NDC 548.3
形状記憶合金ワイヤーのアクチュエータへの利用の検討(1)
一基本的現象一
大重広明*
A Utilization of Shape Memory Alloy Wire for Actuator
一 Bas i c Phenomena 一一 Hiroaki OSHIGE*
In order to know the posibility of utilization of shape mcmory alloy wire for actuator, fundamental properties of Ni−Ti alloy wire were investigated, experimentally. About O.15mm diameter Ni−Ti wire was used.
Main results obtained are as follows.
(1) Within proper amount of electric current (O.3−O.5A) , this wire showed a stable bidirectional shape memory effect. Above this current range, bidirectional shape memory effect disappeared.
(2) ln combination of shape memory alloy wire with spring , adequate amount of force and work were generated.
(3) From thesc results, it was estimated that this shape memory aHoy wire could be used in actuator.
1.緒言
形状記憶合金は、1963年にニッケルーチタン合金が発見 されてから注目を集めだし、その後、その応用についても 多くの試みがなされ、成功をおさめているもの少なからず
ある1)。
アクチュエータとしてのマニピュレータさらにはロボット への応用についても検討されている2,。従来のロボット等 は、モーターあるいは油・空晶装置を本体に搭載して運動 を行う方式である。これに対して、形状記憶合金の形状回 復力を用いることができれば、外部から単に通電するだけ で運動を行わすことができる。すなわち、本体には形状記 憶合金のみがあれば良いこととなり、上述のモーターや油
・空圧を用いた場合に比べて格段に軽量化できる。さらに、
音や振動が全く生じないという、クリーンなイメージのロ ボットが実現できる可能性がある。
しかし、これらに用いるのは、形状記憶合金の、変態温 度の上下で形状が変化するという現象であり、基本的には ONかOFFかの二値制御となる。たとえばグリップのよ うに最低限.「掴む」か「放す」かができれば良い場合もあ るが、たとえばアームの動きのような場合を想定すると、
アクチュエータをさらに実用的なものにするには、多値制 御、さらには連続制御ができることが望ましい。
そこで、本研究では、形状記憶合金ワイヤーを用いたア クチュエータの多値制御の可能性について検討を行うこと とした。回報では、実験に用いた形状記憶合金ワイヤーを アクチュエータに適用するに当たって必要となる基本的特 性について検討を行った結果について報告する。
2.供試材料
実験にはトキ・コーポレーション㈱製のTi−Ni系(通 称=ニチノール)の形状記憶合金ワイヤーを用いた。その 一般的な特性をTable 1に示す3)。ワイヤーの直径はほぼ
0.15㎞司である。電気抵抗を大きくして温度が上がり やすくすることと、熱容量を小さくして冷却されやすくす るため、このようにワイヤー径は小さくとってある。
Table 1 Main properties of Ni−Ti shapc memory wire
* 情報工学科
平成11年8月30日受理
Density(9/cm3) 6.4−6.5 Resistivity (1σ8Ωm) 90−110 Tensile Strength (MPa) 800−1000 Diameter(mm) about O.15
3.基本的特性
形状記憶合金ワイヤーを用いたアクチュエータを考える 場合、いくつかの基本的事項について検討あるいは確認し ておく必要がある。
3.1 2方向形状記憶の生じる電流範囲
形状記憶合金は、基本的には、低温におけるマルテンサ・
イト相から高温における母相へと逆変態するときの熱弾性 型マルチンサイト変態特有の可逆性による変形及びそれに ともなう回復力を利用するものである。しかし、いくつか の方法で母相からマルチンサイトに変態するときにも形状 回復をさせることができ、そのように調整されたものを「2 方向形状記憶」という。実験に供した形状記憶ワイヤーは
2方向形状記憶の機能を持たせるように製造されている。
しかし、高温の母相から低温のマルチンサイト変態時の 変形の際の形状回復力は逆変態時のそれと比べるとかなり 小さく、しかも繰り返し作用時の安定性に欠けると言われ
ている。
アクチュエータとしての利用を考えると、変態時に仕事 をする仕組みにすると逆変態時の形状回復力はあまり問題 にしなくても良いが、繰り返しての形状回復の安定性は必 要である。そこで、まず形状記憶合金ワイヤーの伸縮挙動
を調べた。
実験装置をFig.1に示す。形状記憶合金ワイヤに適切な スプリングをとりつけ、スプリングが少し伸びた状態で両 端を固定し、形状記憶合金ワイヤの両端に直流定電圧電源 を接続して電流を供給する。すると、ワイヤはジュール熱
しaser Meter Reflection P!ate
Shape Memory Wire
Spring
a Dc power
l 1 Source
る(伸びる)。このとき、形状記憶合金ワイヤーの一端に 取り付けた反射弓の動きをレーザ計測器により計測するこ とにより、ワイヤーの伸縮挙動を測定した。
形状記憶ワイヤーの長さを5〜30[cm]、付与する電 圧を4.5〜10.5[V]に変化させ、約5秒間通電し,そ の後電源をOFFにして自然冷却させた。
ワイヤーの伸縮をを測定した結果を分類すると、Fig.2に 示す3種類の伸縮曲線が観察された。
留日§喜嘱O
(a)
Time
(b) (c)
Fig. 2 Three types of observed displacement curve
Recorder
Fig. 1 Schematic diagram of experimental apl・aratus
により温度が上がり、逆変態温度以上で母相に逆変態する と、形状記憶効果により長さが減少し(縮む)、電源を切 り、温度が低下し、変態温度以下になり、マルチンサイト 相に変態すると、2方向形状記憶現象により長さが増大す
なお、この図では、縦軸の上方向が昇温時のワイヤーの縮 みを表している。電圧が不足すると、ほとんど伸縮しない が、電圧が適切であると、(a)に示すように変位が一定 値にとどまり、.スムースな伸縮挙動を示し、冷却後もほぼ もとの状態に復帰し、ほぼ完全な二方向形状記憶が実現し ている。電圧を上げる(すなわち、ワイヤーに流す電流を 増加させる)と、(b)に示すようにワイヤーはいったん 縮んだ後に少し伸びた状態となり、電源をOFFにすると、
少し縮んだ後、もとの状態に近づく。この場合は、加熱時 の伸び及び電源をOFFにしたときの縮みは熱膨張による ものと考えられる。したがってこの場合はワイヤーの温度 がかなり上がっていたものと思われる。さらに、この場合 は最終的にもとの状態(この図では縦軸のゼロ)に戻って いない。すなわち、完全な二方向形状記憶が実現されてい
ない。
さらに電圧を上げると(c)のような変位曲線となる。
(b)の上部と同じような現象が横軸近くで生じており、
このことから、形状記憶効果がほとんど発現せず、熱膨張 のみが生じたと考えられる。
繰り返し加熱一冷却したときの安定性を調べるため、電 源を5秒間ON、5秒間OFFのサイクルを繰り返したと きの変位を測定した。形状記憶ワイヤーが25〔cm]の場 合についての結果の例をFig.3に示す。これによると、(a)
形状記憶合金ワイヤーのアクチュエータへの利用の検討(1)一基本的現象一 大 重
の電圧が6[V]の場合は、Fig.2の(a)に示した完全な 二方向形状記憶が安定して生じていることがわかる。電圧
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緩和が進み、Fig.3(b)ように冷却時の形状回復が行われ なくなって行くものと考えられる。さらに電圧(電流)を 上げて温度を高くすると、Fig.3(C)に示すように,瞬時 に応力が消滅し、形状記憶効果が消失してしまう。
実験を行った形状記憶合金ワイヤー長、付加電圧の組み 合わせについて、Fig,2あるいはFig.3の(a)、(b)、(c)
のいずれが生じたかの範囲をFig.4に示す。
(a) 6V
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(b) 9V の
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Vo1Iage(〜り
4.5 6.0 7.5 9.0 10.5
5 1.8 2.4 3.0 3.6 4.2
10 0.9 L2 L5 1.8 2.1
忘潮七回目
15 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4
20 0.45 0.6 0.75 0.9 1.05
25 0.36 0.48 0.6 0.72 0.84
30 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7
︶
C
・う
周﹃
=T
(c) 10.5V
Fig. 3 Three types of displacement in repetitive heating cycle
を9[V]にすると、(b)のようになり、Fig,2の(b)に 示した現象が生じている。この場合、通電を繰り返すにし たがい、冷却後に原点に復帰しなくなっていく。つまり、
変態時の形状記憶効果がだんだん薄れていき、2方向形状 記憶効果がなくなっていくことがわかる。さらに電圧を
10.5[V]に上げた場合は(c)のようになり、Fig.2の
(c)に示した現象、すなわち形状記憶効果が最初からほ とんど生じず、ほぼ熱膨張による伸縮のみが繰り返されて
いる。
通常の一方向の形状記憶効果では、母相(高温)で変形 させ応力誘起マルチンサイトによる超弾性変形を生じさせ たものを冷却し、熱弾性効果によりその弾性変形を固定す るか、室温でマルチンサイトを変形させ、双晶変形による 効果により、その弾性変形を固定する。そして、このマル チンサイトを加熱することにより、母相に逆変態させ、も との母相の形状を取り戻す。すなわち,形状記憶効果を発 揮させるたびごとに加工(変形)を加えるので,安定的に 同じ現象を生じさせることができる。
一方、二方向の形状記憶効果では、マルチンサイトを加 熱して野相に逆変態するとき完全には形状回復させず、内 部に応力を蓄積させておき、冷却時には、その応力により、
加工(変形)と同じ作用をさせ、もとのマルチンサイトの 形状に復帰させようとするものである。したがって、この 場合、母相への逆変態時に温度が上がりすぎると、この応 力が緩和され、加熱・冷却サイクルが繰り返されると応力
(a) (b)
Fig. 4 Electric current(A> in the combination of length of shape memory alloy wire with applied voltage (a) Adequate region
(b) Shape memory effect gradually disappear region (c) No shape memory effect region
これらの現象は形状記憶合金ワイヤーに流れた電流の差異 による温度上昇の程度により生じることは明らかなので、
それぞれの組み合わせ時の電流値を表作の数字として示し ている。
この結果、電流が0.3〜0.5[A]の時にFig.2の(a)
に示す適正な伸縮が生じ、約1[A]以上になると形状記 憶効果が生じなくなることがわかった。なお、0.3[A]
以下では温度不足で形状記憶効果が生じないことを確認し ている。以上の結果から.二方向形状記憶効果は不安定で はあるが、電流、すなわち加熱時の温度コントロールが適 切であれば、繰り返して形状記憶効果を発揮させることが でき、アクチュエータとしての利用も不可能ではないと思 われる。
3.2 パイナスモデル
アクチュエータは、何らかの仕事を行うものであるから、
形状記憶効果を用いたアクチュエータを考える場合、形状 記憶効果を用いた仕事について知る必要がある。先に用い
たFig.1の実験装置はいわゆる「バイアスモデル」といわ れるもので、それを模式的に描くとFig.5のようになる。
すなわち、形状記憶ワイヤーにスプリングを直列に配し、
低温状態で形状記憶ワイヤーが少し引っ張られた状態にし ておく。形状記憶ワイヤーを加熱すると、形状記憶効果に
笏
Spring
一
Shape Memory Wire
匝]」鴨影
一
Fig. 5 Work model using expansion and contraction by shape memory effect
よりワイヤーは収縮.し、スプリングを引っ張る。次に、ワ イヤーを玲引すると、逆方向の形状記憶効果により、ワイ ヤーは伸び、これにより、スプリングは縮む。このサイク ルにより、形状記憶合金ワイヤーはスプリングを通じて仕 事をすることになる。
この場合の変位と負荷との関係を模式的にFig.6に示す。
この図の横軸の変位は、左方が形状記憶ワイヤーの縮む方 向、すなわち、スプリングが伸びる方向を示している。下 中のFhは加熱時の形状回復力、Fcは冷却時の形状回復力、
Fsはスプリングにかかる負荷を示している。前に述べた ように、一般に加熱時の形状回復力は冷却時のそれよりか なり大きい。また、Fsの傾きはスプリングのバネ定数を
示している。
090山 、
、
、
、
S︑F︑
︑
、
C2
\P3 、 、 、 、 へ
C4 、・
Fh
点はC2に移る。そして、ワイヤーが収縮するにつれて動 作点はFh上を左に移動しする。一方、スプリングは引っ 張られて伸びるにしたがい、ワイヤーを引き戻そうとする 力がFs線にしたがって大きくなる。この、形状回復力と スプリングの引き戻しカとが釣り合ったC3点でバランス し、変位が止まる。次に、通電を停止し、ワイヤーを冷却 させると逆方向の形状回復力が働き、動作点はC4に移動 する。そして、逆方向の形状回復力により、ワイヤーが伸 びるにしたがい、動作点はFc上を右方に移動し、C1点に 戻る。このCl 一C2−C3−C4−C1で囲まれた面積が1 サイクルの加熱冷却により形状記憶合金ワイヤー一がスプリ
ングを通して行った仕事となる。
Fig.1に示した実験装置において、形状記憶合金ワイヤー の長さを10[cm]一定とし、スプリングのバネ定数を
78〜1960[N/M]の間の6段階に変化させて形状記憶 合金ワイヤーの加熱時における収縮量を測定した。
Fig.6のC3点を測定した結果をFig。7に示す。
6
4
2
︵乙8﹂£ d︑e
b
c
a
abCdef
Spring modulus1960 980 653 306 1Z2
78
隻\
Fc
o
−3 噂2 −1 Displacernent (mm)
o
Fig. 7 Experimental results of relation between displacement and force
Displacement
Fig. 6 Schematic diagram of relation between displacement and force in work model
いま、常温でスプリ.ングを少し引っ張った状態、すなわ ちC1点でワイヤーをセットしたとする。この状態で通電 加熱し、逆変態温度を越えると、形状回復力が生じ、動作
この図では、スプリングが全く伸縮していない状態で形 状記憶ワイヤーをセットしたと仮定し、そのときのワイヤ ーの伸縮量(横軸)をゼロとしている。 これによると、実 験に用いたスプリ.ングの範囲では、最大約4[Njの力を出 せることがわかった。
次に、バネ定数とワイヤーの通電時の縮み量との関係を Fig.8に示す。バネ定数が大きな場合は、バネ定数が小さく なるにつれて、縮み量は直線的に増加し、バネ定数が極端 に小さくなると、縮み量は急増する傾向を示す。しかし、
実験の範囲内では、バネ定数が約20分の1になっても縮
形状記憶合金ワイヤーのアクチュエータへの利用の検討(1)一基本的現象一 大 重
み量は約1.3倍になる程度で、その変化は大きなものでは ないことがわかった。
2.5
︵暮︶
@⑳
着︒目8鎖量O
1.5
e
o 500 looo 1500 2000
Spring modulus (N/m)
Fig. 8 Relation between spring mudulus and displacement
バネ定数とワイヤーが行った仕事量の関係をFig. gに示 す。この図のでは、加熱時の収縮時のみの仕事をFig.7か 日求めたもので、スプリングは全く伸縮していない状態か ら伸び始めたと仮定している。この図でわかるように、実 験に用いたバネ定数の範囲では、バネ定数が大きいほど仕 事量も大きい。さらにバネ定数を大きくすると、ワイヤー が変形できなくなり、仕事量は減少すると考えられるe このような結果からこの実験に用いたバネ定数の範囲で は、大きな仕事ができ(力が出せる)、収縮量もさほど低 下しないので、大きいバネ定数のものを用いることが適切 であると結論できる。
4
3 64 1
︵目.zうb一︶謡﹄︒≧・
o
o 500 1000 1500 2000
Spring modulus (N/m)
4.結言
本研究では形状記憶合金を用いたアクチュエータの多値 制御の可能性を検討することを目的とし、本報では、その ために必要な形状記憶合金ワイヤーの基本的な特性につい て実験、検討した。おもな結果は次のようである。
(1)適切な電流(0.3〜0.5 [瑚)を流した場合、かな り安定的に2方向の形状回復が実現された。
(2)適正電流以上の電流では、温度が上がりすぎ、形状 記憶効果は消失していった。
(3)バイアスモデルとして、バネ定数が78〜1960 [Nlm]のスプリングを10[cm]の形状記憶合金 ワイヤーに接続して実験を行った結果、バネ定数が 大きいほど逆変態時の縮み量は小さくなるが、たか だか30%くらいの変化であった。
(4)実験に使用した長さの形状記憶合金ワイヤーの長さ とバネ定数の範囲では、バネ定数が大きい方が形状 記憶効果による仕事量が大きく、最大で約3.5x 10−3[N・m]であった。
(5)実験に使用した長さの形状記憶合金ワイヤーの長さ とバネ定数の範囲では、バネ定数が大きい方が形状 記憶効果による力が大きく、最大で約4[N]であっ た。
(6)以上の実験結果から、本実験で用いたTi−Ni系 の形状記憶合金ワイヤーを用いてアクチュエータを 構成できる可能性が確認された。
参考文献
1)石川昇治、木梨貞男、三輪 学、形状記憶合金応用ア イデア集、(1987)、工業調査会
2)井口信洋、形状記憶合金の話、(1948)、アグネ 3)トキ・コーポレーション㈱技術部編、バイオメタル・
ワイヤ ガイドブック(1987)、トキ・コーポレ ーション㈱
Fig. 9 Relation between spring modules and work