環境放射線および放射能の調査
福細杉南古下 士田野 政正雅
川 雅 道
広(首都大学東京健康福祉学部)
洋(首都大学東京健康福祉学部・客員研究員)
人(群馬県立健康県民科学大学)
幸(藤田保健衛生大学)
英(琉球大学)
國(藤田保健衛生大学)
要 約
東京都島瞑の環境放射線および環境放射能の調査を目的として、2006年8月28日から8 月30日の期間で、小笠原群島の父島と母島の空間ガンマ線線量率、天然放射性核種濃度、
ラドン(222Rn)・トロン(220Rn)散逸率および屋内ラドン濃度の調査を行った。小笠原群 島の父島・母島の空間ガンマ線線量率は、27.7nGy/h、35.4 nGy/hで全国平均50 nGy/hよ
り低い値であった。天然放射性核種濃度は、父島:0.88%(40K)、0.22 ppm(U)、0.26 ppm(Th)、母島:0.35%(40K)、0.15 ppm(U)、1.5 ppm(Th)であった。ラドン
(222Rn)・トロン(220Rn)散逸率は、父島:検出下限値以下(222Rn)、85 mBq・m−2・s『1
(220Rn)、母島:3.8 mBq・m−2・s−1(222Rn)、219 mBq・m−2・s−1(220Rn)であった。いずれ も、我々が詳細なデータを有する伊豆諸島三宅島と比べると高値を示した。また、屋内ラ
ドン濃度は、平均値で3.7Bq・M 3で、わが国の平均屋内ラドン濃度15.5 Bq・m−3の24%
程度であった。
1.はじめに
2000年の伊豆諸島三宅島の噴火によって、三宅島は火山灰の他に大量の火山礫や火山弾 の降下が有り、島全体で大きな環境変化が生じた。我々は、2004年より三宅島を中心とし た島懊の環境放射線および放射能能の調査を行ってきた(細田ほか2006a;福士ほか 2006)。伊豆諸島は、富士火山帯に属する火山島であるが、小笠原群島は海底火山の隆起
によるもので、組成岩も安山岩、玄武岩質で形成される伊豆諸島と枕状溶岩で形成される 小笠原群島では異なる。伊豆諸島および小笠原諸島(智島列島、父島列島、母島列島以外
も含む)における環境放射線および放射能の調査資料は伊豆大島と入丈島に関して一部有 るのみである。他の伊豆諸島および小笠原諸島における調査資料は皆無である。そこで、
東京都島嗅における環境放射線および放射能調査の一環として、小笠原群島の父島と母島 の空間ガンマ線線量率、天然放射性核種濃度、ラドン・トロン散逸率および屋内ラドン濃 度の調査を行った。
皿.測定方法
調査期間は2006年8月28日から8月30日までの3日間で実施した。
1.空間ガンマ線線量率
2 φ×2 NaI(Tl)シンチレータ(S−2361−8820B応用光研)を車に搭載して、走行しながら 1分間ごとの連続データを取得した。立ち入り可能な道路について概ね走行した。走行速 度は30〜50㎞・h−1、平均約40㎞・h−1であった。走行ルートを図1に示す。本調査で は、スペクトルメータから得られたガンマ線エネルギースペクトルを線量率に換算するた めに、応答行列関数法を用いた解析ソフト(Formal Haunt)を使用した。また、このスペ クトルメータは、1分間の測定で得られる線量率の誤差が大きいので、あらかじめ求めた 線量率と計数率の比から換算係数0.0060nGy・h−1・cpm−1を得て、この換算係数を走行 サーベイによって得られた車内の計数率に乗じることで車内の線量率に換算した。今回は、
島内の線量率分布を測定するのが目的であったため、地形や人工構造物の影響を考慮せず、
車体の補正のみを行った。
補正は、車内外の計数率測定を父島7箇所、母島5箇所で行い、それぞれの車内外比の 平均値1.55(父島)、1.55(母島)を補正係数として用いた。つまり、得られた車内の線量 率に1.55を乗じることにより屋外の線量率に換算した。なお、測定は晴天もしくは曇天時
に実施した。
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図1 父島(左)・母島(右)走行ルート 一60一
2.天然放射性核種濃度(細田ほか、2006b)
2 φ×2 NaI(Tl)シンチレータ(S−2361−8820B応用光研)を用いて900秒間の定点測定を 行った。得られた波高分布からウラン系列、トリウム系列およびカリウム濃度を求めた。
測定サイトは裸地を選択し、父島で5データ、母島で2データを得た。測定場所の詳細を 表1に示した。
表1 父島(5箇所)・母島(2箇所)における天然放射性核種の測定場所
測定場所 測定日 緯度 経度
①三日月山 ②夜明山 父島 ③北袋沢 ④海岸にて ⑤宮之浜
2006年8月28日 27°5 45.0 2006年8月28日 27°5 16.0 2006年8月28日 27°3 37.8 2006年8月28日 27°4 13.4 2006年8月29日 27°6 12.3
142° 11/ 5.7 142° 13, 6.3 142° 12 15.4 142° 11 22.9
142° 11t 38.8①ロングピーチ 2006年8月30日 26°40 40,1 142°8 47.3 母島 ②最南端 2006年8月30日 26°37 23.3 142°10 45.3
3、ラドン(222Rn)・トロン(220Rn)散逸率(Hosoda et aL,2006;細田ほか、2004)
in situ型散逸率測定器(MSZ)を用いて30分間の測定を行なった。父島で4データ、母 島で2データを得た。測定場所の詳細を表2に示した。
MSZは、13リットルのガス溜め容器を備えた、30×40 cmのZnS(Ag)シンチレーション サーベイメータである。また、ラドン(222Rn)とトロン(220Rn)散逸率を、計測時間中の 前半・後半に得られた計数率にそれぞれの換算係数を乗じることにより同時に評価できる 測定器である。
表2 父島(4箇所)・母島(2箇所)におけるラドン・トロン散逸率の測定場所
測定場所 測定日 緯度 経度
①ウェザーステーション ②展望台
父島 ③巽道路沿い ④州崎
2006年8月29日 2006年8月29日 2006年8月29日 2006年8月29日
27° 5/ 45.9 27° 5 44.4 27° 3/ 46.3 27° 4 14.3
142° ll/ 4.4 142° 13, 0.7 142° 13/ 17.2 142° 11 22.3
①ロングビーチ
母島 ②南崎
2006年8月30日 26°40 40.1 142°8 47.4 2006年8月30日 26°37 23.3 142°10 45.3
4.屋内ラドン濃度
宿泊先である父島の民宿(サンライズ小笠原)において、Alpha Guard(Genitron Instruments)を用いて、1時間間隔でほぼ連続測定を行った。客室の壁は耐火ボードで造 られており、屋外で作業中は開放状態で在室中は基本的に閉め切った(エアコン作動)状 態にした。
皿.結果と考察
父島と母島の空間ガンマ線線量率の線量マップ図を図2に示した。父島と母島の平均空 間ガンマ線線量率は、27.7nGy・h i、35.4 nGy・h 1であった。三宅島18.6 nGy/h(細田ほ か2006a;福士ほか2006)や伊豆大島24.3 nGy/hと比べ高い値を示した。父島および母島 の地質は、安山岩やデイサイト、玄武岩および石灰岩より構成されている。そのため、玄 武岩質が多い三宅島や伊豆大島と比べ高値になったものと考えられる。ちなみに、東京都 23区および多摩地区の平均値は、それぞれ28nGy・h一1と30 nGy・h−1である。また、全国 の平均値は約50 nGy・h−1である。
父島のカリウム40、ウラン系列およびトリウム系列濃度の平均値は、0.88%、0.22ppm、
0.26PPmであった。同様に母島では、0.35%、0.15 PPm、1.5 PPmであった。三宅島0.38%
(40K)、0.38 ppm(U)、0.43 ppm(Th)(細田ほか2006a;福士ほか2006)と比較し、母島 のトリウム濃度が3.5倍高い値を示した。
父■島
o
e$D・se・at・(・G殉
■ 34一
30・34 2昏30 22}26 13−22
−18
図2 父島・母島における空間ガンマ線線量率マップ 一62一
父島のラドンおよびトロン散逸率は、検出下限値以下(222Rn)、85 mBq・m−2・s−1
(220Rn)で、母島では、3.8 mBq・m−2・s 1(222Rn)、219 mBq・m−2・s−1(220Rn)であった
(表3)。三宅島(ラドン:ND、トロン49.34 mBq・m−2・s−1)(細田ほか2006a;福士ほか 2006)と比較して、全てにおいて高値を示した。
空間ガンマ線線量率や天然放射性核種濃度と同様に、概ね地質分布に依存する傾向を示
した。
屋内ラドン濃度は、平均値で3.7Bq・m−3であった(図3)。日本分析センターによる日 本の平均15.5Bq・M『3の24%程度であり、特に問題となる濃度ではなかった。
表3 父島・母島におけるラドン・トロン散逸率(mBq・M 2・s 1)
測定場所 ラドン散逸率 トロン散逸率 ウェザーステーション
展望台 父島 巽道路沿い 州崎
平均
1.1±1.5 ND(1.4)
ND(1.3)
ND(1.4》
ND(1.3)
26±22 128±53
84±42 101±46
85±41 ロングビーチ
母島 南崎 平均
3.8±2.7 3.7±2.7 3.8±2.7
185±66 252±80 219±73 ND:検出限界以下
10
甲∈・σ邑翼鰻Aま
0
0 0
●
0
2006!8129 200618129 200618130 200618130 2006/8!31 200618131 12:00 12:00 0:00 12:00 0:00
測定日時
図3 父島の宿泊施設での屋内ラドン濃度
謝辞
この研究は、平成18年度首都大学東京傾斜配分研究費で行ったものである。
文 献
細田正洋・福士政広・下 道國・杉野雅人・古川雅英(2004a):ラドン・トロン散逸率
のin sitU測定およびその地質的解釈.保健物理、 VoL39, pp206−214.
細田正洋・福士政広・杉野雅人・山田裕司・下 道國(2004b):ラドン・トロン散逸率
のin situ測定と環境因子の影響. Fz7ih MZorkshop on Environmental Radioactivity,
pp86−93.
細田正洋・福士政広・杉野雅人・古川雅英・下 道國(2006a):三宅島の環境放射線
(能).保健物理、VoL40, pp.365−370.
細田正洋・下 道國・杉野雅人・古川雅英・福士政広(2006b):ラドン・トロン散逸率 と空間ガンマ線線量率および天然放射性核種濃度との関係.保健物理、VoL41, pp18−
26.
HOSODA, M., YAMAMOTO, Y.,㎜A, K, KORI, T., FUKUSHI, M. and SHIMO, M.
(2006):Effect of environmental factors on the eXhalation of radon and thoron from
the soil to the atmosphere. AOCRP−2, fUl1 paper, pp.1−4.
福士政広・細田正洋・下 道國・古川雅英・杉野雅人・南 一・幸・中谷儀一郎(2006):
噴火後の三宅島における自然放射線分布と状況.セイフティダイジェスト、Vo1.52,
pp.10−14.
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