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金属錯体−液晶系における新機能探索

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研究チーム報告

【理工学研究部】

金属錯体−液晶系における新機能探索

金属錯体−液晶系研究チーム(課題番号:075001)

研究期間:平成19年4月1日〜平成22年3月31日

研究代表者:安藤 研究員:祢宜田啓史、御園康仁、濱口智彦

【研究成果】

金属錯体の研究として、ジオキソレンを配位子と する金属錯体に関す る 研 究 と、2-mercaptopyridine を配位子とする金属錯体に関する研究の二点につい て重点的に行い、以下の成果を得た。

!

キノノイド を配位子として有する新規のルテニウム錯体の合成 に成功した。特に

o-aminophenol

を配位子とする錯 体については、この錯体がサーモクロミズムを呈す ることを明らかにした。また、これらの錯体のプルー ベダイヤグラム(酸化還元電位の

pH

依存性)を調 べ、O,O-配位と

N,N-配位のキノノイドが与える錯

体の酸化還元挙動への影響を明らかにした。

" 2-

mercaptopyridine

を配位子として有するルテニウム

錯体において、酸化還元により錯体の分子構造が変 化することと、その構造変化が酸塩基の添加によっ て制御可能であることを明らかにした。さらに、こ の構造変化は補配位子によって影響を受けることも 明らかにした。これらの成果は、分子デバイスを構 築するにあたり非常に興味深い物性であり、それら を今後の研究に活かして錯体の新機能開発研究を進 める。

一方液晶の研究として、微粒子分散系や液晶に高 電場を印加した際の物性変化(電気粘性(ER)効 果や光学的性質の変化)、および、液晶にずり流動 を与えた際の構造変化や非線形誘電現象に関する研 究を行い以下の結果を得た。!チオ尿素微粒子をシ リコーンオイルに分散させた系では、比較的大きな

ER

効果が出現し、ある電場強度領域において分散 系は負の誘電率を示す。

"

強誘電性液晶に高電場を 印加すると光の反射率が大きく変化し、自発光する ように見える。#低温からスメクティック

A

相−

ネマティック相と相転移する液晶8CB(octylcyano-

biphenyl)のネマティック相でずり流動を印加する

と、スメクティック構造のゆらぎによる才差運動が

過渡的誘電現象測定で観測される。

$液晶5CB

(pen-

tylcyanobiphenyl)のネマティック相にずり流動を印

加すると、非線形な誘電現象が観測される。これら の結果はいずれも新しく見いだしたものであり、今 後、それぞれの研究を系統的に発展させる。

以上のように、金属錯体系と液晶系に関する研究 を行い、いくつかの興味深い知見が得られた。今後、

これまでの液晶系および錯体系の成果をもとに、液 晶性錯体の構築、液晶を溶媒とした金属錯体の酸化 還元挙動を系統的に研究し、錯体の新機能の発現を めざして研究を展開する。

【発表論文】

“A novel 2-mercaptopyridine-ruthenium complex exhib- iting electrochemically induced linkage isomerization switched on/off by protolysis”

T. Hamaguchi, K. Ujimoto, and I. Ando, Inorg. Chem., 46, 10455-10457(2007).

“Dielectric and electrical properties of electrorheological carbon suspensions”

K. Negita, Y. Misono, T. Yamaguchi, and J. Shinagawa, J.

Colloid Interface Sci. 321, 452-458(2008).

「電子吸引性置換基をもつジオキソレン類を配位子 としたルテニウム錯体の合成と結晶構造解析」

濱口智彦、本村浩一、井上喜政、氏本菊次郎、安藤 功、福岡大学理学集報, 38(1), 19-25(2008).

「新規酸化状態をもつジオキソレンのルテニウムア ンミン錯体の合成」

安藤 功、小川将司、濱口智彦、氏本菊次郎、福岡 大学理学集報, 38(2), 9-15(2008).

―3 1―

(2)

“Synthesis, crystal structure and electrochemistry of a ruthenium complex coordinated with an ambidentate 2- mercaptopyridinato N -oxide ligand”

T. Hamaguchi, Y. Inoue, K. Ujimoto, and I. Ando, Poly- hedron, 27, 2031-2034(2008).

「交流高電場下での強誘電性液晶の光学的性質」

友善由美、祢宜田啓史、福岡大学理学集報

39 (1), 13 -18(2009).

“Rheodielectric study on shear-induced structural change in the smectic-A phase of 4-n-octyl-4’-cyanobiphenyl (8 CB)”

K. Negita and H. Kaneko, Phys. Rev. E 80, 011705 (1-5) (2009).

“Effect of Second-Sphere Coordination 12.Adduct For- mation Behavior of Crown Ethers with Ammine Com- plexes of Ruthenium containing a Protic Ligand of Other Type than Ammine”

I. Ando, Y. Takao, K. Ujimoto, and H. Kurihara, Inorg.

Chim. Acta, 362(14), 4862-4866(2009).

「デンプン/液晶分散系における

ER

効果」

祢宜田啓史、稲益良樹、日本レオロジー学会誌

38, 87-92(2010).

【学会発表】

2007年度:12件 [日本化学会春季年会(3件)、レ オロジー討論会(2件)、液晶討 論会(2件)、錯体化学討論会(2 件)、コロイド界面化学討論会(1 件)、化学関連支部合同九州大会

(1件)、日本化学会西日本大会

(1件)]

2008年度:8件 [液晶討論会(3件)、分子科学討 論会(2件)、日本化学会春季年 会(1件)、熱測定討論会(1件)、 九州コロイドコロキウム(1件)] 2009年度:9件 [液晶討論会(2件)、レオロジー 討論会(2件)、錯体化学討論会

(2件)、日本化学会春季年会(1

件)、分子科学討論会(1件)、化 学関連支部合同九州大会(1件)]

―3 2―

(3)

研究チーム報告

【理工学研究部】

新規機能性高分子複合体の合成研究

機能性高分子研究チーム(課題番号:075006)

研究期間:平成19年4月1日〜平成22年3月31日

研究代表者:松原公紀 研究員:安庭宗久、安東勢津子、古賀裕二

【研究成果】

立体規制されたポリ(ラセミ体ラクチド)の合成プ ロセスの確立と共重合反応の開発

ラクチド(LA)は乳酸が二量化した環状ラクト ンであるが、適切な開始剤を加えることで開環重合 を起こし、生分解性プラスチックとしてよく知られ、

医療用樹脂として利用されるポリラクチド(PLA)

(ポリ乳酸)を与える。本研究では、新たにこれま でに用いられたことのなかったアルミニウム錯体を 開発することにより、通常結晶性のないポリ(ラセ ミ体ラクチド)(PDLLA)が生成するラセミ体ラク チドの重合プロセスを立体規則的に行うことで、高 い結晶性を持つ

PDLLA

の合成法を確立した。

具体的には、サリチルアルデヒド、o-アミノフェ ノールから生成する3座のシッフ塩基をアルミニウ ムアルコキシドに結合させることで、効率的に開始 剤を合成できた。さらにこれを用いたラクチドの重 合を室温下数十時間の穏やかな条件で達成すること に成功した。得られた

PDLLA

は、高い立体規則性 と結晶性を有しており、その溶液の

NMR

測定、固 体の熱測定 お よ び

X

線 回 折 測 定 を 行 っ た 結 果、

PDLLA

の 高 分 子 構 造 の 中 で

PLLA

部 分 構 造 と

PDLA

部分構造がいわゆるステレオコンプレックス を形成し、高い結晶性を保持していることを証明し た。

このアルミニウム開始剤を用いることで、他の環 状ラクトン類(β-ブチロラクトン、δ-バレロラクト ン、ε-カプロラクトン)の重合反応、オリゴメリ化 反応が進行し、対応するポリラクトン、オリゴマー などが室温で速やかに生成することを明らかにした。

この結果を受けて、前述のラセミ体ラクチドとの共 重合反応を試みた。どのラクトンも、ラクチドとの 共重合反応が効率的に進行し、ポリラクチド−ポリ ラクトンブロック(グラジエント)共重合体が生成

することを明らかにした。得られた高分子の溶液の

NMR

測定、固体の熱測定および

X

線回折測定を 行った結果、それぞれの含量が多い場合には、結晶 性の構造が確認され、なかでもラセミ体ラクチドの 重合部位はこれまでの重合と同様、ステレオコンプ レックスを形成していることを明らかにした。今後 更に、アミノ酸、ペプチド、タンパクなどの生理活 性物質を結合させる方法を開発していくことになる。

一方、共重合時にポリラクチドとポリラクトンが ブロック構造を作る機構について、これまで明確な 議論がなされていなかったことを受け、本研究では、

速度論的ないくつかのモデル実験を行い、その機構 を提案することができた。具体的には、ラクチドと ラクトンでは、ラクチドの方が良い求電子剤となり、

ラクチドおよびラクトンと金属アルコキシドとの反 応により生成するラクチルラクテートおよびカプロ エートの求核性はカプロエートの方が高いという逆 転現象が起こっていることを示すことができた。

ポリ乳酸の融解・結晶化挙動の解析

持続可能な植物資源を原料とし、生分解性を示す ポリ乳酸(PLA)は、環境問題の観点から脚光を浴 びている。本研究では、PLAの機能性の向上を目 指し、その基礎となる融解・結晶化挙動について、

熱分析と

X

線解析の手法によって調べた。具体的 には、

!

融解状態から冷却し結晶化する温度や時間、

"結晶化した試料を加熱し融解するときの昇温条件、

#

試料の分子量 を変えて融解・結晶化挙動の解析 を進めた。研究手法として,!新規作製の等温結晶 化用セルと迅速

X

線測定システムを組み合わせて 結晶化過程を解析している点,

"

超高感度の熱分析 装置を用いて結晶化速度を解析している点は他にな い特長で,信頼度の高い従来にない結果を得た。こ の研究によって、PLAは2つの特徴的な等温結晶 化温度で結晶化挙動が不連続に変化し、それに対応

―3 3―

(4)

して融解挙動も不連続に変化すること、即ち、融解・

結晶化挙動が等温結晶化温度に関して3つの温度域 で異なることを明らかにした。その理由について、

!結晶構造の不連続な変化、"結晶の熱的安定性の

不連続な変化 に起因するという解釈を提案した。

従来の研究に比較して、PLAの複雑な融解・結晶 化挙動を系統的に解析し、より整合性のある解釈が できるようになった。

アミノ酸を側鎖にもつポリスチレンの合成研究 アミノ酸やペプチドは様々な生理活性を持ち、物 質に特異的な機能を与えうる。本研究ではアミノ酸 を側鎖に導入したスチレン誘導体を新たに開発し、

そのラジカル重合による高分子化合物の開発研究を 行った。アミノ酸を側鎖に導入することにより、ア ミノ酸のキラリティを利用した材料設計、アミノ酸 残基を高分子上に整列させることによる材料設計、

アミノ酸自身の(酸素透過性などの)特性などを利 用した機能性分子設計が可能であり、既にいくつか の研究が知られている。本研究では新たにスチレン をその高分子骨格に選び、ラジカル重合によって効 率的に高分子を合成する手法を確立した。すなわち、

4−クロロメチルスチレンに種々の

N−Boc

アミノ 酸をエステル結合させ、Boc基の有無に関わらず通 常のラジカル重合法によって重合させることに成功 した。得られた高分子化合物は、詳細な

NMR

解析 によってアミノ酸(特にロイシン、バリン)のキラ リティと水素結合ネットワークによる主鎖構造への 立体誘起が起こっていることを明らかにすることが できた。

溶血活性を抑えた抗菌性ペプチドの開発

インドリシディン(Indolicidin)は分子内にトリ プトファン残基を5つ、アルギニン残基を2つ持ち、

Cathelicidin family

に分類される特徴的な抗菌性ペプ チドとして知られる。グラム陽性菌、陰性菌のどち らに対しても強い抗菌活性を示すものの、血中にお いては赤血球膜を破壊する高い溶血活性を有してお り、薬剤としての可能性はほとんどない。本研究で は、その高い抗菌活性を保持しながらも、溶血活性 を抑えたインドリシディン誘導体の合成と、その活 性残基の特定を行った。9位のトリプトファンをロ イシンに変換した誘導体では、その溶血活性を著し く低下させることができ、さらに20種以上の誘導体

合成により、活性部位となるトリプトファンの役割 について明らかにすることができた。すなわち、4 位と11位のトリプトファンが抗菌活性を維持するた めには必須であり、一方9位と11位のトリプトファ ンの両方が溶血活性のために必須であることが明ら かとなった。この活性部位の違いにより、9位のみ を置換することで、溶血活性を抑え、抗菌活性を維 持することができる。以上の研究により、今後はこ のペプチドをポリ乳酸などに直接連結し、抗菌性ポ リ乳酸などの機能性高分子構築へ展開することがで きる。

発光特性、触媒活性などの機能をもつ金属錯体部位 を導入した高分子の開発

発光部位を導入した高分子化合物は、様々な応用 の可能性を持っており、例えば燐光発光金属錯体は 電界発光も可能であるためディスプレイのための素 子としても期待される。本研究では、有機イリジウ ム錯体を高分子に導入する新たな方法として、事前 に金属部位をモノマーに導入してから重合を行うの ではなく、配位部位をもつモノマーを使った共重合 により、まず高分子配位子を合成し、その後イリジ ウム錯体と反応させることによって適切な量のイリ ジウム錯体を不可逆的に結合させることに成功した。

この高分子配位子には、ビニルピリジンやスチリル ジフェニルホスフィンなどのラジカル重合コモノ マーが有効であり、合成して精製の後、イリジウム 錯体と反応させることができる。これらの研究の成 果として、イリジウムの含量や高分子の重合度によ る発光特性の変化に特徴があることを初めて明らか にすることができた。すなわち、通常の方法で高分 子中に分散させたイリジウム錯体の発光挙動とは異 なり、高分子中の含量が多くなることによってイリ ジウムはその高分子中に局所的に集合するため、容 易に消光を起こし、発光強度が低下することがわ かった。一方で、高い分子量の高分子配位子を用い ると、分子運動量の低下によってイリジウム周りの

「硬い」環境がより「硬く」なり、熱振動などによ る消光が抑えられることがわかった。この高分子発 光錯体を初めて電界発光素子のホスト分子として用 いる試みについても成功している。

―3 4―

(5)

【研究業績】

1.古賀裕二,上野景太,松原公紀.Synthesis and

Luminescence Behavior of Cyclometallated Iridium Complexes Bound to a Phosphine-Containing Polymer Ligand.福岡大学理学集報2

007,37

!

,45‐60.

2.Irie Y, Koga Y, Matsumoto T, Matsubara K. Prepara-

tion of New 2,6-Diamino Anilines and o-Amine- Assisted Cannizzaro Reaction of Glyoxal with the Ani- lines. Eur. J. Org. Chem. 2009, 2243-2250.

3.Matsubara K, Ishibashi T, Koga Y. C-F Bond Cleav-

age Reactions of Fluoroalkanes with Magnesium Re- agents and without Metal Catalysts. Org. Lett. 2009, 11, 1765-1768.

4.Koga Y, Yoshida N, Matsubara K. PL and EL Be-

havior of Near-Red Luminescent Metallopolymer Eas- ily Prepared from Phosphine-Containing Copolymer and Chloro {bis (1-phenylisoquinolinato-N , C

’)} irid- ium (III), and Its Monomeric Analog. J. Polym. Sci. A:

Polym. Chem. 2009, 47, 4366-4378.

5.Koga Y, Matsubara K. Phosphorescent Organic

Light-Emitting Diodes Using an Iridium Complex Polymer as the Solution-Processible Host Material. J.

Polym. Sci. A: Polym. Chem. 2009, 47, 4358-4365.

6.Ando S, Mitsuyasu K, Soeda Y, Hidaka M, Ito Y,

Matsubara K, Shindo M, Uchida Y, Aoyagi H.

Structure-Activity Relationship of Indolicidin, a Trp- Rich Antibacterial Peptide. J. Peptide Sci. 2010, 16, 171-177.

7.Tsuda N, Koba Y, Hatakeyama T, Ando S, Shindo M,

Uchida Y, Aoyagi H. Antibacterial Activity of Short Peptides Based on Pleurocidin and Their Interaction with Phospholipid Membranes. Bull. Chem. Soc. Jpn.

2008, 81(10), 1299-1303.

8.Urakawa H, Yamada K, Komagoe K, Ando S, Oku

H, Katsu T, Matsuo I. Structure-Activity Relationships of Bacterial Outer-Membrane Permeabilizers Based on Polymyxin B Heptapeptides. Bioorg. Med. Chem. Lett.

2010, 20, 1771-1775.

9.Matsubara K, Kurimaru A, Yamanaka M, Hirashima

T, Onishi Y, Murakami E, Kawachi E, Koga Y, Ando S.

Radical Polymerization of Styrene Derivatives Bearing N -free Amino Acid Side Chains, Synergic Effect of

Chirality and Hydrogen Bonding for Stereoselective Polymerization. J. Polym. Sci. A: Polym. Chem. 2010, 48, 5593-5602.

10.Yasuniwa M, Iura K, Dan Y. Melting behavior of

poly (L-lactic acid): Effects of crystallization tempera- ture and time. Polymer 2007, 48, 5398-5407.

11.Yasuniwa M, Sakamoto K, Ono Y, Kawahara W.

Melting behavior of poly (L-lactic acid): X-ray and DSC analyses of the melting process. Polymer 2008, 49, 1943-1951.

―3 5―

(6)

研究チーム報告

【理工学研究部】

液状化中における異方性の変動がもたらす 再液状化現象への影響

再液状化研究チーム(課題番号:095010)

研究期間:平成21年4月2日〜平成22年3月31日(1年間)

研究代表者:山田正太郎 研究員:玉井宏樹

【研究成果】

地震時に地盤が液体状に変化する「地盤の液状 化」は、近年では土木工学や地盤工学分野以外の人 にも広く知られるようになってきた。この液状化が 生じると、その後地盤は圧縮し地盤沈下が生じる。

液状化は密度が低い砂地盤、いわゆる「ゆるい砂地 盤」で生じやすいため、一度液状化が生じ、その後 の圧縮に伴い地盤の密度が高くなると、以前よりも 液状化しにくくなると考えられてきた。しかし、実 際には、比較的小さな揺れで再液状化が生じたとい う事例が多数報告されている。

再液状化現象の調査に併せて、再液状化に関する 研究も古くから行われてきた。最も古い研究は

Finn

et al.によるもので、時代は1

970年まで遡る。Finn

et al.は砂が一度液状化履歴を受けると、密度が増

加するにもかかわらず著しく液状化しやすくなるこ と、すなわち再液状化抵抗が液状化抵抗を大きく下 回ることを、実験的に示した。単純には説明がつか ないこの現象は、この論文を端緒に一躍脚光を浴び、

その後多くの研究者によって実験的に確かめられて きた。一方で、Seed et al.(1977)をはじめ、やは り多くの研究者によって、再液状化の別の興味深い 側面が指摘されている。その指摘とは、液状化履歴 を受けると液状化抵抗が逆に大きくなるというもの である。この一見当たり前ともとれる現象は、液状 化抵抗の増加の程度が、密度の増加だけでは到底説 明がつかないほど甚だしい場合があるという点で面 白さを秘めている。

本研究の狙いは、これら真っ向から対立しかねな い主張は実はどちらも正しいことを実験的に示すと 同時に、なぜ液状化履歴を受けることで液状化履歴 を受ける前よりも液状化抵抗が増したり低くなった りするのかを示すことにあった。本研究では、これ

らのことを明らかにするにあたり、誘導異方性に着 目した。固体物質によっては力を加える方向によっ て固さが異なる性質を持っており、この性質のこと を力学的異方性と呼ぶ。また、物質によっては、塑 性変形を伴う応力履歴に応じて異方性の発達方向が 変化する性質を有しているが、このような性質を誘 導異方性と呼ぶ。砂は誘導異方性を発揮する代表的 な物質であるため、この性質が再液状化抵抗を大き く左右していると考えたのである。

本研究では、実際に、以下のような方法で、その 予想を実験的に確かめることに成功した。まず、砂 供試体を液状化させてから、様々な状態で試験を停 止した。その後、供試体内に発生した過剰な水圧を 消散させてから、異方性の発達状態について調べた。

その結果、液状化中は連続的かつ規則的に異方性の 状態が変動していることを確認することに成功した。

次に、液状化履歴に応じて、様々な異方性の発達状 態にある供試体に対し、再度液状化試験を行うこと で、再液状化のしやすさについて調べた。その結果、

異方性が発達しているほど、ある方向にせん断した 際によりゆるい砂に似た挙動を示すため、液状化し やすいことが分かった。これらの実験結果を通して、

液状化履歴を受けることで液状化前よりも異方性が 顕著に発達する場合には、密度が増加しているにも かかわらずあるせん断方向では極端にゆるい砂に似 た挙動を示すようになるため、液状化抵抗が著しく 低くなることを明らかにした。逆に、液状化履歴を 受けることで液状化前よりも異方性が顕著に低位化 する場合には、いずれの方向にせん断しても非常に ゆるい砂に似た挙動を示さなくなるため、液状化後 の排水時に生じる密度増加だけでは説明がつかない ほどに液状化抵抗は高くなることを明らかにした。

以上に加え、数種類の砂試料に対し同様な実験を

―3 6―

(7)

行うことで、試料によって液状化中の異方性の発達 のしやすさが異なり、このため再液状化抵抗が著し く増減する砂質土もあれば、さほど変化しない砂質 土もあることを明らかにした。

今後は、これらの成果が基となって、実地盤の液 状化のしやすさの判定が、再液状化の観点から行わ れるようになることを期待している。

【研究業績】

1.Yamada, S., Takamori, T. and Sato, K. (2010): Ef-

fects on reliquefaction resistance produced by changes in anisotropy during liquefaction, Soils and Foundations, Vol.50, No.1, pp.9-25.

2.山田正太郎,高森智子,松元真美,佐藤研一

(2010):再液状化抵抗の変動のしやすさに与 える粒度および粒子形状の影響,第62回土木学 会年次学術講演会講演概要集(印刷中). 3.高森智子,山田正太郎,佐藤研一(2010):物

理特性の異なる2種類の砂質土の誘導異方性お よび再液状化抵抗の変動のしやすさの比較,第 45回地盤工学研究発表会講演概要集(印刷中). 4.椎名拓允,山田正太郎,佐藤研一(2010):初

期異方性を有する砂の液状化挙動に及ぼす主応 力方向の影響,第45回地盤工学研究発表会講演 概要集(印刷中).

5.高森智子,松元真実,山田正太郎,佐藤研一

(2010):異方性の発達のしやすさの違いが再 液状化現象に与える影響,平成21年度土木学会 西部支部研究発表会講演概要集,pp.409‐410.

6.松元真実,高森智子,山田正太郎,佐藤研一

(2010):再液状化現象に与える粒度および粒 子形状の影響,平成21年度土木学会西部支部研 究発表会講演概要集,pp.411‐412.

7.Yamada, S., Takamori, T. and Sato, K. (2009): Ef-

fect of variation of stress-induced anisotropy during liquefaction on reliquefaction, Proc. of the 17th In- ternational Conference on Soil Mechanics and Geotechnical Engineering, pp.320-323.

(平成21年 度地盤工学会国際会議若手優秀論文賞受賞)

8.高森智子,山田正太郎,佐藤研一(2009):異 方性の発達のしやすさの違いが液状化抵抗の変 動のしやすさに与える影響,第62回土木学会年

次学術講演会講演概要集,pp.319‐320.

9.山田正太郎,佐藤研一,高森智子(2009):液 状化中に生じる異方性の変動に関する一考察,

第44回地盤工学研究発表会講演概要集,pp.329

‐330.

10.高森智子,山田正太郎,佐藤研一(2009):粒 度組成の違いが再液状化のしやすさに及ぼす影 響,第44回地盤工学研究発表会講演概要集,

pp.

327‐328.

11.山田正太郎,佐藤研一,高森智子(2009):液 状化履歴に伴う液状化抵抗の低下メカニズム,

第30回土木学会地震工学研究発表会報告集,

Vol.

30,CD-ROM.

12.高森智子,山田正太郎,佐藤研一(2009):異 方性の発達のしやすさの違いが再液状化挙動に 及ぼす影響,第30回土木学会地震工学研究発表 会報告集,Vol.30,CD-ROM.

―3 7―

(8)

研究チーム報告

【生命科学研究部】

合成脂質のリポ蛋白新生作用を介した神経障害および 動脈硬化進展への抑制作用の検討

合成脂質とリポ蛋白研究チーム(課題番号:076004)

研究期間:平成19年4月1日〜平成22年3月31日

研究代表者:上原吉就 研究員:馬場康彦、山田達夫、井上展聡

【研究成果】

[背景および目的]

コレステロールの高値が心血管疾患のリスクを増 加させることは誰もが疑う余地のない事実であるが、

善玉コレステロールと呼ばれている高比重リポ蛋白

(HDL)コレステロールの低値もまた、低比重リ ポ蛋白(LDL)コレステロールの高値以上に心血管 疾患のリスクを増加させることが多くの疫学研究や 臨床研究によっても明らかにされている。HDLは、

末梢細胞に沈着したコレステロールを引き抜き肝臓 へ運び、胆汁として体外に排出する。その一連の作 用をコレステロール逆転送系(RCT系)とよばれ る。健常人では、末梢細胞への

LDL

などによるコ レステロールの運搬と

HDL

による引き抜きは適度 なバランスをとっているが、低

HDL

血症者は、そ の作用が減弱しており、動脈硬化が進展し、冠動脈 疾患(CAD)を発症すると考えられている。1999 年には、ATP-Binding Cassette Transporter(ABC)A1 が家族性

HDL

欠損症の1つであるタンジール病の 原因遺伝子として同定され、これがコレステロール を細胞外へ輸送することにより

HDL

が形成され、

細胞の余剰コレステロールを排出していることが判 明した。一方、2004年になり

ABCG1遺伝子過剰発

現細胞では

HDL

依存性のコレステロール引抜き能 が 上 昇 す る こ と が 報 告 さ れ

ABCG1、ABCG4も ABCA1と同様にコレステロール逆転送系の一翼を

担っている可能性が示唆する報告があった。これら 膜輸送体はいずれもコレステロール引抜き作用に関 与しているが、それぞれその関与は相違点があると 考えられている。アポ

AI

によるコレステロール引 き抜きに関連する

ABCA1が主に HDL

新生という 役割を担っているとすると

ABCG1,ABCG4は新生

された

HDL

を介してコレステロールを汲み出すと

いったコレステロール逆転送系の初期ステップとし て動脈硬化進展に最も重要な役割を担っている可能 性がある。仮に同じ

HDL

新生が起き た と し て も

ABCG1経路が活性化されていればより多くのコレ

ステロールを動脈硬化巣や神経細胞から引き抜く可 能性を示唆する事となる。細胞内コレステロールは アポ

AI

依存性に引き抜かれることが解明されてい るが、このアポ

AI

やアポ

AI

類似ペプチドあるい は ア ポ

AI

と リ ン 脂 質 複 合 体 で あ る 合 成 脂 質 は

ABCA1以外の経路を介して細胞内コレステロール

を引き抜く事が予測される。このことはこの合成脂 質が

HDL

新生作用を持つことを示唆している。ま たこの合成脂質は循環血中で他のリポ蛋白との相互

作用で

HDL,native-LDL

の新生に関わっているこ

とも予測される。そこで、本研究の目的はアポ

AI

やアポ

AI

とリン脂質複合体である合成脂質と脂質 正常者および末梢神経障害を発症した家族性

HDL

欠損症(タンジール病)患者における脂質輸送体お よび

HDL

代謝との関連性を明らかにし、将来の新 たな治療ストラテジーを構築することである。

[方法]

(A) Cholesterol Efflux−

ヒト抹消血中より

Lymphoprep

!を用いて単核球を分離したあと、プラ

スチック接着法を用いて接着単球を単離して、さら に1週間培養することによって成熟したヒト単球由 来マクロファージを得る。脂質正常者および家族性

HDL

欠損症(タンジール病)患者から上記方法に より単球由来マクロファージを培養して、24時間放

射線(

H)ラベルしたコレステロールを取り込ませ

た後に

ApoA-I

および合成脂質(POPC/ApoA-Iディ

スク)をインキュベーションし、それぞれの特異的

Cholesterol Efflux

を測定する。

―3 8―

(9)

(B)

血中脂質特殊解析− 新規に開発・確立し たキャピラリー電気泳動法を用いて脂質正常者およ びタンジール病患者血漿のリポ蛋白プロファイリン グを行う。ApoA-Iおよび合成脂質(POPC/ApoA-I ディスク)を脂質正常者およびタンジール病患者血

漿と

in vitro

にて37℃インキュベーションして

HDL

および他のリポ蛋白への影響をキャピラリー電気泳 動法(同上)にて解析検討する。

[結果および考察]

(A)

脂質正常者および家族性

HDL

欠損症(タン ジール病)患者のヒト抹消血中より分離した接着単 球を培養後、得られたヒト単球由来マクロファージ において、24時間放射線(

H)ラベルしたコレステ

ロールを取り込ませた。ApoA-I存在下での特異的 な

Cholesterol Efflux

は健常者マクロファージでは約 2.5倍増加したが、ABCA1遺伝子変異を持つタン ジール病患者マクロファージでは、ApoA-I特異的 な

Cholesterol Efflux

は全く欠損していた(図1A)。 しかしながら、興味深いことに合成脂質(POPC/

ApoA-I

ディスク)存在下での特異的な

Cholesterol

Efflux

はタンジール病患者マクロファージにおいて

も健常者マクロファージと同等に認められた(図1

B)

。この結果は

ApoA-I

ABCA1を介してコレス

テロールを引き抜くのに対して、合成脂質(POPC/

ApoA-I

ディスク)が

ABCA1以外の経路からも細胞

内コレステロールを引き抜くことを示唆している。

さらなる検討では、この合成 脂 質(POPC/ApoA-I ディスク)が

ABCG1あるいは ABCG4を過 剰 発 現

させた細胞において、細胞内コレステロールを有意 にかつ強く引き抜いていた(data not shown)ことか らも、この合成脂 質(POPC/ApoA-Iデ ィ ス ク)が 少なくとも

ABCG1および ABCG4経路を介して細

胞内コレステロールを引き抜いていることを示して いる。(図2)

(B)

キャピラリー電気泳動法による新規血漿リ ポ蛋白解析では、脂質正常者(NL)において

HDL

は通常少なくとも3つのピークとして認められる

(図3Aピ ー ク1,2,3)。一 方、家 族 性

HDL

欠損症患者(TD)では、HDLの2つのピークは完 全に消失していた(図3B-aピーク1,2,3)。 さらに、apoB含有リポ蛋白の除去後つまり

HDL

分 画のみを単離した血漿(図3B-b)に合成脂質(POPC

/ApoA-I

ディスク,500

µg/ml)を投与することによ

り、図3B-cのごとくピーク3−6のリポ蛋白亜分 画の出現が認められる。これらの亜分画が合成脂質 自体のものであると考えられる。次に家族性

HDL

欠損症患者血漿に合成脂質(POPC/ApoA-Iディス ク;250,500

µg/ml)を3

7℃にてインキュベーショ ンすると時間および用量依存性にピーク3,7亜分 画が増加した(図3C-a,

b, c, d, e, f)

これらの結果は、合成 脂質(POPC/ApoA-Iディ スク)の投与により

HDL

なかでも脂質含有量の少 な い プ レ

β HDL

様 の

HDL

分画を産 生 し て い ることを示している。ま た産生された大量のプレ

βHDL

様 の 小 粒 子

HDL

が、

LDL

VLDL

などの 他のリポ蛋白と相互作用 し て 正 常 荷 電 を 持 つ

LDL

つまりnative-LDLを 形成していくと考えられ た。

図1.脂質正常者および家族性HDL欠損症(タンジール病)患者の末梢血単球由来マクロファー ジにおけるApoA-I、合成脂質(POPC/ApoA-Iディスク)のCholesterol Effluxへの作用。

―3 9―

(10)

図2.HDL代謝における合成脂質(POPC/apoA-Iディスク)の予想される機能

apo, apolipoprotein; rHDL, reconstituted HDL; POPC, 1-palmitoyl-2-oleoylphosphatidylcholine; ABC, ATP-binding cassette transporter; CE, cholesteryl ester; TG, triglyceride

―4 0―

(11)

図3.脂質正常者(NL)および家族性HDL欠損症(タンジール病)患者(TD)のキャピラリー電気泳動 法による血漿リポ蛋白解析。

ピーク1:fast(fHDL)、ピーク2:intermediate(iHDL)、ピーク3:slow(sHDL)、ピーク4:fast VLDL

(fVLDL)、ピーク5:VLDL/IDL fraction(sVLDL)、ピーク6:fast(fLDL)、ピーク7:slow(sLDL)、ピー ク8:minor LDL(mLDL)fraction。

TRL:triglyceride rich lipoprotein;中性脂肪高含有リポ蛋白

―4 1―

(12)

合成脂質(POPC/ApoA-Iディスク)は、HDL代謝 の初期段階には、ABCG1や

ABCG4脂質輸送体を介

して幼若

HDL

の形成が可能であり、一方では形成 さ れ た リ ポ 蛋 白 と 相 互 作 用 し て プ レ

β

様 小 粒 子

HDL

を形成し

native-LDL

の産生を含め、リポ蛋白の

正常化を促進する物質であることが明らかとなった。

これらの知見は、合成脂質が脂質代謝異常、動脈 硬化関連疾患や神経変性疾患への今後の新たな治療 方向性の1つとなり得る可能性が示された。

参考文献

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11

Zhang, B., Uehara, Y., Hida, S., Miura, S., Rainwater, D. L., Segawa, M., Kumagai, K., Rye, K. A.

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12

Okamura, K., Miura, S., Zhang, B., Uehara, Y., Matsuo, K., Kumagai, K. and Saku, K., Ratio of LDL-to HDL-associated platelet-activating factor acetylhydrolase may be a marker of inflammation in patients with parox- ysmal atrial fibrillation, Circ J, 2007, 71: 214-219.

13

Matsuo, Y., Miura, S., Kawamura, A., Uehara, Y., Rye, K. A. and Saku, K., Newly developed reconsti- tuted high-density lipoprotein containing sphingosine-1- phosphate induces endothelial tube formation, Athero- sclerosis, 2007, 194: 159-168.

14

Uehara, Y., Miura, S., von Eckardstein, A., Abe, S., Fujii, A., Matsuo, Y., Rust, S., Lorkowski, S., Assmann, G., Yamada, T. and Saku, K., Unsaturated fatty acids sup- press the expression of the ATP-binding cassette trans- porter G1 (ABCG1) and ABCA1 genes via an LXR/RXR responsive element, Atherosclerosis, 2007, 191: 11-21.

―4 2―

(13)

研究チーム報告

【生命科学研究部】

インスリン抵抗性糖尿病の発現機構の解明と 新規治療薬の開発

インスリン抵抗性糖尿病研究チーム(課題番号:076006)

研究期間:平成19年4月1日〜平成22年3月31日

研究代表者:高野行夫 研究員:岩崎克典、江頭伸昭、斎藤 亮、高崎浩太郎(平成21年3月脱退)

【研究成果】

$

研究の目的と背景

糖尿病は、脳血管障害、神経障害による疼痛、脳 機能の障害による記憶の低下など多くの合併症を引 き起こし、社会問題にもなっている。最近、2型糖 尿病による血糖値の上昇を抑えるための血糖降下剤 が開発されたが、それだけでは改善できないインス リン抵抗性糖尿病が増えてきたことも事実である。

本研究では、新規治療薬の開発を目指し、以下の点 に焦点を合わせて研究を遂行した。

!

インスリン抵抗性糖尿病が脳の神経膜(マイク ロドメイン)に及ぼす影響を調べ、アルツハイマー 病などの神経変性疾患との関連を明らかにした。

"

糖尿病モデル動物に食塩負荷し、循環器機能へ

の影響を検討した。

#

糖尿病による神経障害と神経因性疼痛の仕組み を解明し、疼痛緩和への新たな治療法を考察した。

%

研究成果

!

空間記憶障害の評価ならびに中枢インスリンシ グナルの変化

多くの疫学的研究により、2型糖尿病がアルツハ イマー病の発症リスク上昇に関与していることが報 告されている。また、インスリンシグナル伝達機構 が

の蓄積に関与していることや、認知機能が糖 尿病の病態である高グルコース、高インスリン、イ ンスリン抵抗性と関連しているとの報告もある。し かし、糖尿病がアルツハイマー病を加速することを 実証した動物実験は少なく、中枢におけるグルコー ス、インスリン、インスリンシグナルに関しても不 明な点が多いのが現状である。

本研究では、糖尿病がアルツハイマー病の加速因 子となり得るかを実験的に検証した。実験にはイン スリン抵抗性、耐糖能異常を発症した2型糖尿病モ

デル動物である

GK

ラットに

を脳室内投与し、

空間認知機能に及ぼす影響を検討した。

Aβ(1−4

0)と

Aβ(1−4

2)を10:1の割合で

混合し、37℃で2.5時間インキュベートし、

oligomeric Aβ

とした。この

oligomeric Aβ

GK

ラットおよび

Wistar

ラットの両側脳室に7日間投与し、翌日から

水迷路課題を9日間行ない、その2週間後に、3日 間の再生試行を行なった。生化学的検討として脳脊 髄液中のグルコース、インスリン濃度、インスリン 10

U/kg

を静脈内投与した時の前頭皮質におけるイ

ンスリンシグナル関連タンパクを定量した。

GK

ラットに

を投与した群は、対照に比べプ ラットホームへの到達時間が有意に延長した。同様

の条件で

Wistar

ラットに

A β

を投与した群の到達時

間は差がなかった。GKラットは

Wistar

ラットと比 較し、脳脊髄液中のグルコース濃度が有意に高く、

インスリン濃度は低い傾向を示した。このとき

GK

ラット前頭皮質の

phospho glycogen synthase kinase3 β

の発現割合は

Wistar

ラットと比較して低かった。

GK

ラットに

を投与した群は、空間記憶が障 害された。しかし、Wistarラットではその障害は認 められなかった。生化学的な検討から、GKラット は脳内で高グルコース、低インスリン、インスリン 抵抗性を発現していることが示唆された。これらの 結果は、糖尿病がアルツハイマー病を加速させるこ とを示唆している。

"

末梢血管への影響

糖尿病が循環器障害を引き起こすことはすでに報 告されている。本研究では、インスリン抵抗性、耐 糖能異常を発症した

GK

ラットに食塩負荷して、循 環器機能への影響を検討した。特に、血圧変化に関 連する腸間膜動脈を摘出し、その弛緩・収縮反応を 検討した。

―4 3―

(14)

GK

ラットに食塩を負荷すると、正常ラットに食 塩付加した群に比べ、血圧は著しく上昇した。さら にアセチルコリンによる腸間膜動脈の弛緩反応は、

正常動物に比べに著しく減弱した。その減弱には、

血管内皮由来の

EDHF

が関与していた。以上の結 果は、糖尿病患者さんが過剰に食塩を摂取すると、

血管障害から高血圧を加速させることを示唆してい る。

!

神経因性疼痛

ストレプトゾトシン(STZ)誘発性糖尿病マウス で、機械刺激による痛覚閾値の低下(過敏症)と神 経因性疼痛の特徴であるアロディニアが観察された。

熱刺激に対しては、過敏反応は認められなかった。

この機械刺激による閾値の低下とアロディニアは、

α2受容体作動薬の clonidine

の脊髄内くも膜下投与 によって改善された。この

clonidine

による改善効 果は、α受容体拮抗薬の

yohimbine

で有意に阻害さ れ、さらに、ムスカリン受容体拮抗薬の

atropine

や ムスカリン

M1受容体拮抗薬の pirenzepine

のくも 膜下投与でも阻害された。しかし、M2受容体拮抗 薬 の

methoctoramine

M3受 容 体 拮 抗 薬4-DAMP

では阻害されなかった。

以上の結果から、STZ誘発性糖尿病モデルマウ スで、clonidineのくも膜下投与による抗アロディニ ア作用には、脊髄の

M1受容体の関与が明らかと

なった。α2受容体作動薬および

M1受容体作動薬

が糖尿病等の神経因性疼痛に対する鎮痛薬としての 可能性を示唆する。

本研究をの遂行を熱心にサポートしてくださった 大学院生に心より感謝します。

【主な研究業績】

1)Aldosterone-sensitive NTS neurons regulate sensi-

tivity of the baroreceptor reflex in high-sodium loaded rats.

Masuda T, Hirabara Y, Nakamura Y, Chishaki A, Tsu- ruhisa M, Miyakawa M, Honda K, Saito R, Sakamoto H, Kawata M, and Takano Y, J. Pharmacol. Sci. 112, 482-486. (2010)

2)神経障害性疼痛におけるミノサイクリンの抗ア ロディニア作用,秋元 望,本多健治,松本恵理 子,川田哲史,右田啓介,牛島悠一,高野行夫,

日本ペインクリニック学会誌17,10‐16(2010)

3)New topics in vasopressin receptors and approach to

novel drugs: Involvement of vasopressin V1a and V1b receptors in nociceptive responses and morphine- induced efects. Honda K, Takano Y, J. Pharmacol. Sci., 109 38-43 (2009)

4)脊髄内痛覚伝達系のムスカリン受容体

本多健治,高野行夫,生体の科学,60

pp

404‐405

(2009)

5)Modulation of P2X receptors in dorsal root ganglion

neurons of streptozotocin-induced diabetic neuropathy.

Migita K, Moriyama T, Koguchi M, Honda K, Katsur- agi T, Takano Y, et al.: Neurosci. Lett. 452: 200-203 (2009).

6)Mice lacking ganglioside GM3 synthase exhibit

complete hearing loss due to selective degeneration of the organ of corti.

Yoshikawa M, Go S, Takasaki K, et al.: Proc. Nat.

Acad. Sci. 106 (23): 9483-9488 (2009).

7)Decreased acetylcholine release is correlated to

memory impairment in the Tg2576 transgenic mouse model of Alzheimer’s disease.

Watanabe T, Yamagata N, Takasaki K, Sano K, Hayak- awa K, Katsurabayashi S, Egashira N, Mishima K, Iwasaki K. et al.: Brain Res. 1249: 222-228 (2009).

8)The spinal muscarinic m 1 Receptors and GABAA

receptors contribute to the McN-A-343-induced anti- nociceptive effects during thermal stimulation of mice.

Honda K, Horikawa K, Ando S, Koga K, Kawata S, Migita K, Takano Y, J. Pharmacol. Sci., 108: 472-479 (2008).

9)Rats harboring S284L Chrna4 mutation show at-

tenuation of synaptic and extrasynaptic GABAergic transmission and exhibit the nocturnal frontal lobe epi- lepsy phenotype.

Gang Zhu, Okada M, Yoshida S, Ueno, Mori, Takahara T, Saito R, Miura Y, Kishi A, Tomiyama M, Sato A, Kojima T, Fukuma G, Wakabayashi K, Hase K, Ohno H, Kijima H, Takano Y, et al., J. Neuroscience, 28:

12465-12476 (2008).

10)A high-sodium diet in streptozotocin-induced dia-

betic rats impairs endothelium-derived hyperpolarizing

―4 4―

(15)

factor-mediated vasodilation.

Hirabara, Y, Araki, M, Fukuda, M, Katafuchi, S, Honda, K Saito, R, and Takano, Y, J. Pharmacol. Sci., 104: 402-405 (2007).

11)疼痛試験法の実際

本多健治,高野行夫,日本薬理学雑130,39‐44

(2007)

12)国際特許名称;麻薬性鎮痛剤の耐性形成抑制、

国際公開番号;WO2006/070742

A1、発明者;

辻本豪三、高野行夫、本多健治、田上明人

【主な学会発表】

1)Involvement of brain insulin resistance and learning

and memory disturbances in an animal model of Al- zheimer’s disease. Shimizu Y., et al., 2007.11.5. Neu- roscience meeting, San Diego

2)モルヒネ鎮痛、耐性、依存におけるバソプレシ ン受容体の関与 本多健治、高野行夫 第81回日 本薬理学会年会シンポジウム2008年3.17‐19 3)A high sodium diet in streptozotocin-induced dia-

betic rats impairs cardiovascular regulation and EDHF- mediated vasodilation, Y. Hirabara, et.al., 2007.11.5.

Neuroscience meeting, San Diego

4)Mechanism of neuropathic pain in the spinal cord

Y. Takano

Invaited Lecture in Medical School Pamukkale Uni- versity, Denizil, Turkey 2009. 5. 20

5)The association with P2X2 and P2X3 receptors in

dorsal root ganglion on streptozotocin-induced dia- betic neuropathy

K. Migita, et. al.

Neuroscience meeting 2009 Chicago, 2009. 10. 17- 21

―4 5―

参照

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