第48巻第10号 2006 17
丸亀平野における地下水流動の調査と数値解析
濱 崎 修* 河 原 能 久** 1. はじめに 丸亀平野は,瀬戸内気候区に位置し,自己流 域の降水量が少ないため,しばしば渇水被害を 受けてきた。近年でも1994年の渇水(以降平6渇 水と略記)は厳しく,甚大な被害を与えた。こ のため,丸亀平野では,満濃池などの溜池の造 成に代表されるように水の確保に苦心するとと もに,水利用について種々の工夫を凝らしてき た。1974年に香川用水(吉野川流域からの導 水)の運用が開始され,農業用水及び都市用水 の取水形態は大きく変貌した。また,流域の社 会・経済情勢の変遷に伴う灌漑面積の減少や都 市用水・排水量の増大等により,流域の水循環 系も大きく変化してきた。 国土地理院の水準測量結果(1991年)によれ ば,近年,丸亀平野では海岸部での地盤沈下・ 地下水塩水化が認められている。また,平野部 においても,水源の変更(不圧地下水から被圧 地下水に変更)による被圧地下水位の低下がみ られる。このような状況に対応するため,現在, 地下水利用者等が香川中央地域地下水利用対策 協議会を組織し,自主規制を行っている1)。また, 香川県が地下水利用を推進するための調査を 行っているが2),地下水流動の実態は十分には明 らかにされていない。 丸亀平野においても,限られた水資源を有効 に利用するとともに,流域の健全な水循環系を 構築していくことが急務である。本研究では, 丸亀平野の適正な水管理システムの構築を目標 として,水循環において重要な役割を果たして いる地下水や農業用水の実態を調査するととも にMIKE-SHEモデルによる水循環系の解析を行っ た。ここでは,地下水流動に関して得られた成 果を中心に報告する。 2.丸亀平野の概要 2.1 対象領域 本研究の対象流域である丸亀平野は,瀬戸内 海に面し,讃岐平野の中央に位置する平野であ る。地形的には平野上流部の山地とその下方に 発達する段丘・台地および中・下流域に分布す る沖積扇状地から成る。丸亀平野流域(丸亀平 野 とそ の 涵 養域 を 包 括 する 流 域 ) の面 積 は 約 320km2である。平野中央部には,一級河川の土 器川と二級河川の大束川,金倉川,弘田川の合 計4河川が並行して流れている(図-1参照)。 弘田川 金倉川 土器川 大束川 図―1 丸亀平野と観測地点 丸亀平野の土地利用については,1976年以降, 減反や農作物転換により,水田面積が減少し, 宅地化が急速に進展している。現在,流域内の 土地利用は,山林が約43%,水田が約28%,畑 が約8%,宅地・市街地が約10%,その他が約 11%となっている。 本研究に関連する観測項目および観測地点を 表-1に示す。 * はまざき おさむ 国土交通省香川河川国道事務所 ** かわはら よしひさ 広島大学大学院工学研究科2.2 水理地質 (1)帯水層 既往の地質調査資料を総合的に分析して丸亀 平野の水文地質構造図(図-2)を作成した。丸 亀平野の水文地質構造は4層に大別できる。最上 位の沖積層(A層)は,砂礫質主体で約10~20m 層厚で不圧地下水が分布し,その下位には粘 土・シルト主体の難透水層の段丘堆積層(B層) が約20~40m分布し,更にその下位には被圧地下 水が分布する砂泥互層の三豊層群(C層)が約40 ~80m現れ,平野部の基盤は領家花崗岩類で構成 される。 (2)透水係数及び比貯留係数 既往の現場透水試験資料に基づいて各帯水層 の透水係数を一次設定した。 A層の透水係数は 1×10-4~10-5(m/s)であり,砂礫主体の層に帯水 すると考えられる。B層の透水係数は1×10-8~ 10-9(m/s)で粘性土が主体の不透水層である。C 層の透水係数は,透水試験資料がないため,深 井戸の揚水実績資料から計算により求めた。C層 の透水係数は5×10-5 (m/s)で砂泥互層中の砂層 中に帯水すると考えられる。比貯留係数につい ては,既往の揚水試験結果(不圧帯水層:2.5× 10-4)に基づき設定した。このような透水係数及 び比貯留係数の値は,後述するシミュレーショ ン結果と観測結果との比較を通して,調整され た。最終的に設定した係数の値は後述の表-3, 表-4に示されている。 表-1 観測所 観測項目 観測所 河川流量 丸亀橋,祓川橋,常包橋 不圧地下 水位 丸亀No.2,丸亀No.4, 丸亀No.5,丸亀(浅井戸), 左岸6.8k,右岸9.6k, 坂出(川津),西坂元 被圧地下 水位 丸亀(深井戸),豊原小学校, 高憧神社 各層の透水係数の分布を図-3に示す。A層の透水 係数は土器川下流の沿川付近で最も高い。B層の透 水係数は各河川沿いで高い値を示すのに対して,C 層の透水係数は丸亀平野下流域一帯で大きい。 3. 丸亀平野における水循環系の実態調査 3.1 地下水位の経年変化 (1) 不圧地下水位 図-4は,図-1に示す観測地点,丸亀No.4,丸 亀No.5,丸亀(浅井戸),左岸6.8k,西坂元, 右岸9.6k地点における地下水位の経年変化を表 している。図より,各地点での地下水位の変動 特性として,以下のことが挙げられる。 図-2 丸亀平野の水文地質構造
第48巻第10号 2006 19 (b) 丸亀(浅井戸),左岸6.8k (c) 右岸6.8k,右岸9.6k 図-4 不圧地下水位の経年変化 (a) 丸亀No.4,丸亀No.5 (a) A層 (b) B層 (C) C層 図-3 各層の透水係数
① 丸亀No.4は土器川河口部の堤内側の砂州上に あり,地下水位は夏期に約0.5m~0.7m上昇 する。平6渇水の影響を受けて水位はやや低下 したが,その後ゆるやかに回復した。 ② 丸亀No.5は丸亀平野下流部の河川沿いの砂州 上に位置する。地下水位はやや大きく,夏期 に約1~2m上昇する。平6渇水の影響は最低水 位の顕著な低下という形で表れた。 ③ 左岸3.8k地点に位置する丸亀(浅井戸)は丸 亀平野下流部の砂州上に位置し,周辺には旧 河道の痕跡がみられる。地下水位は,夏期に 約1.0m~1.5m水位上昇する。経年的にみる と,観測開始時点より水位は低下傾向にある。 最低水位は,平6渇水時とその後に低下し,回 復が鈍い。 ④ 左岸6.8kは土器川河川沿いの氾濫源にあり, 地下水位は夏期に約2m水位上昇する。経年的 な傾向は丸亀(浅井戸)と類似している。 ⑤ 右岸6.8k地点に位置する西坂元は扇状地に位 置し,地下水位は夏期に1~2m水位上昇する。 平6渇水の影響は限定的であり,長期的な変動 傾向は認められない。 ⑥ 右岸9.6kは土器川河川沿いの氾濫源に位置し, 地下水位は夏期に1~2m上昇する。平6渇水の 影響は少なく,長期的な変動はみられない。 以上の観測結果と地形分類図から推察すると, 土器川の左岸側にある丸亀(浅井戸)及び左岸 6.8kは土器川沿いの丸亀平野の地下水盆のほぼ 中央部に位置する。図-5の不圧地下水面の深度 や 旧 河 道 等 の 情 報 ( 図 -5 の 作 成 に つ い て は 後 述)から知られるように,当該地点は地下水脈 ②の影響下にあり,地下水脈①及び③に比べて, 地下水涵養量は少ないものと推察される。一方, 右岸側(6.8k)にある西坂元は,基盤岩が浅く地 下水盆の縁に位置しており,周辺には旧河道の 痕跡がみられる。当該地点は土器川左岸側から 右岸側を流れる地下水脈①の影響を受けて,地 下水涵養がなされているものと推察される。右 岸9.6kの地点は,土器川沿いの氾濫原内に位置 するが,沖積層が薄い岡田台地に隣接している という,他の観測地点とは異なる特徴を有して いる。当該地点は,土器川の伏流水が左岸側か ら右岸側に流れる地域に位置し,地下水涵養が なされているものと推察される。 図-5 不圧地下水面の地表面からの深度 (2) 被圧地下水位 丸亀(深井戸),高憧神社,豊原小学校にお ける被圧地下水の経年変化を図-6に示す。図よ り次の特徴を指摘することができる。 -25.0 -20.0 -15.0 -10.0 -5.0 0.0 5.0 10.0 S 52 S 53 S 54 S 55 S 55 S 56 S 57 S 58 S 59 S 60 S 61 S 62 S 63 H 1 H 2 H 3 H 4 H 5 H 6 H 7 H 8 H 9 H 10 H 11 H 12 H 13 H 14 H 15 位( m 丸亀(浅井戸) ① 丸亀(深井戸)では大きな水位変化が記録さ れている。詳細に検討すると,1977年~1979 年の水位低下は,灌漑期に発生しており,農 業用水の揚水に起因すると推測される。一方, 1985年~1987年の水位低下は,非灌漑期であ 地下水 T .P. ) 丸亀(深井戸) -20.0 -18.0 -16.0 -14.0 -12.0 -10.0 -8.0 50年 度 55年 度 60年 度 2年度 6年度 7年度8年度 9年度10年 度 11年 度 12年 度 13年 度 14年 度 15年 度 16年 度 17年 度 地 下 水 位 ( T .P .m 豊原小学校 ) 高憧神社 図-6 被圧地下水の経年変化
第48巻第10号 2006 21 り,上水道の揚水によるものと考えられる。 1988年~1993年において,水位がほぼ安定し ており,この期間中の揚水量が,この地域に おける安定揚水量であると考えられる。1994 年の渇水(平6渇水)では,深層地下水位は過 剰な汲み上げにより著しく低下した。1996年 から2001年にかけて3m程度の回復が見られる が,これは揚水量の減少によると推測されて いる。この地域の被圧地下水は,周辺での揚 水の影響を強く受けるが,汲み上げが停止す れば水位は比較的早く回復する。 ② 高憧神社は丸亀平野下流のほぼ中央に位置し, 旧河道の痕跡に近接している。地下水位は 1980年をピークに,その後低下し,平6渇水の 影響を受けて最低水位に達した。水位は2001 年(平成13年)まで徐々に回復したが,2002 年の冬期渇水以降,低下し続けている。 ③ 豊原小学校は丸亀平野下流の金倉川左岸に位 置し,旧河道の痕跡がみられるところにある。 水位は,1980年のピーク後に低下したが,高 憧神社に比べて低下量は小さい。平6渇水の影 響も顕著ではなく,1999年(平成11年)まで 水位はほぼ横這いで推移した。その後若干の 上昇傾向を示していたが,2002年の冬期渇水 を経て,水位は低下を続けている。水位の変 化は,平6渇水を除けば,高憧神社のそれと類 似している。 3.2 地下水位の平面分布と地下水の流動 丸亀平野における地下水位の平面分布と地下 水流動状況を把握するため,平成15年から17年 の灌漑期と非灌漑期に地下水調査を実施した (浅井戸105箇所,深井戸22箇所)。浅層地下水 面の地表面からの深度を前述の図-5に,浅層お よび深層地下水の水位の等高線を図-7に示す。 丸亀平野では,これまでに旧河道とその周囲 の透水性の高い氾濫原が確認されている。今回, 丸亀平野で実施されている地質調査ボーリング 資料(1,160本)を分析することにより旧河道と 氾濫源の痕跡を整理した。図-5にはその結果を 不圧地下水面の地表面からの深さとともに示し ている。その結果,3系統の水脈,すなわち,土 器川の伏流水が左岸側から右岸側へ流動する水 脈(図中の①),平野中央部を流れ再び土器川 下流に環流する水脈(図中の②),金倉川方向 へ多く流れ旧河道沿いを流下する水脈(図中の ③)の存在が推測された。 図-7 地下水位の等高線(標高表記) 浅層地下水位は,概ね地表の地形に沿った分 布であるが,平野の東西に位置する氾濫原では, 地表面から地下水位までの深度が平野中央部に 比べ2~3m深い。また,土器川の瀬切れ発生区間 と氾濫原や旧河道の位置が一致していることか ら,河川水と浅層地下水は,密接に関連してい ると考えられる。 図-7より,灌漑期と非灌漑期の浅層地下水を 比較すると,地下水位の標高15~20m,20~25m の範囲において約1.0~1.5mの変動幅がみられる。 一方,深層地下水は,浅層地下水に比較して地 下水位の勾配が緩く,地表の地形に沿った分布 となっている。 3.3 「出水」の流出量調査 丸亀平野の農業用水の特徴的な取水形態として, 「出水」(ですい)と呼ばれる地下水取水がある。 土器川下流の沿川で約60箇所(ポンプまたは自然 流下)の出水があり,その中から自然流下で送水 している出水(28箇所)について,流出量の観測 (2003年9月)を行った。そのうち,土器川左岸 6k/380に位置する竜王出水について,流出量と前 10日間降雨量の間の関係を図-8に示す。バラツキ はあるものの,両者に相関が認められる。
3.4 農業用排水系統 丸亀平野においては,灌漑期における水田から の地下水涵養が重要となることから,本研究で は,対象流域における灌漑実態を明確にするた め,現地において農業用排水系統を調査すると ともに,関係市町並びに土地改良区にヒアリン グ・アンケート調査を実施した。 丸亀平野における用排水系統を図-9に示す。対象 流域では,香川用水,河川水,溜池(満濃池含 む),出水(湧水),井戸(浅井戸・深井戸)が 農業用水の水源として利用されている。土器川等 の4河川に対し,香川用水が横断しており,香川 用水の導水路と約80箇所の溜池がネットワーク化 された複雑な水利用形態となっている。 図-8 出水流出量と前10日間降雨量の 関係(竜王出水) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 出水流出量(m3/s) 前1 0 日間降雨 量(m m ) 4. 水循環解析モデルによる解析 4.1 水循環解析モデルの概要 本研究では,対象流域における水循環系を定 量的に把握するため,水循環素過程を物理式で 表現し,表流水と地下水を連動して解析できる MIKE-SHEモデルを適用した。MIKE-SHEモデルは, デンマーク水理研究所(DHI)等で開発されたグ リッド型の水循環解析モデルであり,①遮断・ 蒸発散,②表面流・河道流,③不飽和流,④飽 和流,⑤帯水層と河川との水交換,⑥融雪の6つ の部分から構成されている。図-10にMIKE-SHEモ デルの基礎式を示す。 表面流と河道流は,St. Venant方程式を簡略 化したdiffusive waveモデル(河道流には dynamic waveモデルも適用可)と連続の式によ り解析され,表面流は2次元モデル,河道流は1 次元モデルで表現されている。土壌層における 不飽和流には1次元Richards方程式を用い,飽和 財田川流域 (野口ダム) 香 川 用 水 図-9 丸亀平野における農業用排水系統 ( 買 田 幹 線 ) ( 吉 野 幹 線 ) (青木幹線) (庄幹線) (道福寺幹線) (金倉寺幹線) (北鴨幹線) (滝川幹線) (金倉幹線) (丸亀幹線) (蓮池幹線) (宝憧寺幹線) (飯野幹線水路) ( 金 倉 川 左 岸 幹 線 ) ( 金 倉 支 線 ) ( 満 濃 池 導 水 路 ) (弘田川) (金倉川) (土器川) (大束川) 畑 地 か ん が い 施 設 大 川 頭 首 工 天 川 頭 首 工 羽間池 今滝池 管池 小津森 丸亀幹線 宝憧寺幹線 大窪池 天神池 仁池 金倉川 上池 新池 西池 大窪池 天神池 為久池 北原池 皿池 椎尾池 宝憧寺池 竜社池 源田池 宮池 桝池 大林池 道池 金丸池 上池 八丈池 前池 蓮池 長太夫池 新池 藤高池 山崎池 下池 馬池 大池 籠池 柳池 先代池 田村池 大井池 新池 中池 伊予勢池 買田池 宮池 瓢池 平池 道池 前池 熊ヶ池 村上池 菰池 新池 上池 千代池 新池 買地池 買田池 要池 牛池 宮後池 新池 藤波池 常磐池 瓢箪池 満賀池 多度津・青木 多度津・青木 海 海 多度津・桜川 多度津・幸町 〈工水〉 〈上水〉 丸亀市・宇多津町・坂出市 丸亀市(丸亀市配水池)・善通寺市・多度津町・綾歌町(西山受水池) (西汐入 川) ( 豊 原 幹 線 ) 備 中 地 池 小津森池 亀 越 池 打越池 天満池 丸亀市中府町 水附池 白方池 新池 宮池 庄之池 上池 西池 仁池 土路池 水橋池 水橋池 (綾川) (大窪導水路) (仁池導水路) (為久導水路) 岡1~4号 ( 小 津 森 導 水 路 ) (岡池導水路) 出水 凡例 香川用水分水地点 蓮池 (清水川) (古子川) 中原池 宮池 菱池 (宝憧寺幹線川西支線) (真野上井水路) 矢野池 聖池 中部上工水 中部浄水場 満濃池 海 海 海 飯野幹線 左岸地区 ( 羽 間 導 水 路 ) ( 打 越 導 水 路 ) 吉野方面 善通寺・弘田町 善通寺
第48巻第10号 2006 23 人工取水と涵養 降雨・降雪 樹冠遮断 モデル 融雪モデル 遮断降雨から 蒸発散 土壌・水面から 根系層から 流はダルシー式と連続式に基づく3次元モデルに より解析される。また,不飽和層底部の土壌水 分と地下水位の変動が連成解析される。帯水層 と河川の水交換は,ダルシー則を用いて算定さ れ,河川水位に対して地下水位が高い場合には 河川へ流出し,地下水位が低い場合には河川水 は地下へ涵養される。解析手法の詳細について は文献3)-5)を参照されたい。 4.2 水循環解析モデルの構築 地形条件の再現性及び計算時間を考慮して, 計算格子の大きさを 250 mの正方形とし,対象 流域を5,518グリッドに分割した。表層モデルの 作成にあたっては,数値地図50mメッシュ標高を 抽出し,グリッド毎に平均化してグリッド標高 を設定した。地下水層のモデル化にあたっては, 図-2に示すA層を不圧帯水層,B層を難透水層,C 層を被圧帯水層とし,既存のボーリング柱状図 (1,160箇所)をもとに内挿法によりグリッド毎 の各層の基底標高を設定した。 また,河道縦横断図から横断形状を設定し, 河道モデルを作成した。測量成果が存在しない 区間については国土数値情報の河道位置,河道 長,河床高を取得し,矩形断面(幅5m×深さ2 m)を設定した。 河川流量の再現性向上を図るために,再現期 間中,降雨によらず地下水が常時飽和状態にな ることを避けるため,河川基底流量の計算にド レーン・モジュールを適用した。 4.3 水田のモデル化の方法 水田は,人為的な灌漑により水位・水量がコ ントロールされ,また,その構造上,大きな貯 留効果を持つなど,自然地とは異なった特性を 有する。さらに一般的に,農業用排水の系統が 複雑であり,灌漑の実態が不明であるため,農 業用排水の流動に対する物理的なモデルの構築 は容易ではない。 本研究では,灌漑による水循環系を可能な限 り定量化するため,下記に示すように,降雨, 蒸発散,灌漑,浸透等を表現する水田モデルの 開発を試みた。
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水田の水管理状況をモデル化するため,水田 の減水深(蒸発散・浸透)に一致するように, 不飽和浸透の特性を設定した。・
灌漑区域毎の水源位置(香川用水,溜池,出 水,井戸),用排水系統の調査結果をもとに 取水地点,供給区域を設定した。・
対象流域では灌漑区域毎に複数の水源を有し ているため,各灌漑区域の取水地点を設定す るにあたって,使用水源タイプ別に区分し, 水源の優先順位を設定した。・
減水深法により減水深,田面降水量等から単位 面積あたりの必要水量を算定し,各グリッドの 3次元飽和流(地下水)モデル 有効降雨 水面昇降 浸透 表面流出 2次元表面流・河道 流モデル 浸潤面を通して の水移動 境界条件を通し ての水移動 根系層 湖沼・貯水池 1次元不飽和流 モデル 地下水位 地下水位 河川水位 i 層 河川潤辺 w i+1 層 図-10 MIKE-SHEモデル中の基礎式灌漑面積を乗じて,農業用水使用量を推定した。
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グリッド毎の必要水量に対して,実績取水量 が既知の水源からの供給量を差し引き,残分 については地下水取水量をパラメータとして 地下水位を再現するように,表流水と地下水 の供給量を配分した。 表層モデルでは,土地利用分類(国土数値情 報 ・ 1/10細 分 区 画 土 地 利 用 分 類 デ ー タ か ら 抽 出)等により各グリッドを分類し,等価粗度係 数および窪地貯留量を設定した。不飽和層モデ ル では , 土 壌分 類 ( 国 土数 値 情 報 ・土 壌 分 類 データから抽出)や土地利用分類等により各グ リッドを浸透度別 4.4 境界条件・初期条件の設定 境界条件として,表-2に示す条件を各モデル に設定した。各グリッドの生活用水,工業用水 の人工系の水量を定量化するにあたっては,各 種統計書および関連市町へのヒアリング等から 水源別の取水量を整理し,境界条件として設定 した6)。また,本研究ではPenman式を用いて可能 蒸発散量を算定し,古藤田による補正係数7)を乗 じて実蒸発散量を推定した。 初期条件として,非灌漑期(1月)の地下水一 斉観測より得られた浅層・深層地下水位の面的 な分布を各グリッドに与えた。 5. 数値解析結果 5.1 モデルパラメ-タの設定と同定 近年の渇水年・平水年・豊水年を含むよう,シ ミュレーション期間を1994年1月1日~1998年12月 31日の5年間とした。日単位のシミュレーション を実施し,河川流量及び地下水位の実測値と計算 値を比較して,各種パラメータの同定を実施した。 8)に分類し,不飽和浸透特性を 設定した。不飽和浸透特性としては,不飽和透 水係数と水分特性曲線が必要であり,これらに つ い て は , 西 垣 ら9)に よ り 整 理 さ れ た van Genuchten式への適用結果を参考にパラメータを 設定した。 地下水層モデルでは,前述のように,各層の透 水係数については,現場で行われた透水試験結果 を基に一次設定し,再現計算により最適値を求め た。表-3,表-4に最終結果を示す。比貯留係数に 表-5 河道モデルのパラメータ 表-4 B層,C層のパラメータ 表-3 A層のパラメータ 表-2 境界条件の設定第48巻第10号 2006 25 ついては,文献10)による一般的な値を適用した。 また,地下水取水量(農業用水)をパラメータと して,地下水位を再現するように設定した。 図-12に不圧地下水位の計算結果を示す。浅層 地下水位については,長期的な再現性は概ね良 好であるが,日変動については実績水位との間 に若干の乖離がみられる。 河道モデルに必要な粗度係数及び漏水係数の 値は,河川流量の再現計算により同定した。最 終的に設定した値を表-5に示す。 図-13では被圧地下水位について,計算結果と 観測結果の比較を行っている。丸亀深井戸及び 高憧神社では,取水の影響による水位の低下現 象がみられるが,低下の度合いも精度良く再現 できている。豊原小学校については,他観測所 でみられるような取水の影響を受けた水位低下 部の実績値がなく,水位低下の評価ができない が,欠測を除いた実績値に対する再現性は概ね 良好である。いずれの地下水も長期的な傾向を 概ね再現できており,設定した透水係数及び比 貯留係数の値が妥当であることを示している。 5.2 水循環解析の検証 設定したモデルパラメータを用いで,河川流 量,不圧地下水,被圧地下水の水位を計算し, 解析モデルやパラメータの妥当性を検討した。 河川流量(日流量)の計算結果を図-11に示す。 丸亀橋と祓川橋の両地点において,平常時の流量 については概ね実測値を再現できているが,やや 規模の大きな出水に対しては改善の余地がある。 ハイドログラフ(丸亀橋) 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 1994 1995 1996 1997 1998 河川流 量 ( m 3 / s) 実測値 計算値 ハイエトグラフ(丸亀) 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 降雨量( mm / 日 ) 降 雨 量 (a) 丸亀橋地点 ハイドログラフ(祓川橋) 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 1994 1995 1996 1997 1998 河 川流量(m 3 /s ) 実測値 計算値 ハイエトグラフ(祓川橋) 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 ( 日) m m / 降 雨 量 降雨量 (b) 祓川橋地点 図-11 日流量に関する計算結果と観測結果の比較
(a) 丸亀No.4 (b) 丸亀No.5 (c) 左岸6.8k (d) 坂出(川津) (e) 右岸9.6k (f) 西坂元 図-12 不圧地下水位の検証
第48巻第10号 2006 27 (a) 丸亀(深井戸) (b) 豊原小学校 (c) 高憧神社 図-13 被圧地下水位の検証 図-14に非灌漑期における不圧地下水位の等高 線を示す。1994年12月と1998年12月における計算 水位(実線)と一斉観測結果(破線,2004年1 月)を併記している。詳細に見ると,1994年(渇 水年)では,実績水位に比べ,平野部全体の地下 水が低下している。その後,地下水位は回復傾向 にあり,1998年(豊水年)においてようやく2004 年(平水年)の実績値と同程度まで地下水位が回 復している。なお,計算水位は沿岸部の旧河道に 沿って実測水位とやや異なっているが,面的な再 現性は比較的良好である。その旧河道沿いの地下 水位の差違は,その地域の透水係数を過大評価し ているためかと推測している。 (b) 1998年12月(豊水年) 図-14 不圧地下水の水位分布 (a) 1994年12月(渇水年)
以上のように,MIKE-SHEモデルを用いて丸亀 平野の水循環系の大略は把握できるようになっ た。結果を図示しないが,このモデルを用いて, 現在,丸亀平野における地下水涵養域の特定や 水収支等を検討している。例えば,1996年にお いて,年間降水量969mmのうち,約56%が蒸発・ 蒸発散で大気に戻り,残りの地表面に到達した 水量のうち約62%が流出し,約38%が地下に降 下浸透したことが明らかとなった。また,人工 系の使用水量の内訳は,河川水:香川用水:地 下水=約1.0:1.2:1.5であり,丸亀平野では香川 用水と地下水に大きく依存していることが確認 されている。 6. おわりに 本研究では,丸亀平野における水循環系の実 態を明らかにするために,旧河道の特定,地下 水や農業用水の現地調査を行うとともに,水循 環解析モデル(MIKE-SHE)を用いた数値解析を 行った。その結果,透水係数等のモデル定数値 を 適 切 に 評 価 す る こ と に よ っ て , モ デ ル が 不 圧・被圧地下水や河川の日流量を良好に算出す ることを確認した。 今後,モデルの精度の向上をはかるとともに, 流域の水循環に関する課題を取り上げ,そのメ カニズムの解明と対応策の検討を進める予定で ある。 謝辞:用排水系統調査に御協力下さり,貴重な資 料を提供して頂いた関係県・市・町並びに満濃 池土地改良区,土器川右岸土地改良区連合に感 謝の意を表します。 参考文献 1) 吉野文雄:香川中央地域の地下水, 香川中央 地域地下水利用対策協議会, 2003. 2) 香川県企画部水資源対策課:平成10年度香川 県地下水利用推進調査総括報告書, 1999. 3) Singh, V. P.: Computer Models of Watershed
Hydrology, Water Resources Publications, 1995. 4) Abbott, M. B. et al: An Introduction to the
European Hydrological System - Systeme Hydrologique Europeen “SHE” 1: History and philosophy of a physically based distributed modelling system, Journal of Hydrology, Vol.87, pp.45-59, 1986.
5) Abbott, M. B. et al: An Introduction to the European Hydrological System - Systeme Hydrologique Europeen “SHE” 2: Structure of a physically based distributed modelling system, Journal of Hydrology, Vol.87, pp.61-77, 1986. 6) 安陪和雄,大八木豊:分布型流出モデルの広
域的適用, 水工学論文集,Vol.46,pp.247-252, 2002.
7) 古藤田一雄:Estimation of River Basin Evapotranspiration, Environmental Research Center Papers, No.8, pp.1-66, 1986.
8) 中野秀章:森林水文学,共立出版,1980. 9) 西垣誠,竹下祐二:室内及び原位置における
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Groundwater Model Simulation of Flow and Advective Transport, Academic Press, p.41, 1992.