一過性運動による足部の形態変化に影響する要因
山本恭平*・渡邊將司*
(2018 年 8 月 31 日受理)
Factors Affecting Morphological Changes of Foot by Acute Exercise
Kyohei Yamamoto* and Masashi Watanabe* (Accepted August 31, 2018)
*茨城大学教育学部(〒310-8512 水戸市文京2-1-1; College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan).
はじめに
服部(1996)によると,内側縦アーチは歩行時にスプリングの役目を,外側縦アーチは主に体 重を支える役目をしているという。縦アーチと横アーチからなるドーム形状は建築物にもよく見ら れ,上からの荷重に対して強い構造である。つまり足アーチを形成した足は,上から力が加わって も簡単には崩れない仕組みを持ったことになる。また足底の血管,神経などの保護にも役立ってい る。
1歳を過ぎて立ち歩きが始まり,身体活動量が増えるにつれて足アーチが形成されるようになっ てくる。しかし身体活動量が少ないと,べた足のまま大人になってしまうため適切な運動を行わせ る必要がある(浅見2017)。後脛骨筋が足の裏に広がって足アーチの形成に関わっていることは広 く知られているが,長腓骨筋が足の裏の奥深くで立方骨の真下を横切っていることはあまり知られ ていない。この2つの筋が足アーチを上に引き上げ,安定性を生んでいる。つまり,足アーチを形 成するうえで大きな役割を担っている(山﨑2012)。
Clarke(1933)は足アーチの高さと足アーチの角度に0.97の高い相関があることを示した。足アー チ角の計測にはClarkeの計測法が一般的である。Clarke(1933)によると大人の平均は42度であり,
30度以下の足は矯正が必要である。しかし,この足アーチ角の計測がすぐに足の機能の良し悪しや,
足の矯正の必要性を決定するには不十分であり,他の機能テストが必要である(浅見2017)。
ランニングの接地の仕方には大きく分けて3つのパターンがある。まず1つ目は,踵から接地 する後足部接地,2つ目は足底全体で接地する中足部接地,そして3つ目がつま先から接地する前 足部接地である。Lieberman et al(. 2010)は,常にランニングシューズを着用して走るランナーは 後足部接地になり,対照的に東アフリカのランナーのように常に裸足で走る習慣のあったランナー は前足部接地をする傾向があり,前足部接地の方が接地時の衝撃が少ないと報告している。その理
由として吉野(2013)は,前足部接地では接地の衝撃を足アーチやアキレス腱,ふくらはぎの筋 肉などで吸収できるためであると述べている。
近年はランニング人口が増加しそれに伴って足の障害が増えており,足の障害は体重負荷による 足アーチの崩れなどが原因と言われている。足のトラブルの90%は女性であり,アスリートの場合,
足の痛みの原因として自分に合わない靴を履いているということが多い。一方で一般ランナーの場 合は,筋力不足によるものが多い。そのためトラブルを抱える人は女性が多くなり,一般ランナー の場合はこの傾向が特に顕著になるという(内田2012)。また村上ら(1997)は,一般市民ランナー は膝関節がランニング障害を発生しやすい部位であると報告している。さらに山川ら(1998)は,
中学生男子で足部,中学生女子で膝部,高校生では男女とも足部の障害が多いと報告している。そ れにもかかわらず,一過性の運動前後での足の形態変化についての研究は見当たらない。
そこで本研究では,一過性の運動前後での足部の形態変化とその要因を明らかにしていくことを 目的とする。本研究の結果が,ランニングなどの運動で足にかかる負担を小さくし,疲労軽減につ ながると考えられる。その結果としてパフォーマンスの向上につながるサポーターやソックスなど の開発に役立つ可能性があると考える。
方 法
1.対象者
対象は下肢に異常のない運動部活動所属のI大学女子学生25名であった。被験者の特徴は表1に 示すとおりである。計測足は被験者の操作足としたところ,25名中24名が右足,1名が左足であっ た。
表1 被験者の特徴
2.足部形態の計測法
計測足は被験者の操作足とした。計測項目は,①足長,②足幅,③舟状骨高,④足長線から内果 までの距離,⑤足長線から最も内側に突出した点までの距離,⑥踵角,⑦アーチ角,⑧足趾把持力 であった。すべて裸足安静立位で計測したが,足趾把持力のみ裸足端座位で計測した。また数値は ミリメートル単位まで記録した。計測順は,足形態の計測,足趾把持力,足底写真撮影で統一した。
足長は踵から足趾先端までの長さを計測した。5mm方眼紙の中央に裸足の計測足を乗せ,両足 荷重安静立位姿勢をとってもらい,踵と足趾先端に床と垂直になるように定規をあて紙上に線を書 き,その間を計測した。足幅は第1中足骨頭と第5中足骨頭間を触覚計により計測した。舟状骨 高は舟状骨粗面を触診にて決定し,油性ペンでマーキングして床面からの高さを定規にて計測した。
また計測の後,アーチ高率を下記の式にて算出した。
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アーチ高率=舟状骨高(cm)/足長(cm)×100
第2足趾中央部と踵中央部を結んだ線(足長線)から内果までの垂直距離(以下,内果までの距 離)および内側最突出点までの垂直距離(以下,内側最突出部までの距離)の計測は,足長などと 同様に方眼紙上に立位してもらい,内果および内側最突出部に油性ペンでマーキングした。また同 時に第2足趾中央部とその真下の方眼紙(点A),踵後面中央部とその真下の方眼紙(点B)にマー クした。内果,内側最突出部のマーキングした位置の真下の方眼紙上に油性ペンでマークした。点 A,Bを結び,そこからマークした各点までの垂直な距離を定規で計測した。
足底の写真撮影には,照明付き足型判別器を使用した(UCHIDA社製)。平面ガラスが床から 40cmの位置で床面と平行となるようにした。被験者に前方を注視するよう指示し,平面ガラス板 上に裸足で膝蓋骨が正面を向くようにして自然な安静立位をとるようにし,両足に均等に体重をか けた状態で撮影した。足幅は被験者の任意とし,両足全体が写る範囲で自然な足幅とした。立位を とってから姿勢が安定するまで10秒経過した後,足底面の接地状態をスマートフォンにて撮影し た。その写真をパソコンに取り込み,それを白黒コピーし,各線のなす角度を分度器にて計測した。
内側線の延長上と外側線の延長上の交点のなす角を踵角として計測した。また,内側線上の母指球 エッジの接点とアーチの最も深い点とを結んだ線とのなす角度をアーチ角として計測した。
足部柔軟性の測定の際,踵後面を10kgプレートにしっかりつけ固定し,踵が10kgプレートまた 5mm方眼紙から離れないようにして足趾及び前足部を最大限に屈曲し,屈曲した状態の足趾先端 に沿って5mm方眼紙上に線を書いた。足長からその線までの値を引いて足部柔軟性の記録とした。
また,タオルギャザーで足趾把持力を評価した。フェイスタオルを使用し,全被験者同じタオルを 使用するようにした。端座位で膝関節,足関節が90°となるようにし,踵後面に10kgプレートを 置いて踵が動かないようにした。足趾先端から40cm先に2kgの重りを置き,踵が床またプレート から離れないように5回前足部を屈曲させ,重りが移動した距離(cm)を計測した。
3.運動の内容と計測法
トレッドミルを用いて分速130mで30分間の走行試技を行った。運動中には心拍数とRPEを2 分ごとにチェックした。心拍数の計測には,POLAR社製の心拍計を使用した。またランニング中,
被験者の左横から全体が映るよう動画撮影を行い,30分間のおおよその歩数を下記の式にて算出 した。
30分の歩数=10秒間の歩数×6×30
4.統計解析
運動前後の平均値の比較は対応のあるt検定(両側検定)を行った。また競技間の足アーチ高率 の変化量の比較には対応のないt検定(両側検定)を行った。p値が5%未満の場合は有意とした。
足部形態の変化に関係する要因の分析にはPearsonの相関分析を用いた。被験者が25名と少なかっ たため,中程度の相関係数を示しても有意性を得られない可能性が考えられた。そこで本研究では,有 意性にとらわれず|r|≧0.4の場合は「中程度の相関」,|r|≧0.7の場合は「強い相関」があると評価 した。t検定はExcel2016,相関関係は統計ソフトJMP13(SAS Institute,Tokyo,Japan)を用いて行った。
結 果
1.運動中のRPEと心拍数
本研究にて算出された30分ジョギングの平均歩数は5427±194歩であった。また,2分ごとに モニタリングしたRPEと心拍数の間ではr=0.724と高い相関係数を示した。また図1にRPE,心拍 数を示した。表2にその歩数と測定項目変化量との相関,表3に運動中の接地方法とその人数を 示した。
表2 歩数と測定項目変化量の相関
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にとらわれず|r|≧0.4の場合は「中程度の相関」,|r|≧0.7の場合は「強い相関」があると評価した。t 検定はExcel2016,相関関係は統計ソフトJMP13(SAS Institute,Tokyo,Japan)を用いて行った。
結果
運動中の53(と心拍数
本研究にて算出された30分ジョギングの平均歩数は5427±194歩であった。また,2分ごとにモ ニタリングしたRPEと心拍数の間ではr=0.724と高い相関係数を示した。また図1にRPE,心拍数 を示した。表2にその歩数と測定項目変化量との相関,表3に運動中の接地方法とその人数を示し た。
図 被験者全員の53(,心拍数の変化
表 歩数と測定項目変化量の相関 歩数
身長 㻙㻜㻚㻞㻣
足長 㻙㻜㻚㻟㻜
足幅 㻜㻚㻜㻤
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足趾把持力 㻙㻜㻚㻟㻢
内果までの距離 㻜㻚㻞㻝
内側最突出部までの距離 㻜㻚㻝㻥
踵角 㻜㻚㻜㻤
アーチ角 㻜㻚㻝㻥
図1 被験者全員のRPE,心拍数の変化
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表3 各接地方法の人数
各測定項目とRPE,心拍数,身長,体重4項目との相関分析を行った。この相関をみる際,変化 のなかった被験者も含めた25名全員を分析する方法(表4)と,運動前後で正方向にも負方向に も測定値に変化のあった被験者のみを分析する方法(表5)の2通りで行った。
表4,5より,各計測項目とRPE,心拍数,身長,体重の4項目との間で0.4以上の相関がある と認められたのは,足長に変化のあった被験者の足長変化量と心拍数の間のみであった(r=0.56)。
表4 被験者全員の測定項目と4項目の相関
表5 変化のあった被験者の測定項目と4項目の相関
2.運動前後の変化
表6に各測定項目の運動前後のt検定の結果を示した。運動前後の差は,運動後に測定した値か ら運動前に測定した値を引いて算出した。足長,足幅,舟状骨高,アーチ高率,内側突出部までの 距離,踵角,アーチ角の計7項目に有意な差が認められた。
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表6 測定値とt検定の結果
表7には運動前における各項目間の相関係数を示した。またこの際,舟状骨高はアーチ高率の計 算式内に含まれるため,この相関関係を考える上では採用しないものとした。|r|≧0.4の相関を示 したのは,足長と足幅(0.61),足幅と踵角(0.46),足部柔軟性と足趾把持力(0.46),足長線から 内果までの距離と足長線から内側最突出部までの距離(0.75)の計4つで中程度以上の相関があった。
表8に運動後における各項目間の相関係数を示した。ここでも表7と同様の考え方をした。こ こでは,足長と足幅(0.64),足幅と踵角(0.54),足部柔軟性と足趾把持力(0.52),足長線から内 果までの距離と足長線から内側最突出部までの距離(0.61)の4項目に加えて,足幅とアーチ高率
(-0.41),内果までの距離と踵角(-0.49)の計6つで0.4以上の相関係数を示した。
表7 30分ジョギング前測定値の相関
表8 30分ジョギング後測定値の相関
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表6より,ジョギングの前後で有意差があった足長,足幅,舟状骨高,アーチ高率,内側最突出 部までの距離,踵角,アーチ角の7項目それぞれにおいて他の計測項目との相関関係を分析した。
ここでは,①すべての被験者における測定項目の変化量間,②運動前後で測定項目に変化のあった 被験者の変化量間,③すべての被験者の変化量と運動前の各測定項目,④運動前後で測定項目に 変化のあった被験者の変化量と運動前の各測定項目の4パターンについて相関分析を行った(表9
~12)。舟状骨高はアーチ高率の計算式内に含まれるため,表7,8と同様に表9,10の変化量同 士の比較の際にも採用しないものとした。
表9において0.4以上の相関が認められたのは,足長変化量と足幅変化量(0.41),内果までの 距離と内側最突出部までの距離(0.69)の2項目であった。
表10において0.4以上の相関が認められたのは,足長に変化のあった17名の足長変化量と足趾 把持力の変化量(0.49),足幅に変化のあった17名の足幅変化量と踵角変化量(0.49),舟状骨高 に変化のあった12名の舟状骨変化量と足部柔軟性変化量(0.52),内側最突出部までの距離に変化 のあった21名の突出部までの距離の変化量と内果までの距離の変化量(0.73),踵角に変化のあっ た15名の踵角変化量とアーチ角変化量(-0.50)の5項目であった。
表11において0.4以上の相関が認められたのは,足長変化量と運動前踵角(0.41),内側最突出 部まで距離の変化量と運動前内果までの距離(-0.56),内側最突出部までの距離の変化量と運動内 側最前突出部までの距離(-0.59),アーチ角変化量と運動前アーチ高率(0.46),アーチ角変化量と 運動前アーチ角(-0.48)の5項目であった。
表12において0.4以上の相関が認められたのは,運動前後で足長に変化のあった17名の足長変 化量と運動前踵角(0.45),運動前後でアーチ高率に変化のあった20名のアーチ高率変化量と運動
前足幅(-0.45),アーチ高率変化量と運動前足部柔軟性(-0.50),運動前後で内側最突出部までの
距離に変化のあった21名内側最突出部までの距離変化量と運動前アーチ高率(0.40),内側最突出 部までの距離変化量と運動前内果までの距離(-0.54),内側最突出部までの距離変化量と運動前内 側最突出部までの距離(-0.60),運動前後で踵角に変化のあった15名の踵角変化量と運動前足長
(0.49),運動前後でアーチ角に変化のあった21名のアーチ角変化量と運動前舟状骨高(0.45),アー チ角変化量と運動前アーチ高率(0.53),アーチ角変化量と運動前アーチ角(-0.45)の10項目であった。
表9 すべての被験者における測定項目の変化量間の相関
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表10 運動前後で測定項目に変化のあった被験者の変化量間の相関
表11 すべての被験者の変化量と運動前の各測定項目の相関
表12 運動前後で測定項目に変化のあった被験者の変化量と運動前の各測定項目の相関
表13に所属部活動ごと,また屋内競技(バスケットボール,ハンドボール,バレーボール)と 屋外競技(サッカー,陸上競技)のアーチ高率の変化量を示した。屋内競技のアーチ高率の変化量
は-0.50,屋外競技のアーチ高率の変化量は-0.25と活動場所によってアーチ高率の低下に差があっ
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たが,この2群間で対応のないt検定を行ったところ,その差は有意ではなかった(p=0.245)。
表13 所属部活動ごとのアーチ高率の変化量
考 察
本研究は,30分間のジョギングの前後で足部の形態がどのように変化し,また変化が大きい者 はどのような特徴があるのか明らかにすることを目的とした。
1.運動前後の足部の形態変化とその要因
本研究の結果より,運動前後では今回計測した10個の項目のうち7つの項目において有意な変 化が認められた。この7つの項目の中でも最も大きな変化があったのは踵角で,これに次いでアー チ高率であった。
ランニング時,後足部接地をする者は片足に体重の2.2倍のピークが初めに生じ,つづいて体重 の2.8倍のピークが生じる(小林1990)。内田(2012)は,足が地面に接地している時としていな い時は,女性で言えば外周で15~16mmもの差があると述べている。Tsung et al(. 2003)は,男女 8名計16足において体重荷重なし,両足立位,片足立位の3つの状態で足底接地面積,平均高,アー チ高,アーチ角,足長,足幅(右,左),後足部幅の計7つの足部形態において比較した。その結 果,体重負荷なしと片足立位では,右足の足幅のみ有意な差は認められなかったが,足幅以外の6 項目と左足の足幅において有意に差が認められたと報告している。
本研究で女性に分速130mで30分間ジョギングしてもらった平均歩数は5472±194歩であっ た。つまり30分間のジョギングでは,約2,700回もの衝撃を片足に繰り返し与えていることにな る。このことが本研究の運動前後での足部形態変化に影響を及ぼしていることはほぼ間違いないだ ろう。しかし,本研究で足長,足幅はどちらとも身長,体重のそれぞれとの間に相関が認められな かった(表4,5)。つまり足長と足幅の変化には,接地の仕方やシューズのサイズ,クッション性 などが影響してくるのではないかと推測される。また,足長変化量と運動前踵角の間には中程度の 相関が認められた(表11,12)。これは,被験者の多くが日常的に踵から接地する後足部接地をし ていることが関係してくると推測される(表3)。また中雄ら(2014)の行った研究では全被験者
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においてレースが進むにつれて接地時間が増大する傾向が認められ,それと同時に接地角度も増大 していた。このことより接地角度が増加すると接地時間が増大し,疲労が蓄積されやすいと推測さ れる。
踵角が大きくなるということは,同時に全体的な足幅が大きくなり足底接地面積が大きくなって いるということが推測される。実際本研究では,運動前後それぞれの足幅と踵角の測定値間には中 程度の相関が認められた(表7,8)。Fourchet et al. (2012)は,遅いペース(11.2±0.9km/h)で は接地時間が長くなるため時間当たりの足にかかる負荷が大きくなり,反対に速いペース(17.8
±1.4km/h)では最大負荷が大きくなると示した。また,遅いペースでは母指球付近への負荷が有
意に大きくなるとした。本研究は分速130mと遅いペースで30分間の実験試技を行ったため,母 指球付近へ繰り返し負荷がかかり,結果として有意に足幅が大きくなったと推測される。また,
Tsung et al(. 2003)は,3つの荷重状態(体重荷重なし,両足立位,片足立位)の足底接地面積と 足幅の間には強い相関(r=0.77)があることを示した。よって本研究で運動後は足幅,踵角が大き くなったのと同時に足底接地面積も大きくなったことが推測される。
またアーチ高率,アーチ角のどちらとも運動後は有意に低下していたため,運動後は土踏まず付近 の接地面積も大きくなっていると推測される。アーチが低下し足底接地面積が大きくなるというこ とは,それが進行していくと扁平足に繋がっていく可能性がある。武山・北村(1957)は,扁平 足の者の方が正常者に比べて足の主観的な疲労を感じやすいとしている。扁平足の者が怪我をしや すいということは学術的に立証されていないが,疲労が蓄積されるにつれて障害が発生するリスク は高まっていく可能性はあると指摘している。また扁平足は悪化するにともない足部の障害のみで はなく,Lafortune et al(. 1994)の述べたようにknee-in & toe-outとなり股関節や膝部にも痛みが生 じる可能性がある。
アーチ高率に変化のあった被験者のアーチ高率変化量と運動前の足幅,足部柔軟性には中程度の 負の相関が認められた(表12)。つまり元から足幅が小さく,足部柔軟性の低い者ほどアーチ高率 は低下しやすいということである。村田・忽那(2003)は,足趾把持力には足部柔軟性,足アー チ高率,体重の3つが影響を及ぼすとしている。本研究では足アーチ高率に変化のあった20名の 被験者において足部柔軟性で有意な相関があるという結果になった(表12)。
足長線から内側最突出部までの距離の変化量と足長線から内果までの距離の変化量,足長線から 内側最突出部までの距離の変化量と運動前足長線から内果までの距離の2つの間には全て中程度以 上の相関が認められた(表9~12)。足長線から内側最突出部までの距離のみが長くなっていた場 合は,ジョギングの接地の際の負荷によって全体的な足幅が広がっていることが考えられた。しか し,有意ではないが足長線から内果までの距離も同様に長くなっていたため,多くの被験者で運動 後は足が回内するということが推測される。
足長に変化があった被験者(n=17)の足長変化量と運動時心拍数との間には中程度の相関(r=0.56) が認められた(表5)。しかし,変化なし,または運動後足長が小さくなった者も含めた被験者全員 の足長の変化量と運動時心拍数や運動時RPEとの間には有意な相関は見られなかった。つまり足長 が変化しやすい者は,主観的にはきついと感じていなくても心拍数が高い傾向であるが,その理由 は本研究では十分には明らかにできなかった。
本研究前に,タオルギャザーで評価した足趾把持力は足アーチの変化に関係してくると予測して 茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)
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いたが,足アーチ高率の低下との相関が認められなかった(表11,12)。これはタオルギャザーに は純粋に足趾把持力や足底筋のみが必要ではないためであると推測される。またタオルギャザーに は,足趾把持力や足底筋のみではなく,足部柔軟性や足趾巧緻性,足趾長も関係してくると同様に 推測される。本研究においてもタオルギャザーで評価した足趾把持力と足部柔軟性の間には中程度 の相関が認められた(表6,7)。また運動後に足趾把持力の記録が向上している被験者もいた。運 動部活動を継続している25名の被験者は,一般的な女性より体力があり,30分間のジョギングで はあまり疲労しなかったことがこの結果に繋がっている可能性がある。
2.現場での応用
竹井ら(2011)は,健康成人女性を対象にタオルギャザーを実施したところ,開始から3週間 の間には有意な増加が認められたが,3週間から6週間の間では有意な増加は認められなかったと している。また本研究では,足アーチ高率変化量と運動前足趾把持力測定値には相関が認められな かった(表11,12)。そのためアーチ高率をキープするためのトレーニングとしてタオルギャザー も推奨されるべきだが,タオルギャザーは主に前足部のみへの刺激のため,さらに足底全体に広く 刺激を与えることのできるような他のトレーニングも行うべきなのかもしれない。その例として吉 田・中村(2007)の行った砂浜トレーニングは効果的かもしれない。不安定な砂浜を裸足で走る ことによって,しっかり地面を足趾で掴みながら走る感覚が身に付く。また近年幼稚園で行われ注 目されるようになった裸足教育というものは子供にとってはとても効果的であると言える。これ は西澤(2012)によって明らかとなっており,裸足によって一般的な運動能力は高くならないが,
足趾が関わるような運動においては裸足教育を受けた人の成績がよかった。よって足の障害から復 帰する際のリハビリテーションとしてタオルギャザーは早期の効果があるが,足アーチの低下を抑 えるためには砂浜トレーニングなど足底全体で刺激を受けることのできるトレーニングを積極的に 取り入れるべきなのかもしれない。
屋外競技に比べて屋内競技の方が足アーチが低下しやすい可能性がある(表13)。屋外競技の方 がシューズの軽さを重視しアウトソールが薄いためシューズのクッション性が低く,また地面に石 などがあり平坦ではないため足底全体に刺激を受けやすいことが関係してくると推測される。よっ て屋内競技の選手こそ裸足で行うトレーニングや,足底のマッサージを積極的に行い,刺激を与え ることによって,足アーチの低下防止に繋げていくことが重要だろう。
まとめ
本研究では,一過性の運動による足底の形態変化,またそれに影響を及ぼす要因を明らかにする ことを目的とした。得られた結果は以下の通りである。
1.一過性の運動前後では,足長,足幅,舟状骨高,アーチ高率,足長線から内側最突出部までの距離,
踵角,アーチ角に有意な差が認められた。
2.アーチ高率の変化しやすい者は足幅が小さい傾向がある。
3.アーチ高率の変化しやすい者は足部柔軟性が低い傾向がある。
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