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ただいまオンエアー : みんぱく映像民族誌

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ただいまオンエアー : みんぱく映像民族誌

著者 三島 禎子

雑誌名 民博通信

巻 163

ページ 25‑25

発行年 2018‑12‑28

URL http://doi.org/10.15021/00009318

(2)

民博通信2018 No. 163 25

ただいまオンエアー

―みんぱく映像民族誌

 セネガルの「文化祭」の映像取材をする ために、2017年11月、国立民族学博物館の 取材班2人とともに現地に赴いた。5日間で 25村をまわり、それぞれの村で紹介される 伝統儀礼を記録するのが目的であった。取 材に行くことになったのは、筆者が同地域 でソニンケ民族の移動と経済活動について 長年調査をしてきた関係からである。伝統 儀礼の記録も民族文化の観点からは重要だ が、むしろ伝統儀礼を再興しようとする社 会・文化的背景や文化祭を開催する経済的 背景に興味があった。

 この文化祭はソニンケ民族が主体となっ ている点から、筆者は「民族文化祭」であ ると考えていた。外国への労働移民が多い セネガル河上流域では、生活環境の変化と ともに伝統儀礼の多くが失われつつあった。

それを移民の経済力に頼って再興しようと する動きだととらえていたのである。移民 による送金は、家族の生活向上に加えて、

地域の社会的発展にも役立ってきた。新し い家が建ち、どの村にも学校や診療所、モ スクが整えられた。「民族文化祭」への寄付 は、移民による新しいかたちの富の分配で あり、そこに名誉という価値が与えられる 構図を予想していたのである。

 しかしこの行事は「民族文化祭」ではな かった。主催した地域ラジオ局は「統合の 電波」というスローガンを掲げ、宗教や政 治的な危機によって分断された地域間統合 を射程に据えている。同地域は、セネガル 河を隔ててマリやモーリタニア、セネガル が国境を接している。隣国マリでは近年トゥ アレグ独立派とイスラーム原理主義派の抗 争があった。モーリタニアとセネガルでは 1989年に牧畜民と農耕民との諍(いさか)い が2国間での激しい紛争に発展し、同じ民 族や家族が対岸に住んでいるのに、長い間

往来ができなかった。このような状況をふ まえて、文化祭では国を越えた民族的連帯 の強化を目的とした。

 文化祭の開催には多くの資金が必要とな るが、セネガルの法律では地域ラジオ局に は広告が禁じられており、資金源が極めて 限られている。そのためにラジオ局は電波 が届く限りの村々すべてに特派員を置き、

人びとが依頼するアナウンスを有料で集め るシステムを作った。これによって国境を 越えたネットワークができた。

 ラジオ局は地域発展を推進する団体とし ても活動している。セネガル河上流域は内 陸に位置し、首都からは遠いうえ道路事情 は非常に悪い。半世紀以上にわたって、移 民は家族と村落への送金を続けてきたが、

道路整備事業はかれらの経済力ではまかな いきれない。人々は電化製品を買うことは できても、電気をひくのは国家の事業であ る。植民地時代以降、沿岸部の開発ばかり が優先され、内陸は忘れられてきた。それ に対抗する手段が「文化祭」である。文化 の力で地域の存在を主張しようというのが 文化祭のもうひとつの狙いである。

 そこで登場するのが、女性たちである。

男性の多くが移民として村を離れているこ の地域で、ラジオ局は女性たちを組織して、

小規模の経済活動を行うグループを作った。

彼女たちは行事のための椅子の貸し出しや 商品の小売りなどを共同で行いながら、利 益を出している。文化祭では各村で演目が 紹介されるが、それを考案し、準備し、演 じるのは、このグループの女性たちである。

そして主催者側の招待客を接待し、宿泊先 を提供したり食事をふるまうのもこの女性 たちである。

 結果として、筆者が予想していた構図は すべて間違っていた。文化祭は「民族文化

祭」ではなかったし、経済的に行事を支え ていたのは海外にいる移民ではなく地域ラ ジオ局の呼びかけに応じて寄付をした人び と、地域の女性グループ、私財を投じた国 内の篤志家などであった。

 この取材内容は民博の「みんぱく映像民 族誌」としてまとめられる。セネガルの国 営テレビ局が伝統儀礼の内容を中心に取材 していたのに対し、われわれは文化祭の成 り立ちに焦点を当てることで、現代を生き る人びとの諸相を描きたいと考えている。

 文化祭の様子はラジオを通して、生放送 された。映像はないが、各村での歓待の挨 拶から演目の内容、音楽、歓声、取材の様 子などが、現場から地域の人びとへ直接伝 えられた。ラジオを聴いている人びとも、

その場にいて文化祭に参加しているかのよ うな盛り上がり方であった。1週間の取材 期間中、われわれもオンエアーの臨場感の なかにいた。

文・写真 三島禎子

国立民族学博物館グローバル現象研究部准教 授。専門は文化人類学、西アフリカ研究。共 編著にQuestions de migrations et de santé en Afrique sub-saharienne LʼHarmattan 2014)、

論文に「民族の離散と回帰―ソニンケ商人 の移動の歴史と現在」駒井洋監修・編、小川 充夫編『グローバル・ディアスポラ』pp.105- 130(明石書店 2011年)などがある。

ラジオ局の中継車の前で踊る少女たち2017年、

セネガル)。

村から村へ移動するラジオ局の中継車(2017年、

セネガル)。

ラジオ局から取材を受ける女性グループの代表

2017年、セネガル)。

出番を待つ若い女性たち2017年、セネガル)。

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