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サッカーワールドカップ 2002 に伴う輸入感染症の発生予測

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(1)

大型航空機による高速かつ大量の人と物の輸送 が可能となり,インターネットや衛星通信を利用 した大量の情報が多方面に同時配信可能となった 今日,大型イベントへの関心と参加は地球規模に なりつつあるといっても過言でない.

イベントの impact(重大性)を評価する際,社 会政治的重要性(VIP の参加など)と総動員数が 2 つの基軸となる.2000 年 7 月に九州沖縄で開催 された G8 サミットは,海外からの参加関係者が 5 千人,日本からは 2 千人ほどであった(沖縄県企

画調整室発表)が,先進諸国の首脳が一同に会し た点で,社会政治的重要性は極大であった.同年 8 月 18〜20 日に湘南で開かれたサザンオールス ターズのコンサートは,社会政治的なインパクト は小さなものであったが,観客動員数は会場に入 りきれなかった観客約 5 万人も含めて 11 万 5 千 人(神奈川県警察本部発表)にも達する大規模な イベントであった.

2002 年 5 月 31 日〜6 月 30 日に韓国と日本で開 催が予定されている「2002 年 FIFA ワールドカッ プ韓国・日本」 (以下ワールドカップ 2002)は,こ れ ら 2 つ の 基 軸 が い ず れ も 高 く な る mass- gathering(多数が集まる)& high-profile(重要度 の高い)event(催し)と云える.1998 年 2 月に開

サッカーワールドカップ 2002 に伴う輸入感染症の発生予測

国立感染症研究所感染症情報センター1),国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)2)

高橋 央

1)

加來 浩器

2)

田中 毅

2)

松井 珠乃

2)

小坂 健

1)

大山 卓昭

1)

岡部 信彦

1)

(平成 13 年 10 月 1 日受付)

(平成 13 年 11 月 8 日受理)

2002 年 5 月 31 日〜6 月 30 日に韓国と日本で開催が予定されている「2002 年 FIFA ワールドカップ韓 国・日本」は,mass-gathering(多数が集まる)and high-profile(重要度の高い)event(催し)である.

国土交通省が開催期間中に日本へ入国する関係者が約 43 万人と発表されたのを受けて,その間発生する と予想される主要な輸入感染症の数を,感染症発生動向調査と出入国統計のデータを元に推定したとこ ろ,赤痢 5.88 件,マラリア 3.41 件,チフス性疾患 1.40 件,コレラ 0.42 件,流行性脳脊髄膜炎 0.0032 件,

と推定された.1 類感染症に指定されるウイルス性出血熱の発生予想は,アフリカ由来のマラリア症例数 に比例して,15 年ごとに日本への持ち込まれると仮定したこころ,0.0018 件と算出された.これらの結 果は,ワールドカップ開催中に主要な輸入感染症が著増する可能性は少ないことを示したが,普段外来 感染症を経験しない開催県等でも発生する可能性がある.特にマラリアへの対応について,サーベイラ ンスの強化と医師や公衆衛生専門職への教育が強く望まれる.

〔感染症誌 76:102〜108,2002〕

別刷請求先:(〒162―8640)東京都新宿区戸山1―23―1 国立感染症研究所感染症情報センター

高橋 央

Key words: imported infection , surveillance , malaria , viral hemorrhagic fever , mass-gathering

(2)

催された長野冬季五輪では,海外からの観光客は 3 万人程度であったが,ワールドカップ 2002 はそ れを 1 桁上回る規模となる事が予測されている.

我々は G8 サミット期間中に,症候群別のアク ティブサーベイランスを福岡と宮崎で実施し,そ の有用性と問題点について検討した.G8 サミット は high-profile イベントであったため,サミット 同行者が持ち込む健康問題の地域への影響より も, 開催地域で発生する感染症 (特にアウトブレー ク)がサミット参加者に健康被害を及ぼさないこ とを目的としたサーベイランスであった.そのた め,開催地域で発生した不自然な症候群(バイオ テロを含む) の早期検出が目的となった

1)

.ワール ド カ ッ プ 2002 の サ ー ベ イ ラ ン ス で は,mass- gathering の要素も増大するため,G8 サミット・

サーベイランスの目的の他に,輸入感染症が地域 住民の健康に与える影響を最小限に抑える目的が 加わることになる.その準備として,輸入感染症 の通常の発生頻度を明らかにし,そのベースライ ンデータから, ワールドカップ 2002 開催中にどれ くらいの発生報告があるかを推測しなくてはなら ない.

2000 年 7 月 25 日,国土交通省が 「ワールドカッ プ 2002 期間中に日本を訪れる関係者の総数は 42

〜43 万人に達する」と発表したのを受けて,感染 症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する 法律(感染症予防法)に規定されている各種感染 症のうち 4 類感染症のマラリアと流行性脳脊髄膜 炎,2 類感染症の赤痢,コレラ,腸チフス及びパラ チフス (これらを合わせて,以下チフス性疾患) , それに 1 類感染症のラッサ熱をはじめとするウイ ルス性出血熱について,どれ位日本へ持ち込まれ るのかを予測した.

来日関係者数とその内訳の推定:国土交通省 は,航空機と船舶の輸送量から試算した来日関係 者数を,観光客が 36 万 5 千人,選手や役員など大 会関係者を含めた来日総数が 42〜43 万人 (報道関 係者を含む) との予測を発表した.そこで 43 万人 が大会期間中に来日すると仮定した.入場券の発 売総数は約 64 万枚で, その発売先が国内と海外で

半々のため,仮に外国人が海外発売枠の入場券 32 万枚を全て購入して来日し, 残りの 11 万人がワー ルドカップ 2002 に伴う日本人の移動や帰国とし た.日本人帰国者と外国人入国者の内訳は,1999 年 1 月〜2000 年 12 月の出入国統計による「正規 外国人入国者・日本人帰国者実績」をもとに,地 域別の外国人入国者・日本人帰国者の割合をその まま適用した.

感染症の推定感染者数:1999 年 4 月から 2001 年 3 月末までの 2 年間に,感染症予防法に基づい て感染症発生動向調査に報告されたマラリア,流 行性脳脊髄膜炎,赤痢,コレラ,チフス性疾患の 居住地・訪問地を, 症例報告票から調査した. ワー ルドカップ 2002 が行われる 6 月に, これらの発生 動向に大きな増減がないことを確認した上で,外 国人と日本人症例ごとに,1999〜2000 年の報告数 を,同年間の外国人入国者・日本人帰国者総数に 対するワー ル ド カ ッ プ 2002 関 連 の 外 国 人 入 国 者・日本人帰国者数(32 万人と 11 万人)の比に乗 じて,各発生数を算出し,それを合計して推定し た.

その際, ワールドカップ 2002 に関係して来日す る 集 団 は,外 国 人 も 日 本 人 も 1999 年 4 月 か ら 2001 年 3 月末までの間に来日した集団と,発病率 について相違ない,と仮定した.一方,1 類感染症 に指定されているウイルス性出血熱の発生頻度に ついては,1987 年のラッサ熱輸入症例以来 15 年 間報告がないことを根拠に,アフリカ由来マラリ アの報告実績を利用した海老沢の発生頻度推定方 法

2)

を参考にして, 開催期間中に発生する確率を推 定した.

1999 年 4 月から 2001 年 3 月末までに,感染症 発生動向調査に報告された海外からのマラリア,

流行性脳脊髄膜炎,赤痢,コレラ,チフス性疾患 の週別動向を Fig. 1 に示す.これらの発生動向に,

6 月を中心とした症例の増減は特に認められな かった.

Table 1 に,各疾患の報告数と患者の出発地を 示す.総報告数とそのうち輸入症例が占める割合

(%)は,マラリア 288 件(100%),流行性脳脊髄

(3)

Table 1 Origin of the reported cases, April 1999―March 2001, Japan.

Typhoid/paratyph- oid fever Cholera

Shigellosis Meningococcal

meningitis Malaria

Foreigner Foreigner

Foreigner Foreigner

Foreigner Area of origin

Total Japanese Total

Japanese Total

Japanese Total

Japanese Total

Japanese

5 2 3 5 1 4 74 2 72 116

43 73 Africa

58 20 38 50 2 48 526 21 505 1

1 88 11 77 Southeast Asia

85 7 78 25 2 23 372 12 360 43

19 24 Southwest Asia

9 9

28 14 14 Oceania

2 2

1 1

35 5 30 9

3 6 Latin America

6 1 5 8 8

94 3 91 1

1 East Asia

6 1 5 Middle East

9 1 8 Europe

3 1 2 North America

6 1 5 Others

2 3

79 17 62 3

3 Unknown

158 30 129 89 5 84 1,213 64 1,149 1

1 288 90 198 Subtotal

32 2 30 20 20

423 4 419 27

1 26 0 0 0 Japan

191 27 159 109 5 104 1,636 68 1,568 28

1 27 288 90 198 Total

膜炎 28 件 (4%) ,赤痢 1,636 件 (74%) ,コレラ 109 件 (82%) ,チフス性疾患 191 件 (83%) であった.

輸入症例総数と外国人入国者の症例が占める割合

(%)は,マラリア 288 件(31%) ,流行性脳脊髄 膜炎 1 件(0%) ,赤痢 1,213 件(5%) ,コレラ 89 件(6%),チフス性疾患 158 件(19%)となった.

マラリアはアフリカ,東南アジアからの症例の順 に多く報告されたが, 赤痢とコレラは東南アジア,

西南アジアからの順に,チフス性疾患は西南アジ ア,東南アジアの順に多く報告された.流行性脳 脊髄膜炎は 2000 年 6 月に, シンガポールからの輸 入例が 1 件報告されたに過ぎなかった.

Fig. 1 Reported cases of imported infectious diseases, April 1999―March 2001, Ja- pan.

(4)

Table 2 Estimated incidence of visitors for the 2002 FIFA World  Cup in Japan

Traveller Total Japanese Foreigner

44,502,00 34,098,000

10,404,000 Immigration Jan. 1999―Dec. 2000(A)

430,000 110,000

320,000 Estimation during WC 2002(B)

Incidence Apr. 1999―Mar. 2001(C)

1,277 1,213

64 Shigellosis

288 198

90 Cholera

159 129

30 Typhoid/paratyphoid fever

89 84

5 Malaria

1 1

0 Meningococcal meningitis

Estimation during WC 2002(D)

5.88 3.91

1.97 Shigellosis

3.41 0.64

2.77 Cholera

1.40 0.42

0.98 Typhoid/paratyphoid fever

0.42 0.27

0.15 Malaria

0.00 0.00

0.00 Meningococcal meningitis

D = C ÷ A × B

Table 2 に,ワールドカップ 2002 期間中に関係 者に発生すると予想される各種輸入感染症患者数 を示す.1999〜2000 年の出入国統計による正規外 国人入国者・日本人帰国者数は,各々 1,040 万 4 千人,3,409 万 8 千人であった.発生頻度の高いも のの順に,赤痢 5.88 件,マラリア 3.41 件,チフス 性疾患 1.40 件,コレラ 0.42 件,流行性脳脊髄膜炎 0.0032 件と推定された.なお,ウイルス性出血熱の 推定発生頻度は Fig. 2 のようにして算出された.2

年間のマラリア報告数は 288 件で,そのうちの 116 件(40.3%)がアフリカ由来であったため,年 間報告数に換算すると 58 件となる. ウイルス性出 血熱患者は 15 年毎に持ち込まれ, その間のアフリ カ由来マラリアの報告件数に比例すると仮定した ので,ウイルス性出血熱はアフリカ由来マラリア 870 件に 1 件の割合で発生すると考 え ら れ た.

ワールドカップ 2002 開催中のアフリカ由来のマ

ラリアは,上記 3.41 件中の 1.56 件 (日本人 0.24,外

Fig. 2 Procedure for estimation of the cases with viral hemorrhagic fever.

(5)

国人 1.32) と計算されたため,ウイルス性出血熱の 発生予想は 0.0018 件となった.

本研究から導き出された最も重要な結果は,

「ワールドカップ 2002 開催中に主要な輸入感染症 が著増する可能性は少ない」ということである.

特に,わが国で充分な対応経験のないウイルス性 出血熱の発生は極めて小さく,ワールドカップ 2002 を 556 回開催して 1 回程度(1

!

0.0018)に相当 し,過大な心配は無用と云える.

しかし,マラリアなど適切な対応が遅延すれば 死に至る感染症では,高々数名程度の発生件数と 予想されていても,充分な対応を取らねばならな い.調査期間中に感染症発生動向調査に報告され たマラリア 288 例のうち 116 例(40.3%)は熱帯熱 マラリアであった.マラリア症例の多くは,大都 市部の医療機関から集中して報告され,全都道府 県中 13 県は 2 年間の集計期間中マラリア報告が なく,17 県は 2 件以下であった.これら 30 県には 試合が予定されている宮城,新潟,茨城,大分の 4 県が含まれていることから,ワールドカップ 2002 期間中は,開催地を中心に大都市以外でも患 者が多発する可能性が充分あることを強調した い.

アフリカ等からの熱帯熱マラリアの場合,診断 のみならず治療の遅れが直接死因となることが 多々あると報告されている

3)

.そこで, 医師や公衆 衛生専門職に対して,原虫のスクリーニング検査 が可能な空港検疫所があること

4)

や, 最も有効な抗 マラリア薬が全国各地の医療施設に備蓄されてい ること

5)

を周知すべきである. またこれらが直ちに 利用できなくても,手元にあるサルファ剤やキニ ジン(キニーネの光学異性体)で救命治療が開始 できることを,医師に教育しておくべきである.

赤痢,コレラ,チフス性疾患は正しい治療を行 わないと,二次感染が発生する伝染病である.特 に赤痢輸入例については,近年オフロキサシン耐 性菌が 4 株報告されている他,アンピシリン耐性 株の割合が 35%,スルファメトキサゾール

!

トリ メトプリム合剤およびテトラサイクリン耐性につ いては分離株の 82% を超えている

6)

.抗菌薬の正

しい選択が重要であることを,医師に周知すべき である.

ワールドカップ 2002 開催中に日本と韓国を訪 れる者の総数は,公共交通機関の輸送力を元に,

かなり正確に推定することが出来る.しかし,ど この国から何人訪れるかは, 出場 32 カ国が最終的 に決定し,新東京国際空港(成田空港)の新滑走 路供用の詳細が決まる 2002 年 3 月末頃まで, 粗推 定することすら難しい. 今回は仮に 43 万人がワー ルドカップ 2002 に関連して来日し,そのうち 32 万人が外国人,11 万人が日本人と仮定したが,充 分根拠のあるものではない.入・帰国者集団の健 康状態が,通常の集団と同様かも不明である.出 入国統計が暦年集計(1 月〜12 月)で,感染症統 計が年度集計(4 月〜翌年 3 月)である点は,感染 症法が 1999 年 4 月に施行されたためである. 感染 症には様々な潜伏期があり,日本への入国や帰国 の時期と発病する時期を同一観察期間中に揃える ことができないことは制約となろう.

また,より厳密な推定を試みても,集団発生な ど予測不能の事態で誤差が生じる可能性が残され る.韓国では北朝鮮との国境地帯を中心に,1993 年から三日熱マラリアが再興しており

7)

,仁川な ど国境近辺の開催地でマラリアが完全に駆逐され ていないと,感染の危険性が否定できない.2001 年 8〜9 月には韓国の蔚山(ウルサン)市・蔚州

(ウルジュ) を中心として百人規模のコレラの集団 発生が報告されており

8)

,特に日韓両国で突発的 に感染症が集団発生した場合には,これらの推定 が大きく外れる可能性がある.

本研究で行われたような推定を,開催直前によ り正確な数値を使って,再度試みることを検討す べきであろう.

わが国では,G8 サミットのような high-profile

イベントでも,1998 年 2 月の長野冬季五輪のよう

な mass-gathering イベントでも,感染症発生への

対応は,参加首脳や選手役員といった大会関係者

に限られていた.感染症が容易に国境を越え,そ

の規模が拡大している今日,感染症の拡散がサー

ベイランスから察知されるレベルまで公衆衛生が

向上している国であれば,それが深刻化する前に

(6)

予防的手段を講ずるのが当然である.世界的にみ ても,2001 年のイスラム教徒のメッカ巡礼では流 行性脳脊髄膜炎の多発が世界中から報告され,関 係国が連携して拡大防止の対応をした

9)

.ボルテ オ島サバ州で 2000 年 8〜9 月に開催された冒険 レースでレプトスピラ症の集団発生が世界旅行医 学会から世界に向けて告知され,日本人を含む不 明熱症例の早期診断と重症化防止に貢献した

10)

. インターネットを活用したサーベイランス情報の 共有・還元は, ワールドカップ 2002 でも有効と考 えられる.

かつては輸入感染症の予防に水際検疫が威力を 発揮したので,その対策強化が重視された.今日 であっても新型インフルエンザのサーベイランス のような,潜伏期が短く,侵入すると社会的影響 が大きい感染症の防疫には,水際検疫は実効的 で

11)

,必要であろう.しかし水際検疫の限界は,特 にウイルス性出血熱の輸入症例について国内外で 指摘されており

12)13)

,既存のサーベイランスシス テ ム を 強 化 し て,pre-border,on-border,post- border での防疫を省庁間の垣根を越えた連動体 制

14)

で 対 応 す る こ と が,high-profile & mass- gathering イベントにおいても必要となろう.今 回発生頻度の推定を試みた感染症の殆どは,韓国 の感染症予防法でも報告対象疾患に指定されてお り,日韓のサーベイランス当局が連携して疾病発 生動向の監視に当たることが望まれる.

感染症集団発生の早期発見方法の 1 つに症候群 別サーベイランスがある.患者の早期発見と早期 治療が患者の予後と感染拡大防止に重要な場合,

疑い症例を早く見つけ出すことが何よりも優先さ れるため,特に mass-gathering event でそれが多 用される.しかし,症候群別サーベイランスの方 法では,患者サーベイランスに規定されていない 疾病も検出できる一方,病原体の特定は困難とい う欠点をもち合わせている

1)

.症候群サーベイラ ンスデータからどういう疾病を想定・同定しなけ ればならないか?という段階で,想定疾患の優先 順位付けが難しい. その点で, 本研究の結果は, 「出 血傾向を伴ってアフリカから来日した患者が見つ かった時に,可能性から言えばウイルス性出血熱

よりもマラリアをまず疑うべきである」 , という確 率論からの疫学的な優先順位を示した,と云えよ う.

しかし,感染力や重篤性から,深刻な事態を引 起す可能性のある疾病(即ち 1 類感染症)に対し ては,早期診断や適切な医療施設への患者隔離だ けでなく,ウイルス性出血患者への接触者の危険 度分類なども整備しておく必要がある.特に試合 が開催される地域,および移動の要衝となる空海 港周辺の自治体と地元医師会には組織的な対応を 求めたい.最も重要な対応は保健医療従事者への 教育であり, 「ワールドカップ 2002 開催前後は, 普 段見慣れない病気や健康問題が発生するかも知れ ない」という認識をもつことが大切である.さら に, 「特に外来感染症の場合,早期に診断できない と患者が死亡したり,感染が拡大する危険性があ る」ことを強調しておくことである.

今回の研究は, ワールドカップ 2002 の開催期間 中に外来性感染症が顕著に増加しないことを示し た.この結果はむしろ,普段よく見る感染症につ いて注意が必要なことを示唆している.南半球か らの入国者にはインフルエンザが多発するかも知 れないし,逆に日本で現在地域的に深刻な流行を 起こしている麻疹が,撲滅間近の国々へ持ち出さ れる危険性がある.感染症の持ち込みと持ち出し を最小限に抑えて, ワールドカップ 2002 を成功さ せることこそ,保健医療従事者として我々に課さ せた最大の役目であろう.

謝辞:本研究は平成 13 年度厚生科学研究(新興・再興 感染症研究事業)「国及び県の発生動向調査の連携及び海 外の調査定点設定に関する研究,主任研究者鈴木重任」の 一環として実施された.ここに明記し,関係者に厚くお礼 申し上げる.

1)松井珠乃,高橋 央,大山卓昭,田中 毅,加來 浩器,小坂 健,他:G8 福岡・宮崎サミット 2000 に伴う症候群サーベイランスの評価. 感染症誌.

200;76(3).

2)海老沢功:感染症新法 1 類感染症の危険度.感染 症誌 2000;74:87―95.

3)World Health Organization:Malaria risk for tra- velers to Africa. WER2000;76:25―7.

(7)

4)松本泰治,河合誠義,増田和茂:検疫所における マラリア検査.病原体検出情報 2001;22:27.

5)木村幹男, 大友弘士:抗マラリア薬の供給体制.

病原体検出情報 2001;22:28―9.

6)国立感染症研究所:細菌性赤痢 1999―2000.病原 体検出情報 2001;22:81―2.

7)World Health Organization:Malaria 1982―1997.

WER 1999;74:265―70.

8)World Health Organization:Notifications of dis- eases received from 7 to 13 September 2001, Cholera, Repblic of Korea. WER;2001;76:288.

9) Communicable Disease Surveillance Center : Meningococcal infection and Hajj. CDR Weekly 2001;11:1―2.

10)坂本光男,相良裕子,小泉信夫,渡辺治雄:マレー シア・ボルネオ島で感染したレプトスピラ症の 1 例.病原体検出情報 2000;21:242―3.

11)財団法人日本公衆衛生協会:香港かぜ―その流 行の記録― 1968〜1969. p. 27―9.

12)田中 毅,高橋 央,大山卓昭,岡部信彦,内田 幸憲:ドイツのウイルス性出血熱輸入例対策―

日本の現状との比較―.印刷中.

13)Yan HS:Development of laws and regulations on communicable diseases control in Taiwan. Epi- demiology Bulletin 2000;16:145―57.

14)田中 毅,高橋 央,大山卓昭,木村幹男,岡部 信彦,水田英生,他:ニュージーランドの人獣共 通 感 染 症 サ ー ベ イ ラ ン ス と バ イ オ セ キ ュ リ ティー.日本検疫医学学会誌 2001;3:99―107.

15)加來浩器,高橋 央,大山卓昭,木村幹男,岡部 信彦,内田幸憲:日本―韓国―台湾における感染 症類型の比較.日本検疫医学学会誌 2001;3;

121―30.

16)野村隆司,高橋 央,竹田美文:日本における感 染症対策の変換と今後の課題.日医誌 2000;

124:1805―12.

17)高橋 央,田中 毅,加來浩器,大山卓昭,木村 幹男,岡部信彦,他:ドイツの感染症サーベイラ ンスとウイルス性出血熱対策について.日本検疫 医学学会誌 2001;3;108―16.

18) Centers for Disease Control and Prevention : Epidemiology of measles―United States, MMWR 1998;48:749―53.

An Estimation of Imported Infections Concerning 2002 FIFA World Cup Korea

!

Japan Hiroshi TAKAHASHI

1)

, Koki KAKU

2)

, Takeshi TANAKA

2)

, Tamano MATSUI

2)

,

Ken OSAKA

13)

, Takaaki OHYAMA

1)

& Nobuhiko OKABE

1)

1)Infectious Disease Surveillance Center, National Institute of Infectious Diseases,

2)Field Epidemiology Training Program, National Institute of Infectious Diseases

The FIFA World Cup 2002 Korea

!

Japan, which will be held during May 31 through June 30,

2002, is a mass-gathering and high-profile event. The Ministry of Transport announced that approxi-

mately 430,000 people visit Japan for the event. We estimated the incidence of major imported infec-

tions using data from the national epidemiological surveillance of infectious diseases and the statistics

of immigration. Estimated incidences are 5.88(shigellosis) , 3.41(malaria) , 1.40(typhoid! paratyphoid

fever) , 0.42(cholera) , and 0.0032(meningococcal meningitis) . The incidence for viral hemorrhagic fe-

ver was estimated 0.0018 under assumption that it correlates with the malaria incidence from Af-

rica and that the incidence occurs every 15 years . These results indicate little possibility of re-

markable increase of exotic infections during the event. These incidences, however, may occur in the

rural prefectures where few cases are reported. It is highly needed to strengthen surveillance and

educate physicians and public health experts especially for malaria cases.

Fig. 1 Reported cases of imported infectious diseases, April 1999―March 2001, Ja- Ja-pan.
Table  2 Estimated incidence of visitors for the 2002 FIFA World  Cup in Japan Traveller TotalJapaneseForeigner 44,502,0034,098,00010,404,000Immigration Jan. 1999―Dec. 2000(A) 430,000110,000320,000Estimation during WC 2002(B) Incidence Apr. 1999―Mar. 2001

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