土木工学科工業外国語教育所見
鹿 島 健 次
1. 要 約
実務
25年の後,教職についた筆者が,前者の最後に数年問たず さわ った海外技術 コンサル タン ト業務で少 しく体験 した感覚をたよりに して,語学にも教育にも素人の身なが らこの
6年半,土木工学科最高学年で開講 した技術英語を担当した問に得た
2‑ 3の留意点,経験則, 提言等を略述 し大方のご批判,参考の資 とするものである.
2.
背 景 と 動 機
ひ とり理工系 といわず,高専といわず, 日本の学校教育では中
3,
垂且,
杢旦 ( 外国語又 は外国文学等専攻の場合を除 き大学 4年の前半に主 として課され るものと仮定)の計 8年に わた り外国語主 として英語を課 している.高専の場合上記年数中‑ 線部の計
5年に該当す る訳で総時数は高一大のコースに比 して棺少いが中学を含めた総年数はほぼ同じとみてよい だろ う.いずれの場合も外国語時数るい計は中学を含む
8年間を通 じ全基礎学料,一般教養, 専門科 目を通 じ,他のいかなる学科 より最大 となっているのが一般である.それに もかかわ
らずその実用効果1 )は微少であることが繰返 し各界か ら指摘されている.そ してそれを裏書 きす るように,研究を含め実務で外国語が必要な機会に備えて 「自衛上」官公庁,企業,私 的何 らかの レベルで 「 語学」をや りなおし補強する向きは益々旺盛,またその手段は学習概 器,出版,放送はもとより各段階,多様な形態の企業内研修か ら街の成人向学校,講習等々 語学教育産業の繁栄をその道の情報は伝えている2 ) .
少 くとも理工系では,父祖の代まではその向きのエ リー トが先進国の学問技術を学びとる のに必須なものとして課され励んだ外国語は,今 日では業務地域あるいは販路を広げ,特に 発展途上国の向上に協力 しなが ら当方の活動範囲,能力を拡充す るためそれぞれの分野で独
り幹部 といわず各階層の技術者が身につけなければならぬものとい うように変 って来た.
英語についていえば土木に限 らず 日本の技術者の海外活動領域の
8割強を占めるアジア, 中東等英語を母国語としない諸国地域圏にも上記のことがいい得 よう3 ) .む ろ ん他国で様 々 の形で技術指導 ・協力あるいは業務活動をする場合は,たとえ片言,金釘流でも相手国,氏 族の言語を使 う,少 くともそれを習得 しようとす る姿勢が第一のエチケットかつ契累事であ
るが,当面英語で最少限の業務遂行が果せる場合が多い.
それに もかかわ らず今 日, 日本の理工系教育では上述のような動校づけを鮮明に し た 外国 語教育 ( 例えば英語)が行われていることは少い ようである.
異文化異民族接触に弱い 日本の中でも,特に閉鎖性が強いといわれ る信州で偶 々教職につ
* 昭和54
年
1月土木学会第
6回関東支部研究発表会において発義
* *土木工学科
教授原稿受付 昭和54年9月29日
44
長野工業高等専門学校紀要 ・
節10号
いた筆者が,上述のような状況をわが身並びに身辺で手痛 く体験 した所をふまえ,適任か否 かを殆 ど顧みず 教職就任 と同時に始め4 ) ,現在まで続けている技術英語授業の要点と所見を 次項に略述する.
3. 授 業 の意 図 ,経 過 の 要 旨
a
,特色 ・留意点など ;( 1 ) 語学 とい うより将来かかわ る公算が大きい専門テーマを素材に 国際感覚を多少共育成 し,少 くとも異文化接触,技術協力に基本的に必要と思われる発想, 姿勢を養 うことに主眼をお く.これな くしてはプロジェク ト・マネージャーのような高級技 術者はもちろん,中堅 も第‑線要員 も異文化が長年月根づいた土を掘 り,水路を変え,異民 族 と一体となって自他共 々の向上に資する土木の海外業務を円滑に行 うことはいか程技術そ れ 自身がす ぐれていても不可能である.(
2)従って工業外国語教育といえば大方重点が置かれ 勝ちな点,つまり土木各分野の いわゆる 術語を 教えることな どは ( 偶々教材に出て くるも のは別だが)ここではむ しろ二の次 とし,各専門科 目に委ねることとして当科 目の目標 とは しない.限 られた時数,限 られた教師の能力‑ とい うより土木の中の何かの専門家ではあ っても百科に通 じる人は稀であろうか ら‑ ではたとえ基本的なものだけでも土木全分野の それをカバーすることは困難であろ う.又 これ らは後 日必要な場面が近 くなってからでも比 較的短 日月でマスター容易であることを知 っているからである.(
3)中卒 までの教科習熟 ( 英 語の場合)がいわゆる実務語学習得の王道でもあ り大方の国際会議す ら専門語,専門知識を 附加すればそれで充分,要は反履訓練にあ りとの語学教育専門家が 口を揃え て力説す る所
5)に沿い,専門資料の読解にこだわ らず,その日の教材をテーマにいささかな りとも技術者 ら
しい
Q&Aに よる基本的会話,聴取 り,書取 り等を繰返す
.(4
)自学 自習 こそ語学の要,教
師はその補佐役 との姿勢を貫 き,必予習必復習その際必音読を強調,毎時全員何かに当てる ことを目指す ( 実際は仲々そ こまでゆかねが しか しマスプロ教育ならぬ高専のような少数の クラスでこそ意図可能)(
5)上記(
3)(4
)の当然の結果 として教材の進度は遅 々たることが多 く, 時には
1時限数行のみで真に牛歩のようであってもこだわ らない ( これ も大学受験を好むと 好 まざるとにかかわ らず教育の実際 目標 とせざるをえない大部分の一般高校ではそれで良い
とわかっても実施不可能であろ う.)
b ,教材 :上述趣 旨にあ うような市販テキス トは無い ようなので用いず,最新資料,情報 か ら収集抜粋 しプリン トしたものを逐時配布 ( 年数回まとめて)テキス トとする6 ) .
その構成内容は過去
7年毎年変えているが大要を下記に例示する ( 〔 〕は年間全テキス ト に占める真数割合の%平均時値)
1)
土木学会刊
CIVILENGINEERINGINJAPAN か らなるべ く土木の一分野に偏 し
ない報文の抜粋
〔45〕( 例)
本年
・1976;"PlanningandConstructionofRobePortisland"前年
・1975;"WorldwideEnergyProblem inJapan"(byDr.Mizukoshi) 2) AsahiEveningNewsの論説, コラム等か ら都市問題,環境保全, 防災あるいは青
函 トンネル等大 プロジュク ト関連のもの
〔25〕 3)コンサルタン ト海外業務 プロポーザル ( 技術提案雷)抜粋等 .
〔15〕土木工学科工業外 国語教育所見
454)
「 人間学」 も肝要 との意図か ら英訳 「 天声人語」,旧新的聖書著名個所等
〔15〕C
,時数 と全教科中のウェイ ト:中卒を基準的入学資格 とする高専の土木工学科の第
5学 年で名 目は選択だが実質的には必須 として週
1時間 ( 当校の最少単位)年間3
5‑40時間課 し
5ケ年間の一般専門総履習単位計
177中の
1である ( 表
1参照)なお本校の他
2学科 ( 機械, 電気)では現在 までの所 この種科 目は行われていない.
表
1
5ケ年 間履習科 目単位一覧
(1)一般科 目 ( 各学科共通) ( 昭和
52年度第
1学年 よ り適 用)
5
6 6
71学
物 理
化
学
保 健 ・
体 育
青 菜
美
術
(セ
)
*
印中
いずれかを履 修
生 物
天文 ・気象
開 設 科 目単 位 数
履 修 単 位 数
46
長野工業高等専門学校紀要 ・第
10号 ( 。 ) 土木工学科 ( 昭和
53年度第
3学年以上に適用)
学 年 別 配 当 授 業 科 目 l単位数
・年 巨 年
l3年
巨年
巨年
備 考
応 応 国 土 応
構水 測 土
土 土
学 理 学 科 学 学
学学
学学工
数 物 材 力 力 地 工
施理 量 用 用 木 用 造 木 質 木
橋 工 学
鉄筋コンクリー ト工学 機 枕 工 学 概 論 電 気 工 学 概 論 土 木 工 学 設 計 製 図
測 量 実 習
土 木 工 学 実 験 選 定 科 目
卒 業 研 究
・43225443232432216686日リ‖
実験を含む
専 門 科 目 小計
一 般 科 目 小計 l
85 1 27合 計
l 177・
l 35※( 選定科 目) 注 ○内数字は選択科 目の単位数を示す
(4
年) 道路工学
2都市計画
1数値計算
1土木計画学
1(5
年) 衛生工学
2建築学概論
2河海工学
2鉄道工学
1都市計画
1工業外国語
1マ トt )ックス応用力学
1塑性設計
1( ‑ k ) 発電及びダム工学( 参 ( ‑ k ) 応用物理持論②
※ ここに選定科 目の説明ははぶ くが実質的には必修に同じ.
( ィ X p ) 2 表を通 じ( k) 印のみ学生が 1 科 目を選択履習する.
4.
効果 または影響の考察
すべ て教育効果 の測定 ・評価は軽 々にすべ きもの,で きるものではない.大 は学制改革か
ら小は科 目の改廃,新機器 の導入 までそ の評価 は伸 々難 しい.それ とい うの も同一対象,同
一 少 くとも類似条件下 でそれ を しなか った場合 との定量比較 は殆 ど不可能だか らである.世
上 この種調査 の一助に よ くア ンケー トが行われ るが飽迄考察 の手がか りとして扱 うべ きだろ
う.筆者 も毎年終講時にそれ を して来 たので表
2に掲げ参考に供す.附 言すれば毎年35名前
後 の卒業生中平均 して
1人/年 弱が進んで海外志 向型企業に就職,あるいはそ うではないが後 日海外 で働 く事例があ るのを当教科の影響,特に前記
3a,1)2)の姿勢 の効果か否 か速土木工学科工業外国語教育所見
表 2
卒業直前私的に実施の無記名アンケー ト
注 ・他学科関連を含む6設問か ら抜粋,回収率は例年はぼ100%
断 すべ きではないが筆者 自身 の感触 と してはや り甲斐 の手答 えを感 じてい る.
5. 結 び ‑ 大学 ・高専土木教官各位‑の提言‑
土木技術者 の活躍舞 台が年 を追 って広が り工 事 即外交,技術者 即教育者又 は外交官 であ る ことを考 え る とき21世紀頭 に働 き盛 りとな る後進 のため この種 科 目の開設,拡充 を要望 した い.そ の際始 めか ら完全 を期 さず かつ土木教官が 当 られ るのが要点 であ ろ ラ.教 官 に仮 りに 海外研究 ・実 務等 の経験 あ る適任者が得 られ な くとも最善 の非技術者語学 専門 家 に担 当を乞
うよ り望 ま しいのではなか ろ うか.
なお専門学科 の一 つを外 国語 テキス トを用いて工 業外 国語教 育 とす る ことは余 り奨 めない.
理 由の詳細 は省 くがひ と り高専 といわず 国際基督 大学 等 ご く少数 の大学 には例外 ケース もあ ろ うが,今 日日本 の高等教育機 関在学 生 の よ うに既 習外 国語 の基礎学 力に ′ミラツキが 多い現 状 でそれ を行 えば二兎 (該 専門科 目と前記3a既 述 の よ うな意 図) を追 っていず れ を も得 な い危険が多 いか らであ る.尤 もこれ もゼ ミナ ‑形 式等 の少数選 抜可能 の条件下 な ら試 行 の価 値 はあ るか も知れ ないが筆者 の場 合は3a の趣 旨に添 えな いので試 みた ことはない. な お こ れ については専門 家の対抗意見,た とえば今 日学校 に於 け る英語教 育が労多 くして効果 少 と いわれ る最大要 田 は動機づけ の貧 困に あ り,少 くとも大学 では外 国人学者 の外 国語 に よる専 門学科 を導 入 しそれ 以前 の学校教 育 の語学 の動機づ けをそ の 目標 に お くべ L とい う意 見7)も あ るが, これ には制度改善 他多 くの前提条 件が必須 で大学 高専一般 の現状では短 日月に試 行 にす ら踏 み切れ る もの とは思 えない.
参 考 文 献 等
1)
ここにい う 「実用」については語学教育専門家の内外を問わず議論が多いようであるが ここでは触 れない.2) 月刊時事英語研究1977年5月号 「英会話を考えなおす」他文献多敬 3)土木学会誌1976年特集号 「国際化時代 と海外協力」p13.表‑1他.
4)この点についてのより直接な動機には筆者が着任時その専門科目 (都市計画'鉄道工学等)だけで は当校教官の平均担当時数に著 しく足 りない とい う事情があった.
5) 国弘正雄 「国際英語のすすめ」 (実業の日本社刊)p47.他文献多数.
6) この点に関する著作権侵害懸念については土木学会誌1978年増号p36.参照.
7) 1979‑3‑6朝 日所載 お茶の水女子大講師三枝幸夫氏 「英語教育改善の方向」.