1. はじめに
P2P レンディング (peer to peer lending)
1)はネット上で借り手と貸し手を結 び付ける金融仲介方式であり,マーケットプレイスレンディング (market place lending, MPL),クラウドファインディング (crowdfunding) とも呼ばれている。
わが国においては「ソーシャルレンディング」という名称が主流である
2)。本 稿は,アメリカ銀行業と P2P レンディングとの関わりである銀行の P2P レン ディング戦略について調査し,その意味を考察する。
P2P レンディングを行う業者は P2P レンダー (P2P lender, marketplace lender
(MPL)) という。彼らはおよそ以下の①−⑤を行う。
①オンラインプラットフォームを開発して公開し,借り手候補と貸し手候補 がそれを利用できる。
②借り手候補の借り入れ申し込みがあれば,その情報収集・分析をごく短時 間に行って格付け等を行い,適格と判断した場合にネット上で貸し手候補 に情報開示する。
③借り手と貸し手のマッチングをオンライン上で行う
3)。
④貸し手からの融資金を借り手に引き渡す。
⑤その後の借り手の返済金や利息を貸し手に支払い,また債務不履行に伴う 事務などのサービシングを行う。
間接金融を行う銀行業や他の金融仲介機関と決定的に異なる点は,P2P レン ダーは融資実行時に借入額の数%の手数料
4)を取って仲介し,原則として,借
第12巻第1号(145−164)
2017年2月
アメリカ銀行業の P2P レンディング戦略
宮 村 健 一 郎
― 1 4 5 ―
り手のリスクはそのまま貸し手に転嫁されるということである。ただし,一部 または全部の債権を自らが保有する場合も少なくない。換言すれば,P2P レン ダーはオンラインプラットフォームを構築し,何らかのデータに基づき借り手 の分析,すなわち情報生産を行うが,貸し手にならない限り,信用リスクは全 く負わず,資産転換機能もない。よって,社債やコマーシャルペーパーを用い て借り手と貸し手をつなぐ直接金融と同じか,それにかなり近い金融形態であ る。借り手の分析の深度は,対象業種によって異なり,小企業対象の審査シス テムは極めて精巧な場合もある
5)。
資金供給は,個人,機関投資家,そして P2P レンダー自身が行う。銀行等 の機関投資家は単純に資金供給する場合もあれば,証券化商品として購入する 場合も多い。このような状況は,P2P レンディングも,現在の証券市場と同様 に,直接金融部分と(市場型)間接金融部分の両方から構成されていると解釈 できる。
P2P レンディング業界は,新規参入や退出が少なくないことやデータ公表の 不完全さのために正確な規模や金融証券市場におけるシェアは不明なので,代 わりに P2P レンディング債権を担保とした証券化商品 (Asset-Backed Securities, ABS) 市場のデータからそれを考えてみよう。P2P レンディング債権担保 ABS の全発行額は,2 0 1 6年第3四半期は2 4億ドルという過去最高額を記録し,前 期に比べて4 1. 1% の増となった (Daye, Xiao, & Song (2016))。第1四半期から 第3四半期までの累積発行額は5 4億ドルで,1年前と比較すると3 0億ドル増 加している。同じ期間のアメリカでの ABS 発行額は1, 6 1 0億ドルであるの で
6),全体の3. 4% を占めている。他方,2 0 1 6年第3四半期においては P2P レンダーへの資金供給総額のうち,証券化率が5 0% を超えたといわれている (Lending Times (2016))。そうであれば,2 0 1 6年通期の P2P レンディングのオ リジネーションの規模は,1 0 0億−2 0 0憶ドルの間であろうと思われる。
2. P2P レンディングが経済社会に及ぼす影響
2. 1. P2P レンディングのメリット
従来,直接金融により広く資金調達できる者は大企業が中心であり,社債や コマーシャルペーパー (CP) 発行は一件当たりの金額は大きいが件数は少ない。
よってこのような従来型直接金融は,借り手や貸し手を見つけたり証券を決済
― 1 4 6 ―
したりする事務は基本的に手作業,人対人で成立していた。しかし,この方式 によって,個人や中小企業の零細な資金のマッチングを行うと,件数が多いが 少額の取引となり,また長期融資はリスクが高くなるのでデュレーションを短 くして借換えが高頻度にならざるを得ない。よって手間がかかる割には一件当 たりの収益が少ないためビジネスが成り立たない。その結果,従来は,個人や 中小・零細企業は直接金融へのアクセスは困難であり,資金調達はほぼ間接金 融に限られていた。
間接金融においても,少額かつ短期融資の繰り返しで,手間,すなわちコス トがかかる点は同じであり,特に無担保だったりすれば,大銀行が概して取引 に消極的になっても仕方がない面がある。
しかし,今では,P2P レンディングにより,個人や零細事業者であっても直 接金融による資金調達が可能になった。この背景には,もちろん,個別の借り 手と貸し手の募集や手間がかかる細かい資金の移転手続き,信用調査の多くの 部分がネットとシステム上で行われるという ICT ならではの効率性が存在す る。このような ICT による革新的なコストカットにより,個人・中小企業間 の少額・多数・高頻度の直接金融取引が採算に乗るようになったのである。
このようにして,銀行等の間接金融に加え,直接金融手段が個人や小企業の ファイナンスに加わることになった。
P2P レンディングが,わが国に浸透すれば,経済社会に対して以下のような よい効果がもたらされるだろう。
①間接金融を担う金融仲介機関が取りこぼした資金ニーズを拾うことができ,
それにより経済成長に貢献する。
銀行等が融資判断を行う場合,借り手が返済不可能であるなら貸さないのは 当然である。しかし,借り手の返済可能性に問題がなくても,上述の低収益性 のために,そして自己資本比率規制のために,融資に消極的となることがある だろう。たとえば,1 9 9 0年代末の貸し渋り,貸し剥がし問題を思い出せばよ い。他方,P2P レンディングであれば,返済の確実性さえ見込めるならば,銀 行等に断られたとしても,融資可能となり得る。P2P レンディングでの取引が 成熟し,安定していけば,個人,小企業への代替的な資金供給ルートとして,
個人,小企業への金融の安定化や経済成長に貢献するものと考えられる。さら に,P2P レンディング債権を担保とした ABS を銀行が購入することにより,
事実上,P2P レンディングが存在しないときにはできなかった銀行から小企
― 1 4 7 ―
業・個人への資金供給が可能となるのである。
②個人,小企業金融市場の競争が促進される。
1 9 8 0年以前のわが国大企業は,優良であってもそうでなくても,資金調達 は銀行による間接金融が主だった。その後,ユーロ債券市場の活用および国内 社債市場の規制緩和や CP の導入により,優良な,高格付けの大企業は直接金 融を活用するようになり,低格付けの大企業は間接金融を用いざるを得ないと いう点で,大企業間で金融方法が異なってくるとともに,直接金融と間接金融 間の競争も激しくなった。P2P レンディングによって,個人,小企業金融にお いてもこれと同じ状況が生じうる。すなわち今後,優良とみなされた個人や小 企業は P2P レンディングで低コストに資金調達できるようになることにより,
伝統的金融機関側との競争が促されるだろう。実際,後で見るように,アメリ カで Wells Fargo や Citizens が個人や小企業の融資審査システムのスピードを 劇的に改善したのは,P2P レンダーとの競争のためである。
現在,わが国個人・中小企業への金融は,カネ余りもあって,銀行や協同組 織金融機関の間で優良な取引先獲得競争は激しい。しかし,所詮,自己資本比 率規制を受ける金融機関の間での競争であり,各金融機関の行動パターンはあ る程度類似している。規制環境が異なる P2P レンダーは当然に行動が異なり,
よって P2P レンダーの個人・中小企業金融への参入は今まで以上に競争を激 化させる。よって,従来型金融機関はそのスコアリングシステムの正確性,高 速性の向上や,ネット上のビッグデータの活用に努めるなど,P2P レンダーと いう異業種に対抗するための各種の工夫を行う。審査が正確になれば優良顧客 の貸出金利へのリスクプレミアムの上乗せが減り,審査時間が短くなればコス トが減るので,借り手にとってより低金利での借入が可能となるだろう。
③投資家にとって新しい資金運用手段となる。
個人投資家や機関投資家が P2P レンディングの直接的な貸し手になること は,P2P レンダーが新たな高利回りの資金運用手段を彼らに提供したことを意 味する。よって,銀行も対抗するために利回り高い商品の開発が求められ,そ の結果,投資家の資金運用環境は改善するだろう。
④証券化により,銀行を含む機関投資家にとって新しい資金運用手段となる。
Goldman Sachs や Jefferies などの投資銀行は,P2P レンディング債権を裏付 けとした ABS を発行している (Daye, Xiao, and Song (2016))。これらの証券は 優先劣後構造を持っており,大多数が2から4のトランシェに分けられて発行
― 1 4 8 ―
されている。例として2 0 1 6年9月1 9日の SoFi
7)の証券化4. 8 3億ドルについ てみてみよう。この証券化は4つのトランシェに分かれている。担保債権総額 の8 5% を占める上位3つは Moody’s から Aaa を得ており,担保債権総額の 6% の最後のトランシェも A1 を得ている
8)。他の学生ローン P2P レンダーに ついては SoFi ほどではないが,総じて学生ローン債権を担保とした証券化は 高格付部分が大きく,よって大手金融機関が投資しやすい
9)。このように,銀 行は,個々の学生へのローンには躊躇する場合もあるかもしれないが,ひとた び P2P レンディングを経由して証券化されれば,間接的に学生ローンに投資 できるようになり,よって資金運用先の拡大につながるのである。
2. 2. 問題点
以上みたように,P2P レンディングの広がりは,基本的に経済社会に対して プラスの効果を持つはずである。しかし,同時に,特に当面は詐欺や各種トラ ブルの可能性がないわけではない
10)。市場は生まれたばかりであり,銀行では ない新興の貸金業者が運営している状況なので,どの国においても適切な規制 は手探りである。よって,しばらくはトラブルの続発もありうる。審査がいい 加減であるとか,資金の着服が生じるという問題だけでなく,後述の Lending Club のように,内部統制やガバナンスに欠陥があるといった問題もある。
だが,このような問題点は,市場の立ち上がり時の問題であり,ある意味仕 方がない面がある。問題の発生を抑える努力は各方面でしなければならないが,
基本的には,市場の成長を促すスタンスの維持が大切であると思われる。
2. 3. 銀行はなぜ P2P レンディングに関わるのか
最後に,銀行にとって P2P レンディングに関わることのメリットを考えよ う。これは,銀行と P2P レンディングとのかかわり方,すなわち提携等の形 によって異なるが,①P2P レンダーに取られた顧客の取り戻し,②P2P レンデ ィングを武器とした個人取引や小企業取引への新規進出,③融資しにくい顧客 の資金調達支援,④高利回りの資金運用先,であろう。実際は,以下の節の例 からわかるように,銀行によって,狙う①,②,または③のメリットは異なる だろう。ただ,低金利時代のために高利回りでの資金運用をしたいという④の 理由はほぼすべての銀行がメリットと考えているものと思われる。
― 1 4 9 ―
3. 代表的な独立系 P2P レンディング会社の最近の状況
表1は代表的な P2P レンダーと従来型貸し手を要約したものである。本稿 は P2P レンダーと銀行とのかかわりに集中するため,本節においては,表1 の企業名をすべて説明せず,次節以下の理解に必要な P2P レンディング会社 3社について簡単に説明するにとどめる。
3. 1. 小企業融資専業の OnDeck
まず,連邦準備銀行のサーベイ (FRB (2016)) により,小企業
11)の融資申請 について概観しよう。2 0 1 5年は,調査対象小企業の全体の4 7% が何らかの融 資申請を行い,そのうち4 2%(すなわち全体の2 0%)が P2P レンダーへ融資 申請を行っている。P2P レンダーへの申請の7 1% は,何らかの融資(通常の 融資または当座貸越)が可となった。
図1は,2 0 1 5年において,小企業の借入先を規模別に分けてグラフ化した ものである。これによれば,P2P レンダーからの借り入れは,売上高が小さい ほどシェアが大きくなっている。これからわかるように,P2P レンダーは,小 企業の中でもより小さい小企業に強い。また,全小企業において,クレジット ユニオンよりも借入先のシェアは高い。このように,現在,アメリカの小企業,
特に小さい小企業にとって,P2P レンディングは銀行に次ぐ日常的な資金調達 先となっていることがわかる。
では,アメリカ最大の小企業融資専業 P2P レンダーである OnDeck Capital についてみてみよう
12)。同社はニューヨークで2 0 0 6年に設立され,2 0 1 1年の 融資額1億ドルから2 0 1 5年の融資額1 9億ドルへと急成長している。OnDeck が保有する機能は,プラットフォームでの借り手と貸し手のマッチング機能,
自らが資金を供給して貸し手となる機能,そして審査機能の3つに分けられる。
このうち,他社が追随できない同社の競争力の源泉は,この審査機能である。
同社は,1 0年前に,小企業のデータはペーパー上よりもネット上に多く蓄 積されるので,それを集めて整理すれば審査が簡単になるはず,という,誰で も思いつくが実現が極めて困難なアイデアを GROVER と呼ぶ同社の小企業デ ータベースと OnDeckScore と呼ぶ審査システムで実現した。GROVER は,ア メリカの1, 0 0 0万社の小企業のデータを保有している。そして,そのデータを
― 1 5 0 ―
表1P2Pレンディングと従来型融資の比較 貸し手借り手創業年新規貸出額 (2015年)1
現在(2016 年11月末) までの累計 貸出額2
形式利率期間貸出額
借り手の 平均
FICO
スコア実行時手数料
P2 P
レ ンダー消費者
Lending Club
200784億ドル227億ドル5.99%〜35.96%3―5
年〜$40,0006991.00%〜6.00%Prosper
200637億ドル70億ドル5.99%〜36.00%3―5
年$2,000〜$35,0006981.00%〜5.00% 小企業Bond Street
2013NA NA
8.00%〜25.00%1―3
年$50,000〜$500,000>6403.00%Funding Cicle
2010NA
25億ドル36.98%〜32.78%1―5
年$25,000〜$500,000NA
1.49%〜4.99%Biz2Credit
2007NA
15億ドルNA
$5,000〜$1,000,000696OnDeck
200619億ドル50億ドル7.30%〜98.40%3―3
6か月$5,000〜$500,000>5002.50% 学生CommonBond
2011NA NA
3.50%〜7.74%(固 定)2.14%〜5―2
0年$5,000〜NA
0.00%〜2.00%SoFi
2011NA
430億ドル43.50%〜7.74%(固 定)2.14%〜5―2
0年$5,000〜NA
0.00% 従来型 貸し手消費者
銀行融資貸付9.66%〜9.85%2年様々
NA
様々 クレジットカードリボル ビング1.98%〜12.22%リボルビ ング様々NA
様々 小企業商工業者向け 銀行当座貸越 当座 貸越
Fed F unds/LIBOR + Rate
2年以内 様々
NA
様々 中小企業庁SBA 7 (a)
ローン貸付Prime
+2.25%〜Prime
+4.75%不動産融 資は25年, その他は 10年まで
〜$5,000,000
NA
0.00%〜3.50% 1.SEC 10-K
が入手できるところはそれに基づく。NA
はSEC 10-K
ファイルがなく、またホームページ上でも非公表。 2.各社ホームページから2016年12月7日に取得。ただし,Lending Club
(2016年9月末の値)を除き,すべて「今日まで」の値となっている。 3.Funding Circle
は,アメリカ,イギリス,ドイツ,オランダ,スペインで活動しており、その累積合計額。 4.SoFi
は,同社ホームページによると,現在(2016年12月)までに130億ドルの融資を実行している。 出所)Opportunities and Challenges inO nline M arketplace L ending (2016) The d epartment o f the Treasury.
各社SEC filings.
各社ホームページより作成。― 1 5 1 ―
用いた審査システムの OnDeckScore は,キャッシュフローからソーシャルメ ディアデータまでを分析に使用し,5 0万ドルまで,3ヵ月−3年の融資申請を 最速で翌日に完了させる。 「フィンテック」という用語を用いて説明すると,
このシステムは2種類のフィンテック,すなわち P2P レンディングとビッグ データ分析の融合である。後でみるように,このシステムの高性能は折り紙付 きで,世界最大の銀行 JP Morgan Chase がこのシステムを含む OnDeck 全体を 自分のブランドで利用し,自行の小企業審査は OnDeck に任せてしまったほど である。
OnDeck と JP Morgan Chase の関係は,日本のメガバンクがかつて大手消費
者金融会社を系列化し,その個人審査システムを取り込んだ事例と似ているが,
日本の消費者金融各社の消費者金融業の経験は長い。これに対し,OnDeck は,
他の追随を許さない難度の高い小企業審査システムを1 0年足らずの短さで熟 成させた点は,驚くべきことである。
OnDeck は最近まで順調に成長している。ただ,2 0 1 6年5月2日の2 0 1 6年
第1四半期に関するプレスリリース (OnDeck (2016)) で,融資は増加していた ものの,延滞債権が前年同期比2 0% 増加し6. 5 2億ドルに,機関投資家がロー ンの買い入れを抑制したことを反映して自社保有ローンが前年同月比4 5% も 増加し9. 8 2億ドルになったことを背景に,損失が8 8 0万ドルとなったことが 発表された。このことは,後述の Lending Club の不祥事とも重なって,P2P
図1 売上規模別小企業の借入先(2015年)
注) ここでの小銀行は,総資産が10.98億ドル未満の銀行のことである。
出所)
Federal Reserve Bank, 2015 Small Business Credit Survey
より作成。‐10万
USD
126社10万‐100万
USD
564社100万‐1,000万
USD
616社1,000万
USD‐ 1
81社全小企業1,487社
小銀行 大銀行
P2P
レンダー クレジットユニオン44% 4411%% 3300%% 1144%%
52% 3399%% 2222%% 99%%
59% 4455%% 1111%% 44%%
53% 5588%% 66%% 1%
52% 4422%% 2200%% 99%%
― 1 5 2 ―
レンディングへの不信感を拡大した。
3. 2. 個人ローンの Prosper
2 0 0 6年から業務を開始した Prosper は,アメリカ初の P2P レンダーで個人 ローンが業務の中心である。
次項で説明する Lending Club と並んで急成長を遂げるとともに,2 0 1 5年に は Citi, Bank of America, JP Morgan Chase などがローン購入者となるなど,金 融界におけるその地位は大きく向上した。
しかし,2 0 1 5年1 2月に入ると,まず,銃乱射・大量殺人事件の犯人に資金 を融通していたという不祥事が明るみに出た
13)。
そして,2 0 1 6年5月,前述した OnDeck の損失発表の翌日に,Prosper は従 業員6 1 9人のうち1 7 0人をレイオフした
14)。この背景は,Prosper をはじめ多 くの P2P レンダーは貸し手の資金の少なくない部分を機関投資家の投資に依 存しているが,2 0 1 6年に入るとローンの質への不安のために機関投資家が投 資を抑制したため,業務を縮小しなけければならなくなったためとされている。
このように,アメリカの P2P レンダー,さらには P2P レンダーからの借り手 にとって,資金調達環境は生命線となっている。P2P レンダーは,証券発行市 場における証券会社と似ていて,金融経済環境の変化の影響を大変受けやすく,
オリジネーションの金額が変動しやすいという性質がある。
3. 3. 世界最大の P2P レンダー,Lending Club
世界最大の P2P レンダーに育った Lending Club は2 0 0 7年の創業である
15)。
Lending Club の主な商品も個人ローンであり,Prosper と真っ向から競合する。
ローンの購入者も個人投資家および機関投資家で同じである。2 0 1 6年に入る と,市場の不安感を背景に,機関投資家のシェアは2 0 1 5年第4半期から2 0 1 6 年第1四半期にかけて,4 5% から3 2% に減少した。そして,2 0 1 6年5月には,
大きな不祥事が発覚した。これは,Lending Club が投資銀行 Jefferies の投資基 準を満たさないローン2, 2 0 0万ドルを Jefferies に詐欺的に販売したこと,そ してこれらのローンのうち3 0 0万ドル分は融資申請日が改ざんされていたとい う不正があったことが,Lending Club の内部調査の結果明らかになったという ものである。このため,Lending Club の取締役会は Lending Club の創立者で
CEO である Laplanche および3人の執行役を解任した。これに伴い,株価は
― 1 5 3 ―
表2 銀行の
P2P
レンディング戦略の分類ブランド 戦略 概要 例 メリット 問題点
用 使 ド ン ラ ブ の 行 銀
P2P
レンディング は行わず,P2Pレ ンディングに対抗従来型融資の高速 化・精緻化。
Wells Fargo, Citizens, BB&T
独 立 系
P2P
レ ン ダ ー の 不 正やガバナンス不全などの トラブルから解放される。迅速な審査が可能な システムを作るのが 困難。
P
2P
レンディング プラットフォームの内製化
銀行がすべてを作
り上げる。
Goldman Sachs
独 立 系
P2P
レ ン ダ ー の 不 正やガバナンス不全などの トラブルから解放される。融資不可能だった取引先に 資金供給可能。
コストが高い,時間 がかかるかもしれな い。
既存プラットフォ
ームの買収。 なし コストが高い
プラットフォーム を借りて,P2Pレ ンディングを行う
銀 行 ブ ラ ン ド の
P2P
レンディング で,オリジネーシ ョン,サービシン グ な ど はP2P
レ ンダーが行う。貸 出金は銀行が供給 する。JP Morgan Chase
はOnDeck
のプラッ ト フォームを用いて小 企 業 融 資 を 行 う。OnDeck
はオリジ ネ ーション,サービシ ン グ 等 を 行 い,JP モルガンチェースは 借り手集めと資金供 給を行う。低コストで迅速に参入可能。
顧客とのリレーションシッ プ構築,B/Sの拡大。既存 顧客のデータをプラットフ ォー ム に 流 す こ と に よ り
P2P
レンダーだけの審査よ りも正確さが向上。融資不 可能だった取引先に資金供 給可能。独 立 系
P2P
レ ン ダ ーの不正防止のため の監督が必要。ホワイトラベル
銀 行 ブ ラ ン ド の
P2P
レンディング であるが,銀行は 名 前 だ け でP2P
レンダーがすべて の業務を行う。Customer Bank
はBiz2Credit
のプ ラ ッ トフォームを利用。JetStream Cridit Union
はBiz 2 Credit
のプラットフォーム を利用。低費用で迅速に参入可能。
銀行のブランド力を生かす ことができる。既存顧客の データをプラットフォーム に流すことにより審査の正 確さが向上。融資不可能だ った取引先に資金供給可能。
独 立 系
P2P
レ ン ダ ーへの不正防止のた めの監督が必要。収 益性は低い。用 使 を ド ン ラ ブ の 先 手 相
独 立 系
P2P
レ ン ダーに資金供給独 立 系
P2P
レ ン ダーを通じて貸し 手側として資金供 給する。BBVA Compass Bank
は,2017―18年 に50億ド ル の ロ ー ンをProsper
か ら 購 入する契約を結ぶ。Union Bank, TD Bank
はBiz 2 Credit
の小企業ローンを購 入。資金運用先の確保
独 立 系
P2P
レ ン ダ ーへの不正防止のた めの監督が必要。信 用リスクが高い。証券化
Goldman Sachs, Morgan Stanley, Citi
など。手数料獲得 独 立 系
P2P
レ ン ダ ーへの監督が必要。借り入れ申し込み 者 に 独 立 系
P2P
を紹介
利益が薄いか,リ スクが高い顧客を 独 立 系
P2P
レ ン ダーに誘導。BBVA Compass Bank
は ,OnDeck
に顧客を紹介するが,自行の取引データも
OnDeck
に提供す る。直接融資できない顧客にも サービスすることができる。
銀行の資産の質の低下を防 げる。既存顧客のデータを プラットフォームに流すこ とにより審査の正確さが向 上。
収益性は低い。
出所)
Deloite (2016), American Banker (2016)
各号から作成。― 1 5 4 ―
5月6日の7. 1 0ドルから1 3日の3. 5 1ドルへと半分になった
16)。これまで,
投資銀行の Jefferies と Goldman Sachs は,Lending Club の note
17)を購入し,
それをもとに ABS を作り上げて機関投資家に販売していたが,今回の不祥事 のため,Jefferies は1. 5億ドルのローンを証券化して投資家に販売する計画を 中止し,Goldman Sachs も同様の計画を中止した。Lending Club は Jefferies に 販売したローンを元の価格で買戻しした。
しかし,8月になると,Jefferies は Lending Club の個人ローンで担保された 私募 ABS の組成を行い
18),再び Lending Club との取引を始めた。
結局,低金利の時代に,Jefferies が再開した Lending Club の3. 7 5%(A ト ランシェ) ,6. 5%(B トランシェ)ものクーポンを提供する ABS には資金運 用者からの大きな需要があり,投資銀行にとっても大きな手数料を獲得できる 貴重な機会なので,やや不安があっても,P2P レンダーに機関投資家が多くの 資金を供給するというスキームは,案外,中期的には安定的だ,ということな のかもしれない。
4. 銀行の P2P レンディング戦略
本節は,銀行の P2P レンディング戦略を調査し,考察する。銀行の P2P レ ンディング戦略は,まず,大きく2つに分類することができる。一つは,P2P レンディングへ参入せず,従来型の融資手法を磨くことである。もう一つは P2P レンディングに関わることであるが,これは,最も関わる程度が深い,
「P2P レンディングプラットフォームの内製化」から,最も浅い「借り入れ申 し込み者に独立系 P2P レンダーを紹介」まで,数通りに分類できる。以上の 分類は,表2にまとめてある。
4. 1. P2P レンディングへ参入せずに,P2P レンディングに対抗
19)銀行は,P2P レンディングの借り手を取り込みたいが,銀行から P2P レン ディングに向かった銀行融資可能な借り手のみを再び銀行に取り戻したいだけ なら,P2P レンディング自体への参入は必ずしも必要ない。融資審査プロセス を P2P レンダー並みに高速化し,審査の精密さを向上させ,審査プロセスと 事務手続きのコストを低下させれば,スピードを求めて P2P レンディングを 利用していた顧客を引き付けることができる。
― 1 5 5 ―
2 0 1 6年5月,中小企業融資に力を入れている Wells Fargo
20)は,FastFlex と 名付けられた小企業融資システムを開発した (Wells Fargo (2016))。この商品は,
オンラインで融資が行われ,審査時間が極めて短く,最速で翌日に融資が実行 される。期間は1年で,金額は1万−3. 5万ドルであり,顧客の口座から毎週 自動的に返済される。対象は1年以上取引がある小企業である。
BB&T
21)も,中小企業取引に強い銀行であり,ほとんどすべての個人融資,
中小企業融資について,従来から申請はオンラインで受け付けている。申請を 受け付けてから数秒以内に融資の可否を判断することができるが,それは従来 型のエキスパートシステムに分類されるスコアリングシステムである
22)。BB&
T はオンラインレンディングについて長い間研究し続けているが,P2P レンダ ーとは提携していない。その理由は,融資業務に関して可能な限り確実であり たいため,基本的に融資業務のシステムは内製化するのがよいとのことである。
ロードアイランド州に本拠を置く Citizens Financial Group
23)は,個人向けロ ーンについて,2 0 1 6年3月から瞬間的に回答があるオンラインプラットフォ ームを提供している。書類もオンラインでアップロードし,最速で翌日に融資 金を得ることができる。 Citizens によれば,このシステムの開発目的は Lending
Club や Prosper などの個人ローンの P2P レンダーとの競争のためである。
また,Citizens は,学生ローン専業である SoFi のローン債権を買い入れて いる。この点については SoFi と提携していることになる。しかし,自らも学 生ローンリファイナンス商品を販売しているという点では競合している。
以上をまとめると,銀行が P2P レンダーに対抗するために P2P レンディン グに参入する必要は必ずしもないと思われる。銀行融資可能な借り手のみを銀 行に引き寄せるだけでよいのであれば,P2P レンディングプラットフォームは 必要ない。審査システムが短時間で審査が済むように従来のプロセスを見直せ ば,ブランドや安心感という点で銀行は P2P レンダーに十分対抗できる。よ って,今後,P2P レンディングに参入していない銀行の多くが審査システムを 高速化していった場合は,十分に独立系 P2P レンダーと競争可能であると思 われる。
4. 2. P2P レンディングプラットフォームの内製化
投資銀行の Goldman Sachs は,金融危機以降,それまでのホールセール金 融のみではなく,マス層との取引を大々的に追加するという新戦略をとってい
― 1 5 6 ―
る (Goldman Sachs (2016b))。この戦略のため,子会社銀行を活用するとともに,
個人向け P2P レンディングプラットフォームを自力で開発した。
Goldman Sachs は P2P ローン担保 ABS の主幹事順位において第1位であり,
約2 0% のシェアを持つ(表3 ) 。そして,同社は,P2P レンダーの証券化を行 うだけでなく,自らも P2P レンダーになった。2 0 1 6年1 0月1 3日,Goldman Sachs は Marcus by Goldman Sachs と名付けられた新オンラインプラットフォ ームをラインナップに加えた
24)。このプラットフォームは3万ドルまで,2−6 年の個人向け無担保ローンを提供する。Marcus とは,同社の創立者,Marcus Goldman の名である。
この個人ローンは,他社の高金利のクレジットカード負債をまとめることを 狙っている。
かつて,法人と富裕層のみを顧客としてきた Goldman Sachs であるが,マ ス層を相手にするという点は,同社としては大きな戦略転換である。金融危機 以降,同社はマス層取引が有望であると考えており,今後も Marcus での経験 をもとにして伝統的銀行業務を拡大していくとのことである。おそらく,マス 層相手の金融業務に参入するにあたり,個人向け P2P レンディングであれば,
自力での開発も可能だろうし,独立系の P2P レンダーに対してブランド力で 勝てる見込みがあると考えたものと思われる。もちろん,後ろ向きの理由とし
表3
P2P
レンディング債権担保ABS
の主幹事順位順位 社名 発行総額
(100万ドル)
対前期比 増加率
上位10社 のうちの シェア
1
Goldman Sachs
2,468 85% 19.8%2
Morgan Stanley
2,092 28% 16.8%3
Citi
1,857 0% 14.9%4
Credit Suisse
1,616 13% 12.9%5
Deutsche Bank
1,389 50% 11.1%6
Jefferies
1,369 8% 11.0%7
Gugenheim Securities
956 0% 7.7%8
JP Morgan
335 34% 2.7%9
Barclays
284 50% 2.3%10
Bonwick Capital
121 0% 1.0%出所)
Daye, Xiao, & Song (2016)
― 1 5 7 ―
て,Goldman Sachs は Lending Club の証券化に関わってきたが,上述の不祥事 を受けて,外部の新興金融業者への依存は同社の評判を落とすリスクがあると 判断したこともあるだろう。
Goldman Sachs は,マス層へのアクセス拡大の一環として,その銀行子会社,
Goldman Sachs Bank (GS Bank)
25)を,金融危機後から活用し始めた。この銀行 は,今年の4月にオンライン預金プラットフォームを General Electric グルー プから買収し,事実上インターネット専業の銀行として一般的な貯蓄口座を提 供し始めた
26)。
現在,この銀行の預金には,定期性預金,流動性預金にかかわらず,どちら もほぼ0% の大銀行の預金金利よりも1% 以上上回る金利が付いており,
2 0 1 6年9月末までの2年間で預金残高は1, 1 1 4億ドルへと倍近く増加した。
この銀行の資金で本体が行う証券化の優良部分を購入することによって,グル ープでの収益性は独立系 P2P レンダーよりも高くなるだろう。なぜなら,先 にみたように,P2P レンダーは,資金調達を機関投資家に大きく依存しており,
目下のところ立場が強い機関投資家に P2P レンディングスキーム全体の利益 のかなりの部分を吸収されてしまうからである。
4. 3. プラットフォームを借りて,P2P レンディングを行う
27)アメリカ最大の銀 行 で あ る JP Morgan Chase
28)は,2 0 1 5年 に8 0億 ド ル を ICT に費やしていたが,1 2月末になって,小企業向け P2P レンディングにつ いては,自前主義を捨て,OnDeck と提携することを発表した。同行は,小企 業 P2P レンディング専業の OnDeck のシステムを使い,銀行の4 0 0万の小企 業顧客への融資を拡大することにした。従来の JP Morgan Chase の審査はオン ラインではできず,支店に申し込んでから数週間かかっていたが,OnDeck と の提携により数分以内に審査結果が得られることになる。JP Morgan Chase は,
自分のブランドで既存小企業顧客に融資を行い,融資は売却せずにバランシー ト上に残す。OnDeck は JP Morgan Chase 向けの特別なホワイトラベルプログ ラムを用意し,オリジネーションおよびサービシングを行い,手数料を受け取 る。ローンの審査基準は JP Morgan Chase が独自に設定する。
2 0 1 6年4月,この提携は実行に移された。JP Morgan Chase は,既存小企業 顧客を,過去の顧客データを用いてあらかじめスクリーニングし,顧客が融資 の申請をしていなくても,2 5万ドル
29)までのローンを申請するように招待し
― 1 5 8 ―
た。申請がなされれば,たいていの場合は翌日に資金を得ることができる。JP
Morgan Chase の既存小企業顧客の場合は,OnDeck に直接融資を申し込むより
も JP Morgan Chase に申し込んだ方が実行までが早いとのことである。
4. 4. ホワイトラベル提携
P2P レンディングのホワイトラベル提携とは,独立系 P2P レンダーのプラ ットフォームとサービスを借用して,ブランド名のみ自分の名で行う提携であ る。小企業融資専門の P2P レンダー Biz2Credit は,自らのブランドで小企業 融資を行っているが,昨年から,銀行,クレジットユニオン,そしてノンバン クなど,異なる業態とホワイトラベル提携を行っている。
銀行との提携についてみると,2 0 1 5年1 0月,Biz2Credit は,ペンシルベニ ア州の Customer Bank
30)とホワイトラベル提携の契約を行った (Eha (2016), PR Newswire (2016))。この提携により,Customer Bank の小企業顧客は Biz2Credit のプラットフォーム “Virtual CFO” により,PC やモバイル機器から融資を申 請し,必要書類をアップロードでき,また,自分自身の信用度も調べることが できる。プラットフォームの審査の際は,銀行が持つデータも利用される。
なお,Customer Bank に限らず,中堅銀行が小企業融資専門 P2P レンダーと 提携するときのメリットとしては,バーゼル3で自己資本比率規制が厳しくな るため,中小企業債権について自力では困難な内部格付を P2P レンダーのシ ステムで算出し,それを規制資本計算に用いることによりリスク資産を減らし,
その結果,自己資本比率を高めることができるということも指摘できよう
31)。
Biz2Credit は,クレジットユニオンとのホワイトラベル提携にも力を入れて
いる。この理由は複数ある。まず,アメリカのクレジットユニオンは,5万ド ル以上の事業ローンを行う場合は,残高を総資産の1 2. 2 5% 以内に抑えなれば ならないという「キャップ」があることである。クレジットユニオンは,事業 ローンがキャップに近くなると,それ以上積極的に事業融資を行わなくなるか もしれない。もしクレジットユニオンが P2P レンダーのホワイトラベル提携 を活用できれば,事業融資額を増やすことができる。次に,クレジットユニオ ンは地域に密着し,地域の人や企業をよく知っているという特長は,P2P レン ダーのような,直接的には誰にも会ったことがないというようなネット上の業 者の弱点を補う。また,クレジットユニオンの弱点は規模が小さいために機械 化が遅れている点であるが,これは P2P レンダーが補える。
― 1 5 9 ―
そこで,Biz2Credit は,JetStream Federal Credit Union
32)と,“Micro Business
Loans” という名称で,5万ドル以内の融資を行うという提携を開始した。
最後に,本論から外れるが,Biz2Credit の他の金融サービス企業2社とのホ ワイトラベル提携について説明する。一つは,Biz2Credit が,2 0 1 6年3月に,
カーローン・リース,建設機械ローン・リースを行うノンバンク,Advantage
Funding とのホワイトラベル提携を行ったことである。この提携は,Advantage
Funding の顧客が同社ホームページ上でカーローン等を申し込み,貸し手とマ
ッチングされ,Advantage Funding がローンを保証するというものである。ノ ンバンクの審査負担は大きく軽減され,また割賦販売債権の証券化に比べて資 金調達コストも低下するものと思われる。
もう一つは,2 0 1 4年3月に Biz2Credit が Banc-serv とのホワイトラベル提携 を発表したことである。Banc-serv は,中小金融機関やノンバンクに対し,そ の取引先から申請された中小企業庁ローン(SBA ローン)の審査や事務を支 援する企業である。この提携により,Biz2Credit での借り手が Banc-serv と取 引がある地元の中小金融機関やノンバンクにアクセスでき,そこから資金を得 ることができるようになるだろうし,Banc-serv にとっては,中小金融機関か ら受託した審査プロセスや事務が迅速になるというメリットがある。
5. おわりに
アメリカにおいては,P2P レンディングのシェアは高まり,今ではごく一般 的な資金調達手段となっている。本稿は,アメリカの P2P レンディングにつ いて,銀行との関わり方を中心に検討した。主な結果は以下の通りである。
銀行によって,P2P レンディング戦略は様々であるが,その背景は①P2P レ ンディングに奪われた顧客の取り戻しまたは奪われないようにするための対抗 策 (Wells Fargo, BB&T, Citizens),②P2P レンディングを武器とした個人取引
への進出 (Goldman Sachs),一度はあきらめつつあったような小企業貸出市場
への再参入 (JPMorgan Chase),③融資しにくい顧客の資金調達支援 (JetStream Federal Credit Union),④高利回り資金運用先の確保(P2P レンダーに資金を提 供している銀行や ABS を買っている銀行) ,に分類できる。また,参入方法 も,自力での開発から顧客の紹介までさまざまで,Wells Fargo や BB&T のよ うに以前からから中小企業金融分野で強い競争力を保持している銀行は従来の
― 1 6 0 ―
システムの改善で対抗しようとしている。
翻って,わが国の場合,中小企業金融にしても個人金融にしても,P2P レン ディングへの参入は少ない。主な理由は,P2P レンディングの可能性に関する 理解が不足していることであろう
33)。フィンテックと呼ばれるいくつかの新技 術の中では,ブロックチェーン技術が有名であるが,実用化されて普及しつつ ある技術は P2P レンディングのみである
34)。今まで制度的,コスト的に資金 供給が不十分だった層へ資金が供給されるという点ひとつをとってみても,経 済社会に大きなよい影響をもたらす可能性があると評価できるのに,進展がな いことは大変残念に思える。
1)
IOSCO (2014)
の分類では,借り手と貸し手をオンラインプラットフォーム上でつなぎ,プラットフォーム設置者は原則としてリスクを負わない金融システムのことを総称してクラ ウドファンディングと呼び,下位分類として寄付型のような非営利のものと並んで営利型の
P2P
レンディング(貸出)とエクイティクラウドファンディング(株式投資)があるとして いる。本稿で扱う内容はここでいうP2P
レンディングである。なお,クラウドファンディ ングの草創期の非営利形態でみられた個人間での一対一の資金融通や,プラットフォームが 完全に第三者となって貸し手と借り手の間で契約がなされるという形式は営利ベースではほ とんどの国では失われている(IOSCO (2014))。よって,形式的・外形的には,現在の P2P
レンディングは,厳密にはpeer to peer
ではないが,中間業者はリスクを負わず,資産転換 機能もないので,実質的にはpeer to peer
である。American Banker誌等を調べた範囲では,2016年はこの形態の融資仲介を
marketplace lending,プラットフォーム設置者を marketplace
lender
と称する論文・記事が多い。これは,直訳すれば「市場貸出」である。しかし,日本語としては,これでは意味が不鮮明なので,本稿では「P2Pレンディング」という呼び方で 統一する。
2) わが国では,「日本発のソーシャルレンディング」を謳う
maneo
やSBI
ソーシャルレン ディングのように,「ソーシャルレンディング」という名称を,無関係の借り手と貸し手を つなぐ営利企業の社名やその業務内容に用いている場合が少なくない。「ソーシャル」とい う語が用いられたのは,この仕組みがスタートした当初は利息をとらないような資金調達や 寄付のようなものがあったためであろう。しかしながら,現在は,貸し手,借り手,仲介業 者ともに営利を目的としている者がほとんどであるので,非営利的・公共的なイメージを持 つ「ソーシャル」を用いた「ソーシャルレンディング」という名称は,非営利や公共性を利 用者に誤認させ得るので,適切ではないように思える。3) このとき,プラットフォームによって,借り手と貸し手の金利があらかじめ決定されてい るもの,金利がオークションで決まるものがあるが,アメリカの
OnDeck, SoFi, Lending Club,
Prosper
は前者である。もちろん,借入額や借入可能上限額も決定されている。貸し手から借り手への資金の流れの形式は,国ごとの制度的な違いにより多様である。アメリカについ ては注17を参照のこと。
4) 学生ローンの場合は0% のものもある。
5) 後述するが,小企業融資専門の
OnDeck
の大規模データに基づく精密な審査のように,JPMorgan Chase
が自力開発をあきらめてそっくり相乗りしたようなシステムもある一方,将― 1 6 1 ―
来の高所得者である一流大学学生をターゲットとして極めて焦げ付きが少ない学生ローンの リファイナンスに注力している
SoFi
のようなP2P
レンダーであれば,審査システムはそれ ほど重要ではないと予想される。6)
Securities Industry and Financial Markets Association (sifma)
の統計データに基づく。7)
SoFi (Social Finance, Inc.)
は,2011年に創立され,学生ローンリファイナンスで成長して きたP2P
レンダーであり,2016年末で140億ドルの融資を実行している。2014年までは学 生ローンのみであったが,2015年から個人ローン,2016年からはモーゲッジを始めた。SoFi
の際立った特徴は,学生ローンの焦げ付きが極めて低いため,P2Pレンディングとし ては例外的な低い金利で学生ローンリファイナンスを提供していることである。そのため,これを裏付けとして発行された
ABS
も高格付けを取得できる。8)
Moody’s
のAaa
は他の格付け機関の最上格付(AAA)
に相当する。A1はA
+に相当する。なお,残りの9% はエクイティである。
9) 学生ローン以外の
ABS
の格付けはA
トランシェであってもA3
がやっとであり,下のト ランシェはBaa
やBa
である。10) 有名な例を2つ示す。まず,スウェーデンの
P2P
レンダーTrustBuddy
は,顧客の口座か ら数百万ドルが消えたと経営陣が明らかにしたあと,2015年10月に破産を宣言した。もう ひとつは,2016年1月に中国のP2P
レンダーEzubao
の幹部が逮捕されたが,この会社は 76億ドルをPonzi
スキームで着服し,経営者たちは2,000万ドルのシンガポールの別荘,180万ドルのピンクのダイヤモンドの指輪,高級リムジンや時計を購入していた。Crossman
(2016)を参照。
11) アメリカにおける小企業
(small business)
の定義は,日本と同様に業種によって異なり,製造業の場合は従業員500人以下。
12) この部分は
OnDeck
のホームページ,OnDeck (2016b)とLend Academy (2016)
に基づく。13) 日本でも報道された,2015年12月2日に発生したカリフォルニア州サンバーナーディー ノ銃乱射事件において,犯人夫婦は事件の数週間前に
Prosper
から$28,500の借り入れを行 った。Rudegeair (2015)を参照。14) この項は
Wack (2016b)
を参照。15) 以下は
Rudegeair and Baer (2016)
とMcLannahan and Shubber (2016)
に基づく。16)
Prosper
を含め,いまだに多くのP2P
レンダーは未公開であるが,Lending Clubは2014 年12月にNYSE
に上場している。17) アメリカの
P2P
レンディングにおける投資家が受け取る証券はnote
と呼ばれる有価証券 である。このnote
を用いたアメリカのP2P
レンディングのスキームのことをnotary system
という
(IOSCO (2014))。このシステムの概要は以下の通りである。
①プラットフォームは借り手の信用度を調べ,格付けし,よって借り手の金利が決定される。
②プラットフォームは,貸し手(投資家)と借り手をマッチングさせる。借り手の金利は決 まっているので,貸し手は借り手にいくら投資するかどうかの判断のみを行う。
③マッチング後,独立した銀行(ユタ州ソルトレイクに設立された
WebBank
など)が借り 手にその金額の融資を行う。④プラットフォームは
note
を貸し手に発行し,貸し手は独立した銀行に融資金を支払う。18) 2016年8月16日,Jefferiesにより,Lending Clubは,1.3548億ドルの個人ローン債権を 担保に,0.867億ドル(Aトランシェ)と0.1667億ドル(Bトランシェ)の私募債を発行 した。
19) この項は,Eha (2016)を参照。
20) サウスダコタ州
Sioux Falls
に本拠を置く銀行。2016年9月末の総資産は1.74兆ドル。店― 1 6 2 ―
舗数6,225。銀行の基本データは
FDIC
の“Institution Directory”
に基づく。以降すべて同様。21)
Branch Banking and Trust Company.
本拠地はノースカロライナ州ウインストン・セーラ ム。2016年9月末総資産は2,174億ドル。22)
BB&T
については,Davis (2016)に基づく。なお,P2Pレンディングでの審査システムが従来型のエキスパートシステムによるスコアリングと異なる点は,OnDeckを例にとれば,
P2P
レンディングの審査はネット上のビッグデータを利用する点である。23) 2016年9月末の総資産1,146億ドル。本部はロードアイランド州プロビデンス。店舗数 は858。
24) 以下は
Goldman Sachs (2016b), Wack (2016c),
およびPopper (2016)
に基づく。25) この銀行の設立は1990年であるが,FDICの預金保険に入ったのが2008年11月である。
2014年9月末の総預金は685億ドルだったが,2016年9月末は1,114億ドルへと2年間で ほぼ倍増した。総資産は1,584億ドルであり,主な資産は
FRB
への準備預金(42.1%), 融資・リース(30.3%),そして商品有価証券(17.0%)である。資本金は243億ドル,本 支店数は5である。26) 2016年4月,Goldman Sachs Bankは
GE
グループのGE Capital Bank
のオンライン預金プ ラットフォームを買収し,同時に160億ドルの預金も獲得した(Goldman Sachs (2016a))。
27) 以下は,Rudegeair, Glazer, and Simon (2015), Renton (2015), Wack (2016a)に基づく。
28) 2016年9月末の総資産2.118兆ドル。本部はオハイオ州コロンバス。店舗数は5,426。
29) 2016年12月現在の上限は50万ドル。
30) 2016年9月末の総資産95億ドル,店舗数16。
31) この部分以降は,Biz2Creditの創立者で
CEO
のRohit Arora
に対するインタビュー(Lend Academy (2016))
に基づく。32) 2015年末の総資産は1.74億ドル,組合員の出資(預金に相当)は1.51億ドル,店舗数 は6。
33) もう一つの理由は,フィンテックを推進したい者の多くが,コンサルティング会社やシス テム開発会社に属しているためであろう。彼らは売り上げの増加が第一であり,出来上がっ た技術が社会に貢献するかどうかは別な話なので,とかく,フィナンテックの話になると夢 のようなよい話ばかりで問題点の指摘などが不十分に思える。
34) ネットでの自動アドバイス「ロボアドバイザー」は,21世紀頭にはすでに開発されてい た。ブロックチェーンは技術的には素晴らしいが,金融においては,既存の帳簿の代替に過 ぎず,金融業としての新ビジネスモデルができるわけではない。
参考文献