[資料] 設備投資計画評価のための会計分析方法
その他のタイトル [Material] Analytical Method in Capital Investment Decision
著者 末政 芳信
雑誌名 關西大學商學論集
巻 15
号 2
ページ 159‑184
発行年 1970‑06‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021182
〔 資 料 〕
設備投資計画評価のための 会計分析方法
末 政 芳 信
1. は し が き
経済環境の急激な変化とともに技術革新の進展と企業の規模拡大が著しく なっている今日この頃,企業における長期経営計画の展開は設備投資計画を 中心にしてますます重要性を加えてきている。
長期経営計画は企業の体質改善を企てる基本的な経営構造計画たる性質を もち,その計画には設備投資計画,新製品開発計画,長期販売計画,長期人 事計画,長期資材調達計画,長期資金収支計画などが含まれる。これらの計 画は個々に単独で個別計画として立てられる場合と,それらは相互に関連を もった一連の調整された期間計画の形で立てられる場合とがある。さて,そ れら計画のなかでも設備投資計画は長期経営計画展開における基幹をなすも のであり,そのよき計画は企業の成長•発展に貢献するところが大きい。し たがって,このような設備投資計画を個別計画の形で取り上げることは重要 であると思われる。
設備投資計画における具体的な課題としては,①設備の拡張,②設備の取 替,⑧設備の新設,④設備の購入か賃借かなどの投資決定をなさなければな
(1)
らない問題がある。これら設備計画に関する投資決定は,一般的に,(1)投資 のための支出金額も大き <,(2)長期的な投資としての財務的危険性も高く.
(1) 一般的には,投資はデイーン教授の考え方による取替投資,拡張投資,製品系 列投資,戦略的投資の四つに分類整理される(古川栄一著『財務管理』昭和38年 経林書房 219‑220頁参照)。
(2)
(3)その投資決定は企業の基本的な経営構造をも規定することになるので,ぁ らゆる情報資料を収集整理・分析して慎重に企業の目的にかなった望ましい 計画を打ち立てなければならない。 '
設備投資計画のための会計は,管理会計における意思決定会計の主要な課
(3)
題である資本予算の問題として大きく取り扱われている。したがって,管理 会計の側面からも設備投資計画を重要な対象領域として考え,設備投資計画 において使用される会計諸概念,会計諸手続,ならびにその評価のための会 計分析手法について論及しなければならない。
ここでは,管理会計の側面から設備投資計画を考えることを基本的な姿勢 としているので,設備投資計画に関するすべての重要な課題を全面的に取り 上げないで,とくに設備投資計画の評価選択のための会計分析方法を取り上 げることにした。そこで,設備投資計画において使用される会計諸概念なら びに会計諸手続については投資計画評価の分析に必要な程度にふれることに とどめたい。
さらに,設備投資計画評価のための会計分析方法としては最近の財務管理 論で取り上げられているシュミレーツョンやL。Pなどを使用する新しい分 析方法も重要ではあるが,ここではいわば伝統的な分析方法としての会計分 析方法のみを取り上げた。したがって,本稿は新しい分析方法を積極的に展 開•主張しようとするものでなく,現在種々の文献でみられる分析方法につ いて私なりに理解したものの要約整理である。それは本稲そのものよりも,
つぎに予定している渭設備投資計画評価のための利益図表分析=への予備的 導入を図ることを主目的としているためである。それ故,本稿は設備投資決 (2) アドルフ・マッツ稿藤田幸男訳可原価分析と利益計画_完=企業会計 第
21巻第12号(昭和44年11月) 12頁参照。
(3) 資本予算において取り扱われる課題は資本支出 (capitalexpenditure)に関する 予算であり,必ずしも設備投資に関するものだけに限られなく,投資に関するすべ ての問題,たとえば社債の借替えなどの問題も含まれる (HaroldBierman, Jr. &
Seymour Smidt, The Capital Budgeting Decision (New York: Macmillan Co., 19 60) H.ビヤーマン, ・Sシュミット著 染谷恭次郎/鎌田信夫訳『資本予算の決定 方法』昭和37年ダイヤモンド社 7頁参照)。
設備投資計画評価のための会計分析方法(末政) (55)
'
定のための分析方法を学習する手引ないし参考資料の性質をもっている。
なおまた,設備投資計画評価のための会計分析方法を取り上げるため,そ の評価分析も貨幣金額的計算によるいわぱ会計的(財務的)な側面からの評 価分析になり,非計量的・社会的その他の要素を重視する設備投資計画の評 価分析ほ本稿の範囲外であることをつけ加えておきたい。
2. 設 備 投 資 計 画 作 成 の 基 礎
設備投資計画の良否は企業の経営構造に重大なる影響を及ぽすから,その 良否を評価,判定する会計分析方法についても従来から多大の関心が払われ てきた。
設備投資計画を具体的に評価,決定するための分析方法は純理論的側面か らも,実務的側面からも興味ある課題である。事実,近代経済学,財務管理 論,経営科学,管理工学,における理論的研究課題の1つとして論及されて
(1)
いる。他方企業経営の実務担当者によっても実践的な課題として取り上げら れている。さて企業の経営管理に役立つべき管理会計の側面より考える場合 には,ゃしまり設備投資計画をどのような形で具体的に行なうかという実践的 な立場が主眼になると思う。しかし,それは単なる企業の実務面にのみに忠 実に眼を向けないで,近代経済学,財務管理論,経営科学,管理工学などの この分野における理論的成果の中から,個々の企業に具体的に適用可能なも のを吸収していかなければならないであろう。
このように考えると,設備投資計画評価の分析作業においてまず注意しな ければならない事柄は,つぎの NAAの調査冊子で示されたバシレトウーサ ノボウロス氏の叙述であろう。
彼によれば,
「1. 簡単な数字で投資提案の長所を要約すべきである。
2. 異なったプロジェクト間における比較を容易にすべきである。
(1) とくに最近の財務管理論では芍史資の決定弓嗜奇本コス戸の問題が理論的に 取り上げられている。たとえば,丹波康太郎編『財務管理概論』昭和43年 有 斐 閣 を参照されたい。
設備投資計画評価のための会計分析方法(末政)
3. それを利用する人々に簡単かつ容易に理解させるべきである。
4. 会社の長期目的にかなった用語で示さるべきである。」(2)
と述べられている。
以上のことがらを基本的に心掛けながら,実践的に可能な形のものを考え るべきであろう。
実践的に理解され易く実行可能な,具体的な設備投資提案を描くためには,
種々の会計諸概念を取り上げなければならないが,ここでは,一般に使用さ れるものを若干つぎにあげることにする。
A 投資額 (investment,cash outflow)
特定の設備投資案を選択したための資本支出額である。
B 各年次の現金収入額 (cashinflow)
特定の設備投資案の選択によってもたらされる各年次の現金収入額であり,
それは設備投資案の選択によって生ずる現在の維持費等の現金節約見積額 と,設備投資案の選択により増収可能となる現金収入見積額の合計である。
c
各年次の減価償却費特定の設備投資案選択により生ずる各年次別の減価償却額である。この場 合,どのような減価償却方法を選択するかにより,減価償却額が変り法人 税等支出額,税引後現金収入の増加額に影響を与えることに注意を要する。
D 経済的命数 (economicli(3) fe)
各年次の現金収入が期待される年数であり,むしろそれは固定資産の税法 上の耐用年数と一致しない場合が多い。
E 税引前の各年次利益
特定の設備投資案の選択によってもたらされる課税前の年次利益である。
F 各年次の法人税等支出額
各年次利益に課税され,年次現金収入から差引かれるべき法人税等支出額
(2) Elly Vassilato‑Thanopoulos, Financial Anaりsis Techniques for Equipment Re‑ placement Decisions, NAA Research Monograph No. 1, 1965, pp. 11‑12.
(3) economic lifeの予測についてはNAAの調査冊子が参考になるであろう (Elly Vassilatou‑Thanopoulos, op. cit., pp. 49‑f>4.。)
である。
G 各年次の税引後現金収入の純増加額
各年次の現金収入額から法人税等支出額を差引いたものであり,これはま た各年次の税引後の年次利益に減価償却額を加えたものに等しい。
H 特定の設備投資の経済的命数終了後の処分可能収入見積額 I 特定の設備投資の経済的命数終了後の除却費用支出見積額
J 設備取替の場合には,旧設備の処分可能収入見積額または除却費用支出 見積額
k 必要な最低目標利益率ないし資本コスト
これは特定の設備投資案を選択するかどうかの基準となるものである。資 本コスト概念には理論的に種々の考え方があるが,後で簡単にふれること にする。
ここでは,以上の概念のうち各設備投資案の良否を評価する分析方法の特 徴,相違を明らかにすることのできる程度の最低必要なものの使用に限るこ
とにすれば,それにはつぎの3つの概念が必要である。
A 投資額 D 経済的命数
G 各年次の税引後現金収入の純増加額
これらを使用した具体的な例示をつぎに仮定することにする。それはこの 具体的な数字を使用して次節以下で各分析方法の特徴をみるためである。
第 1 表
プロジェクトの種類 プロジェクトA プロジェクトB プロジェクトC 投 資 支 出 額 3,037千円 3,037千円 3,037千円 税引後現金収入額
第 1 年 度 1,000 II 1,500 II 500 第 2 年 度 1,000 II 80011 1, 000,, 第 3 年 度 1, 000,, 1,200,, 1, 00011 第 4 年 度 1,000,, 50011 1, 700 II
計 4, 00011 4, 00011 4, 200,, これは3つの設備投資プロジェクト案の中から,いずれか1つを選択しな
設備投資計画評価のための会計分析方法(末政)
ければならない場合に,いずれの案を選択したらよいかの財務的評価。決定 の問題,すなわち相互排他的代替案選択決定の問題である。
設備投資プロジェクトを評価するための会計分析方法としては数多くのも
(4)
のがあげられるが,一般に代表的なものとして多くの文献で示されている4
(5)
つの方法をあげると,つぎの通りである。
A.現金の時間的価値を考慮しない方法
(イ) 回収期間法
( 口
) 投資利益率法
B.現金の時間的価値を考慮する方法
い
) 割 引 キ ャ ッ ツ ュ ・ フ ロ ー 法
(二) 現価法
これらの分析方法の概要については節を改めて述べることにする。
3. 回 収 期 間 法 (payback, or payoff method)
現金の時間的価値を考慮しない分析方法の代表的なものとして回収期間法 と投資利益率法がある。
回収期間法は投資支出額を毎年の現金収入額で回収するのに必要な期間
(年数)を計算する方法であり,計算された回収期間とこの種のプロジェク トについて企業経営者が考慮している回収期間との比較によって,それより も短かければ,そのプロジェクト案を選択する。
回収期間の計算方法にはつぎの2種類のものがある。
(4) 上記4つの方法の外に,単純原価比較法,資本回収法, MAPI法,現価指数法,
損益分岐点分析法, L•P 計算による方法などの分析方法が多くの著書で取りあげら れている。
(5) 代表的な分析方法としてこれらの4つをあげているものに,たとえばつぎの文 献がある。
① アドルフ・マッツ稿•藤田幸男訳靖前掲論文"'15-20頁。
R Harold Bierman, Jr., Topics in Cost Accounting and Decisions (New York: Mc‑
Graw‑Hill Book Co., 1963), pp.119—129. H.ビヤマン著溝ロ一雄監訳『原価 管理と経営意志決定』昭和40年税務経理協会 173‑186頁。
(1) その1は各年度の現金収入額をそのままの形で使用して回収期間を求め る方法である。
(2) その2は各年度の現金収入額を平均して,その平均収入額によって回収 期間を求める方法である。
具体的に前節の数字を使用して両者の方法により回収期間を計算すること にし,プロジェクトBの場合を示すとつぎのようになる。
(1)の方法によると,
第 2 年 度
第 1 年 度 第 2 年 度 第 3 年 度 投 資 支 出 額 回収期間(年数)
現 金 収 入 額 1,500千円 800 II
1,200 II
表
回 収 必 要 額 1,500千円 80011 73711
必要な回収期間
(年数)
1.回 737 1.回 1,200 =0.691回 3,037,,
2.691回 (2)の方法によると,
年次現金収入額合計+収 入 期 間=平均年次現金収入額 4,000千 円 + 4 年 =1,000千円
投 資 支 出 額 + 平 均 年 次 現 金 収 入 額 = 回 収 期 間 3,037千円+ 1,000千円 =3.037回
さらに,各プロジェクトA, B, C案について計算した回収期間の数値を 示めすと,それはつぎの第3表のようになる。
第 3 表
三 三 : [ 三
1 プ ロ `A/□三:プロ:•三
これによると,プロジェクトA案について2つの計算方法によって計算し た回収期間は共に同じであるが,プロジェクトB, C案の回収期間について 2つの方法による計算結果は相違していることに注目しなければならない。
回収期間法では各代替選択案の中から計算された回収期間の短いものが選
らばれることになるが,前述のプロジェクト各A, B, C案についての選択 順位づけは第4表のようになる。
第 4 表
プロジェクトの種類 プロジェクトA プロジェクトB (1)法による評価順位 2 I l (2)法による評価順位 2 I 2
プロジェクトC 3 1 したがって,(1)の方法によって計算した場合と,(2)の方法によって計算し た場合とでは,その評価順位が異なる。しかし,各年度の現金収入額をその ままの形で使用し回収期間を求める(1)の方法によって計算し,順位づけるこ とが資金回収を忠実にあらわす点から望ましく.実際的にもこれが多く用い
(1)
られる。
回収期間法においては計算された回収期間(年数)によってのみブロジェ クトを評価するだけでなく.さらに,この回収期間の逆数を割引キャッシュ
・フロー法で計算される利益率の大雑把な近似値として用いる湯合があるよ
(2)
うである。
また.回収期間法の他の使用法は割引キャッシュ・フロー法の簡単な計算
(3)
法として用いることであり,これは大変便利である。この利用法は現金収入 額がその収入期間中毎年均ーである場合に,現価表 (n年間に受取られる1 千円の現価表)(本稿末尾の数表B) を使用し,回収期間として計算された係 数を当該収入期間(年数)の行における近似値に見出し,その該当数字のあ
る欄の最上位の利益率の数字を見出せばよい。
たとえば,プロジェクトA案の場合には,回収期間4ケ年と,計算された 係数が3.037回であるから,その3.037の数字のある欄の最上位の利益率を見 れば, 12%を示している。したがって,この場合12%の利益率で経営者が満
(1) アドルフ・マッツ稿•藤田幸男訳:::前掲論文"'17頁参照。
(2) アドルフ・マッツ稿•藤田幸男訳:::前掲論文"'19-20頁参照。
(3) NAA, Return on Capital as a Guide to Managerial Decisions, NAA Research Re‑
port No. 35, 1959.アメリカ会計協会編 染谷恭次郎監訳『経営指標としての資/本 利益率』昭和36年 日本生産性本部 87‑89頁参照。
設備投資計画評価のための会計分析方法(末政)
足すれば,このプロジェクトA案は受け入れられることになる。しかし,年 次現金収入額が均等でない場合にはその計算結果が妥当でなくなるので,そ の利用法にも限界がある。
回収期間法では,その回収期間と収入見積期間との比較でその差が大きい ときにそのプロジェクト案は魅力的なものになる。したがって,回収期間法 ほその計算が容易であり,現金の迅速な回収ができるような投資を計画する 方法として実務的にも広く用いられる簡便な会計分析方法である。そこにま た長所が認められている。
しかし,プロジェクトの全期間の利益を考慮しないで現金回収のみを図る 点と, しかもその現金回収において現金の時間的価値を無視するといった点
(4)
が,この方法の理論的な面から見た短所とされている。
4. 投 資 利 益 率 法 (returnon investment method)
この方法は投下資本利益率法,財務諸表ないし会計法ともいわれる分析方 法である。この方法による利益率計算において,分母の使用資本に対比せし められる分子は現金収入ではなく,発生主義会計手続による会計上の利益で あるところに特徴がある。
会計法ともいわれるところから,各年度の予定貸借対照表上の各年次利益 の数値をそのまま使用して投資利益率を算出することが考えられるが,その ようにして算出された利益率は投資提案を受け入れるかどうかの評価のため
(1)
には適当でない。投資決定はプロジェクトの全期間を対象として評価しなけ ればならないからである。したがって,投資決定のための投資利益率算定に おいて使用される利益概念は全投資期間の平均年次利益である。さらに,こ の場合の利益率算定のための分母についてはどのように考えるべきか,それ には,当初の投資総額を使用する考え方と,全投資期間の平均投資額を使用
(4) 回収期間法の長所および短所についてつぎの文献が詳しい。
① Elly Vassilatou‑Thanopoulos, op. cit., pp. 16‑18.
③ アドルフ・マッツ稿•藤田幸男訳渭前掲論文"'19-20頁参照。
(1) Elly Vassilatou‑Thanopoulos, op. cit., p. 23.
する考え方がある。
(2)
そこで投資利益率の算出方法はつぎの2つに分けられる。
(1) 当初の投資額に対する年次平均利益率 税引後年次利益の総額
+当初投資額 経済的命数
(2) 平均投資額に対する年次平均利益率 税引後年次利益の総額
経済的命数 +平均投資額
プロジェクトA案について具体的な計算を示せば,つぎのようになる。な ぉ,計算の便宜上残存価額をゼロとし,減価償却費は定額法により算出され ているものと仮定した。さらに,これにもとづいて法人税等が計算され,税 引後の年次利益も算出されているものと仮定した。
(1) 当初の投資額に対する年次平均利益率
税引後現金収入の合計一投資額=税引後年次利益の総額 4,000千円ー3,037千円=963千円
963千円
4 +3,037千円=7.93%
(2) 平均投資額に対する年次平均利益率 9634 千円 + 3,0372 千円 =15. 86%
他のプロジェクトB, C案についても投資利益率を計算し,その評価順位 をも一覧表に示すと,つぎの第5表のようになる。
第 5 表
プロジェクトの種類 フ゜ロジェクトA プロジェクトB プロジェクトC (1)総投資利益率 1. 93% I 1. 93% I s. 79%
(2)平均投資利益率 15. 86% I 15. 86% I 11. 58%
評 価 順 位 2 I 2 I 1
総投資利益率と平均投資利益率のいずれを選ぶかについては意見の分かれ るところであるが,前者による当初の投資額を使用する場合にはプロジェク
トに投下された資本が漸次回収されていく事実を無視することになるので,
(2) アドルフ・マッツ稿•藤田幸男訳哺前掲論文"'17頁参照。
後者の平均投資額を用いる方が, ビヤマン教授によれば,いくらかではある
(3)
がより論理的であるとされている。このような考え方から平掏投資利益率の 方に支持者が多い。ただし,両者の場合ともその評価順位は変らない。
投資利益率法による評価順位はその利益率の高いものから評価されること になるが,前節の回収期間法の(1)の方法の評価順位と異なったものになるこ
とに注目しなければならない。
以上のような投資利益率法は会計記録から利用できる資料によって計算が 可能であり,プロジェクト全期間の利益を考慮している点で長所が認められ る。さらに,投下資本に対する利益率の形で収益性を示すことが評価順位を
(4)
示めすためにも簡単で理解され易いとの特徴をもっている。
しかし,投資利益率法は前述のように平均利益を用いるので,近い将来に 得られる利益も,遠い将来に得られる利益も同じに取扱うことになるから,
その収入のタイミングを考慮に入れることができない。このような現金の時 間的価値を無視する点が最大の短所であるとされる。さらに減価償却会計の 多様性により,異なった年次利益,法人税等支出がもたらされるので,税引 後の平均利益数値の算出にも面劉な点がでてくる。その点がまたこの分析方 法の 1つの短所ともいわれる。
以上のような投資利益率法は現金の時間的価値を考慮なしいところから,
(6)
未調整利益率法 lunadjustedrate of return method) ともいわれ,それが同 じく広義の利益率 (rateof return)法の 1つである割引キャッツュ・フロー 法と区別される点である。したがって,投資利益率は各年度の業績測定尺度 として有用だとされても,プロジェクト各案の評価順位づけの尺度としてほ
(3) Harold Bierman, Jr., op. cit., p. 120. H.ビヤマン著溝ロ一雄監訳『前掲訳書』 174頁。 (4) Elly Vassilatou‑Thanopolous, op. cit., p. 24.
(5) この方法の長所・短所の詳細についてはつぎの文献を参照されたい。
① NAA, Research Report No. 35.
アメリカ会計協会編 染谷恭次郎監訳『前掲訳書』 75‑84頁参照。
② Elly Vassilatou‑Thanopolous, op, cit. p. 24.
(6) Charles T. Horngren, Cost Accounting: A Managerial Emphasis (N. J.: Prentice‑ Hall Inc., 2nd ed., 1967), p. 462.
設備投資計画評価のための会計分析方法(末政)
好ましくないであろう。
5. 割 引 キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー 法 (discountedcash‑flow method) 回収期間法,投資利益率法は現金の時間的価値を考慮しない分析方法であ ったが.,長期間にわたり多額の現金流出入を伴なう設備投資計画の評価にお いては現金の時間的価値をむしろ積極的に考慮することが大切である。そこ で,現金の時価的価値を考慮し現金の流出入を割引くところの割引キャッシ ュ・フロー法が展開されるに至った。現金の流出入を割引く形で現金の時間 的価値を整理する,広い意味での割引キャッシュ・フロー法の用語が使用さ れる場合には,利益率法 (rateof return method) ないし内部利益率法 (in‑ ternal rate of return)ともいわれる狭義の意味で使用される割引キャッツュ
・フロー法と,次節で取り上げる現価法の2つが含まれる。それ故,狭い意 味での割引キャッツュ・フロー法をとくに広義の割引キャッシュ・フロー法
と区別するために,割引キャッツュ・フロー利益率 (discountedcash flow
―
(1) (2)
rate of return)とか,割引利益率法 (dsicountedrate of retur:r, method)とも いわれる。したがって,それらの名称の方が割引キャッシュ・フロー法の意 味をより明確に示している点から見て妥当であろう。これは投資利益率法が 現金の時間的価値についての未調整利益率法を意味するのに対し,狭義の割 引キャッツュ・フロー法はいわば時間調整済利益率(time‑acljusteri・ rate of re‑
(3)
turn)法を意味することになる。
まず,投資利益率法と割引キャッシュ・フロー利益率法の相違を見ると.
割引キャッシュ・フロー法によれば,割引率の計算において当初の投資額ま たは平均投資額を用いないで,毎期の未回収投資残額を基礎として計算され る仕組みになっている。その計算過程の仕組みをアンソニー教授の説明の仕 (1) ① NAA, Financial Anaりsisto guide Capital Expenditure Decisions, NAA Research
Report No. 43, pp. 116. 130.
R Elly Vassilatou‑Thanopoulos, op. cit., p. 25,
(2) Carl L. Moore & Robert K. Jaedicke, Managerial. Accounting (Cincinnati: South‑Western Publishing Co., 2nd ed., 1967), pp. 536‑538.
(3) Charles T. Horngren, op. cit., p. 443.
1
(4)
方 を ま ね て 例 示 す る こ と に し た い 。 た と え ば , プ ロ ジ ェ ク トA案 に つ い て12
% の 利 益 率 に よ る 計 算 を 示 め す と , つ ぎ の 第6表のようになる。
第 6 表
年 度 現金収入額 未す回収投%資の額に対
る12 利益 投資のてられa回る‑残収bにあ額 年投資度残末額の未回収
a b c = ( ) d
゜
2 1 11,,000000,千円, 2364881千円1 67132 6千円 321,, 6 4,008319711千円113 1,000 II 20311 79711 892 II
4 1,000,, 10711 893 ‑ 1 * 計 4,000 II 96211 3, 03811
* 1千円は端数計算上の誤差である。
この第6表のように, 4,000千 円 の 現 金 収 入 の 総 額 の う ち 投 資 額3,037千 円 を 差 引 い た 約962千 円 が 総 利 益 で あ り ( 設 備 投 資 の 残 存 価 値 を ゼ ロ と 仮 定 し て計算した),それは各年度末の未回収投資残額に対して12% の 利 益 率 で 計 算
したものと同じである。
第 7 表
〔検算I〕各年次のキャッシュ・フローを分離的に割引する方法 12%で割引かれ
総 現 価 た1千円の現価
年 度 末
キャッシュ・フロー
年 次 現 金 節 約 0.893** 893千円 0. 797 79711 0. 712 712 I/
0.636 63611 将来収入の現価 3, 03811 当 初 の 支 出 額 1. 000 (3,037)
1 正 味 現 価 1*,,
* 1千円は端数計算上の誤差である。
** 末尾の数表Aの比率を参照のこと。
キャッシュ・フローの素描
l l l I l
゜
1 2 3 4> 1,000千円 1,000千円
1,000千円 1,000千円
(3,037千円)
(4) Robert N. Anthony, Management Accounting: Text and Cases (Homewood;
Richard D. Irwin, Inc., 3rd ed., 1964) p. 613.
こ れ に つ い て , 割 引 キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー 法 を 使 用 し た 場 合 の 例 示 を ホ ー ン
(5)
グ レ ン 教 授 の 表 示 方 法 に し た が っ て 示 め す と , つ ぎ の 第7表のようになる。
〔検算II〕年金現価表を使用する方法
年次現金節約 3‑037* 3,037千円 1,000千円1,000千円l,QOO千円1,000千円 当初の支出額 1, ooo C3, 037) I C3, 037千円)
正 味 現 価
。
*末尾の数表Bを参照のこと。
プロジェクト B, C案 に つ い て は 各 年 度 の 現 金 収 入 の 金 額 が 相 違 す る の で , 上 記 〔 検 算I〕 の 方 法 に よ っ て し か 計 算 す る こ と が で き な い 。
プロジェクト B案 に つ い て 簡 単 な 方 法 で 計 算 を 示 せ ば , つ ぎ の 第8表 の よ うになる。
第 8
表
年 度 現 金 収 入 額 割千引円率の現14%価での1 年現価間現金収入の 1 1,500千円 0.877* 1,316千円 2 800 II 0. 769 61511 3 1, 20011 0.675 81011 4 50011 0.592 29611 計 4,000 II 現 金 収 入 の 現 価 3, 03711 当 初 の 投 資 額 3,037 II
正 味 現 価
゜
*末尾の数表Aを参照のこと。
さ ら に , プ ロ ジ ェ ク トC案 に つ い て そ の 計 算 を 示 せ ば , つ ぎ の 第9表 の よ
第 9 表
年 度 現 金 収 入 額 千割引率12%価での1 年現価間現金収入の 円の現
1 500千円 0.893 埠7千円
2 1,000 II 0. 797 79711 3 1,000 II 0. 712 71211 4 1, 70011 0.636 1, 08111 計 4, 20011 現 金 収 入 の 現 価 3,037 II
当 初 の 投 資 額 3,037 11 正 味 現 価
゜
(5) Charles T. Horngren, op. cit., p. 443.