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絶滅危惧水生食虫植物ムジナモの保全と生命現象の解明

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Academic year: 2021

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絶滅危惧水生食虫植物ムジナモの保全と生命現象の解明

Conservation and biological studies of Aldrovanda vesiculosa, an almost extinct aquatic carnivorous plant

プロジェクト代表者: 金子 康子 (理学部) Kaneko,Yasuko (Faculty of Science)

1. ムジナモの研究

ムジナモは水面下に浮遊し、輪生する二枚貝様の捕虫葉でミジンコなどの水生小動物を挟み込 んで捕らえるユニークな食虫植物(図1)である。捕虫葉上には 3 種類の腺毛が規則的に配列し(図 2)、獲物を捕獲すると消化酵素を分泌し、消化産物を吸収する。かつてはアメリカ大陸を除く世界各 地に自生していたが、第 2 次世界大戦以降の環境変化により激減し、国際的に絶滅が危惧されてい る。日本では国指定の天然記念物として、国内最後の自生地である埼玉県羽生市で、ムジナモ保存 会会員の尽力により維持されてきた。しかしムジナモの栽培は極めて難しく、持続的な栽培法の確立 に向けて試行錯誤が続いている状況である。

ムジナモを絶滅から救出すること、ムジナモを用いた生物学的研究を行うこと、を目的として当研 究室でムジナモの in vitro クローン増殖法を確立した(図3)。これにより年間を通じてムジナモを材 料とした様々な実験を行うことが、はじめて可能となった。

本研究プロジェクトでは、1)羽生市ムジナモ保存会と協力してムジナモの生育を阻害する要因を 明らかにし、ムジナモが持続的に生育可能な水環境条件を明らかにすること、2)ムジナモが獲物を 捕獲後、消化・吸収する過程でみられる腺毛の微細構造変化と機能発現について明らかにすること、

を目指した。

図1 ミジンコを捕らえた捕虫葉 図2 捕虫葉上の 3 種の腺毛 図3 培養室で増殖中のムジナモ

2. ムジナモの生育環境の制御

[藻類の増殖制御] これまでの研究により、ムジナモの野外での生育は種々の藻類の繁茂により 著しく阻害されることが分かった。藻類はムジナモの捕虫葉にからみつき捕虫運動や光合成を阻害 するだけでなく、ムジナモの生育を阻害する物質を分泌していることを示唆する実験結果も得た。適

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当量のミョウバンや銅イオンを加えることにより藻類の増殖を一時的に抑制することは可能であるが、

同時に他の生物の生育にも多大な影響を与え、水環境の回復に著しく時間がかかった。ヒメヨシ、セ リ、ヒルムシロ、サンショウモ、ホテイアオイなどの水生植物を共存させることにより、藻類の増殖をある 程度抑制する効果がみられた。

[食害の制御] これまでメダカ以外の魚類、オタマジャクシ、ヨコエビなどの食害によりムジナモが極 めて短期間に消滅することは分かっており、これらを防除する方策はとられてきた。今回さらに特定 の種類のミジンコ、センチュウ類、ユスリカの幼虫なども短期間に壊滅的なダメージを与えることが明 らかになった(図4、5)。特にセンチュウ類は、ムジナモの生育の要であるシュート頂の密生した葉原 基付近で多量に増殖し(図6)分裂組織を食い尽くすため、ムジナモは生育不能となり消滅すること が分かった。今後、センチュウ類の異常増殖を予防する水環境の制御方法を模索する必要がある。

図4 元気なムジナモ 図5 センチュウ食害初期 図6 シュート頂付近のセンチュウ (スケールは 0.1mm)

[水環境の維持] 複数年にわたってムジナモが良好に生育できる水環境を持続させるためには、特 定の生物を根絶するのではなく、様々な微生物、水生動物、植物がバランスを保ちながら共存できる 環境を維持することが極めて重要であると考えられる。このために特にヒメヨシ、セリなど越冬可能な 複数の水生植物が共存することによる効果(図7、8)について今後検討していきたい。

図 7 ヒメヨシ、セリを植えた人工池 図8 図7の池で増殖するムジナモ

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3. ムジナモ消化・吸収過程の腺毛の微細構造変化と機能発現

[プロテアーゼ活性の発現] これまでの研究により、ムジナモ捕虫葉上の消化腺毛は消化酵素のひ とつである酸性フォスファターゼをあらかじめ合成し細胞壁中に貯蔵し、捕虫後放出することが分か った。今回主要な消化酵素であるプロテアーゼ活性は捕虫前の捕虫葉からは検出されず、捕虫後 2

~6 時間後に強い活性が検出されることが明らかになった(図9)。一方、捕虫後 2 時間目には消化 腺毛の細胞内は夥しい量の膜構造で占められていた(図10)。今後これら膜構造のプロテアーゼ合 成・分泌への関与について明らかにしていきたい。

図9 プロテアーゼ活性の検出(ゼラチンフィルム法) 図10 捕食後 2 時間目の消化腺毛細胞

[消化産物の吸収経路] 捕虫葉間で消化された産物の吸収経路はこれまで明らかではなかった。今 回、捕虫後の捕虫葉間に経時的に蛍光色素を投与した実験から、捕虫直後には吸収毛にのみ蛍 光色素の顆粒が多数確認できた(図11)。吸収毛の細胞には多数のゴルジ小胞が存在していた(図 12)。捕虫後 24 時間経過すると、消化腺毛にも多数の蛍光色素顆粒が観察され始めた(図13)。消 化腺毛は捕虫直後には、消化酵素の合成と分泌に関わり、その後、機能を転じて消化産物の吸収 を行うと考えられる結果となった。このことは消化腺毛細胞の微細構造が捕虫後刻々と変化し、特に 24 時間後にはそれまでとは全く異なる細胞内活動を示唆する微細構造を呈していること(図14)と一 致する。今後さらに詳細に微細構造変化と機能発現について追究していきたい。

図11 吸収毛 図12 吸収毛細胞 図13 消化腺毛 図14消化腺毛細胞(16→24h)

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