数理解析学4・講義ノート
第6回
(2020
年11
月11
日(
水)
配信分)
7 Traizet
の仕事2(
抄)
Traizet
は’02
年の論文において、埋め込まれたN -noids
の列の崩壊した極限状態とし て、N
枚の平面の隣接する2
枚を無限小のcatenoids
により連結したものを考え、そこ に陰関数定理を適用して、崩壊していない埋め込まれたN -noids
の族を構成した。続く’04
年の論文では逆に、埋め込まれたN -noids
の列の崩壊した極限状態が、どのような制 約条件の下にあるかを考察している。ここに導かれる制約条件は、陰関数定理を適用する 際に課した条件を正当化するものであるが、一方、Ros
の結果(定理6.1
)が示唆して いるように、この極限状態は必ずしもN
枚の平面の隣接する2
枚を無限小のcatenoids
により連結したものになるとは限らず、例えば無限小のCosta
曲面が3
枚の平面を連結 している場合も有り得るし、また、より高位の無限小の曲面を含んでいる可能性もある。よって、一般的にはその制約条件はより複雑な形をとって記述されることになる。
Traizet
の’04
年の仕事の目的の一つは、前節の予想の解決に向けて,一つの里程標を立てることである。(なお、前節同様、本節も結果の紹介にとどめる。)
埋め込まれた
N -noids M
は各end ∞ k (k = 1, . . . , N )
がx 1 x 2 -平面と平行になるよう
配置されているとする。特に下から数えて奇数番目が下向きであると仮定すると、N -noids
が埋め込みであるためには、ends∞ k
のweights a k
に対し、上向きを正と考えたweights
の列{ c k := ( − 1) k a k } N k=1
が広義単調増加(c 1 ≤ c 2 ≤ · · · ≤ c N )
でなければならない。ここ で、・
M
が分離されたends
を持つ⇐⇒ { c k } N k=1
が狭義単調増加(c 1 < c 2 < · · · < c N ).
・
ϵ > 0
とする。
M
がϵ-分離された ends
を持つ⇐⇒ c k+1 − c k ≥ ϵ(c N − c 1 ) (k = 1, . . . , N − 1).
さらに、
M n ⊃ { M n }
に対し、・
{ M n }
が一様に分離されたends
を持つ⇐⇒ n
によらないϵ > 0
が存在して、Mn
がϵ-
分離されたends
を持つ。と、それぞれ定義する。
以下、
M (G, N ) ⊃ { M n }
について、定理6.1
の収束を考える。
k = 1, . . . , N
に対し、I k := { i | M i, ∞
がk
段目のend
を持つ}
とおく。(このI k
は§ 6
のI k − 1 ∪ I k
である。)相似変換
φ i,n
の拡大率をµ i,n
とする。
{ M n }
が一様速度を持つ⇐⇒ C > 0
が存在してµ i,n ≤ Cµ j,n ( ∀ i, ∀ j = 1, . . . , m; ∀ n ∈ N)
と定義する。ここで、
µ i,n = 1 ∀ i = 1, . . . , m; ∀ n ∈ N
を仮定してよい。実際、M ˜ n :=
µ 1,n M n , ˜ φ i,n := 1
µ i,n φ i,n
とおくと、その拡大率はµ ˜ i,n = 1.
{ M n }
が一様速度を持つとき、µ i,n µ 1,n ∈ [ 1
c , c]
の部分列は収束するので、その極限をℓ i
とおくと、˜
φ i,n ( ˜ M n ) = 1
µ i,n φ i,n (µ 1,n M n ) = µ 1,n
µ i,n φ i,n (M n ) → 1
ℓ i M i, ∞ =: ˜ M i, ∞ .
{ M n }
が一様速度を持たないとき、部分列を選び、添え字を入れ換えれば、µ 1,n :=
min { µ i,n | i = 1, . . . , m }
を仮定してよく、µ i,n
µ 1,n ∈ [1, + ∞ )
の部分列は収束するか+ ∞
に発 散するかのいずれかである。収束する場合は同上で、発散する場合はM ˜ i, ∞ . = 1
∞ M i, ∞
平 面が数枚重なっている、すなわちこの部分だけ先に崩壊しているものと考える。
M i, ∞
のk
段目のend
のweight a i,k, ∞
に対し、Q i,k := ( − 1) k a i,k, ∞
とおく。(charge
と呼ぶ。)k
段目が平坦なend
のとき、またはk
段目にend
を持たない(i ̸ = I k )
とき、Q i,k = 0
とする。
Q k := ∑ m i=1 Q i,k (k = 1, . . . , N )
とおく。
M n
のk
段目のend
のweight a k,n
に対し、c k,n := ( − 1) k a k,n
とおく。Q k = lim n→+∞ c k,n
が成り立つ。
x 1 x 2 -
平面をC
と同一視し、B i,n
の中心のC
への射影をp i,n ( ∀ i = 1, . . . , m; ∀ n ∈ N)
とおく。(一様速度となるよう取り替えたので、)一般にはlim n → + ∞ p i, ∞ = ∞
となる可 能性がある。(ならないのはm = 1
すなわち一つの極限曲面M 1, ∞
に収束するときに 限る。)相似変換の列{ ψ n }
で、lim n → + ∞ ψ n (p i,n ) = p i ∈ C ( ∀ i = 1, . . . , m)
かつあるi ̸ = j = 1, . . . , m
に対しp i ̸ = p j
をみたすようなものを選ぶ。
{ p 1 , . . . , p m }
を極限配置( limit configuration )
と呼ぶ。
{ p 1 , . . . , p m }
が非特異( nonsingular ) ⇐⇒ p i ̸ = p j ( ∀ i ̸ = ∀ j = 1, . . . , m),
{ p 1 , . . . , p m }
が特異( singular ) ⇐⇒
あるi ̸ = j = 1, . . . , m
に対しp i = p j
とする。
{ p 1 , . . . , p m }
が特異のとき、i = 1, . . . , m
の同値関係をi ∼ j ⇐⇒ p i = p j .
で定義する。
i ∈ α
のとき、p α := p i
と表す。
Q α,k := ∑ i ∈ α Q i,k
とおく。
∀ α
に対し、相似変換の列{ ψ n α }
で、lim n → + ∞ ψ α n (p i,n ) = p α i ∈ C ( ∀ i ∈ α), lim n → + ∞ ψ n α (p j,n ) =
∞ ( ∀ j ̸∈ α)
かつあるi ̸ = j ∈ α
に対しp α i ̸ = p α j
をみたすようなものを選ぶ。
{ p α i | i ∈ α }
を部分配置( subconfiguration )
と呼ぶ。
{ p α i | i ∈ α }
が非特異⇐⇒ p α i ̸ = p α j ( ∀ i ̸ = ∀ j ∈ α),
{ p 1 , . . . , p m }
がnested ⇐⇒
あるα
に対し{ p α i | i ∈ α }
が特異⇐⇒
あるi ̸ = j ∈ α
に対しp α i = p α j
とする。
一般に、配置の添字集合
{ 1, . . . , m }
をtree
を用いて表す。{ 1, . . . , m }
の各元をleaf
と し、部分tree
でlabel
されるものをnode
とし、tree
全体でlabel
されるものをroot
と する。各leaf
の深度( depth )
はroot
との距離により定義し、配置の深度はleaf
の深 度の最大値により定義する。非特異な配置は深さ
1,
部分配置が非特異な配置は深度2
である。
∀ α :
節に対し、相似変換の列{ ψ n α }
で、lim n → + ∞ ψ α n (p i,n ) = p α β ∈ C ( ∀ i ∈ ∀ β : α
のson), lim n → + ∞ ψ α n (p j,n ) = ∞ ( ∀ j ̸∈ α)
かつあるβ ̸ = γ : α
のson
に対しp α β ̸ = p α γ
をみたすよう なものを選ぶ。配置が非特異のとき、
F i :=
∑ N
k=1
∑ m
j=1;j ̸ =i
Q i,k Q j,k
p i − p j ( ∀ i = 1, . . . , m),
部分配置が非特異のとき、F i α :=
∑ N
k=1
∑
j ∈ α;j ̸ =i
Q i,k Q j,k
p α i − p α j ( ∀ i ∈ α; ∀ α),
nested
のとき、F β α :=
∑ N
k=1
∑
γ:α
のson;γ ̸ =β
Q β,k Q γ,k
p α β − p α γ ( ∀ β : αの son; ∀ α)
でそれぞれforce
を定義する。ここで、定理
6.2
において、∀ k = 1, . . . , N − 1, ∀ i ∈ I k
に対し、{ Q i,k := − ˜ a k (M i, ∞
の下向きのflux ) Q i,k+1 := ˜ a k (M i, ∞
の上向きのflux ),
またp i :=
{ q i (i ∈ I k : k
は奇数)
− q i (i ∈ I k : k
は偶数) とおけば、F i =
∑ N
k=1
∑
j ∈ I
k−1∪ I
k;j ̸ =i
Q i,k Q j,k
p i − p j ,
W =
∑ N
k=1
∑
i<j
Q i,k Q j,k
であることに留意しておこう。定理
7.1.
(論文の定理4, 5, 6
)[1]
配置が非特異のとき、(1) F i = 0 ∀ i = 1, . . . , m.
(2) i ∈ I k ∩ I k+1
のとき、Q i,k+1 − Q i,k = H k : i = 1, . . . , m
によらない定数。[2]
部分配置が非特異のとき、(1a) F i α = 0 ( ∀ i ∈ α; ∀ α).
(1b) F α = 0 ( ∀ α).
(2a) i ∈ I k ∩ I k+1
のとき、Q i,k+1 − Q i,k = H k α : i ∈ α
によらない定数。(2b) i ∈ I k ∩ I k+1
のとき、あるρ ∈ [0, 1]
が存在して
ρ(Q i,k+1 − Q i,k ) + (1 − ρ)(Q α,k+1 − Q α,k ) = H k : i = 1, . . . , m
によらない定数。[3]
nested
のとき、(1) F β α = 0 ( ∀ β : α
の子; ∀ α).
(2) i ∈ I k ∩ I k+1 , i ∈ α
のとき、α
とi
を結ぶ経路をα = α 0 , α 1 , . . . , α r = i
(r
はi
とα
の深さの差)とすると、あるρ 1 , . . . , ρ r ∈ [0, 1]
が存在して∑ r s=1 ρ s = 1,
∑ r s=1 ρ s (Q α
s,k+1 − Q α
s,k ) = H k α : i ∈ α
によらない定数。
[2] (2b)
について、次のことに注意する。・
p i
が非特異ならばρ = 1
すなわちQ i,k+1 − Q i,k = H k .
・
{ M i, ∞ | i ∈ α }
が一つの曲面のように振舞うならばρ = 0
すなわちQ α,k+1 − Q α,k = H k .
・
p j
が非特異でj ∈ I k ∩ I k+1
ならば
Q j,k+1 − Q j,k ∈ [Q i,k+1 − Q i,k , Q α,k+1 − Q α,k ]
または[Q α,k+1 − Q α,k , Q i,k+1 − Q i,k ].
[3] (2)
については、・
H k α ∈ [min { Q α
s,k+1 − Q α
s,k | s = 1, . . . , r } , max { Q α
s,k+1 − Q α
s,k | s = 1, . . . , r } ].
定理
7.2.
(論文の定理7
)∑ N k=1 ∑ i<j Q i,k Q j,k = 0.
定理
7.1, 7.2
を用いて、次の定理を得る。定理
7.3.
(論文の命題6
)
N − 3
とする。{ M n }
が一様な速度を持つとき、極限{ M i, ∞ | i = 1, . . . , m }
は次のいず れかである。(1) m = 1, M 1, ∞ ∈ M (G, 3).
(2) m = r + 1, r ≥ 2
(Costa-Hoffman-Meeks
の配置)M 1, ∞ , . . . , M r, ∞ : 1 ∼ 2
段目のcatenoid, − Q i,1 = Q i,2 = 1, p i = ζ r i − 1 (i = 1, . . . , r), M r+1, ∞ : 2 ∼ 3
段目のcatenoid, − Q r+1,2 = Q r+1,3 = r − 1, p r+1 = 0.
(3) m = 4
(Horgan
の配置?)M 1, ∞ , M 2, ∞ : 1 ∼ 2
段目のcatenoid, − Q i,1 = Q i,2 = 1 (i = 1, 2), p 1 = 1, p 2 = − 1,
M 3, ∞ , M 4, ∞ : 2 ∼ 3
段目のcatenoid, − Q i,2 = Q i,3 = r − 1 (i = 3, 4), p 3 = a, p 4 = 1/a (a ∈ C \ { 0, 1, − 1 } ).
(4) m = 4
((3)
のa → +0
のときの極限、非特異α = { 1, 2, 3 }
)M 1, ∞ , M 2, ∞ : 1 ∼ 2
段目のcatenoid, − Q i,1 = Q i,2 = 1 (i = 1, 2), p α 1 = 1, p α 2 = − 1, M 3, ∞ : 2 ∼ 3
段目のcatenoid, − Q 3,2 = Q 3,3 = 1, p α 3 = 0,
M 4, ∞ : 2 ∼ 3
段目のcatenoid, − Q 4,2 = Q 4,3 = c ∈ (0, 1].
定理
7.3
の系として、次を得る。(ちょっと怪しい)系
7.4.
(論文の定理2
)
G ̸ = 2
とする。M (G, 3) \ C (G) ⊃ { M n }
が一様に分離されたends
を持つならば、{ M n }
のある部分列がM ∞ ∈ M (G, 3)
に収束する。定理
7.5.
(論文の定理1
)
G ≥ 1
とする。M (G ′ , N ′ ) = ∅ ( ∀ G ′ < G, ∀ N ′ ≥ G ′ + 3)
ならばM (G, N)
はcompact ( ∀ N ≥ G + 3)
である。
G = 1
のとき、事実(3)
より、仮定がG ′ = 0 < G = 1
について満たされるので、系
7.6.
(論文の系1
)
M (1, N )
はcompact ( ∀ N ≥ 4)
である。これが
∅
であるか否かはまだ知られていない。平行なends
を持つ種数1
の4-noids
は 構成できるので、実際は極めて微妙な処である。参考文献