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取引アプローチと評価アプローチの 意義に関する一考察

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Academic year: 2021

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(1)

は じ め に

本 論 文 で は,ま ずMa and Hopkins[1988]の 主 張 を 中 心 に,Grinyer and Russell[1992]による批評や,私見も交えて買入のれんと自己創設のれんの 会計理論を検討する。そのなかで取引アプローチと評価アプローチの特徴を 明らかにする。さらに本論文の後半では,無形資産の会計処理を考慮に入れ て2つのアプローチをどのように適用するのかという問題を考察することに したい。

のれんの本質に関するMa and Hopkins[1988]の主張

会計学において,古典的な取得原価主義の枠組みのもとで未解決の謎の一 例が,のれんの計算および報告であるといわれる(1)。Ma and Hopkins[1988]

は,のれんの本質を!自己創設のれん(g)"買入のれん(G1)[被買収会 社が自律的な企業実体として営業を継続すると期待される場合]#買入の れん(G2)[被買収会社の営業の全部あるいは一部が,より大きな企業集団 に統合される場合]の3つの状態に分類して考察している(pp.7780)

取引アプローチと評価アプローチの 意義に関する一考察

―― のれんの会計処理を手がかりに ――

池 田 健 一

−25−

( 1 )

(2)

! 自己創設のれん(g)

株主の観点から,たとえばゴーイング・コンサーンとしての会社Yの企 業価値(Vy)は,Y社から期待される将来の利益流列を,その危険性を反 映する率(ry)で割引いた現在価値として理解できる。この企業価値(Vy)

は,次のような構成要素に分解することができる。

(a)Y社の識別可能な有形および無形の純資産の公正価値の総額(NFVy)

(b)Y社を動的システム(S1)とみなす場合,Y社の諸資産の相互作用お よび,その他のサブシステムから期待されるシナジーから生じる便益の 現在価値。

ここで,その他のサブシステムとは,プロダクト・ライン,生産組織,マー ケティング組織,財務組織など,企業の経営活動上のオペレーショナルな実 在のすべてを意味するものと解釈される。

(c)Y社を開放システム(S2)とみなす場合,Y社と環境との相互作用か ら期待されるシナジーから生じる便益の現在価値。

ここで自己創設のれん(g)は,(Vy)と(NFVy)との差額として計算す ることができる。また,それは(S1)と(S2)の合計としても計算できる。

g =Vy−NFVy

=S1+S2

Ma and Hopkins[1988]は,自己創設のれんはシナジー(S1)と(S2)が,

営業活動のプロセスにおけるY社の諸資産から生じるか,あるいはさもな ければ営業活動のプロセスにおけるY社の諸資産に関連しているという意 味で経済的意義を持つと述べている(p.77)

また彼らは,このようなのれんを発生させるシナジーと,のれんの数値を 計算するために,その公正価値が用いられる識別可能資産の間のつながりが,

内部成長企業の場合には見られるが,買入のれんの場合は常に見られるとは

−26−

( 2 )

(3)

限らないと指摘する(p.78)。ここで上述の計算式から明らかなように,自 己創設のれん(g)は,主観的価値(Vy)と特定日の市場価値に基づく金額

(NFVy)の差額であるため主観的価値であり,主観的価値の記録および報告 を避ける,どのような会計学上の枠組みの一部にもなり得ないとされている。

! 買入のれん(G1)

買入のれんの会計処理について会計担当者は,まるで買収後も被買収会社 が自律的な企業実体として営業活動を継続すると考えるかのような取扱いを してきたといわれる。ここで買収会社X社と被買収会社Y社の双方が,被 買収会社の将来利益の金額,時期および確実性について同等の期待を持つ場 合,買収価格は(Vy)に等しいか,(Vy)に近似すると考えられる。それゆ えに(G1)の測定は自己創設のれん(g)と等しいか,(g)に近似する。

G1=P−NFVy

≒Vy−NFVy

≒S1+S2

なお(P)は,被買収会社Y社に支払われた買収価格である。前述のよう に伝統的会計実務の暗黙の前提は,被買収会社Y社が買収後も自律的な企 業実体として営業活動を継続しており,買収会社X社とは全く相互に影響 し合わないので,買収の結果としての新たなシナジーは全く生じないという ものである。

Ma and Hopkins[1988]は,上述のような場合は買入のれん(G1)に,

自己創設のれん(g)と類似する経済学上の解釈を与えることが可能である とする一方,買収会社X社と被買収会社Y社が被買収会社の将来収益につ いて同等の期待を持たない場合は(P)と(Vy)が著しく異なる可能性があ り,(G1)と(g)も著しく異なるだろうと述べている(p.79)

取引アプローチと評価アプローチの意義に関する一考察(池田) −27−

( 3 )

(4)

! 買入のれん(G2)

近年の経済環境は,被買収会社の営業活動が買収後も自律性を維持すると いう伝統的会計実務の前提よりも,むしろ買収後に企業内部でシナジーが生 じ,被買収会社の買収前の営業活動に関連する利益が買収後は独立して識別 できない場合とよく適合しているとも考えられる。Ma and Hopkins[1988]

は,ある会社X社が別の会社Y社を買収するための交渉を行っているもの と仮定する場合,Y社の観点からY社株主にとって受入可能な最低限の買 収価格は(Vy)であると述べている(p.79)。その理由として買収会社X の観点から,Y社買収後に拡大された企業集団(以下,XoYと示す)との 関連で新しいシナジーが生じると期待できることを指摘している。

ここでMa and Hopkins[1988]は,このような新しいシナジーを第2レ ベルの相互作用と呼んで,前述の自己創設のれんにおける第1レベルのシナ ジー(S1)(S2)とは区別して,次のように説明している(p.79)

(d)Y社の諸資産およびその他のサブシステムと,X社の諸資産およびそ の他のサブシステムの相互作用から生じるシナジーによる便益の現在価 値(S3)

(e)Y社の買収から生じるシナジー,たとえば供給源や販路のコントロー ルや多角化によるX社の利益に関するリスクの削減などの便益の現在 価値(S4)

(f) 拡大された企業集団(XoY)と環境との相互作用から生じるシナジー による便益の現在価値(S5)

しかしMa and Hopkins[1988]は,第2レベルの相互作用のシナジー(す

なわちS3からS5)は,第1レベルのシナジー(すなわちS1S2の全体)

と重複する可能性があり,場合によっては代替的でさえあるため,どのよう な方法によっても合計することはできないと指摘しているのである(p.79)

−28−

( 4 )

(5)

! Ma and Hopkins[1988]の意義と妥当性

Ma and Hopkins[1988]における上述のような考察は,現行の取得原価主 義を基調とする会計のもとで会計担当者がのれんの本質を誤解することによ り,間違った会計処理を行っている可能性を示唆しているものと考えられる。

この点についてMa and Hopkins[1992]では,買入のれんを2種類に分け て追加説明している(p.114)

まず被買収会社が,買収後も自律的な企業実体として営業活動を継続する 場合については,買入のれんは被買収会社における将来の超過利益流列の収 益還元価値(つまり現在価値)であると見なされ,現行の会計処理が容認さ れるものと考えられる(2)。しかし被買収会社が,買収後に買収会社と一体化

(統合)される場合については,買入のれんに関する現行の会計処理は,以 下のような理由により妥当性を欠いているものと考えられるのである。

つまり,この場合の買入のれんは,買収会社が買収を行った場合と行わな かった場合の差額によって計算される増分利益流列の収益還元価値に対して 支払われた金額から,被買収会社の識別可能純資産の公正価値を控除した額 となるが,このような金額は単なる算術的計算の結果にすぎず,また限定さ れた便益の流列との関係についてどのような経済的解釈も付与することはで きないからである。

このように買入のれんは,将来の効益をもたらす特定の源泉としてはしば しば識別可能ではなく,またこのような識別可能な源泉の欠如は対応概念の プロセスにおける償却の判断について,かなりの恣意性や矛盾さえもたらし ているといわれている(Ma and Hopkins [1992], p.114)

Grinyer and Russell[1992]は,上述のようなMa and Hopkins[1988]の 主張が貸借対照表は企業の価値を示すべきであり,純利益は一会計期間にお ける純資産の変化を示すべきであるという新しいパラダイム(評価アプロー チ)に基づいており,現在,会計実務の基礎として国際的に認められている 取引アプローチと評価アプローチの意義に関する一考察(池田) −29−

( 5 )

(6)

パラダイム(対応概念)に基づくものではないため支持することはできない と述べている。

彼らはMa and Hopkins[1988]の,買入のれんの評価に関する認識にお ける主要な問題は買収会社と被買収会社の営業活動から生じるシナジーが,

識別不可能な増分キャッシュフロー(なぜならば,それらのキャッシュフロー は,買収以前に存在していた諸活動からのそれ以外の継続的なキャッシュフ ローと分離できないからである)を生じる可能性が高いことや,またそれら のシナジーが被買収会社に対して支払われる買収価格に必ずしも反映されて いないことから生じていると指摘する。またこのような事実は,買入のれん の会計数値が,有意義な金額として解釈できず,また特定の源泉として識別 可能ではないため,標準的な計算ではのれんの金額を過小評価している可能 性が高いことを示唆していると論じている(p.108)

しかし伝統的会計実務は,直接もしくは会計期間を媒介とする費用と収益 の対応概念に基づく,取引ベースの取得原価主義会計を採用しており,その ような対応概念の下では,貸借対照表の金額が費用の未費消分であることや,

また資産の価値を示すものでないことがこれまで常に受け入れられてきてい る事実を指摘している。

Grinyer and Russell[1992]は,その証拠として次の例をあげている(p.109)

「有形固定資産は,それがどのような性質をもつものであれ,またいかなる 種類の事業活動に用いられるものであれ,基本的特徴として,通常の事業活 動においてはそれらは売却目的ではなく利益を稼得する目的で保有されてい ることである。貸借対照表上に示される有形固定資産の金額は,その実現可 能価額でも取替価額でもなく,通常,減価償却,なし崩し償却,減耗償却の 基礎になる取得原価で記録される金額である(ICAEWの会計原則に関する ステイトメント第9号[15年公表]「貨幣性資産以外のほとんどの資産 は,単に利益を稼得するプロセスにおいて費消されるのを待つ資源にすぎず,

−30−

( 6 )

(7)

その原価は便益を稼得する期間の利益に対する費用として対応される。それ らは将来費用のストックであり,資産の原価は当該資産が利益を生じる際に 費用化される(Barton[1977]

Grinyer and Russell[1992]は,このような理由から取引ベースの対応概 念は資産価値を立証する意味で,のれんの評価やその他の諸資産の評価を要 求していないことは明らかであり,むしろ取引ベースの対応概念は原価,す なわち資産に対して支払われた金額を立証することを要求しており,その金 額は当該資産が利益に対して完全に費用化されるまで当該資産の簿価の基礎 として用いられると述べているのである(pp.109110)

そして自己創設のれんに全体として寄与する,広告宣伝費,従業員の訓練 費,製品開発費およびその他の売上費用は,その総額が既に(発生時に)損 益計算書に賦課されており,資産計上された買入のれんが償却される場合,

損益計算書にも費用として賦課されることから,自己創設のれんと買入のれ んの会計処理における相違点は,当該(取得)原価を費用計上するタイミン グに関連しており,各会計年度にわたって利益総額に及ぼす影響とは関連し ないと主張しているのである(p.110)

このようにMa and Hopkins[1988]および[1992]が,評価アプローチ の観点からのれんの本質を考察しているのに対して,Grinyer and Russell

[1992]では評価アプローチとは排他的であるといわれる対応概念に基づく コメントを提示しているために両者の主張には大きな隔たりが見られる。そ してMa and Hopkins[1988]では,取得原価主義会計の枠組みのもとで正 確なのれんの記録および償却方法を探すことは成功しそうにないと結論する のに対して(p.84),Grinyer and Russell[1992]では,取得原価主義会計の 枠組みのもとでの買入のれんの資産計上および償却を支持する見解を表明し ているのである(p.107)

取引アプローチと評価アプローチの意義に関する一考察(池田) −31−

( 7 )

(8)

取引アプローチと評価アプローチ

これまでのれんの会計処理を手がかりに検討してきた取引アプローチと評 価アプローチはそれぞれ2つの異なる貸借対照表観に帰着する。

取引アプローチは,バランスシートを事業体の取引に基づく資産と負債の 集合体と考える。一方,評価アプローチによる測定は,取引として認識され るかどうかに関係なく,2つの貸借対照表日間のすべての資産と負債の増減 としてバランスシートを描写する(3)

現行の会計実務は,資産の当初認識において取引アプローチを基調として いる。このため,当初認識時における資産の認識・測定に関して信頼性が高 く,検証可能であるという特徴がある(図表1を参照)

一般に,取引が発生した時点(当初認識時)では,資産の取得原価と市場 価値は,当該資産について一致している場合がほとんどである。しかしその 後,取得原価は歴史的原価となり,市場価値は市場の気まぐれな変動に左右 される(4)

したがって当初認識後の資産がその後の経済的変化を反映しないまま取得 原価でバランスシートに計上され続けた場合,資産数値の信頼性が低下する 恐れが高い。したがって会計情報の有用性を維持するためには減損処理や資 産の再評価などの評価アプローチに基づく方法が必要と考えられるが,実務 上でもイギリスをはじめ,連結ベースでIFRS(国際財務報告基準)が強制 適用されるヨーロッパ各国において既に導入されている。

一方,取引アプローチのもとでは無形資産などの内部創出資産が取引時ま で認識されないため,バランスシートに認識されない資産が存在する可能性 があり,会計情報の目的適合性が低くなるおそれがある。

ところで現行の会計実務は,資産の当初認識段階では取引ベースの資産の みを認識し,その後にこれらの資産についてのみ減損処理や資産の再評価な

−32−

( 8 )

(9)

     仮定 資産の現行の定義が 信頼でき適合的であ

資産の定義によれば,

認識は取引または事 象により行われる

資産の認識が取引ま たは事象により行わ れない

例:内部創出資産

現行の定義は不完 全か過度に限定的 である

バランスシートに 認識されない資産 が存在する 例:内部創出資産

望ましからざる結果 利用者にとってバランス シートの資産数値の信頼 性が消滅

望ましからざる結果 バランスシートが財務情 報の利用者にとって有用 ではない

取引もしくは事象に基づく資産 数値が歴史的なものであり,経 済的/営業的状況の事後的変化 を反映しない

望ましからざる結果 利用者にとってバランス シートの資産数値の信頼 性が長期的に消滅

取引もしくは事象が当初,バランスシート上の 資産数値を計上するための首尾一貫した信頼で きる基礎を与える

取引もしくは事象に 基づく認識が,既知 の勘定項目,認識時,

価額を与える(取得 原価)

取引もしくは事象に 基づく認識が,複式 簿記の二元性を与え

例:売掛金/売上

図表1 資産認識の過程

(出典 トニー・トリントン著 古賀智敏監訳『ブランド資産の会計』東洋経済新報社,70頁)

取引アプローチと評価アプローチの意義に関する一考察(池田) −33−

( 9 )

(10)

どの評価アプローチを許容するというハイブリッド構造をとっていると考え られる(5)

したがって資産の当初認識段階で確定される取引ベースの測定とは独立し て評価アプローチを受け入れることには抵抗がみられるといわれる(6)

これに対しGrinyer[1994]は,取引アプローチに基づくバランスシート は,「企業に所有されている資産の価値を示すものではなく,単に期待され る便益に未だ対応されていない過去の投資支出額を示すにすぎない…(中 略)…さらに資産の価値を反映できないからといって,対応原則に基づくバ ランスシートを批判すべきではない。そうすることを要求されているわけで はないからである」と主張する(7)

さらにGrinyer[1994]は,「もし対応概念に基づく配分概念と価値の開示

に必要な評価アプローチの概念とを組み合わせようとすれば,混乱のみが発 生する。そうなれば,生じる利益の結果も明確な意味をもたないであろう」

と述べている(8)

このようにGrinyer[14]によれば,取引アプローチによる資産の当初 認識と評価アプローチによる減損処理や資産の再評価などを併用する現行の 会計実務ではなく,純粋な取引ベースのアプローチの採用を支持する見解が うかがわれるのである。

純粋な取引ベースのアプローチを採用する場合,内部創出の無形資産は永 続的にバランスシートから除外されることになる。さらに当初認識後の資産 の減損処理や再評価なども適用されないため,バランスシートの資産の金額 は費用の未費消分を示すことになる。この場合,財務報告上,脚注などで評 価アプローチを用いた無形資産の評価額などの開示を行うことでバランス シートの限界を補うことも可能である。ただし,測定の主観性の範囲を削減 するために,評価技法を成文化し規制することが必要になる(9)

一方,資産の当初認識段階では取引ベースの資産のみを認識し,その後に

−34−

( 10 )

(11)

これらの資産についてのみ減損処理や資産の再評価などの評価アプローチを 許容する現行の会計実務を採用する場合,評価基準が一貫性を欠くという問 題がある。この場合,バランスシートの資産の金額は評価アプローチの適用 前は費用の未費消分を,適用後は(適用時における広義の意味での)時価を 示すことになる。このような現行の会計実務を採用した場合にも,純粋な取 引ベースのアプローチを採用する場合と同様の内部創出の無形資産の問題が 残ることは言うまでもない。

他方,資産の当初認識段階で確定される取引ベースの測定とは独立して評 価アプローチを受け入れる可能性を検討する場合,測定の信頼性をどのよう に確保するのかという問題に直面する。会計測定に評価アプローチを適用す ることについて,Willett[1987]は,「分析にとても厳しい条件が課せられ なければ,原則としてでさえ唯一の数値の割当は不可能である」と主張して いる(p.161)

この場合,内部創出の無形資産の問題を解決できる可能性があるが,現行 の会計の枠組みにどのように新たに導入する評価アプローチの手続きを位置 づけるのかや,どのような資産について,どのような測定方法を用いて,ど こまで評価アプローチを適用するのかなどについて,コンセンサスを得るた めの議論や,その後の会計実務上での試行や実証研究による検証が必要にな る。

さらに,評価アプローチ適用の可能性を検討する場合には,これまで述べ てきた純粋な取引ベースのアプローチ,現行の会計実務で採用されているハ イブリッドなアプローチを含めた望ましい会計の枠組みのありかたに関する 十分な検討がまず最初に必要なことは言うまでもない。

本論文では,のれんの会計処理を手がかりに取引アプローチと評価アプ 取引アプローチと評価アプローチの意義に関する一考察(池田) −35−

( 11 )

(12)

ローチの特徴を明らかにするためMa and Hopkins[1988]およびGrinyer and Russell[1992]について検討を加えた。

そのうえで現行の会計実務が資産の当初認識において取引アプローチを基 調としていることを確認した。さらに現行の会計実務が,資産の当初認識段 階では取引ベースの資産のみを認識し,その後にこれらの資産についてのみ 減損処理や再評価などの評価アプローチを許容するというハイブリッド構造 をとっていることを明らかにした。

取引アプローチは,資産の認識・測定に関して信頼性が高く,検証可能性 がある一方,無形資産などの内部創出資産が取引時まで認識されないという 限界を持っている。この限界は,取引アプローチと評価アプローチが併用さ れている現行の会計実務にもあてはまる。

したがって無形資産などの内部創出資産を認識・測定するためには,評価 アプローチによる測定の主観性を何らかの形で受け入れることが不可避にな るものと考えられる。しかし,評価アプローチの適用には測定の信頼性をど のように確保するのかをはじめとする困難な課題が非常に多く,それら諸問 題の解決が容易ではないのが現状であると思われる。

ところで最近では,無形資産などの内部創出資産を認識・測定するのでは なく,脚注で開示することを推奨する動きが強まっているようである。また,

バランスシートに認識されていない無形資産をモニタリングしてコントロー ルしている企業が数多く存在するといわれていることから,まずできるかぎ り早期に,ディスクロージャーの観点からの改善が必要であると考えられる。

本論文は,下記に掲げた論文の一部をもとにして大幅な加筆・修正を施していることを おことわりしておきたい。

『企業結合とのれんの会計』神戸大学大学院経営学研究科博士論文,平成11年1月。

−36−

( 12 )

(13)

( 1 ) Ma and Hopkins [1988], p75を参照。武田[1982]は,Spacek[1970]が「この

(のれん)問題は既存の会計概念のもとでは解決することができない(括弧内は 筆者が付与)」と述べており,Defliese[1971]も「のれんは何十年もの間,会計 の謎であった」と述べていると紹介している(313頁)

なお,本稿ではのれんの会計処理を手がかりに取引アプローチと評価アプロー チの特徴を明らかにすることを目的としている。

( 2 ) ここでは買入のれんを償却する会計処理を意味している。なお,現在は買入の

れんについて償却は行わず,減損テストが適用されている。

( 3 ) Tollington, Tony,Brand Assets, John Wily & Sons, Ltd., 2002. 古賀智敏監訳『ブラ ンド資産の会計』東洋経済新報社,2004年,63頁。

( 4 ) 前掲書,68頁。なお,イギリスやIASBでは,有形固定資産の再評価を容認し

ており,この点も議論に含まれていることを留意されたい。

( 5 ) 前掲書,86頁。なお,わが国やアメリカでは,有形固定資産の再評価は容認さ

れていない。

( 6 ) 前掲書,79頁。

( 7 ) Grinyer [1994] p.156を参照。ここでは原典がどうしても入手できなかったため

前掲書,78頁を参照している。

( 8 ) Grinyer [1994] p.158を参照。ここでは原典がどうしても入手できなかったため

前掲書,78頁を参照している。

( 9 ) 前掲書,87頁。

引用文献・参考文献

Defliese, Philip L., ‘The APB and Its Recent and Pending Opinion’,Journal of Accountancy, February 1971.

Grinyer, John R., and Alex Russell, ‘Goodwill-an Example of Puzzle-Solving in Accounting-a Comment’,Abacus, Vol.28, No.1, 1992.

, Responses to Discussion Paper Accounting for Goodwill and Intangible Assets. Accounting Standards Board, 1994.

Ma, Ronald, and Roger Hopkins, ‘Goodwill-An Example of Puzzle-Solving in Accounting’, Abacus, Vol.24, No.1, 1988.

−, ‘Goodwill-an Example of Puzzle-Solving in Accounting-a Reply’,Abacus, Vol.28, No.1, 1992.

Spacek, Leonard, “The Merger Accounting Dilemma-Proposed Solution”, Financial Executive, February 1970.

Tollington, Tony,Brand Assets, John Wily & Sons, Ltd., 2002. 古賀智敏監訳『ブランド 資産の会計』東洋経済新報社,2004年。

Willet, R.J., ‘An axiomatic theory of accounting measurement’, Accounting and Business Research, Spring, 1987.

桜井久勝「知的財産の価値評価と開示」『会計』第165巻第2号,2004年。

白石和孝『イギリスの暖簾と無形資産の会計』税務経理協会,2003年。

武田安弘『企業結合会計の研究』白桃書房,1982年。

取引アプローチと評価アプローチの意義に関する一考察(池田) −37−

( 13 )

参照

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