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シンハラ農村の労働交換体系

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シンハラ農村の労働交換体系

著者 足立 明

雑誌名 国立民族学博物館研究報告

巻 13

号 3

ページ 517‑581

発行年 1989‑01‑27

URL http://doi.org/10.15021/00004317

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足立 シンハラ農村 の労働交換体系

シ ン ハ ラ 農 村 の 労 働 交 換 体 系

明*

Labor Exchange System in Sinhalese Agrarian Settlements

Akira ADACHI

This article analyzes reciprocal labor exchange in Sinhalese agrarian settlements in Matale District of Sri Lanka. Labor exchange is defined here as the exchange of labor in which assistance has to be more or less precisely reciprocated by that of the same kind and quantity in a short time period, e.g., one day of plowing assistance for one day of plowing assistance during a cultivation season.

Labor exchange in peasant agriculture is usually organized by individual households to achieve an optimal mobilization of labor for certain agricultural operations. This mobilization results both in minimizing the costs (drudgery and wages) of peasant production and in maximizing the exploitation of house- hold labor. Except in a few cases, any symbolic expression of particular socio-cultural messages between the host and the helper is of secondary importance. Labor exchange is thus a kind of economic exchange in a neoclassical sense. However, since the rate of exchange is institutionally fixed at one for the precise reciprocity, it is of course not governed by market mechanisms. In other words, although exchange labor is a scarce resource, particularly during the times of peak demand for labor in peasant agricultural production, the difference between demand and supply of exchange labor is not mediated with varying rates of exchange. As a consequence, the following

two questions must be examined to understand labor exchange behavior. The first is how the difference between demand and supply of exchange labor is mediated at the individual household level. The second is how the flow of exchange labor is determined in a locality. However, few studies in anthro-

*京 都大学,国 立民族学博物館共同研究員

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国立民族学博物館 研究報 告  13巻3号

pology and mainstream economics have examined these questions, because their models and concepts have not been developed to analyze reciprocal economic behavior, such as the labor exchange discussed here. It is in this context that labor exchange in Sinhalese agrarian settlements is examined in this article.

I attempt to analyze labor exchange behavior as a maxi- mization (or economization) process in peasant agricultural production within the wider political-economic setting of Sri Lanka. The empirical focus is on the decision making process regarding labor exchange and complementary labor mobilization, in order to understand the causes and consequences of the choices that the peasant households make to meet the demand for labor mobilization. For this purpose, the natural decision making approach is employed here, together with ethnographic obser- vation. The bulk of empirical analyses on various phases of labor exchange shows that at the individual household level the difference between demand and supply of exchange labor is largely mediated through exploration for exchange labor, in which each household forms a relatively fixed network of labor exchange and (often competitively) organizes it within the network. It further shows that the relative degree of tolerance of imbalance in labor exchange affects both the media- tion between demand and supply of exchange labor at the individual household level and the flow of exchange labor in the locality. Based on the above analyses and findings, this article finally argues that labor exchange, rooted in history and custom as a pre-capitalist mode of labor organization, cannot be regarded simply as a cultural lag or hangover from a pre- capitalist economy; labor exchange is rather an adaptive response made by peasant households to their current ecological, economic and social conditions. This further suggests that the model presented here, although an empirical model of labor exchange in Sinhalese peasant agriculture, will guide research endeavor on various kinds of reciprocal economic exchange yet to be examined.

1.序

1.問 題 の 所 在

2.現 地 調 査 とNaturalDecisionMaking ア プ ロ ー チ

H.二 つ の 調 査 村:マ ド ゥマ ー ナ,ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ

1.伝 統 農 村 マ ド ゥマ ー ナ 2.入 植 地 ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ

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足立  シンハ ラ農村 の労働交換体系

3.比 皿.労 力 動 員 の概 要

1.労 力 動 員 に お け る協 同 労働 と雇 用 労働 2.協 同 労 働 の種 類 と制 度 的 背景 3.マ ドゥマ ー ナ と ヌ ワ ラヤ ー ヤ にお け る

協 同 労 働 の寛 容 さ

1)農 耕 過 程 に お け る仕 事 の"忙 しさ"

2)協 同 労働 に お け る寛 容 さ

3)協 同 労働 にお け る寛 容 さ と農 耕 過 程 の諸 条 件

IV.労 力動 員 の 意思 決定 過 程 1.第 一 ス テ ップ

2.第 ニ ステ ップ 3.第 三 ス テ ップ 4.第 四 ス テ ップ

V.労 力 動 員 の意 思 決 定過 程 と実 際 の 協 同 労

1.マ ドゥマ ー ナ の水 田 耕作 で の 事 例 2.マ ドゥマ ー ナ の焼 畑 耕作 で の 事 例 3.ヌ ワ ラ ヤー ヤ の水 田耕作 で の事 例 4.交 換 労 働 の 需要 と供 給 の 媒介 パ ター ン

と村 内 に お け る交換 労働 の流 れ VI.結 語

1.序

  本稿 の 目的 は,農 民社 会 に お け る互 酬 的労 働交 換(以 下,単 純 に労 働 交 換 とす る) の 分 析 で あ る。 特 に,農 業 生 産 過 程 に お け る稀 少 財 と して の交 換 労 働(労 働 交 換 に よ って もた ら され る労 働)の 需 要 と供 給 が,価 格 も し くは交 換 率 の変 動 な し に,ど の よ う に媒 介 され,そ して どの よ うに 現 実 の 交換 が成 立す る の か,と い う点 につ い て考 察 す る。 そ の た め こ こで は,ス リラ ンカ の二 つ の シ ンハ ラ農 村 に お け る労 働 交 換 を 比較 す る。 これ らの農 村 の 一 つ は,賃 金 労 働 が 制 度化 さ れて いな いた め 労 働 交 換 に よ って 労 力 動 員 を 行 い 自 給 的 農業 生 産 を 行 う伝 統 農 村 で,も う一 つ は賃 金 労 働 者 が存 在 しな が ら経 費 節 約 の た め 大 規模 な労 働交 換 を組 織 し米 の小 商 品 生 産 を行 う入 植 地 で あ る。

本 稿 で は,こ れ ら二 つ の 農村 に お け る労 働交 換 の 意思 決 定 過 程 を把 握 し,農 民 が 実 際 に繰 り広 げ て い る交 換 過 程 の 戦 略 に焦点 を 当 て,交 換 労 働 の需 要 と供 給 は二 つ の パ タ ー ンの 戦 略 的 ・競 争 的 な 組 織 化 に よ って媒 介 さ れ ,特 定 の世帯間での交換が取 り行わ れ る こと を示 す 。 そ して 最 後 に,こ の 前 資 本 主 義 的 な労 働組 織 と して の労 働 交 換 は,

しか し決 して 文 化 的 遅 滞 や 前 資 本 主 義 的経 済 の 残 津 で は な く,農 民 の置 か れ た現 在 の 生 態 的,社 会 経 済 的 な 諸 条 件 に対 す る彼 等 の 意 識 的 で積 極 的 な適 応 形 態 で あ る こ とを 論 じ,ま た さ らに こ こで 示 され る労 働 交 換 の 分析 は これ まで 検 討 され る こ とがな か っ た互 酬 的経 済 交 換 の 研 究 に一 つ の 指 針 を 与 え う る こ とを示 唆 す る。

1.  問 題 の 所 在

互 酬 的 な労 働交 換 は農 民 社 会 で 行 わ れ て きた 世帯 を越 え た労 力動 員(labor  mobil一

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国立民族学博物館研究報告  ユ3巻3号 ization)の も っと も一 般 的 な や り方 で あ る。 本稿 で検 討 す る の は農 業 生 産 過 程 に お け る互 酬 的労 働交 換 で,農 作 業 中 に受 けた 労 働 扶 助 を,同 じ作 季 の うち に,そ れ と 同 じ 種類 ・同 じ量 の労 働扶 助 で 返 す と い う交 換 の こ とで あ る。 た と え ば1人 が1日 水 田の 耕 起 を手 伝 う と,扶 助 を受 けた 世 帯 の1人 が 同 じ作 季 内 に 同 様 の 仕事,つ ま り水 田 の 耕 起 を1日 手 伝 って返 礼 しな けれ ばな らな い,と い う交 換 で あ る。 この際,外 在 的 な要 因 で 現 実 の 交 換 率 は 若 千 変 化 す るが,原 則 と して は1で あ る。 この よ うな 労 働 交 換 は短 期 的 で 等 価 物 の 互 酬 を 特徴 と して お り,Sahlins[1974]の 均 衡 互 酬 性 」 (balanced  reciprosity)に 基 づ く交 換 行 為 の 中 に分 類 され る。

  多 くの農 民社 会 で は この よ うな 労 働 交 換 に加 え て そ の 他 の 労 力 動 員 の形 態 が あ り, た とえ ば近 い親 族 が病 に倒 れた 時 な ど に行 わ れ る労 働 扶 助 もそ の 一 つ で あ る。 これ は 親 族 道 徳 に よ って 動機 づ け られた も ので,当 面 返 礼 を 期 待 され な い労 働 の贈 与 と言 っ て よ い。 ま た そ の他 に村 民 や友 人 の 間 で の 生 産 物,食 事,酒 な どを見 返 りとす る労 働 扶 助,さ ら には賃 労 働 とい った労 力 動 員 の 形 態 もみ られ る。 しか し 日常 的 な労 力動 員 に お け るそ の規 模 や信 頼 性,そ して 経 済 性 に お いて 労 働交 換 は 他 の 労 力 動 員 に比 べ て しば しば優 位 に 立 って きた。 も ち ろん 多 くの 農 民 社 会 で,労 働 交 換 に よ る労 力動 員 が 農 業 労 働者 の雇 用 に よ って 置 き代 わ り減 少 ・消 滅 しつ つ あ る もの の,そ れ で も余 分 な 現金 を 持 たな い多 くの小 農 は労 働 交 換 に よ って 労 働 需 要 を賄 って お り,後 に示 す シ ン ハ ラ農村 の事 例 の よ うに,そ の よ うな 小 農 の 多 い地 域 で は 労 働 交 換 が 減 少 す る ど こ ろ か 逆 に増加 す る とい う傾 向 もみ られ る。

  と こ ろで 現 実 の 労 働 交 換 には二 つ の基 本 的 な 交 換 論 上 の 特 徴 が あ る。 第一 の特 徴 は 交 換 の 動 機 に関 して で あ る。 農 民 社 会 に お け る労 働 交 換 は,水 田耕 作 で あ れ焼 畑 耕 作 で あれ,農 耕 過 程 で の 労 力 動 員 お よ び そ れ か ら派 生 す る様 々な 技 術 的 ・心 理 的 ・経 済 的 便 益 の広 い 意 味 で の最 大 化 を 目的 とす る経 済 的 交 換 で あ る と い う点 で あ る。 も っ と も 自給 的 農 業 を営 む 農 民 に と って,労 働交 換 か ら もた らされ る様 々な 技 術 的 ・心 理 的 便 益 は必 ず しも物 質 的 な 便 益 に結 果 す る とは限 らな い。 しか し額 に汗 して 労 働 を農 業 に投 入す る こ と に よ って しか 生 計 維 持 を 行 う こ とが で きな い 彼 等 に とって,"骨 折 り 仕 事"(drudgery)が 基 本 的 な 彼 等 の 生 産 費 用 で あ り[CHAYANov  l966;DoNHAM

l981:517],こ の"骨 折 り仕 事"を 軽 減 して くれ る労 働 交 換 の 技 術 的 ・心 理 的 便 益 は ま さ し く彼 等 の農業 生 産 費 用 の軽 減 を もた らせ る ので あ る。 ま た 小 商 品 生 産 に よ って 暮 ら しをた て て い る多 くの 農 民 も,基 本 的 に は彼 等 の労 働 を商 品 作 物 生 産 に投 入 しそ れ に よ って 収 入 を得 て お り,労 働 交 換 に基 づ く労力 動 員 に よ る技 術 的 ・心 理 的 便 益 は 彼等 の"骨 折 り仕 事"の 軽 減 に寄 与 す る と 同時 に,そ れ が な け れ ば雇 用す る必 要 の あ

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足立  シンハ ラ農村の労働交 換体系

った農 業 労 働 者 へ の費 用 も節 約 す る こ と も可 能 に させ る ので あ る。 この 労 働 交 換 の 技 術 的 ・心 理 的 ・経 済 的 便 益 につ い ては,シ ンハ ラ農 村 の文 脈 で後 に詳 し く述 べ るが,

こ こで重 要 な点 は 労 働 交 換 が 上 で 述 べ た よ うな 意 味 で経 済 交換 で あ り,少 数 の例 外 を 除 き,交 換 され た労 働 を媒 体 と した親族 関係 の 維 持 ・開発 を 目的 に した 社 会 交換 ま た は象 徴 的交 換 と い う側 面 は労 働 交 換 に おい て 二 次 的な もの,も し くは 結 果 的 な もの と い う こ とな の で あ る。

  第 二 の特 徴 は交 換 の 組織 性 に あ り,親 族 関 係 とず れ た 形 で,隣 人 ・友 人 間 で の 各世 帯 独 自の 手段 的 ・戦 略 的な 組 織 化 が行 わ れ る点 で あ る。 先 ほ ど述 べ た よ う に,作 業 過 程 で の 世帯 を越 え た労 力 動 員は 様 々な 便 益 を もた らす が,そ の 便 益 にむ け た最 適 量 の 労 力 動 員 を行 うた め に世 帯間 で何 が しか の交 換 組織 を必 要 とす る。 特 に シ ンハ ラ社 会 を含 む,自 立 集 団(corporate  group)と しての 親 族 集 団 を欠 い て い る多 くの 農 民 社 会 [MoORE  l975ユ で は,さ きほ ど言 及 した親 族 間 で の 労 働 贈 与 は 必 要 に 応 じて行 わ れ る もの の,そ れ らは 日常 的な 大 量 の労 力 動 員 の 需 要 を 満 た す もの で は な く,ど う して も 隣 人 や 友 人 との 間 の 比 較 的大 規模 な 労働 交 換 に頼 らざ るを得 な くな る[BLOCH  l973]。

そ こで 各 世 帯 は そ れ ぞ れ の 労 力 動 員 の 需要 を 満 たす た め,村 落 内で の 労 働 交 換 ネ ッ ト ワ ー ク を手 段 的,戦 略 的 に開 発 し,維 持 しな け れ ば な らな い。 しか しこの ネ ッ トワ ー ク は労 力 動 員 の 需 要 を 満 たす た め の もの で あ る以 上,各 世 帯 で の需 要 の変 動 に応 じて そ れ も変 化 して ゆ く。 そ の た め こ の ネ ッ トワ ー クは 流 動 的 で,後 の シ ンハ ラ農 村 の事 例 で 示 す よ う に,需 要 の ピー ク には 各 世帯 が 都合 の い い協 同 労働 の相 手 を捜 して 熾 烈 な競 争 を行 うと い う こ とも起 こ る。 つ ま り協 同の た め の競 争 が起 こ るの で あ る。

  と ころで,こ れ まで の農 民 社 会 研究 で は労 働 交 換 組織 それ 自体 を 対 象 と した分析 は 少 な い もの の,労 働 交 換 組織 と親 族 組織 と のあ いだ に密 接 な 関係 が 見 られ な い と い う 点 に関 して は,多 くの 民族 誌 の 中で 指摘 され て きて い る(た とえ ば,[ERAsMus  l956;

MooRE  1975;GuDEMAN  1978;Gul肌ET  1980])。 シ ンハ ラ 農 村 に 関 して は Leach[1961]が ス リラ ンカ 北 部 の 乾燥 地 帯 に位 置 す る シ ンハ ラ農 村 で の土 地 所 有 と 親族 関係 を 扱 った 民族 誌 に お い て そ れ を検 討 して お り,具 体 的な 農 作 業 に お け る労 働 組織 は親 族 道 徳 それ 自 身 が決 定 す る ので は な く,農 作 業 上 の実 用 的 な 理 由 に基 づ く個 人 の 判 断 によ って 決 ま って い る こ とを示 した。 そ の 中でLeachは 脱 穀 場 で の協 同 労 働 組 織 に明 確 な 親族 構 造 の パ タ ー ンが 見 い だせ る とい う事 例 に対 して も,土 地 の均 分 相 続 の 結 果,兄 弟 や オ ジ ・ オ ィ の耕 地 が隣 接 し共 通 の脱 穀 場 で労 働交 換 を す る と便 利 で あ る とい う実 用 的 判 断 か らそ うな った の だ と い うこ と を 具 体 的 に示 した。 ま た Robinson  [1968,1975]は 中央 高 地 の シ ンハ ラ農 村 に お け る労 働 交 換 組 織 と親 族 関係

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国立民族 学博物館研究報告  13巻3号 を統 計 的 に検 討 し,ほ とん どの労 働 交 換 は近 親 間 で行 わ れ る こ とは な く,遠 縁 も し く は 非 親 族 の あ いだ で行 わ れ る こ とを 明 らか に して い る。

  と こ ろで この よ うな 手段 的 ・経 済 的色 彩 の 強 い労 働 交換 も,広 い意 味 で,当 該 社 会

・文 化 に意 味 づ け られ拘 束 さ れて い る と い う こ とは言 うまで もな い。 つ ま り この よ う な 文 脈 の 中 で しか 交換 は成 立 しな いの で あ る。 た だ少 な く と も農 民 社 会 の 労 働 交 換 に 関 す るか ぎ り,こ れ ら社 会 ・文 化 的 意 味 づ け の 理 解 や拘 束 の把 握 だ けで は,現 実 の さ ま ざ まな労 働 交 換 の"狭 い 意味"で の経 済 的 ・社 会 的側 面,即 ちどれ だ け の 量 の 交 換 労 働 が,ど の よ うな生 態 的,社 会経 済 的条 件 の も とで,何 の た めに,ど の よ うな 世 帯 間 で 交 換 され るの か とい った 行 動 的側 面 を 理解 した こ と には な らな い。 そ こで この 点 をBefu[1977]の 交 換行 為 に 関す る 四 つ の分 析 概 念1)で 整 理 して み る と,労 働 交 換 の 場 合,ま ず も っ と も大 きな 枠 で あ る 「社 会 ・文 化 的文 脈」 は要 す る に背 景 で あ り, 交 換 行 為,と りわ け 手段 的 ・戦 略 的 ネ ッ トワ ー ク形成 の 際 の"場"で あ るか ら,も ち ろ ん この レベ ル の 理解 は不 可 欠 で あ る。 しか しこの 背景 も し くは"場"の 理 解 は,先 ほど述 べ た労 働 交換 の行 動 的な 側 面 を具 体 的 に明 らか にす る ことは な い。 つ ま りそ れ は 分析 の 前提 ま た は 出発 点 な ので あ る。 次 に 「互 酬性 の規 範 」 に 関 してで あ るが,そ れ は 受 けた 労 働扶 助 は返 礼 され ね ばな らな い と一般 的 に規 定 して い るだ けで あ り,さ ら に三番 目 の 「交 換 の規 則 」 で さえ も,返 礼 は 同様 な仕 事 で 同量 の 労 働 扶 助 を短 期 間 の うち に行 わ ね ばな らな い と規 定 して い るだ けで あ る。 だ か ら,先 ほ ど検 討 した よ う に,誰 と優 先 的 に,そ して どれ だ け交 換 しな け れ ばな らな いの か と い った こ とに 関 し 1)Befu[1977]に よ る と交 換 行 為 は次 の四 つ の概 念 か ら分 析 で き る。 す な わ ち,1)「 社 会 ・文

化 的 文 脈 」:交 換 行 為 が行 わ れ る広 い意 味 で の社 会 ・文 化 的環 境,2)「 互 酬 性 の規 範 」:助 け を 受 けた もの に は返 礼 しな けれ ば な らない とい う一 般 的 規範,3)「 交 換 の規 則 」:特 定 の文 化 に お け る交 換 の細 か い規 則 で,互 酬性 の 規 範 が 明確 に規 定 しな い交 換 の 諸規 則,つ ま り,交 換 行 為者 間 の特 定 の 関係 に よ って規 定 され る交 換 の場 で,ど の よ うな もの を与 え,ま た返 礼 しな け れ ば な らな いか(又 は して よ い か)と い った規 則,4)「 交 換 の戦 略 」:上 で 述 べ た 交換 の規 則 は,特 定 の文 化 に お いて どの よ うな もの を どれ だ け,ど の よ う に交 換 しな けれ ば な らな い か(ま た は して よ いか)と い う こ との 可能 な範 囲 を示 して い るが,交 換 の 戦 略 とはそ の 範 囲 内 で どれ だ け,ど の よ うに 交換 す るか とい う現 実 の 場 で の交 換行 為 者 の 決 定 ま た は選 択 にお け る戦 略 の こ とで,必 ず しもすべ て と言 わ な いま で も,し ば しば交 換 行 為 者 の社 会 ・経 済 的 利 得 や便 益 の 最大 化 に 向か って い る と解 釈 す る こ とが で き る戦 略 。 この四 つ の 分 析 レベ ルの 区 別 は 重要 で, 特定 の交 換 を 議 論 す る 際 に そ の背 景 とな る 「社 会 ・文 化 的 文 脈」 につ いて 語 って い る のか,

互 酬性 の規 範 」 に 関す る 特 定 文 化 に お け る表 現(た とえ ば,日 本 にお け る 恩 と義理)に 言 及 して い る の か,ま た は特 定 文 化 に お け る 「交 換 の規 則 」 につ いて な の か,そ れ と も これ ら三 つ の レベ ル の拘 束 下 で の個 人 的 動 機 に基 づ く 「交 換 の戦 略」 なの か,と い う区 別 を 明確 に させ, そ れ ぞ れ の レベル に適 した アプ ロー チを 我 々に選 択 させ る こ とを 可能 にす る。

  も っ とも これ ま で行 われ て きた交 換 行 為 の人 類 学 的 分析 で は,こ れ らの レベ ルー つ 一 つ の 分 析 に と どま らず,各 レベ ル間 の 相 互 関係 や 接 合 を 問 題 に して きて お り(た とえ ば,[BARTH

I966;BouaDIEu  l977;HoLy  and STucHLIK  l983]),こ のBefu[1977]の 分 析 枠 は 静態 的 で あ る ことを 否 め な い が,本 稿 で は労 働 交 換 の個 人 的 戦 略 の分 析 に 焦点 を 置い て お り,こ こで は 問題 で な い。

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て は,「 社 会 ・文 化 的 文 脈」,「 互 酬 性 の 規 範」,「 交 換 の 規 則 」 とい った レベル で 明確 に規 定 さ れ て は お らず,個 人 の 判 断 に任 され て い る と言 って よ い の で あ る。 だ か ら, 後 に シ ンハ ラ農 村 の事 例 で 示 す よ う に,社 会 ・文 化 的 な 背 景 の も とで 四 番 目の 「交 換

の戦 略」 に注 目 し,そ れ を詳 し く理 解 す る以 外 には 労 働 交 換 の ダ イ ナ ミズ ムを把 握 す る こ とがで きな い ので あ る。

  こ の よ う に労 働 交 換 は農 作 業 に お け る労 力 動 員 の 便 益獲 得 を 目的 と し,戦 略 的 組織 化 を通 して 実 行 に移 され る経 済 交 換 で あ る と考 え る こ とが で き る。 言 い 換 え れ ば労 働 交 換 は 「均 衡 互 酬 性 」 の 中で も も っと も 手 段 的(instrumental)な 性 格 を も った"互 酬 的 経 済 交 換"の 一 つ で あ り,個 人 の 便 益 獲 得 と い う動 機 の 点 で バ ータ ーや 市 場 交 換

に近 い。 しか しそ の よ うな バ ー タ ーや市 場交 換 との基 本 的な 相 違 は,労 働 交 換 に おけ る"需 要"と"供 給"が 変 動す る"交 換 率"や"価 格"に よ って媒 介 さ れ な い と い う 点で あ る。 た と え ば農 繁 期 で,村 落 内 の交 換 労 働 の 需 要 が供 給 を 一 時 的 に上 回 って も,

「交 換 の 規 則 」 に よ り 交 換率 が1よ り上 下 に 大 き く変 動す る こと は な い ので あ る。 こ の よ うに労 働 交 換 とは,社 会 的拘 束 と して の交 換 規 則 の枠 内で の,個 人 的便 益 に向 け た 非 市 場 的 経 済 交 換 とい え る の で あ る。

  と ころ で,こ の よ うな交 換 論 上で の特 徴 を も った 労 働 交 換 を詳 細 に扱 った 研 究 は必 ず しも多 くな い。 も ちろ ん 多 くの 民 族誌 が,何 らか の 形 で労 働 交 換 や そ の他 の協 同労 働 に言 及 して い る もの の,そ れ らの 大 半 は 単 な る村 落 景 観 の記 述 の一 部 と して,も

くは 市場 経 済 の浸 透 具 合 を示 す 記 号 の 一 つ と して 引 き合 い に出 され て い るだ けで あ る。

農業 経 済 学 者 は労 働 交 換 を 目 の あ た りに しな が ら,労 働 交 換 に お け る"需 要"と"供 給"が 価 格 に よ っ て媒 介 され な い の で,分 析 の 対象 とは しな か った。 また 鐸 民 社 会 を

研 究 した かつ て の文 化 人 類 学 者 達 は労 働 交 換 にそ れ な りの注 意 を払 った もの の,基 本 的 な興 味 が親 族 組 織 の把 握 に お かれ て い た こ と も あ り,親 族 間 の労 働 贈与 な ど は別 に

して,労 働 交 換 の 組 織 と親 族 構 造 と の間 に密 接 な 関 係が な い こ とを 見 いだ す や い な や, 労 働 交 換 の 分析 を そ れ 以上 深化 させ ず に終 わ る傾 向 に あ った2}。 さ らに交 換 行 為 に焦 点 を 当 て た文 化 人類 学 的 研究 に お い て も,興 味 の 中心 は贈 与 交 換 の よ うな 社 会 交 換 の 制 度 的 ・記 号 的 側 面 に お か れ(た と え ば,[STRATHERN  l 971;ScHwlMMER  1979;

PARRY  l986]),経 済 的 ・手 段 的色 彩 の 強 い労 働 交換 は 対象 外 と され て きた 。 また 経 済 的 ・手 段 的 交 換 が分 析 さ れ た 場合 で も何 らか の 市場 メ カ ニ ズ ム が働 く 「部族 ・農 民 市 場」(tribal‑peasant  market)の 研 究 が 中心 で あ り(た とえ ば,[CooK  l970;

HuMPHREY  1984]),そ の結 果, Bennett[1968:277]が 指 摘 した よ う に,互 酬 的 2)先 ほど示 した シンハ ラ農村研究 において も,Leach[1961]やRobinson[1968,1975]ら   労働交換の組織 それ 自体 を詳細に分析 して はいない。

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国立民族学 博物 館研究報 告  13巻3号 経 済 交 換 は無 視 され る か,ま た は 単 純 で 一般 的 な記 述 的 モ デル に よ る 理解 に とどま っ

て きた 。 つ ま り,「均衡 互 酬性 」[SA肌INs  l974]や 「Tモ ー ド交 換」[PAINE  1976]

とい っ た一 般 化 され た互 酬 の 規 範 や 交 換 の 規 則 の質 的 モ デ ル に よ る 理解 に とど ま り, 先 ほ ど労 働 交 換 の特 徴 につ い て検討 した 際 に 述べ た よ うな,交 換 の 戦 略 に注 目 した 行

動 的側 面 のダ イ ナ ミ ック な 理解 には 至 って い な い ので あ る。

  も っと も労 働 交 換 の経 済 的側 面 や 交 換 の戦 略 に言 及 した研 究 が全 くな い とい うわ け で は な い 。Moorc[1975]は 非 常 に多 くの民 族 誌 的 研 究 を 検討 し,労 働 交換 を含 む協 同労 働 の分 類,経 済 的 便 益 性,変 化 の 過 程 な どを検 討 した 。しか しMooreの 興 味 力濃 民 社 会で の協 同 労 働 一 般 に あ った た め,労 働 交換 そ れ 自体 の体 系 的分析 は な され な か

った 。Guillet[1980]は ア ンデ ス高 地 の 農業 にお け る労 働投 入 の 詳 し い記 述 を 行 い, 交 換 労 働 を 含 む 各 種 の労 働 配 分 に 関す る各 世 帯 で の 意 思決 定 過 程 を 明 らか に した 。 ま た,村 落 内で の 労 働 交 換 や 相 互扶 助 は 農業 労 働者 を用 いな い生 産 を続 け る こ とで あ り, そ れ は周 辺 資 本 主 義 国 の 政 府 や 資本 家 に と って の農 業 生 産 物買 い取 り価 格 を 低 く押 さ え る こと にな り,彼 等 に よ る農 民 か らの搾 取 を支 え て きた と い う皮 肉 な 結 果 を指 摘 し て い る。 しか し残 念 な が ら,こ こで は労 働 交 換 の戦 略 的側 面 の 分析 には わず か な ス ペ

ー ス しか さか れ て い な い 。

  そ こで 本 稿 で は,こ れ まで の 議 論 で 明 らか な よ う に,シ ンハ ラ農 民社 会 の 労 働 交 換 の 行 動 的 側 面 を そ の 交 換 の戦 略 に注 目 して検 討 し,互 酬 的経 済 交 換 の一 つ と して の労 働 交 換 に おい て 交 換労 働 の需 要 が いか に して供 給 を見 いだ す か に つ い て 考え てみ る こ

と に した い。 つ ま り,(1)各 世 帯 に お け る交 換 労 働 の需 要 と供 給 が どの よ うに媒 介 され, 現 実 の 交 換 が 実行 され る の か,そ して,(2)そ の よ うな 各世 帯 の 労働 交 換 の結 果,村 ま た は地 域 で の労 働 交 換 の 流 れ(flow)は ど の よ う にな るの か,と い う問 題 を軸 に考 察

し,労 働 交 換 の多 様 な側 面 の 理解 を試 み るの で あ る。

  と ころ で 上記 の よ うな 問 題 を考 え る には,い ろ いろ な 状況 で の労 働 交 換 にま つ わ る 各 世 帯 の 意 思 決 定 過 程(decision  making  Process)を 把 握 す る こ とが必 要 で あ る。 言 い換 え れ ば,ど の よ うな生 態 的 ・社 会経 済 的状 況 で,ど れ だ けの労 働 交 換 を,ど の世 帯 と,ど の よ うに交 換 す る の が も っと も良 い の か,と い う意 思 決定 過 程 の こ とで あ る。

しか し,現 実 の労 働 交 換 は それ 以 外 の 形 態 の協 同労 働 や賃 労 働 と並 存 して存 在 して い るの で,労 働 交 換 を含 め た 労力 動 員 全 体 の意 思 決 定 過 程 を把 握 す る必 要 が あ る。 そ の た め本 稿 で は,シ ンハ ラ農 民 の 労力 動 員 に お け る意 思 決 定過 程 を 分析 し,そ れ を通 し て労 働 交 換戦 略 の把 握 を 試 み る。 この 分 析 で 用 い られ る方 法 は  Natural  Decision Makingア プ ロ ーチ と呼 ばれ る もの で,こ の分 析 に必 要 な 情報 は 現 地 調査 の際 に人 類 524

(10)

足立   シンハラ農村の労働交換体系

学 的 参与 観 察 の延 長 と して 集 め られ た 。 そ こで,次 項 に お いて この ア プ ロ ーチ の概 略 を現 地 調査 の状 況 と と も に示 す 。

2.現 地 調 査 とNatural  Decision  Makingア プ ロ ー チ

  イ ン テ ン シ ブ な 現 地 調 査 は1981年3月 か ら1982年6▼ 月 ま で の 期 間,ス リ ラ ン カ の 中 央 州 ・マ ー タ レ ー 県 に あ る 村 落 で 行 わ れ た 。 ま た 調 査 終 了 後 も1983年3月 ま で の 期 間 中 に,数 回 の 補 足 調 査 に 赴 い た 。 い ろ い ろ な 文 脈 で の 労 働 交 換 を 見 る た め に 三 つ の 村 を 選 び 調 査 村 と し た が,本 稿 で は 紙 面 の 都 合 か ら そ の う ち の 二 村 を 取 り上 げ 検 討 を 加 え る 。 調 査 資 料 は 村 で の 一 般 的 調 査 に 加 え,労 働 交 換 や そ の 他 の 協 同 労 働 に お け る 意 思 決 定 過 程 に 関 す る イ ンタ ビ ュ ー と現 実 の 交 換 行 為 へ の 参 与 を 通 し て 集 め られ た 。 特 に 意 思 決 定 過 程 に 関 す る イ ンタ ビ ュ ー は,先 ほ ど も 述 べ た よ う にNatural  Decision Makingア プ ロ ー チ に 基 づ い て 行 わ れ た の で,こ の 方 法 に つ い て以 下 で 触 れ て お き た

い 。

Natural  Decision  Makingア プ ロ ー チ は 経 済 的 な 選 択 の,体 系 的 か つ 現 実 的 な 像 を 理 解 す る た め に 発 展 さ せ ら れ て き た 方 法 で あ る 。 こ の ア プ ロ ー チ の 前 提 は,現 実 の 意 思 決 定 過 程 で は 錯 綜 す る 価 値 や 功 利 性 の 中 か ら も っ と も 重 要 な も の を 決 定 者 が 選 択

し,決 定 過 程 そ の も の を 単 純 で 簡 単 な も の に し て い る[QulNN  I978;GLADwlN and  MuRTAuGH  l9801と い う 点 で あ り,そ れ は 経 済 学 者 が 作 り 上 げ る 複 雑 な 数 式 モ デ ル と 異 な る 。Gladwin[1980]の 枠 組 に よ る と,意 思 決 定 過 程 は 第 一 段 階 と第 二 段 階 の 二 つ に 分 け ら れ る 。 第 一 段 階 で は,決 定 者 が 多 くの 選 択 肢 の 中 か ら 最 低 必 要 と 考 え る 条 件 を 満 た す 選 択 肢 群 を 選 び 出 す 。 こ の 段 階 は 瞬 時 で,時 と して 無 意 識 の う ち に 行 わ れ る 。 第 二 段 階 は 実 際 の 決 断 過 程 で あ り,い くつ か あ る 判 断 基 準(つ ま り選 択 肢 の 属 性 で あ る 特 有 の 価 値 や 功 利 性)の 中 か ら も っ と も重 要 な も の を 選 び 出 し,そ 基 準 で 選 択 肢 を 順 序 立 て る 。 そ して も っ と も高 く評 価 さ れ た 選 択 肢 が 現 実 的 な も の か ど う か を,与 え ら れ た 環 境 的 な 拘 束 や,社 会 的 な 拘 束,ま た は 文 脈 と い っ た も の の 中 で 検 討 す る 。 も しそ の 選 択 肢 が こ れ ら の 拘 束 に 抵 触 し な い の な ら そ れ が 選 ば れ,そ で な い と き に は 第 二 番 目,第 三 番 目 の 選 択 肢 が 種 々 の 拘 束 の 前 で 試 さ れ る 。 そ し て,

も しど の 選 択 肢 も 現 実 的 で な い と い う こ と に な れ ば,再 び 別 の 判 断 基 準 で 同 じ過 程 を 踏 む こ と に な る 。 こ れ が こ の ア プ ロ ー チ の 枠 組 で あ る が,そ の 結 果 は 選 択 過 程 を 描 い

た 図(decision  tree)や 表(decision  table)と し て 表 現 さ れ る こ と が 多 い 。

  と こ ろ で こ の ア プ ロ ー チ の 特 徴 は,こ れ ま で の 形 式 経 済 学 的 な 前 提(た と え ば [COHEN  l 967:104])で は 非 常 に 困 難 で あ っ た 現 実 の 経 済 行 為 の 理 解 を よ り具 体 的       525

(11)

国立民族学博物館研究報告  13巻3号 な 情 報 プ ロ セ ス と して 分 析 し,条 件 が 整 え ば そ れ を 操 作 化(operationalize)す る こ と も可 能 に な る点 で あ る 。 但 し こ の ア プ ロ ー チ が す べ て の 意 思 決 定 過 程 に 適 用 で き る か と い う と,そ う で は な い 。 農 民 に と っ て の 日 々 の 経 済 行 為 と い う も の は,ほ とん ど 法 的 規 則 に よ っ て 規 制 さ ず,様 々 な 社 会 的,経 済 的,物 理 的 拘 束 の 中 で 次 々 に 選 択 を 繰 り返 しな が ら 行 わ れ る わ け で[P肌To  and  PELTo  1975:ll],こ の よ う な 状 況 で の 決 定 者 は 様 々 な 条 件 下 で の 自 分 の 選 択 パ タ ー ンを 明 確 に認 識 し て は い な い の で あ る [CHIBNIK  l980:30]。 しか し,後 の 節 で 順 次 示 す よ う に,農 民 社 会 の 労 力 動 員 で は こ の よ う な 問 題 は 起 こ らな い 。 と い う の は,農 民 は 労 働 交 換 や そ の 他 の 協 同 労 働 へ の 参 加 を 通 して,自 ら の 世 帯 の 耕 作 に 対 す る 労 力 動 員 の 最 適 な 選 択 の み な らず,規 模 や 技 術 の 異 な る 他 世 帯 の 耕 作 に つ い て も 十 分 経 験 して お り,ど の よ う な 条 件 下 で,ど

よ う な 選 択 を す る の が よ い か に 関 して 熟 知 して い る か ら で あ る。

  な お,こ の ア プ ロ ー チ で 描 か れ る 意 思 決 定 過 程 が 現 実 の も の に 近 い と い う こ と の 意 味 は,描 か れ た 決 定 過 程 そ の も の が 現 実 の 心 理 的 過 程 と 同 じ と い う の で は な く,研 究 者 が 与 え ら れ た 状 況 下 で こ の 決 定 過 程 の モ デ ル を 用 い て,現 実 の 農 民 と 同 じ選 択 に 至 る こ と が で き る か と い う予 測 可 能 性 の 意 味 に お い て で あ る[ORTIz  1983:267]。 の た め に,本 稿 の 第 四 節 で 示 す よ う に,単 な る イ ン タ ビ ュ ー だ け の 調 査 で は 現 実 の 複 雑 な 拘 束 下 で の 意 思 決 定 過 程 を 理 解 す る こ と が で き な い 。 そ の た め 必 ず 意 思 決 定 後 の 現 実 的 行 動 を 知 ら ね ば な ら な い し,決 定 者 が お か れ て い る 状 況 を 十 分 把 握 しな け れ ば な ら な い 。 言 い 換 え れ ば,こ のNatural  Decision  Makingア プ ロ ー チ は,こ れ ま で 通 り の 人 類 学 的 フ ィ ー ル ドワ ー ク を 前 提 と して い る の で あ る。

耳.二 つ の 調 査 村   マ ド ゥ マ ー ナ,ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ

  こ こで は 二 つ の 調 査 村 の 概 要 を 示 し,後 に検 討 す る労 働 交 換 お よ び そ の 他 の 労 力 動 員 に 直 接 ま た は 間 接 的 に 影 響 を 与 え て い る そ れ ぞ れ の 村 の 社 会 経 済 的 背 景 を 示 す 。   調 査 を 行 っ た 二 村 は,ス リ ラ ン カ ・マ ー タ レ ー 県 の 北 東 部,ラ ッ ガ ラ(Laggala)地 方 に位 置 し て い る(図1参 照)。 こ の 地 域 は,標 高1500mを 越 え る キ ャ ン デ ィ ー 山

地 の 東 斜 面 が,こ の 島 の 北 東 部 に 広 が る 乾 燥 平 原 に接 し て い る と こ ろ で,気 候 区 分 で 見 る と 中 間 地 帯(年 間 降 水 量2285‑1525mm)か ら乾 燥 地 帯(同1  525‑890  mm)へ 移 行 点 に あ た っ て い る 。

  と こ ろ で こ の 地 域 は,こ の よ う な 地 形 的 な 条 件 か ら 長 い 間 キ ャ ン デ ィ ー(マ ハ ヌ ワ ラ)な ど の 都 市 部 か ら比 較 的 弧 立 して きた た め,現 在 で も熱 帯 降 雨 林 の 中 に伝 統 的 な

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図1調

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国立民族学博物 館研究 報告  13巻3号 面 影 を 残 し た 村 落 が 点 在 して お り,そ の 中 の 一 つ が 第 一 番 目 の 調 査 村 で あ る マ ド ゥマ ー ナ で あ る。 こ の 村 は ラ ッガ ラ ・パ ッ レガ マA・G.A・(Assistant  Government  Agent) Divisionに 属 し,い わ ゆ る 伝 統 農 村(Purdna  gama)で,小 規 模 な 水 田 と大 規 模 な 焼 畑 に た よ る 自 給 的 農 村 で あ る 。 村 民 は,野 生 の 象 が 時 お り 出 没 す る 森 の 小 道 を6kmほ

ど歩 い て 近 く の 小 さな 町,パ ッ レガ マ へ 行 き 用 事 を 済 ま せ る。 こ こ に は 県 庁 の 出先 機 関 で あ るA.G.A事 務 所,診 療 所,鄧 便 局,そ れ に 数 軒 の 商 店 が あ る 。 こ こ か ら バ ス に6,7時 間 乗 る と,大 病 院 や 県 庁 の あ る マ ー タ レ ー や,ス リ ラ ン カ 中 央 部 の 中心 地 キ ャ ン デ ィ ー に行 く こ と が で き る が,余 程 の こ とが な い か ぎ り村 人 は パ ッ レガ マ よ り 先 に 行 く こ と は な い 。

  しか し こ の よ う な 地 域 に も,こ こ 十 数 年 間 に 開 発 の 波 が 訪 れ 始 め た 。 マ ドゥ マ ー ナ か ら 東 へ4kmほ ど 行 っ た 辺 り か ら広 が る 平 原 地 帯 に,ミ ニ ペ 入 植 計 画(Minipc Colonization  Scheme)1こ 基 づ く大 規 模 な 潅 概 施 設 と入 植 地 が 作 ら れ,土 地 不 足 に悩 む ス リ ラ ン カ の 南 西 部 か ら多 くの 世 帯 が 入 植 して き た の で あ る 。 マ ド ゥ マ ー ナ と と も

に本 稿 で 検 討 す る も う一 つ の 村,ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ(NUWara  Yaya)も こ の よ う な 入 植 地 で,ヘ ッテ ィ ポ ラA。G,A.  Divisionに 属 し,十 分 な 潅 瀧 用 水 と土 地 に よ っ て 米 の二 期 作 を 行 っ て い る。 ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ 村 民 は キ ャ ン デ ィ ー 県 を 中 心 に 出 身 地 が そ れ ぞ れ 異 な り,村 民 間 の 親 族 関 係 は 極 め て 弱 い 。 こ の 地 域 は 平 地 で 道 路 の 整 備 も 比 較 的 良 く, 村 民 は 近 くの 新 し く作 られ た 入 植 地 の 町,ヘ ッ テ ィ ポ ラ ヘ バ ス で 簡 単 に 行 く こ とが で

き る 。 ま た こ こ か ら キ ャ ン デ ィ ー 方 面 に 新 し い バ ス 路 線 が 整 備 さ れ,都 市 と の 繋 が り は 増 加 しつ つ あ る 。 さ ら に こ の 町 に はA.G.A.事 務 所,診 療 所,鄧 便 局 に 加 え て,十 数 軒 の 商 店 と食 堂 な ど が 並 び,パ ッ レ ガ マ で は 手 に 入 ら な い 商 品(肉,密 造 酒)や 報 が あ り,こ の 地 域 の 村 と都 市 の 結 節 点 と な りつ つ あ る 。

1.  伝 統 農 村 マ ド ゥ マ ー ナ

  マ ド ゥ マ ー ナ は,低 い 山 間 に あ る 小 村 で あ る 。 村 の 水 田 の そ ば に 家 が 集 ま っ て 建 て ら れ,そ こ に23世 帯,132人(5.7人/世 帯)が 住 む 。 村 民 の す べ て は,高 地 シ ン ハ ラ 社 会 で も っ と も高 い 位 置 に あ る 農 耕 カ ー ス トの ゴ イ ガ マ(gevigama)に 属 し て い る 。   こ の 村 で は す べ て の 世 帯 が 農 業 で 暮 ら しを 立 て て お り,裏 山 の 小 川 か ら 水 を 引 き 水

田(kumburu)を 耕 し,周 囲 の 森 を 伐 採 し て焼 畑(侮 η)耕 作 を 行 っ て い る 。 ス リラ ン カ に は 雨 季 が 年 に2度 あ る が,こ の 地 方 に は マ ハ 季(11月 〜1月)を 中 心 に 降 雨 が あ り, ヤ ラ季(5月 〜6月)に は わ ず か し か 降 らな い 。 そ の た め ヤ ラ季 の 水 田 耕 作 は マ ハ 季 の5分 の1程 度 し か 行 え な い 。 そ の た め 比 較 的 少 な い 降 水 量 で も 可 能 な 焼 畑 耕 作 に 重

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足立   シンハ ラ農村の労働交 換体系 点 が お か れ て い る3)。

  こ の 村 で は す べ て の 水 田 を 合 わ せ て も15エ ー カ ー4)し か な く,そ の う ち の3.75エ カ ー は1世 帯(家 長 は 村 の 呪 医(vedera‑la)で,元 の 村 長 の 息 子)が 所 有 して お り,2 世 帯 が そ れ ぞ れ1.5エ ー カ ー と1.0エ ー カ ー,10世 帯 が そ れ ぞ れ1エ ー カ ー以 下,残

の10世 帯 は 全 く所 有 して い な い 。 も っ と も,水 田 を 所 有 しな い 多 く の 世 帯 や わ ず か し か 所 有 して い な い 世 帯 は,何 ら か の 刈 り 分 小 作(ande)や 賃 貸 し(badda)契 約 を 他 の 世 帯 と結 ぶ こ と に よ っ て あ る 程 度 の 耕 作 面 積 を 確 保 し て い る 。 ま た,地 主 と は い っ て も わ ず か な 水 田 を 貸 して い る だ け で あ る し,1958年 の 水 田 地 条 例 が 小 作 の 権 利 を 擁 護 し て い る こ と を 気 に して,1,2年 で 小 作 人 を 変 え る の で,土 地 を め ぐ る 明 確 なpatron‑

client関 係 は み ら れ な い 。 そ の 上 こ の 村 の 周 り に は い ま だ に 十 分 な 焼 畑 耕 地 が あ り, わ ず か な 水 田 耕 作 しか で き な い 世 帯 も労 働 力 の 許 す か ぎ り大 規 模 な 焼 畑 耕 作 が で き5),

こ れ に よ っ て 水 田 地 を め ぐ る 世 帯 間 の 緊 張 は 顕 在 化 し て い な い 。

  市 場 価 格 に 換 算 した こ の 村 の 年 間 平 均 収 入 は5190ル ピー(当 時 で1ル ピ ー は 約US$

O.044)と な り,そ の 中 で も っ と も 重 要 な 収 入 源 は 焼 畑(全 収 入 の40%)で,そ れ に 稲 作(同32%)と 政 府 補 助(同20%)が 続 い て い る 。 な お 政 府 補 助 は,こ の 村 の23世 帯 中21世 帯 が 受 け て お り,か な り経 済 的 に は 貧 し い 村 と 言 っ て よ い で あ ろ う 。 実 体 経 済 か ら見 る と,す べ て の シ コ ク ビ エ(kurakkan)と 米(hdl)は 自 家 消 費 さ れ,各 世 帯 平 均 で20bushels(600リ ッ トル)の ト ウ モ ロ コ シ(iringu)が 売 り に 出 さ れ る 。 多 くの 世 帯 で は,そ の つ ど 適 当 な 量 の ト ゥ モ ロ コ シや 余 剰 の 出 た焼 畑 産 物 を パ ッ レ ガ マ の 商 店 ま で 持 っ て 行 き,そ の 場 で 必 要 な 商 品(塩,干 し魚,砂 糖,紅 茶,灯 油 な ど)と 市 場 価 格 で 交 換 す る 。 そ の た め 各 世 帯 は 精 々100ル ピ ー 程 度 の 現 金 しか 日 頃 は 手 元 に 置 い て い な い。 こ の よ う に こ の 村 の 経 済 の 特 徴 は 非 常 に 自 給 的 で,積 極 的 に 商 品 作 物 生 産 を 行 お う と す る 傾 向 は 見 ら れ な い 。

  マ ド ゥ マ ー ナ で は す べ て の 村 民 が 何 ら か の 形 で 系 譜 的 に つ な が っ て お り,お 互 い を 個 人 的 な 名 前 で 呼 ば ず 親 族 呼 称 を 用 い て い る 。 彼 等 に と って,「 み ん な 親 戚 」(okkoma η妙o)な の で あ る 。 そ して お 互 い に 親 族 関 係 の 規 範(た と え ば[RoBINsoN  l 975:

46])に し た が っ た 振 舞 が 期 待 さ れ て い る。 しか し シ ン ハ ラ 社 会 の 親 族 体 系 は 一 般 的 に み る と 双 系 的 で,こ の よ う な 親 族 関 係 が 必 ず し も 規 定 的 な 集 団 を 作 る と は 限 ら な い 。 3)マ ドゥマ ー ナの 農 業 と村 の生 活 の 詳 細 に関 して は足 立[1982,1984,1987]を 参照 され た い 。 4)1エ ー カ ー は0。4047ヘ クタ ール 。 現 在 のス リラ ンカで は面 積 の単 位 と して エ ー カ ー(akkara)

を 用 い るので 本 稿 で もそ れ に従 う。

5)一 般 に 大 きな世 帯 は大 きな焼 畑 を 耕作 す るが,ま た 同時 にそ の よ うな大 きな 世帯 で は成 人 に 達 した 子 供 が 独立 して 別 の 焼 畑 を営 む こ と も多 い。 そ の 際,そ こに 結 婚 を約 束 した女 の子 を 呼 び新 生 活 を始 め る場 合 もあ る 。 その た め付 録1の(3)と(4)に 示 した よ うに,世 帯 数 が23戸 の マ ド ゥマ ー ナ村 民 に よ る焼 畑 で は この年30の 独 立 した プ ロ ッ トがで きた 。

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国立民族学 博物 館研究報 告  13巻3号 この 村 で も 世 帯(Pavula)と 村(gama)の 間 に,ど の よ う な 親 族 集 団 も み ら れ な い(cf.

[LEAcH  l961;TAMBIAH  1965;YALMAN  l967;RoBINsoN  l968,1975;BRow l978])6)。

  こ の よ う に マ ド ゥマ ー ナ で は,土 地 を め ぐる 強 いpatron‑client関 係 も,世 帯 を 越 え た 明 確 な 親 族 集 団 も 見 ら れ な い 。 ま た1956年 以 降,村 の 行 政 が か つ て の 強 い 権 力 を 与 え ら れ て い た 村 長(aracci)の か ら政 府 の 下 級 官 吏(grama sevaka)に 移 行 し,さ ら に 近 年 そ の 度 合 い を 増 した 政 党 政 治 の 村 落 部 へ の 浸 透 で,村 の 細 々 した 問 題 ま で も す べ て そ の 地 区 の 国 会 議 員 の と こ ろ に 持 ち込 ま れ る よ う に な り,村 内 に は リ ー ダ ー 的 な 者 が い な くな っ た 。 し か し も ち ろ ん こ の 村 は,独 立 した 世 帯 の 単 純 な 集 合 体 で は な い。 村 人 は 特 定 の 目 的 の た め に 特 定 のaction‑setを そ の つ ど 選 択 し,社 会 的,経 済 的 行 為 を 行 っ て い る の で あ る 。 特 に森 の 中 に あ る こ の 村 で は,病 気 や 事 故 に 遭 っ た と き に は 村 の 若 者 に担 い で も ら っ て 町 の 病 院 に 向 か わ ね ば な ら な い し,商 店 の な い こ の 村 で は 日 用 品 の 貸 し借 り も 日 常 茶 飯 事 で あ る 。 ま た,次 節 で 論 じ る よ う に賃 金 に よ る雇 用 労 働 が 村 内 で 存 在 し な い の で,世 帯 間 で の 協 同 労 働 が 必 要 と な る。 そ の 結 果,多 様 な 相 互 扶 助 の た め の ネ ッ ト ワ ー ク(action‑setの 束)が 網 の 目 の よ う に 広 が り村 人 を 結 び つ

け て い る。

2.  入 植 地 ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ

  ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ に は37世 帯,221人(6.・0人/世 帯)が 暮 ら し て い る 。 そ の う ち28世 帯 は ゴ イ ガ マ ・カ ー ス トに 属 し,7世 帯 が ベ ラ ワ(berava),1世 帯 が ヘ ー ナ(紘 πの,も

6)た とえ ば,他 の 多 くの シ ンハ ラ農 村 と同 じよ う に,マ ドゥマー ナで も数 世 帯 が 同 じ屋 敷 地 を   (主 に均 分 相 続 の 結果)共 有 し,そ の 中で別 々 の家 を建 てて 暮 ら して い る事 例 が あ る 。 しか し

この村 で はそ の よ うな 世 帯 間 で特 別 緊 密 な 関係 は見 い だせ ず,む しろ仲 が悪 い ケ ー ス もあ り, 屋 敷 地 共 住 集 団(compound  group)と い った もの は 明確 にな って い な い。 また 高 地 シ ンハ ラ社 会 で は一 般 に,variga, gedara, vasagama, Pavutaと い った 四つ の 親 族 集 団 を表 現 す る 概念 が あ る が,こ れ らの 概念 が指 示 す る範 囲 の者 た ちが この 村 で 明確 な集 団 を 形 成 す る こ と もな い 。ま ず 碗gα に関 して で あ る が,双 系 的 で少 な くと も理 論 的 に は内 婚 集団 を 意 味 す るvariga[LEACH l961;ROBINSON  1975}と い う言 葉 を 知 って い る者 は この村 に ほ とん どい な い。 ま た個 人 の名 の前 に付 くvasagamα(カ ー ス トま た は サ ブ ・カ ー ス トの位 階 を示 す 称 号)やgedara  nama(本 来"家 屋 の 名 前"と い う意 味 で あ り,同 一 の祖 先 また は居住 地 を 示 す 名前)の 概 念 も,こ の村 で は具 体 的 な土 地 や家 を共 有 す る こ とが な く,た と え共 通 のvasagamaやgedaraを 持 って い て もそ れ らの村 民 が特 定 の 社 会組 織 を形 成 す ると い う こ とは な い 。Pavlaに 関 して は, LEACH [1961]は この 概 念 の 中 に妻,世 帯,一 人 の女 性 と彼 女 か ら生 物 学 的 に 出 自 した者 の 集 団(ideal Pavla),特 定 の 目的 に 向 けた 双 系 的 で選 択 的 な親 族 集 団(effective Pavla)と い う四 つ の意 味が あ る と指 摘 し,ま たRobinson[1968;1975]は そ れ らの う ちideal pavlaに 関 して は,浅 い父 系 集 団 と本人 の母,そ れ に母 の兄 弟 か らな る と指 摘 して い る 。 マ ドゥマ ー ナで も世 帯 に よ って ば らつ きは あ る もの の,確 か に この よ うな意 味で 使 わ れ て い る。 しか し現 実 の集 団 と して は世 帯 と して のpavlaの みで, Robinson[1968;1975]の モ ラ ピテ ィ ヤ村 と同 じよ うに,新 年 の儀 礼 に して も,年 に一 度 の 守 護 神 へ の 供儀(α傭 π)に して も,世 帯 単 位 で 行 わ れ,上 に示 した ideal Pavlaやeffective  Pavlaと い った カ テ ゴ リーに 基 づ く現 実 の 集 団形 成 は見 られ な い。 つ ま りこの村 に は世 帯 と村 の 間 に は どの よ うな社 会 集 団 もみ られ ず,各 自 が各 様 の選 択 的 な関 係 を辿 り社会 生 活 を 営 ん で い る ので あ る 。

530

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足立  シンハラ農村の労働交換体系

う1世 帯 が ドゥ ラー バ(durdva)の カ ース トに属 して い る7)。

  ヌ ワ ラヤ ー ヤ を含 む 入植 地 はマ ドゥマ ー ナな どの伝 統 的農 村 と大 き く異 な り,よ り 大 きな 社 会 ・経 済 シス テ ム の一 部 で あ る。 入植 地 の経 済 は潅 瀧 施設 に基 づ く集 約 的な 水 田稲作 に よ って 支 え られ,マ ハ 季 の みな らず ヤ ラ季 に も十 分 な収 穫 が 期待 で き る。

商 品 と して の米 は そ の地 域 の商 人(mudalali)に 売 られ,入 植者 は そ れ で金 銭 を得,毎 日の 必 要 な もの を 買 う。 さ らに,い ろ い ろな 都 市 の文 化 的 価値 が広 く この地 に導 入 さ れ,消 費 の パ タ ー ンや暮 ら しに影 響 を与 え て い る。 ま た,潅 瀧 施設 の建 設 に よっ てで きた この地 域 は,個 々 の入 植 地 を越 え た大 きな レ ベル で の 水管 理 を 行 って お り,入 植 者 の生 活 は これ らの大 きな シス テ ム の動 き に した が って お り,個 々 の入 植 地 内部 の関 係 は 極 め て 薄 い 。

  この 地 域 の入 植 地 の 多 くに は,マ ドゥマ ー ナな どの ラ ッガ ラ地方 の伝 統 農 村 か ら移 って きた 世帯 が 多 く暮 ら して い る。 彼 等 は昔 な が らの 農 業 を 行 い,近 代 的 な農 業 技 術 と経 営 には 慣 れ て い な い 。 そ の た め,政 府 か ら与 え られ た2エ ー カ ーの土 地 を拡 大 す る こ とな くそ の ま ま 維 持 して い る か,時 に は 一部 を手 放 し小 作 料 で 暮 ら して い る世 帯 もあ る。 ま た 彼 等 の 多 くは,屋 敷 地 な ど に シ コ ク ビエ を植 え た り して,稲 作 の み に こ だ わ らな い 者 も多 い 。 も っ と も,ラ ッガ ラの 出 身村 で は 持 て な か った2エ ー カ ー と い う土 地 を 耕 し,当 時 に比 べ て 良 い収 入 を得 て い る ので,彼 等 は こ この 暮 ら しに満足 し て い る。

  しか し この よ うな ラ ッガ ラ出 身者 とヌ ワ ラ ヤ ー ヤの 入 植 者 と は大 き く異 な って い る。

ヌ ワ ラ ヤ ー ヤの 農 民 は,キ ャ ンデ ィー 地方 か らの 入 植者 で あ り,近 代 的な 農業 の 知 識 も一 応 あ り,さ ら に商 品 生 産 に必 要 な 金 銭 感覚 に も優 れ て い る。 さ らに異 な るの は, ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ の多 くの 世 帯 主 は,こ の地 で 一生 懸 命働 き,資 金 をた め て彼 等 の 出身 村 で土 地 を買 い,そ こ に戻 るつ も りを して い る点 で あ る。 そ して ヌ ワ ラ ヤ ー ヤの 土 地 は 子 供 た ち に渡 そ う と い う計 画 で あ る。 そ の た め 彼等 の農 業 は極 め て利 益 優 先 な の で あ る。 この よ う な経 済 的 目的 のた め,多 くの 世 帯 は生 産 の規 模 をandeや 借 金 の 形 に耕 作 権 を獲 得 す るukas契 約 で 拡 大 し,当 初 の2エ ーカ ーを大 き く越 え5〜6エ ーカ ー 耕 して い る世 帯 も珍 し くは な い。 ま た この 地 域 で は,入 植 地 の周 辺 部 に政府 の 許可 な しに住 みつ い た土 地 無 し農 民 も多 く,農 業労 働 者 に は事 欠 か な い ので あ るが,そ れ に もか か わ らず こ の村 で は農 業 労 働 者 を雇 わ ず,大 規 模 な労 働交 換 を 組織 し経 費 の 節 減 を計 って い る。

7)シ ン ハ ラ ・カ ー ス ト体 系 で は,ベ ラ ワ は"太 鼓 叩 き",ヘ ー ナ は"洗 濯",ド ゥ ラ ー バ は"ヤ シ酒 採 り"の カ ー ス トで あ る が,彼 等 の 基 本 的 な 生 業 は 農 業 で あ る 。

531

(17)

国立民族学博物館研究報告  13巻3号   ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ の 年 間 平 均 収 入 は16400ル ピ ー で,そ の88%は 年 に2度 の 水 田 耕 作 か らで,9%が 政 府 補 助,3%が そ の 他,と な っ て い る 。 こ の よ う に,ほ と ん ど が 稲 作 か ら の 収 入 で,畑 作 な ど へ の 興 味 は ほ とん ど な い 。 ま た,こ の 数 字 で 自 給 農 業 と の 単 純 な 比 較 は で き な い も の の,こ の 収 入 は マ ド ゥ マ ー ナ の 約3倍 に も な っ て お り そ の 規 模 の 大 き さ が う か が わ れ る 。

  こ の 入 植 地 に は,ベ ラ ワ ・カ ー ス トの7世 帯 が,周 り か ら弧 立 し て い る こ と も あ り 緊 密 な 親 族 関 係 を 保 っ て い る ほ か は,ほ と ん ど 親 族 関 係 は み られ な い 。 ま た 各 世 帯 は 最 低2エ ー カ ー の 水 田 を 政 府 か ら 与 え ら れ て い る の で,外 部 の 世 帯 か ら土 地 を 借 り る こ と は あ っ て も,こ の 入 植 地 内 で の 土 地 の 貸 し借 り は な くpatrol1‑client関 係 は 顕 在 化 し て い な い 。 ま た マ ド ゥ マ ー ナ の よ う な 孤 立 し た 村 で は な い の で,バ ス や 牛 車 で ヘ ッテ ィ ポ ラ の 病 院 に ゆ く こ と が で き る し,入 植 地 内 に 商 店 も あ り,マ ド ゥ マ ー ナ ほ ど 相 互 依 存 性 が 高 くな い。 そ の た あ 各 世 帯 は 独 立 性 が 高 く,マ ド ゥマ ー ナ よ り も も っ と 明 確 に 目 的 を 顕 に し た 各 種 の ネ ッ トワ ー ク を 作 っ て 社 会 ・経 済 活 動 を 行 っ て い る 。 特

に,先 ほ ど も 述 べ た よ う に ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ で は 極 め て 強 力 な 労 働 交 換 の ネ ッ トワ ー ク が で きて お り,こ れ が 本 稿 の 焦 点 の 一 つ な の で あ る 。

3.比

  こ の よ う に マ ド ゥ マ ー ナ と ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ は い ろ い ろ な 点 で 大 き く異 な っ て い る 。 経 済 的 に 見 る と,伝 統 農 村 マ ド ゥ マ ー ナ で は 焼 畑 耕 作 と水 田 稲 作 に 基 づ く 自 給 農 業 生 産

      表1水 田耕 作 に お け る労 働投 入 パ タ ー ン (マ ドゥマー ナ,ヌ ワ ラヤ ーヤ,お よ び そ の他7村 の比 較)

村の形態 全労働投入量 雇用 労働 世帯労働 交換労働

(人 ・日/エ ー カ ー) マ ド ゥ マ ー ナ

ヌ ワ ラ ヤ ー ヤ

ミ ニ ペ

ハ ン バ ン トー タ ポ ロ ン ナ ル ワ エ ラ ヘ ラ(1) ワ ラ ガ ンバ フ ワ エ ラ ヘ ラ(2) カ ラ ー ・オ ヤ

伝統農村 入 植 地 入 植 地

入 植 地 伝統農村 入 植 地 伝統農村

60.2 48.3 68.4 52.1 69.4 67.7 55.0 55.0 52.0

4.5 22.6 44.9 53.8 42.7 6.7 25.6 14,0

34.2 19.0 39.1 7.2 15.6 24.6 40.6 29.5 34.0

26.0 24.8 6.8

0.2 7.8 不 明

4.0

(付記)他 の 地 域 の資 料 と比 較 す る た め にマ ドゥマー ナ と ヌワ ラ ヤー ヤ に お け る 交 換 労 働 に は  α伽 彿 のみ な らず 燃 α璽 も含 めた 。 な お これ らの 協 同 労働 の 分 類 は第 三 節 第二 項 を参 照 。 ま た   マ ドゥマ ー ナ とヌ ワ ラ ヤー ヤ以 外 の 村 の資 料 は[Fieldson  l981]に よ る 。

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