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日本の意匠制度 画像を含む意匠に適用される新しい意匠審査基準について 特許庁審査第一部意匠課意匠制度企画室長伊藤宏幸 はじめに デジタル機器で用いられる操作画像のデザインなど 画像を含む意匠について適用される意匠審査基準が 2016 年 4 月 1 日から変更される 情報技術の進展を背景に 様々な製

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はじめに

 デジタル機器で用いられる操作画像のデザインな ど、画像を含む意匠について適用される意匠審査基 準が、2016年4月1日から変更される。  情報技術の進展を背景に、様々な製品やサービス において利用者が画像デザインに接する機会が拡大 し、その使い勝手等の側面が製品価値に影響を与え る大きな要因となっていることから、分野や業種を 問わず、製品開発において画像デザインの重要性が 増している。近年、意匠登録出願件数は緩やかな下 降傾向にあるが、意匠法第2条第2項の規定による 物品の操作の用に供される画像の保護が導入された 2007年以降、画像を含む意匠の出願件数は増加傾向 にあり、画像デザインの重要性の高まりとともに、 権利保護の意識も高まっていることがうかがえる。  本稿では、今回の意匠審査基準改訂に至る検討経 緯や背景を含め、新しい意匠審査基準の具体的なポ イントについて解説する。

Ⅰ.検討の背景と経緯

1.意匠審査基準改訂の検討経緯  画像デザインの意匠法による保護については、平 成18年(2006年)の意匠法改正において、画像を物 品の部分の意匠として保護する仕組みが導入されて いる(意匠法第2条第2項)。その後、情報通信技 術の急速な進展を背景に画像デザインの利用が内外 で拡大する中、意匠法の改正を視野に入れた画像デ ザインの保護拡充の在り方について、2011年12月20 日以降、産業構造審議会意匠制度小委員会の場にお ける精力的な検討が行われた。産業界からは、画像 デザインの保護拡充によりビジネスソフト等の画像 デザインの保護を望む声がある一方、侵害リスク回 避のためのクリアランス負担の増大等を理由とする 反対の声もあったことから、2014年1月31日の意匠 制度小委員会報告書「創造的なデザインの権利保護 による我が国企業の国際展開支援について」では、 画像デザインの保護拡充について、まずは現行法下 での運用面の取組を進めつつ、引き続き意匠法改正 を含む制度の在り方を検討するという方向性が取り まとめられた。  これを受け、同小委員会の下部組織である意匠審 査基準ワーキンググループにおいて、現行意匠法下 における画像を含む意匠の登録要件について具体的 検討を進めた結果(2015年3~ 11月)、意匠登録の 対象を拡充すること及び創作非容易性判断基準の明 確化を図ることを主旨とする意匠審査基準の改訂案 がまとまり、その後の意見募集手続及び意匠制度小 委員会による承認を経て、改訂意匠審査基準に基づ く審査運用を2016年4月1日から開始する運びと なった。  また、画像を含む登録意匠に関する事業者等のク リアランス負担低減の観点からは、誰でも任意の画 像を入力するだけでその入力画像と近い登録意匠の 調査を可能とする、イメージマッチング技術を利用 した画像意匠公報検索支援ツールの開発を進め、独 立行政法人工業所有権情報・研修館が提供するウェ ブサービス「Graphic Image Park」として、2015 年10月1日から一般提供を開始している。 2.画像デザインの意匠保護を巡る諸外国の状況  「意匠」の中核となる外観形態と、その意匠を構 成又は適用する物品や製品との関係性について法令

日本の意匠制度

     

特許庁 審査第一部 意匠課 意匠制度企画室長

 伊藤宏幸

画像を含む意匠に適用される新しい

意匠審査基準について

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上求められる要件が各国で異なることもあり、特に 画像デザインの場合には、物品と画像との結び付き を柔軟に捉える欧米韓等の国々において、我が国よ りも広範なものが意匠法による保護の対象と位置付 けられている。  近年における動向として、米国では、画像の意匠 の登録件数が増加しており*1、中国では、専利審 査指南(日本における意匠審査基準に相当するもの) の改正により、2014年5月1日からグラフィカル・ ユーザ・インターフェイスを含む製品のデザイン(製 品機能の実現と無関係な壁紙等の画像を除く。)を 専利法に基づく外観設計(意匠)の保護対象として 加えるなど*2、画像デザインの意匠保護を巡る国 際的な状況にも変化が生じている。 *1 画 像 に 関 す る 意 匠 特 許 の 発 行 件 数 2012年:597件、 2013:1084件、2014年:1184件(特許庁調べ) *2 国家知識産権局の「専利審査指南」修正に関する決定(第 68号 )(JETRO北 京 事 務 所 仮 訳 )http://www.jetro.go.jp/ world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20140312.pdf

Ⅱ.画像を含む意匠の登録対象の拡充

1.今回の審査基準改訂の考え方  我が国意匠法は、明治21年(1888年)制定の意匠 條例から明治42年(1909年)法までは、意匠は物品 に応用すべきものとして、物品と可分なものと位置 づけていたが、その後、「工業製品」の美的質的向 上を図る近代的工業デザイン思想の影響から、大正 10年(1921年)法では、意匠は物を離れて存在する ものではないとの考え方(物品との一体性)を採用 し、意匠の定義についての規定を、物品に関する形 状等と改めた。昭和34年(1959年)制定の現行意匠 法においても、大正10年(1921年)法同様、物品と の一体性を前提とし、これをより明確化した「物品 の」形状等を、意匠法の保護対象である意匠と位置 付けている。したがって、物品との一体性を有して いないものを、現行意匠法上の意匠として取り扱う 余地はない。  平成18年(2006年)の意匠法改正においては、こ の物品との一体性を前提としつつ、新設した意匠法 第2条第2項において、物品の部分の形状、模様若し くは色彩又はこれらの結合(いわゆる部分意匠)に、 物品の操作の用に供される画像であって、当該物品 又はこれと一体として用いられる物品に表示される ものが含まれることが明定された。  現行の意匠審査基準及び審査運用上、画像を含む 意匠については、物品との一体性の観点から、物品 に「あらかじめ記録」されていない画像は意匠法上 の意匠を構成するものと取り扱っていない。2006年 の意匠法改正当時の社会状況を前提とすると、この 審査基準は妥当なものと考えられるが、その一方で、 スマートフォンの利用拡大に代表される近年の社会 状況を踏まえつつ、画像を含む意匠のより適切な保 護について検討すると、現行審査基準中で「あらか じめ記録」に該当しないと定めた中にも、物品との 一体性が認められる余地のあるものがまだ残されて いると考えられる。  すなわち、情報通信技術の進展に伴い、機能の事 後的なアップデートが可能な機器が増加したことに 加え、スマートフォンやタブレットコンピュータと いった小型高性能な電子機器(モバイルデバイス) の急速な普及を背景として、これらの機器にソフト ウェアを追加することで、従来は様々な専用機がそ れぞれ担っていた役割を、一台の機器を核として実 現し得る時代へと変化してきている。その結果、現 在においては、これら機器が事後的に具備した機能 についても物品の機能として理解する意識が社会に 広まるとともに、当該機能の実現のために用いられ る画像についても、一定の保護ニーズが示されるに 至っている。  よって、このような現代社会の変化に意匠の審査 運用を適応させるべく、画像を含む意匠に関する「あ らかじめ記録」の審査基準を緩和し、現行意匠法の 下で、画像を含む意匠のより適切な保護と活用を図 ろうとするのが、今回の意匠審査基準改訂の主旨で ある。  この改訂意匠審査基準(画像を含む意匠の登録対 象の拡充)は、2016年4月1日以降に出願される意 匠登録出願に適用することとなる。

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2.新たに意匠登録の対象となる画像  今回の意匠審査基準改訂により新たに意匠登録の 対象となるものは、次のとおりである。  まず、物品で用いられる画像について、物品に「あ らかじめ記録」された画像であることを求める現行 の審査基準を緩和し、時期を問わず、物品に「記録」 されたことをもって物品と一体化した「意匠」を構 成する画像と認め、意匠登録の対象と取り扱う。こ れにより、従来から登録の対象としていた、デジタ ルカメラ等の特定用途の機器にあらかじめ記録され た画像(組込の画像)に加え、それらの機器が有す る機能のアップデートの画像についても、意匠登録 の対象となる。  また、具体的な機能を実現するソフトウェアのイ ンストールによって電子計算機に記録された画像に ついても、付加機能を有する電子計算機の意匠を構 成する画像と認め、意匠登録の対象と取り扱う。こ こでいう電子計算機は、任意のアプリケーションソ フトウェアをインストールすることで自由な機能拡 張が可能となる、パソコンやタブレットコンピュー タ、スマートフォン等を含む概念である。  一方、現行意匠法上の意匠が物品との一体性を前 提とするものであることは上述のとおりであるた め、今般の意匠審査基準改訂においても、物品の外 部からの信号によって表示される画像や、物品から 独立したコンテンツの画像は、引き続き、意匠登録 の対象とは取り扱われない。前者の画像は、例えば、 ウェブサイトの画像や、クラウドコンピューティン グを含むインターネットを介して使用するソフト ウェアの画像、テレビ番組の画像などであり、後者 の画像は、映画の一場面やゲームの画像などが代表 的な例である[図1]。 3.意匠を構成するものと認められる画像の要件  次に、意匠法上の意匠を構成するものと認められ る画像が満たすべき審査基準上の要件について、よ り具体的に見ていく。 1)意匠を構成するものと認められる画像  出願の意匠が意匠法上の意匠(画像を含む意匠) として認められるための要件として、現行意匠審査 基準では、物品の表示部に表示される画像が、その 物品にあらかじめ記録された画像であって(現行基 準74.1.2及び74.5.1.1.1.1.2)、その物品の機能を果たす ために必要な表示を行う画像であること(現行基準 74.1.1及び74.5.1.1.1.1.1)、又は、物品の機能を発揮で きる状態にするための操作の用に供される画像であ ること(現行基準74.2及び74.5.1.1.1.2)を求めている。  一方、改訂意匠審査基準では、物品の表示部 に表示される画像が、その物品に記録された画 従来から登録の対象としていた画像 ○ 引き続き登録の対象とならない画像 × ●物品に「記録」された画像 ・左記の機器が有する機能のアップ デートの画像 ・電子計算機(パソコン、タブレット コンピュータ、スマートフォン等) に記録された具体的な機能の画像 →「○○機能付き電子計算機」の意匠 として出願 ●外部からの信号等による画像を表示 したもの ・ウェブサイトの画像 ・インターネットを介して使用するソ フトウェアの画像(クラウドコンピ ューティングを含む) ・テレビ番組の画像 ●映画等(コンテンツ)を表した画像 ・映画、ゲームの画像 等 今回登録の対象として追加する画像 × → ○ ●物品に「あらかじめ記録」された 画像 ・デジタルカメラ等、特定用途の機器 にあらかじめ記録された画像 「歩数計機能付き電子計算機」 ウェブサイトの画像 ゲームの画像 (例) 「デジタルカメラ」 意匠登録第1456916号 「呼気分析器」 第1470457号 (例) (例) ●図1 新たに意匠登録の対象となる画像

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像(当該物品が有する機能に係るアップデートの 画像を含む。)であって(改訂基準74.4.1.1.1.1.2及 び74.4.1.1.1.2.3)、 そ の 物 品 の 機 能 を 果 た す た め に必要な表示を行う画像であること(改訂基準 74.4.1.1.1.1.1)、又は、物品の機能を発揮できる状態 にするための操作の用に供される画像であること (改訂基準74.4.1.1.1.2.1)を求めることとしている。  また、電子計算機は、それ単体では情報処理機能 しか有さないものの、ソフトウェアと一体化するこ とにより具体的な機能を有する新たな物品を構成し 得るものと理解し、この電子計算機にソフトウェア をインストールすることによって、電子計算機が通 常有する以外のハードウェアを要さずに成立する新 たな物品を、付加機能を有する電子計算機(意匠に 係る物品「○○機能付き電子計算機」)と位置付ける (改訂基準74.4.1.1.1.3.2)。  例えば、[図2]左のように表される物品は、破 線で記載されたタブレット型の電子計算機にソフト ウェアをインストールすることにより、電子計算機 が通常有する以外のハードウェアを要さずに成立す る新たな物品である「マシニングセンタ制御機能付 き電子計算機」の意匠を構成するものと認められる。  一方、[図2]右のように表される物品は、その 破線記載を考慮すると、切削加工を用途及び機能と する物品であって、切削加工の実現のために電子計 算機以外のハードウェアを必須の構成要素とする物 品であると認められる。よって、このような場合の 意匠に係る物品は「マシニングセンタ」とするのが 適切であり、「マシニングセンタ機能付き電子計算 機」や「マシニングセンタ制御機能付き電子計算機」 の意匠は構成しないものと認められる。 2)意匠を構成する画像に該当しないもの   (引き続き登録の対象とならない画像)  物品の外部からの信号による画像を表示したもの は、意匠を構成する画像には該当せず、引き続き意 匠登録の対象とはならない。これらの画像を表示す る際に、キャッシュと呼ばれる一時的な記憶装置に 記録がなされる場合であっても、そのような一時的 記録にすぎないものは、意匠に係る物品を構成する 意匠法上の物品に記録された画像とは認められな い。電子計算機に接続又は挿入された記録媒体(外 付けハードディスクや記録メディアなど)に記録さ れた画像を表示したものも、同様に、物品に記録さ れた画像とは認められない。  また、物品の機能から独立したコンテンツの画像 を表示したものについても、意匠を構成する画像に は該当せず、引き続き意匠登録の対象とはならない。  これらの画像は、物品の形状、模様若しくは色彩 又はこれらの結合として、意匠法第2条第1項に規 定される「意匠」を構成するものとは認められない ものである。 付加機能を有する電子計算機の意匠を 構成する例 付加機能を有する電子計算機の意匠を構成しない例 (切削加工内容の設定を行うための画像) ※願書の記載事項及びその他の図は省略 【正面図】 【正面図】 (切削加工内容の設定を行うための画像) ※願書の記載事項及びその他の図は省略 【意匠登録を受けようとする部分の 部分拡大図】 〇「マシニングセンタ」 ×「マシニングセンタ機能付き電子計算機」 ×「マシニングセンタ制御機能付き電子計算機」 〇「マシニングセンタ制御機能付き   電子計算機」 ●図2 付加機能を有する電子計算機(○○機能付き電子計算機)の例

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3)当該物品又はこれと一体として用いられる物品 に表示される画像  意匠法第2条第2項は、物品の操作の用に供され る画像の場合、当該物品に表示されるものに加え、 当該物品と一体として用いられる物品に表示される ものについても、意匠登録の対象となる画像の意匠 を構成することを規定している。  当該物品に表示される画像とは、文字どおり、例 えば携帯電話機の画像表示部のように、当該物品自 体が有する画像表示部に表示される画像を意味し、 当該物品と一体として用いられる物品に表示される 画像とは、当該物品の使用上の便宜の観点から、当 該物品そのものではなく、当該物品の使用の際に同 時に用いられる他の表示機器に表示される画像を指 す(改訂基準74.4.1.1.1.2.2)。例えば、テレビモニター に表示される磁気ディスクレコーダーの操作画像 や、データ表示機に表示される付加機能を有する電 子計算機の操作画像などが、当該物品と一体として 用いられる物品に表示される画像に該当する。  一方、ネットワークコンピューティングにより他 の電子計算機上で用いられる画像の場合、電子計算 機は情報処理を本来的機能とする物品であり表示機 器に表示される画像とはいえないため、このような 画像は、当該物品と一体として用いられる物品に表 示される画像には該当しない[図3]。 4.願書及び図面の記載  今般の意匠審査基準改訂では、意匠登録の対象と なる画像が、物品に事後的に記録されたものまで拡 充される。そのような画像を含む意匠について意匠 登録出願を行う場合の、願書及び図面記載上の留意 点は、以下のとおりである。 1)願書の「意匠に係る物品」の欄の記載  まず、物品があらかじめ有する機能のアップデー ト画像の場合には、従来どおり、経済産業省令で定 める物品の区分又はそれと同程度の区分による物品 の区分を記載する。例えば、「複写機」が有する機 【意匠に係る物品】 「デジタルビデオディスクレコーダー」 テレビ 【意匠に係る物品】 「一体として用いられる物品」 「〇〇機能付き電子計算機」 モニター ネットワークを通じて電子計算機間で用いられる画像は、登録の対象外 【意匠に係る物品】 ×「〇〇機能付き電子計算機」 (クラウド環境のものを含む) 結果 指示 ネットワークコンピューティング 「一体として用いられる物品」に 該当しない物品 クライアント端末 「スマートフォン」「タブレット」「パソコン」等 入力指示に基づき、 結果をフィード バック表示 従来の範囲 表示機器 電子計算機 今回の追加範囲 今回の改訂後も対象外 「一体として用いられる物品」 サーバー

画像

(DVDレコーダーの操作 画像) 信号 受動的な 情報表示 信号 (電子計算機の操作

画像

画像) 受動的な 情報表示

画像

画像

●図3 「当該物品と一体として用いられる物品に表示される画像」と認められる範囲

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能の画像であれば、あらかじめ記録された画像で あっても、事後的なアップデートにより記録された 画像であっても、意匠に係る物品は「複写機」でよい。  一方、付加機能を有する電子計算機の画像の場合 には、ソフトウェアのインストールにより実現され る具体的機能(その画像に係るもの)を○○機能と して、「○○機能付き電子計算機」と記載する。こ の○○機能は、経済産業省令で定める物品の区分又 はそれと同程度の区分により表される物品の機能と 同等の一の機能とする必要がある(改訂基準74.2.1 (2)、74.7.1.1及び74.7.1.2)。例えば、付加機能によ り「歩数計」と同等の機能を有するものである場 合には「歩数計機能付き電子計算機」、付加機能に より「デジタルカメラ」と同等の機能を有するもの である場合には「カメラ機能付き電子計算機」のよ うに記載する。また、物品の区分と同程度の付加機 能を同時に複数有する電子計算機において、それら の中から実行に移すものを選択、決定するための メニュー画像について意匠登録出願する場合には、 「ホームメニュー機能付き電子計算機」と記載する。  「意匠に係る物品」の欄の記載における不適切な 例としては、次のようなものが挙げられる。例えば、 「事務処理機能付き電子計算機」のように付加機能 として総括的な機能を記載したもの、「決定機能付 き電子計算機」や「選択機能付き電子計算機」のよ うに付加機能として抽象的な機能を記載したもの、 「携帯情報端末機能付き電子計算機」や「情報処理 機能付き電子計算機」のように一の具体的な付加機 能を表したものでないもの、である。  また、例えば、「電子メール機能及び動画再生機 能付き電子計算機」のように、二以上の異なる付加 機能を願書の「意匠に係る物品」の欄に並列して記 載したものも、意匠ごとの出願とは認められず、不 適切な記載となる。これは、図面に表された画像が、 「電子メール機能」及び「動画再生機能」のいずれ にも、それぞれ別個に用いられるものであるような 場合であり、同時に表示、使用される一の画像が、 二以上の付加機能、例えば、「経路誘導機能」及び 「音楽再生機能」に係るものであるような場合には、 「意匠に係る物品」の欄に、「経路誘導機能及び音楽 再生機能付き電子計算機」のように記載してもよい [図4]。 2)願書の「意匠に係る物品の説明」の欄の記載  意匠に係る物品が経済産業省令で定める物品の区 分のいずれにも属さない場合には、従前どおり、そ の物品の使用の目的、使用の状態等物品の理解を助 けることができるような説明を記載する(改訂基準 74.2.1(4)①)。  また、画像の具体的な用途及び機能についても、 適切な例 不適切な例  同時に表示、使用される一の画像が、二以上 の付加機能(「経路誘導機能」及び「音楽再生 機能」)に係るものであるような場合には、 「経路誘導機能及び音楽再生機能付き電子計算 機」のように記載してもよい。  同じ画像が、二以上の付加機能(「電子メー ル機能」及び「動画再生機能」)のいずれにも、 それぞれ別個に用いられるものであるような場 合には、それらを並列して記載してはならない。  ×「電子メール機能及び動画再生機能付き   電子計算機」 (例) (例) ●図4 「意匠に係る物品」の欄の記載(意匠ごとの出願と認められるもの)

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従前どおり、物品のどのような機能を果たすために 必要な表示を行う画像なのか、又は、物品のどのよ うな機能を発揮できる状態にするために行われる操 作の画像なのか、そしてその操作方法について、説 明を記載する(改訂基準74.2.1(4)②)。  さらに、「当該物品と一体として用いられる物品 に表示される画像」について出願をする場合には、 「画像図に示す画像は、当該物品と一体として用い られる表示機器に表示されるものである。」のよう に、一体として用いられる物品が表示機器である旨 の説明を記載する(改訂基準74.2.1(4)③)。この場 合の「表示機器」は、より具体的な物品名(例、テ レビモニター、データ表示機、プロジェクタースク リーン、など)を記載してもよい。 3)図面の記載  図面の記載については、基本的に従前どおりであ り、特段の変更はない。  まず、画像のみではなく、意匠に係る物品全体の 形態について、一組の図面(正投影図法による、正 面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底 面図)を作成し提出することが原則となる(改訂基 準74.2.1(5)①)。画像は、織物地のような平面的な ものとは認められないため、表面図及び裏面図を一 組の図面とすることは許されない。  また、「当該物品と一体として用いられる表示機 器に表示される画像」を表す図は、【画像図】とし て記載する(改訂基準74.2.1(5)②)。この場合、意 匠に係る物品全体の形態を表す一組の図面は、説明 を記載することにより、その全部又は一部を省略す ることが可能となる(改訂基準74.2.1(5)③(iv))。 5.類否判断(意匠に係る物品の類否判断)  意匠の類似は、新規性(意匠法第3条第1項第3 号)、先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠の 保護除外(同第3条の2)、先願(同第9条)等、出 願意匠の登録性について判断を行う上で、非常に重 要な判断事項である。  画像を含む意匠が類似するための条件としては、 ①両意匠の意匠に係る物品が同一又は類似、②両意 匠の画像の用途と機能が同一又は類似、③両意匠の 形態が同一又は類似、の3点について確認する必要 があり、これら全てに該当する場合に、両意匠が同 一又は類似すると判断する(改訂基準74.4.2.2.1)*3  このうち、意匠の類似範囲を物品の面から画すと もいえる、①意匠に係る物品に関する類否判断(改 訂基準74.4.2.2.1.1)の考え方は次のとおりである。  まず、(a)意匠に係る物品の用途及び機能に相違が あるが、形態上の特徴として現れないなど、それが総 合的に判断して考慮し得ない相違である場合には、意 匠に係る物品は『類似』と判断し、明らかに異なる使 用目的など、総合的に判断して考慮すべき他の用途 及び機能がある場合には『非類似』と判断する。  (b)付加機能を有する電子計算機同士の場合に <公然知られた意匠> <出願の意匠> 「音楽再生機能付き電子計算機」 (選曲方法を選択するための画像) 「音楽再生機」 (選曲方法を選択するための画像) 「マシニングセンタ」 (切削加工内容の設定を行う ための画像) 「マシニングセンタ制御機能付き 電子計算機」(切削加工内容の 設定を行うための画像) <公然知られた意匠> <出願の意匠> 意匠に係る物品が類似する例 意匠に係る物品が類似しない例 ●図5 意匠に係る物品についての類否判断の例

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は、それらの付加機能が相互に類似する場合に『類 似』と判断する。  (c)付加機能を有する電子計算機と他の物品の場 合には、その付加機能を有する電子計算機単体で、 当該他の物品と類似の用途・機能を実現できる場合 に『類似』と判断する[図5]。 *3 形態的な特徴までを考慮した、類似する意匠の確認方法と しては、J-Plat-Pat(特許情報プラットフォーム)を用いた 検索で「本意匠-関連匠」の検索オプションを選択するこ とにより、これまでに類似と判断された登録意匠の相互関 係を確認することが可能である。 (J-Plat-Patト ッ プ ペ ー ジ https://www.j-platpat.inpit. go.jp/)

Ⅲ.画像を含む意匠の創作非容易性判断

基準の明確化

1.創作非容易性に関する判断基準明確化の考え方  画像を含む意匠の創作においては、その画像を介 して実現しようとする物品の機能や使用者のユーザ ビリティの向上の観点が最も重要視され、そこに多 くのデザイン投資がなされている。  意匠制度は、新規かつ一定の創作レベルを有する 意匠(物品の外観形態)について、その積極的な保 護と利用を図るものであるため、創作の成果が視覚 的な特徴として現れた画像を含む意匠のみを適切に 保護し、ありふれた手法に基づいて創作されるよう な画像については、できる限り意匠権による保護の 射程から外し、当業者の自由利用に委ねることが重 要である。  よって、今般の意匠審査基準改訂においては、画 像を含む意匠について、前述した意匠登録の対象の 拡充と併せ、創作非容易性の要件についても、基本 的な考え方や具体的な判断事例などを交えた判断基 準の明確化を図るための改訂を行っている。なお、 この改訂は、創作非容易性に関する判断基準の変更 を意図するものではなく、従前からの審査実務運用 における考え方を、より分かりやすく、かつ類型化 して提示することを目的としている。  この改訂意匠審査基準(画像を含む意匠の創作非容 易性判断基準の明確化)は、2016年4月1日以降に 審査される意匠登録出願*4に適用することとなる。 *4 2016年3月31日以前に出願された意匠登録出願も含まれる。 2.明確化のポイント  今回の意匠審査基準改訂における、画像を含む意 匠についての創作非容易性判断基準明確化のポイン トは、以下のとおりである。 1)論理構成の明記  多数の審決において用いられている判断手法に倣 い、出願の意匠について創作容易と判断する際の論 理構成を文章で明記している(改訂基準74.4.3)。  すなわち、画像を含む意匠の構成態様において、 ・それらの基礎となる構成要素や具体的態様が本願 出願前に公然知られ、又は広く知られており、 ・それらの構成要素を、ほとんどそのまま、又は当 該分野においてよく見られる改変を加えた程度で、 ・当該分野においてありふれた手法である単なる組 合せ、若しくは、構成要素の全部又は一部の単な る置換えなどがされたにすぎないもの、 である場合に、容易に創作することができた意匠と 判断する。 2)判断主体の知識範囲の明記  創作非容易性についての判断主体(当業者)が有 する知識範囲についての考え方を明記している(改 訂基準74.4.3.1)。  すなわち、画像を含む意匠について創作非容易性 の判断を行う際には、その意匠の出願の時点におけ る、当該意匠に係る物品を製造したり販売したりす る業界の意匠に関する通常の知識に加え、意匠に係 る物品の異同を問わない、画像に係る意匠に関する 通常の知識(画像デザイン一般に関する知識)を有 する者を基準として、判断を行う。  この、画像デザイン一般に関する知識が含まれる ことについては、画像デザインの開発の場面におい ては、インターフェイスという特性やユーザビリ ティの観点などから、物品(ハードウェア)の分野 を超えて同じ創作者が多種物品の画像デザイン開発 を担当したり、開発の際に参照したりすることが多

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いという実態があり、また、画像を含む意匠は、当 該画像部分について意匠登録を受けようとする部分 意匠の出願が多いため、これらの実態を踏まえた、 より適切な審査判断に資するものと考えられる。 3)評価の際に参酌可能な事項の明記  出願の意匠が容易に創作することができた意匠か どうかを評価、判断する際に、審査官が参酌するこ とのできる事項について明記している(改訂基準 74.4.3.4)。  すなわち、容易に創作することができた意匠かど うかを評価、判断する上で、出願の意匠の視覚的な 特徴として現れるものであって、従来の意匠には見 られないような独自の創意工夫に基づく、当業者の 立場からみた新たな意匠の着想や独創性が認められ る場合には、その点についてプラスの考慮をするこ ととなる。  ただし、考慮の対象となるのは、形状、模様、色 彩として、視覚的に認識可能な特徴である必要があ り、また、その特徴について、出願当初から明確に 表現されていることが必要である。したがって、特 徴記載書や意見書の記載を参酌する場合には、出願 当初の願書及び図面の記載から導き出される範囲の もののみが、考慮の対象となる。 3.よく見られる改変やありふれた手法の例  創作容易と判断する際の考慮事項である、公然又 は広く知られた構成要素に基づく「よく見られる改 変」及び「ありふれた手法」について、画像を含む 意匠の分野における典型例をそれぞれ明記している (改訂基準74.4.3.2)。  よく見られる改変の例としては、形状、模様若し くは色彩又はこれらの結合について、(a)矩形角部 の隅丸化、立体を模した陰影の付加、構成要素間の 隙間の設置、隙間の幅の変更、プルダウン化といっ た細部の造形の変更、(b)区画ごとの単純な彩色、 要求機能に基づく標準的な彩色といった色彩の単純 な付加、(c)(a)及び(b)のよく見られる改変の 単なる組合せ、が挙げられる。  また、ありふれた手法の例としては、置換、寄せ ●寄せ集めによる意匠 「車載用経路誘導機」 <公然知られた配置> 公然知られた画像を、 よく見られる改変を加えて寄せ集めて、 一つの画像を構成したにすぎない 矩形角部の隅丸化 一部要素の太枠化 「車載用経路誘導機」 「車載用経路誘導機」 <よく見られる改変> <公然知られた意匠> <出願の意匠> 寄 せ 集 め ●図6 容易に創作することができる意匠の例

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集め、配置の変更、構成比率の変更又は連続する単 位の数の増減、物品の枠を超えた構成要素の利用・ 転用、フレーム分割態様の変更、まとまりある区画 要素の削除、既存の変化態様の付加、これらの単な る組合せ、が挙げられる。 4.容易に創作することができる意匠の例  今回の意匠審査基準改訂では、創作非容易性判断 時の考慮事項となる「よく見られる改変」や「あり ふれた手法」の明記に加え、実際に創作容易と判断 される意匠の例として、ありふれた手法の類型ごと に複数の想定事例を追加掲載している。[図6]に、 その一例を示す。

Ⅳ.画像意匠公報検索支援ツール

(GraphicImagePark)

 冒頭でも触れたが、意匠法による画像デザインの 保護拡充を図る際には、画像を含む登録意匠に関す る事業者等のクリアランス負担の低減を図ることも 重要な課題となる。  今回の意匠審査基準改訂の検討と並行して開発 が進められ、2015年10月1日から一般提供が開始さ れた画像意匠公報検索支援ツール「Graphic Image Park」(通称GrIP)*5について、その要点を説明する。 *5 独立行政法人工業所有権情報・研修館が無料提供するウェ ブサービス。

1.GrIP(Graphic Image Park)とは

 GrIPは、画像デザインを創作・利用するデザイ ナーや事業者が、新しい画像デザインの開発、事業 の実施、意匠登録出願を行う前に、他人が既に保有 する画像を含む登録意匠の調査を効率的に行うため のツールである。  GrIPのシステム内には、画像を含む登録意匠(画 像意匠分類「W」が付与された登録意匠)が順次蓄 積されており、利用者が比較調査したいと思う任意 の画像を入力すると、その画像と既存の登録意匠に 含まれる画像とをイメージマッチング技術を利用し て機械的に照合した上で、形や色の特徴が近いと評 価された順に登録意匠を並べ替えて表示すること で、画像デザインに関する先行意匠調査を効率化し ようとするものである[図7]。 2.GrIPの利用方法  GrIPの利用は無料であり、インターネットに接 続されたパソコンがあれば、誰でもすぐに利用する ●図7 GrIPの利用イメージ ◦GrIPトップページ  https://www.graphic-image.inpit.go.jp/

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ことができる。  GrIPの操作は、[ステップ1]イメージファイル の入力、[ステップ2]サムネイルの表示、[ステッ プ3]意匠公報の表示、が基本の3ステップとなる。  利用者は、自らが比較調査したいと思う画像の イメージファイルをGrIP画面内の入力エリアにド ラッグ&ドロップすることで、その入力画像と形や 色の特徴が近いものから順に、画像を含む登録意匠 が並べ替え表示される仕組みである。既存の特許情 報プラットフォーム(J-PlatPat)では、検索時に日 本意匠分類や意匠に係る物品などの専門知識が必要 となり、表示の順序も登録日等の日付順が基本とな るが、このGrIPでは、利用者自らが入力した個々 の画像を起点とすることで利用の柔軟性を高めると ともに、形態的特徴の共通性に基づく並べ替え表示 を行うことにより、画像を含む登録意匠の調査効率 の向上が期待される。  ステップ2のサムネイル表示は、並べ替え結果の 一覧性を高めるためのものであり、気になる登録意 匠の全図やより詳しい書誌情報については、ステッ プ3の意匠公報(PDF)表示により確認することが 可能である。また、調査の効率や精度をより高めた い場合には、比較調査の対象となる登録意匠を出願 日等の日付や意匠に係る物品、意匠分類によって絞 り込むことや、「並べ替えモード」の選択により、 形や色といった比較時の優先項目を入力イメージの 特徴に応じて変更することも可能である。

Ⅴ.画像を含む登録意匠に関する実施・

侵害行為等

 意匠登録を受けた意匠権者は、業として登録意匠 及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有し (意匠法23条)、権原なき者による実施(意匠権の侵 害)に対しては、侵害行為の差止め(意匠法37条)と、 損害賠償(民法709条)を請求することが可能である。  一方、意匠の実施や意匠権侵害の成否についての 判断は、個別の事案に応じて裁判所が行うものであ るため、これを予断することはできない。そのた め、今回、意匠審査基準の改訂により、画像を含む 意匠の登録対象を拡充するにあたり、画像デザイン の開発や利用に関わる事業者等が参照可能な、画像 を含む意匠の意匠権にまつわる判断についての考え 方が、有識者の協力の下でまとめられている*6  紙幅の関係上、本稿では資料の紹介のみにとどめ るが、この資料の記載内容は、意匠法等関係法令の 制度趣旨やこれまでの裁判例などに基づいて想定さ れる一つの考え方(留意すべき事項)を示した「参 考情報」の位置付けであり、画像デザインを取り扱 う事業者の方々には、この資料の記載を参考としつ つも、具体的な事案に応じて、より慎重な対応をお 願いしたい。 *6 産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会報告書「画 像デザインの保護の在り方について(平成28年1月)」別紙 2「参考資料 画像を含む意匠に関する意匠審査基準改訂 の方向性を踏まえた実施・侵害行為等についての考え方」 (http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/toushintou/pdf/ isyou_seido_160205_gazo/01.pdf)

おわりに

 今回の意匠審査基準改訂では、これまでの、物品 にあらかじめ記録された画像に加え、アップデート やアプリケーションソフトウェアのインストールに より事後的に物品に記録された画像についても、意 匠登録の対象として認められることになる。画像デ ザインの利用が拡大する中、自社製品の差別化や ユーザビリティの向上、新たな製品展開といった事 業活動の保護手段として、有効活用いただければ幸 いである。  なお、ネットワークを通じて電子計算機間で用い られる画像など、画像デザインの保護を巡る今後の 意匠制度の在り方については、この新しい意匠審査 基準に基づく運用の状況を見定めつつ、情報技術の 更なる進展やユーザーニーズの動向を注視しなが ら、引き続きの検討課題としていくこととなる。

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