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―参画に向けた戦略とその成果に着目して―

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Ⅰ.はじめに 1 .研究の背景と目的

 当事者参画は,近年の社会福祉の政策や実践,調査や教育において重要な課題の一つとなっ ている。日本では,ここ20年の間に,保健医療や社会福祉サービスに当事者が参画する動き が顕著になってきている。この参画は,次のような多くの異なる形態において進められてい る。

 ・個別支援計画やサービス提供,その見直し  ・サービスの計画や開発

 ・社会福祉サービスや社会的ケアを提供する組織とその運営  ・当事者主体の発展

 ・スタッフや学生の訓練  ・調査

 当事者参画は,社会福祉サービスや保健医療サービスの形成や開発にあたり,日本におい て政府や自治体に要請される重要な政治課題ともなっている(1)。社会福祉サービスや保健医療 サービスの計画や開発,提供,調整に当事者が参画することの必要性は,サービス提供の基 準を高めることへの関心に根差しており,これにより,サービスを改善し,複雑で多様なニー ズによりマッチした効果的なものにすることができる(石川2014,久保2004)。

 日本において,当事者参画が進められてきた背景には,サービス利用者や介護者らによる 運動がある。例えば,DPI(障害者インターナショナル)日本会議・事務局長の尾上(2014)

は,1981年の結成時から,DPI は「影響力の権利」を掲げ,「われわれの声」を障害者政策に 反映されるよう,障害者の参加を保障する方策を求めてきており,この運動の延長上に,2010

*立正大学社会福祉学部社会福祉学科

キーワード:社会福祉専門職養成教育,当事者参画,サービス利用者,介護者

日本における社会福祉専門職養成教育への 当事者参画についての文献検討

―参画に向けた戦略とその成果に着目して―

Models and Effectiveness of Service User and Carer Involvement in Social Work Education in Japan

―A Literature Review ―

森田久美子

Kumiko Morita

〈原著論文〉

(2)

年の障害者自立支援法の改正に向けた障害者制度改革推進会議やその後の障害者政策委員会 への障害当事者の参画があったとしている(尾上2014)。また,2010年には介護者の権利擁護 をうたう一般社団法人日本ケアラー連盟が結成され,介護者の支援ニーズ調査に基づき,介 護者支援の施策化を求める活動も始められている(NPO 法人介護者サポートネットワークセ ンター・アラジン2011)。この介護者らの運動においては,ヤングケアラーについての調査も 行われ(森田2010,一般社団法人日本ケアラー連盟2015),ケアラー経験のある若者たちが自 身の声を社会福祉サービス等へと反映させることを求める活動も進められている(山梨日日 新聞2019)。

 このように当事者参画の取り組みが進展する中,当事者参画はソーシャルワーク研究にお いても課題の一つとなりつつある。個別支援計画やサービス提供の過程における当事者の参 画を促進することを志向した支援技術の開発(安達2004,2013,2017,森田2004,村尾2004,

大竹2004,鶴岡2015)や,自立支援協議会などサービスの計画や開発に関わる政策立案過程 への当事者の参画状況の把握(遠藤2010,笠原2011,松本2015,2018)や政策立案過程に当 事者が参画することを促進する支援技術の開発(石川2014,茨木2014,沖倉2017),当事者と 協働して実施する調査手法の開発(笠原2006,大島2014,森口2019)など,当事者参画の思 想的基盤の確立とともに,当事者の参画をミクロ・マクロの両面で支えるソーシャルワーク 技術を開発する取り組みが行われている。また,これに伴い,当事者の参画を促進する専門 職の力量の育成が求められている。そこで,本研究では,日本における社会福祉専門職養成 教育における当事者参画についての研究動向をレビューし,社会福祉専門職教育における当 事者参画の方法とその効果を把握し,そのあり方を検討することを目的としていく。

2 .目的と意義

 本研究の目的は,社会福祉専門職養成教育における当事者参画の研究動向を把握するため に,次の 2 点を同定することである。

①  社会福祉専門職養成教育に当事者が参画することに,どのようなモデルやアプローチ,

戦略が用いられているか

②  社会福祉専門職養成教育に当事者が参画したことによって,どのような効果や成果が 得られているか(評価方法と発見されたこと)

 本研究では,これを通して,日本の社会福祉専門職養成教育に当事者が参画することを促 進するための方略と,当事者が社会福祉専門職養成教育に参画することの成果を測定するた めの方法についての示唆を得ていく。

3 .用語の定義

 本研究で使用する用語とその定義は,次の通りである。

(3)

⑴ 社会福祉専門職養成教育

 本研究では,社会福祉専門職を,社会福祉士及び介護福祉士,精神保健福祉士などの社 会福祉従事者と定義している。また,養成教育は,社会福祉士または介護福祉士,精神保 健福祉士の受験資格の取得を目指す学生のための,短大・大学・養成校における教育及び,

資格取得後の卒後教育としている。小中学生や市民を対象とした社会福祉教育は,これに 含まない。

⑵ 当事者参画

 当事者とは,「サービスの利用者」と「介護者」を意味している(原1996:144)。社会福 祉実践の現場で活動する職員は,これに含まない。「サービスの利用者」は,社会福祉サー ビスを受けている人々のことであり,「介護者」は,高齢や病気,障がいなどにより,さま ざまなことを管理することが困難になった家族や親族,友人らを,無償で助け,サポート している人々のことである。

 参画(involvement)は,様々な意味を持つ用語であり,ある人が自身のケアや他者のケ アに積極的に活動する状態を描写する際に用いられる。参画は,「参加」に代わり好んで用 いられることがあり,積極的かつ自発的に関与することを意味している(Coldham2012:

9)。サービス利用者が,サービス提供者とさまざまな契約を結ぶ際には,受け身的な立場 であることを示す「サービス利用者の参加」から,より先導的な役割をとることを示す

「サービス利用者の参画」へと,移行させていくことが必要であるとの議論もなされている

(Kjellberg et al. 2010:2)。

Ⅱ.研究方法 1 .文献の収集方法

 本研究では,日本の社会福祉専門職養成教育における当事者参画の研究動向を把握するた めに,文献研究の方法を用いていく。文献の収集にあたっては,CiNii Articles を主たる検索 エンジンとして使用した。日本国内の社会福祉専門職教育に関する研究は,社会福祉及び教 育の領域にまたがるため,これらの領域についての日本の文献を多く収録するデータベース である,CiNii Articles が主たる検索エンジンとして適切であると考えた。また,収集した文 献の参照文献から関連文献を収集した。

1 )国内の研究文献の検索手順

 CiNii Articles の web データベースを用いて,2017年までの間に発表された文献を検索 した(最終アクセス日2018年 8 月 5 日)。検索の手順は以下に示した通りである。

⑴ CiNii Article にて,「社会福祉専門職」及び「養成」,「当事者」,「参画」を検索用語と した。それぞれの用語は,他の用語に置き換えられて用いられている場合があるため,

イギリスのヘルスケア専門職教育における当事者参画の文献レビューに用いられている 用語(Morgan et al. 2009:84)を参考に,日本の社会福祉専門職養成教育の実情を反映

(4)

させて,それぞれに下位用語のグループを設定した(表 1 )。グループの各用語間で AND 検索を行った。

  なお,下位用語のグループは,「社会福祉専門職」に「グループ 1  専門職」が,「養 成」に「グループ 2  参画の領域」が,「当事者」に「グループ 3  人」が,「参画」に

「グループ 4  参画を表す他の用語」が対応している。

表 1  文献検索用語

グループ 1 グループ 2 グループ 3 グループ 4

専門職 参画の領域 参画を表す他の用語

社会福祉専門職 養成 当事者 参画

社会福祉士 教育 利用者 参加

精神保健福祉士 研修 消費者/コンシューマー 貢献

介護福祉士 トレーニング 介護者 協働

社会福祉従事者 教授 家族 連携

福祉人材 学習 親族 パートナー

ソーシャルワーカー カリキュラム クライエント 社会福祉実践 アセスメント 高齢者 ソーシャルワーク 学生募集 障害者

コース 若者/子ども

授業 市民

講義 演習 実習

⑵ ⑴で検索された文献から,特集や解説,調査報告,学会抄録を除き,学術論文のみを 選定した。

⑶ ⑴の検索結果から,重複するもの,社会福祉専門職養成教育に関係のないもの(小中 学校・高校における福祉教育や看護他の社会福祉以外の専門職養成,社会福祉計画策定 過程やリサーチへの当事者参画など),学会地方誌の抄録論文,研究デザインの特定でき ない文献を除外した。そして,当事者参画のモデルやアプローチ,戦略に関する記述が あるもの,明確な研究デザインによって当事者の参画の効果やその評価に関する記述が ある文献のみを抽出した。

⑷ ⑶において選出された文献それぞれの引用文献から,⑶に挙げられていない社会福祉 専門職養成教育における当事者参画に関わる文献をピックアップし,追加した。

2 )レビュー対象文献の選定基準

 前項の検索手順で該当した文献のうち,社会福祉専門職養成教育における当事者参画に関 する内容の文献を,著者が検討のうえ判断し,すべての選定作業を行った。

2 .分析方法

 分析にあたって,関連するデータは,本研究の目的にそって設定された 4 つの枠組みに該

(5)

当するものを,抽出した文献から抜き出していった。設定された 4 つの枠組みは,教育レベ ル,参加戦略,評価方法,参画の成果としてわかったこと(レベル)である。

 また,参画の成果としてわかったことについては,データを抽象化するために特別に開発 されたツールを用いて,選択基準に沿って文献から抽出していった。このツールは,Robinson ら(2013)が,Kirkpatrick(1967)が作成した養成教育についての評価の枠組みを,ソーシャ ルワーカー養成教育へのサービス利用者と介護者の参画の効果を評価するための枠組みとし て修正し,図式化したものである(表 2 )。

表 2  教育プログラムの評価のための枠組み

レベル 1 a 学習者の認識 学生の,学習経験についての見方やトレーニングへの 満足感

レベル 1 b サービス利用者や介護者

の認識 サービス利用者や介護者の,参画する経験についての 見方

レベル 1 c スタッフの認識 スタッフの,サービス利用者や介護者の参画について の見方

レベル 2 a 態度や認識の修正 サービス利用者や介護者,彼らの問題やニーズ,環境,

ケアへの態度や認識についての測定された変化

レベル 2 b 知識やスキルの獲得

サービス利用者や介護者と共に活動することに係る概 念や手続き,原理の理解及び,思考/問題解決,アセ スメントや介入に係るスキルの獲得についての測定さ れた変化

レベル 3 a 行動の変化 新たに獲得された知識やスキル,態度が,ソーシャル ワーカーの実践において,はっきりと表れているかど うかについての観察

レベル 3 b 組織的な実践の変化 教育プログラムにサービス利用者や介護者が参画する ことに起因した,組織/ケアの提供面での広範囲な変 化についての観察

レベル 4 サービス利用者や介護者 への恩恵

ソーシャルワークサービスを受けているサービス利用 者や介護者の,良好な状態や生活の質に関して,明白 な相違があるかどうかについてのアセスメント

Robison 他(2013)から森田が作成〔Robinson 他(2013)は,Carpenter(2005)及び Morgan 他

(2009)を適用;オリジナルの枠組みは Kirpatrick(1967)から引用している〕

 Kirkpatrick の評価モデルは,次の 4 つの評価レベルを提示している。すなわち,学生のト レーニングへの反応(レベル 1 ),学生が学んだこと(レベル 2 ),学生が学んだことは実践 に応用されているかどうか(レベル 3 ),トレーニングで学んだことを応用したことにより,

目標が達成されているかどうか(レベル 4 )である。この評価の枠組みは,専門職の養成教 育を評価するのに広く用いられてきたものである。一方,この評価枠組みは,実践者が学習 したことを導入しようとすることに対し,機関が制限を与えることがあることや,養成教育 に参画したサービス利用者や介護者にとっての成果についても反映することが必要であるこ とから,修正が行われている。Robinson ら(2013)は,Kirkpatrick(1967)の示した 4 つの 評価枠組みの構造を保持しつつ,これに,Carpenter(2011)によって用いられている,社会

(6)

福祉専門職養成教育のための枠組み(2)と,Morgan と Janes(2009)によって用いられている,

サービス利用者と介護者の参画を説明するための枠組みとを結合させ,新たな評価枠組みを 作成している(Robinson et al. 2013)。なお,Carpenter(2011)が用いている社会福祉専門 職教育のための枠組みは,次に示した通りである(表 3 )。

表 3  学習成果の測定法:知識,スキル,態度,行動

局面 測定法

認知 叙述的(言語的知識) MCQs;小テスト 手続き的(知識の組織化) 概念地図;ヴィネット 戦略的(計画立案,課題

の判断) 「標準化されたクライエント」との模擬面接につい ての省察

スキル 初歩的なスキル (自己評価);観察者による評価(尺度)

スキルの編纂 コミュニケーションスキルに関する DVD についての 観察者の評価;コンピテンスについての自己評価 高度なスキル(自動性) (アセスメントのためのインタビューなどについて

の)観察 態度 サービス利用者に対する

態度;価値 態度尺度

動機付けの結果,自己肯

定感 自己評価;自信の評価

行動 学習したことの実行(及

びその障壁) 自己報告;実践についての教員,管理者の報告;評 価尺度

影響 利用者と介護者のための

成果 利用者が定義した尺度;自己肯定感及びエンパワメ ント;社会的機能やメンタルヘルス,生活の質,子 どもの行動などの測定

Carpenter(2011)から森田が作成

Ⅲ.結 果

1 .当事者参画による成果

 検索エンジンを用いた文献検索の結果,34文献が発見された。この34文献のうち,明確な 研究デザインによって当事者参加の効果が確認できないものを除いて,選出した文献は15文 献であった。その文献の概要を,以下の表に示している(表 4 )。

 選出された15文献が刊行された時期は,1980年代及び1990年代が各 1 本,2000年代が 7 本,

2010年代前半が 6 本となっていた。2013年以降に刊行されたものは,見当たらなかった。

 選出された文献が扱う社会福祉専門職養成教育の教育レベルは,資格取得前の社会福祉専 門職養成教育課程が14本であった。資格取得後の社会福祉専門職養成研修に焦点をあててい る文献は 2 本( 1 本は資格取得前の養成教育にも含まれる)のみであった。

 当事者参画の成果の評価レベルが,レベル 1 であったのは12本であった。これらの文献で,

当事者参画の成果を評価するために用いられていた方法は,観察法であった。学生や研修生,

(7)

表 4  社会福祉専⾨職養成教育への当事者参画についての文献の分析結果 No 著者名 教育レベル 参加戦略 評価方法 わかったこと(レベル)

1 久保紘章

( 1 9 8 3,

1987)

資格取得前 サービス利用者及び介 護者が講師として授業 に参加し,自身が参加 しているセルフヘルプ グループについて講話 を行う。学生から提出 されたレポートの評価 を行う

① 学生からのフィー ドバック(サン プ ル 数 は 未 記

② サービス利用者載)

及び介護者から のフィードバッ ク(サンプル数 は未記載)

① 学生は,授業形態の新鮮さに魅力を感じ,

学生の心や感情や実存にまで届く,生の声 の聴ける授業に満足していた。また,サー ビス利用者と介護者の生きざまに衝撃を受 け,自身の授業に臨む姿勢や生き方などを 振り返っていた(1a)。

② サービス利用者及び介護者は,大学で講義 することへの新鮮や,学生に受け止めても らえたことへの喜びを感じていた(1b)

2 新井幸恵 他

(1999) 資格取得前 サービス利用者及び介 護者が講師として授業 に参加し,自身の病気 や障がいについて講話 を行う

① 学生からのフィー ドバック(サン プ ル 数 は 未 記

② サービス利用者載)

及び介護者から のフィードバッ ク(n= 3)

① 学生は,自身や自身の家族が苦しんできた ことの意味に再価値付けを行い,自身の抱 く精神障害者像の変化を体験し,サービス 利用者及び介護者を,困難を引き受け,克 服していく課程を示してくれた教育者とし て受け止めていた(1a)

② サービス利用者及び介護者は,講師自身の 人生に福祉をめざす若い学生が傾聴してく れたことに喜びを感じていた(1b)

3 松田博幸

(2001) 資格取得前 サービス利用者が講師 として授業に参加し,

自身が参加しているセ ルフヘルプグループの 活動について講話を行

学生からのフィー

ドバック(n= 38)学生は,話しを聴けたことを良かったと,刺 激を受けたと評価し,セルフヘルプグループ の諸側面についての知識と理解を深めていた。

また,学生は,セルフヘルプグループの異な る文化に対し,「自己を開きながらの発見」→

「問い直し」→「変化」→「自己を開きなが らの発見」という循環的な過程を通して学ん でいた(1a)

4 新井幸恵 他

(2004) 資格取得前 ① サービス利用者が講 師として授業に参加 し,自身の病気や障 がいについて講話を

② 学生が社会福祉施設行う を訪問し,サービス 利用者と交流する

学生からのフィー ドバック(サンプ ル数は未記載)

学生は,サービス利用者の全存在を五感で感 じ,同じ人間なんだと確認していた。また,

障がいをもちつつ生きるという人間的価値に 尊敬をもって気づき,自身の偏見やその根拠 を見つめはじめていた(1a)

5 片岡正喜 他

(2006) 資格取得前 ① サービス利用者及び 介護者が,講師とし て授業に参加し,病 気や障がいについて 講話を行う

② 学生が社会福祉施設 を訪問し,サービス 利用者と交流する

授業実施の初回と 最終回に,学生を 対象に,アンケー ト(エンパワメン ト尺度を使用)を 実施(n= 42)

学生は,エンパワメント尺度の質問13項目す べてにおいて向上していた。特に,サービス 利用者さんについての理解,授業内容の身近 な人との共有,自主的な学習活動について著 しい上昇が見られた。他方,講義への積極的 参加,ゼミメンバー間のラポール形成,教員 と学生との交流については,それほど促進さ れていないようだった(2a)

6 石田京子

(2006) 資格取得前 サービス利用者が講師 として授業に参加し,

障害疑似体験実施後 に,自身の障がいにつ いて講話を行う

学生からのフィー ド バ ッ ク( n=

157)

学生は,サービス利用者の生活や疾病,医療,

介護ケアなどについての知識を深めていた。

また,サービス利用者の姿に畏敬の感情を示 すとともに,自己の認識の拡大や自己の目標 などの気づきを得ていた(1a)

7 吉村夕里

(2009) 資格取得前

資格取得後 サービス利用者及び介 護者,サービス提供 者,学生らからなる チームで,養成教育で 用いるための教材(精 神科診療場面)を開発 する(企画・実施・評 価の全過程に参加)

スクリプトをめぐ る参加者間の相互 作用についての会 話分析(サンプル 数は未記載)

参加者(学生,サービス利用者及び介護者,

スタッフ等)は,映像化過程のやりとりにお いて,単に「医師」個人の問題に還元できな いような,現在の精神科医療がもっている普 遍的な構造やその歴史について考えていた

(1a)

8 石田京子

(2009) 資格取得前 サービス利用者が講師 として授業に参加し,

障害疑似体験実施後 に,障がいの経験につ いての講話を行う

サービス利用者か らのフィードバッ ク(n= 8)

サービス利用者は,授業後には自己の語りへ の満足や障害への自己受容の深まりを感じる ようになっていた(1b)

(8)

9 木浪 冨美子

他(2009) 資格取得前 ① 学生が,社会福祉施 設を訪問し,サービ ス利用者と交流する

② 学生が,サービス利 用者が自身の生活環 境についての講話を 行うシンポジウムに 参加する

一連の学習活動の 前と後に,学生を 対象にアンケート

(精神障害者との 社会的・心理的距 離,精神障害者へ のイメージ,精神 障害者の生活のし づらさについての 見解について)を 実施(n= 18)

学生は,精神障害という疾病への理解が促進 され,精神障害者についてより信頼できる人 とみなす方向に意識が変わっていた(2a)。さ らに,サービス利用者の,精神疾患があるこ とが理由の生活のしづらさについての気づき を深めていた(2b)

10 吉村夕里

(2010) 資格取得前 サービス利用者及び介 護者,サービス提供 者,学生らからなる チームで,養成教育で 用いるための教材(車 いす疑似体験)の開発 及びその教材を用いた 授業を実施(企画・実 施・評価の全過程に参 加)

① 学生からのフィー ド バ ッ ク(n=

② 参加者間の相互10)

作用についての エピソード分析

①学生は,「車椅子疑似体験の参加者の視点」

を学び,「生活環境への意識の変化」を経験 し,「当事者からのリフレクト」を行うよう になっていた(1a)

②車椅子を使用する当事者と参加者との間に 様々なリフレクトが生じ,「障害の個人モデ ル」と「障害の社会モデル」の対比が顕著に なり,参加者同士がさまざまな障害モデルの 存在に気づいていた(1a)。

11 吉村夕里

(2011) 資格取得前 ① サービス利用者と介 護者が,講師として 授業に参加し,学生 と対話を行う

② 学生が,サービス利 用者及び介護者の例 会を訪問し交流する

① サービス利用者 と学生との相互 作用のエピソー ド分析(サンプ ル数は未記載)

② サービス利用者 及び介護者との 面接(n= 2)

①学生は,認知症のサービス利用者との接し 方と共に,サービス利用者のリソースについ て学んでいた(1a)

②認知症のサービス利用者は,学生との相互 関係が成立する形での,継続的な関わりを求 めていた(1b)

12 吉村夕里

(2012) 資格取得前 大学と社会福祉施設が 協働して企画・運営す る授業において,学習 者とサービス利用者,

介護者とが継続的な共 同学習を行う

学生からのフィー

ドバック(n= 25)学生は,サービス利用者との接触体験を通じ て,既に形成されていた精神障害についての 否定的概念を覆し,肯定的な印象形成を行っ ていた(1a)

13 沖倉智美

(2012) 資格取得後 サービス利用者が,利 用者の「声を聴く」技 術に関する演習に参加 し,「生の教材」とし て,ロールプレイのク ライエント役をする

スタッフを対象と した,フォーカス グ ル ー プ イ ン タ ビュー(n= 7)

受講者は,コーディネーターの直言やサービ ス利用者の応答から,自身のコミュニケー ションの特性に気づくとともに,日々の実践 を諦めない姿勢が強化されていた。また,サー ビス利用者は,多くの参加者が自分の話に耳 を傾け,無条件の肯定を示してくれたことに 満足していた(1c)

14 小川純子

(2013) 資格取得前 サービス利用者が,講 師として授業に参加 し,障害の経験につい ての講話を行う

サービス利用者を 対象としたインタ ビュー(n= 3)

サービス利用者は,講師としての活動に意義 を感じ,自己肯定感を高めていた。一方,緊 張から体調への影響がある場合や,生活保護 受給者の場合などには講師報酬の配慮を必要 としていた(1b)

15 幸田るみ子

他(2013) 資格取得前 サービス利用者が,視 覚教材を作成する過程 に参加する。教員が,

その資格教材を用い て,障害理解に関する 講義と学生との討議を 行う

学生を対象とした ア ン ケ ー ト(ス ティグマ尺度,社 会的距離尺度を含 む)を実施。アン ケートは,授業実 施の前後に行い,

その変化を,実験 群とコントロール 群 と で 比 較(n=

88)

実験群で,個人的態度,精神障害者に対する ステレオタイプ的な否定的認識が軽減してい た。一方,周囲の人に感じる知覚的スティグ マや社会的距離の変化は確認できなかった

(2a)

(9)

サービス利用者及び介護者,スタッフを対象に,フィードバック用紙や個別インタビュー,

フォーカスグループなどの方法により,当事者の参画した学習過程全体についての見解を尋 ねることが行われた結果,学生の多くが当事者の参画に満足していること,当事者は自身の 話に耳を傾むけてもらえたことに満足するとともに,いくつかの課題を認識していること,

スタッフは学生と当事者の両方に良い成果があったことに満足していることがわかった。

 また,当事者参画の成果の評価レベルが,レベル 2 であった文献は 3 本のみであった。こ れらの文献で,当事者参画の成果を評価するために用いられていた方法は,学生を対象に,

標準化された尺度を含んだアンケート調査を実施し,学生の態度や認識の変化を測定するも のであった。学生の態度や認識を,当事者の参画した授業を実施する前と後とで測定し,そ の変化を評価する,事前事後比較調査を用いた文献では,当事者参画の授業後に,自己主導 的学習態度が増大していること(片山2006),当事者への否定的態度が減少していること(木 浪2012)がわかった。また,学生の態度や認識の変化を授業の前と後とで比較して測定する ことを,当事者が参画して講義を行う実験群と当事者が参画しない通常の講義を行うコント ロール群とそれぞれで行い,その変化を両グループ間で比較する,二群間事前事後比較調査 を用いた文献では,当事者が参画して講義を行った実験群でより当事者に対する否定的認識 が軽減していることがわかった(幸田2013)。

 なお,レベル 2 での評価を行った文献では,学生の知識やスキルの獲得状況についての評 価は,見当たらなかった。また,レベル 3 またはレベル 4 の評価が示されている文献は,管 見した限りでは見つからなかった。従って,社会福祉専門職養成教育に当事者が参画したこ とによって,学生が当事者と活動するための知識やスキルを身に付けたかや,ソーシャルワー ク実践が改善されたか,組織が変革され他のサービス利用者や介護者に利益がもたらされた かについてまでは,評価できていないことがわかった。

2 .当事者参画の理論モデル

 社会福祉専門職養成教育における当事者参画に関する評価は,当事者参画の 2 つの異なる 側面について行われている。この評価の側面の相違は,当事者参画の実践が基づく理論モデ ルの相違と考えることができる。当事者参画は,エンパワーメントモデルまたは反差別・反 抑圧モデルの 2 つの理論モデルに依拠しており,評価も異なるそれぞれの局面において行わ れている。

 当事者参画の実践が依拠する理論モデルの一つは,エンパワーメントモデル及びパートナー シップである。例えば,久保(1987)は,「援助を受ける者がもっとも援助の受け手のニード を知っている」(久保1987:64)と述べ,サービス利用者や介護者をコミュニティのニーズに ついての教育者として授業に招聘することを行っていた。そして,学生がサービス利用者や 介護者が特別講師として参画した授業についてどのような認識を持っているか,当事者コミュ ニティのどのような側面について学んでいるかを評価していた(久保1987)。また,学生の

(10)

「当事者の声」を聴くコミュニケーションスキルの獲得状況(沖倉2012)や,自己主導学習の 態度の獲得状況(片岡ら2006),学生が当事者のもつ視点や知識の何を共有したか(吉村2009,

2010,2011a,2012),参画したサービス利用者が社会福祉専門職養成教育への参画にどのよ うな認識や要望を持っているか(石田2009,吉村2011a,2012,小川2013)を評価していた。

これらでは,当事者が参画する過程に焦点をあて,その過程において学生や当事者にどのよ うな有意味な経験がもたらされたかが評価されていた(レベル 1 ,表 4 )。

 また,当事者参画の実践が依拠する理論モデルのもう一つは,反差別・反抑圧モデルであ る。例えば,新井他(2001)や木浪他(2009),幸田他(2013)は,学生には精神障がい者へ の否定的なイメージやスティグマが形成されだしており,その軽減が必要であるとの問題意 識から,当事者の参画により,学生の精神障がい者像(新井他2001,木浪他2009)や,精神 障がい者への心理・社会的な距離などの態度(木浪他2009,幸田他2013)に変化があったか を評価していた(レベル 2 ,表 4 )。

3 .当事者参画の領域

 当事者参画が社会福祉専門職養成教育において実践されていた領域は,選出された15本の 文献全てにおいて,授業の領域であった。この授業の領域における当事者参画は,次の 4 つ の戦略のもと進められていた。すなわち,①当事者を特別講師として招聘し,講話を行う,

②当事者を演習における模擬クライエントとして招聘する,③当事者と協働して教材や授業 プログラムの開発を行い,授業の運営を行う,④当事者と学生とが継続的に共同学習を行う である。

 第 1 の戦略は,4 つの戦略の中で最も多く用いられていたものである。この戦略では,サー ビス利用者または介護者を,特別講師として招聘し,セルフヘルプグループや他者理解,障 害理解に関連した講話を実施していた。この戦略についてのレベル 1 の評価としては,学生 は,当事者が参画する授業形態に魅力を感じ,自身の実存にまで届く生の声が聴けたことに 満足していること(久保1983,松田2001,新井他2004),自身の授業に臨む姿勢や生き方を振 り返っていること(久保1983,新井ら1999,石田2006),当事者の人間的価値を認識し畏敬の 念を感じていること(久保1983,新井ら1999,2004,石田2006,吉村2012),疾病や障害,ケ ア,セルフヘルプグループなどについての知識を得ていること(久保1983,松田2001,石田 2006)が報告されている。また,当事者は,自身の話が傾聴されたことに満足していること

(久保1983,新井ら1999,石田2009,吉村2011),障がいへの自己理解が深まったと認識して いること(小川2013),認知症の当事者は相互関係が成り立つ場での参加を希望していること

(吉村2011),緊張による体調悪化や生活保護受給による報酬受け取りの難しさを感じている こと(小川2013)が明らかにされている(レベル 1 ,表 4 )。また,レベル 2 の評価として は,学生の精神障がいの当事者への肯定的な認識や生活のしづらさへの理解が高まったこと

(木浪ら2009),精神障がいに対する否定的認識が軽減したこと(幸田ら2013),学生の自主的

(11)

な学習活動が促進されたこと(片山2006)が報告されている(レベル 2 ,表 4 )。

 第 2 の戦略では,援助技術を学ぶ演習において,サービス利用者が模擬クライエントとし て参加する機会を設けることが行われていた。この当事者参画の成果として,学生の支援ス キルに対する自己理解や当事者の肯定される満足感の高まりが,スタッフによって認識され ていることが報告されている(沖倉2012)。(レベル 1 ,表 4 )

 第 3 の戦略では,サービス利用者や介護者,専門職等で構成されるチームを結成し,授業 等で用いる視覚教材やプログラムの企画や運営が行われていた。この成果として,学生は精 神医療の構造や車椅子について,サービス利用者の視点から捉える省察の視点やスキルを獲 得していることが確認されている(吉村2009,2010)。(レベル 1 ,表 4 )

 第 4 の戦略では,教育機関と社会福祉サービス機関が協働して,学生と当事者とが継続的 に共同学習を行う授業を運営することが行われていた。この成果として,学生は授業に満足 し,圧倒される体験をしていた(吉村2012)。また,当事者は,教育への関心を深めているこ とが確認された(吉村2012)。(レベル 1 ,表 4 )

 なお,今回選定された15本の文献では,実習生の選抜や実習指導,カリキュラムの企画,

入学者や入職者の選考の領域についての文献は見当たらなかった。従って,社会福祉専門職 養成教育では,実習生の選抜や実習指導,カリキュラムの企画,入学生や入職者の採用の領 域への当事者参画の成果を評価することは,行えていないことがわかった。

Ⅳ.考察とまとめ 1 .考 察

⑴ 本研究の限界

 本研究の限界は,本研究で取り上げた文献にかかるバイアスである。当事者参画の成果の 評価は,当事者参画への期待から,成果が確認できなかった実践については公表が控えられ,

当事者参画の効果が確認できない,もしくは否定的な成果が確認されたものについては,本 研究のレビューに反映されていない可能性がある。また,日本における社会福祉専門職教育 における当事者参画の成果ついての評価を取り上げた文献数は15本と少なく,検証を行うに はさらなる実践とその評価が必要な点である。

⑵ 社会福祉専門職養成教育への当事者参画に用いられているモデルやアプローチ,戦略  日本における社会福祉専門職養成教育における当事者参画の実践は,エンパワーメントモ デル及びパートナーシップ,または反差別・反抑圧モデルに依拠して行われていた。当事者 参画の実践の依拠する理論・モデルの一つが,エンパワーメントモデル及びパートナーシッ プであることは,社会福祉専門職養成教育における当事者参画の取り組みが進む英国とも共 通している(Robinson2013:935)。反差別・反抑圧モデルについては,当事者の置かれてき た日本の歴史的・社会的状況を反映して,導入されていると考えられる。

(12)

① エンパワーメントモデル及びパートナーシップ

 社会福祉専門職養成教育における当事者参画の実践が依拠する理論モデルの一つは,エ ンパワーメントモデル及びパートナーシップである。久保(2011)は,Butrym(1976)に よる「ワーカーはクライエントに与えるのみならず,クライエントから受ける用意がなけ れば,クライエントにとって本当の援助者とはなりえない」との指摘を紹介し,エンパワー メントに基づく社会福祉専門職養成教育における当事者参画は,これを具現化する試みで あると述べている(久保2011:44)。エンパワーメントモデルでは,当事者を彼らの属する コミュニティの持つ文化やニーズを知り,それを教える者であると位置付けている

(Cox1997:182)。エンパワーメントモデルに依拠する社会福祉専門職養成教育における当 事者参画は,社会福祉専門職が,当事者の知を受け,社会福祉専門職の知を補完していく,

もしくは修正していく反省的実践を発展させていくことを志向した実践であると考えられ る。

 エンパワーメントモデルに基づく当事者参画の効果を評価するにあたっては,いくつか の当事者参画の実践の戦略上の課題があると考えられる。その第一は,当事者参画の実践 が行われる領域を広げることである。社会福祉専門職養成教育において当事者参画が行わ れている領域は,主に授業の領域であった。また,この授業の領域では,当事者は特別講 師の役割が中心であり,教材の企画者や模擬クライエント,共同学生の役割を期待される ことはわずかであった。これに対し,吉村(2011b)は,当事者は養成教育が生み出す人 やモノや人の行為に対して,利害関係をもっており,それ故に養成教育に参画できる権利 を本来もっている存在であるにもかかわらず,援助専門職の養成教育における当事者の位 置づけは総じて補助的なもの,受動的なものにとどまっており,当事者が授業の企画から 運営までの一連の過程や実習生の選抜,入学生や採用する職員の選考に参画することは稀 であると指摘している(吉村2011b)。当事者参画の成果の評価にあたっては,当事者参画 の実践の領域を,実習生の選抜や,入学生や職員の選考,カリキュラム作成など,授業領 域以外にも広げていくこと,授業領域での当事者の役割を,教材の作成や,トレーナー,

ファシリテーターなど,より深く関与しうるものへと拡大し,その評価を行っていくこと が課題である(3)

 第二に,参画する当事者の範囲を広げていくことである。社会福祉専門職養成教育に参 画していた当事者は,セルフヘルプグループのリーダーや,身体障がいや精神障がいのあ る者など,意志表明が比較的可能な当事者であった。意志表明に制約を抱えやすい知的障 害や認知症のある当事者が参画した実践は,少数にとどまっていた(沖倉2003,吉村2011a)。

また,介護者は病気や障がいのある当事者の代弁者や補助者の位置づけで参加している場 合があった。介護者は,病気や障がいのある当事者と葛藤関係にある場合もあり,独立し た一つのグループとして見なされる必要がある(Taylor et al. 2009)。さらに,子どもや若 者の参画した実践は,管見するところみあたらなかった。今後は,認知症者や知的障がい

(13)

者,介護者,子どもや若者などの参画を得て,学生が多様な当事者の知を受けることを学 ぶ機会を得られるようにしていくことが求められる。

 最後に,当事者が社会福祉専門職養成教育に参画することを可能とする要件を整備する ことである。これには,まず,当事者が教育者としての力量を身につけることを助けるこ とが必要である。社会福祉専門職の努力は,クライエントが教育者やオーガナイザーにな ることを,助けることに向けられる(Cox1997:182)。当事者が,コミュニティのニーズ を評価することや,それに照らして社会福祉専門職養成カリキュラムの内容を分析するこ と,教える技術やフィードバックを与える技術,グループで活動すること,ファシリテー ションの技術,リーダーシップなどを身に付けることができる機会を得て,社会福祉専門 職養成教育に参画できるよう支援していくことが重要である。また,認知症や知的障害な どの意思表明などに制約を抱えやすい当事者の授業等への参画は,社会福祉養成教育機関 とコミュニティ内の団体とが協働し,取り組むことが求められる。

② 反差別・反抑圧モデル

 社会福祉専門職養成教育における当事者参画の実践が依拠する理論モデルのもう一つは,

反差別・反抑圧モデルである。日本では,2004(平成16)年に「入院医療中心から地域生 活中心へ」と精神保健福祉施策の転換が図られ,これを推進するにあたって克服すべき課 題の一つとして,精神障がい者に対する国民の理解を深化させ,精神障がい者に対する偏 見を解消することが挙げられた(厚生労働省2009)。この精神障がい者に対する偏見や否定 的認識は,精神科医や精神科看護師などの医療・福祉専門職にも存在しており(中根他 2006:36- 7 ,半澤他2007:125,Stuart et al. 2012=石丸2015:73,高橋2008:374,

Thornicroft 2006=青木他2012:115- 9 ),社会福祉専門職を目指す学生のもつそれを改善 することが,養成教育の課題として認識されるようになっている(新井他2004,幸田2013)。

この精神障がい者に対する偏見や否定的認識の除去には,精神障がい者との接触体験が有 効であることが報告されており(Stuart et al. 2012=石丸2015,Thornicroft 2006=青木他 2012,小池他2015),当事者の参画する授業は,精神障がい者との接触体験を通じて学生の 精神障がい者に対する偏見や否定的認識を改善するための教育方法として実施されている と考えられる。

 この反差別・反抑圧モデルに基づく当事者参画の効果を評価するにあたっては,いくつ かの当事者参画の実践の戦略上の課題があると考えられる。その第一は,より広い範囲の 社会福祉専門職を,この実践の対象としていくことである。社会福祉専門職の精神障がい 者に対する否定的認識の解消に向けた当事者参画の取り組みは,資格取得後に精神保健福 祉領域で活動することが想定される介護福祉士や精神保健福祉士の養成教育課程を中心に 取り組まれていた。精神障がいのある人が地域で生活する際には,社会福祉士や保育士な どさまざまな社会福祉専門職と出会うことになる。精神障がいに対する偏見や否定的認識 を解消する取り組みは,精神保健福祉領域で活動する社会福祉専門職のみならず,より広

(14)

い範囲の社会福祉専門職の養成において実施し,その効果を評価していくことが必要であ る。

 第二に,より広い範囲の当事者の参画を進めていくことである。反差別・反抑圧モデル に依拠した社会福祉専門職養成教育における当事者参画は,精神障がい者に対する否定的 認識の解消を中心に取り組まれてきている。一方,人々の偏見や否定的認識は知的障がい 者の社会参加の障壁ともなっていることが報告されている(米倉2012, 米倉他2016)。また,

認識症への偏見や否定的認識は,本人や家族による認知症の早期発見の障壁になっている との指摘もなされている(小笠原2017)。この知的障がいや認知症への偏見や否定的認識は 社会福祉専門職にも存在する可能性があり,その解消は社会福祉専門職の養成においても 課題であると思われる。今後は,社会福祉専門職の知的障がいや認知症のある当事者に対 する偏見や否定的認識の状況を把握していくとともに,社会福祉専門職の持つ当事者への 偏見や否定的認識の解消に,当事者参画の授業が有効であるのかを検証していくことが求 められる。

⑶ 当事者参画によって得られた効果や成果(評価方法と発見されたこと)

 社会福祉専門職養成教育における当事者参画の効果についての評価は,レベル 1 及びレベ ル 2 において行われていた。レベル 1 で用いられていた評価の方法は,観察法であった。こ れにより,学生及び当事者,スタッフともに,当事者参画について概ね満足していること,

当事者は参画に困難や制約を感じている場合もあることがわかった。当事者やスタッフの認 識についての調査はわずかであり,さらなるデータの蓄積が必要となっている。特に,当事 者の当事者参画への評価は,当事者参画のあり方を検討する上で重要であると考えられる。

 また,レベル 2 で用いられていた評価の方法は,事前事後比較調査法であった。エンパワー メントモデルに基づく当事者参画の実践については,エンパワーメント尺度を用いて,学生 の自己主導的学習態度が,反差別・反抑圧モデルに基づく実践については,スティグマ尺度 や社会的距離尺度などを用いて,学生の当事者への認識や態度が,当事者の参画する授業を 実施する前と後とで変化するかが測定されていた。また,後者については,実験群とコント ロール群の 2 群間で比較されていた。その結果,前者では,身近な人との共有や自主的な学 習活動に肯定的な変化が認められたこと,後者では,当事者の参画した授業で,当事者に対 する個人的態度やステレオタイプ的な否定的認識が軽減することがわかった。当事者の参画 により学生の認識や態度に変化があったかを評価するには, 2 群間で事前事後比較調査を行 うことが必要である。また,レベル 2 では,当事者参画による学生の知識や技術の獲得につ いての効果は,測定されていなかった。当事者参画により,どのような知識や技術が獲得さ れるのか検討し,それを測定する方法を検討していくことが求められる。特に,エンパワー メントモデルに基づく当事者参画の実践では,反省的な実践の技術や態度,知識の習得が志 向されており,それらを測定するための尺度や手法の開発が課題であると考えられる。

 なお,レベル 3 及びレベル 4 の当事者参画の効果を評価しているものは,今回選定された

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文献の中には見当たらなかった。当事者の参画が,学生の行動や実践にどのような影響を及 ぼしているかを評価するための方法を検討していくことが,今後の課題である。

2 .まとめ

 以上,日本における社会福祉専門職養成教育における当事者参画の効果の測定が,どのよ うな理論モデルに基づく実践について,どのような方法を用いて行われ,どのようなことが わかったかを概観してきた。日本における社会福祉専門職養成教育における当事者参画の実 践は,エンパワーメントモデル及びパートナーシップ,または反差別・反抑圧モデルに基づ き,授業領域において進められている。また,当事者参画の効果については,観察法により,

学生及び当事者,スタッフともに当事者参画に概ね満足していること,事前事後比較調査に より,学生の自己主導的学習態度や当事者への認識や態度に肯定的な変化が認められること が判明した。

 当事者参画は,社会福祉専門職養成教育の課題として認識されつつある。2019年 3 月に厚 生労働省から公表された『精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会中間報告書』で は,精神保健福祉士の養成のあり方として,「獲得としての学習」(知識を獲得することによ る学習)から「参加としての学習」(活動への参加による学習)へのパラダイムシフトの必要 性が指摘され,その教育実践の具体例として「当事者の話を聴くこと」が挙げられている(厚 生労働省2019)。当事者参画は,「参加としての学習」を具体化する方法としてますます重視 されていくと思われる。社会福祉専門職養成教育への当事者参画により,学習者の当事者コ ミュニティにへの参加が促進されているか,その成果を検討していくことが求められている。

( 1 )当事者参画は,次のような法律によって政治的課題として提示されている。

   平成28年に改正された障害者基本法は,障害者政策委員会を設置することを定め,その 委員構成について「政策委員会が様々な障害者の意見を聴き障害者の実情を踏まえた調 査審議を行うことができることとなるよう,配慮されなければならない」(第33条)とし ている。また,平成29年に改正された介護保険法は「認知症に関する施策の総合的な推 進他」にあたっては,国または地方公共団体は,「認知症者とその家族の意向の尊重に配 慮するよう努めなければならない」(第 5 条 3 )としている。さらに,平成28年に改正さ れた児童福祉法では,「全て国民は,児童が良好な環境において生まれ,かつ,社会のあ らゆる分野において,児童の年齢及び発達の程度に応じて,その意見が尊重され,その 最善の利益が優先して考慮され,心身ともに健やかに育成されるよう努める」(第 2 条第

1 項)として,児童の意見表明権が規定されている。

( 2 )Kirkpatrick ら(1993)は,理論面からの学習成果についての基本となるモデルを提示 している。この Kirkpatrick の評価モデルのレベル 2 は,認知及びスキル,態度面での

(16)

成果に分けられている。Carpenter(2005,2011)は,この Kirkpatrick の評価モデルを ソーシャルワーク教育に適用し,ソーシャルワーク教育の成果を測定する研究をレビュー することを通じて,認知,知識,スキル,態度,行動,影響の局面ごとに,どのような 測定方法が用いられているか分析している(表 3 )。

( 3 )社会福祉専門職養成教育への当事者参画が法的に定められているイギリスでは,当事 者参画は,実習に出られる学生の選抜や,入学生や採用職員の選考,当事者参画の評価 研究など,より広い領域において行われている(所2010,2012)。

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表 4  社会福祉専⾨職養成教育への当事者参画についての文献の分析結果 No 著者名 教育レベル 参加戦略 評価方法 わかったこと(レベル) 1 久保紘章 ( 1 9 8 3, 1987) 資格取得前 サービス利用者及び介護者が講師として授業に参加し,自身が参加 しているセルフヘルプ グループについて講話 を行う。学生から提出 されたレポートの評価 を行う ① 学生からのフィー ドバック(サンプ ル 数 は 未 記② サービス利用者載)及び介護者からのフィードバック(サンプル数 は未記載) ① 学生は,授業

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