日本の韓国植民地化と韓国都市の変化

(1)

日本の韓国植民地化と韓国都市の変化

︱保護政治期を対象として

︱

森山茂徳

はじめに

︱

︱都市は権力によって建設される

︒ 通常

︑ 権力は既存の都市がある場合には

︑ そこに新たな施設を付け加えることで

︑ 目的を達する

︒ 都市の存続の基礎は社会的余剰である

︒ 都市は村落を

︑ 余剰をもたらす地方として

︑ 可能な限り広範に

︑ かつ深く

︑ 自己の新しいルールのもとに支配

︑ 統合しようとした

︒ 都市は統合機関の集積地であり

︑ 村落との間に余剰の輸送のための交通

・通信の網を作り出し

︑ 村落を都市に従属する農村に作りあげた

︒ 都市が農村より豊かな生活を営む場所である限り

︑ 人々は都市に集まって来た

︒ また

︑ 権力の拠点である首都は

︑ 国家統合の象徴

︑ 意味世界の象徴であり

︑ そのための建造物に満ちている

︒ 最も重要な首都は

︑ 通常

︑ 他の都市よりも抜きん出た地位をもつため

︑ 国家が作り出す新しいルールには

︑ 首都の利害が反映された

︒ これらのルールが正統性をもつために

︑ 首都は威厳とともに未来を表わす場所でなければならず

︑ こう日本の韓国植民地化と韓国都市の変化

一

︵都法五十

︱

一

︶

(2)

して

︑ 首都は近代化の象徴ともなったのである^︵_︶¹

︱

︒ 右

の命題は

︑ 都市と権力との関係を農村との統合

・従属関係に注目して指摘したものであろう

︒ それが普遍的である限り

︑ 日本が保護

・併合した韓国の都市にも当て嵌まるであろう

︒ しかるに

︑ 保護

・併合の過程において

︑ 日本が韓国の都市に対して行った具体的政策には

︑ 日本的特殊性が刻印されているに違いない

︒ 韓国都市の変化を権力との関係という側面から考察することによって

︑ 日本の韓国保護

・併合過程の特質を

︑ とくに保護政治期

︵一九

〇五

︱一

〇年

︶に着目して明らかとすること

︑ これが本稿の課題にほかならない^︵_︶²

︒ その際

︑さらに次の二つの側面に注目したい

︒ 第一に

︑都市の変化については

︑この時期

︑初代韓国統監伊藤博文が指導した﹁保護政治

﹂との関係から何がいえるのか

︒ すでに明らかにしたように

︑﹁保護政治

﹂は前期と後期とで特質を異にしている^︵_︶³

︒ そこで

︑ 都市の変化は

﹁保護政治

﹂の特質の変化とどのように関連しているのかが

︑ 問われるべきである

︒ 第二に

︑ 都市の変化は農村の変化とどのような関係にあったか

︒ すなわち

︑﹁保護政治

﹂では都市への施策のみでなく農村への施策も施されたが

︑ 前記の命題のように

︑ 両者は果たして統合

・従属の関係にあったかが

︒ ところで

︑ 保護政治期以降の韓国都市についての従来の研究の多くは

︑ 次のような特徴をもっている^︵⁴

︒︶

第一に

︑ それらは概ね統計的手法を用いているため

︑ 統計的資料の整備された植民地後半期を主として対象としている

︒ それゆえ

︑保護政治期については

︑それ以降の時期との関連の中で触れられるだけで

︑この時期の特質は摘出されていない

︒ 第二に

︑ これらの研究の中には

︑ 韓国のＮＩＥＳ化の説明を戦前の都市化の特質に求め

︑ それと戦後の発展の特質との連続性を探求しようとする傾向をもつものがある

︒ それゆえ

︑ 他の視角

︑ すなわち

︑﹁保護政治

﹂の変化との関係

︑

二

(3)

また都市と農村との関係およびそれらと政策との関係などは

︑ 関連する限りにおいてのみ触れられるにすぎない

︒ しかるに

︑ その中では

︑ 孫禎睦氏の一連の研究が

︑ 近世から現代までの都市の形成過程とその性格づけを行っており

︑ 質

・量ともに参照されるべきである

︒ しかし

︑ 近代以降については日本の統治政策の否定的

・差別的側面を描くことに重点が置かれており

︑﹁保護政治

﹂との関係および農村との関連は触れられない^︵_︶⁵

︒ また

︑ 並木真人氏の研究は

﹁社会的統合

﹂=

﹁民衆統合

﹂に焦点を当てているが

︑ 時期が植民地後半期に限定されており

︑ ここでも農村との関連は触れられない^︵⁶

︒︶

さらに

︑ 植民地期の農村政策についても相当数の研究はあるが

︑ 保護政治期についての研究は少なく

︑ また保護政治期は植民地期のそれの前提と位置づけられているものが大半である^︵⁷

︒︶

それでは

︑ その指摘は正しいのか

︑ つまり保護政治期の独自性はないのかも

︒ そして

︑ 最近の植民地統治の特質研究の傾向として

︑﹁植民地近代性

﹂に関する論争がある

︒ しかし

︑ それらは多分に観念的であり

︑ とくに

﹁保護政治

﹂の独自性についての論及はなく

︑ ここでも連続性が前提とされている^︵_︶⁸

︒ 以上のように

︑ 従来の諸研究には本稿のような視角は欠落している

︒ したがって

︑ 本稿は従来の研究の不備を補うものとなろう

︒ 以下

︑ まず

︑﹁保護政治

﹂前の韓国都市の特質を検討し

︑ 次いで

︑ 日本の韓国

﹁保護政治

﹂における都市の変化を

︑ 前期の

﹁文化政策

﹂および後期の

﹁自治育成政策

﹂との関連に焦点をあてて検討し

︑ 最後に

︑ 保護政治期の都市の変化の特質を総括し

︑ 植民地期の都市分析の課題および展望を提示することとする

︒ 対象を保護政治期とする理由を再びいえば

︑ 従来の研究の多くが植民地後半期に集中しており

︑ それ以前の時期の研究が不足していること

︑ また

︑ この時期の研究が保護

・併合過程の特質を明らかにしようとする

︑ 本稿の課題に相応しいと考えるからである

︒ 日

本の韓国植民地化と韓国都市の変化

三

︵都法五十

︱

一

︶

(4)

一

﹁保護政治

﹂前の韓国の都市

﹁保護政治

﹂前における

︑ 韓国の都市

︵ここでは後に府制が敷かれた地域を対象とする

︶の第一の特質は

︑ 日本人居留民が大多数であった釜山と

︑ 他の都市の間で存在形態が大きく異なったことである

︒ 釜山では他の都市に先駆けて日本人専管居留地が設けられ

︵それは臨海都市としての形成のあり方とともに他の都市の先例とされた

︶︑ 日本人が都市の形成

・発展の中心を占めた

︒ これに対し

︑ すでに朝鮮王朝の首都であったソウルを始め

︑ 他の都市には中国人を始め外国人が相当数居住しており

︑ 日本人の進出

・発展形態は都市によって異なることとなった^︵_︶⁹

︒ 第二に

︑ この違いは

︑ 日本の都市政策も日本人居留民組織化の過程も異ならせることとなった

︒ その際

︑ 最も重要なことは日本人と外国人との関係であり

︑ そのことは保護政治期を通じて一貫して大きな問題として存在し続けた^︵¹⁰

︒︶

まず

︑ 釜山の形成と

︑ それへの日本の政策についてみてみよう

︒ 釜山は開港以来

︑ 日本人を中心に臨海都市として順当に形成

・発展した

︒ 釜山では日本人専管居留地が明治九

︵一八七六

︶年に設定されて以降

︑ 都市化が進み

︑ 結果として

﹁日本の独占的な勢力圏

﹂となった

︒ 居留民団も自治行政組織として早くから形成され

︑ 実質的な警察権

︑ 徴税権なども日本人が掌握した^︵¹¹_︶

︒ 韓国人を始め他国人

︵﹁清国人租界

﹂が存在

︶は日本人居住地の周辺に居住し

︑ 日本人と外国人との関係は複雑ではなかった^︵¹²

︒︶

したがって

︑ 日本の釜山への都市政策も他の地域と比べて順当であった

︒ 日本政府は同一三

︵一八八

〇

︶年に領事館を置いて以降

︑ 日本人に地券を給付し

︑ また近代的文明施設を積極的に設置するなど

︑ 定住促進策を施行した結果

︑ 日本人人口は

﹁保護政治

﹂が始まる直前の同三八

︵一九

〇五

︶年には

︑ 一万三千人を超えるに至った^︵¹³_︶

︒ ここに

︑ 他の地域に先駆けて日本人が進出し

︑ 日本政府と日本人居留民との関係および外国人との関係には問題も少なかった結果

︑ 釜山は韓国における日本の都市化の一つの範型となった

︒ しかし

︑ 他の

四

日 本 の 韓 国 植 民 地 化 と 韓 国 都 市 の 変 化