51-1
仁科 裕貴
1. はじめに 既往の研究1)では、福岡市における CO 2排出量を長期的 に予測するシミュレータの開発を行い、その精度検証と改 良、また福岡市に適したシナリオの効果検討を行ってきた。 既存のシミュレータでは部門別の活動量を算定対象と しており、CO2排出原単位は 2010 年以降 2010 年の値で一 定として計算していた。そのため、新エネルギーの増加や 電気自動車の普及といった原単位変化を伴う社会情勢の 影響を加味できていなかった。また、本シミュレータ内の 各変数は福岡市の特性に合うように調整されているため、 本シミュレータを他の都市に転用した際、その都市に適し た長期予測ができない場合が考えられる。他の都市の特性 に合わせ再調整する場合、現在のシミュレータでは 1 つ 1 つの作業に非常に時間が係ってしまうという問題がある。 そこで、本研究では CO2排出原単位を算定するモデルを 作成し、実績値との比較と CO2排出量の予測、また、CO2排 出量の削減に向けたシナリオの検討を行った。更に、人口 モデルと民生業務モデルについて簡略化する改良を行い、 モデルの汎用化を図った。 2. CO2排出原単位モデルの開発 民生部門、運輸部門、産業部門において CO2排出原単位 の算定モデルを開発した。ここでは、代表して民生部門の 開発モデルについて示す。民生部門の CO2排出原単位は、 用途別 CO2排出係数に用途別エネルギー消費原単位を乗じ て、用途別 CO2排出原単位を算定する。算定した用途別 CO2 排出原単位を合計して民生部門の CO2排出原単位としてい る。民生部門 CO2排出原単位の算定フローを図 1 に示す。 用途別 CO2排出係数はそれぞれ、電気、ガス、その他の 燃料の割合により決定している。CO2排出係数が発電方法 の割合に大きく影響を受ける電気においては火力、原子力、 水力、新エネルギーの 4 つの発電割合により各年の CO2排 出係数を決定している。また発電割合は、各年の発電方法 別発電量を各年の民生部門のエネルギー消費量で除して 求めている。発電量は原子力、水力、新エネルギーは実績 値を用いており、火力は民生部門の消費エネルギー量から 原子力、水力、新エネルギーの発電量を引いたものとする。 用途別エネルギー消費原単位では 1975 年の初年度値に、 民生家庭部門では電気料金、世帯あたり人員、一人あたり 市民所得の 3 つを、民生業務部門では電気料金、面積当た りの従業者数、市内総生産の 3 つを魅力乗数として乗じる ことで算出を行っている。 民生家庭部門の CO2排出原単位の算定結果を図 2 に、 CO2排出量の算定結果を図 3 に示す。CO2排出原単位は動 力において、計算値と実績値でやや誤差があるが、傾向を 捉えている。また、多くの用途で 2010 年は計算値が実績 値より大きく計算されている。これは各発電方法の CO2排 出係数を一定値としているため、発電効率の向上が反映さ れておらす、電気の CO2排出係数が実績値より大きく計算 されていることが原因と考えられる。CO2排出量では、CO2 排出原単位の影響により 2010 年に計算値が実績値よりも 大きく計算されている。 3. シナリオの検討 開発した CO2排出原単位の予測モデルを用いて 2050 年 までのシナリオの効果検討を行った。検討項目の概要を表 1 に示す。ここでは代表して BAU シナリオ、新エネシナ リオ、木造化シナリオの算定結果について示す。 BAU シナリオの算定結果を図 4 に示す。2014 年 8 月現 在、日本の原子力発電所は全て停止しているが、日本政府都市環境負荷予測シミュレータの開発
―CO
2排出原単位モデルの構築とモデルの汎用化に向けた改良―
CO2 CO2 CO2 CO2 図 1 民生部門 CO2排出原単位算定フロー 図 2 民生家庭部門 CO2排出原単位 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 CO 2 排出原単位 [k g -CO 2 /世帯 ] 暖房(実績値) 冷房(実績値) 給湯(実績値) 厨房(実績値) 動力(実績値) 暖房(計算値) 冷房(計算値) 給湯(計算値) 厨房(計算値) 動力(計算値)51-2 が今後も原子力発電を使用し続けていく方針とすること を表明していることから、本研究での BAU シナリオは原 子力発電を稼動させ 2010 年の発電量を 2011 年以降も維持 するものとしている。民生部門では、2005 年以降旧モデル に比べ CO2排出量が大きく計算されている。旧モデルでは 電気の CO2排出係数として一定値を与えていた。新モデル では、これを電力消費量の総量等から算出するモデルとし たが、2007 年以降の世界的な経済の冷え込みによるエネ ルギー消費量の減少が再現できていないため差が生じて いると考えられる。産業部門では 1975 年~2050 年にかけ て終始旧モデルよりも非常に小さく計算されていた。これ は建設部門の CO2排出原単位の計算方法の変更によるも のだと考えられる。既往研究では建物の LCA 指針を基に 推計しているが、本研究では工事費予定額等から一度 CO2 排出量を推計し、それを着工面積で除して原単位としてい るため、改良後の方が実際に近い値になると考えられる。 福岡市の統計では 2013 年時に産業部門による CO2排出量 は全体の約 8%となっているが、旧モデルでは約 17%とな っており大きく計算されていた。本モデルでは、2013 年の 産業部門の割合は全体の約 5%をなっており統計よりも小 さく計算されているが、旧モデルと比べるとより統計に近 い値となっている。新モデルの 2050 年の CO2排出量は 814 万 t となっており、旧モデルと比べ約 7%の増加となった。 新エネシナリオの算定結果を図 5 に示す。新エネシナリオ では、2030 年までに新エネルギーによる発電量が 4.5 倍に なるものとし、2030 年以降も同様の割合で増加し続ける ものと想定した。新エネルギーによる発電割合は 2010 年 には約 3%であったが、2050 年には約 13%まで増加してい る。計算結果では 2011 年~2050 年にかけて、BAU シナリ オよりも CO2排出量が大きく減少している。これは全体の 発電量のうち、新エネルギーの発電割合が増加したことに より火力発電の割合が低下し、電気の CO2排出係数が下が った影響が大きい。 木造化シナリオの算定結果を図 6 に示す。結果の差が小 さいため縦軸のスケールを拡大している。木造化シナリオ では、木造化の開始年としている 2015 年からわずかに減 少が見られるが、年が経つにつれて新築数の減少と木造化 予定の非木造建築物の減少により、各年の減少量は少なく なっている。また、新築だけでなく既存の非木造建築物の 1%が毎年木造化するように設定しているため、シナリオ 開始時の 2015 年が最も削減量が多く、それらの解体が始 まるとしている 2035 年以降は解体時に放出される CO2の 量が新築の削減量よりも多くなっており、各年の CO2排出 量は BAU シナリオよりも多い。 木造シナリオの積算量では、BAU シナリオと比べ 2050 年 の削減量は約 1%とわずかではあるが、CO2排出量の削減が 確認できた。木造シナリオと比べ新築だけでなく、建設後 の炭素固定量も含んでいるため、全体として CO2を安定し て固定できている。 4. 汎用化に向けたモデルの改良 4.1 人口モデル 人口モデルは人口数、出生数、死亡数、移動数の 4 つの 要素で構成されており、出生数、死亡数、移動数に関して は、変数となる出生率、死亡率、移動率と、これら変数に 影響を与える魅力乗数で構成されている。既往研究ではこ れらの変数と魅力乗数が 5 歳階級ごとに設定されており、 図 3 民生家庭部門 CO2排出量 表 1 検討シナリオ概要 図 4 BAU シナリオ 780 790 800 810 820 830 840 2012年 2027年 2042年 CO 2 排出量 [万 t-CO 2 ] BAUシナリオ 木造化シナリオ1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1975年 1990年 2005年 2020年 2035年 2050年 CO 2 排出量 [百万 t-CO 2 ]
運輸部門(BAU) 民生部門(BAU) 産業部門(BAU) 運輸部門(旧モデル) 民生部門(旧モデル) 産業部門(旧モデル) 実績値 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1975年 1990年 2005年 2020年 2035年 2050年 CO 2 排出量 [百万 t-CO 2 ] 運輸部門(新エネ) 産業部門(新エネ) 民生部門(新エネ) 運輸部門(BAU) 産業部門(BAU) 民生部門(BAU)
シナリオ 概要 BAUシナリオ 現状維持で推移(旧モデルと新モデルの比較を行う) 原発シナリオ 2011年以降の原子力発電による発電量を0とし、不足分は火力発電 により補う 新エネシナリオ 2030年に再生可能エネルギーによる発電量が現在の約4.5倍(福岡 市の目標)となるように一定の割合で増加 2030年以降も同様の割合で増加 EVシナリオ1 2050年にEVとHVの合計割合が54%となるように設定 EVが14%,HVが40%とする EVシナリオ2 次世代自動車の普及率は変えず、EVを30%,HVを24%とする 木造シナリオ 2015年以降業務用建築物が木造化し、炭素固定により二酸化炭素 が削減されるとした(耐用年数は20年とする) (毎年新築の50%、既存の1%が木造化するとして設定) 0 50 100 150 200 250 300 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 CO 2 排出量 [万 t -CO 2 ] 実績値 計算値 図 5 新エネシナリオ 図 6 木造化シナリオ
51-3 他の都市に転用した場合それぞれの設定に時間がかかっ てしまうという問題点があった。本研究ではこれらのうち、 人口数、出生数、死亡数についてモデルの改良を行った。 既存モデルと改良モデルの計算フローをそれぞれ図 7、図 8 に示す。 出生数、死亡数については年齢階級ストックと魅力乗数 の削減を行った。これまで魅力乗数により計算していた出 生率と死亡率は、1975 年~2010 年の実績値を入力値とし、 2011 年以降は 2010 年の値で一定とする。これにより出生 数ではストックを 6 個、魅力乗数を 12 個削減し、死亡率 ではストックを 14 個、魅力乗数を 6 個削減した。 人口数でも同様に年齢階級ストックの削減を行った。既 存モデルでは 5 歳階級別のストック間の移動は毎年各ス トックの 1/5(1 歳ごとに等分した値)のk人口が次の階級 のストックに移動するとして設定していた。しかし、改良 モデルでは既存モデルに比べ 1 つのストック内の人口が 大幅に増加するため、これまでのようにストック間の移動 を等分移動で計算すると、結果に誤差が生じる可能性が考 えられる。そこで、ストック間の移動について既存モデル と同様に等分移動した場合(以下、case1)と 1 次関数を用 いて計算した場合(以下、case2)の 2 パターンについて検 討を行った。1 次関数を用いた場合の計算方法のイメージ 図を図 9 に示す。図中の横軸の数値は、人口の実年齢では なく、各ストックの最初の年齢からの差を示している。ま ず、初年度の各階級の人口をその年齢幅で割り、各階級の 平均値を算出する。各階級内で、算出した平均値と最も人 口数の近い年齢をそのストックの初年度の年齢重心とし て定める。次に、2 つのストックの重心間の人口数が 1 次 関数的に増加、もしくは減少していると仮定する。2 つの ストックの平均値の差を重心間の年数で割って重心間の 傾きを求める。最後に重心から次のストックに移動する年 齢までの年数を算出した傾きに乗じ、算出された増加数と 平均値を合計し、次のストックへの移動数を算出する。 人口数の計算結果を図 10 に示す。Case1 では、生産人口 1 は実績値に比べ減少がみられた。一方で高齢人口は実績 値に比べ増加しており、生産人口から高齢人口への人口移 0~4歳
・・・・・・・・
35~39歳・・・・・・・・
85歳以上 15~19歳 出生数 45~49歳 出生数 出生率 魅力 乗数 出生率・
・・・・
・・
0~4歳死亡数 35~39歳 死亡数 85歳以上 死亡数 死亡率 魅力 乗数 死亡率 魅力 乗数 死亡率 魅力 乗数 総出生数 魅力 乗数 0~14歳 50~64歳 65歳以上 出生率 0~14歳 死亡数 15~49歳 死亡数 65歳以上 死亡数 死亡率 死亡率 死亡率 総出生数 15~49歳 50~64歳 死亡数 死亡率 15~49歳 女性 図 7 既存人口モデル計算フロー 図 8 改良人口モデル計算フロー 図 9 1 次関数移動計算フロー 0 20 40 60 80 100 120 140 160 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 人口数 [万人 ] 生産人口1(実績値) 生産人口1(等分移動) 生産人口1(1次関数) 高齢人口(実績値) 高齢人口(等分移動) 高齢人口(1次関数) 総人口(実績値) 総人口(等分移動) 総人口(1次関数) 図 10 人口モデルの精度検証 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年齢重心間の年数:b = 12.5 a / b = 傾き 右肩上がり 右肩下がり ・後半の人口が 多い場合 又は ・前半の人口が多い場合 5 1 2 3 4 6 7 8 9 10 年齢重心からの距離:5 平均値 a / b×5 + 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 X / 10 = 5歳人口 平均値の差:a 次のストックへの移動数51-4 動が大きくなり過ぎていることが確認できる。これは、実 績値の生産人口内の人口分布が若年側や中間年齢付近が 多くなっていのに対し、計算上では等分しているため生産 人口から高齢人口への移動が、毎年実績値よりも多くなり、 生産人口の減少と高齢人口の増加がおこったと考えられ る。Case2 では、1975 年~2010 年にかけて計算値は実績値 の推移を捉えている。 4.2 民生業務モデル これまでの研究では、「エネルギー経済統計要覧」2)に基づ き民生業務部門の用途分類を 7 つに分類していた。しかし、 これらの実績値の統計に用いている「固定資産概要調書」 3)は 1987 年や 1996 年以降いくつかの用途の延床面積を合 計して記載されており、1996 年以降の統計に関しては、用 途別の延床面積について過去の割合に基づいて、手作業で 按分して算出していた。そこで、汎用化に向けて用途分類 を「固定資産概要調書」に合わせた分類とし、記載されて いる値を直接用いるものとした。その他にも、モデル内に おいて飲食業セクタや卸小売業セクタについては他のセ クタに与える影響が小さいため、これらのセクタを統合し、 新しく 5 つの用途に分類した。改良前後の用途分類を表 2 に示す。ここでは新しい用途分類の内、「木造業務建築」と 「その他サービス業」の 2 つのセクタの改良について示す。 木造業務建築では、着工率に「生産人口密度」「民生事業 所密度」「商業地価」「市内総生産」の 4 つ、解体率に「商 業地価」「市内総生産」の 2 つを魅力乗数として用いて計 算を行った。シミュレータで計算した着工面積、解体面積、 延床面積の結果をそれぞれ図 11、図 12、図 13 に示す。着 工面積、解体面積ともに急激な増減のある年は大きな誤差 が生じているが、実績値の推移は捉えている。延床面積で は 2010 年に実績値がやや増加している。 その他サービス業では、木造業務建築と同じ変数を魅力 乗数の入力値として用いて計算を行った。計算した着工面 積、解体面積、延床面積の結果をそれぞれ図 14、図 15、 図 16 に示す。木造業務建築と同様に、着工数と解体数で 急激な増減のある年では実績値と大きな誤差が生じてい るが、推移は捉えている。1984 年と 1993 年の着工面積の 急激な増加を追えていないため、延床面積でも実績値より 少なく計算されている年があるが、延床面積も実績値の推 移を捉えている。 5. おわりに 本報では、CO2排出原単位モデルの開発とシナリオの検 討、また汎用化に向けたモデルの改良を行った。シナリオ の検討では、新エネルギーの増加による CO2削減効果が大 きく、約 13%の削減となった。 モデルの改良では人口、民生業務セクタともにモデルの 簡略化後も精度が保てることが確認できた。しかし、他の 9 つのセクタに関しては十分な検討ができていない。モデ ルの汎用化に向けて、残りのセクタについても簡略化や計 算方法の改良などが必要である。 【参考文献】 1) 仁科裕貴, 他: 都市環境負荷の長期予測シミュレータ開発と民生・産業部 門CO2排出量予測 その 7 福岡市における環境負荷長期予測シミュレー タの改良と精度検証、日本建築学会学術講演梗概集, 2013 2) (財)省エネルギーセンター:2013 年版 エネルギー・経済統計要覧, 2013. 3 3) 総務省 : 昭和 50 年~平成 22 年 固定資産概要調書, 1975-2010 改良前 用途分類 事務所 飲食店 卸小売店 病院 宿泊施設 学校 その他 改良後 用途分類 木造建築物 事務所・銀行・店舗 病院・ホテル 学校 その他 図 11 木造業務建築着工面積 図 12 木造業務建築解体面積 図 14 その他サービス業着工面積 表 2 民生業務部門用途分類 0 50 100 150 200 250 300 350 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 着工面積 [千 m 2] 着工(実績値) 着工(調整) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 解体面積 [千 m 2] 解体(実績値) 解体(調整) 0 50 100 150 200 250 300 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 延床面積 [万 m 2] 延床(実績値) 延床(調整) 0 2 4 6 8 10 12 14 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 着工面積 [千 m 2] 着工(実績値) 着工(調整) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 延床面積 [千 m 2] 延床(実績値) 延床(調整) 0 5 10 15 20 25 30 35 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 解体面積 [千 m 2] 解体(実績値) 解体(調整) 図 13 木造業務建築延床面積 図 15 その他サービス業解体面積 図 16 その他サービス業延床面積