紅 藻 ヒメ ヒ シブ ク ロの生活 史 右田 清治 ・飯間 雅文
The life history of Gloioderma iyoensis (Rhodophyta, Rhodymeniales) in culture
Seiji MIGITA and Masafumi IIMA
The life history of Gloioderma iyoensis Okamura was studied in laboratory culture.
The materials were collected at Hario-strait, mouth of Omura Bay, western Kyushu, where this alga is annually seen, appearing in March-June and matures in April-June.
The culture studies were carried out under 20-22°C, 2000 lux and 12 : 12 hr (L : D).
Tetraspores obtained from field-collected plants grew into prostrate discs. When the discs reached to about 400 µm in diameter, erect fronds grew from the center of discs.
The erect fronds developed into dioecious Gloioderma plants which produced either spermatangia or cystocarps. The carpospores liberated from culture female plants grew to erect fronds in a pattern similar to that of tetraspore germlings. The erect fronds from carpospores produced tetrasporangia. Thus, the life history pattern of Gloioderma iyoensis is fundamentally identical to a Polysiphonia-type.
Key words : Rhodophyta ; Rhodymeniales ; Gloioderma ; life history.
ヒ メ ヒ シ ブ ク ロGloioderma iyoensisは,マ サ ゴ シバ リ 目*ヒ シ ブ ク ロ属 の紅 藻 で,体 は 円 柱 状 で 所 々 で 融 着 し,羽 状 の 小 枝 を持 つ 小 型 藻 で あ る。 日本 で は ヒ シ ブ ク ロ 属 に2種 あ りイ),本 種 は他 の1種 ヒ シ ブ ク ロG.japonicaと と も に 漸 深 帯 の 深 所 に 生 育 す る稀 産 種 とさ れ て い る がウ,4),長 崎 県 の 大 村 湾 口 の 針 尾 瀬 戸 西 海 橋 付 近 で は 干 潮 線 下 の 浅 所 に 多 数 生 育 し て い る。 稀 産 種 の た め か,こ れ ま で ヒ メ ヒ シ ブ ク ロ の 発 生,生 活 史 に 関 す る研 究 は行 わ れ て い な い 。
そ こで,著 者 ら は1988年 に ヒ メ ヒ シ ブ ク ロ の 培 養 実 験 を行 い,生 活 史 を 完 結 す る こ とが で き た の で そ の 結 果 を 報 告 す る 。
材 料 と 方 法
材料 に は1988年6月10日 に長 崎県大 村 湾 の湾 口針 尾瀬戸 で採 集 した ヒメ ヒシブ クロ の四分胞 子体 を用 い た。顕微 鏡 で 四分胞 子 を形 成 したの を確認 し,そ
の体 の 一 部 を絵 筆 を 用 い て 数 回 洗 浄 し た後,シ ャ ー レ 内 で 四 分 胞 子 を放 出 さ せ,翌 日マ イ ク ロ ピペ ッ ト を 用 い て 四 分 胞 子 を 幾 つ か の シ ャー レ(7×2cm) に 分 離 し,そ の う ち か ら単 藻 培 養 を得 た 。
シ ャ ー レ の 止 水 培 養 で3〜5mmに 成 長 し た直 立 体 は,基 部 よ り切 り離 し て100mlの ビ ー カ ー に移 して 培 養 した 。 また,1cm前 後 に 成 長 し た 体 は100mlの 枝 付 平 底 丸 フ ラ ス コ で 通 気 培 養 も行 っ た。
培 養 は20〜22℃,12:12hの 光 周 期,白 色 蛍 光 灯 光2,0001uxの も とで 行 い,培 養 液 に はPES処 方 の 補 強 海 水 を約80℃ で殺 菌 し た も の を用 い,シ ャー レ の止 水 培 養 で は7日 毎 に,枝 付 フ ラ ス コ の 通 気 培 養 で は3日 毎 に換 水 した 。
結 果
大 村湾 口の針尾 瀬戸 西海 橋付 近 で は,潮 汐流 が き わ めて速 く湧昇 流が あ るた めか,漸 深帯 の深所 にあ
*従 来 ダ ル ス 目 と さ れ て い た が,ダ ル ス がPalmarialesに 移 さ れ た の で,目 の 和 名 が 変 っ たケ)。
るとされるヒメヒシブクロが低潮線付近に出現し,
また稀産種とされているのに例年かなり多く生育し ている。三種の聖体は3〜6月にみられ,4月から
6月まで成熟体が得られた。
四分胞子の発生,成長
天然の成熟体より放出された四分胞子は,直径 12〜17μm平均15.5μmの球形で,色は淡褐紅色を 呈していた(Fig.1, A)。着生した四分胞子は直ち に発芽を始め,まず中央で2分割しさらにその分裂 面に直角に分裂して,2日後には4細胞になり(Fig.
1,B),3日後には周辺に向って各細胞が伸長,分 裂して数個〜10細胞となった(Fig.1, c)。6日後 には放射状に細胞が伸長し叉状の分岐も繰返して,
仮盤状のほふく体となった(Fig.1, D)。これらの ほふく体の座には,やがて中心部より直立体が発生 するが,その直立体は培養12日後には径約400μmの 座に形成され(Fig.1, E),直立体の太さは径 100〜150μm,高さ約100μmで,24日後には直立体は 長さ2㎜に達し(Fig.1, F),30日後には4〜6㎜
になり主枝が2叉するようになった(Fig.1, G)。
これまでの成長過程で,座から細い毛の伸出がみら れ,また直立体発出後の座の成長は緩慢となった。
直立体はさらに伸長し,45日後には約1cmになり,
主枝が叉状に分かれたものもみられ,羽状に互生ま たは対生した小枝が多数形成された(Fig.1, H)。
それらの小枝は先端がとがり基部は広饗していた。
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Fig. 1. Development of tetraspores of Gloioderma iyoensis in culture.
A.Settled tetraspore. B. Two−day old germling. C. Three−day old. D. Six−day old germling forming prostrate disc. E. Twelve−day old disc issuing early erect frond. F, G. Further developed erect fronds; four−week (F) and one−month old (G). H. Forty−five−day old frond with many short branchlets. 1, J. Two−month (1) and seventy−five−day old (J) mature fronds.
Scale in C applies also to A, B and D; scale in F applies also to G; scale in J applies also to 1.
60日後には止水培養で1.5〜2cmに成長し(Fig.1,
1),また45日後から一部通気培養したものは75日後 には3〜3.5cmに達し(Fig.1, J),天然の成長した 藻体と同様な形態となった。
また,この頃には体表面に精子を形成した雄性体 と受精毛を持つ雌性体の分化がみられるようになっ た。造精器は表皮細胞からなり,精子はそれらの細 胞より切り出されてつくられ(Fig.2, A),径約3 μmの球形であった。雌性体の受精毛は太さ2〜3 μm,長さ約150μmで(Fig.2, B),小枝の頂戴より やや下部の位置から駈出していた。このような有性 器官を持つ雌雄の体を同一容器に入れ,軽く通気し た培養では10〜15日後には嚢果を形成し始め(Fig.
2,C),25日後には成熟して早いものは果胞子を放 出した。成熟した嚢果は,径0.7〜1.0㎜で縁辺につ の状の突起3〜5個を付けていて,全体として菱形 に近い形であった(Fig.2, D)。
果胞子の発生,成長
培養藻体の懸果から放出された果胞子は直径
13〜17μm,平均15.7μmの球形であった(Fig.3,
A)。これらの果胞子はシャーレ内で藻体より放出さ れたものをそのままにして,またはピペット法で別 のシャーレに分離して培養した。培養2日後には胞 子細胞の内容は2〜4個に分裂し(Fig.3, B),そ の後の成長形態は四分胞子の発生としてFig.1, c
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D
撫,饗鱒轡τ
Fig.2. Mature male and female organs of Gloiodemaa iyoensis in culture.
A. Spermatia liberated from male frond.
B. Trichogyne (arrow) on female frond.
C. Early stage of cystocarp. D. Mature polygonal cystocarp with four short horns. Scale in C applies also to D.
10mm
.F
B 轡
醗
爾
7壽.
モ醒ダ亡 …
O.5mm
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Fig. 3. Development of carpospores of Gloioderma iyoensis in cluture.
A. Carpospores liberated from the cystocarp. B. Two−day old germlings. C. Three−week eld.
D, E. Further developed mature fronds ; fifty−day (D) and two−month old (E). F. Tetrasporan−
gia formation.
Scale in A applies also to B; scale in D applies also to E
〜Eに示したのと同様であり,各細胞が同心円状に 伸長,分裂を繰返して遠計状のほふく体に成長した。
培養20日後には,ほふく体の座より直立体が発出 し約1mmに成長し(Fig.3, C),50日後には多くの 小枝を持つ長さ1。5cmの体(Fig.3, D)に,70日後
には主枝の長さ2.5cmに達した(Fig.3, E)。この 間,培養50〜60日後のもので四分胞子の形成が観察 されるようになった(Fig.3, F)。四分胞子は主枝 や小枝の先端よりやや下部で形成され始め,徐々に 体の各部にその形成がみられるようになった。四分 胞子嚢は体の断面観では,皮層をなすじゅず状に連 なった同化糸細胞の末端より数細胞内方の細胞より 形成され,長径約40Pt m短径25μmの楕円形で十字 状に分裂する。
この四分胞子からの培養藻体の形態をみると,前 述の果胞子発芽体でも同様であるが,成長した体の 主枝はやや扁圧であり,基部で径0.7〜0.8mm,上部 で250〜300、μmであった。また,小枝は長さ1〜2mm で先端がとがり,主枝の分岐部は直角に近く広開す る。なお,枝が接した部分では,縦列した皮層細胞 が伸びて互いに相手の組織内に侵入し強く接着する。
このような培養魚体についての所見は,天然の体で も同様にみられるようである。
考
察
ヒメヒシブクロは,同属の他の1種ヒシブクロと ともに稀産種とされ,それらの生育水深も漸深帯の 深所とされている2・5・6)。著者らのこれまでの採集で,
ヒメヒシブクロは大村湾口踏面瀬戸以外では発見さ れていないが,そこでは本種はきわめて普通に生育 する。このことは前述したように,潮流が速く湧昇 流があるなど,生育条件が適しているためと考えら れる。岡村2・3)は本曲の基部について直立するかどう か不明であるとしているが,胞子発芽体が座をつく
り体が互いに接着するなどの培養所見や天然の生育 からみて,岩や他海藻上にほふくして着生し,それ
より主枝が斜上するようである。
本種の発生様式は,同じマサゴシバリ目のコスジ フシツナギ7),タオヤギソウ8・9),フシツナギ9)などと 同様に盤状型で,猪野8・9)のタオヤギソウの記載にあ る四原細胞型ともみなされた。盤状体から直立体が 露出し,培養約2.5ヵ月後には成長した雌雄配偶体と なり,それぞれ造精器と嚢果を形成した。精子形成 は,同目のベニフクロノリ10),カエルデグサ11),タオ
ヤギソウ12)などで報告されているように,表皮細胞 が造精器となり精子はそれより切り出されてつくら
れる。
ヒシブクロの属名は嚢果が多角形であることによ り名付けられているが2),この培養でヒメヒシブク ロの嚢果は始め球状にふくらみ,成熟するとその縁 辺よりつの状の短い小枝を4〜6本出し,全体とし て外観が菱の実のような形を呈し,和名の表現とよ
く一致する。
嚢果から放出された果胞子の発生,成長も,四分 胞子の場合と全く同様で,約2ヵ月後には成長した 体で四分胞子の形成がみられた。このように,ヒメ
ヒシブクロの四分胞子からの室内培養で,約5ヵ月 半で本種の生活史を完結させることができ,その生 活史は同型世代交代の型をとり,イトグサ型である
ことが確認された。
文
献
1)吉田忠生・中嶋泰・中田由和(1985):日本産 海藻目録一II.紅藻.藻類,33,249−275.
2)岡村金太郎(1936):日本海藻誌,663−665頁,
内田老立敵,東京.
3)岡村金太郎(1932):日本藻類図譜VI,52−54頁,
風間書房,東京.
4)岡村金太郎(1942):日本藻類図譜VII,24,27 頁,風間書房,東京.
5)瀬川宗吉(1956):原色日本海藻図鑑95,96 頁,保育社,大阪.
6)千画光雄(1983):海藻,144,260頁,学習研究 社,東京.
7) Lee, 1. K. and West, J. A. (1980): A life his−
tory of Lomentaria hakodatensis Yendo (Rhodophyta, Lomentariaceae) in culture.
Bot. Marina, 23, 419−423.
8)猪野俊平(1941):タオヤギソウの胞子発生につ いて.植物及動物,9,31−34.
9)猪野俊平(1947):海藻の発生,166−173頁,北 隆館,東京.
10)李 仁圭・黒木宗尚(1968):紅藻ベニフクロノ りとカタベニフクロノリの雄性生殖器官につい て.Bot. Mag. Tokyo,81,452−458.
11) Lee, 1. K. and Kurogi, M. (1973) : The devel−
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Lee, 1. K. (1978) : Studies on Rhodymeniales
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