一四九 捨て仮名の機能(冨士池) 冨 士 池 優 美 捨て仮名の機能 ― 一二世紀前半の例に基づく検討 ―
一 は じ め に
国立国語研究所「通時コーパスの設計」プロジェクトでは、古典テキストに対して形態素解析を施す研究が進めら れ て い る。そ の 中 で、 『 今 昔 物 語 集 』 の 形 態 論 情 報
(集』一~四(小学館、以下「新編全集」とする)に基づくテキスト整形が行われた。
1付 き コー パ ス の 構 築 に 向 け、 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 『 今 昔 物 語
)『今昔物語集』には「汝チ」
「此カク」のような、漢字の読みの一部(もしくは全体)を仮名で送る表記がある。こ のような仮名は「捨て仮名」と呼ばれる。形態素解析にあたり、漢字の一部(もしくは全体)の読みを仮名で送る捨 て 仮 名 は 形 態 素 の 重 複 と な り、 解 析 精 度 低 下 の 原 因 と な る。そ の た め、 捨 て 仮 名 部 分 を 形 態 素 解 析 対 象 か ら 除 外 し、 捨 て 仮名 と し て 除外 さ れ た 文字 を XML タ グ に 記録 す る こ と と な っ た。 『法華百座聞書抄』 に つ い て も 同様 に、 形態論 情報付きコーパスの構築に向け、 『校註法華百座聞書抄』に基づく電子化作業及びテキスト整形が行われた。 『今昔物
一五〇
語集』における捨て仮名のテキスト整形にあたっては新編全集の頭注を参考にしたが、実際に形態素解析結果の人手 修正をはじめたところ、頭注に指摘はないが似たような表記(例「薬リ」 )が散見された。
本稿では、形態素解析を前提としたコーパスにおける捨て仮名処理の方法を紹介する。そして一二世紀前半の片仮 名漢字交 じ り 文資料 で あ る 『今昔物語集』 『法華百座聞書抄』 の コー パ ス 構築過程 で 得 ら れ た 捨 て 仮名 の 実態 を 報告 す るとともに、その機能について考察する。
二 問題の所在
二・一 捨て仮名の処理
和漢混淆文に対して形態素解析を施すにあたり、漢文の要素が交じっていることに起因する問題がある。その一つ が形態素の重複であり、形態素の重複があると文字と形態素との対応を上から順に取れないことが問題となる。捨て 仮名 は こ の 形態素 の 重複 に 当 た る。 『今昔物語集』 コー パ ス の 形態論情報付 き コー パ ス の 構築 に 向 け、 形態素 の 重複 を 解消すべく、前もって整備する必要があると考え、テキスト整形を行った
(2
。
)『今昔物語集』
の 捨 て 仮名 に は、 「汝 チ」 の 「チ」 の よ う に 最後 の 一字 が 捨 て 仮名 と な る も の の ほ か、 「候 フ ウ」 の よ うに「さぶらう」の「ぶ」の部分を表記したと思われるものもある。そこで、テキスト整形の際、頭注の記述を参考 に 捨 て 仮 名 を 洗 い 出 し、 X M L タ グ 付 け に よ り、 捨 て 仮 名 部 分 を 形 態 素 解 析 対 象 か ら 除 外 し た
(『今昔物語集』 (本朝部)全体で一三一二箇所、表記にして二四〇種類超であった。以下に捨て仮名の処理例を示す。 捨て仮名として除外された文字列であることのほか、元の表記を記録した。処理対象となった捨て仮名は、新編全集
3。X M L タ グ に は、
)汝 チ → 汝 此 カク → 此 候 フ ウ → 候ウ 努々 メ → 努々 今夜 ヒ → 今夜 ( 太文字 :捨て仮名)
一五一 捨て仮名の機能(冨士池) このように『今昔物語集』コーパス構築の前処理としてのテキスト整形においては、頭注の記述を参考に捨て仮名 か ど う か の 認定 を 行 う こ と が で き た。し か し、 コー パ ス 構築 に あ た り、 「捨 て 仮名」 で あ る か ど う か 参考 に で き る 情報 があるとは限らない。そうなると、情報がないがテキスト整形は行いたいとなった場合、どのような表記を捨て仮名 とするのかということがまず問題となる。 二・二 捨て仮名とは 「捨
て 仮名」 は、 『日本語学研究事典』 や 『日本語大事典』 に 立項 さ れ て お ら ず、 「送 り 仮名」 の 項目中 に 現 れ る。 『日 本語大事典』 に は 「捨 て 仮名、 副仮名 と 呼 ぶ こ と も あ る が、 そ の 範囲 は か な ら ず し も 明確 で は な い」 と あ る。ま た 『日 本国語大辞典(
Japan Knowledge)』には
(
( に小さく添えて書くかなのこと。送りがな。
1) 漢文 を 訓読 す る 時、 漢字 の 意味 を 日本語 に い い 替 え る た め に、 助詞、 助動詞、 活用語尾 の 類 を 漢字 の 下
(
2) 促音・拗音などを表わすのに用いる小さな字。 「つ」 「や」 「ゆ」 「よ」 「イ」 「オ」の類。
もの。これによって、その場合の読み方をはっきりさせる。 「様ン(さん) 」「二人リ(ふたり) 」の類。
3) 他 の 読 み 方 を さ れ る お そ れ の あ る 漢字 の 読 み の 最後 の 一字 を か た か な で、 そ の 漢字 の 下 に 小 さ く 添 え た
とある。捨て仮名は送り仮名の一種であるとともに、狭義では「他の読み方をされるおそれのある漢字の読みをはっ きりさせる」ために「小さく添えた」仮名ということができるだろう。
一五二
二・三 先行研究
『今昔物語集』
の 捨 て 仮名 に つ い て は、 山田 ほ か (一九五九~一九六三) の 解説 に 例示 が あ る。解説 の 中 で 『今昔物 語集』 の 捨 て 仮名 に つ い て、 「活用語 に お い て は 不変化部分 に つ い て ま で か な を 送 り、 体言 ・ 副詞 に 関 し て は そ の 語末 のかなを特に多く送るという傾向」があることを指摘し、これを「活用語尾を示す送りがなと区別する意味で、特に 捨 て が な と 呼 ぶ こ と に す る」 と し て い る
(らの捨てがなもまた、次第に消滅の一途をたどる」とする。 本文 の 中 に 随時繰 り 入 れ れ ば 自然 に か く の 如 き 現象 が 起 る」 「流布本 の 表記法 が 宣命 が き か ら 遠 ざ か る に つ れ て、 こ れ 仮名 は 東大寺諷誦文稿 や 打聞集 や 草案集 に も 見 ら れ、 「漢文訓読 に お け る 大小 の 傍訓 を、 か な 交 り に 書 き 下 す に 際 し て 備忘の為に附せられたものかと思うが、特別難読の語に限ってついたという形跡は見られない」とする。また、捨て も の が、 い わ ゆ る 全訓捨 て 仮名 と か り に よ ぶ と こ ろ の も の で あ る」 「こ れ ら の 表記法 は、 恐 ら く 編者 も し く は 書記者 の
4。捨 て 仮名 は 「不統一極 ま る も の」 で あ り、 捨 て 仮名 の 類 で 「最 も 極端 な
)宣命書きと捨て仮名の関連については、酒井(一九六七) 、酒井(一九六八)にも指摘がある。 「漢字の音訓の一部 ま た は 全部 を 活用語 の よ う に か な
00で 小書 す る い わ ゆ る す て が な
0000は、 本集 を は じ め と し て、 「打聞集」 や 「草案集」 ・「金 澤文庫本仏教説話集」 ・「天海蔵本諸事表白」等に普通な用字法であるが、一般に流布本では、これを脱する傾向が濃 厚 で あ る。 」
(に は、 捨 て が な が 激 減 す る 」「 捨 て が な は、 片 仮 名 宣 命 体 の 特 徴 的 表 記 な の で あ り ま す。 」
( 5と し、 流布本 で 捨 て 仮名 が 少 な く な る こ と に つ い て 「今昔物語集 に お い て、 宣命書 き で 無 く な る 流布本
)でしょう」としており、表記との関わりのほかに、積極的に捨て仮名表記がされる資料があることを指摘している。 めに、筆録類においては読み手に誤読されまいとして、こうした捨てがな表記は一層の盛行をみることとなったもの 井 (一九六八) は、 訓点資料 に 見 ら れ る 捨 て 仮名 を 例示 し た 上 で、 「聞 き 書 き 類 に お い て は 師 の 訓 み を 忠実 に 伝 え る た
6と し て い る。さ ら に、 酒
)二・四 調査対象
調査対象は、コーパス構築の対象となった以下の二資料である。
一五三 捨て仮名の機能(冨士池) 一つは『今昔物語集』である。 『今昔物語集』は一一二〇年頃成立したとされる、説話集である。三一巻から成り、 物語の場によって巻一から五の天竺部、巻六から一〇の震旦部、巻一一から三一の本朝部の三部に分かれる。新編全 集『今昔物語集』に収録されているのは本朝部である。表記は、自立語は漢字、活用語尾は付属語は片仮名で小さく 書 く、 片仮名宣命書 き と 呼 ば れ る 形式 で 統一 さ れ て い る。本稿 で は、 『今昔物語集』 現存最古 の 写本 で あ り 捨 て 仮名 が 多く見られる鈴鹿本を底本とした巻の中から、巻一二を調査対象とした。 も う 一 つ は 『法華百座聞書抄』 で あ る。 『法華百座聞書抄』 は 天仁三年 (一一一〇年) 二月二八日 か ら 三〇〇日間 に わたって講じられた法華経・阿弥陀経・般若心経の説教の聞き書きである。計三五の説話を含む二〇日分の説教が筆 録されている。表記は片仮名を主体とした片仮名漢字交じり形式である。二〇日分の説教全てを調査対象とした。 この二つの資料は同時代の片仮名漢字交じり文資料として位置づけられる。ともに漢字の読みの一部(もしくは全 体) を 仮名 で 送 る 表記、 い わ ゆ る 捨 て 仮名 が 存在 す る も の で あ る。 『今昔物語集』 が 片仮名宣命体 に よ る 資料 で あ る の に対して、 『法華百座聞書抄』は聞き書き類ということになる。
三 『今昔物語集』巻一二の捨て仮名
三・一 調査の概要
仮 に、 「他 の 読 み 方 を さ れ る お そ れ の あ る 漢字 の 読 み を は っ き り さ せ る た め に 小 さ く 添 え た 仮名」 が 捨 て 仮名 で あ る と す る な ら ば、 捨 て 仮名 が あ る 場合 と な い 場合、 複数 の 表記 を も っ て、 「読 み」 な い し 「語」 の 書 き 分 け を 行っ て い る はずである。
『今昔物語集』
巻一二 に つ い て、 形態素解析結果 (人手修正済 み) を 用 い、 ① 頭注 で 指摘 さ れ た 捨 て 仮名 の 語 の 表記 のバリエーション、 ② 頭注で指摘された捨て仮名の語に対して、捨て仮名がない表記でどのような語が表されている のか、 ③ 頭注で指摘された以外に仮名が添えられるかどうかで書き分けされる語があるのかの三点を調査し、影印本
一五四
を 用 い て 鈴鹿本 で の 表記 を 確認 し た。な お、 「小 さ く 添 え た 仮名」 の 読 み が 活用語尾 を 表 す 場合 は、 い わ ゆ る 「送 り 仮 名」に該当すると考え、活用語は今回の調査の対象外とした。
三・二 頭注で指摘された捨て仮名の語の表記バリエーション
図表
た
( 1に 巻一二中 の 頭注 で 指摘 さ れ た 捨 て 仮名 の 語 の 表記 バ リ エー ショ ン と 「汝 チ」 「成 ナ ル」 の 捨 て 仮名例 を 示 し
三三種類の捨て仮名が指摘されており、延べ六五箇所にタグ付け処理を行った。 表記) の よ う な 捨 て 仮名 の な い 表記 に つ い て は、 「漢字 の み」 列 に そ の 用例数 を 示 し た。巻一二 に お い て は、 頭注 に て
7。「 成 ナ ル 」 の よ う な 全 訓 捨 て 仮 名 に つ い て は、 「 全 訓 」 列 に ○ を 付 し た。ま た、 「 汝 」( 「 汝 チ 」 の 「 チ 」 が な い
)この中で、 「云イ」 「成ナル」は全訓捨て仮名であり、活用語に捨て仮名を付すことにより読みをはっきりさせる目 的があったものと考えられる。
その一方で、捨て仮名が添えられた表記が比較的多く出現している「ナンジ」 「ムカシ」 「マタ」のような語は、漢 字の読みが複数あるわけではなく、仮名が付されていなくても他の読み方をされるおそれはない語である。このこと から、 『今昔物語集』の捨て仮名は、必ずしも、 「漢字の読みをはっきりさせる」ものであるとは限らないということ がわかる。
ま た、 捨 て 仮名 が 添 え ら れ た 表記 と 漢字 の み の 表記 の 出現頻度 を そ れ ぞ れ の 語 で 比較 し て み る と、 「 智
サトリ」 の よ う に 捨て仮名が添えられた表記と添えられていない表記とで同頻度のものもあるが、 「形チ」 「験シ」等のように、ほとん どの捨て仮名表記が頻度一の捨て仮名である。つまり、臨時的に付されたことが多い様子がうかがえる。このような こ と か ら、 『今昔物語集』 の 捨 て 仮名 は、 決 し て 体系的 な も の で は な い と い う こ と が 言 え る。 「タ マ タ マ」 「ヒ ジ リ」 の ような漢字のみの表記が出現していない語に関しては、 「適マ」 「聖リ」といった表記が当時の慣習的な表記であった 可能性があると言えるだろう。
一五五 捨て仮名の機能(冨士池)
図表 1 頭注で指摘された捨て仮名の語の表記バリエーシ ョンと捨て仮名例
読み 種類 全訓 品詞 捨て 仮名 漢字
のみ 総計
1 ナンジ 汝ヂ 代名詞 20 24 44
2 ムカシ 昔シ 普通名詞 5 49 54
3 マタ 亦タ 副詞 4 93 97
4 サトリ 智リ 普通名詞 3 3 6
5 ヨル 夜ル 普通名詞 2 4 6
6 タテマツル 奉ツ 動詞 2 130 132
7 タビ 度ビ 普通名詞/助数詞 2 7 9
8 ヒトエニ 偏ヘ 副詞 2 13 15
9 カタチ 形チ 普通名詞 1 12 13
10 シルシ 験シ 普通名詞 1 13 14
11 モノ 者ノ 普通名詞 1 31 32
12 ノチ 後チ 普通名詞 1 104 105
13 ヒル 昼ル 普通名詞 1 4 5
14 タメ 為メ 普通名詞 1 53 54
15 アイダ 間ダ 普通名詞 1 120 121
16 ソモソモ 抑モ 普通名詞 1 1 2
17 ヒト 人ト 普通名詞 1 233 234
18 タマタマ 適マ 副詞 1 0 1
19 ユメ 夢メ 普通名詞 1 41 42
20 キミ・ギミ 君ミ 接尾辞 1 6 7
21 シルシ 注シ 普通名詞 1 0 1
22 トモ・ドモ 共モ 普通名詞 1 7 8
23 ヒジリ 聖リ 普通名詞 1 0 1
24 カズ 員ズ 普通名詞 1 6 7
25 ココロ 心ロ 普通名詞 1 81 82
26 アラズ 非ラ 動詞=助動詞 1 37 38
27 ツユ 露ユ 副詞 1 8 9
28 ヨワイ 齢ヒ 普通名詞 1 2 3
29 イウ 云イ ○ 動詞 1 416 417
30 ナガイ 永ガ 形容詞 1 15 16
31 イワオ 巌ヲ 普通名詞 1 2 3
32 ナル 成ナル ○ 動詞 1 51 52
33 ホラ 宝ウ螺 普通名詞 1 0 1
総計 65 2838 2903
一五六
三・三 捨て仮名表記の語と捨て仮名がない表記の語
表
下、複数の読みを持つ漢字の中から「夜」 「後」の例を見ていく。 仮名によって語の書き分けがなされ、捨て仮名が漢字の読みを特定させる機能を持つ語があることが確認された。以 集』全体に範囲を広げて、捨て仮名がない表記でどのような語が表されているのか調査した。この調査の結果、捨て
2に巻一二中の捨て仮名表記の語と捨て仮名がない表記の語を示した。 「仮名なし表記」については、 『今昔物語
a.夜 ここでは、 「ヤ」 「ヨ」 「ヨル」と複数の読みがある「夜」について、見ていく。
(
(
1)自ラ一ノ樹ノ下ニ留テ一 夜 ヲ過シツ。 (巻第十七「依地蔵示従鎮西移愛宕護僧語第十四」 )
(
2)物語ナドシテ 夜 モ漸ク深更レバ入ヌ。 (巻第十七「比叡山僧依虚空蔵助得智語第三十三」 )
(
3) 夜ル 薪ヲ拾テ、火ヲ打テ木ヲ焼ク間、 夜 深更テ、… (巻第十七「籠鞍馬寺遁羅刹鬼難僧語第四十三」 )
4
)天皇 夜ル 清涼殿ノ 夜ル ノ大臣ニ御マシケルニ、… (巻第二十九「九条堀河住女殺夫哭語第十四」 )
新 編 全 集 の ル ビ に よ る と、 そ れ ぞ れ の 読 み は (
1
)「 一 夜 」 が 「 ヤ 」、 (
2
)「 夜 モ 」(
い る。 (
3)「 夜 深 更 」 が 「 ヨ 」 と な っ て
3
)(
4
) の 「夜」 は、 「 夜 ル 」 と 仮名 が 添 え ら れ た 捨 て 仮名 の 例 で、 「ヨ ル」 と 読 む こ と が わ か る。 (
は 「夜 ル」 「夜」 と 書 き 分 け る こ と に よ っ て、 語 を 明確 に す る 働 き が あ る と 考 え ら れ る。ま た、 (
3) の 例
3
)「夜 ル 薪」 や (
も考えられる。 になるおそれがある。捨て仮名を用いることによって、読みを特定するとともに、語の境界を明確にしている可能性 「夜 ル 清涼殿」 の よ う な 例 は、 「夜」 に 続 く 語 が 漢字 で 記 さ れ て お り、 「ル」 が な い 場合、 語 と 語 の 切 れ 目 が や や 不明瞭
4)
一五七 捨て仮名の機能(冨士池) 表 2 捨て仮名表記の語と捨て仮名がない表記の語
読み 仮名あり仮名なし表記用例巻12全体用例(読み) 数用例(読み) 数用例(読み) 数用例(読み) 数用例(読み) 数用例(読み) 数用例(読み) 数1ナンジ汝ヂ202612ムカシ昔シ5333マタ亦タ454サトリ智リ345智(シル)15ヨル夜ル256夜(ヨ)314夜(ヤ)内2例接尾辞206タテマツル奉ツ219奉(ウケタマワル)117タビ度ビ26度(ド)788ヒトエニ偏ヘ259カタチ形チ111910シルシ験シ126験(ゲン)10験(ゲンズル)611モノ者ノ122者(シャ・ジャ)115者(ハ)係助詞312ノチ後チ116後(ウシロ)80後(シリエ:後方)38後(シリ)7後(アト)3後(ゴ)2後(オクレル)2後(カ:彼)113ヒル昼ル11614タメ為メ113為(スル)839為(ナス)9為(ヰ)お経の一部4為(イル)誤写か115アイダ間ダ112間(マ)36間(ケン・ゲン)30間(ヒマ)1間(ヒラク)116ソモソモ抑モ112抑(オサエル)617ヒト人ト19人(ニン)247人(タリ)8418タマタマ適マ19適(カナウ)人名119ユメ夢メ1920キミ・ギミ君ミ17君|達(キン|ダチ)4121シルシ注シ16注(シルス)422トモ・ドモ共モ1523ヒジリ聖リ14聖(ショウ)124カズ員ズ1325ココロ心ロ13心(シン・ジン)2026アラズ非ラ13非(トガ)127ツユ露ユ1228ヨワイ齢ヒ1229イウ云イ1130ナガイ永ガ1131イワオ巌ヲ11巌(イワ)432ナル成ナル11成(ナス)6333ホラ宝ウ螺11宝(タカラ)8総計65733
一五八
b.後 次に「アト」 「ウシロ」 「ノチ」と複数の読みがある「後」について、見ていく。
(
(
5)牛、童ニ違テ堂ノ 後 ノ方ニ下リ来レリ。 (巻第二十四「関寺駈牛化迦葉仏語第二十四」 )
(
6)盗人ノ出ヌル 後 ニ、門ニ走リ出デヽ、音ヲ挙テ、… (巻第二十九「明法博士善澄被殺強盗語第二十」 )
(
7)其ノ 後チ 本国ニ返テ此ノ事ヲ語ル。 (巻第十七「備中国僧阿清依地蔵助得活語第十八」 )
8
)此レヨリ 後チ 仏法ニ随テ、逆罪ヲ造ル事無カレ。 (巻第十二「越後国神融聖人縛雷起塔語第一」 )
新 編 全 集 の ル ビ に よ る と (
5
)「 後 ノ 」 は 「 ウ シ ロ 」、 (
6
) の 「 後 ニ 」 は 「 ア ト 」 と 読 む。 (
7
)(
こ と に よ っ て、 漢 字 の 読 み が 明 確 に な っ て い る こ と が 確 認 で き る。ま た、 ( 仮名が添えられており、この捨て仮名によって「ノチ」と読むことが明確になっている。捨て仮名が用いられている
8) は 「 後 チ 」 と
7
)(
れており、 「夜」の(
8) は 「 後 」 に 続 く 語 が 漢 字 で 記 さ
3
)(
4
)と同様に、語の境界を明確にしている可能性も考えられる。
こ の よ う に 「夜 ル」 「後 チ」 の 用例 は、 漢字 の 読 み を 明確 に す る と と も に、 捨 て 仮名 の 有無 と 後続 の 文字種 に は 関連 があることを示唆していると言えるだろう。これについては、他巻に調査範囲を拡大し、同様の例がどの程度あるの か、 確認 す る 必要 が あ る。そ の 一方 で、 (
添 え ら れ る と い う わ け で は な い
( 3) で 「 夜 深更 テ」 と あ る よ う に、 漢字 に 続 く 場合 で あ れ ば 必 ず 捨 て 仮名 が
る。
8。こ こ か ら 『 今 昔 物 語 集 』 で は 臨 時 的 に 捨 て 仮 名 を 付 す こ と が あ っ た と 考 え ら れ
)一五九 捨て仮名の機能(冨士池) 三・四 頭注で指摘された以外の漢字のみ表記と漢字仮名交じりの双方がある語
表
/ 薬 リ
(と 考 え て い い だ ろ う。送 り 仮名 と 考 え ら れ る も の を 除 く と、 「哀/哀 レ」 「明 カ/明 ラ カ」 「愚/愚 カ」 「専/専 ラ」 「薬 のような動詞連用形転成名詞が多く見られる。これらは活用語尾を明記したものと同様と考えられ、一種の送り仮名
3に 頭注 で 指摘 さ れ た 以外 の 漢字 の み 表記 と 漢字仮名交 じ り の 双方 が あ る 語 を 示 し た。普通名詞 に は 「営/営 ミ」
9
」 等 が あ る。漢 字 表 記 と 漢 字 に 仮 名 が 添 え ら れ た 表 記 が あ る わ け だ が、 漢 字 の 読 み が 複 数 あ る 語 と は 言 え
)表 3 頭注で指摘された以外の漢字のみ表記と漢字 仮名交じりの双方がある語
(
10)
語彙素読み 語彙素 書字形 品詞 頻度
1 アワレ 哀レ
哀普通名詞/形状詞可能 5
哀レ
5
2 イトナミ 営ミ
営普通名詞 3
営ミ
1
3 オモイ 思イ
思普通名詞 2
思ヒ
2
念ヒ
1
4 チカイ 誓イ
誓普通名詞 4
誓ヒ
3
5 クルシミ 苦シミ
苦普通名詞 2
苦ビ
2
6 サトリ 悟リ
智普通名詞 6
悟リ
3
7 チギリ 契リ
契普通名詞 4
契リ
2
8 ナガレ 流レ
流普通名詞 1
流レ
1
9 ネガイ 願イ
願普通名詞 10
願ヒ
1
10 ハジメ 初メ
初普通名詞 3
初メ
6
始メ
始メ2
11 メグリ 巡リ
迊普通名詞 4
廻リ
1
12 クスリ 薬
薬普通名詞 2
薬リ
1
13 ケムリ 煙
煙普通名詞 2
煙リ
1
14 ヒカリ 光
光普通名詞 5
光リ
3
15 アキラカ 明ラカ
明カ形状詞 1
明ラカ
4
16 オオキ 大キ
大形状詞 17
大キ
14
17 オロカ 愚カ
愚形状詞 5
愚カ
1
18 タイラカ 平ラカ
平カ形状詞 1
平ラカ
2
19 イカデ 如何デ
何副詞 1
何デ
3
20 イカニ 如何ニ
何副詞 6
何ニ
9
21 シカ 然
然副詞 1
然カ
2
22 シバラク 暫ク
暫副詞 2
暫ク
10
23 スコシ 少シ
少副詞 5
少シ
8
24 モシ 若シ
若副詞 3
若シ
15
25 モッパラ 専ラ
専副詞 9
専ラ
2
総計 103 106
一六〇
ず、 「漢字 の 読 み を は っ き り さ せ る」 と い う 点 か ら 考 え る と、 捨 て 仮名 と は 言 い が た く、 頭注 で 捨 て 仮名 と 指摘 さ れ な かった一因と考えられる。
その一方で、形態素解析という観点から考えると、例えば「明カ」 「専」等は形態素の一部の不足、 「薬リ」は形態 素の重複と捉えられ、形態素解析辞書を対応させる必要がある
(11
表記であった。
)三・五
『今昔物語集』巻一二における捨て仮名の機能
三・二節から三・四節まで、 『今昔物語集』巻一二を対象として、捨て仮名の実態を報告した。その中で、 『今昔物 語集』巻一二から見られる捨て仮名の機能に関して、以下の四点を指摘した。 ①『今昔物語集』 の 捨 て 仮名 は 必 ず し も 「漢字 の 読 み を は っ き り さ せ る」 も の で は な い。臨時的 に 付 さ れ た も の、 当 時の慣習的な表記と考えられるものが多く存在する。 ② 全訓捨て仮名は活用語に見られ、 「漢字の読みをはっきりさせる」ものであったと考えられる。 ③ 同文脈 に 同 じ 漢字 を 用 い て 捨 て 仮名 の 有無 で 語 を 書 き 分 け て い る 例 が あ る こ と か ら、 「読 み を は っ き り さ せ る」 目 的で捨て仮名が付されることがあったと言える。 ④ 複数 の 読 み を 持 つ 漢字 と 漢字 が 続 く 場合 に 捨 て 仮名 が 付 さ れ る こ と が あ り、 こ れ は 語 の 境界 を 明確 に す る 目的 が あった可能性がある。
『今昔物語集』
巻一二 の 捨 て 仮名 を 見 る と、 ① で 示 し た よ う に、 多 く は、 読 み を は っ き り さ せ る と い う 読 み 弁別機能 は 見出 さ れ ず、 慣習的 な 表記 と 見 た 方 が い い も の で あ っ た。一方、 ② や ③ で 示 し た よ う な 「漢字 の 読 み を は っ き り さ せる」機能を持つものも存在する。④で示したような、後続の文字種によって捨て仮名が付される例から、捨て仮名 は読み弁別機能だけではなく、語の境界を表す機能を持っていた可能性が示唆される。なお、新編全集の頭注で捨て 仮名 と の 指摘 が な か っ た 表記 は、 送 り 仮名 に 相当 す る も の か、 「読 み を は っ き り さ せ る」 機能 が な い も の で あ っ た こ と もあわせて確認された。
一六一 捨て仮名の機能(冨士池) 四 『法華百座聞書抄』の捨て仮名
四・一 調査の概要
『法華百座聞書抄』にも「佛ケ」
「前キ」といった捨て仮名ないし捨て仮名のような表記が散見される。形態素解析 においては、形態素末尾の重複に当たるため、前処理をすることが望ましいが、捨て仮名であることを示す情報がな い。そこで、総索引の情報を参考に捨て仮名らしき表記を作業者が独自に認定し、タグ付けを行った。その結果、捨 て仮名らしき表記を持つ語五六種類が捨て仮名タグ付けの対象となった。その後、形態素解析結果の人手修正を行っ た。人手修正結果について、漢字と仮名を用いて表記されている形態素を対象に捨て仮名らしき表記を調査したとこ ろ、該当する語は六二種類となった。
四・二
『法華百座聞書抄』の捨て仮名
表
捨て仮名のタグ付け対象となった表記は、表
4に 『法華百座聞書抄』 中 の 捨 て 仮名 な い し 捨 て 仮名 の よ う な 表記 を 持 つ 語 を 示 す。こ の う ち、 『今昔物語集』 で
4