高等学校理科「化学基礎」の実験実施状況と教員の意識
三次徳二*・ 工藤万依**
【要 旨】 理科においては,探究的な学習過程を重視した授業の実施が 求められており,その際観察や実験の実施は欠かせない。しかし,小・中学 校に比べて,高等学校では探究的な授業スタイルではなく,さらに,観察や 実験が実施できていないと指摘されている。本研究では,高等学校理科「化 学基礎」における実験について,単元ごとに実験の実施状況を明らかにする ために質問紙調査を行った。その結果,大半の教員は年に1,2回しか生徒 実験を行っておらず,酸・塩基と中和,酸化と還元の単元で多かった。同時 に行った意識調査では,教員は実験を実施する必要性は認識しているものの,
授業時間不足などを理由に実験ができないと考えていた。現状から考えると,
まずは実験が実施できている単元について授業スタイルの変更を行い,探究 的な学習過程を重視した授業に転換していくことが重要であると考える。
【キーワード】 実験実施状況,化学基礎,理科,高等学校
Ⅰ はじめに
理科の学習においては,児童・生徒が自ら問題や課題を見いだし,その解決方法を構想し,
観察,実験などを通して調べ,結果を考察して解決していくような探究的な学習過程が重視さ れている。しかし,中央教育審議会(2016)においては,「理科においては,課題の把握(発見),
課題の探究(追究),課題の解決という探究の過程を通じた学習活動を行い,それぞれの過程に おいて,資質・能力が育成されるよう指導の改善を図ることが必要である。」と記されており,
このような探究的な学習過程を重視した授業の実施に課題があると示されている。中央教育審 議会における審議の過程では,特に高等学校において,知識・技能中心の授業となっていたり,
観察,実験どころではなく,教科書すべてを網羅することに力点が置かれていたりと様々な課 題が指摘されている(中央教育審議会,2016)。高等学校理科における観察,実験の実施状況は,
科学技術振興機構理科教育支援センター(2010)が実施頻度を示しており,小,中学校の結果(科 学技術振興機構理科教育支援センター,2009)に比べて全体的に低い頻度となっている。高等学 校においては,探究的な学習過程を重視した高等学校学習指導要領(文部科学省,2019)が,2022 年度入学生から年次進行で実施されることになっている。少しでも探究的な学習過程を重視し た授業へと転換していくためには,どのような方法があるか検討する必要がある。
令和3年1月18日受理
*みつぎ・とくじ 大分大学教育学部理数教育講座(理科教育)
**くどう・まい 大分大学大学院教育学研究科学校教育専攻(修了生)
著者らは,課題の探究(追究)の過程における中心的な学習活動である観察,実験に焦点を 当て,これが実施できている単元を中心に授業スタイルを改善することで,探究の過程を踏ま えた授業を取り入れることができるのではないかと構想している。本研究では,高等学校理科
「化学基礎」を対象とし,実験の実施状況や担当教員の実験に対する意識について質問紙調査 を行ったので,紙幅の許す範囲でその結果を報告する。次いで,生徒実験や演示実験が行われ ている項目について分析を行い,その背景について探っていく。また,実験を行うことができ ていない状況や教員の意識などについても考察を行っていく。
なお,高等学校理科における化学の実験実施状況については,これまで多くの先行研究で解 明が試みられてきた。多くは,教員を対象に調査を行い,実験を行う頻度を明らかにしてきた(科 学技術振興機構理科教育支援センター,2010;大阪教育大学科学教育センター,2015など)。こ れらの調査では,頻度は分かるものの,どの項目で実験を行っているのかは分からなかった。
一方,高等学校を卒業し,大学に入学した学生を対象に調査を行った研究もある(山路ほか,2006 など)。実験頻度に加えて,実験を行った項目も明らかにするなど詳細な研究がなされているが,
調査対象となった母集団が大学進学者であり,高等学校における全体的な傾向を示せていない という課題もある。また,在学時の生徒としての印象であるため,正確性に欠ける場合もある。
そのため,本研究では「化学基礎」を教える教員を対象に調査を行っている。
本研究で用いる資料は,九州地区の1つの県の公立学校すべてを対象とした質問紙調査の結 果であり,全国的なものではない。実験頻度のように,比較が可能なものは他の地域における 調査結果と比較検討しているものの,地域性を排除することはできていない。そのため,実験 の実施状況は全国的な傾向とは一致しない可能性があることを冒頭にて附記する。
Ⅱ 質問紙調査
高等学校理科の「化学基礎」における実験の実施状況とその背景の調査,併せて教員の実験 に対する意識調査を目的として,大分県内の県立高等学校の理科「化学基礎」担当教員に対し て質問紙調査を行った。
1.質問紙調査の概要
大分県内の県立高等学校のうち,教育課程表において「化学基礎」を開設していることを明 示している全日制課程をもつ高等学校34校を調査対象校とし,2017年10月に調査実施者(本 論文の筆頭著者)から質問紙を各校の校長あてに送付し,「化学基礎」を担当する教員(主幹教 諭,指導教諭,教諭,講師,非常勤講師,授業を担当する管理職を対象とし,異動や退職され た教員は対象外とした)へ回答を依頼した。なお,本質問紙調査を行うに当たっては,実施の 可否や質問事項について大分県教育庁高校教育課と事前協議を行い,了解を得ている。調査実 施者からの質問紙郵送時期に,大分県教育庁高校教育課からも調査への協力依頼が別途なされ ている。2017年12月までに返送された質問紙調査票を有効回答として取り扱った。
質問紙は主に下記①~③のカテゴリーで構成した。巻末に調査用紙(資料1)と調査対象校 あての依頼状(資料2)を付録として収録する。1)
①「化学基礎」の授業における実験実施状況について
このカテゴリーでは,昨年度または今年度における実験の実施状況を問うている。教科書記
載の実験を一覧表として配布し,それを参考にして実施の有無(生徒実験,演示実験の違い)
を質問している。主に選択式での回答を求めているが,一部の質問については記述での回答を 求めている。
②実験に対する意識について
このカテゴリーでは,高等学校理科の実験に対する意識について問うている。①と同様に,
主に選択式での回答を求めているが,一部の質問については記述での回答を求めている。
③回答者の属性について
このカテゴリーでは,回答者の属性について問うている。現在の勤務形態や回答者の高等学 校,大学・大学院時代について回答を求めている。
2.質問紙調査の回答者
調査票は,「化学基礎」を開設している高等学校34校中29校の教員(59名)から返送され た。各校で何名の教員が「化学基礎」を担当しているか正確に把握できていないので教員単位 での回答率は算出できないが,学校を単位とした際の回答率は85.3%となった。類似の調査と の比較を可能にするため,回答者の属性について最初に示す。
(1)回答者の構成
回答者59名の内訳は,男性39名,女性18名,無回答2名である。勤務形態については,常 勤として勤務する教員が49名,非常勤として勤務する教員が8名,無回答が2名であった。教 職経験年数を5年区切りで示すと,一番多いのは経験年数5年未満であり,次いで21~25年,
16~20年と続く(表1)。ただし,経験年数5年未満の教員11名中6名は非常勤として勤務す る教員であり,常勤として勤務する教員のみでみると経験年数21~25年が最も多い。
(2)回答者の高等学校,大学における理科の履修や実験の実施状況
高等学校や大学・大学院時代を振り返ってもらい,履修した教育課程や実験の実施状況など について回答を得た。
高等学校時代の理科の履修科目については,学習指導要領の改訂のたびに教育課程が大きく 変わっていった時代であるので,物理と総合的な理科2)について履修の度合いに違いが見られ る(表2)。化学については,全員が履修したと回答している。地学については,全員が履修し ていないと回答している。また,回答者の高等学校時代に,化学の授業で実験がよく行われて いたか全般的な印象を質問をしたところ,「そう思う」,「ややそう思う」といった肯定的な回答
表1 回答者の教職経験年数 (単位:人)
年数 5年未満 5-10年 11-15年 16-20年 21-25年 26-30年 31-35年 36年以上 無回答 人数 11 6 8 9 10 4 6 2 3
表2 回答者の高等学校時代の履修科目 (単位:人)
学習指導要領
の実施年度 該当者数 物理 化学 生物 地学 総合的 な理科 昭和48年度 10 10 10 7 0 2 昭和57年度 23 20 23 2 0 12 平成 6年度 11 7 11 4 0 1 平成15年度 13 7 13 6 0 12
無回答 2 - - - - -
表3 高等学校時代「化学の授業で実験がよく行われていた」への回答 (単位:人)
学習指導要領
の実施年度 該当者数 そう思う ややそう思う やや
そう思わない そう思わない
昭和48年度 10 0 2 2 6
昭和57年度 23 0 2 9 12
平成 6年度 11 1 1 5 4
平成15年度 13 1 1 5 6
無回答 2 - - - -
小計(回答した57名中) 2 6 21 28
表4 回答者の大学時代の専攻 (単位:人) 表5 卒業研究等における実験の頻度(人)
大学時代の専攻 該当者数 学部の内訳 実験の実施頻度 該当者数
化学 47 理学系20,教育学系16,
工学系9,農学系2
ほぼ毎日 40
週に3~4回程度 4
物理 1
-
週に1~2回程度 5
生物 4 月に1回程度 1
地学 2 年に数回程度 1
その他 2 実験を行うような研究ではない 4
無回答 3 無回答 4
が8名(13.6%),「そう思わない」,「ややそう思わない」と否定的な回答が49名(83.1%)であ った(表3)。幅広い年代の教員がおり,高等学校時代の学習指導要領の科目構成や内容に違い があるため,一律に論じることはできない。だが,全般的な傾向をみると,高等学校時代に化 学の授業で実験をあまり経験していない教員が多いことが伺える。
大学時代の専攻については,化学であったと回答する教員が47名であり,80%近くを占めて いる(表4)。化学の中でもさらにどの分野を専門としていたか質問をしたところ,有機化学で あると回答した教員は23名で最も多く,次いで理論化学の12名,無機化学の10名であった。
回答者の中で,大学院へ進学した教員は21名であった。さらに,大学・大学院時代に,卒業・
修了研究において実験をどの程度行っていたか質問をした結果,「ほぼ毎日」と回答した教員が 一番多く40名おり,実験を行っていない教員はわずかであった(表5)。
3.「化学基礎」における実験の実施状況
「化学基礎」の文部科学省検定済み教科書に掲載されている実験のリストを示し,それらの 実験について「生徒実験を行ったもの」「演示実験を行ったもの」「生徒実験と演示実験のどち らも行わなかったもの」「ICT等の活用により実験を代替したもの」に分けて回答を得た。生徒 実験は生徒が実際に手を動かして実験を行うものであり,演示実験は教員が行う実験を生徒が 観察するものである。なお,教科書に記載されているものと異なる実験を行っている場合につ いては,別途記載してもらった。
表6は,それぞれの教員が,年間に何回の実験を実施しているか生徒実験,演示実験,及び それらを合わせたものを単純に集計したものであり,それぞれの回数の実験を行った教員数を 示している。生徒実験を1回も行っていない教員が21名,また,生徒実験と演示実験を合わせ て1回も行っていない教員が8名いる。実験回数の多い方では,年間に12回の生徒実験を行っ た教員や,8回の演示実験を行った教員がそれぞれ1名いる。
表6 回答者の年間実験実施回数 (単位:人)
実施回数 生徒実験 演示実験 生徒実験及び 演示実験
実施せず 21 19 8
1回 21 16 14
2回 11 9 11
3回 1 7 7
4回 3 6 8
5回以上 1 1 10
無回答 1 1 1
表7 内容のまとまり(小項目)ごとの実験実施状況(2017年度あるいは2016年度) (単位:%)
内容のまとまり 生徒実験 演示実験 実施なし 無回答
(1)化 学 と 人間生活
ア 化学と人間生活 とのかかわり
(ア) 人間生活の中の化学 3.4 1.7 93.2 1.7
(イ) 化学とその役割 3.4 0.0 94.9 1.7
イ 物質の探究 (ア) 単体・化合物・混合物 16.9 39.0 47.5 1.7
(イ) 熱運動と物質の三態 0.0 1.7 96.6 1.7
ウ 化学と人間生活に関する探究活動
(2)物 質 の 構成
ア 物質の構成粒子 (ア) 原子の構造 3.4 1.7 93.2 1.7
(イ) 電子配置と周期表 8.5 25.4 67.8 1.7
イ 物質と化学結合
(ア) イオンとイオン結合 1.7 1.7 91.5 1.7
(イ) 金属と金属結合 6.8 5.1 88.1 1.7
(ウ) 分子と共有結合 1.7 3.4 93.2 1.7
ウ 物質の構成に関する探究活動
(3)物 質 の 変化
ア 物質量と化学反 応式
(ア) 物質量 5.1 10.2 84.7 3.4
(イ) 化学反応式 6.8 1.7 89.8 3.4
イ 化学反応 (ア) 酸・塩基と中和 37.3 13.6 49.2 3.4
(イ) 酸化と還元 23.7 32.2 52.5 3.4
ウ 物質の変化に関する探究活動
表8 内容のまとまり(小項目)ごとの実験実施状況(直近5年間) (単位:%)
内容のまとまり 実施した 実施なし 無回答
(1)化 学 と 人間生活
ア 化学と人間生活 とのかかわり
(ア) 人間生活の中の化学 23.7 66.1 10.2
(イ) 化学とその役割 27.1 62.7 10.2
イ 物質の探究 (ア) 単体・化合物・混合物 71.2 18.6 10.2
(イ) 熱運動と物質の三態 20.3 69.5 10.2
ウ 化学と人間生活に関する探究活動
(2)物 質 の 構成
ア 物質の構成粒子 (ア) 原子の構造 13.6 76.3 10.2
(イ) 電子配置と周期表 54.2 35.6 10.2
イ 物質と化学結合
(ア) イオンとイオン結合 32.2 57.6 10.2
(イ) 金属と金属結合 40.7 49.2 10.2
(ウ) 分子と共有結合 37.3 52.5 10.2
ウ 物質の構成に関する探究活動
(3)物 質 の 変化
ア 物質量と化学反 応式
(ア) 物質量 30.5 59.3 10.2
(イ) 化学反応式 33.9 55.9 10.2
イ 化学反応 (ア) 酸・塩基と中和 55.9 33.9 10.2
(イ) 酸化と還元 54.2 35.6 10.2
ウ 物質の変化に関する探究活動
高等学校「化学基礎」の検定済み教科書は5社から12種類が発行されており,教科書によっ て掲載されている実験が異なる。そのため,本論文で回答結果をまとめて示す際には,高等学 校学習指導要領(文部科学省,2009a)に示される内容のまとまり(小項目)ごとに集計した。探 究活動に関する実験については,それぞれの関連する内容のまとまり(小項目)に加えた。表 7は,「化学基礎」の内容のまとまり(小項目)ごとに,それぞれの教員が実験(生徒実験,演 示実験)を実施しているかどうか割合で示したものである。例えば,(1)ア(ア)人間生活の中の 化学であれば,59名の回答者中,この内容のまとまり(小項目)に関する授業において生徒実 験を行っている教員が2名(3.4%),演示実験を行っている教員が1名(1.7%),実験を行っ ていない(ICT 等の活用により実験を代替したものを含む)教員が 55名(93.2%),無回答の 教員が1名(1.7%)である。生徒実験と演示実験の両方を実施している教員もいるため,実験 実施状況の合計が100%となっていない小項目もある。なお,この調査は2017年度の年度途中 に行われているので,2017年度あるいは2016年度の実施状況を表している。3)
実験を実施しなかった場合,もともと実験をするつもりがなかったのか,あるいは,生徒の 状況や学校行事,実験室の改修工事などの都合で2017年度あるいは2016年度の調査期間に偶 然実験が実施できなかったのか両方が含まれる。そのため,教科書に掲載されている個々の実 験について,直近5年間(2012年度以降調査時点まで)で生徒実験及び演示実験として実施し なかったかどうか調査した。演示実験を含め,直近5年間で,実験を実施していない場合は,
この項目では実験をする意図がないと推定できると考えたためである。表8は,「化学基礎」の 内容のまとまり(小項目)ごとに集計し直し,その内容のまとまりにおいて直近5年間で実験
(生徒実験及び演示実験)を1回でも実施したか,あるいは実施しなかったかまとめたもので ある。なお,初任者や「化学基礎」を開設していない学校からの異動者については,回答でき ないため無回答に含めている。例えば,(1)ア(ア)人間生活の中の化学であれば,59名の回答者 中,この内容のまとまり(小項目)に関する授業において直近5年間で1回でも実験を行った ことがある教員が14名(23.7%),実験を行ったことがない教員が39名(66.1%),無回答(お よび初任者等回答できない教員)が6名(10.2%)である。
2016 年度や 2017 年度の調査期間において,生徒実験が最も実施されていた内容のまとまり
(小項目)は,(3)イ(ア)酸・塩基と中和で37.3%の教員が実施していた。演示実験が最も実施 されていたのは,(1)イ(ア)単体・化合物・混合物で 39.0%の教員が実施していた。生徒実験,
演示実験を合わせると,(1)イ(ア)単体・化合物・混合物が50.8%と最も多く,(3)イ(ア)酸・塩 基の中和の47.4%,(3)イ(イ)酸化と還元の 44.1%,(2)ア(イ)電子配置と周期表の 30.5%と続 く(表7)。この上位4つの結果は,直近5年間の実験実施状況(表8)と整合的である。調査 期間に偶然実験が実施できなかった訳ではないと推定できる。
4.実験実施,不実施の理由
教員がどのような授業スタイルをとるのかは,何かしらの理由があると考えられる。実験を 実施したり,しなかったりする理由について,いくつかの候補を提示し,その中から選択する か自由記述に記すように求めた。
毎年,何かしらの生徒実験を行うと回答した教員 33 名に対して,14の選択肢と回答者自身 で書く1つの自由記述の中から,生徒実験を行う理由として,当てはまる順に1位,2位,3 位と順位付けして3つを選択するように求めた(表9)。1位から3位までの回答数を単純に足
して総計すると,「実験をした方が理解させやすい。」が回答数20(回答者に占める割合60.6%)
で最も多く,次いで,「生徒の興味・関心を引き出すのに効果的である。」の回答数16(48.5%),
「生徒の学力や実験技能に適している。」の回答数 12(36.4%)と続く。一方,1つでも生徒 実験ではなく演示実験を選んだと回答した教員38名に対しても,15の選択肢と回答者自身で
表9 生徒実験を実施する理由(当てはまる順に1位,2位,3位とする) (単位:回答数)
生徒実験をする理由 1位 2位 3位 総計
学 習 す る 側 (生徒)の理由
生徒の興味・関心を引き出すのに効果的である。 9 2 5 16
生徒の学習意欲を高める。 3 0 3 6
生徒が科学的思考力を発揮しやすい。 2 2 0 4 生徒の学力や実験技能に適している。 4 4 4 12
指 導 す る 側 (教師)の理由
準備や片付けが短時間である。 1 1 0 2
授業時間内に実験が終わる。 1 4 2 7
実験結果が安定している。 1 2 3 6
実験をした方が理解させやすい。 11 7 2 20
自身の得意分野である。 0 0 0 0
環 境 ・ 安 全 面 での理由
安全性が高い。
(例:危険な薬品などを使わない。実験手順が単純である。) 0 2 3 5 実験器具や設備備品が整っている。 1 3 7 11
その他の理由
大学入試によく出題される実験である。 0 6 3 9
研修等で行った実験である。 0 0 0 0
ICT等の活用をしても代替できるものでない。 0 0 0 0 その他(上記以外,自由記述) 0 0 0 0
計 33 33 32 98
表10 演示実験を選んだ理由(当てはまる順に1位,2位,3位とする) (単位:回答数)
生徒実験ではなく演示実験を選んだ理由 1位 2位 3位 総計
学 習 す る 側 (生徒)の理由
生徒にとって難しい操作である。(例:手順が多く複雑
である。) 3 1 1 5
生徒の授業態度が問題である。 0 0 0 0 教師が行うほうが,良いデータが得られやすい。 0 0 1 1
指 導 す る 側 (教師)の理由
生徒の人数分の器具を準備・片付け等をする時間がな
い。(例:教材研究など,他の授業準備に時間がかかる。) 7 2 3 12 演示実験で済むものは生徒実験をする必要がない。(例:
炎色反応の実験は色の変化だけ生徒に見てもらえばよい。) 9 5 5 19 考察を重視した授業を行いたい。 2 3 2 7 着眼点を絞り,理解を促進したい。 0 3 5 8
環 境 ・ 安 全 面 での理由
生徒にとって難しい操作である。
(例:薬品や実験器具で怪我を招く恐れがある。) 1 3 1 5 授業時数が限られている。 10 6 6 22 生徒の人数分の実験器具がない。 4 3 0 7 校務分掌や生徒指導など授業以外の仕事が多い。 0 5 0 5 実習助手などの指導員が不足している。 0 1 3 4
その他の理由
大学入試にあまり出題されない。 0 0 0 0
研修等で行った実験である。 0 0 0 0
ICT等の活用をしても代替できるものでない。 0 1 2 3 その他(上記以外,自由記述) 2 0 0 2
計 38 33 29 100
表11 毎年行わない実験がある理由(当てはまる順に1位,2位,3位とする) (単位:回答数)
毎年行わない実験がある理由 1位 2位 3位 総合
学習する側 (生徒) の理由
生徒の興味・関心を引き出すのに効果的でない。 2 2 2 6
生徒の学習意欲を下げる。 0 0 0 0
生徒が科学的思考力を発揮しにくい。 0 1 0 1 生徒の学力や実験技能が不足している。 0 0 2 2 実験操作自体が目的となりがちになってしまう。 1 1 3 5
指導する側 (教師) の理由
授業時間内に実験が終わらない。 3 1 0 4 準備や片付けの時間が不足である。 5 6 4 15 実験結果が不安定で,違う視点の疑問を生じさせてしまう。 0 3 0 3 実験を行うことで,理解させづらくなることがある。 0 1 1 2
自身の不得意分野である。 1 1 1 3
実験を行うよりも,教え込んだ方が理解させやすい。 1 6 1 8
環境・安全面 での理由
危険性が高い。
(例:危険な薬品などを使う。実験手順が複雑である。) 0 1 1 2
授業時数が限られている。 23 5 1 29
校務分掌や生徒指導など授業以外の仕事が多い。 4 2 4 10 実験器具や設備備品が不足している。 6 5 4 15
実験室が不足している。 1 0 1 2
実習助手などの指導員が不足している。 0 0 3 3
その他の 理由
大学入試にあまり出題されない実験である。 0 0 2 2
研修等で行ったことがない。 0 0 2 2
ICT等の活用により代替することができる。 0 5 3 8
上記以外の理由 3 0 0 3
計 50 40 35 125
書く1つの自由記述の中から,演示実験を選んだ理由として当てはまる順に1位,2位,3位 と順位付けして3つを選択するように求めた(表 10)。1位から3位までの回答数を単純に足 して総計すると,「授業時数が限られている。」が回答数22(回答者に占める割合57.9%)で最 も多く,次いで「演示実験で済むものは生徒実験をする必要がない。」の回答数 19(50.0%),
「生徒の人数分の器具を準備・片付け等をする時間がない。」の回答数 12(31.6%)と続く。
さらに,生徒実験と演示実験を合わせ,直近5年間に行っていない実験があると回答した教員 50名に対し,20の選択肢と回答者自身で書く1つの自由記述の中から,その理由として,当て はまる順に1位,2位,3位と順位付けして3つを選択するように求めた(表 11)。1位から 3位までの回答数を単純に足して総計すると,「授業時数が限られている。」が回答数29(回答 者に占める割合 58.0%)で最も多く,次いで「実験器具や設備備品が不足している。」と「準 備や片付けの時間が不足である。」の回答数15(50.0%)が続く。
演示実験で済むものは生徒実験をする必要がないといった教員側の考えが見られる理由は一 部にあるものの,生徒実験を行わない理由には時間が限られている,器具が不足しているなど 学習環境の面からのものが大半を占める。
5.実験に対する意識
質問紙調査では,実験の実施状況やその理由について質問する以外に,教員の実験に対する 意識についても質問を行い,回答を求めた。
学習指導要領や教科書の記述内容と比較して,回答者自身が実験をしている方であると思う
表12 実験の実施頻度に関する意識 (単位:%)
質問事項 そ う
思う
や や そ う 思う
ややそ う思わ ない
そ う 思 わない
わ か ら な い
無 回 答
学習指導要領や教科書の記述内容と比較して,あなたは実験
(生徒実験及び演示実験)をしている方であると思いますか。 3.4 6.8 27.1 52.5 6.8 3.4
表13 実験を行うに当たっての障害(実験回数を今より増やしたい教員47名限定) (単位:%)
障害となる事項 そ う
思う
や や そ う 思う
ど ち ら で も な い
や や そ う 思 わ ない
そ う 思 わ ない
無 回 答
実験器具や設備備品の不足している。 34.0 38.3 4.3 6.4 17.0 6.4 消耗品が不足している。 25.5 38.3 10.6 8.5 17.0 6.4 授業時間が不足している。 61.7 29.8 6.4 0.0 2.1 6.4 準備や片付けの時間が不足している。 44.7 34.0 10.6 4.3 6.4 6.4 生徒が学力不足である。 4.3 12.8 25.5 17.0 38.3 8.5 生徒の授業態度の問題がある。 4.3 12.8 19.1 19.1 42.6 8.5 生徒が多すぎる。 10.6 27.7 17.0 10.6 34.0 6.4 実験室が不足している。 10.6 19.1 14.9 6.4 46.8 8.5 授業準備以外の仕事が多すぎる。 44.7 36.2 10.6 6.4 4.3 6.4 勤務時間外で準備しなければならない。 51.1 27.7 8.5 6.4 6.4 6.4 予算不足である。 21.3 31.9 14.9 10.3 14.9 10.3 自身の実験に関する知識・技能が不足している。 9.1 34.0 17.0 14.9 14.9 6.4 内容が難しく指導が困難である。 2.1 8.5 38.3 21.3 29.8 6.4 生徒にさせるには難しい実験が多い。 2.1 19.1 27.7 25.5 25.5 6.4 受験対策重視型の授業をしなければならない。 17.0 44.7 17.0 10.6 10.6 6.4 実験操作をすること自体が目的になりがちである。 0.0 38.3 27.7 17.0 14.9 8.5 薬品やガラス器具を使用することに,安全性の心配がある。 2.1 31.9 14.9 17.0 34.0 6.4 実習助手などの指導員が不足している。 17.0 8.5 23.4 19.1 31.9 6.4
表14 実験の必要性に関する意識 (単位:%)
質問事項 そ う
思う
や や そ う 思う
や や そ う 思 わ ない
そ う 思 わ ない
ど ち ら と も い えない
無 回 答
あなたは自身の実験(生徒実験及び演示実験)の実施回
数を,現在よりもさらに増やしたいと思いますか。 32.2 47.5 1.7 6.8 6.8 5.1 高等学校の理科授業における実験(生徒実験及び演示実
験)は必要であると思いますか。 67.8 22.0 1.7 0.0 1.7 6.8
かについて質問を行った(表 12)。学習指導要領や教科書の記述内容と比較して実験を行って いると肯定的に回答した教員は10.2%にとどまり,否定的な回答が79.7%を占めた。
また,実験を行うに当たって障害となっていると考えられる理由について,18の候補の中か ら当てはまるか選択式で質問した(表13)。肯定的な回答が最も多かった項目は,「授業時間が 不足している。」で,91.5%を占めた。次いで,「授業準備以外の仕事が多すぎる。」,「準備や片 付けの時間が不足している。」が多く,それぞれ 80.9%,78.7%であった。肯定的な回答を半 数以上得たその他の項目には,「実験器具や設備備品の不足している」,「勤務時間外で準備しな ければならない。」がある。否定的な回答が大半を占める項目も多くみられる。
実験の必要性に関しては,生徒実験及び演示実験の実施回数を,回答者自身の現在の実施回
表15 実験が必要な理由(実験が必要であると考える教員53名限定) (単位:%)
実験が必要な理由 そ う
思う
や や そ う 思う
ど ち ら で も な い
や や そ う 思 わ ない
そ う 思 わ ない
無 回 答
学習内容への興味・関心をもたせるため。 77.4 17.0 5.7 0.0 0.0 0.0 学習意欲を高めるため。 66.0 24.5 9.4 0.0 0.0 0.0 実験の技能を身に付けさせるため。 41.5 43.4 15.1 0.0 0.0 0.0 科学的な見方や考え方を養うため。 71.7 28.3 0.0 0.0 0.0 0.0 知識の定着を図るため。 35.8 47.1 15.1 0.0 0.0 0.0 生徒に直接体験の機会を与えるため。 77.4 17.0 1.9 0.0 0.0 0.0 生徒が主体的に考えることを促進するため。 49.0 43.4 3.8 0.0 0.0 0.0 仲間と協力して学び合う力を育むため。 41.5 35.8 17.0 1.9 0.0 3.8 コミュニケーションスキルを育むため。 24.5 41.5 26.4 1.9 1.9 3.8 生徒が実験を望んでいるため。 30.2 35.8 22.6 5.7 1.9 3.8 授業内容をわかりやすくするため。 34.0 37.7 17.0 7.5 1.9 1.9 学習内容を深めるため。 43.4 41.5 11.3 0.0 0.0 3.8 探究活動を経験させ,問題解決力を育むため。 49.1 41.5 7.5 1.9 0.0 3.8
数より増やしたいかについて質問を行った。現在の実施回数より増やしたいと肯定的な回答は 79.7%であり,否定的な回答は13.6%であった(表14)。また,高等学校理科の授業において,
実験(生徒実験及び演示実験)が必要であるか,必要と考える場合にはその理由について回答 を求めた。高等学校理科における実験の必要性について,肯定的な回答をした割合は89.8%で
ある(表14)。肯定的な回答をした53名に対して,実験が必要と考える理由について,18の候
補の中から当てはまるか選択式で質問したところ,全員が肯定的な回答を示したのは「科学的 な見方や考え方を養うため。」であり,その他すべての候補についても半数以上から肯定的な回 答が得られた(表15)。
Ⅲ 質問紙調査結果の分析(考察)
1.単元ごとの実験実施状況の分析
(1)生徒実験について
生徒実験として一番実施されている小項目は,(3)イ(ア)酸・塩基と中和であった(表7)。こ の項目において,教科書に記載されている実験は,大きく中和滴定とpHの測定の2つである。
この項目で生徒実験を行っている教員が,生徒実験を行う理由として選択したのは,「実験をし た方が理解させやすい。」,「生徒の興味・関心を引き出すのに効果的である。」,「生徒の学力や 実験技能に適している。」が多かった。それらの教員は,この項目の学習内容は座学で教え込む よりも,生徒に実際に実験をさせた方が効率よく理解させられると考えており,他の項目と比 べると,実験で得られるものが多くあると考えている。さらに,実験を実施する上で,生徒の 学力や実験技能のレベルに合っているかどうかが,重要な決め手となることも示している。同 じ項目,同じ実験内容であっても,生徒の能力に応じて,実験内容を変えたり,操作や過程を 単純または複雑にしたりといった工夫をしている可能性がある。4)
この項目のねらいは,「酸,塩基の性質や中和反応におけるこれらの量的関係について理解さ せること」である(文部科学省,2009b)。中和滴定の実験を用いて,酸性や塩基性の水溶液の 量に着目させて実験させることは,生徒にとって具体的に量的関係について考えさせ,理解さ
せやすい。また,中和滴定の実験で使用される実験器具の代表としてビュレット,ホールピペ ット,メスフラスコがあるが,この3つの実験器具は生徒が中学校で用いていない新しい実験 器具である。教員は,生徒に実際に実験器具を使用させることも意識していると著者らは推測 している。また,pH の測定に関していえば,身近なものの pHを測定させるといった実験が多 く教科書に記載されている。実験の材料として身近なものが使用できるので,生徒の興味・関 心を引き出す上では効果的であるように思える。このような理由から,(3)イ(ア)酸・塩基の中 和の項目で実験が多く行われているという結果になったと推測している。
(2)演示実験について
演示実験としては,一番多く実施されていたのは(1)イ(ア)単体・化合物・混合物であった(表 7)。この項目において教科書に記載されている実験は,炎色反応や混合物の分離である。演示 実験を行っている教員が演示実験を選択した理由として,「授業時数が限られている。」を多く 挙げていた。多くの生徒が実験を行うよりも,手際が分かっている教員一人が生徒全体に向け て実験を行った方が,実験に費やす時間が短く済むのは明らかである。そのようなことを踏ま えると,授業時数の少なさを感じている教師は演示実験を選択する傾向になると推測される。
授業時数さえ限られていなければ,生徒実験として実施する意欲はあるように思える。しかし,
「演示実験で済むものは生徒実験をする必要がない。」も併せて挙げる教員もいる。基本的に,
実験は生徒が主体的に行うことにより様々な価値があるが,教員の考えにはずれがあることが 示唆された。探究的な学習過程を重視した学習指導要領(文部科学省,2019)が2022年度入学生 から実施されるが,生徒が実験を行うことにあまり価値を感じていない教員には,今後の実験 に対する意識の変化が求められる。
この項目のねらいは,「身近な物質を取り上げ,物質の分離・精製や元素の確認などの実験を 通して,単体や化合物,混合物について理解させるとともに,基本的な実験操作及び物質を探 究する方法を身に付けさせること」である(文部科学省,2009b)。この項目では,「実験を通し て」や「基本的な実験操作」など,生徒による実験を行うことが示唆されている。
(3)実施されない実験について
一部の実験を除き,教科書に掲載されている実験の実施率は低く(表7),ほとんど実施され ていないといえる。その理由として挙げられていたのは,「授業時数が限られている。」,「準備 や片付け等の時間が不足である。」,「実験器具や設備備品が不足している。」であった。授業時 数や準備や片付けの時間の不足が理由として挙げられている。演示実験を行う理由と同様の結 果となった。確かに,入試を意識して,教科書の隅々の記載事項まで生徒に知識として身に付 けさせようと意識すれば,授業時間は足りないかもしれない。ただ,「化学基礎」の科目の性格 を考えれば,ほとんど実験を行わないという授業スタイルはいびつなものとなっていると言え よう。また,実験器具の不足なども理由として挙げられているが,全体的に実験が行われてい ない傾向にあるため,どの実験器具が不足しているのか,今回の調査では具体的に述べること ができない。しかし,「化学基礎」における実験で扱う実験器具は基本的なものばかりであり,
実験器具がないという状況が本当にあり得るのだろうか。もしそれが事実であるならば,教育 環境の整備を怠ってきた国や地方自治体の責任である。
なお,(1)イ(イ)熱運動と物質の三態は特に実験実施状況が良くなかったが(表7),この項目 については,物質の三態の様子の変化や熱運動による拡散現象の観察などの実験が多く教科書 に記載されている。熱運動による拡散を観察するに当たって,必要な実験器具や設備備品は,
教科書にもよるがビーカーなどの容器と水やインクなどである。生徒実験として実施している と挙げられていた中和滴定やpHの測定などよりも準備や片付けの時間もかからない。授業時数 の不足について着目すると,教師は限られた授業時数の中で,どの実験を優先して行うべきか 選択に迫られ,選択されなかった実験は,短時間で終えるものや単純な器具を用いるものであ ってもすべて実施しないことにしている可能性がある。物質の三態については中学校の既習事 項であり,拡散については身近な例え話により,生徒はイメージをつかみやすいことなども考 えると,この項目の実験実施の優先順位はかなり低くなってしまったと推測される。
また,(2)ア(ア)原子の構造については,学習指導要領解説(文部科学省,2009b)に具体的な実 験例が記載されていない。さらに,教科書でも半数程度にしか実験が記載されていないため,
このような結果になったと考えられる。
2.実験についての意識について
学習指導要領や教科書の記述内容と比較すると,実験を実施していないと感じている教員が 79.7%と多く(表12),実験の実施回数を増やしたいと考えている教員も同様に79.7%と多か
った(表14)。しかし,調査期間の実験実施状況(表7)と直近5年間の実験実施状況(表8)
を見る限りでは,増加傾向にある訳でもない。現行の高等学校学習指導要領(文部科学省,2009a) では,どの実験をどの程度実施すべきか具体的に規定もなく,実験実施状況には不満はあるも のの,教育環境の問題から現状維持も致し方ないと考えているものと推測される。
実験実施に当たって,授業時間の不足が実施できない原因と感じている教員が最も多かった。
前項での実施していない実験を質問した際に,その理由として挙げられていたのと同様に授業 時間の不足がある。高等学校理科において,授業で取り扱う知識を定着させる場面とそれを導 き出す探究の過程の授業時間のバランスを見直すべきかもしれない。高等学校理科は,小・中 学校理科とは多少異なり,実験のみによって生徒自身が法則性や理論を導きだすという授業形 態がとれない場合もあるため,すべてを探究的な学習過程によって授業を進めることはできな い。しかし,次期学習指導要領(文部科学省,2019)における理科の改訂の方針を見る限りでは,
知識を定着させる場面ばかりではいけないと考えられる。実験を行う上で障害となっている事 柄には,大学入試への対応のための指導に時間をとられるといった理由も一定の割合を占めて
いる(表 13)。入試対策重視の授業をするとなると,入試問題が解けるということに重点が置
かれ,実験が後回しになってしまうことが推測される。それに加え,準備や片付けの時間不足 と勤務時間外での準備が必要になるということも実験が実施できない原因であり,勤務体制に ついていえば,授業準備以外の仕事が多すぎるという理由も類似の原因である。回答者が勤務 する学校に理科の実験助手が勤務する割合は86.0%であったが,協力して実験準備に取り組め ていない可能性も考えられる。実験は必要であると考えている教員が多いものの(表 14),上 記のよう様々な原因により理想通りに実施できていない。
教員自身は,大学においては実験を多く経験しているため,実験の技能は十分であると考え られるが(表4,表5),高校生の際に実験を経験していないという回答も得られている(表3)。
自身の経験からも,高等学校理科の授業においては実験を行うという印象がなく,実験は必要 であるという意識はありつつも,知識の定着を中心とした授業形態に自然となってしまってい る可能性も考えられる。ただし,この点については,質問紙調査において直接的な質問を行っ ていないため,可能性を指摘するのみにとどめる。
3.これまでの調査との比較
(1)比較に用いる調査の概要
①平成20年度高等学校理科教員実態調査
実施者 :(独)科学技術振興機構 理科教育支援センター 調査対象:高等学校理科教員
②北海道における理科教育の充実を図るための調査研究―第 5 回 本道の理科教育に関する 実態調査―
実施者 :北海道教育大学,北海道立教育研究所 附属理科教育センター
調査対象:北海道内の児童生徒を抽出(小学4,6年生/中学2年生/高校2年生)
教員(児童生徒の調査を依頼した学校の教員(中学校,高校では理科担当教員))
③平成25年度大阪府内公立高等学校における理科指導に関する教員の意識調査 実施者 :国立大学法人 大阪教育大学 科学教育センター
調査対象:大阪府内の公立高校の理科担当教員
(2)実験の実施頻度に関する比較
観察,実験の実施頻度に関して,調査により調査方法が若干違うため直接比較はできないが,
それぞれの実験頻度や回数の調査をみていく。
生徒実験に関して,「月に1~3回程度」かそれ以上の生徒実験を実施している教員の割合で 比較してみる。全国調査(科学技術振興機構,2010)では,「月に1~3回程度」かそれ以上の生 徒実験を実施している化学Ⅱの担当教員の割合は32.5%であった。また,北海道調査(北海道立 教育研究所附属理科教育センター・北海道教育大学,2012)では「月に1~3回程度」かそれ以 上実施している教員の割合は約 30%,大阪調査(大阪教育大学科学教育センター,2015)では 21.8%であった。本調査で生徒実験の実施回数が最も多かった教員であっても月に1.5回程度の 実験頻度と換算され,「月に1~3回程度」かそれ以上の生徒実験を実施している教員の割合は 1.7%である。これまでの調査と比較すると,本調査が示す生徒実験の実施頻度は低い。
演示実験に関しても,「月に1~3回程度」かそれ以上の演示実験を実施している教員の割合 で比較してみる。全国調査(科学技術振興機構,2010)では,「月に1~3回程度」かそれ以上の 演示実験を実施している化学Ⅱの担当教員の割合は45.1%であった。また,北海道調査(北海道 立教育研究所附属理科教育センター・北海道教育大学,2012)では「月に1~3回程度」かそれ 以上実施している教員の割合は約 45%,大阪調査(大阪教育大学科学教育センター,2015)では 40.7%であった。本調査で生徒実験の実施回数が最も多かった教員であっても月に1回程度の実 験頻度と換算され,「月に 1~3 回程度」かそれ以上の生徒実験を実施している教員の割合は 1.7%である。これまでの調査と比較すると,本調査が示す演示実験の実施頻度も低い。
(3)教員の意識などに関する比較
観察や実験を行うに当たっての障害は,北海道調査(北海道立教育研究所附属理科教育センタ ー・北海道教育大学,2012)以外では「授業時間の不足」が一番多い割合を占めている。大分県 だけでなく全国的に,授業時数の不足を感じている高等学校の教員は非常に多く,学習内容の 量や授業時数を見直す必要があることが指摘できる。
なお,教員の属性については紙幅の都合により詳細な比較まで述べないが,化学を専門とす る教員の割合(表4)に違いがあることに加え,年齢構成として50歳台教員が少ない(他調査 では30%台であるのに対し,本調査では17.5%である)といった違いが見られる。
Ⅳ おわりに
1.本研究のまとめ
本研究では,大分県における高等学校理科「化学基礎」における実験の実施状況について,
「化学基礎」を担当するすべての教員を対象に質問紙調査を行った。その結果,何かしらの実 験を行っている教員は多い(84.7%)ものの,生徒実験となるとやや少なく(62.7%)なる。
年間に 12 回生徒実験を行っている教員がいるものの,3回以上行っている教員は6.8%,1,
2回行っている教員は54.2%であり,生徒実験の実施頻度は先行研究と比べて低い。実験が比 較的行われている項目は,(3)イ(ア)酸・塩基と中和,(3)イ(イ)酸化と還元である。生徒実験を 行わなかった理由や,実験を行うに当たっての障害については,指導する側の理由(時間,施 設・備品)が多く,学習する側の理由は少ない。
2.今後の展望
本論文の冒頭でも記した通り,理科の学習においては,児童・生徒が自ら問題や課題を見い だし,その解決方法を構想し,観察,実験などを通して調べ,結果を考察して解決していくよ うな探究的な学習過程が重視されている。すべての項目で探究的な学習を取り入れることは難 しいと考えられる。一方で,現状で実験が行われている項目,例えば,物質の分離・精製,水 溶液のpH測定や中和滴定,酸化剤と還元剤の反応については,演示実験を生徒実験に変更する ことや,授業冒頭で生徒に仮説を立てさせたり,実験方法を考えさせたりするなど,授業スタ イルの若干の変更を行うことで,探究的な学習過程を重視した授業に変容できるのではないか。
現行の学習指導要領(文部科学省,2009a)では,単に「観察,実験を行い」と記されているだ けで具体的な項目の指定はなかったが,次期学習指導要領(文部科学省,2019)からは「化学基 礎」の4つの項目において「実験を行う」ことが明記された(表 16)。単に生徒実験を行うだ けでなく,探究的な学習過程を重視した授業へと転換することが求められている。このことは,
本研究で調査を行った大分県内の高等学校のみならず全国的な課題であると考えられる。
表16 次期学習指導要領の理科「化学基礎」の内容に示された実験に関する記述 内容のまとまり(小項目) 次期学習指導要領の記述(文部科学省,2019)
(1) 化学と人間生活 (ア) 化学と物質
㋑ 物質の分離・精製 物質の分離や精製の実験などを行い,実験における基本 操作と物質を探究する方法を身に付けること。
㋒ 単体と化合物 元素を確認する実験などを行い,単体,化合物について 理解すること。
(3) 物 質 の 変 化 と そ の 利 用 (ア) 物 質 量 と 化 学反応式
㋑ 化学反応式
化学反応に関する実験などを行い,化学反応式が化学反 応に関与する物質とその量的関係を表すことを見いだ して理解すること。
(3) 物 質 の 変 化 と そ の
利用 (イ) 化学反応 ㋐ 酸・塩基と中和 酸や塩基に関する実験などを行い,酸と塩基の性質及び 中和反応に関与する物質の量的関係を理解すること。
附記:本研究は,2018年8月に実施された日本理科教育学会第68回全国大会(岩手大会)に おいて,その一部を発表済みである。本論文の執筆は2名の著者が共同して実施しているが,
主にⅠ,Ⅱ,Ⅳ章については三次が,Ⅲ章については工藤が中心的に執筆している。
謝辞:本研究をまとめるにあたり,最初に質問紙調査にご協力いただいた大分県内の高等学校 教員の方々に深く感謝する。また,大分県教育庁高校教育課や大分県教育センターの皆様には,
研究の打ち合わせや資料の提供等において大変お世話になった。特に,高校教育課高校教育指 導班の遠藤源治氏には各種調整にご尽力いただき,教育センター総務企画部の鬼塚和宣氏(現 大分県商工観光労働部)には質問紙調査の企画段階で多くのご示唆をいただいた。日本理科教 育学会第68回全国大会(岩手大会)の参加者には,本研究のまとめ方について参考となる多く のご意見をいただいた。記して謝意を表する。
注
1)資料1と資料2については,メールアドレスや電話番号のみ●●に置き換えている。
2)昭和57年度からの「理科Ⅰ」や平成15年度からの「理科総合A」など,総合的な理科の科目 が必履修科目や選択必履修科目となっていた時期がある。回答者には,総合的な理科を履修した という印象が残っていないか,あるいは物化生地の領域に分けて学習した可能性がある。
3)ICT への代替については大きなテーマであるが,本論文では生徒実験の実施を主眼に執筆した ため,分析においては「実施せず」に分類している。ICTについては稿を改めて論じたい。
4)質問紙調査の自由記述欄において,教科書の実験をそのまま行っているわけではないので,教 科書の実験をもとに実施状況を質問されると答えづらかったという指摘を回答者から頂いている。
引用文献・Webサイト
中央教育審議会(2016):幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の 改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号).https://www.mext.go.jp/b_menu/
shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm(最終閲覧2020.11.30)
北海道立教育研究所附属理科教育センター・北海道教育大学(2012):北海道における理科教育の充 実を図るための調査研究-第5回本道の理科教育に関する実態調査-調査研究報告書.http://
www.ricen.hokkaido-c.ed.jp/?action=cabinet_action_main_download&block_id=1632&room_id
=1&cabinet_id=14&file_id=1628&upload_id=2828(最終閲覧2020.11.30)
科学技術振興機構理科教育支援センター(2009):平成20年度小学校理科教育実態調査及び中学校理 科教師実態調査に関する報告書(改訂版).https://www.jst.go.jp/cpse/risushien/investigati on/cpse_report_006.pdf(最終閲覧2020.11.30)
科学技術振興機構理科教育支援センター(2010):平成20 年度高等学校理科教員実態調査報告書.
https://www.jst.go.jp/cpse/risushien/highschool/cpse_report_009.pdf(最終閲覧2020. 11.
30)
文部科学省(2009a):高等学校学習指導要領.株式会社東山書房,296p.
文部科学省(2009b):高等学校学習指導要領解説理科編理数編.実教出版株式会社,232p.
文部科学省(2019):高等学校学習指導要領(平成30年告示).株式会社東山書房,602p.
大阪教育大学科学教育センター(2015):平成25年度大阪府内公立高等学校における理科指導に関す る教員の意識調査報告書:アンケート集計結果.https://opac-ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/web opac/TD00028434(最終閲覧2020.11.30)
山路裕昭・古賀雅夫・星野由雅・中西弘樹・近藤寛(2006):高等学校理科における観察,実験の現 状について.長崎大学教育学部紀要. 教科教育学,46,77-86.