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東南アジアに進出する中国多国籍企業の競争パターン

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(1)

は じ め に

  二一世紀以降︑新興国からの対外直接投資︵OFDI: Outward foreign direct investment︶が目立つようになってきた︒二〇〇八年の世界金融危機の発生まで︑世界の対外直接投資の主流は先進国同士間の「相互投資」︵mutual penetration︶であり︑その規模は先進国から新興国また途上国へ向かう投資を上回っていたが︑金融危機以降︑投資資金の出し手︑受け手の双方で新興国の存在感は増している︒世界の直接投資額の構成比からみると︑直接投資の投資側︵資金の出し手︶として八割以上を占めてきた先進国 は二〇〇九年に七五%へ下がり︑新興国等が四分の一を占めるに至った︒他方︑直接投資の受入側︵資金の受け手︶に占める新興国等の構成比は︑従来の三割台から二〇〇九年は四九%に高まり先進国とほぼ拮抗してき 1

︿た︒対外直接投資を急速に増やした新興国の中では︑中国のパフォーマンスが特に目立つ︒成熟した工業先進国に比べて中国の対外直接投資は︑どのように展開されているのか︒また︑海外に展開した中国の多国籍企業は進出現地において先進国の多国籍企業もしくは現地企業と︑どのように競争し︑どのような競争パターンを示しているのか︒本稿は︑東南アジア地域に直接投資を急速に展開する中国の製造業企業を

東 南 ア ジ ア に 進 出 す る 中 国 多 国 籍 企 業 の 競 争 パ タ ー ン

  ─ ─ 「 後 発 国 型 多 国 籍 企 業 」 の 特 徴 と そ の 諸 側 面 ─ ─ 苑   志 佳

論  説  ││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││中国の産業競争力

(2)

中心として︑その競争パターンを明らかにする目的でまとめるものである︒  東南アジア地域に進出する中国の多国籍企業のなかで特に製造業を対象とした理由について説明する︒実際︑これまで中国企業の対外直接投資の業種全体における製造業の順位は高くない︒中国政府関係の統計によれば︑二〇一〇年の中国の対外直接投資︵フロー︶の産業別分布における最大の特徴として︑「リースおよび商業サービス」分野が大きな金額︵三〇二・八億ドル︶を占める点が挙げられる︒「リースおよび商業サービス」への直接投資とは︑中国企業が外国でサービス業を行っていることを意味するわけではなく︑単に外国企業の株式を取得する投資という意味にすぎない︒だが︑いかなる業種の企業の株式を取得したのかの情報は︑公表されていな 2

︿い︒「リースおよび商業サービス」に続く投資業種は︑金融業︵八六・三億ドル︶︑卸売り・小売業︵六七・三億ドル︶︑採掘業︵五七・一億ドル︶︑交通運輸・倉庫・郵政業︵五六・六億ドル︶︑製造業︵四六・六億ドル︶︑建築業︵一六・三億ドル︶︑不動産業︵一六・一億ドル︶という順になっている︒また︑二〇一〇年現在︑対外直接投資ストック金額からみた業種状況について︑一〇〇億ドルを超えた分野の順位は︑リースおよび商業サービス︑金融業︑採掘業︑卸売り・小売業︑交通運輸︑製造業になっている︒上位六業種の中では第六位で あ 3

︿る︒ただし︑アジアへの直接投資の業種別順位は全体の順位と異なる︒つまり︑対アジア投資の産業別特徴は︑製造業を中心とするモノづくりの分野が多いという点である︒これは︑中国企業が効率を追求する戦略││自国より経営環境・条件のよい海外へ進出することによって競争優位を保つ戦略││を反映している︒ただし︑アジアへの進出業種について︑製造業以外に採掘業︑卸売・小売業︑エネルギー︑建築︑金融︑情報通信など多分野に及ぶことは特徴の一つである︒  以上の理由によって本稿は東南アジア地域を取り上げ︑同地域に進出した中国の製造業多国籍企業を検証することによって上記の問題点を明らかにする︒

一   「 後 発 国 型 多 国 籍 企 業 」 と は

㈠   「 後 発 国 型 多 国 籍 企 業 」 の コ ン セ プ ト

  本節では︑中国企業の多国籍的展開パターンを明らかにするために「後発国型多国籍企業」仮説を提起し︑これに基づいて中国多国籍企業の競争パターンを説明する︒

  発展途上国からの対外直接投資は︑決して新しい現象ではない︒この現象はアルゼンチンが発展途上国の最初の投資国として登場した一九世紀後半まで遡るといわれてい 4

︿る︒

(3)

表1 途上国対外直接投資の三つの波

第一波 第二波 第三波

期間 1960年代~1980年代半ば 1980年代半ば~1990年代 1990年代~

対外直接投

資グループ 主にラテンアメリカ 主にアジア 地域的多様化の様相 ラテンアメリカの再登場 ロシアと南アフリカも現れる 国家・地域

ブラジル、アルゼンチン、シ ンガポール、マレーシア、香 港、韓国、コロンビア、メキ シコ、インド、ベネズエラ

香港、台湾、シンガポール、

韓国、ブラジル、マレーシア 香港、台湾、シンガポール、

ブラジル、南アフリカ、中 国、韓国、マレーシア、アル ゼンチン、ロシア、チリ、メ キシコ

投資先 主に同じ地域にある途上国 主に途上国、遠方の先進国に

よりグローバルに。地域内の

知識集約的サービス業。さら に、先進国の成熟分野にも 対外投資の

タイプ 主に第次産業セクター中心

小規模の製造業も投資対象 次産業、取引困難なサー ビス分業(インフラ分野)

製造業分野は、成熟したコス ト競争の激しい分野にシフト

(自動車、電子など)。資産獲 得型投資

第二波と同様

分業タイプ 主に水平分業 水平・垂直分業 水平・垂直分業 投資側の

所有者優位 投資国の国家優位 低コストで資源投入能力 製造技術力

ネットワークや関係 組織的構造

「適正技術」、ビジネス・モデ ルと管理

投資国の国家優位と企業優位

その他は第一波と同じ 投資国の国家優位と企業優位 規模の経済性

技術的、管理的および組織的 な能力

要素市場と製品市場への垂直 的コントロール能力

投資動機 資源・市場獲得

資産利用 資源・市場獲得

 (途上国向けの場合)

市場や資産獲得  (先進国向けの場合)

資産利用 非重要資産獲得

第二波と類似、資産獲得へシ フト

資産増大 市場能力増強  (天然資源関係分野)

政策体制 輸入代替

外資規制 輸出指向

外資に協調・促進 技術革新型 外資促進 所:Gammeltoft [2008: 5–22].

第二次世界大戦後の途上国多国籍企業の流れをみると︑途上国企業の対外直接投資は三回の波に乗って行われてきたといわれている﹇Gammeltoft 2008﹈︒表1はこれを示すものである︒  一九六〇〜八〇年代半ばにおける第一波の途上国企業の対外直接投資は主に効率追求と市場獲得の動機に駆使され︑近隣の途上国に投下された︒その代表的地域はラテンアメリカの途上国である︒このころ︑輸入代替型工業化政策を実施したラテンアメリカの国々が多かったためである︒当時︑輸入代替型工業

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化政策によって支えられた経済好況は︑まずアルゼンチン︑チリ︑メキシコに︑さらにブラジル︑コロンビア︑ベネズエラにまで波及した︒これらの国は市場の類似性という共通点もあったため︑先発したラテンアメリカの企業は︑その海外投資を近隣途上国同士に向けたケースが多かった︒  途上国の対外直接投資の第二波は︑一九八〇年代半ば〜九〇年代の間に現れた︒対外直接投資がプルとプッシュ要因の双方に誘発され︑戦略的な資産獲得を目的としたものが比較的に多かった︒このため︑対外直接投資先は︑近隣地域だけでなく︑遠方の途上国地域︑また一部の先進国も投資の射程に入った︒この段階における途上国の対外直接投資を主導したのは︑アジアNIEs︵韓国︑台湾︑シンガポール︑香港︶であったが︑のちにマレーシア︑中国︑インドなどの企業も加えられた︒対外直接投資が主にこれらの国々・地域の輸出指向型工業化戦略によってバックアップされたため︑コスト競争の激しい製造業が史上初めて投資分野の一部に加えられた︒同時期におけるラテンアメリカの対外直接投資は低調の状態であった︒  一九九〇年代に入ると︑途上国の対外直接投資は第三波を迎えた︒対外投資地域は︑グローバルで多様化の様相を呈示し︑アジア地域の多国籍企業のほかに︑ロシア︑南アフリカ︑さらに経済的に復調したラテンアメリカの企業も加えられた︒この段階では︑アジアNIEs企業︑とりわ け韓国︑台湾の多国籍企業は︑先進国の多国籍企業と互角の力を持つようになり︑直接投資のネット金額はプラス状態にもなっ 5

︿た︒  以上のように︑途上国の対外直接投資は現象として一九六〇年代以降︑持続的に存在していているが︑多国籍企業の伝統理論は正面からこれを体系的に捉えようとしなかった︒その理由は︑世界の対外直接投資額に占める途上国企業の割合が低いためである︒ところが︑一九九〇年代以降の途上国の対外直接投資の増加を背景に︑その理論的研究対象は広まり︑したがって理論的修正と発展が見られるようになった︒  広く知られているように︑S・ハイマー以来の主流派直接投資理論および多国籍企業理論分野において︑「競争優位論」は支配的なコンセプトであるが﹇Hymer 1960; Dunning 1981などを参照﹈︑一九九〇年代以降︑急速に現れた後発国多国籍企業が直面する背景条件︑世界経済環境などは大きく変わった︒かつて存在しなかった︑企業の海外進出に影響する新しい条件変化は︑後発国の対外直接投資を強く誘発している︒同時に伝統理論は︑途上国多国籍企業の対外直接投資を説明しきれない事態になっている︒本稿は︑中国企業の対外直接投資と多国籍化を念頭に「後発国の多国籍企業を主流派伝統理論は説明できるか︑後発国多国籍企業の競争優位はどのようなものであるか」という理論問

(5)

題を提起し︑後発国の多国籍企業理論を提起する︒   「後発国型多国籍企業」は︑次のように定義することができる︒つまり︑一九九〇年代以降に現れ︑後発国に立地し︑先発国多国籍企業と異なる特徴をもち︑本国以外の一カ国以上の国・地域において直接投資を行い︑現地生産・経営活動を行う企業である︒この「後発国型多国籍企業」仮説は︑中国企業による海外進出を説明することができると考えられる︒  「後発国型多国籍企業」仮説のヒントは︑康・柯﹇2002﹈に由来する︒彼らの問題関心は︑第二次世界大戦以降︑東南アジアに現れた華人・華僑企業の多国籍化がなぜ発生したか︑ということである︒つまり︑途上国地域でマイノリティとして創業した華人・華僑企業は︑生まれつきのハンディ││小規模︑企業の局地性︑非制度的管理︑低技術レベル︑市場の属地性など││を持つのに︑彼らこそ︑早い段階から所在国以外の地域へ進出し大きく発展することに成功したケースが多い︒彼らの多国籍化は︑なぜ︑どのように発生したか︒華人・華僑企業の多国籍化の成功に触発された康・柯﹇2002﹈は︑この現象を理論的に拡張し︑中国企業の多国籍化を理論的に説明するよう提案した︒また︑川井﹇2011﹈もこの理論に着目し︑中国多国籍企業を説明する一般理論として適用すべきだと提唱している︒本稿は︑康・柯の研究から貴重なヒントをもらい︑中国企業 の対外直接投資と多国籍化という現象を「後発国型多国籍企業」と名付けて仮説を提起する︒

㈡   企 業 の 海 外 進 出 パ タ ー ン の 変 化

  おおざっぱにいえば︑一九九〇年代まで︑先進国企業による海外進出は︹企業誕生・成長↓競争優位確立↓海外進出︺の順に沿って行われる傾向が見られた︒その理由は︑伝統主流派理論の説明の通りである︒つまり︑企業は︑独自な競争優位を駆使し︑「さらなる成長を求めるために海外へ」進出した︒ところが︑一九九〇年代以降になると︑既述したように企業の海外進出環境・条件は大きく変わったため︑海外進出に必要とする競争優位を持たないとされる後発国企業は︑「競争優位を獲得するために海外へ」進出する︑というかつてなかった選択肢を採ることが現れた︒つまり︑現在︑一部の後発国企業は︑︹企業誕生・成長↓海外進出↓競争優位の獲得︺の順に沿って企業行動を起こすようになった︒上記の企業行動の順番における変化はきわめて重要である︒そこで提起された大きな理論問題は︑「競争優位を持たない企業がなぜ︑海外進出できるのか」ということである︒さらにいえば︑かつての海外直接投資を支える「優位前提」という発想は崩れる可能性がある︒以下︑図1に基づいて「後発国型多国籍企業」のパターンを考えよう︒

(6)

企業行動の志向

ローカル志向 グローバル志向

多い A

B

A C

競争優位の状況

B

B C C

少ない

図1 異なる多国籍企業のロードマップ 出所:筆者作成。

  この図には二種類の要素が導入されている︒一つは︑企業成長に不可欠の要素「競争優位」の多寡である︵縦軸︶︒もう一つは︑企業行動の立地的志向を示すもの︵横軸︶である︒市場経済体制という「理想的な」条件のもとでは︑企業は一国内に誕生してから優勝劣敗の淘汰を経て徐々に 成長し︑次第に多くの競争優位を持つようになる︒つまり︑B

限へ進む︒やがて企業は︑海外へ進出する︵B −Bの過程が示すように企業は第三象限から第二象

る︒このようなB の海外への進出理由は︑伝統主流派理論の主張通りであ −B︶︒そ

−B   そして︑図におけるC マップに沿って進化していると考えられる︒ 同時に後発国における多数の企業も依然としてこのロード 「先発国型多国籍企業」が示す企業行動パターンである︒ −Bというロードマップは明らかに

−C 争優位を持つようになる︵C 挙げられる︒したがって︑海外進出した企業は︑徐々に競 金を利用すること︑⑹本国政府の政策による行動︑などが 略資産を獲得すること︑⑷技術を獲得すること︑⑸海外資 に参加すること︑⑵地域統合への対策の一環︑⑶海外の戦 国型企業特有のものもある︒その一部として︑⑴国際分業 イバルとの競争対策︑天然資源獲得など︶もあれば︑後発 なもの︵利益獲得︑市場獲得︑取引コストの低減︑競争ラ れらの企業の海外進出理由は︑先発国型企業のそれと同様 位を獲得していないうちに︑いきなり海外へ進出する︒こ まり︑一国内に誕生した企業が国内において多くの競争優 ンは︑一九九〇年代以降にしか見られないものである︒つ −Cという企業の行動パター

すこと︑⑵海外で獲得した先進技術を駆使すること︑⑶そ する理由として︑⑴海外で獲得した戦略資産をうまく生か −C︶︒その競争優位を獲得

′ ″

(7)

表2 先発国型多国籍企業と後発国型多国籍企業の比較 先発国型多国籍企業 後発国型多国籍企業 国際分業の重要性 それほど重要ではない 重要

母国政府の政策の影響 ほぼ無し あり 地域統合の重要性 重要ではない 非常に重要

多国籍化時のライバル 先発者のため、少ない 後発者のため、非常に多い 競争優位と海外進出 〔企業成長→競争優位の確

立→海外進出〕の順 〔企業成長→海外進出→競 争優位の獲得〕の順

技術の特徴 自前技術中心 導入技術中心

多国籍化の動機 天然資源獲得中心 技術・資産獲得中心 海外事業の所有 単独所有多し 部分所有多し 進出の地理的選好 グローバル選好 近隣地域選好 出所:筆者作成。

の得意な後進国向けの︵製品︑製造︑生産︑管理︶技術を駆使すること︑⑷進出ホスト国のパートナーとの同盟関係を生かすこと︑などが考えられる︒  第三のパターンは︑A

「後発国型多国籍企業」である︒ 在しなかったもので︑一九九〇年代以降に現れた典型的な う行動に踏み切るケースが多い︒このパターンもかつて存 源︑情報力など︶を有する︒しかも最初から海外進出とい 企業は︑最初から強い競争優位︵規模︑資金力︑人的資 によって設立された資源・エネルギー︑金融︑投資などの 東などの後発国多国籍企業の場合︑政府や王室などの出資 が︑現実的には多くの事例がある︒とりわけ︑中国や中近 −Aという「異例な」ものである

㈢   「 後 発 国 型 多 国 籍 企 業 」 の 特 徴

  「後発国型」という言葉に象徴されるように︑「後発国型多国籍企業」は︑「先発国型多国籍企業」と異なる特徴を持つ︒両者の違いを表2にまとめた︒  まず︑国際分業という要素について︑「先発国型多国籍企業」は今日ほど重視していたわけではない︵重視しないのではない点は要注意︶︒これに対して「後発国型多国籍企業」は︑これをきわめて重視する︒場合によって国際分業参加のために海外進出することも考えられる︒  そして︑資本輸出国︵Home country︶政府の政策という

(8)

要素に対する考え方も異なる︒「先発国型多国籍企業」は︑独自の企業戦略に沿って海外事業を構築するが︑彼らは決して母国政府の政策を重要視するわけではない︒要するに︑企業の多国籍化はあくまで企業が採る企業行動であって政府に従って起こした行動ではない︒ところが︑「後発国型多国籍企業」による海外進出は︑︹企業行動+政府の意思︺というケースが少なくない︒中国の国有エネルギー系企業の海外進出は好例であろう︒  また︑地域統合という要素は︑かつての「先発国型多国籍企業」の時代にはあまりなかったもので︑「後発国型多国籍企業」とは対比できないが︑とにかく︑この要素は現在︑後発国企業の海外進出に大きなインパクトを与えている︒一九九〇年代以降︑中国企業のメキシコ進出や二〇〇〇年以降の対東南アジア進出はこれを裏付ける︒したがって︑多国籍化時のライバルを考えると︑「先発国型多国籍企業」の時代には︑先発者が少なかったため︑世界市場におけるライバルもきわめて少なかった︒「後発国型多国籍企業」が海外に現れる時代になると︑すでに多くのライバルが市場に参入していた︒このため︑市場の競争条件は相当厳しいものになった︒そして︑競争優位と海外進出の関係については既述した通りであるが︑「後発国型多国籍企業」の多くは︑そもそも競争優位を獲得するために海外に進出したわけである︒この点は「先発国型多国籍企業」と はまったく異なる︒

  技術の特徴をみると︑かつての先発国企業は︑自前で開発・蓄積した技術を競争優位として駆使し︑海外進出したが︑「後発国型多国籍企業」の多くは︑そもそも先進国から導入・消化したセカンドハンド技術を持って海外事業を展開する︒本来︑セカンドハンド技術は︑最初から勝てないのではないかと疑われるかもしれないが︑後発国企業が持つマイナーイノベーション型の技術は意外な威力を発揮して︑市場競争に相応しいものだといわれてい 6

︿る﹇Lall 1983﹈︒  そして︑多国籍化の動機と海外事業の所有形態を比較すると︑かつての先発国企業は天然資源を獲得するために単独出資の方式を好んだが︑「後発国型多国籍企業」は︑技術・情報︑戦略資産などを獲得するために海外に進出する︒したがって︑その動機を達成するためには︑単独所有に拘らないケースが多い︒最後に︑海外進出の地理的選好について︑競争優位を十分に持つ「先発国型多国籍企業」は最初からグローバル的志向を見せる︒これに対して「後発国型多国籍企業」の多くは︑近隣地域に好んで進出する傾向を示す︒その理由として︑⑴遠隔地域へのグローバル展開に必要とされる立地的競争優位の不足︑⑵近隣地域との経済的リンケージの強さ︑⑶周辺地域の社会的︑文化的類似性︑⑷地理的隣接に由来する生産コスト︵物流︑人的往来などのコスト︶の節約︑などの点が挙げられる︒

(9)

アジア.% アフリカ.%

欧州.% ラテンアメリカ

.% 北米.% オセアニア.%

図2  2010年現在の中国の対外直接投資

ストックの地域別分布

出所:中国商務部『2010年対外直接投資統 計公報』と同部HP。

二   東 南 ア ジ ア に 進 出 し た 中 国 企 業 が 示 し た 「 後 発 国 型 多 国 籍 企 業 」 の 特 徴

㈠   進 出 地 域 の 特 徴

  中国企業の海外進出地域の選択は︑典型的な「後発国型多国籍企業」の特徴を持っている︒これまで中国対外直接投資の地域的特徴は「アジア偏重」である︒二〇一〇年の対外直接投資フロー金額を例にとると︑香港は断トツの一位であり︑年間投資全額の五六%を占めている︒中国企業による香港への集中投資という傾向はこれまで一度も変わることがない︒香港以外の投資先として︑自由港の英領ヴァージン諸島︵六一・二億ドル︑全体の八・九%︶と英領ケイマン諸島︵三四・九六億ドル︑全体の五・一%︶は二位と三位であった︒以上の三地域は︑二〇一〇年の中国の対外直接投資金額の七〇%を占めている︒残りの三〇%の投資先は︑ルクセンブルク︑オーストラリア︑スウェーデン︑アメリカ︑カナダ︑シンガポール︑その他の順になっている︒地域別での対外直接投資状況をみると︑アジア向けのみが投資金額全体の六五・三%︵四四八・九億ドル︶を占めている︒これまで投資地域別における「アジア選好」という地域的な特徴は変わったことがない︒したがって︑中国の直接投資ストック金額をみても︑「アジア偏重」の地域的特徴 は変わらない︵図

クの八五・七%を占めてい 7 それぞれ七一・九%と一三・八%である︒両者だけでストッ 直接投資ストック額全体に占めるこの両地域のシェアは︑ はラテンアメリカ︵四三八・八億ドル︶である︒中国の対外 り︑二二八一・四億ドルに達している︒その次の投資地域 接投資ストック金額では︑最大の投資地域はアジアであ 2︶︒二〇一〇年末現在︑中国の対外直

︿る︒中国の対外直接投資は︑「近隣選好」︵アジア向け︶と「途上国選好」︵ラテンアメリカ向け︶の傾向を持っているといえよう︒要するに︑既述したように︑「後発国型多国籍企業」の多くは︑近隣地域に好んで進出する傾向を示す︒この特色は中国多国籍企業がはっきり示している︒

  上記の理由により︑以下では︑中国企業が多く進出した東南アジア地域を選定し︑同地域の中国多国籍企業の子会社一〇社を対象に「後発国型多国籍企業」の他の特徴を検証する︒一〇社への現

(10)

表3 調査対象の中国多国籍企業の概要

企業名 同仁堂 TCL 海爾集団 TCL 力帆

所在国 タイ タイ タイ ベトナム ベトナム

設立年 2000 2004 2006 1999 2002 親会社所有形態 国有企業 集団企業 集団企業 集団企業 民間企業

企業形態 合弁 単独出資 合弁 合弁 合弁

従業員数 30名 200名 2,082名 370名  工場:240名  販売:130名

500名

中国派遣社員 12 30 生産品目 漢方薬 LCDテレビ

モデル) 洗濯機

冷蔵庫 CRTテレビ LCDテレビ エアコン

オートバイ(モデル)、乗用車 生産方式 輸入販売 CKD生産 現地生産 CKD生産 現地生産

輸出 なし 輸出は少量 10% 一部、タイへ なし

生産能力 現地生産なし 15万台/年間 120万台/年間 170万台/年間 9,000台/月間

企業名 長虹集団 嘉陵集団 福田汽車 TCL 力帆

所在国 インドネシア インドネシア インドネシア フィリピン フィリピン

設立年 2008年 1998年 2007年 2000年 1979年

親会社所有形態 国有企業 国有企業 国有企業 集団企業 民間企業

企業形態 合弁 合弁 OEM 合弁 OEM

従業員数 100名 120名 不明 160名  子会社:40  工場:120

250名  工場:50  本部:200

中国派遣社員

生産品目 エアコン、テレビ、

冷蔵庫 オートバイ 小型トラック DVDプレーヤー

LCDテレビ オートバイ 生産方式 現地生産 CKD生産 OEM生産 委託生産 CKD生産

輸出 10%(ベトナムなど)なし なし なし なし

生産能力 エアコン20万台/年間 10万台/年間 21,000台/年間 LCD5万台/年間 160台/一日 出所:08月、09月、11月、10月に行った現地調査の聞き取りによる 。

地調査は二〇〇八年から二〇一〇年にかけてタイ︵三社︶︑ベトナム︵二社︶︑インドネシア︵三社︶︑フィリピン︵二社︶の四カ国において実施され 8

︿た︒調査対象企業一〇社は︑製造業企業がもっとも多く︑九社に達している︒製造業企業のうちのほとんどが︑自動車︵二輪車を含む︶と電子・電機企業である︵九社︶︒また︑企業の親会社の所有関係は︑中国企業を代表する主要所有形態││国有企業︵四社︶︑集団企業︵四社︶︑民間企業︵二社︶││を網羅している︒この一〇社の概要を表3に示す︒この表は中国多国籍企業の「後発国型多国籍企業」の特徴の一部を示している︒

(11)

㈡   進 出 時 期 ︑ 所 有 関 係 の 特 徴

  企業の現地進出時期について︑自動車・電機産業分野の中国系多国籍企業のほとんどは一九九〇年代以降に進出したもので︑この市場においては先発の日韓企業をキャッチアップする立場である︒一〇社のうち︑唯一の例外は︑一九七〇年代に設立されたフィリピン力帆である︒厳密にいえば︑この企業は中国企業の子会社ではなく︑そもそも一九七〇年代にフィリピンに移民した香港の実業家が創業した華人企業であるが︑二〇〇〇年以降︑この華人企業家の要請によって四川省の民間オートバイ企業力帆は︑この企業との間にOEM生産契約を結び︑フィリピンのオートバイ市場に参入した︑という経緯がある︒これ以外の企業は一九九〇年代以降に東南アジアへ初めて進出したものである︒一九九〇年代以降︑一斉に東南アジアへ進出したという現象は︑前述したGammeltoft﹇2008﹈の先行研究における「途上国企業の対外直接投資が三回の波に乗って行われてきた」という指摘とも一致している︒  次に︑調査対象企業の所有関係には多くの共通点がみられる︒つまり︑単独出資による所有企業は少なく︵一社︶︑合弁企業は半数以上︵七社︶である︒企業調査からわかったように︑単独出資を避けて合弁企業という進出形態を選択した背景には︑現地のパートナーが持つ強みを活用する ことによって自らの立地的競争劣位をカバーしようという動機があった︒具体的にいえば︑「現地合弁相手の生産設備︑人材が利用できるため︑初期投資負担が少ない」︵ベトナムTCL︑タイ・ハイアール︑など︶という︒また︑「相手の協力により政府の許認可が容易に取得できる」︵タイ同仁堂︶という理由もある︒そして︑「相手の販売ルートを利用して国内市場に迅速に参入できる」︵インドネシア長虹︑インドネシア嘉陵︶との理由もある︒とにかく「合弁」という進出現地での所有形態が中国多国籍企業によって多く採用されているという点は大きな特徴の一つである︒

㈢   進 出 動 機 の 特 徴

  東南アジアに進出した中国多国籍企業の進出動機も「後発国型多国籍企業」の特徴を持っている︒表

いて現地進出動機についてまとめたものであ 9 ジアに進出した一〇社の中国企業へのインタビューに基づ 4は︑東南ア

︿る︒これによると︑様々な進出動機の中で︑「重要」と判断されたものが五つある︵「新しい市場獲得」︑「戦略資産獲得」︑「グローバル競争戦略」︑「高関税回避」︑「輸出プル」︶︒「国内生産能力の活用」と「効率追求」という二項目は︑調査情報の制約により︑判断困難である︒残りの九項目は︑「重要でない」という結果になっている︒

(12)

  表4  東南アジアに進出した

中国企業10社の進出動機

「重要」とされる進出動機

新しい市場獲得 戦略資産獲得 グローバル競争戦略 高関税回避 輸出プル

「重要でない」

とされる進出動機

自国政府の支持 進出先政府の優遇政策 資源獲得運営リスク低減 資本リスク低減 国内同業競争 海外資金調達 市場情報の獲得 経営多角化

「不明」動機 国内生産能力の活用 効率追求

説明:○=重要、×=重要でない、?=不明。

出所:現地調査の聞き取り情報により筆者作 成。

  中国企業の対東南アジア進出を決めた動機のうち︑「新しい市場獲得」︑「グローバル競争戦略」の二項目は︑先進国多国籍企業の対外進出動機と共通している︒そして︑「戦略資産獲得」という進出動機は︑より中国型多国籍企業に特色のあるものといってよい︒対象企業六社のうち︑四社は現地に存在していた地元企業もしくは外資系企業を買収したことによって現地生産を開始した︒たとえば︑タイ・ハイアールという中国の代表的な電機メーカーは︑経営不振に陥った日系大手企業の新鋭工場を買収し︑これによって在タイ生産事業を一気に立ち上げ︑われわれの東南アジア現地調査の中でこの工場の規模は一番大きかった︒そして︑「高関税回避」という進出動機は︑ASEAN地域に特有な事情によるものであるといってよい︒周知の通り︑ASEAN加盟国間の工業製品輸入は︑域内のみに適用する優遇輸入関税があり︑非加盟国からの輸入品にはかなり高い関税が課されてい 10

︿る︒この関税上の理由によって東南アジアに直接投資した中国企業が多数あるという︒本稿が取り上げた対象企業一〇社のうち︑電機・輸送機械の五社は関税率の影響が大きいと言及していた︒したがって︑東南アジアに進出した中国企業にとって「輸出プル」は︑重要な進出動機となっている︒つまり︑中国企業の現地生産・経営に踏み切った要因として︑東南アジアに完成品や部品を直接輸出したことが挙げられる︒東南アジアの潜在市場 力を重要視した中国企業は取引コストを考えたうえで︑最終的に現地進出を決めたケースが多いと思われる︒たとえば︑インドネシアに進出した長虹という企業は︑テレビの大手メーカーであり︑二〇〇八年の進出前には︑インドネシア市場にテレビの輸出を行っていたが︑輸出額の増加によって長虹側はまず︑インドネシアの華僑企業と協力関係を結び︑同社の製品を多数輸出した︒二〇〇八年になると︑インドネシアへの輸出は大幅に増えたため︑本社側はついに現地進出に踏み切った︒

(13)

表5 調査対象の中国系電子・電気と自動車企業の現地生産体制 生産体制 製品差別化状況 研究開発の有無

電子・電機企業

タイTCL CKD生産 7モデル × タイハイアール 現地生産 21モデル ○ ベトナムTCL CKD生産 10モデル以上 × インドネシア長虹 現地生産 6モデル前後 × フィリピンTCL 委託生産 5~6モデル ×

自動車企業

ベトナム力帆 現地生産 3モデル × インドネシア嘉陵 CKD生産 2~3モデル × インドネシア福田汽車 委託生産 1モデル × フィリピン力帆 OEM生産 1モデル × 出所:2008~10年に行われた現地調査の聞き取りによる。

㈣   進 出 規 模 ・ 生 産 体 制 ・ 技 術 の 特 徴

  ここでは表3と表

われないほど 産企業とは思 外の企業は量 名︶︒これ以 ︵二〇八二 アールである 企業のハイ 進出した電子 業は︑タイに 最大規模の企 通点がある︒ ないという共 きな企業は少 をみると︑大 の従業員規模 した対象企業 アジアに進出〇〇人の小さな合弁二輪車メーカーであ 11  まず︑東南業に比べて一回り小さい︒最大のベトナム力帆はわずか五 「後発国型多国籍企業」の特徴を検証してみる︒ある︒全体的に自動車分野の対象企業の平均規模は電子企 国多国籍企業の進出規模・生産体制・生産技術に示されたり︑中国国内における長虹のイメージとはかなりの落差が 5に基づいて東南アジアに進出した中シア現地子会社は︑わずか一〇〇名の従業員と小規模であ を持つ国有大手テレビメーカーの長虹が設立したインドネ の中小規模である︒たとえば︑中国国内では大きな認知度

︿る︒そして︑インドネシアに進出した自動車二社をみると︑嘉陵︵二輪車メーカー︶は一二〇名︑福田汽車︵商用車メーカー︶は一〇〇程度の規模である︒とりわけ後者のインドネシア福田汽車は︑北京汽車集団がインドネシアの現地華人企業から委託生産の形で借用した工場であり︑小型トラックを生産しているが︑生産現場をみた限りでは︑自動車工場として信じられないほど小さな規模である︒そして︑フィリピン力帆は大手二輪車メーカー力帆が現地華人企業に協力生産を行う現地企業であり︑力帆本社からの出資はない︒

  次に︑生産規模については︑現地生産を展開した中国の電子・電機企業と自動車企業の現地規模の間のギャップは一目瞭然である︒電子・電機企業は海外現地進出の初期段階に合う規模となっているが︑自動車企業はきわめて小さな規模である︒たとえば︑インドネシア福田汽車の場合︑年間生産量はわずか二・一万台であり︵月間一七〇〇台の計算︶︑自動車企業として極端に小さい︒二輪車メーカー

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の三社︵ベトナム力帆︑インドネシア嘉陵︑フィリピン力帆︶はともに年間一〇万台もしくはそれ以下の生産規模であり︑こちらも小さな規模である︒これに対して電子・電機企業は︑それなりの生産規模を立ち上げている︒タイ・ハイアール︵冷蔵庫と洗濯機︶とベトナムTCL︵テレビ︶は年間一〇〇万台以上の生産規模を抱え︑現地生産の初期段階の規模として相応しいものである︒  第三に︑東南アジアに進出した中国多国籍企業は︑本格的な現地生産体制を取るものが少なく︑委託生産もしくはCKD︵Complete knock-down︶生産を行う企業が多いという特徴を持つ︒この地域の後発進出企業として︑いきなり大きな量産体制を立ち上げるのは困難であることがわかるが︑一般的には︑自動車産業の海外生産の場合︑委託生産やOEM生産のケースは少ない︒自動車対象企業四社のうち︑ベトナム力帆だけは現地生産体制を確保している︒残りの三社は︑委託生産︵インドネシア福田汽車︶やCKDもしくはOEM生産︵インドネシア嘉陵︑フィリピン力帆︶という自動車生産らしくない方法を採用している︒これに対して電子・電機企業の場合︑タイ・ハイアールとインドネシア長虹は現地生産を確保している以外に︑CKD生産か委託生産が主流である︒  第四に︑製品差別化戦略をみると︑電子・電機企業と自動車企業は大きく分かれている︒自動車企業には極端に少 品種生産を行う企業が多い︒二輪車メーカーの三社は一〜三モデル程度で︑トラック・メーカーの福田汽車は一モデルだけの体制である︒対して電子・電機企業の場合︑多数モデル︵多品種︶の戦略を採用する企業が多い︒タイ・ハイアールの場合︑冷蔵庫だけでも二一モデルを投入している︒無論︑自動車と電子・電機製品生産の場合にモデル数の単純比較は︑大きな意味がないが︑両産業間の海外戦略面の差異があることがわかるであろう︒  第五に︑競争力の重要な指標の一つである研究開発については︑中国企業はともに弱い︒自動車産業の四社は現地での研究開発をまったく行っておらず︑親会社からの技術支援に依存している︒たとえば︑現地から調達しようとする簡単な部品のテスト程度の技術作業も行わない︒電子・電機企業の場合もほぼ同様であるが︑唯一︑研究開発体制を持つ企業はタイ・ハイアールである︒ただし︑タイ・ハイアールの研究開発チームは︑二〇〇六年に日系企業から工場を買収した際にそのまま接収したものである︒

㈤   対 外 進 出 に よ る 競 争 力 獲 得 に つ い て

  前述したように︑「後発国型多国籍企業」の特徴の一つは︑先進国の多国籍企業と異なる順番││企業誕生・成長↓海外進出↓競争優位の獲得││で海外に進出することである︒つまり︑後発国多国籍企業は︑国内において多くの

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競争優位を獲得していないうちに︑海外へ進出する︒つまり︑これは「C

−C に参入した点である︒新規進出のグリーンフィールド方式として経営経験の豊富な華人経営者は嘉陵側の経営者を強 華僑系企業に委託生産・OEM生産することによって市場えてすぐに現地生産を開始した︒そして︑合弁パートナー する特徴は︑現地の既存企業を買収もしくは現地の華人・弁企業を作った直後︑既存の生産ラインに若干の改造を加 経営体制を確立することであろう︒対象企業一〇社に共通例である︒嘉陵は当初華僑系の現地企業の要請に応じて合 た中国企業にとって最大の課題は迅速に市場に参入し現地シアに進出した二輪車メーカーの嘉陵は︑これにあたる事 比較的に高い段階に達している︒このような市場に参入し営のスムーズなスタートに寄与したに違いない︒インドネ は︑東南アジア市場において「成熟」もしくは「展開」の現地華人・華僑は買収の最初段階から相性がよく︑現地経 競争優位を持っている︒したがって︑日系と韓国系企業そもそも文化的・社会的なリンケージを持つ中国系企業と 動車と電子・電機市場では︑日系と韓国系企業が圧倒的なOEM生産の委託先はほとんど華人・華僑系企業である︒   属する企業であるが︑周知のように︑東南アジア市場の自次に︑合併・買収によって取得された現地資産もしくは   本稿の分析対象企業九社は自動車と電子・電機産業に所イの現地事業は日系企業から買収した量産工場である︒ 戦略を採用したものが多い︒ンフィールド志向が強いといわれるハイアールも︑そのタ る︒東南アジアに進出した中国多国籍企業にはこのような業である︒そして︑中国の大手電機メーカーの中でグリー 手法は︑現地市場に既存する企業の買収︵M&A︶であずれも現地の既存企業を買収した資産もしくは合弁した事 である︒したがって︑後発国型多国籍企業が多用する進出ン︶は︑いの現地事業三カ所︵タイ︑ベトナム︑フィリピ に︑途上国企業の立地的競争劣位をカバーすることも可能になる︒この戦略を採った典型例はTCLである︒TCL スピーディに海外市場に進出することが可能であると同時が浅い中国企業にとって︑買収した現地戦略資産は即戦力 要である︒つまり︑この進出戦略を通して途上国企業は︑る利点が挙げられる︒とりわけ︑国際経営ノウハウの蓄積 ち︑海外の戦略資産を獲得することと技術の獲得などは重ドの参入方法に比べてM&A方式は様々な手間を避けられ   外進出理由には︑後発国型企業特有のものがある︒そのうまず︑ゼロから現地事業を立ち上げるグリーンフィール 外進出のロードマップである︒このような途上国企業の海手法を反映しているといえる︒ −C」というかつて存在しなかった海ずしも偶然に一致したわけではなく︑中国系企業の巧みな によって参入した事例はゼロであった︒この参入戦略は必

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くバックアップしている︒   第三に︑最も重要な点は︑M&Aを通して取得された戦略資産には︑人的資源︑販売網︑部品・材料調達ネットワーク︑製造技術などが含まれることである︒新しい市場ではこれらの競争優位をゼロから確立することは︑時間的コストがかかるに違いない︒  要するに︑東南アジアに進出した中国多国籍企業は︑現地事業を速やかに立ち上げ︑競争優位を取得するためにM&Aを意識的に採用している︒

三   中 国 多 国 籍 企 業 の 競 争 優 位 と 競 争 劣 位

  以上︑東南アジアに進出した中国多国籍企業が示した「後発国型多国籍企業」の特徴を説明したが︑すでにグローバルに展開する中国多国籍企業の競争力はどうであろうか︒周知のように︑これまでの多国籍企業伝統理論の根底には「競争優位論」があるが︑伝統理論が後発国多国籍企業のグローバル化行動を説明するには疑問がある︒なぜなら︑後発国企業が多国籍化を図ろうとする場合︑必ずしも最初から絶対的競争優位を持っていないからである︒しかし︑海外に進出した途上国企業は︑何らかの「優位」を持たなければ進出現地市場では存亡の危機に直面するに違いない︒ところが︑途上国企業が持っている︑先進国企業 とは異なる競争優位は必ずしも明らかになっていない︒いうまでもなく︑上記の点を明確にしなければ︑中国多国籍企業の海外進出を説明することができない︒では︑中国多国籍企業が持つ競争優位はいったいどのようなものであるのか︒これについて筆者は実証研究調査に基づいて次の二つの概念を提起す 12

︿る︒  一つ目は︑「レギュラー競争優位」である︒これは︑これまで主流派多国籍企業理論の中でよく挙げられる競争優位の諸要素││企業規模︑経営ノウハウ︑製品・製造技術︑人的資本︵無形資産︶︑マーケティング能力︑資金力︑生産管理技術︑製品差別化能力など││である︒伝統理論が提唱して先進国企業が持つ優位はこれである︒  二つ目は︑「イレギュラー競争優位」である︒この種の競争優位は︑必ずしもこれまでの主流派理論によって研究されず︑途上国多国籍企業にのみ適用されるものである︒これらの競争優位要素の定義は︑きわめて困難であるが︑上記の「レギュラー競争要素」に属さない︑すべての優位要素はこれにあたる︒筆者が考えたイレギュラー競争要素には次のものがある︒一つは「ソーシャル・キャピタル」︵Social capital, 社会関係資本︶にあたる要素である︒ソーシャル・キャピタルは︑社会学︑政治学︑経済学︑経営学などにおいて用いられる概念である︒人々の協調行動が活発化することにより社会の効率性を高めることができると

(17)

表6 東南アジアに進出した中国系多国籍企業の競争力現状

レギュラー 競争要素

製品技術 製造技術 製品差別化の能力 企業規模 資金力 人的資源 マーケティング 国際経営ノウハウ ブランド力 市場シェア 価格競争力

日韓企業に遅れるか、せいぜい同等 最新鋭の日韓企業に一歩遅れる 相当弱い。少品種体制はほとんど 比較的小さい。OEM生産が多い 比較的弱い

国際経営人材は不足。華人資源を活用 市場開拓の最中

日韓企業に比べて不足状態 現地市場ではほとんど知られない 極めて小さい

その価格に相応しい品質を確保

イレギュラー 競争要素

華人・華僑資源の活用 グレーな経営手法 人的ネットワーク コネの活用

インフォーマルな関係 現地パートナーの活用 現地市場に適応する代替品

各社はフル活用。要職に華人を登用 活用していると推察される

現地華人・華僑はカバーするところが多い 巧みに活用

同上

充分に活用している。依存するところも 早い段階から現れている

出所:2008~10年の間に実施した現地調査情報により作成。

いう考え方のもとで︑社会の信頼関係︑規範︑ネットワークといった社会組織の重要性を意味するものである︒筆者の海外現地調査では︑度々このようなソーシャル・キャピタルにあたるものに出会った︒たとえば︑東南アジアに存在している華人・華僑ネットワークという要素は︑中国系企業にのみ適応される競争優位である︒そして︑もう一つは︑「革新的結合」能力にあたるもの︵末広﹇2000﹈︶である︒「革新的結合」とは︑途上国の企業家が既存の経営諸資源を後発国の諸経営環境と創造的に組み合わせることによって新たな競争力を獲得することである︒東南アジアに進出した中国企業は︑先発の日韓企業に比べてレギュラー競争優位が比較的少ないので︑現地で通用する様々な競争手段︵先進国と違う商慣習︑インフォーマルな関係︑人脈とコネなど︶を度々導入し︑自らの劣位を補う︒  そして︑上記の二種の競争優位によって東南アジアにおける中国系多国籍企業を測った競争優位と劣位はどうであろうか︒一言で言えば︑中国系多国籍企業の競争優位は「イレギュラー競争要素」に偏在している︒これに対して「レギュラー競争要素」において中国企業はあまり優位性を示していない︒これをまとめた資料が表

戦力を活用しているところが多い︶と「価格競争力」︵低価 のがきわめて少なく︑「人的資源」︵現地の華人・華僑の即 における「レギュラー競争要素」をみると︑優位に立つも 6である︒資料

(18)

レギュラーな競争要素 資金力、規模

ブランド力人的資源 国際経営の経験 製品・製造技術

製品差別化能力 機能・価格

の相関関係 現地に適する代替品

華人・華僑資源 人脈・コネ 現地パートナー インフォーマルな関係

イレギュラーな競争要素

劣位 優位

      図3  東南アジアに進出した中国多国籍企業の 競争優位と競争劣位の分布図

出所:現地調査により筆者作成。

格商品の提供とその値段に相応しい品質︑中国語で「性価比」︶の二要素しかない︒これに対して「イレギュラー競争要素」のほとんどは優位を示している︒これらの要素の中では各社で活躍している現地の華人・華僑の役割は一番印象的である︒彼らは中国系企業の弱み││現地言語︑商慣習︑地元政府とのやりとり︑市場情報の収集︑販売網の確立など││を市場参入の時点からカバーし︑現地事業を速やかに立ち上げることに不可欠な役割を果たしている︒  上記の中国系企業の競争優位と競争劣位の分布状況を整理したのが図

速の方法だと考えられる︒なぜなら︑合併・買収を通して ている︒これはレギュラー競争優位を速やかに獲得する最 争劣位︶を克服するために中国企業はM&Aをよく採用し いるところである︒この段階における弱点︵レギュラー競 う段階を通過して現地事業を速やかに立ち上げようとして とが避けられない︒現在︑中国企業は︑世界市場参入とい ラー競争劣位」から「レギュラー競争優位」に転換するこ とっては︑現在の「イレギュラー競争優位」と「レギュ の海外事業展開から事業成熟の段階に入ると︑中国企業に 今後︑その競争優位の変化が注目される︒とりわけ︑企業 入段階にあたる中国企業の一時的な競争の構図であるが︑ レギュラー競争要素」に強い︒この結果は海外市場への参 における中国企業は「レギュラー競争要素」に弱く︑「イ 3である︒この図からわかるように︑現時点

(19)

取得された戦略資産には︑レギュラー競争優位要素││人的資源︑販売網︑部品・材料調達ネットワーク︑製造技術など││が含まれるからである︒新しい市場ではこれらの競争優位をゼロから確立するには︑時間的コストがかかるに違いない︒今後︑日韓企業に比べてキャッチアップする立場の中国製造業企業にとってレギュラー競争優位を確立するにはかなり時間的コストがかかるに違いないが︑中国企業は様々な賢い戦略と手法を駆使し︑先発者をキャッチアップするタイムスパンを短縮する可能性が十分にある︒

お わ り に

  以上︑東南アジアに進出した中国多国籍企業を中心に現段階における中国企業の競争パターンおよび中国企業が示した「後発国型多国籍企業」の特徴について説明した︒最後に本稿の研究によって明らかにされたポイントをまとめる︒  まず︑本稿は︑「後発国型多国籍企業」仮説を提起した︒とりわけ︑途上国で誕生した企業が国内において多くの競争優位を獲得しないうちに海外へ進出する︑という後発国型多国籍企業の特徴を中国多国籍企業は持っている︒東南アジアに進出した中国企業を検証した結果に示されたように︑このような進出戦略を通して︑中国企業はスピーディ に海外市場に進出することを可能にしたと同時に︑中国企業の立地的競争劣位もカバーする効果もあげた︒したがって︑この進出手法を採用する中国企業は︑海外現地市場の既存企業を買収︵M&A︶するケースが多い︒  次に︑東南アジアに進出した中国企業の現地進出時期についても多くの後発国型多国籍企業の特徴がみられた︒つまり︑東南アジアに投資した自動車・電機産業分野の中国系多国籍企業のほとんどは一九九〇年代以降に進出したもので︑この市場においては先発の日韓企業をキャッチアップする立場である︒また︑東南アジアに進出した中国企業には︑単独出資による所有企業は少なく︑合弁企業が大半である︒単独出資を避けて合弁企業という進出形態を選択した背景には︑現地のパートナーが持つ強みを活用することによって自らの立地的競争劣位をカバーしようとする動機があった︒  第三に︑中国多国籍企業の対東南アジア進出を決めた動機について︑「新しい市場獲得」︑「グローバル競争戦略」の二項目は︑先進国多国籍企業の対外進出動機に共通している︒そして︑「戦略資産獲得」という進出動機は︑より中国型多国籍企業の特色であるといえる︒また︑「高関税回避」という重要な進出動機は︑地域統合が後発国企業の多国籍化を促進する効果をもたらすことを裏付ける︒  第四に︑東南アジアに進出した中国多国籍企業の進出規

(20)

模・生産体制・生産技術に示された「後発国型多国籍企業」の特徴として︑⑴小規模な子会社︑⑵少品種・少量生産︑⑶技術の親会社依存などの点が挙げられる︒これも後発国型多国籍企業の特徴であるといえる︒  第五に︑中国企業が対外進出によって競争力を獲得する︑という点は︑典型的な後発国型多国籍企業の特徴である︒同時に東南アジアに進出した中国多国籍企業は︑現地事業を速やかに立ち上げ︑競争優位を取得するためにM&Aを意識的に採用している︒  最後に︑本稿では︑多国籍企業の海外進出を支える二種類の競争優位││レギュラー競争優位とイレギュラー競争優位││を提起した︒とりわけ︑後者は︑後発国型多国籍企業が持つ︑一時的な優位であり︑彼らの初期の海外事業を強力に支えるものでもある︒東南アジアに進出した中国系多国籍企業の競争優位は「イレギュラー競争要素」に偏在している︒これに対して「レギュラー競争要素」において中国企業はあまり優位性を示していない︒

注︿

︿ 20101﹀住友信託銀行﹇﹈による︒

︿ 20082﹀これについては︑丸川・中川﹇﹈を参照されたい︒

3﹀中国商務部『二〇一〇年中国対外直接投資統計公報』 ︿ 二頁の説明による︒

︿ ている︒ めている︒本節の記述は︑薛氏の研究内容の一部を引用し 20014﹀これについての研究は︑薛國萍﹇﹈が詳しくまと

︿ Gammeltoft 2008: 5–22.の文献に詳しく記述されている︒﹇﹈ 5﹀途上国対外直接投資の三つの波に関連する議論は下記 行ったり︑途上国の市場・環境に適するような製品を開発 を加えたり︑小規模生産技術に関するイノベーションを は︑先進国で広く普及した技術にマイナーイノベーション 競争優位性を説明している︒つまり︑途上国の多国籍企業 の局地化」の概念を使い︑次のように途上国多国籍企業の ストは必要となるからである」︒ラルは︑この「技術変化 率的に利用しようとして︑旧技術を再現するには追加的コ より高い技術レベルに切り替えた企業は︑再び旧技術を効 活用できなくなるということを意味する︒すなわち︑一旦 業と下請企業はシフトした高いレベルの技術しか効率的に する下請企業までも︑高い技術レベルにシフトし︑その企 変化させることは︑その企業はもちろん︑その企業と取引 ということを指す︒「ある企業がより高いレベルへ技術を 技術を熟知するのではなく︑ある範囲の技術しか知らない 性を一般化した︒「技術の局地化」とは︑企業はすべての 概念を開発し︑途上国の多国籍企業が持つ特殊な競争優位 Technological localizationえで︑有名な「技術の局地化」︵︶ 直接投資における競争優位と投資動機を丹念に研究したう Lall, S.6﹀イギリス人学者ラル︵︶は︑インド企業の対外

(21)

したりすることによって競争優位性を創造する︒︿

︿ 20117﹀中国商務部﹇﹈による︒

︿ ビューとアンケートの両方が同時に現場で行われた︒ ドの五カ国において実施された︒現地調査の際にインタ して︑タイ︑ベトナム︑インドネシア︑フィリピン︑イン 2033︑研究代表川井伸一愛知大学教授︶の一環と 関係とネットワーク│日中企業比較」課題番号2040 金︵基盤研究B︶︵研究課題名「海外経営における企業間 8﹀研究調査は︑二〇〇八〜二〇一〇年度科学研究費補助

︿ で判断したものである︒ 9﹀一〇社の中国企業の進出動機については︑筆者が独自

︿ 税率はわずか五%である︒ 加盟国からベトナムへの同様な電子・電機完成品の輸入関 直接輸入関税率は︑四〇%であるのに対して︑ASEAN 10﹀たとえば︑中国からベトナムへの電子・電機完成品の

︿ 小さなものだと推測される︒ 生産し始めたという証言があったが︑生産体制はきわめて 11﹀二〇〇九年の現地調査の際にベトナム力帆は乗用車も 2010aしくは︑苑﹇﹈を参照されたい︒ 12﹀この二つの概念が筆者の別の論文で初提起された︒詳

主要参考文献

︿日本語﹀苑志佳 2007  「中国企業の海外進出と国際経営」中国経営 管理学会『中国経営管理研究』第六号︑二七

四号 方に関する一考察」立正大学『経済学季報』第六一巻三・   2011c苑志佳「中国の対外直接投資の現状︑特徴および行 ︵田中英式・宮原曉・山本博之経編︶ JCAS Collaboration Series No. 1人市場の誕生とその衝撃』 学国際中国学研究センター『ASEAN・中国││一九億 ソーシアム・京都大学地域研究統合情報センター・愛知大 らレギュラー競争優位への転換は可能か」地域研究コン らみた競争力の構築について││イレギュラー競争優位か   2011b苑志佳「ASEANに進出した中国系多国籍企業か 学『経済学季報』第六〇巻二号 争力構築について││東南アジアの事例を中心に」立正大   2011a苑志佳「海外市場に進出した中国系多国籍企業の競 No. 195四月号︵︶︑日中経済協会 ターンの現状と行方」『日中経協ジャーナル』二〇一〇年   2010c苑志佳「ASEAN││中国現地企業の市場競争パ 現代中国学ジャーナル』第二巻第一号 による検証」愛知大学国際中国学研究センター『ICCS 機・競争優位・競争劣位││タイとベトナム現地調査結果   2010b苑志佳「東南アジアに進出する中国企業の進出動 第五九巻四号 企業との間の「非同質性競争」」立正大学『経済学季報』   2010a苑志佳「東南アジア市場における中国企業と先進国 http://rio.andrew.ac.jp/cms/cms006.html︵︶ −四三頁

(22)

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参照

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