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原著論文

「特別の教科 道徳」に求められるケアリングの視点

高野成彦

大妻女子大学教職総合支援センター

How Can We Practice “Special Subject Morality”? : An Approach from the Viewpoint of Caring

Narihiko Takano

Key Words :「特別の教科 道徳」,「考える道徳」「議論する道徳」,強度,ケアリング

要旨

道徳の「特別の教科」化、すなわち、道徳教育の

〈実質化〉、「考える道徳」「議論する道徳」への〈質 的転換〉により、道徳の指導法の強度が高まる。

「質の高い多様な指導方法」を追求すればするほど、

児童生徒の学び方の違いへの配慮としてのケアリン グの視点が欠かせない。本研究では、その主張を

「特別の教科 道徳」の様々な実践研究を整理・分 析し、ケアリングの視点から再構築した「特別の教 科 道徳」の授業の在り方を描き出すことをとおし て明らかにした。

1 研究の目的

中学校における「特別の教科 道徳」(以下「道 徳科」1)という)が平成

31

年から全面実施される。

「考える道徳」「議論する道徳」へと転換が謳われて いるが、現場の混乱ぶりは、川上(2017)などに よって明らかである。

小学校では、平成

30

年度から道徳科が全面実施 されている。中学校でも、平成

31

年全面実施の移 行期にあり、道徳科についての先行実施の研究の蓄 積が始まっている。そこで、中学校での全面実施を 前に、道徳の理論および道徳の指導法に資する実践 研究の現状を把握し、道徳の理論および道徳の指導 法にケアリング2)の視点が求められることを明らか にしたい。

2 研究の方法

研究対象を道徳科および「考える道徳」「議論す る道徳」に関する文献に限定し、主として道徳の理 論および道徳の指導法に資する実践研究をケアリン グの視点から整理・分析し、ケアリングの視点から 再構築した道徳科の授業の在り方を検討する。

3 〈物語〉と〈強度〉

(1) 〈強度〉

「特別の教科」化による道徳教育の〈実質化〉、加 えての「考える道徳」「議論する道徳」への〈質的 転換〉を〈強度〉ということばで言い表すならば、

矢継ぎ早の教育改革を見据えた、次のような考え方 が省察の視座となる。

 「目標とされる「力」が変わるたびに、それ ぞれの「力」の育成に対応した教育方法に光が 当てられる。それらは、多様化の様相を呈しつ つも、平準化へと収束し、さらには徹底される という形で強度が漸次的に高まっていく。教育 方法の強度が高まれば高まるほどアウトサイ ダーが顕在化し、学校教育の疲弊も増幅する」

(高野、2011 : 250)。

「考える道徳」「議論する道徳」への転換という

〈物語〉においてはどうだろうか。

(2) 「質の高い多様な指導方法」

道徳教育の質的転換を象徴する、「質の高い多様 な指導方法」(イメージ)として、次の

3

つが例示

(2)

されている(道徳教育に係る評価等の在り方に関す る専門家会議、2016)。

①  読み物教材の登場人物への自我関与が中心の 学習

② 問題解決的な学習

③ 道徳的行為に関する体験的な学習

なお、注記として、以下の内容も記されている。

 「これらは多様な指導方法の一例であり、指 導方法はこれらに限定されるものではない。道 徳科を指導する教員が学習指導要領の改訂の趣 旨をしっかり把握した上で、学校の実態、児童 生徒の実態を踏まえ、授業の主題やねらいに応 じた適切な指導方法を選択することが求められ る」(p. 7)。

道徳の「特別の教科」化のきっかけとなったの は、「いじめの問題への対応の充実」である。いじ めにかかわる行為を自分のこととして考えさせる指 導法であるロールプレイング法は、「道徳的行為に 関する体験的な学習」の一つである(森・植松、

2018)。

しかし、「いじめ問題の安易な劇化は、子どもた ちの心を傷つけトラウマとなる危険な側面があるこ とを考慮すべき」(西、2018 : 395)という指摘も ある。このような指摘があるにもかかわらず、「道 徳的行為に関する体験的な学習」をとりあげてみて も、〈強度〉が高まってきている。

(3) 道徳的行為に関する体験的な学習

「道徳的行為に関する体験的な学習」の一例とし て、フィンランドのいじめ予防対策プログラム

「KiVaプログラム」と「子どもの世界で起こる問題 は、可能な限り子ども同士で解決する力を身につけ させることが、将来にわたってよき市民となってい くのに必要である」との考えに基づく「ピア・メ ディエーション」を用いた道徳の授業がある。この 授業を実施したことで、学校環境における適応感で は、友人スキルが向上するだけでなく、向社会スキ ルも向上するという研究もある(福田、2018)。

木下(2017)でも、「道徳的気付きを生むアサー ション活動を取り入れた活動」、すなわち、「『伝え る』ことにより友情関係が崩れてしまうのではない か」という子どもの関心を前提として、実際に伝え て「崩れるのか」「崩れないのか」をシミュレー ションする活動に役割演技の方法が取り入れられて いる。

4 ケアリングという視点

(1) 求められる「配慮」

『中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』

(文部科学省、平成

29

7

月)では、「発達障害等 のある生徒に対する指導や評価を行う上では、それ ぞれの学習の過程で考えられる「困難さの状態」を しっかりと把握した上で必要な配慮が求められる」

(p. 115)とされる。

 例えば、他者との社会的関係の形成に困難が ある生徒の場合であれば、相手の気持ちを想像 することが苦手で字義通りの解釈をしてしまう ことがあることや、暗黙のルールや一般的な常 識が理解できないことがあることなど困難さの 状況を十分に理解した上で、例えば、他者の心 情を理解するために役割を交代して動作化、劇 化したり、ルールを明文化したりするなど、学 習過程において想定される困難さとそれに対す る指導上の工夫が必要である。(文部科学省、

2017 : 115)

しかし、ここでいう「配慮」および「工夫」につ いてはさらなる検討が必要である。学校現場では、

次のような声が聞こえてくるからである。

(2) 叫び

 「言う意味がないと思っていても、言わなけ ればいけない。でも、思いつかない」

  「もっといいことを言わなければ」

  「精神的に追い詰められる」

 「苦手なこと。何で『何で?』って思えるの? 

話を聞いて、資料を読んで、ビデオを見て、疑 問に思ったことを書け。周りが沢山書くとあ せって、さらに書けない」

  「だめだ。こわくて発言できない。

  自信がない。

  おなかいたい。こわい。

  もっとうまく生きられるようになりたい。

  みんなかしこい。」

このような児童生徒を前にして、「考える道徳」

「議論する道徳」はどのようにして可能なのか。そ こで、ケアリングの視点からの省察が求められるの である。

(3)

(3) 「教育学的ケアリング」と「ケアリング教育」

教育の分野で「ケアリング」をとりあげるとき、

「教育学的ケアリング」(pedagogical caring)と「ケ アリング教育」(education of caring)とに峻別され る。

「教育学的ケアリング」(Hult)は教師の器量の向 上に焦点が当てられ、「ケアリング教育」(Noddings)

は児童の器量の向上に焦点化が当てられる関係性の 問いである。したがって、本研究が主題とするの は、「教育学的ケアリング」である。さらに、「ケ ア」は、「指導」との比較で内実がより明らかにな る。

「ケア」は「その子の学習状態を理解して働きか ける認識水準のこと」である。つまり、指導案の配 慮事項が「ケア」であり、指導する内容をどうやっ て 指 導 す る か が「 ケ ア 」 で あ る( 斎 藤・ 高 橋、

2000)。

(4) 「特別の教科」化という精神的状況

グローバル化が急激に進む現代においては、ます ます国家間の競争に巻き込まれるところから、学校 教育においてもルールや決まりをきちんと守らせ、

逸脱や混乱を防ぎ、秩序を確保して安全・安心を実 現するための「規範教育」が要請されるようになっ てきた(蜷川、2017)。

「話し合い活動」を通して、個人の「道徳性」を 育てるとともに、「集団の規範の適正化」を図るよ うな手立て」こそが、道徳の授業の「核心」とさえ 言われる(杉中、2017)。

つまり、「考える道徳」「議論する道徳」 への転換 は、「教師が目指す道徳価値へ子どもたちを「導く」

ことではなく、子どもたちにとっての 「道徳的な問 題」 の 「解決」 を、教師が学級における相互関係の

「規範」 として共有できるかどうかにかかっている といってもよい」(大隅、2017 : 123)。

しかし、規範教育の強度が高まれば高まるほど、

アウトサイダーのケアも要請されることとなる。ケ アの倫理においては、「道徳的普遍主義への違和感」

が生じやすい。そして、この違和感こそが、ケアを 喚起するのである(杉山、2011)。

(5) 省察の視点としてのケアの倫理

本研究が視座に据えるケアリングの視点から、道 徳教育の課題を整理した先行研究によれば、以下の ようになる(池谷、2017)。

① 「脆弱性を抱えた弱い個人」を出発点に据え なければならない。

② 徳の教育に終始してもならないし、「規範教

育」に陥ってもならない。他者不在の空虚な道徳と なり、また他者のニーズや声に耳を傾けたり、応答 したりことをしない道徳に陥るからである。

③ 対面的な関係のなかで、どのようにしたら相 互を損なわない最善のあり方がありえるのかを考え させることを起点とすべきでる。

④ 「ケアされた体験」を思い起こしたり、「ケア されることを学ぶこと」あるいは「大切にされるこ とを学ぶこと」も重要な基礎に据えられねばならな い。

⑤ 相互の尊重にもとづいた対話が、道徳教育の 核に据えられなければならない。

⑥ 学校が「ホーム」として子どもの安心と安全 な場となっていなければならない。

「徳の教育に終始してもならないし、「規範教育」

に陥ってもならない」とある。他者のニーズや声に 耳を傾けたり、応答したりしない道徳教育への警鐘 である。そこで、学びの充実のためのさらなる工夫 が検討されなければならない。

5 「議論する道徳」におけるケアリング

(1) モラル・ディスカッション

「議論する道徳」においては、単に議論の場を設 定すれば活発な議論がなされるわけではない。

野崎・紅林(2016)はいう。「モラル・ディス カッションは、ただのディスカッションではなく、

モラル・ディスカッションである」(p. 51)。ディス カッションがモラル・ディスカッションであるため には、自己と他者を等しく尊重する「正義」の構造 を持ち、多様な声を許容する受容的、了解的なコ ミュニケーションでなければならない。

しかし、「自己と他者を等しく尊重する」という

「正義」の視点の〈強度〉が高まれば、「多様な声を 許容する受容的、了解的なコミュニケーション」と のバランスが問題となる。

(2) 「聞く」活動重視へのシフト

他者のニーズや声に耳を傾け、応答するための工 夫の一つとして、「聞く」活動重視へのシフトがあ る。「『聞く』ことを促す発問」や「聞き合いメモ」

などは、「聞く」ための手立てである(林田・山岸、

2016)。

新谷(2013)もいう。「「互いの見方、感じ方」を 子ども同士で聞きあうことが、「他者を読む」こと にもつながると期待する。この実践を「道徳の時 間」で行うことは、ケアの学びを可能にするであろ

(4)

う」(p. 165)。

グループでの話し合いの際に、班員の意見に対し て「なぜそのように考えたのか」を繰り返し質問 し、考えの根拠を問う〈なんでさん〉という役割を 設定するというのも工夫の一つである(原田・菊 地・佐々木ほか、2016)。

(3) コミュニケーション行為の心情への影響 しかし、「聞く」活動の重視も、「先に発言した人 の意見と自分の意見とがどのような関りがあるのか を話させる」という「つなげる発言」(猪子・山岸、

2017)へと発展するならば、再び〈強度〉が高ま

る。〈強度〉の高まりとともに、ケアリングの視点 も求められることとなる。コミュニケーション行為 によって、「自己肯定感が促進されることもあれば、

損なわれることもある」(作田、2017 : 147)から である。

自己肯定感が損なわれることを恐れるあまり、松 岡(2016)も指摘するように、「ややもすると第三 者的なまなざしの下で意見を述べてしまい、その内 容が評論に過ぎず陳腐なやりとりになることもあ る」(p. 108)。そこで、ファシリテーターとして教 師の在り方は、道徳科においても、強調されなけれ ばならない。

(4) 全員の参加・活動の工夫

第三者的なまなざしの下で意見を述べ、その内容 が単なる評論ではなく、陳腐なやりとりにならない ための工夫も求められる。

たとえば、自分の立場をはっきりさせて考え、議 論させるための「立場カード」という方法がある

(追立・前之園・山口ほか、2018)。

あるいは、「心のものさし」という方法は、読み 物資料の葛藤場面において「もし、あなたならどう するか」と発問をして、「自分だったらこうする」

と自分の立ち位置を決めさせ、それを黒板の「心の ものさし」上に明示させるという方法もある。柔軟 に自分の考えを持ち、表現することを可能にするこ とが「心のものさし」の大きな特徴である(栗本・

石丸、2018)。これは、ユニバーサルデザインにい う、「視覚化」「共有化」という「授業全体での工 夫」にあたる。

しかし、全員の参加・活動という〈強度〉の高ま りとともに、ケアリングの視点が求められることに なる。

(5) PISA 型道徳授業

「二つの意見」を用いた道徳授業は、PISA の読解 リテラシーを育成するための一つの方法でもある。

授業の基本的なパターンは次のとおりである(中 野、2016)。

① 資料を提示する(資料を読み込む)。

② (教師があらかじめ用意した、道徳的価値を 含む)二つの意見を提示する。

③ 相違点や共通点など、二つの意見の関係を考 える。

④ 自分の考えをまとめる。

ここに見られるケアリングの視点は、「自分の考 えが持てない子にとって、考える手がかりがあるこ とになる」という意味において、「授業のユニバー サルデザイン化」にも対応している。

さらに、「討論やディベートのように、相手を論 破することのみに終始するような「つぶしあい」と ならない」という点もケアリングの視点からは重要 である。自分が出した意見を批判されることに抵抗 感のある児童生徒も存在するからである。

6 「考える道徳」におけるケアリング

(1) 道徳科の課題

アクティブ・ラーニングの手法に基づく道徳科の 課題としては、次のような点が挙げられている(齋 藤、2017 : 61)。

① ペアやグループによる話し合いが活発に行わ れるようになったが、道徳的価値や、自他や人間に 対する理解が十分に深まらない。

② 二者択一型の発問により、A

B

かという 二項対立の意見が活発に出るが、他者の考えを自己 の内面に照らして咀嚼して新たな価値観を見出し、

自己の生き方についての考えをより深めるという、

道徳的思考が十分に深まらない。

③ 道徳的価値に対する理解が、表面的な知的理 解に留まり、子供自身が主体者となって、自我関与 させながら道徳的価値や自己の生き方について考 え、それを実生活の中で生かし、活用し、さらなる 自己改革を図る力に繋がらない。

「二項対立の意見が活発に出るが、他者の考えを 自己の内面に照らして咀嚼して新たな価値観を見出 し、自己の生き方についての考えをより深めるとい う、道徳的思考が十分に深まらない」とある。考え をより深めるための工夫の一つとしては、「思考ス キル」の活用もある。

(2) 思考スキル

「思考スキル」とは、「課題を解決するために必要 な、思考する具体的な手順についての知識とその運

(5)

用技法」である。この技法は、児童生徒が思考する 場面において、「単に考えましょう」という漠然と した言葉で考えさせるのではなく、適切な「思考ス キル」を活用して考えを深めさせていくことを支援 するという意味において、「考える道徳」における ケアリングの工夫の一つである。

小学校低学年では

Y

チャートによる「心情追求 型」を中心に、中学年ではピラミッドチャートによ る「価値理解型」を加え、さらに高学年ではコンセ プトマップによる「立場明確型」を加えるという学 年段階に応じた授業スタイルにより、道徳的価値に ついて深く考えることを楽しむ子供が増えたとされ る(西國原・藤谷・京田、2017)。

しかし、「スキル」に制約される〈強度〉の高ま りへも自覚的でなければならない。そこで求められ るのが、カリキュラム・マネジメントである。

(3) カリキュラム・マネジメント

 「いかなる徳も教育可能」とする教育万能論 に陥ったり、定められた方向や内容を無条件に 受容・強制・反復したりするのではなく、教師 自身が道徳教育の限界を念頭に置きつつ、同僚 や保護者、そして子どもと一緒に「道徳」を絶 えず反省的に問い直し、実践してゆくという態 度こそがカリキュラム・マネジメントにつなが る(西野、2017)。

道徳科の〈強度〉を決定付ける要因の一つとし て、道徳授業における行動選択の基盤となる教材観 や指導観、道徳観等を規定する教師の暗黙知の存在 が指摘される(黒羽、2017)。

(4) 他者の悪魔化

たとえば、教材観については、教材に描かれる

「公徳心のない人」の表象を研究した山岸(2017)

によれば、「公徳心のない人」は公徳心教育が理想 とする「気持ちのよい社会」の「維持」や実現を妨 げる存在、その「心」の在り様を改めるべき存在、

自らの欲求の追求を断念して「法やきまり」の遵守 者へと生まれ変わるべき存在、さらには、居てはな らない存在として描かれていたとされる。

道徳的な多様化や選択肢の増大は、存在論的不安 を生み出す。その不安を払拭し、自らの道徳性を維 持するために「他者の悪魔化」(Young)が「道徳 的」に選択されるのである(伊藤、2016)。

(5) ステレオタイプの危険性

藤川(2016)でも、『私たちの道徳』の記述に見

られる、「困っている人」の描写が、わかりやすい ステレオタイプとなっており、「対面コミュニケー ション至上主義」とでも呼ぶべき偏った考え方であ るとされる。

 「相手の表情から相手の考えを読み取ること が苦手な者や対面状況では緊張してうまく自分 の考えを伝えられない者への配慮は見られず、

絵文字や顔文字を駆使して文字でうまく思いを 伝えようとしている者を視野に入れることもで きていない。」(p. 4)

エクスクルージョン(排除)でなくインクルー ジョン(包摂)につながる道徳ということが言われ る。ステレオタイプは、そこに当てはまらない人の 排除につながる。道徳科が目指すべきは、人々の多 様性を前提とし、多様な人々が共生できる社会に貢 献できる人を育てることにある。

(6) 「教材」で低減される強度

藤川(2017)によれば、「モラルジレンマ」授業 や「問題解決型の道徳授業」の批判的検討をとおし て、「考え、議論する道徳」3)の教材に求められる要 件として次の四つの要件が明らかにされている。

① 起きてしまった問題にどう対応するかという ことより、今後起きる可能性のある問題をどのよう にして未然に防ぐのかということを中心に扱うべき である。

② 多くの人が互いに協力しなければ解決が困難 な問題を中心に扱うべきである。

③ 多様な立場からの意見が出される課題を扱う べきである。

④ 教材の内容は短時間で把握できるものとし、

話し合う時間を存分に確保する必要がある。

ケアリングの視点からは、とりわけ、②の要件に 注目したい。この要件のもとでの「討論」において は、個人にかかる〈強度〉の低減が期待できるから である。その要件のもとでは、どのような授業が構 想されるだろう。

7 道徳科の展望

(1) コミュニケーション活動としての討議 渡邉・小林(2017)によれば、〈いのち〉の教育 においては、一般に「共感」や「感動」に回収され がちな「生命尊重」の学習が多いとされる。それへ のアンチテーゼとして、「死と向き合う命の重み」

(6)

について合意を目指して討議する、「死と真正面か ら向き合う授業、学級内での討議を通して自分たち の考えを練り上げる授業」が提案されている。ここ にいう、「学級内での討議を通して自分たちの考え を練り上げる」という点が示唆に富む。

(2) インクルーシブ教育への可能性

道徳的問題の解決を個人に委ねるのではなく、問 題の改善に取り組み続ける共同体を形成することを 目指す授業方法に、「当事者研究的道徳授業」があ る。

「当事者研究的道徳授業」とは、「読み物資料の主 人公を仮想的な『当事者』とし、子どもたちに自分 自身と主人公との間に類似性と程度の差異を認識さ せ、連続線上に自分の位置づけを見出させることを 前提とする方法」(吉田、2015 : 4)をいう。

この授業方法に注目するのは、「それぞれの子ど もの強みを生かし、弱さを支え合う人間関係づくり の力を身につけさせることを目指している」からで あり、さらに言えば、「問題解決の方策に関する視 野を広げるだけでなく、発達障害等からくる道徳性 に関する課題を抱えた子どもたちも参加できる道徳 授業の構想といったインクルーシブ教育への広がり の可能性も示唆している」(吉田、2016 : 78)から である。

(3) 統合的思考の場へ

「ともに同意できる案を探してみないか」と統合 的思考を促す「学び合い」の道徳授業もある。「統 合的思考」とは

A

B

かといった二者択一の考え 方ではないところから、「多様な価値観を認めるこ と」「特定の価値観を押しつけないこと」を念頭に おく道徳科の授業に有効である(阿部、2017)。

「答えが一つではない道徳的な課題」と向き合う

「考える道徳」においては、社会的認知領域理論を 援用すれば、子どもを情報や経験の解釈者として位 置付け、多様な価値観の表出を許容しつつ、議論す ることを目指すという在り方も考えられる(藤井、

2017)。

道徳科でいう「物事を多面的・多角的に考える」

ということを「できるだけ多くの価値規準を見出す 活動」と捉えるならば、対話をとおして、実行する か否かを決める価値規準をできるだけ多く考える

「価値規準発見型授業」も、「討論」による〈強度〉

を低減させる工夫の一つである(假谷園、2016)。

(4) 「思考する道徳」への転換

河野(2017)はいう。「価値観が多様化している 現代社会が必要としている道徳は、一般的な「生き

方のモデル」を「植えつける道徳」ではなく、「生 きるテーマ」を発見するための「思考する道徳」で ある」(p. 2)。それは、以下の

3

点で特徴付けられ る。

①  「〜ねばならない」・「〜であるべき」道徳か ら「〜かもしれない」・「〜でありたい」道徳 への発想の転換

②  「人間の強さや正しさを追及する」道徳から、

「人間の弱さや矛盾を受け容れる」道徳への 転換

③  「問題を解き明かす」道徳から「問題に持ち 堪える」道徳への転換

まさに、② がケアリングの視点である。そこで の現実的な問題は、「人間の強さや正しさを追及す る」道徳と「人間の弱さや矛盾を受け容れる」道徳 の架橋可能性である。

(5) 「探究の共同体」

朝倉(2009)はいう。「傷つきやすい人格を尊重 するケアと、 普遍性をもつ道徳的規範概念を擁護す る道徳教育の架橋の可能性は対話性にある」(p.

40)。

対話を通して作り上げられる「探求の共同体」

(Lipman)のなかで、「考え、対話し、共同で探究 する」ことが目指される哲学対話教育の手法を用い た道徳教育プログラムがある。そこで問われるの は、「「指導する教師」と「指導される子ども」とい う教育関係の力学によって構築されてきた学校での 既存の道徳教育を、教材や教師の役割を問い直すこ とでいかに再構築し得るか」(宇佐美・室井・大森 ほか、2017 : 15)である。道徳科の〈強度〉は、

この問い直しにかかっている。「特別の教科 道徳」

において、ケアリングの視点が求められるゆえんで ある。

8 まとめと残された課題

「特別の教科 道徳」においては、「考える道徳」

「議論する道徳」への質的転換による、道徳の指導 法の〈強度〉が高まることに自覚的な実践が求めら れる。「質の高い多様な指導方法」を追求すればす るほど、児童生徒の学び方の違いへの配慮としての ケアリングの視点こそが欠かせない。

ケアリングの視点は、授業のユニバーサルデザイ ン化にも対応し、インクルーシブ教育に向けてのカ リキュラム・マネジメントの視点としても求められ る。

(7)

本研究では、その主張を、「考える道徳」「議論す る道徳」の様々な実践の整理・分析をとおして、ケ アリングの視点から再構築した「特別の教科 道 徳」の授業の在り方を検討することをとおして明ら かにした。

なお、本研究では、各自治体が作成した道徳に関 する教材・指導資料等については検討しえなかっ た。残された課題である。

〈注〉

1)

『中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳 編』(文部科学省、平成

29

7

月)に「特別の 教科 道徳」について、「(以下「道徳科」とい う。)」(p. 4)と表記されている。

2)

杉山(2012)によれば、「教育においてケア、教 師の教育活動においてケアリングと用いること が妥当」(p. 7)とされている。本研究でも、先 行研究の表記に倣い、「ケアの倫理」、あるいは、

「ケアリング教育」とする。

なお、「教育学的ケアリング」は、Hult(1979)

を参照した。

3)

中央教育審議会答申(平成

26

年)では「考え、

議論する道徳」と表記されているが、『中学校学 習指導要領解説 特別の教科 道徳編』(平成

27

年)では「考える道徳」「議論する道徳」と なった。

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参照

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