

第二節 緒言 ··· 22

第三節 材料と方法 ··· 23

第四節 結果と考察 ··· 27

第一項 分画操作の改良 ··· 27

第二項 NMR ··· 30

第三項 旋光度測定 ··· 35

第四項 質量分析 ··· 35

第五項 小活 ··· 36

第六項 DTBNの抽出 ··· 36

第三章 DTBNの抗菌活性およびその作用機構の解析 ··· 38

第一節 要約 ··· 38

第二節 緒言 ··· 39

第三節 材料と方法 ··· 40

第四節 結果と考察 ··· 49

第一項 DTBNのS. aureusに対する抗菌活性 ··· 49

第二項 DTBNのE. faeciumおよびE. faecalisに対する抗菌活性 ··· 51

第三項 DTBNのグラム陰性菌に対する抗菌活性 ··· 53

第四項 DTBNの生菌数に与える影響 ··· 54

第五項 DTBNのタンパク質合成に対する影響 ··· 57

第六項 Ethidium流入に与えるDTBNの影響 ··· 59

第七項 走査型電子顕微鏡による形態観察 ··· 60

第八項 DNA gyrase supercoiling assay ··· 61

第九項 Topoisomerase IV decatenation assay ··· 62

第十項 耐性変異株の分離 ··· 63

第十一項 Topoisomerase IV cleavage assay ··· 67

第十二項 Topoisomerase IV ATPase assay ··· 68

第十三項 Topoisomerase IV作用機序考察 ··· 69

(5)

第四章 DTBNと既存抗菌薬の併用効果およびその作用機構の解析 ··· 71

第一節 要約 ··· 71

第二節 緒言 ··· 72

第三節 材料と方法 ··· 73

第四節 結果と考察 ··· 75

第一項 S. aureusに対するDTBNと細胞壁合成阻害薬の併用効果 ··· 75

第二項 S. aureusに対するDTBNとタンパク質合成阻害薬の併用効果 ··· 76

第三項 S. aureusに対するDTBNと核酸合成阻害薬の併用効果 ··· 78

第四項 腸球菌に対するDTBNと既存抗菌薬の併用効果 ··· 79

第五項 VREに対するvancomycinとquinolone系抗菌薬, DTBNの併用効果 ··· 81

第六項 DTBNのvancomycin耐性遺伝子の発現に与える影響 ··· 82

第七項 DTBNのVREに対するvancomycin結合量に与える影響 ··· 84

第八項 併用効果の作用機構考察 ··· 86

総括と展望 ··· 88

謝辞 ··· 93

Reference ··· 94

(6)

1 要約

近年, 臨床現場において薬剤耐性菌による感染症が重大な問題となっている。代表的な薬 剤耐性菌として methicillin resistant Staphylococcus aureus(MRSA)や vancomycin resistant enterococcus(VRE)が知られている。これらの菌による感染症は治療に有効な 抗菌薬が限定されるため, 治療が困難となり患者が死に至る場合もある。こういった薬剤耐 性菌による感染症に対抗するため, 新規抗菌薬の開発は急務であるといえる。著者たちの研 究室にて, 前任者らによる研究の結果, MRSAやVREに対して強い抗菌活性を有する化合 物として6, 6’-dihydroxythiobinupharidine(DTBN)が見出された。しかし, DTBNの抗 菌活性の評価に用いられたMRSA, VREは2株ずつのみであり, 抗菌活性の評価対象が不 足していると考えられた。また, DTBN のグラム陰性菌に対する抗菌活性や抗菌作用機構, 既存抗菌薬との併用効果についても未解析であった。著者はDTBNのこれらの作用やその 作用機構の解析を目指して本研究に取り組んだ。

前任者によるDTBNの単離操作は再現性や一度に得られる化合物の量の面で問題があっ た。そこで, 著者は DTBN を大量に得るための分画操作の確立に取り組んだ。前任者の分 画操作のうち, 再現性に問題のあったゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる分画操作 を除き, 一度に得られるDTBNの量が少ないTLC分取をシリカゲルオープンカラムクロマ トグラフィーによる分画操作に変さらした。分画操作により得られた画分について, 抗菌活 性の評価やTLC分析, NMR分析, 質量分析, 旋光度分析を行うことでDTBNであることを 確認した。その結果, 前任者と比較して約2倍程度の収率で一度に数百mgのDTBNを得 る分画操作の確立に成功した。そして, 解析に必要な充分量であると考えられる550 mg程 度のDTBNを得ることに成功した。

DTBN の各種細菌, 菌株に対する抗菌活性を既存抗菌薬と比較した。臨床分離株を含む 様々なMRSAやVREに対するDTBNの最小生育阻止濃度(MIC)は1~4 g/mLであっ た。MRSAやVRE感染症に対して用いられるvancomycinやarbekacin, linezolidのMIC は0.5~2 g/mLであった。このことから, DTBNは実際に臨床分離されるMRSAやVRE に対して既存抗菌薬と同程度の強い抗菌活性を有することが明らかとなった。しかし, DTBNはグラム陰性菌に対して抗菌活性を示さなかった。

DTBN の既存抗菌作用機構について解析した結果, DTBN は顕著なタンパク質合成阻害 活性や膜傷害活性, 細胞壁合成阻害活性を示さなかった。一方で, DTBNはquinolone系抗 菌薬の標的であり, DNA複製に関与するtopoisomerase IVに対して既存抗菌薬と同程度の 阻害活性を示した。しかし, DTBNはtopoisomerase IVに対してquinolone系抗菌薬とは

(7)

2

異なり, cleaved complexを形成せず, novobiocinとも異なりATPase活性も阻害しなかった。

このことから, DTBN の topoisomerase IV に対する作用機序は quinolone 系抗菌薬や novobiocinなどの既存のtopoisomerase IV阻害薬と異なることが示唆された。耐性変異株 の分離を試みた結果, DTBNを4×MICの濃度で含む寒天培地上に1010 程度のCFUを塗 布 し て も 耐 性 変 異 株 は 得 ら れ な か っ た 。 同 様 の 方 法 で quinolone 系 抗 菌 薬 で あ る norfloxacinの耐性変異株を分離した際の分離頻度は10-7であったことから, DTBNの耐性 変異株の分離頻度は顕著に低いことが明らかとなった。液体培地を用いて低濃度から順に 高濃度へと DTBN を曝露することにより, topoisomerase IV の quinolone 耐性決定領域

(QRDR)に変異が生じた株が得られた。これらの結果から, DTBNはtopoisomerase IV を阻害することにより抗菌活性を示していることが示唆された。

DTBNと既存抗菌薬の併用効果について評価した結果, DTBNはMRSAの一部の株に対 するoxacillinのMICを顕著に低下させた。さらに, VREに対するvancomycinのMICを 顕著に低下させた。また, S. aureusや腸球菌に対するaminoglycoside系抗菌薬のMICを 顕著に低下させた。中でも, DTBNとvancomycinの併用効果はこれまでに報告がないほど 強いものであった。そこで, DTBNとvancomycinの併用効果の作用機構に着目して解析を 行った。この併用効果はVREにおいて観察される一方で, VSEでは観察されなかった。し かし, DTBNとvancomycinを併用曝露した際にvancomycin耐性遺伝子の発現は抑制され なかった。蛍光標識された vancomycin を用いて vancomycin の結合量を評価した結果, DTBNとvancomycinを併用曝露することによってVREに対するvancomycinの結合量が 回復することが明らかとなった。このことから, DTBNはvancomycin耐性遺伝子の発現を 抑制せず, van gene cluster に含まれる VanH, VanA, VanX の活性を阻害することで, vancomycin結合部位であるD-alanyl-D-alanine (D-Ala-D-Ala)の量を回復し, vancomycin の抗菌活性を復活させている可能性が示唆された。

DTBNは臨床分離される様々なMRSAやVREに対して単独で強い抗菌活性を示す事に 加えて, 耐性変異株の分離頻度が顕著に低く, また既存抗菌薬の効果を大幅に増強させる 作用を有することが明らかとなった。このことから, DTBNは新規抗菌薬の候補化合物とし て有用であると考えられる。また, DTBNとvancomycinの併用効果はこれまでに報告がな いほど顕著に強いものであった。DTBN とvancomycinの併用効果の作用機構を明らかに することで, VREに対する新規抗菌薬の標的を見出すことができると考えている。

(8)

3 略語

AcOEt ··· acetic ether AcOH ··· acetic acid

ATP ··· adenosine triphosphate BHI broth ··· brain heart infusion broth BSA ··· bovine serum albumin

CDC ··· Centers for Disease Control and Prevention CFP ··· cyan fluorescent protein

CFU ··· colony forming unit CH2Cl2 ··· dichloromethane CHCl3 ··· chloroform

CLSI ··· Clinical and Laboratory Standards Institute CTAB ··· hexadecyl trimethyl ammonium bromide

D-Ala-D-Ala ··· D-alanyl-D-alanine

D-Ala-D-Lac ··· D-alanyl-D-lactate

D-Ala-D-Ser ··· D-alanyl-D-serine DNA ··· deoxyribonucleic acid

DTBN ··· 6, 6’-dihydroxythiobinupharidine DTT ··· dithiothreitol

EDTA··· 2, 2', 2'', 2'''-(ethane-1, 2-diyldinitrilo) tetra acetic acid EtBr ··· ethidium bromide

Et2NH ··· diethyl amine EtOH ··· ethanol

FDA··· U.S. Food and Drug Administration

HEPES ··· 2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid IC50 ··· half maximal inhibitory concentration

IDWR ··· Infectious Disease Weekly Report

JANIS ··· Japan Nosocomial Infections Surveillance L broth ··· Luria broth

MDRP ··· multidrug resistant Pseudomonas aeruginosa MeOH ··· methanol

(9)

4 MH broth ··· Müeller Hinton broth

MIC ··· minimum inhibitory concentration

MRSA ··· methicillin resistant Staphylococcus aureus MSSA ··· methicillin susceptible Staphylococcus aureus N broth ··· nutrient broth

NH4OH ··· ammonium hydroxide NMR ··· nuclear magnetic resonance O.D. ··· optical density

PBP2a··· penicillin binding protein 2a PCR ··· polymerase chain reaction PEG··· polyethylene glycol

QRDR ··· quinolone resistance determining region RNA ··· ribonucleic acid

rRNA ··· ribosomal RNA

RT-PCR ··· reverse transcription polymerase chain reaction SCC mec ··· Staphylococcal cassette chromosome

SDS ··· sodium dodecyl sulfate TLC ··· thin layer chromatography TMS ··· tetramethylsilane

Tris ··· 2-amino-2-hydroxymethyl-propane-1, 3-diol UV ··· ultraviolet

VISA ··· vancomycin intermediate resistant Staphylococcus aureus VRE··· vancomycin resistant enterococci

VRSA ··· vancomycin resistant Staphylococcus aureus

(10)

5 antimicrobial agents

ABK ··· arbekacin AMK ··· amikacin AMP ··· ampicillin BCT ··· bacitracin CCS ··· cycloserine CFLX ··· ciprofloxacin CM ··· chloramphenicol EM ··· erythromycin FFM ··· fosfomycin GM ··· gentamicin KM ··· kanamycin LZD ··· linezolid NFLX ··· norfloxacin OXA ··· oxacillin RFP ··· rifampicin TC ··· tetracycline TEIC ··· teicoplanin VCM ··· vancomycin

(11)

6 第一章 序論

第一節 はじめに

微生物感染症は人類にとって重大な問題の 1 つである。感染症に対する画期的な治療法

としてPaul Ehrlichにより化学療法が提唱された。彼は梅毒治療の特効薬として世界初の

合成抗菌薬salvarsanを開発し, 数多くの梅毒患者の治療に成功した。その後, 新たな抗菌 物質として1929年にAlexander FlemingによりPenicillium chrysogenumから世界で初 めて抗生物質penicillin が発見された(39)。これを皮切りに 1943 年には Alberts Schatz, Selman WaksmanによってStreptomyces griseusから抗生物質streptomycinが発見され,

tetracycline系抗生物質やmacrolide系抗生物質などの新たな抗生物質が発見されていった。

また, 1935年にはGerhardt Domagkによってprontsil, 1999年にはquinoloneなどの合成 抗菌薬が開発された。このように, 人類は細菌感染症に対して有効な治療薬として数多くの 抗生物質や合成抗菌薬を多数獲得することができた。

一方で, こういった抗菌薬の開発と臨床応用に伴い, 細菌の中には抗菌薬に耐性を獲得 し た 薬 剤 耐 性 菌 が 出 現 し た 。Penicillin の 発 見 の 数 年 後 に は penicillin を 分 解 す る penicillinase 産 生 菌 が 報 告 さ れ た 。Streptomycin の 臨 床 応 用 後, 数 年 の 後 に

aminoglycoside 修飾酵素を発現することによる耐性菌が報告された。人類はこういった薬

剤耐性菌に対し, 抗菌薬の改良や新規抗菌薬の開発などの対策をとってきた。Penicillinase 産生菌に対抗するため, penicillinaseに安定な抗菌薬であるmethicillinが開発された。ま た, streptomycinを改良し, 修飾酵素に対して安定なamikacinが開発された。しかし, 1961 年にはmethicillinに耐性を示すmethicillin resistant Staphylococcus aureus(MRSA)が 報告され, amikacinにも耐性を示す緑膿菌なども出現した(14, 37)。このように, 新規抗菌 薬の開発と薬剤耐性菌の出現は切っても切れない関係となっている。さらに, 近年では耐性 の積み重ねにより, 複数の抗菌薬に対して耐性を獲得した多剤耐性菌が出現し, 深刻な問 題となっている。現在, 臨床現場で分離される代表的な多剤耐性菌としては MRSA, multidrug resistant Pseudomonas aeruginosa(MDRP)などが挙げられる。こうした多 剤耐性菌による感染症は治療に有効な抗菌薬が限定されるため, 治療が難しく患者が死に 至る場合もある。

こういった多剤耐性菌に対抗するため, 我々の研究室では生薬やハーブなどの植物から, 多剤耐性菌による感染症に対する新規抗菌薬の候補化合物を探索している。著者は植物か ら化合物を抽出・単離し, その薬剤耐性菌に対する抗菌作用や既存抗菌薬との併用効果, お よびその作用機構の解析に取り組んだ。

(12)

7 第二節 MRSA, VRE

感染症に対する有効な治療薬として抗菌薬を手に入れた人類であったが, 同時に薬剤耐 性菌という新たな問題に直面することになった。本節では薬剤耐性菌の中でも重要な菌種

であるMRSAとvancomycin耐性腸球菌(VRE)について述べる。

第一項 MRSA

Penicillinase産生によるpenicillin耐性菌に対抗するため, penicillinaseに安定な半合成 penicillinとしてmethicillinが開発された。しかし, 1961年イギリスにおいてmethicillin に対しても耐性を獲得したS. aureusが初めて報告された(14)。その後MRSAは世界中に 伝播し, 現在では多くの国々で分離されている。米国疾病予防管理センター(CDC)の報 告によるとアメリカでは年間約8万人がMRSAによる重症感染症を発症し, 約1万人が死 亡している(21)。また, 我が国においても, 感染症発生動向調査週報(IDWR)や厚生労働 省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の報告によると 2014 年には 1 年間で約 1 万6000人~1万8000人がMRSAによる感染症を発症しており, 病院において分離される S. aureusの約8割がMRSAであったと報告されている(53, 56)。

米国臨床検査標準協会(CLSI)はpenicillin系抗生物質の1つであるoxacillinの最小生 育阻止濃度(MIC)が4 g/mL以上, もしくはmecA遺伝子を有するS. aureusをMRSA と定義している(25)。-lactam系抗菌薬は細胞壁合成に必須の酵素であるpenicillin結合タ ンパク質(PBP)を阻害することで抗菌活性を示す。mecA 遺伝子は-lactam 系抗菌薬に 対して低親和性のpenicillin結合タンパク質(PBP2a)をコードしている(46, 111)。これに より, -lactam系抗菌薬存在下でも細胞壁の合成が行えるため, MRSAは-lactam系抗菌 薬に耐性を示す。mecA遺伝子はStaphylococcal cassette chromosome mec(SCC mec) と呼ばれる大きなフラグメント上に存在する(55)。SCC mecはmecA以外にも多数の耐性 遺伝子や他の菌株への伝播に関連する遺伝子ccrA, ccrBを保有している。これにより, mecA を始めとする多数の薬剤耐性遺伝子を含むSCC mecが伝播し, MRSAの拡大につながって いると考えられている。

(13)

8 第二項 MRSA感染症の治療

我 が 国 に お い て, MRSA 感 染 症 に 対 す る 治 療 に は glycopeptide 系 抗 菌 薬 で あ る vancomycinや teicoplanin, aminoglycoside 系抗菌薬の中でも修飾酵素による不活性化を 受けにくいarbekacin, oxazolidinone系抗菌薬であるlinezolid, lipopeptide系抗菌薬であ

るdaptomycinが用いられている。しかし, 近年, これらの抗MRSA薬に対しても耐性を獲

得した株が報告されている。細胞壁合成に関与する遺伝子などの発現を調節する vraRS, graRS, walKRなどの遺伝子に変異が生じることで細胞壁を肥厚させ, glycopeptide系抗菌 薬に中程度耐性や高度耐性を獲得した vancomycin intermediate resistant S. aureus

(VISA)が報告されている(28, 32, 51, 83)。また, vanA type van gene clusterを獲得する ことにより, 高度なvancomycin耐性を獲得した株も報告されている(22)。さらに, 既存の

aminoglycoside系抗菌薬修飾酵素の過剰発現や変異によりarbekacinに対しても耐性を獲

得した株も報告されている(43, 73)。他にも, リボソームサブユニットの変異やリボソーム のメチル化酵素をコードするcfr遺伝子を獲得することにより linezolidに耐性を獲得した 株や細胞膜の調節に関与する mprF や yycFG に変異が生じることで膜を肥厚させ, daptomycin に耐性を獲得した S. aureus も報告されている(15, 57, 110)。このように, MRSA 感染症治療薬は種類が限定されるだけでなく, 現在用いられている抗菌薬に対して も耐性を獲得したMRSAが出現してきている事から, さらなる新規抗菌薬の開発は急務で あるといえる。

(14)

9 第三項 VRE

Vancomycin は 1955 年 に グ ラ ム 陽 性 菌 感 染 症 に 対 す る 注 射 剤 と し て 開 発 さ れ た glycopeptide系抗菌薬である。-lactam系抗菌薬はPBPと結合することで阻害活性を示す の に 対 し, glycopeptide 系 抗 菌 薬 は PBP の 基 質 と な る 細 胞 壁 合 成 中 間 体 の

D-alanyl-D-alanine(D-Ala-D-Ala)構造に結合することでPBPの活性を阻害する(24, 85, 92)。

そのため, vancomycinは-lactam系抗菌薬とは交叉耐性を示さず, MRSAに対して有効な 抗菌薬であった。このことから, vancomycinはMRSA感染症の第一選択薬として用いられ, MRSA感染症の拡大に伴い使用量も増大していった(18)。

一方で, glycopeptide系抗菌薬であり, vancomycinと作用機序が同じであるavoparcinは 家畜飼料に多く用いられた(18)。その結果, 1988年にはvancomycinに高度な耐性を獲得し た腸球菌(VRE)がイギリスとフランスにて分離された(65, 112)。アメリカにおいても2013 年には年間2万人が感染し1300人が死亡したと推測されている(21)。さらに, 臨床現場で 分離される腸球菌の約30%がVREであるとも推測されている。欧州においてもVREの拡 大が問題視されている(115)。一方, 我が国においては患者から分離されるVREの数は年間 約300件程度と現在の臨床分離数は少ない(53)。しかし, 1998年に初めて我が国で分離され て以来2005年京都や2013年千葉においてVREの集団感染が生じており, 今後もVREの 動向には注視が必要だと考えられる(44)。

(15)

10 第四項 VREにおけるvancomycin耐性機構

VRE は van gene cluster と呼ばれる耐性遺伝子群によって, 細胞壁合成中間体の

D-Ala-D-Ala構造をD-alanyl-D-lactate(D-Ala-D-Lac)やD-alanyl-D-serine(D-Ala-D-Ser)

に変換する。Vancomycin の D-Ala-D-Lac や D-Ala-D-Ser に対する結合活性は D-Ala-D-Ala より弱いため, VREはvancomycin系抗菌薬に耐性を示す(26, 85)。van gene clusterは現 在, 11種類に分類されている(Table 1-1)。このうち, vanA type, vanB typeのvan gene

cluster は vancomycin 耐性を大きく上昇させ, 他の菌株, 菌種に転移する可能性があるこ

とから臨床現場における分離頻度が高く, 問題となっている。

Table 1-1 van gene cluster

Type Target modification expression resistance for glycopeptide reference vanA D-Ala-D-Lac inducible VCM: high resistance (35)

TEIC: high resistance

vanB D-Ala-D-Lac inducible VCM: high resistance (93) TEIC: susceptible

vanC D-Ala-D-Ser constitutive VCM: low resistance (66, 82) inducible TEIC: susceptible

vanD D-Ala-D-Lac constitutive VCM: moderate resistance (34) TEIC: moderate resistance vanE D-Ala-D-Ser inducible VCM: low resistance (1)

TEIC: susceptible

vanF D-Ala-D-Lac inducible VCM: high resistance (41) TEIC: susceptible

vanG D-Ala-D-Ser inducible VCM: low resistance (33) TEIC: susceptible

vanL D-Ala-D-Ser inducible VCM: low resistance (19) TEIC: susceptible

vanM D-Ala-D-Lac inducible VCM: high resistance (117) TEIC: high resistance

vanN D-Ala-D-Ser inducible VCM: low resistance (64) TEIC: susceptible

vanI D-Ala-D-Lac n.d. VCM: high resistance (60) TEIC: high resistance

n.d.: not determined, VCM; vancomycin, TEIC: teicoplanin

(16)

11

vanA type van gene clusterは世界ではじめて分離されたVREが有する耐性遺伝子群で あり, 現在臨床現場で最も分離される頻度の高いものである。vanA type van gene cluster はゲノム, プラスミドに保有されており, VanRS, VanHAX, VanYZをコードする遺伝子か ら成っている。VanH は pyruvate から D-lactate を生成する脱水素酵素であり, VanA は

D-lactate と D-alanine を 結 合 す る リ ガ ー ゼ で あ る(20)。 こ れ に よ り 生 成 す る

D-alanyl-D-lactate (D-Ala-D-Lac)が細胞壁合成に用いられることで耐性を示す。また,

D-Ala-D-Ala が細胞壁合成に用いられることを防ぐため, VanX は D-Ala-D-Ala を分解し, VanYはN-アセチルムラミン酸-ペンタペプチドの末端のD-Ala-D-Alaを分解する(9, 96)(Fig.

1-1)。VanZ は機能未知のタンパク質である(10)。Vancomycin 耐性をもたらす最小の構成 はVanHAXであるが, D-Alaを大量に含む培地においては, VanXのみではD-Ala-D-Alaを完 全に分解することができず, VanYが必要になると報告されている(9, 11)。vanHAX operon の発現はVanRSと呼ばれるtwo component regulatory systemによって制御されている (12)。vanA typeのVanRSはvancomycinやteicoplaninなどのglycopeptide系抗菌薬, 細 胞壁合成阻害薬や消毒薬を添加した際に発現を誘導する(13, 17)。その結果, glycopeptide 系抗菌薬全般に高い耐性を示す。

vanB type van gene clusterはVanRS, VanYBWHBBXBを有しており, vanA type同様

D-Ala-D-Ala構造をD-Ala-D-Lacに変換することでvancomycinに耐性を示す(93)。VanWは 機能未知のタンパク質である。VanY, VanH, VanXはそれぞれvanA typeのものと高い相 同性を示し, VanBもVanAに対して高い相同性を示す。一方で, VanB type VanRSのvanA type VanRSに対する相同性は低い。vanA typeのVanSが様々な抗菌薬により活性化する のに対し, vanB typeのVanSはvancomycinによってのみ活性化する(13)。vanB typeの VanSはD-Ala-D-Alaと結合した状態のvancomycinを直接認識すると予測されている(63)。

その結果, vanB type VRE は vancomycin に耐性を示す一方, teicoplanin などのほかの glycopeptide系抗菌薬には感受性を示す。

vanC type van gene cluster は Enterococcus gallinarum などが保有する内在性の vancomycin耐性遺伝子群であり, VanXYC, VanT, VanC, VanRSというタンパク質を有し ている(66)。VanTはL-serineをD-serineに変換するラセマーゼであり, VanCはD-Alaと

D-Serを結合する(8, 97)。VanXYCはvanA typeやvanB typeのvan gene clusterにおける VanXとVanYの活性を併せ持っておりD-Ala-D-Alaの分解活性を有する(95)。これらの酵 素 に よ り, vanC type VRE は 細 胞 壁 合 成 中 間 体 の 末 端 構 造 を D-alanyl-D-serine

D-Ala-D-Ser)に変換する。VancomycinはD-Ala-D-Lac同様にD-Ala-D-Serに対しても結 合力が弱いため, 細菌はvancomycinに耐性を示す。

(17)

12 Fig. 1-1 Vancomycin resistant mechanism

(18)

13 第五項 VRE感染症の治療

腸球菌は細胞壁合成酵素としてPBP4やPBP5を有している。これらのPBPは-lactam 系抗菌薬に対して親和性が低い(49)。そのため, 腸球菌は-lactam系抗菌薬の多くに自然耐 性を示す。中でも, 細菌感染症治療に繁用されるcephem系抗菌薬は腸球菌に無効であるこ とから注意が必要である。腸球菌による感染症に対しては, 起因菌の薬剤感受性を評価した 上でampicillinが用いられる。しかし, Enterococcus faeciumはampicillinに対して耐性 を獲得している株が多い(56)。Ampicillin 耐性腸球菌が原因による感染症に対しては vancomycin が用いられる。VRE は vancomycin にも耐性を示すために, linezolid や

daptomycinなどの抗菌薬による治療が行われることがある。しかし, 環境中の細菌からcfr

を獲得することにより linezolid に耐性を獲得した株が報告されており, また daptomycin にも耐性を獲得した株が報告されている(58, 67, 68)。このようにVREはMRSA以上に治 療に用いることができる抗菌薬が限定される。そのため, VRE感染症に対する新規抗菌薬の 開発も急務であるといえる。

(19)

14

第三節 薬剤耐性菌感染症に対する新規抗菌薬の候補化合物

近年, 臨床現場においては MRSA, VRE を始めとする薬剤耐性菌による感染症が重大な 問題となっている。この問題に対抗するため, 新たな抗菌薬の開発は急務である。本節では この新規抗菌薬の開発における候補化合物について述べる。

第一項 新規標的を有する化合物

新規標的を有する化合物は薬剤耐性菌感染症に対する新規抗菌薬の候補化合物として非 常に有用であると考えられる。このような化合物は既存抗菌薬と交差耐性を示さず, 薬剤耐 性菌に対しても抗菌活性を示す可能性が高いと考えられる。Lipopeptide 系抗菌薬である

daptomycin はカルシウムイオン存在下で膜に重合し, 孔を形成することにより, 殺菌活性

を示すという仮説が提唱されている(101, 105)。Daptomycin以外にこのような作用機構を 有する抗菌薬は存在せず, 既に耐性を獲得した細菌に対しても有効である。そのため,

daptomycinはMRSAに対する選択薬の一つとして用いられている。

また, 既存抗菌薬と同じ標的であっても, 作用部位が異なるものは薬剤耐性菌に対して 有効である可能性が考えられる。Oxazolidinone 系抗菌薬である linezolid は tetracycline やmacrolide, aminoglycosideと同じくリボソームに対して作用することにより, タンパク 質合成を阻害することで抗菌活性を示す。これまでのタンパク質合成阻害薬はペプチド伸 張 反 応 を 阻 害 す る の に 対 し, linezolid は 50S リ ボ ソ ー ム サ ブ ユ ニ ッ ト の peptide-transferase centerに結合することでリボソームの70Sサブユニットの形成を阻害 する(106)。そのため, linezolidはこれらの抗菌薬と交差耐性を示さず, 薬剤耐性菌に対して 有効な抗菌薬である。現在, linezolidはMRSA, VRE感染症に対する治療薬の一つとして用 いられている。

第二項 既存抗菌薬と併用効果を有する化合物

既存抗菌薬と併用効果を有する化合物も薬剤耐性菌感染症に対する新規治療薬の候補化 合物として有用であると考えられる。このような化合物を既存抗菌薬と併用して用いるこ とにより, 既存抗菌薬の効果を増強, 復活させることができる。その結果, 薬剤耐性菌感染 症に対して既に効かなくなってしまった抗菌薬を再度使用可能とすることができると考え られる。

既存抗菌薬と併用効果を有する化合物の作用の 1 つとして, 薬剤耐性機構の阻害作用が 考えられる。現在, -lactam系抗菌薬耐性に関与する-lactamaseの阻害薬が臨床現場で用 いられている。Clavulanic acidは放線菌によって産生される-lactamase阻害薬である(94)。

(20)

15

Clavulanic acid と-lactam 系抗菌薬を併用することにより, -lactamase 産生による

-lactam耐性菌に対して有効となる。Clavulanic acidはamoxicillinやticarcillinとの合 剤として用いられている。さらに, VREにおけるvancomycin耐性機構阻害薬の開発も試み られている。Vancomycin耐性に必須の酵素としてVanHAXが挙げられる。このうち, VanX の阻害剤としてphosphinateやphosphotioate, phosphonate, phosphoramidateが合成さ れた(116, 118)。しかし, これらの化合物は膜透過性が低く, 細菌細胞に対して併用効果を 示さなかった。そこで, 膜透過性が向上したVanX inhibitor としてチオヒドロキサム酸を 基にしたペプチド類似体も合成された(80)。しかし, その併用活性は弱く, VREに対して併 用した際にvancomycinのMICを1/2に低下させるのみであったことから, 臨床応用には 至っていない。

細菌の既存抗菌薬に対する感受性を向上させることにより, 既存抗菌薬と併用効果を有 する化合物も考えられる。既存抗菌薬の中でもaminoglycoside系抗菌薬は多くの抗菌薬や 化合物と併用効果を示すことが知られている。Aminoglycoside系抗菌薬はカチオン性の抗 菌薬であるため, 脂質二重層からなる細胞膜の透過性が低い。そこで, 細胞膜傷害活性や細 胞壁合成阻害活性, 膜電位を低下させる活性を有する化合物と併用することにより, 細胞 内への透過性が向上し抗菌活性が増強することが知られている(27, 30)。臨床現場において は, この併用効果を期待し, aminoglycoside 系抗菌薬と細胞壁合成阻害活性を有する

-lactam系抗菌薬の併用による治療が行われることがある(79)。

(21)

16 第四節 Topoisomerase

細菌には必須酵素が多数存在し, その一部は既存抗菌薬の標的として知られている。本研 究により明らかとなった抗菌化合物は既存のquinolone系抗菌薬やnovobiocinの標的であ る topoisomerase IV を 阻 害 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。 そ の た め, 本 節 で は こ の topoisomeraseについて述べる。

第一項 I型topoisomerase, II型topoisomerase

DNAは二重らせん構造を取っているため, DNA複製時にはDNAのらせん構造を解消す る必要がある。二重らせん構造を解消した際にはその近傍においてDNAのらせん構造が凝 集され, 正のスーパーコイルという超らせん構造を生じる。さらに, 環状のDNAを複製し た際には, 二つの環が連なった連環状の構造をとる。このようなDNAの高次構造による問 題を解消するための酵素をtopoisomeraseと呼ぶ。

Topoisomeraseは活性の様式からI型とII型に分類される。I型topoisomeraseはDNA 複製の際に二重らせん構造の解消に働く酵素であり, 単量体で機能し, 反応に ATP を必要 とせず, DNAの二本鎖のうち一本を切断した後, ねじれを解消する方向にもう一方のDNA 鎖を通過させた後に再結合する活性を有する。一方でII型topoisomeraseは超らせん構造 の解消や DNA 複製時に生じる連環状構造の解消に働く酵素であり, 四量体で反応に ATP を必要とし, DNAの二本鎖の双方を切断した後, 異なるDNA鎖を通過させた後に再結合す る活性を有する。代表例として E. coli は I 型 topoisomerase として TopA, TopB, II 型 topoisomeraseとしてGyrAB, ParCEを有している。中でもII型topoisomeraseは既存の quinolone系抗菌薬やnovobiocinの標的として知られている。

DNA gyraseはGyrA, GyrBがそれぞれ二量体ずつ結合することでヘテロ四量体を形成す

る。DNA gyraseはDNA複製に先立ち, 負のスーパーコイルを導入することで正のスーパ ーコイルの発生を防止する活性や DNA 複製の際に生じる正のスーパーコイルを解消する 活性を有する(Fig. 1-2)。Topoisomerase IVはParCとParEのヘテロ四量体を形成する。

Topoisomerase IVはDNA gyraseと比較するとDNA複製後に生じるDNAの連環構造の 解消活性(decatenation)活性が高い(Fig. 1-2)。DNA gyraseとtopoisomerase IVの構 造は比較的類似している。GyrAとParCはDNA鎖の結合に関与するサブユニットであり, GyrBとParEはATPase活性を有するサブユニットである。

(22)

17 Fig. 1-2 II型topoisomerase

第二項 II型topoisomerase阻害剤 1) Quinolone系抗菌薬

Quinolone系抗菌薬はII型topoisomeraseであるDNA gyraseやtopoisomerase IV に対して topoisomerase-DNA-quinoloneの三者複合体を形成することで阻害活性を 示す(Fig. 1-3)(114)。この複合体はDNAにcleavageを生じさせるために, cleaved complexと呼ばれている。Cleaved complexを形成する際に, quinolone系抗菌薬は topoisomerase Aサブユニット(GyrA, ParC)の80番目付近のserineと水素結合す る。また, その近傍のglutamineとmagnesium ion, H2Oを介して相互作用する(2, 3)。

さらに, topoisomerase Bサブユニット(GyrB, ParE)のquinolone binding pocket 付近のアミノ酸とも相互作用すると考えられている(48)。これらのアミノ酸残基が別 のアミノ酸に置換されることで, quinolone系抗菌薬はcleaved complexを形成する ことができなくなり, 細菌はquinolone系抗菌薬に対して耐性を獲得する。そのため, これらのアミノ酸をコードしている遺伝子領域は quinolone 耐性決定領域(QRDR)

と呼ばれている。

(23)

18 Fig. 1-3 Cleaved complex

Streptococcus pneumoniae の topoisomerase IV と levofloxacin の cleaved complex

(PDB:3RAE)を基に, Chimeraにより作図した(114)。黄: ParC subunit, シアン: ParE subunit, 赤: DNA, 緑: levofloxacin

(24)

19 2) Novobiocin

Novobiocinはアシル化芳香環(ring-A), 3-amino-4, 7-dihydroxycoumarine(ring-B), sugar moiety(ring-C)からなる抗菌薬である。Novobiocinはtopoisomerase Bサ ブユニットに対し, ring-CがATPase活性部位にoverlapするように結合することで ATPase活性を阻害する(Fig. 1-4)(69)。Novobiocinの相互作用する部位が変異す

ることでnovobiocinに耐性を獲得した菌株が報告されている(42)。

Fig. 1-4 Novobiocin complex with DNA gyrase B subunit

S. aureusのGyrB subunitとnovobiocinの複合体(PDB: 4URO)を基に, Chimeraによ り作図した(69)。緑: GyrB, 青: novobiocin

(25)

20 第五節 本研究の目的

MRSA や VRE を始めとする薬剤耐性菌による感染症が国内外にて重大な問題となって いる。この問題に対抗するため, 新規抗菌薬の開発は急務であると言える。こういった抗菌 薬の候補化合物として, 薬剤耐性菌に対して抗菌活性を有する化合物や既存抗菌薬と併用 効果を有する化合物が考えられる。さらに, こういった化合物の作用機構を解析することで 新たな抗菌薬標的の確立につながる事も期待できると考えられる。そこで我々の研究室で は植物から, このような活性を有する化合物を探索し, その作用機構を解析している。

探索の結果, 山﨑修士はスイレン科コウホネNuphar japonicumの根茎 (生薬名センコ

ツ)の100% MeOH抽出物がMRSAやVREに対して強い抗菌活性を持つこと, およびこ

れらの菌に対してaminoglycoside系抗菌薬の抗菌活性を増強させることを発見した。西山 修士は, この100% MeOH抽出物の分画を進め, MRSA, VREに対して強い抗菌活性を持つ 化 合 物 と し て コ ウ ホ ネ 属 の 植 物 に 含 ま れ る ア ル カ ロ イ ド の 1 つ で あ る 6, 6’-dihydroxythiobinupharidine(DTBN)を単離・同定した。しかし, 前任者らによる抗菌 活性の評価に用いられた菌株はMRSA, VRE 2株ずつのみであり, DTBNが臨床分離される

様々なMRSA, VREやグラム陰性菌などに対して抗菌活性を示すかどうかを評価するため

には評価対象が不足していると考えられた。また, 植物由来のアルカロイドのなかには抗菌 活性を示すものが報告されているものの, その多くの抗菌作用機序は解析されていない。そ こで, 著者は新規抗菌薬の開発を目指し, 臨床分離される様々な MRSA, VRE 株や他の菌 種に対する DTBN の抗菌活性, 既存抗菌薬との併用効果を評価し, その作用機構について 解析した。

(26)

21

第二章 6, 6’-dihydroxythiobinupharidine(DTBN)の単離

第一節 要約

山﨑智広修士, 西山永理修士により, MRSA, VREに対して強い抗菌活性を有する化合物 として6, 6’-dihydroxythiobinupharidine(DTBN)が見出された。著者はDTBNについ て, 種々の菌種や菌株に対する抗菌活性, 抗菌作用機構, 既存抗菌薬との併用効果およびそ の作用機構の解析を行うことにした。しかし, 西山修士により得られたDTBNの量は5 mg 程度と少なく, 確立された分画操作も再現性や一度に得られる DTBN の収量の面で問題が あった。そこで, 著者は化合物の分画操作を変さらし, DTBNを大量に得ることにした。

西山修士による分画操作のうち, ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる分画操作は 再現性の面で問題があった。そこで, 西山修士による分画により得られたサンプルのうち, ゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用いた分画操作の前後のサンプルを TLC 分析した。

その結果, 両者に大きな差がないことから, ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる分 画が必要ではない可能性が示唆された。また, 西山修士は最後の分画操作として TLC分取 によりDTBNを単離したが, TLC分取は入手できる化合物量に限界があるため, 化合物を 大量に得るには不適であると考えられた。そこで, ゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用 いた分画操作を除き, TLC 分取をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画操作に 変さらした。得られたフラクションの抗菌活性を評価し, TLC分析を行った。抗菌活性を有 し, 単一のスポットを呈したフラクションについて, NMR分析, 旋光度分析, 質量分析を行 い, 文献値と比較することで DTBN であることを確認した。これらの結果, 西山修士によ る分画操作と比較して約2倍程度の収率で, 一度に数百mgのDTBNを得る分画操作の確 立に成功した。本法により, 402.4 mgのDTBNを得た。分画方法の構築時に得られた159 mgのDTBNと併せて550 mg程度のDTBNを用いて, 以後の解析に取り組んだ。

(27)

22 第二節 緒言

山﨑修士による探索の結果, Nuphar japonicum 100% MeOH 抽出物が MRSA および VREに対して強い抗菌活性を示すということが明らかとなった。さらに, 西山修士により, Nuphar japonicum 100% MeOH抽出物からMRSAおよびVREに対して強い抗菌活性を 示すDTBNが単離された。しかし, 西山修士はMRSAの臨床分離株としてOM481, OM584 株, VREとしてFN-1, NCTC12201株のみを用いており, DTBNが実際に臨床分離される MRSA や VRE に抗菌活性を示すかどうかを判断するには株数が不足していると考えられ た。また, DTBN の抗菌作用機構や既存抗菌薬の併用効果も未解析であった。そのため, DTBN の新規抗菌薬の候補化合物としての有用性を判断するためにはさらなる解析が必要 であった。

西山修士の分画により得られたDTBNは5.4 mg程度であり, 今後の解析を行うには化合 物の量が不十分であった。さらに, 西山修士により行われた分画操作はゲルろ過カラムクロ マトグラフィーを用いた分画操作の再現性に問題があった。また, 西山修士は最後の分画操 作として TLC 分取を行っていたため, 化合物のアプライ量が限定され, 一度に得られる収 量が少なかった。そこで, 著者は DTBN のさらなる解析を進めるために, これらの問題点 を改善した分画方法を確立することを目指した。

(28)

23 第三節 材料と方法

1 Nuphar japonicum

本研究では, Nuphar japonicumの根茎を乾燥させた市販品(高砂薬業) を使用した。

2 S. aureus株

分画により得られた画分の抗菌活性の評価対象として, MRSA 2 株を用いた。OM481,

OM584共に岡山大学で臨床分離された菌株である(98)。

Table 2-1 菌株リスト

Strain Description Reference

Staphylococcus aureus

OM481 clinical isolate (98)

OM584 clinical isolate (98)

3 MICの測定

微量液体希釈法によりMICを測定した。MH brothを用いて, 化合物の二段階希釈系列 を作成し, 96穴U字型ウェルに100 Lずつアプライした。N brothにて一晩培養したS.

aureusをMH brothに100倍希釈した。希釈液を37 °CにてO.D.650≒0.7まで培養した。

培養液を滅菌生理食塩水にて1000倍希釈し, 作成した希釈系列の各ウェルに5 Lずつ, 最 終接種菌数が104 CFU/wellとなるように接種した。37 °Cで24 hr培養し, 目視で菌の生 育による沈殿の有無を観察した。菌の生育が見られない最小の化合物濃度をMICと判定し た。

4 薄層クロマトグラフィー(TLC)分析

TLC plateとしてTLC aluminum sheet Silica gel 60 F254(MERCK), 移動相として n-hexane-AcOEt-NH4OH (75:25:1)を用いた。検出には, Dragendorff’s reagent(bismuth subnitrate 850 g/mL, potassium iodide 2 g/mL, 21% AcOH)の噴霧とUVランプSLUV-4

(Iuchi)によるUV254 nmの照射を行った。

(29)

24 5 Nuphar japonicumからの成分抽出と分画方法

分画操作をchart 2-1に示す。西山修士はNuphar japonicumの乾燥根茎(センコツ)4.0 kgをミキサーで粉砕し, Nuphar japonicum 1 kgにつき約20 Lの100 % MeOHで抽出後, 減圧濾過, 溶媒留去を行い, Nuphar japonicum 100 % MeOH extract (323 g)を得た。続 いて, 酸性条件下, 塩基性条件下で液液分配することにより, 100 % MeOH extract(102 g)

からCHCl3層(10.1 g), AcOEt層(9.0 g), 水層(113 g), 不溶物(64.3 g)を得た。

さらに, 抗菌活性の強かったAcOEt層(8.17 g)についてCHCl3-AcOEt-Et2NH(20:1:1),

MeOH-Et2NH(10:1)の移動相を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画

を行い, fr.1(5.9 g), fr.2(1.9 g), fr.3(0.8 g)を得た。

著者は西山修士が残したfr.1 について, n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1)を移動相と し て 用 い た シ リ カ ゲ ル カ ラ ム ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー に よ る 分 画 操 作 を 行 っ た 。 n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1) で 膨 潤 し た シ リ カ ゲ ル (70-230 mesh, 60 Å, SIGMA-ALDRICH Co. ) 約 350 mL を オ ー プ ン カ ラ ム に 充 填 し た 。 n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1)をゲルの体積の約3倍量(1000 mL)流して, カラム を安定化させた。移動相として, ① n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1)②MeOH-NH4OH

(100:1)を使用した。Fr.1を6 mLの①で溶解し, シリカゲルに浸した後, 乾燥窒素を吹 き付けることでシリカゲルにサンプルを吸着させた。吸着させたサンプルを少量の①で膨 潤させ, カラムにアプライした。その後, 順次移動相①をゲルの体積の約3 倍量(約 1000

mL), 移動相②をゲルの体積の約2倍量(約700 mL)流し, 溶出液を約5 mL毎に小試験

管に回収した。回収した溶出液についてTLC分析を行い, 同一のスポットを示すものをま とめて, 溶媒留去した。

(30)

25

Chart 2-1 Nuphar japonicum 100 % MeOH抽出物分画操作

西山修士論文より一部改編して抜粋。括弧外の重量は収量, 括弧内の重量は次の分画に用い た量を表している。

crashed with a blender stirred in 100%MeOH

vacuum filtration 100% MeOH extract 323 g (102 g)

1 mol/L HCl CHCl3

CHCl3 layer 10.1 g aqueous layer

add NH4OH AcOEt

emulsion AcOEt layer

aqueous layer

AcOEt layer aqueous layer

vacuum filtration

Unsoluble matter 64.3 g

aqueous layer 113 g AcOEt layer 9.0 g (8.17 g)

silica gel column

1)CHCl3-AcOEt-Et2NH (20:1:1)

2)MeOH-Et2NH (10:1)

dried Nuphar japonicum 4 kg (4 kg)

fr.2 1.9 g fr.3 0.8 g fr.1 5.9 g (920 mg)

silica gel column

1)n-Hexane-AcOEt-NH4OH (75:25:1)

2)MeOH-NH4OH (100:1)

fr.1-II

51.9 mg fr.1-III

91.8 mg fr.1-IV

36.4 mg fr.1-V

50.6 mg fr.1-VI

73.7 mg fr.1-VII

14.5 mg fr.1-VIII

159.9 mg fr.1-IX

167.5 mg fr.1-X 1276 mg fr.1-I

34.9 mg

(31)

26

6 NMRスペクトル測定

NMR spectrumはVarian INOVA 600(1H-NMR, 600 MHz)により測定した。溶媒シ グナルはH3.30(CD3OD)を基準とした。ケミカルシフトをテトラメチルシラン(TMS)

基準のシフト値として(ppm)で表した。

7 旋光度測定

fr.1-VIIIを吸光分光用CH2Cl2に溶解させ, 旋光度を旋光計(JASCO DIP-1000)によ り測定した。旋光度を30回測定し, 平均を取った後, 比旋光度を以下の式により算出した。

[]Dt=(100×)/(l×c)

:旋光度(deg)

l:セル長(dm)

c:濃度(mg/100 L)

t:温度(°C)

8 質量分析

fr.1-VIIIについて, 質量分析を行った。Fr.1-VIIIの質量分析は岡山大学自然生命科学研 究支援センターに依頼し, JMS-700 MStation(日本電子)により測定して頂いた。

(32)

27 第四節 結果と考察

第一項 分画操作の改良

西山修士による分画操作をChart 2-2に示す。この方法を参考にDTBN(fr.1-2-5)を大 量に得ることを試みた。しかし, この分画操作のうち, Sephadex LH-20ゲルを用いたカラ ムクロマトグラフィーを用いた分画操作やTLC分取は再現性や一度に得られる化合物の収 量の点で問題があった。そこで, これらの分画操作を変さらし, DTBNを量産可能な分画方 法の構築を試みた。再現性に問題のあったゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる分画 操作の必要性について検討した。西山修士が分画したサンプルのうち, ゲルろ過カラムクロ マトグラフィーを用いた分画操作の分画前後のサンプルであるfr.1とfr.1-2をTLC分析し た(Fig. 2-1)。その結果, 分画の前後でスポットのパターンに大きな変化が見られないこと から, この分画操作は不必要である可能性が示唆された。そこで, fr.1から直接DTBNを単 離する方法を試みた。西山修士はシリカゲルプレートを用いたTLC 分取によって, DTBN を単離した(Chart 2-2)。一度にアプライできる化合物の量を増やすために, シリカゲルを 用いたオープンカラムクロマトグラフィーを用いた分画操作による分画を試みた。また, 西 山修士が用いた移動層はDTBNのRf値が約0.5程度であった。DTBNを主として分離す るため, n-hexaneの比率を増すことで, 極性を低下させた溶媒を用いた。

Fig. 2-1 Fr.1およびfr.1-2のTLC分析

西山修士が得たサンプルをTLC分析した。1: fr.1, 2: fr.1-2 Stational phase: silica gel 60 F254 plate

Mobile phase: n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1)

ドラーゲンドルフ試薬により呈色したスポットのうち, UV(254 nm)吸収が見られたもの を実線丸, 吸収が見られなかったものを点線丸で示す。

(33)

28 Chart 2-2 西山修士による分画操作

西山修士論文より転載。括弧外重量は収量, 括弧内重量は次分画に用いた量を示す。

(34)

29

移動層として① n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1)②MeOH-NH4OH(100:1)を用い てシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いた分画操作によりfr.1(0.92 g)を分画した。

その結果, fr.1-I(34.9 mg), fr.1-II(51.9 mg), fr.1-III(91.8 mg), fr.1-IV(36.4 mg), fr.1-V

(50.6 mg), fr.1-VI(73.7 mg), fr.1-VII(14.5 mg), fr.1-VIII(159.9 mg), fr.1-IX(167.5

mg), fr.1-X(1276.3 mg)を得た。分画操作後の合計の収率が100%を超えている要因と

して, 化合物を回収するために移動相として用いた MeOHによりシリカゲルが溶出してい る可能性が考えられる。そのため, fr.1-IXやfr.1-Xにおいてはシリカゲルを含んでいる可能 性がある。得られた画分のMRSAに対する抗菌活性を測定し, TLC分析を行った(Table 2-2, Fig. 2-2)。その結果, fr.1-VIIIはMRSAに対して強い抗菌活性を示し, TLC分析により単 一のスポットを呈することが明らかとなった。

Fig. 2-2 TLC分析 silica gel 60 F254 plate

n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1)

ドラーゲンドルフ試薬により呈色したスポットのうち, UV(254 nm)吸収が見られたもの を実線丸, 吸収が見られなかったものを点線丸で示す。

1: fr.1

2: fr.1-I

3: fr.1-II

4: fr.1-III

5: fr.1-IV

6: fr.1-V

7: fr.1-VI

8: fr.1-VII

9: fr.1-VIII

10: fr.1-IX

11: fr.1-X

(35)

30

Table 2-2 fr.1分画前後のサンプルのMRSAに対するMIC MIC(g/mL)

fraction OM481 OM584

fr.1 4 4

fr.1-I >16 >16

fr.1-II >16 >16

fr.1-III 4 4

fr.1-IV 4 4

fr.1-V 4 4

fr.1-VI 4 4

fr.1-VII 4 4

fr.1-VIII 4 2

fr.1-IX 8 8

fr.1-X >16 >16

第二項 NMR

MRSAに対して抗菌活性を示し, TLC分析により単一のスポットを呈したfr.1-VIIIにつ いて, NMR分析による構造解析を行った。NMRスペクトラムより, 不純物由来と思われる ピークが少なく, ある程度の純度が保たれていると判断した(参考Fig. 2-1, Fig. 2-3)。メ イ ン ピ ー ク の ケ ミ カ ル シ フ ト 値 を 算 出 し, Nuphar pumilum よ り 単 離 さ れ た 6, 6’-dihydroxythiobinupharidine(DTBN)および化学合成されたDTBNのNMRスペクト ラムと比較した(Table 2-3)。ケミカルシフト値がほぼ同一の値を示したため, fr.1-VIIIを 既知化合物であるDTBNと推測した。

(36)

参考Fig. 2-1 前任者により得られたDTBNの1H-NMRスペクトラム

31

(37)

Fig. 2-3 fr.1-VIIIの1H-NMRスペクトラム

32

(38)

Fig. 2-4 fr.1-IX’の1H-NMRスペクトラム

33

(39)

34

Table 2-3 1H-NMRスペクトラムのピーク値, カップリング定数

Position fr.1-VIII DTBNa DTBNb

1 1.24 1.26 1.24

2a 1.63 1.62 1.61

2b 1.11 1.10 1.11

3 1.65 1.65 1.66

4 3.70(dd, J=7.8, 9.6 Hz) 3.70(dd, J=5.0, 8.0 Hz) 3.70(dd, J=5.6 Hz, 8.8 Hz)

6 3.77(s) 3.77(s) 3.76(s)

8a 1.40 1.40 1.41

8b 1.86 1.86 1.86

9a 1.20 1.21 1.22

9b 1.83 1.82 1.82

10 2.31 2.32 2.32

11 0.92(d, J=6.6 Hz) 0.92(d, J=6.5 Hz) 0.92(d, J=6.5 Hz)

13 6.42(d, J=0.6 Hz) 6.43(d, J=1.0 Hz) 6.43(d, J=1.0 Hz)

14 7.45(t, J=1.8 Hz) 7.45(t, J=1.0 Hz) 7.45(t, J =1.2 Hz)

16 7.43(s) 7.43(s) 7.43(s)

17a 1.79(d, J=14.4 Hz) 1.79(d, J=13.0 Hz) 1.79(d, J=13.0 Hz)

17b 1.85(d, J=14.4 Hz) 1.84(d, J=13.0 Hz) 1.84(d, J=13.0 Hz)

1’ 1.28 1.28 1.28

2’a 1.62 1.62 1.63

2’b 1.10 1.10 1.11

3’ 1.65 1.65 1.66

4’ 3.65(dd, J=8.4, 10.2 Hz) 3.65(dd, J=5.0, 8.0 Hz) 3.64(dd, J=5.6 Hz, 8.8 Hz)

6’a 3.93(s) 3.93(s) 3.92(s)

8’a 1.60 1.60 1.60

8’b 1.27 1.27 1.27

9’a 1.20 1.21 1.20

9’b 1.80 1.79 1.79

10’ 2.34 2.35 2.34

11’ 0.93(d, J=6.6 Hz) 0.93(d, J=6.5 Hz) 0.93(d, J=6.5 Hz)

13’ 6.43(d, J=1.2 Hz) 6.42(d, J=1.0 Hz) 6.42(d, J=1.0 Hz)

14’ 7.45(t, J=1.8 Hz) 7.45(t, J=1.0 Hz) 7.45(t, J=1.2 Hz)

16’ 7.43(s) 7.43(s) 7.43(s)

17’a 2.19(d, J=12.0 Hz) 2.19(d, J=12.0 Hz) 2.19(d, J=12.0 Hz)

17’b 2.64(d, J=12.0 Hz) 2.64(d, J=12.0 Hz) 2.64(d, J = 12.0 Hz)

*: signals were overlapped, d: doublet, t: triplet, dd: double doublet, s: singlet a: isolated from Nuphar pumilum(70)

b: synthesized DTBN(59)

(40)

35 第三項 旋光度測定

DTBNであると推測されたfr.1-VIIIについて旋光度を測定し, 文献値と比較した。その 結果, fr.1-VIIIの比旋光度は[]D24.2= +74.0o(c=1.5, CH2Cl2)であった。DTBNの比旋 光度は[]D25=+78o(c=1.5, CH2Cl2)と報告されている(70)。+4oの差の原因として, 測定 時の温度が 25 °C に達さなかったことや旋光度計の誤差, 化合物の純度によるものが考え られる。NMRスペクトラムにてある程度の純度は確保されていると判断したが, 一部不純 物のものと思われるピークが確認されている。また, Nuphar japonicumはDTBN以外にも 構造類縁体を多数含んでいると報告されている(5-7, 54)。そのため, 分画時に構造類縁体が

一部 fr.1-VIII に混入し, 比旋光度測定に影響を及ぼした可能性が考えられる。得られた画

分と論文で報告されている比旋光度が類似した値を示したことから, fr.1-VIIIはDTBNで あることがさらに支持された。

第四項 質量分析

fr.1-VIIIについて, 質量分析を行った。DTBNはNuphar japonicumに含まれるアルカ ロイドの一つであり, nuphar アルカロイドは質量分析により, C15 ユニットである m/z 230のピークが観察されることが特徴であると報告されている(36)。Fr.1-VIII においても, 質量分析の結果, m/z 230のピークが観察された。さらに, C15ユニットにSが付与してい ると考えられるm/z 262のピークも観察された。以上の結果から, fr.1-VIIIはDTBNであ ることが質量分析によっても支持された(Fig. 2-5)。

Fig. 2-5 DTBNの構造式

(41)

36 第五項 小活

1H-NMR, 旋光度測定, 質量分析により, 今回の分画操作で得られたfr. 1-VIIIがDTBN であることを確認した。西山修士の分画操作により得られるDTBNの収率は100 % MeOH の重量の約0.52 %であり, 一度に得られる収量は5 mg程度であった。一方で, 今回の分画 操作により得られたDTBNの量は100 % MeOHの重量の約1.10 %であり, 一度に得られ

た収量は159.9 mgであった。このことから, 今回構築した分画操作は西山修士が構築した

分画方法と比較して, 収率や収量の面で優れていることが示唆された。

一方で, 前任者および著者の実験においてDTBNの純度は1H-NMRや旋光度測定の結果 から判断している。より正確な化合物の確認を行うためには 13C-NMR を行う必要があり, また純度を正確に判定するためにはHPLC分析を行う必要があると考えられる。

第六項 DTBNの抽出

確立された分画操作を用いて DTBN の量産を行った。西山修士の残した MeOH 抽出物 64.04 gを酸性条件下, 塩基性条件下で液液分配することにより, AcOEt層 7.11 g, 不溶物 6.0972 g, CHCl3 層 1.17 g を得た。移動相として①CHCl3-AcOEt-Et2NH(20:1:1)②

MeOH-Et2NH(10:1)を用いて, シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いた分画操作

によりAcOEt層 6.5 gを分画した。その結果, fr.1(4.14 g), fr.2(3.30 g), fr.3(0.18 g)

を得た。さらに, 移動層として①n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1)②MeOH-NH4OH(100:1)

を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いた分画操作により, fr.1 4.1 gを分画 した。その結果, fr.1-I’(601.1 mg), fr.1-II’(324.6 mg), fr.1-III’(51.5 mg), fr.1-IV’

(78.1 mg), fr.1-V’(64.5 mg), fr.1-VI’(47.8 mg), fr.1-VII’(164 mg), fr.1-VIII’(64.2 mg), fr.1-IX’(402.4 mg), fr.1-X’(239.1 mg), fr.1-XI’(708.9 mg), fr.1-XII’(1005.9 mg)

を得た。得られたフラクションの抗菌活性を測定した(Table 2-4)。また, fr.1-I’からfr.1-XII’

についてTLC分析を行った(Fig. 2-6)。最も強い抗菌活性が見られ, TLC分析で単一のス ポットを呈した fr.1-IX’について, NMR 分析を行うことで DTBN であることを確認した

(Fig. 2-4)。

今回の分画操作により得られたDTBNの収率は100% MeOH抽出物の約0.70%であった。

分画方法の構築時より収率が悪くなった原因として, 二度目のシリカゲルカラムクロマト グラフィーによる分画時に, 化合物を一度にアプライする量が多かったことが考えられる。

化合物量と比較してシリカゲル量が不十分であった結果, 化合物が複数のフラクションに 分散した可能性がある。Fr.1-X’は fr.1-IX’と同程度の抗菌活性を示し, TLC 分析の結果, fr.1-IX’と同一のスポットを含んでいた(Fig. 2-6, Table 2-4)。これらの結果からDTBN

(42)

37

はfr.1-IX’とfr.1-X’に含まれていると推測された。NMRの結果, fr.1-IX’はある程度の純度 が確保されていると判断し, 以後の解析には分画方法の構築時に得られた fr.1-VIII と今回 の分画により得られたfr.1-IX’を用いた。

Table 2-4 分画により得られた画分のMRSAに対するMIC MIC(g/mL)

fraction OM481 OM584

MeOH extract 128 128

AcOEt層 16 16

CHCl3層 >128 >128

Unsoluble matter >128 >128

fr.1 16 16

fr.2 >128 >128

fr.3 >128 >128

fr.1-I’ >128 >128

fr.1-II’ 16 16

fr.1-III’ 8 8

fr.1-IV’ 8 8

fr.1-V’ 8 8

fr.1-VI’ 8 8

fr.1-VII’ 16 16

fr.1-VIII’ 8 8

fr.1-IX’ 4 4

fr.1-X’ 4 4

fr.1-XI’ 16 16

fr.1-XII’ 64 64

Fig. 2-6 TLC分析 silica gel 60 F254 plate

n-hexane-AcOEt-NH4OH(75:25:1)

1: fr.1 2: fr.1-I’

3: fr.1-II’

4: fr.1-III’

5: fr.1- IV’

6: fr.1-V’

7: fr.1-VI’

8: fr.1- VII’

9: fr.1-VIII’

10: fr.1-IX’

11: fr.1-X’

12: fr.1-XI’

13: fr.1-XII’

14: fr.1-VIII(DTBN)

(43)

38

第三章 DTBNの抗菌活性およびその作用機構の解析

第一節 要約

得られたDTBNを用いて, 様々な菌種, 菌株に対する抗菌活性を既存抗菌薬と比較した。

臨床分離株を含むMRSAやVREなどのグラム陽性菌に対するDTBNのMICは1~4 g/mL であった。MRSAやVRE感染症に対して用いられるvancomycinやarbekacin, linezolid のMICは0.5~2 g/mLであった。このことから, DTBNは実際に臨床分離されるMRSA やVREに対して既存抗菌薬と同程度の強い抗菌活性を有することが明らかとなった。また, これらの菌に対するDTBNの抗菌活性は静菌的であった。一方でDTBNはEscherichia coli やPseudomonas aeruginosa, Serratia marcescens, Vibrio parahaemolyticusなどのグラ ム陰性菌の野生株に対して抗菌活性を示さなかった。しかし, V. parahaemolyticusの薬剤 耐性に大きく関与するRND型多剤排出ポンプ遺伝子の12重破壊株に対してDTBNは抗菌 活性を示した。さらに, vmeAB, vmeCD, vmeJKを相補した株はDTBNに耐性を示した。

このことから, DTBNのグラム陰性菌における耐性にはRND型多剤排出ポンプが関与して いる可能性が示唆された。

続いて, DTBNの抗菌作用機構を解析した。種々の解析の結果, DTBNはquinolone系抗 菌 薬 や novobiocin の 標 的 で あ り, 細 菌 に お け る DNA 複 製 に 必 須 の 酵 素 で あ る topoisomerase IV に対して強い阻害活性を有することが明らかとなった。Topoisomerase IVに対するDTBN, quinolone系抗菌薬であるciprofloxacinのIC50は4~10 Mであった。

また, DTBNをゲノム情報が明らかとなっているMRSA N315に曝露することにより変異 株を分離した。解析の結果, 変異株はDNA gyraseやtopoisomerase IV のQRDRに変異 が生じていた。これらの結果から, DTBNはtopoisomerase IVを抗菌作用の標的としてい ることが強く示唆された。

さらに, DTBN の topoisomerase IV に対する作用機序について解析した。その結果, DTBNはtopoisomerase IVに対して, quinolone系抗菌薬とは異なりcleaved complexを 形成せず, ATPase活性も阻害しなかった。このことから, DTBNは既存のtopoisomerase IV 阻害薬であるciprofloxacinやnovobiocinとは異なる作用機序により, topoisomerase IVを 阻害していることが示唆された。DTBN は既存抗菌薬と同じタンパク質を標的とする一方 で, そのタンパク質に対する作用機序が異なるため, 既存抗菌薬と交差耐性を示さず, 新規 抗菌薬の候補化合物として有用である可能性が示唆された。

40

参照

関連したドキュメント

*ホバークラフト 記念祭で,幼稚 園児や小学生を乗 せられるものを作 ろうということで 始めた。右写真の 上は人は乗れない

cin,newquinoloneなどの多剤併用療法がまず 選択されることが多い6,7).しかし化学療法は1

うのも、それは現物を直接に示すことによってしか説明できないタイプの概念である上に、その現物というのが、

  BCI は脳から得られる情報を利用して,思考によりコ

突然そのようなところに現れたことに驚いたので す。しかも、密教儀礼であればマンダラ制作儀礼

仏像に対する知識は、これまでの学校教育では必

免疫チェックポイント阻害薬に分類される抗PD-L1抗 体であるアテゾリズマブとVEGF阻害薬のベバシズマ

共通点が多い 2 。そのようなことを考えあわせ ると、リードの因果論は結局、・ヒュームの因果