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メディカルチェックからみた柔道選手の特性

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(1)

茨城大学教育学部紀要(教育科学)32号(1983)1−9      1

メディカルチェックからみた柔道選手の特性 現役強化選手と引退選手との比較

尾 形 敬 史*

(ユ982年9月30日受理)

AStudy on the Medical Check of Judo Players

Comparison with the Top Level Players and Retired Players

o       Takashi OGATA*

(Received September 30, 1982)

Abstract

Thg present paper deals with a study on the serological and biochemical examination of 18 Judo players, who are composed of g top level players(meml)ers of the national team),

and g retiled players. By the results of examination, the average of G.0.T, Aldolase, LD.H,

and C.P.K, indicating remarkably higher values than the normal values, in the top level players. It wm be sugge§ted that they have the active ability in the body. And the aversge of C.P.K, illdicating remarkably higher values than the normal values in the ret廿ed players.

      o

f.0.T was 17.441U1125 C in the top level players, which was significantly higer than 9.67

      亀

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which was significantly higheτthan l.73 m.U in th6 rethed players(P<0.01). LD.H was 607.O w Units in the top level playels, which was significantly higher than 347.1 w Units in the rethed playels(P<0。001). C.P.K was 472.31Ul l hl the top level playeτs, which was significantly higher than 132.31U/1 h the retiled players(P<0.01). From the foregoing, it can be said that both groups have to do examination of the medical check continuously, to aim to colltrol the health.

@      1

は じ め に

現在,柔道選手の強化のために体力測定をはじめ,競技力向上に関する種々の調査研究が進め られている。競技力向上に関しては,柔道における競技力の要素を分析したり,競技力に最も直 接的に関わる体力因子を解明したり,様々なアプローチが試みられているが,国際大会において,

選手がその競技力を十分に発揮できるように対策をたてることも重要な課題であるといえる。そ れらには,国際大会にはつきものの時差への適応対策や,試合時に限らず選手の傷害予防や健康

* 茨城大学教育学部Faculty of Education・Ibaraki University・

(2)

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(3)

管理などが考えられる。全日本柔道連盟(1980,1981)では,強化選手のうち特に世界選手権 大会やオリンピック等で優秀な成績を収めたあるいは収めることが予想される選手の健康管理を

目的として,内科的診断,尿,血液検査,心電図の測定,胸部レントゲン撮影等を行い,柔道強 化選手は重量級選手ばかりではなく,軽量級選手においてもG.0.T(グルタミン酸オキサロ酢 酸トランスアミナーゼ)やアルドラーゼ,L. D. H(乳酸脱水素酵素),C. P. K(クレアチンホ

スホキナーゼ)等において,正常値を上回っていることを報告している。本研究は,同連盟科学 研究部(1982)の測定した同様のメディカルチェック資料をもとに現役強化選手と現役を引退し た選手の比較検討を行ったものである。

方   法

対象は,全日本選抜体重別選手権大会や世界選手権大会等の国際大会において,優秀な成績を 収めた60kg以下級から95 kg超級までの現役強化選手9名と,指導的立場にある現役を引退し た選手9名の合計18名である。

検査は,尿,血液,心電図,胸部レントゲン(背腹像と側面像の計2枚)であり,1981年3月 から8月にかけて東大病院分院において行った。

結果と考察

現役強化選手(以後現役選手と省略)および現役を引退した選手(同様に引退選手と省略)の 身体的特徴は,表1,2に示した。なお,現役選手は主な競技成績,引退選手は段位と経験年数 をそれぞれ示した。

現役選手の年齢は20歳から29歳までの平均22.3歳,それに対して引退選手は30から44歳ま での平均35.8歳,身長は現役選手が160.8cm〜182.7 cmで平均17L7 cm,引退選手が163.0 cm〜181.O cmで平均172.4 cm,体重は現役選手が62.5 kg〜128.3 kgで平均80.2kg,引退 選手が67.O kg〜97.Okgで平均83.6kg,ローレル指数は現役選手が141〜210で平均156.7,

引退選手が141〜187で平均162.4である。年齢では現役選手と引退選手との間に平均で13.5 歳の差が認められたが,身長は0.7cm,体重は3.4 kg,ローレル指数は5.7の差であり,平均で みる限りほぼ同様の体格であった。しかし,現役で特に体重の重い95kg超級のT.Nを除くと,

現役選手のローレル指数は平均150となり,引退選手との差は12.4となり,現役選手の方がや や締まった身体つきを示す傾向にある。

皮下脂肪厚は,上腕背部で現役選手が5,5mm〜19.5mm,平均7.9 mm,それに対して引退選 手は4.5mm〜10.O mm,平均7.2mmでありほぼ同様であるが,特に大きい値を示した現役の T.Nを除くと41 mm対7。2mmとなる。肩甲骨下部では現役選手が7.5 mm〜52,0mm,平均

16.Om,引退選手は8.Omm〜36.Omm,平均19.9mmであり,やはりほぼ同様であるが,同じ ようにT.Nを除くと11.5mm対19.9mmとなり,上腕背部と同様の結果を示し,ローレル指

(4)

表3 現役強化選手の血清学的検査及び生化学検査の結果

階級 一60kg 一65kg 一78kg 一86kg +95kg 項目      対象 H.Ke H.Ka H.H S,T H.N K.K K.H N.S T.N 血清学的検査

RA試験 (一) (一) (一) (一) (一) (一) (一) (一} (一)

CRP試 験 (一) (一) (一) (一) (一) (一) {一) (一) ASO価(T.U) 120 80 160 80 320 120 160 80 320 生化学検査

総 蛋 白(6.5〜8.3g/dZ) 6.8 6.9 7.3 8.1 7.3 7.4 7.2 7.9

チモール混濁試験

@   (0〜5.5Units) 2.8 0.7 2.2 2.1 1.9 1.8 1.5 1.5 0.9

黄疸指数(4〜8Units) 10 9 10 7

コレステロール

@   (130〜260mg/dの 174 134 143 165 193 243 213 171 154 ブドウ糖(65〜115mg/dD 104 72 112 82 120 16 105 90 100 尿素チッ素(8〜18mg/dZ) 18 16 12 15 17 24 25 17 20 G.0.T(0〜121U〃25℃) 12 19 17 21 21 21 19 13 14 G.P. T(0〜121U〃25℃) 6 7 6 7 7 13 8 10 20

アルカリ性燐酸チッ素

@    (3〜9K.A.Units) 5 3 5 5 3 6 5 5 4

アルドラーゼ(0.3〜3.1m.U) 3.9 6.9 3.5 9.1 4.6 5.1 4.5 3.1 3.7

乳酸脱水素酵素

515 702 546 712 626 555 703 485 619

(190〜400wUnits)

ロイシンアミノペプチターゼ

@ (82〜199G.R.Units) 168 185 192 170 199 218 172 186 176 尿   酸(3.2〜7.6mg/dZ) 5.7 6.3 6.6 7.4 8.3 6.5 5.6 7.1 4.2

クレアチンフォスフォキナーゼ

@    (5〜501U〃) 319 441 384 1040 464 479 509 353 262

数でみられるように,現役選手の締まった身体つきを裏付ける数値であった。皮下脂肪厚の数値 から計算式によって求められた体脂肪量(%)は,現役選手は同じように95kg超級のT. Nを除 く全員が10%台であるのに対し,引退選手は9人中6名が10%台であった。したがって,同程 度の体重では現役選手の方が引退選手よりも除脂肪体重は重いようである。成人男子の体脂肪量は 17〜19%くらいといわれ,20%を越えると肥満傾向にあるといえるが,引退選手では年齢が高く,

なお体重の重い選手は体脂肪が多い傾向にあり,現役選手では超重量級である95kg超級の選手 において,同様の傾向が認められた。これは現役選手では現在の試合形式は体重制が主であり,

制限体重の範囲内で闘う95kgより軽い選手は,同体重の場合,不活性要素である体脂肪の少な い身体すなわち除脂肪体重の多い方が筋肉量の多いことになり,有利であるといえる。また,体 重制限のない95kg超級の選手は,自分の身体を敏捷に活用でき,かつ全身持久性能力の低下に 結びつかない範囲内でならば体脂肪は必ずしもマイナス要素とはならず,逆に体重が重いほど有 利であるといえる。

心電図の結果(表省略)は,安静時もTwo−Stepで負荷をかけた時も全員異常は認められな かった。安静時の心拍数(同)は,平均で現役選手が61.4拍,引退選手が60.5拍であり,差はな かった。血圧(同)は,最大値の平均が現役選手111.7mmHgに対し,引退選手126.2 mmHg,

最小値の平均が現役選手77.2mmHgに対し,引退選手81.4mmHgであり,両群とも正常値の 範囲にあり,高血圧者は存在しなかった。

(5)

表4 引退選手の血清学的検査及び生化学検査の結果

      対象項目

K.K M.Y Y.H 0.T 0.K N.K H.T T.K T.M 血清学的検査

RA試 験 {一} (一) (一) (一) (一) (一) {+} (一) (一)

CRP試 験 (一) (一} (一) (一) (一} {一} (一) (一} (一)

ASO価(T.U) 60 160 120 20 40 60 120 120 80 生化学検査

総 蛋 白(6.5〜8.3g/dの 6.7 6.9 7.1 7.6 6.9 6.8 7.1 9.7 6.7 チモール混濁試験

@   (0〜5.5Units) 0.7 3.0 2.9 3.5 2.1 1.7 6.0 10.0

3.7

黄疸指数(4〜8Units) 11 7 6

コレステロール

@   (130〜260mg/dZ) 142 233 213 204 184 156 192 211 249 ブドウ糖(65〜115mg/dZ) 108 102 107 100 110 98 100 108 126 尿素チッ素(8〜18mg/dZ) 18 18 18 18 17 18 13 19 12 G.0.T(0〜121U〃25℃) 4 9 7 8 10 6 8 19 16 G.P. T(0〜121U〃25℃) 4 8 6 5 10 5 9 25 22

アルカリ性燐酸チッ素 3 4 4 4 5 3 3 4

(3〜9K。A.Units)

アルドラーゼ(0.5〜3.lm.U) 1.5 1.8 1.5 1.5 1.4 1.2 1.5 3.0 2.2 乳酸脱水素酵素

@   (190〜400wUnits) 362 369 334 394 301 267 402 316 379

ロイシンアミノペプチターゼ

@  (82〜194G.R.Units) 122 146 148 112 153 125 184 167

尿   酸(3.2〜7.6mg/dZ) 4.6 7.0 6.1 5.2 3.9 5.0 6.2 9.4 7.6 クレアチンフォスフォキナーゼ

@   (5〜501U〃) 141 255 65 129 76 53 255 141 76

表3,4に両群の血清学的検査,生化学的検査の結果を示した。

血清学的検査についてみると,慢性関節リューマチや膠原病,肝疾患,胆道疾患などの指標と される(広範囲 血液・尿化学検査 1982一その数値をどう読むか一以下省略)(1982)RA試 験(rheumatoid arthritis test)では,引退選手のH.Tだけが陽性を示し,他は全て陰性であ

った。同様に陽性だと膠原病や感染症,消化器疾患,心血管疾患,腫腸などの病態や疾病を示す というCRP試験(C反応1生蛋白, C reactive protein test)では,現役選手のT. Nだけが±を 示した他は全て陰1生であった。このCRP試験は,性,年齢,食事,運動,睡眠採血時間など による影響はほとんどみられず,原則として正常状態では陰性であるから,陽性ならば直ちに病 的と考えてよいとされる。ただし,騙歯のような軽微な炎症があっても陽1生を示すなど甚だ鋭敏 でもあるとされるので,陽性といっても必ずしも直ちに病的と判断できるわけではない。また,

高値を示すようだと溶連菌感染症(リューマチ熱,急性糸球体腎炎,皮膚化膿症,肺炎など)や 多発骨髄腫,肝炎などカ㍉低値を示す場合は免疫不全症候群が疑われるというASO価(抗スト

レプトリジンー0値,antistreptolysin−O value)では,300単位以上が1回測定でも一応有意 の上昇と考えられ,1000単位以上のASO価は一応高度の上昇と考えてよいとされるが,現役 選手のH.NとT.Nが320 T. Uとわずかに300単位を上回った他は,全て正常の範囲内の値で

あった。以上の結果,血清学的検査では両群ともおおよそ正常であったが,わずかに異常値を示 した数名については,いずれも健康状態は良好な者いわゆる健常者である。この種の検査では健 常者にあっても異常値を示す者が必ずしもゼロという訳ではなく,また1回測定であることを考

(6)

え合わせると,この値をもって直ちに疾病や疾患が疑われるという訳ではないが,今後継続的な 検査や観察の必要性があると考えてよいと思われる。

生化学検査では,測定した20項目のうち14項目を表に示した。各項目の()の中は,一応 正常な値とされている数値である。次に有効な数値が得られた項目をみていくこととする。

値の高い場合は肝硬変や慢性肝炎,低い場合は肝機能障害を示すという血清総タンパク(total protein)(6.5〜83g/dZ)では,引退選手のT. K(9.7g/dZ)だけが正常な範囲を越えた他 は全て正常であった。肝機能検査の一つとして一般に用いられ,肝炎初期に比較的敏感に反応す る(とくにウィルス性のA型でその傾向が強い)とされるチモール混濁試験(thmol turbidity test) (0〜5.5Units)では,血清総蛋白と同様に正常の範囲を越えたのは引退選手のT. K

(1αOUnits)とH.T(6.O Units)であった。動脈硬化や高コレステロール血症で知られるコレ ステロール(cholesterol)(130〜260 mg/dZ)は,高値の時,肝・胆道疾患やネフローゼ症候 群,心・脈管系疾患などがみられるとされるが,現役選手が134〜243mg/dZ,引退選手が142

〜249mg/dZを示し,両群とも全員.が正常な値の範囲にあった。なお,コレステロールについ ては,最近ではLDLコレステロールとHDLコレステロールの値が問題とされ,虚血性心疾患 や肥満,高脂血症,脳梗塞,糖尿病,胆石症などの場合HDLコレステロールの低下がみられ,

これにはタバコやコーヒーなどが強い関連があるといわれ,反対に運動や適量のアルコールなど は,HDLを増加させ抗動脈硬化作用があるともいわれている。したがって,杉本等(1963)や 小川等(1973)の報告にみられる相撲力士や年寄における高血圧症と糖尿病の多発のように,

現役を引退後のスポーツマンは生活環境因子によっていわゆる成人病が人一倍発症しやすい場合 もあるので,柔道選手の場合も特に肥満傾向にある中高年になる引退選手は,一定の規則的な運 動や食生活など健康管理の必要性が指摘されよう。糖尿病でよく知られるブドウ糖(blood glu一 cose)(65〜115mg/dZ)は,現役選手のK.K(16mg/dZ)が正常範囲より低い値だった他は 全て正常な値の範囲であった。これは,後で採血時の条件についてふれるが,K.Kは国際大会 参加を間近に控えて減量中であり,特にブドウ糖(血糖)は食事の摂取によって最大40〜50mg

/dZの変動がみられ,空腹か否か,食事の直後か否かなど採血時の条件によってその値が大きく 変わるといわれ,K.Kの場合は減量の必要から減食中であり,その影響によるものと思われる。

食物として体内に摂り入れられたタンパク質の最終代謝産物である尿チッ素(BuN)(8〜

18mg/dZ)は,5〜23 mg/dZでも正常な範囲と考えてよいとされ,値の高い場合は腎疾患や肝,

心疾患などを示すとされるが,現役選手のK.K(24 mg/dZ),K,H(25 mg/dZ)の2名がや や高い値を示した他は全て正常な値の範囲であった。生体内の触媒の働きをする酵素の一つであ

り,アミノ酸の代謝に重要な役割を果しているG.0.T(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミ ナーゼ,glutamic oxaloacetic transaminase)(0〜121U〃25℃)は,肝疾患や心筋障害,骨 格筋その他の疾患にも不可欠の検査として広く行われ,特に肝疾患ではG.P.T(グルタミン酸

ピルビン酸トランスアミナーゼ)との関連(G.0.T/G. P. T比)が診断に役立つことから,その 血清中の酵素活性値が重視されるというが,現役選手は12〜211U/Z 25℃でほとんどの者が正 常の値の範囲を越えているのに対し,引退選手では4〜191U〃25℃でT. K(191U〃25℃),

T.M(161U〃25℃)の2名が正常の値の範囲を上回っていた。 G.0.Tとともに肝疾患の診断 ならびに経過観察の指標として不可欠とされるG.P. T(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナ

(7)

一ゼ,glutamic phyruvic transaminase)(0〜121U〃25℃)では,現役選手のT. N(201U/

Z25℃),および引退選手のT. K(251U〃25℃), T. M(221U〃25℃)とそれぞれ体重の比 較的重い者が正常な値の範囲を越えていた。主として,筋肉疾患の指標とされる酵素であるアル

ドラーゼ(aldolase)(0.5〜3.1 m. U)では,現役選手は3.1〜9.1 m. Uと全員が正常な値の範 囲を越えていたのに対し,引退選手は1.2〜3.Om.Uと全員その範囲内にあった。乳酸と焦性ブ

ドウ糖との変換を可逆的に触媒する酵素である乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase, L.D.

H)(190〜400wUnits)は,心筋硬塞や実質性肝疾患,悪性腫瘍などの指標とされるが,現役 選手は485〜712wUnitsと全員が正常な値の範囲を越えたのに対し,引退選手は301〜402 w Unitsと全て正常な範囲内であり,アルドラーゼと同様の傾向を示した。主として肝・胆道系疾 患の指標とされる酵素であるロイシンアミノペプチターゼ(1eucine aminopeptidase, h. A. P)

(82〜194G. R. Units)は,現役選手のH. N(199 G. R. Units), K. K(218 G. R. Units)の2

名がやや高い値を示した他は全て正常の値の範囲にあった。痛風の原因物質としてよく知られ,

核酸の最終代謝産物である血清尿酸(uric acid)(3.2〜7.6 mg/dl)は,現役選手のH. N(8.3 mg/dl)と引退選手のT. K(9.4 mg/dl)の2名がやや高い値を示した他は全て正常な値の範囲内 にあった。筋肉の収縮に関与する酵素であるクレアチンホスホキナーゼ(creatine phosphokinase,

C.P. K)(5〜501U〃)は,アルドラーゼと同様に筋疾患や心筋硬塞,進行性筋ジストロフィ 一などで異常高値を示すとされるが,全員が正常な値の範囲を越えており,特に現役選手はその 値が高く,G.0. Tやアルドラーゼ,乳酸脱水素酵素(L. D. H)と同様の傾向にあった。

以上の結果から特に異常のあった項目についてみると,現役選手ではG.0.T(グルタミン酸 オキサロ酢酸トランスアミナーゼ),アルドラーゼ,乳酸脱水素酵素(LD.H),クレアチンホス ホキナーゼ(C.P. K)などにおいて,顕著に正常な値の範囲を越えていた。引退選手では,クレ アチンホスホキナーゼ(C.P.K)においてのみ正常の範囲を上回っていた。現役選手と引退選手 との比較では,G.0.Tは,現役選手が平均17.441U〃25℃で,引退選手の平均9.671U/Z 25℃

の2倍近い値を示し,80.4%(t検定の結果はP〈0.05,以下同様)上回っていた。アルドラー ゼでは,現役選手が平均4.93m. Uで,引退選手の平均1.73 m. Uの3倍近い値を示し,185.0%

(P〈0.01)上回っていた。乳酸脱水素酵素(L.D. H)では,現役選手が平均607・O w Units で,引退選手の平均347.1wUnitsの2倍近い値を示し,74.9%(P<0.001)上回っていた。

両群とも,正常な値の範囲を越えていたクレアチンホスキナーゼ(C.P. K)では,現役選手が平 均472.31U〃で,引退選手の平均132.31U〃より3倍を越す値を示し,257.0%(Pく0.01)上 回っていた。

ところで,血清中には酵素の合成系は含まれておらず,血清に活性が検出されるとすれば,そ れはすべて体内のどこかの臓器に由来しているものといわれる。この場合,該当酵素が障害され た臓器からそのまま血清に漏出してくることもあり,またある臓器が障害され,その直接障害を うけた臓器からではなく,その影響を受けた遠隔地にある臓器から酵素が漏出してくることもあ るといわれる。G.0.T(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)は,肝疾患や心筋障害 の検査に使われるが,心筋の中に含まれ心臓の働きに関与し,心筋の働きに負荷のかかった場合 など値が上昇するといわれる。現役選手はほとんどの者が正常値を越えており,引退選手より 8α4%増の値を示した。現役選手の採血条件が合宿中ということもあるが,平常から激しい稽古

(8)

を続けており,筋肉活動の量的面からみて生体の活性の高さを示すものと考えられる。逆に引退 選手で正常値をやや越えた年齢の高い2名は,体重が重く,体脂肪量も多いことから肝機能障害 の可能性が示唆されると考えた方が妥当と思われる。アルドラーゼは,生体のエネルギー発生の

もとである解糖系の中位で触媒作用をしている酵素だが,神経・筋肉疾患や心臓疾患で活性値が 上昇を示し,烈しい運動や痙攣,ショックなどでも活性値が上昇するという。現役選手は全員が 正常値を越えており,正常値の範囲にあった引退選手より185.0%高い値を示し,筋活動の旺盛

さを示唆している。乳酸脱水素酵素(L.D.H)は,筋収縮の直接的エネルギーであるA.T.P(ア デノシン3燐酸)の再合成に深く関与している酵素である。アルドラーゼと同様に現役選手は全 員が正常値を越え,その範囲内にあった引退選手より74.9%上回り,やはり筋活動の旺盛さを示 唆し,活性の高さが伺がわれる。クレアチンホスホキナーゼ(C.P.K)もL.D.Hと同じように A.T.Pの分解と再合成に関与している酵素である。両群とも正常値を越えていたが,現役選手が 引退選手を257.0%も上回り,同様に活性の高さを示す証左の一つといえよう。

全日本柔道連盟強化委員会科学研究部(1980,1981)の報告では,現役の強化選手は乳酸脱 水素酵素(L.D.H)やロイシンアミノペプチターゼ(L.A.P),クレアチンホスホキナーゼ(C. P.

K)などにおいて,重量級の選手ばかりでなく,軽量級の選手においても正常の値を上回っていた が,今回も現役選手はおよそ同様の傾向がみられた。これらは,平常激しいトレーニングや稽古 を行っていることに由来する現役選手の生理的特徴といえるが,いずれも強度の運動負荷がかか った場合に増加すると考えられる項目群における特徴であり,追い込まれた状態とはいえないま でも,合宿期間中における測定である点は考慮する必要があると思われる。この点について,他 の研究報告をみると,講道館柔道科学研究会(1980)の女子柔道強化選手の合宿中の血液生化 学的検査の結果では,やはり女子柔道選手もG.0.Tや乳酸脱水素酵素(LD.H),クレアチンホ

スホキナーゼ(C.P.K)などが高い値を示すが,特に合宿前より終了後において著明にその値が上 昇することを報告している。また,日本アマチュアレスリング協会(1978)の世界選手権代表選手 の合宿中の血液生化学的検査では,尿酸値やG.0.T, G.P.Tの値に異常がみられる者があり,

特にクレアチレンホスホキナーゼ(C.P.K)の値が全員に異常に高い値がみられ,採血が合宿一 週間目の早朝という条件から,全身の筋肉活動が激しかったためであろうと報告している。日本

ウェイトリフティング協会(1981)の調査では,柔道とは運動形態が若干異なるが,激しい筋 活動を行う点では共通する重量挙選手の尿酸値について,現役選手と元選手(現在バーベルは握 っていない)との比較では,現役選手が平均7.5mg/dJであるのに対し,元選手は6.1mg/dZで あり,やはり現役選手の方がその値が高いことを報告している。なお,同報告では合宿練習(15 日間)での血清尿酸値と総コレステロール値の変動(開始日と終了前日に採血)について,尿酸値 は平均が6.99mg/dZから8.43 mg/dZに上昇し,総コレステロール値は189 mg/dJから182.33 mg/dZに低下したことを認め.激しい運動の影響によって尿酸値が上昇することを報告している。

このように,他の研究報告においても合宿練習による激しい運動が血液の生化学的検査結果に 影響することを認めているが,いずれにしても現役で練習を続ける選手達の測定値が高く,生体 の活性が高いことも確かである。本調査の結果も,現役選手は合宿の影響はあったとしても測定 値はかなり高い項目があり,生体の活性度の高さが伺われた。また,引退選手は現役選手よりも 値は低く,おおよそ正常の範囲にあるが,異常値を示す項目もあり,現役,引退選手とも健常者

(9)

であるところから生体の活性が高いといえるが,反面,健康管理の点から継続的なメディカルチ エックが必要といえる。

ま と め

柔道選手の健康管理を目的として,現役の強化選手9名と指導的立場にある引退選手9名の血 清学的検査と生化学的検査を行った結果,現役選手はG.0.T(グルタミン酸オキサロ酢酸トラン スアミナーゼ),アルドラーゼ,乳酸脱水素酵素(L.D.H),クレアチンホスホキナーゼ(C。P.㊧

〈0.01,LD.H:P<α001,C.P.K:P<0.01)高い値を示し,生体の活性の高さが示唆され た。引退選手においてもクレアチンホスホキナーゼ(C.P.K)において正常値を上回り,両群と

も生体の活性の問題だけでなく,健康管理の面から継続的な観察の必要があると思われる。

引用文献

講道館柔道科学研究会女子柔道研究班1981.「一流女子柔道選手の合宿練習が生理機能に及ぼす影響につい て一特に血液生化学からの検討一」『柔道』52(10),pp.54−60.

日本アマチュアレスリング協会スポーッ科学班1978.競技種目別体力トレーニング処方に関する研究「ア マチュアレスリング  レスリング選手の体力向上に関する研究一」『昭和52年度日本体育協会ス ポーツ医・科学調査研究事業報告』1,pp.77−103.

日本ウェイトリフティング協会科学研究班1981.競技種目別競技力向上に関する研究「ウェイトリフティン グーウェイトリフティング選手の血清尿酸値と食生活の実態についての調査研究一」『昭和55年 度日本体育協会スポーツ医・科学調査研究事業報告』4,pp.143−165.

遠藤武男1982.「広範囲血液・尿化学検査1982一その数値をどう読むか」『日本臨床』40(臨時増刊)

pp.121−1053.

小川新吉,古田善伯,永井信雄,山本恵三,美濃部浩一1973.「元相撲力士(年寄)の健康状態に関する 研究」『東京教育大学スポーツ研究所報』11,pp.1−14.

杉本良一,阿部正和,種瀬富男,池田義雄,溝部碩子,高橋忠雄,河村真人,小山勝一,菊地陽三,小川新 吉,勝田 茂,春山国広1963.「力士の糖尿病発現頻度に関する調査成績」『体力科学』12(4),pp.

160−165.

全日本柔道連盟強化委員会科学研究部1980.「競技種目別競技力向上に関する研究;柔道」 『昭和54年度 日本体育協会スポーツ医・科学調査研究事業報告』3,pp.41−68.

全日本柔道連盟強化委員会科学研究部1981.「競技種目別競技力向上に関する研究;柔道」『昭和55年度 日本体育協会スポーッ医・科学調査研究事業報告』4,pp.167−184.

全日本柔道連盟強化委員会科学研究部1982.「競技種目別競技力向上に関する研究;柔道」『昭和56年度 日本体育協会スポーツ医・科学調査研究事業報告』5,pp.69−86.

参照

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