温泉の利用における注意点等
福祉保健局健康安全部 環境保健衛生課指導担当
本日の内容
温泉施設に関する事故・健康影響について
温泉利用施設の構造設備等に関する基準(硫黄泉)
野湯で死亡事故(令和 3 年 11 月)
北海道の山奥にある野湯(無許可利用)で、入 浴に訪れた男性が湯船に誤って転落し、やけどで 死亡。
この温泉は約80度の高温の源泉に、湧き水を 混ぜて、適温に調節する仕組みであった。しかし、
事故当日は水を引く配管のバルブが何らかの原 因で閉まっていたため、加水されず、湯船の中は 熱湯だったとみられている。
(中標津町の“野湯”で死亡事故 閉鎖危機
,NHK
北海道,
2022-02-09,https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-n05cc276e0c06)
温泉施設に関する事故・健康影響
〇火災・爆発 :可燃性天然ガス(メタン)
○中毒事故 :硫化水素、二酸化炭素
○酸欠事故 :温泉付随ガス(二酸化炭素、
窒素、メタン、水蒸気等)
○感染症 :レジオネラ症
○転倒 :骨折、打撲、出血等
〇禁忌症 :泉質別に浴用や飲用による 各症状
「中毒・酸欠」に注意!
○ 硫化水素・二酸化炭素による中毒に注意!
○ 酸素欠乏症にも要注意!
温泉付随ガスには、酸素がわずかしか含まれて いない場合がある。貯湯槽やガスセパレーターの 排気口には要注意。酸欠に伴う脱力・めまい等で 高所からの落下、槽内への落下で溺れる危険も ある。
●寝不足・二日酔い等で酸欠の感受性は高まる。
●硫化水素等の中毒や酸欠は極めて重篤な
症状をもたらすため、有効な救助方法はない。
温泉付随ガスの特徴
●一般的な温泉付随ガスとは、
→
二酸化炭素(CO2
)→
窒素(N2)→
メタン(CH4) の3成分である。そのため、酸素(O2)や硫化水素(H
2
S)は、わずかしか含まれていない。
ただし、100℃近い温泉や噴気孔では水蒸 気(H2O)が主成分となることがある。
二酸化炭素の特徴
化学式 :CO2
比重 :1.562 空気と比べて重い 沸点 :-78.5℃(昇華)
ガス :無色無臭
水に比較的よく溶け、弱酸性を示す 毒性 :環境中にも含まれる物質で、通常
生活では問題となることが少ない。
その他 :ビルや事務所内における換気の 指標に用いられる。
参考:人の吐いた呼気中の二酸化炭素濃度は 約4%、酸素が約16%含まれる。
二酸化炭素濃度と症状
二酸化炭素濃度(vol.%) 作用・症状 0.5 許容濃度(米国資料・会議)
3 短時間暴露許容濃度(同上)
4 脱出限界濃度
3~5 めまい、呼吸困難、頭痛、錯乱 9vol.%×5分 最小致死濃度
10 視覚障害、耳鳴り、ふるえ、1分で意識消失 10Vol.%×1分 最小致死濃度
30~ ほとんど即時に意識消失。
(1呼吸で死に至ることもある)
高濃度の二酸化炭素滞留か、
温泉街で職員死亡(平成 30 年2月)
兵庫県の温泉街にある歴史資料館で、施設職員が 突然倒れて死亡。
大気中の酸素濃度は21%程度だが、死亡した施設 職員が現場から搬出された際、13〜14%に低下して いた。
同温泉街は二酸化炭素を含む炭酸泉が多く、専門 家は「地下から二酸化炭素が噴出し、濃度が高まって 酸欠で倒れた可能性が高い」との見方を示している。
(高濃度の二酸化炭素滞留か 有馬・歴史資料館で職員死亡 専門家が指摘,産経WEST, 2022-02-09, https://www.sankei.com/article/20180222-ZOIGIIJK4VN2ZKVO76ARAEZZNE/)
硫化水素の特徴
化学式 :H2S
比重 :1.1905 空気と比べて重い 融点/沸点 :-85.5℃/-60.7℃
ガス :無色、刺激臭(腐卵臭)
有毒で目、皮膚、粘膜を刺激する。
水によく溶け、弱酸性を示す。
発生源 :自然由来~火山ガスや温泉 人為的由来~石油工業や排水
硫化水素濃度と症状
硫化水素(ppm) 作用・反応
0.3 臭気を感じはじめる。(0.1ppmで感じる人もいる)
5 臭気を感じ、不快感を覚える。
10 目の刺激を感じる。10ppm×48時間で肺水腫の発生 50
呼吸気道が刺激され、障害が起こる。
50ppm程度であれば、体内の解毒作用で対応できる 60ppm×30分で、肺水腫の発生
200 暴露が長引けば激しい中毒が起こる。
250~450 1~8時間で生命危険となる。
600 30分間で致命的な急性中毒が起こる。
800 直ちに致命的な急性中毒が起こる。
硫黄温泉付近では150ppm程度になる可能性あり。
環境省委託事務「平成
27
年度温泉を原因とする中 毒事故等対策検討委託業務」の報告書より●温泉における硫化水素(疑い)を原因とする死亡事故
温泉の泉質
〇いろいろある泉質
・単純温泉
・塩化物泉
・炭酸水素泉
・硫酸塩泉
・二酸化炭素泉
・含鉄泉
・硫黄泉
・酸性泉
・含よう素泉
・放射能泉
「公共の浴用に供する場合の温泉利用 施設の構造設備等に関する基準」
•
適用対象温泉温泉1kg中、総硫黄(硫化水素イオン+チオ 硫酸イオン+遊離硫化水素)を2mg以上含有 する温泉
→
見分け方:「温泉分析書」の泉質名で「硫黄」の表記が含まれている。
(平成29年9月1日改正)
硫黄泉の泉質例
・単純硫黄冷鉱泉
・単純硫黄温泉
・単純硫黄温泉(硫化水素型)
・含硫黄-ナトリウム-塩化物泉
・アルカリ性単純硫黄冷鉱泉 (低張性・アルカリ性・冷鉱泉)
⇔総硫黄2mg/kg以上、pH8.5以上、溶存物質1000mg/kg未満、
温度25℃未満
・アルカリ性単純硫黄温泉 (低張性・アルカリ性・低温泉)
⇔総硫黄2mg/kg以上、pH8.5以上、溶存物質1000mg/kg未満、
温度25℃以上34℃未満
〇浴室内の空気中の硫化水素濃度基準値
・浴槽湯面から上方10cmの位置の濃度
→
20ppmを超えないようにすること・浴室床面から上方70cmの位置の濃度
→
10ppmを超えないようにすること〇必要となる構造設備(以下のいずれか又は両方)
・換気孔又は換気装置(浴室に2つ以上、内1つ は床面と同じ高さに設置)
・ばっ気装置等(源泉から浴室までの間に設置)
〇浴室内に設けてはいけない構造設備
・硫化水素が局所的に滞留する構造、装置
〇換気孔、換気装置による対策 浴室内の硫化水素濃度を下げる
換気孔等は2か所うち1か所は浴室床面の位置
良い例
①注湯は湯面より上部
②浴槽の湯面は洗場より 高くする
③硫化水素の滞留防止の ため、洗場の高さに
換気孔等設置
④浴槽を温泉で満たすこと 換気孔等は2か所
換気孔等
ばっ気装置
温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止 のためのガイドラインより
〇浴槽の対策「その1」
浴槽の湯面は、浴室の床面より高くなるよう に設けること。
良い例
悪い例
硫化水素が 滞留する!
〇浴槽の対策「その2」
浴槽への温泉注入口は、浴槽の湯面より 上方に設けること。
良い例
悪い例
〇浴室等の管理
・換気状態の確認
脱衣室等も含め、換気状態の確認を怠らないこと。(故障、
積雪)
・濃度の測定
都道府県知事等が必要と認めたとき
毎日2回以上、浴室内の硫化水素濃度を測定
・測定結果の記録、保管
・その他
利用者の安全を図るため、浴室内の状態に常時気を配る こと。
○立ち入り禁止柵等の設置
源泉における揚湯設備、ばっ気装置、パイプラインの排気 装置、中継槽
⇒立ち入り禁止柵、施錠設備、注意事項の立札等を設ける
こと。ありがとうございました。
作業者・利用者の安全を確保し、
事故のないように温泉を利用しましよう!