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「複数基軸通貨金為替本位制」論争 について

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「 複数基軸通貨金為替本位制」論争 について

‑‑銀行原理的視点か らの発言 ‑‑・

1.は じめに

雑誌 『世界経済評論』1989 2月号で小島清氏が提唱 された 「複数基軸通貨 金為替本位制」構想 をめ ぐり,同誌5月号,7月号 ,及 び8月号 にお いて小 島 清氏 と村野孝氏 との間で論争が行われた。筆者 は,これ ら一連 の論文 を読 ん だ 結果,両氏 の論争 には国際金融研究上大変重要 な視点か らの考察が欠 けて い る ことを知 った。本稿 の 目的 は,このブランク部分 の議論 を補充 し,国際通貨制 度 の今後 につ いて筆者 自身 の考えを小島 ・村野両氏 の考え と比較対照 しつつ述 べ ることであ る。

2.通説 と しての流動性 ジレンマ論

小島氏が 「複数基軸通貨金為替本位制」 を提唱 された根本的なね らい は,早 一基軸通貨制の制度的必然 と して生ず る (と小島氏が考 える)流動性 ジレンマ を解決す ることである。1ご「流動性 ジ レンマとは,基軸通貨 の供給 ルー トが基軸 通貨国の 「国際収支赤字」2以外 に存在せず,さ りとて,このル ー トで基軸通 貨 を供給すれば基軸通貨への信認が低下 ・崩壊 して しまう,とい うジレンマの ことである。周知 のよ うに,この流動性 ジレンマ論 はロバー ト・トリフ イ ン著 (村野孝 ・小島清監訳)『金 と ドルの危機』 (原著1960年,邦訳1961年) によ っ て米国や 日本 に広 ま り,今 日まで通説 として学界 に普及 して来 た学説 であ る

小 島氏 が この流動性 ジ レンマ論 を前提 と し,流動性 ジ レンマ の解 決 策 と し

198910月20日原稿提 出

〔101〕

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て 「複数基軸通貨金為替本位制構想 を提唱 され,村野氏が流動性 ジレンマ論 への批判や言及をせず に小島構想への反論 を行 われたのは,無理か らぬ ことと 言 え る 今 日なお,流動性 ジレンマ論 は米国 において も日本 において も学界 の 通説 なのである

しか しなが ら,通説 が正 しい (あるいは ヨリ妥当であ る) とは限 らぬ 既 に 以前か ら尾崎英二,滝沢健三,中西市郎等 の諸氏及 び筆者 によって主張 されて 来 たよ うに,銀行原理 的視点か ら考察すれば,流動性 ジレンマは単一基軸通貨 制 の制度的必然ではない。以下,その理 由につ いて説明す る。

3.基軸通貨供給 の3ルー ト

いま,基軸通貨国が1ヶ国であるとしよ う。 (基 軸通 貨 国 が複数存在 す る場 合 も以下 の議論 は同様 に成 り立っ。) さて,基軸通貨 国居住 者 が他 の国 々 ( 基軸通貨諸国) 甲居住者 に向けて基軸通貨 を発行す るルー トは,以下 の3通 り

ある。第 1は本源的発行,第2は派生的発行 ,第3はタ レ流 し発行 で あ る。 第 1の本源的発行 とは,通常,銀行行動理論 の分野 において説 明 され るよ うに, 市中銀行がハイパ ワー ド・マネーや外貨 を顧客か ら受 け取 り,これ と引 き換 え

に預金通貨 (流動性預金 口座残高) を顧客 に与え ることを指す。 これ と同様, 基軸通貨 の本源的発行 とは,基 軸通貨 国 の居住者 が他 の国 々の居住者 か ら金

(Gold)やハー ド・カ レンシーを受 け取 り,これ と引 き換えに基軸通貨 (す な わち基軸通貨国中央銀行又 は市 中銀行 における基軸通貨建 て流動性預金 口座残 高,あるいは,基軸通貨国居住者 を支払人 とす る基軸通貨建て流動性債券) を 他 の国々の居住者 に与 え ることである。第 2の派生的発行 とは,通常 ,市 中銀 行が短期貸付,手形割引,流動性債券購入等を顧客相手 に行 い,その代金 ( 付金) として預金通貨 を顧客 に与 えることを指す。 これ と同様 ,基軸通貨 の派 生的発行 とは,基軸通貨国の居住者が他 の国々の居住者 を相手 に短期貸付 や貿 易手形等 (非基軸通貨国居住者 を支払人 とす る)流動性債券類 の購入を行 い, その代金 (貸付 金) と して基軸通貨 を他 の国 々の居住者 に与 え る ことで あ 。 3 3の タレ流 し発行 とは,(銀行行動理論 の分野 にお いて タ レ流 しとい

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複数基軸通貨金為替本位制」論争 について 103 う言葉が使われ ることはほとん どないのであ るが) た とえば,市中銀行 が 自 ら 営業用 に消費 した電気 や電話 ・テ レックスサー ビスの代金支払 いと して,電 力 会社や電信電話会社 に預金通貨 を与 えることを指す。 これ と同様,基軸通貨 の タレ流 し発行 とは,基軸通貨国の居住者が 自 ら行 った輸入 の代金支払 いや対外 利子支払 いや非流動性海外資産購入 の代金支払 い として,つ まり基礎収支赤字 の代金支払 いとして,基軸通貨 を他 の国々の居住者 に与え ることである

本源的発行及 び派生的発行 によって基軸通貨が発行 され る場合,基軸通貨 国 の対外流動性貸借 ポジシ ョンは改善 も悪化 もしない。基軸通貨国対外貸借対照 表 の負債 サイ ドに 「基軸通貨残高」 ない し 「対外流動性債務」 とい う項 目の金 額が増 えるが,同時 に,資産 サイ ドにこれ と同額だけ 「金 ・外貨準 備」 また は

対外流動性債権」 とい う項 目の金額が増 え るか らである。 4 これに対 し,タ レ 流 し発行 によって基軸通貨が発行 され る場合,基軸通貨国の対外流動性貸借 ポ

ジションは悪化す る。負債 サイ ドに 「基軸通貨残高」 ない し 「対外流動性債務」

とい う項 目の金額が増え るのに,資産 サイ ドにはこれ と見合 うだけの資産 ( 合 い資産) は金 ・外貨準備や対外流動性債権 とい った流動的な形態では入 って 来 ないか らである。基軸通貨が タレ流 し発行 され る場合,基軸通貨国の対外貸 借対照表 にお いて資産 サ イ ドに記入 され るの は,「対外純債務」 項 目の金額 (経常収支赤字>長期資本収支黒字 のケース) もしくは 「対外非流動 性債権」

項 目の金額 (長期資本収支赤字>経常収支黒字 のケース) もしくはこの両項 目 の金額 (経常収支赤字且つ長期資本収支赤字 のケース)である 基軸通貨国が

タレ流 し発行 を継続的 に行えば基軸通貨への信認 は低下す る。5

4.「タ レ流 し」 は単一基軸通貨制の制度的必然か ?

さて,流動性 ジレンマ論者 の中には,基軸通貨発行 のルー トが タ レ流 し発行 (さ らにその中で,経常収支赤字 のケース) しかない と主張 す る人 が少 なか ら ず見 られ る た とえば小島氏 は,基軸通貨米 ドルが米国 の経常収支赤字 のみ に

よって世界 に供給 され,しか もそれが単一基軸通貨制 の制度的必然であ った と 考 えてお られ る。 (本稿注 1参照) これは,言 うなれば,「市中銀行 が毎期 の損

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益計算書 において営業赤字 を記録 しなければ預金通貨 を創 出 し得 ない」 と主張 す るに等 しい。 ところが現実 には多 くの市中銀行 は,毎期 の損益計算書 にお い て営業黒字 を記録 し,かつ膨大 な預金通貨 を創出 し,市中に供給 し続 けている。

電気代や電話 ・テ レックス料金等営業費用の支払 いによって タレ流 し発行 した 分 の預金通貨 は,それを上回 る利子 ・手数料等営業収入 によって回収 し,差 し

引 きで営業収支を黒字 とし (業務純益及 び経常利益 を プ ラスの値 と し),かつ 本源的発行及 び派生的発行 (主 として後者) により預金通貨 を発行 しているか らである 同様 に基軸通貨国 も,毎年 の国際収支表 において経常収支黒字及 び 基礎収支均衡又 は黒字 を記録 し,かつ膨大 な基軸通貨 を創出 し,世界 に供給 し 続 けることが可能 なはずである。 (少 な くとも 「制度的 に不可能で はない は ずである。)輸入,対外贈与 ,対外利払 い,非流動性海外資産購入等 によって タ レ流 し発行 した分 の基軸通貨 は,6 それを上回 る輸 出,対外投資収益,非流動性 資産対外売却等 によって回収 し,差 し引 きで経常収支 を黒字 とし,基礎収支 を 均衡又 は黒字 とし,かっ本源的発行及 び派生的発行 (主 として後者) によ り基 軸通貨を発行すればよいか らである

ちなみに,イムラー (1958年,P.70,Table 4)の研究 によ ると,1848 か ら1913年 まで,当時唯一 の基軸通貨国であったイギ リスの経常収支 は一貫 し て黒字であった。 また,マク ミラン ・レポー ト(1931,PP.149150)は,第 一次世界大戦前 のイギ リスが対外流動性貸借 ポジションにおいて ほぼ均衡 (と

きには資産超過)状態であ った と推定 し,イギ リスの基礎収支が第一次世界大 戦前 において均衡 (ときには黒字) の近辺 で推移 した ことを示唆 している な くとも,基軸通貨 の供給 を このよ うな方法で (即 ちタレ流 し発行に頼 らずに) 行 うべ きであるとい う認識が,マク ミラン ・レポー トには明確 に示 されており,

タレ流 し発行 (基軸通貨国の対外流動性貸借 ポジシ ョン悪化)が基軸通貨制 と りわけ単一基軸通貨制下での基軸通貨供給 に伴 う制度的必然だな どとい う主張 はマク ミラン ・レポー トには全 く見 られなか ったので ある。

ところが,第二次世界大戦後 はぼ唯一 の基軸通貨国 とな ったア メ リカ は,こ れ と同 じ方法で基軸通貨 ドルを世界 に供給す ることをせず,遅 くとも1960年 頃

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複数基軸通貨金為替本位制」論争について 105 か ら (金 ・ドル交換停止 の1971年 を経 て)1973年 にか け, ドル供給 の大部分 を

タレ流 し発行 に頼 って しまったのである。 7 しか しこれ は基 軸通貨 制 と りわ け 単一基軸通貨制の制度的必然 として生 じた帰結 で はない。米国 の経済政策 ・通 貨政策上 の運営 ミスとして生 じた帰結である。8

銀行行動理論 の分野で は,市 中銀行 による預金通貨発行 において本源 的発 行 及 び派生的発行 (とりわけ後者)が メイ ンの発行形態であ るのは当然 とされ,

タレ流 し発行 などは (「タレ流 し」 とい う言葉 自体,銀行行動 理論 の分野 で は 聞かれない くらい) ほとん ど議論 にさネ のぼ らない。 また,ケイ ンズ等 ,マ ク ミラン ・レポー トを執筆 したイギ ))スの金融研究者達 の間で は,第一次世界大 戦前 の基軸通貨国 イギ リスによるポ ン ド発行 において,タレ流 し発行 は行 われ なか った (イギ リスの対外流動性貸借 ポジシ ョンはほぼ均衡 ない し資産超過で あ った) と推定 され,少 な くとも,タレ流 し発行 (イギ リスの対 外流動性貸借 ポジシ ョンの悪化)が基軸通貨制 (とりわけ単一基軸通貨制)下 の基軸通貨供 給 に伴 う制度 的必然だなどとい う主張 はなされなか った。 ところが,これ と対 照的 に,第二次世界大戦後 の基軸通貨国 アメ リカによる ドル発行 に関 して は, 今 日に至 るまで,米国及 び日本 の学界多数派 の間で は,タレ流 し発行 (アメ リ カの対外流動性貸借 ポジションの悪化)が基軸通貨制 (とりわけ単一基軸通貨 刺)下 の基軸通貨供給 に伴 う制度的必然であると主張 されて きたのである0

市 中銀行 による預金通貨発行及 び第一次世界大戦前 の英国 によるポ ン ド発行 を論ず る際 にはタレ流 し発行 な どは論外 とされ,タレ流 し発行が信用通貨制故 の制度的必然 だな どとは決 して見な されない (見 なされなか った) に もかかわ らず,第二次世界大戦後 の米国 による ドル発行 を論ず る際 とな ると,一転 して 何故 か,タ レ流 し発行が信用通貨制故 の制度的必然だ と見 なされ る これ は, 極 めて奇異である この点 の認識が小島氏等流動性 ジ レンマ論者 の多 くには欠

けてお り,小島氏‑の反論 において (パ クス ・ブ リタニカ時代 のイギ リスを繰 り返 し引 き合 いに出 しなが ら9) この点の指摘 を全 く行 わなか った村野氏 も, やはりこの点 の認識 を欠 いていると考え られ る。

基軸通貨 の タレ流 し発行 (とりわけ,小 島氏が取 り上 げた,基 軸通貨 国経常

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収支赤字 のケース) は,基軸通貨制 とりわけ単一基軸通貨制 の制度的必然 で は ない。一般 に,信用通貨発行主体 の単複 のいかん にかかわ らず,タ レ流 し発 行 は信用通貨制であるが故 の制度的必然 などではな く,信用通貨発行主体 の運 営 (自己管理) ミスが タレ流 し発行 の真 の原因である 基軸通 貨制 と りわ け単一 基軸通貨制であ って も,基軸通貨国が国際収支 節度 を守 り,(で きれ ば経常 収 支黒字 ≧長期資本収支赤字 のケースによって)基礎収支 を均衡 ない し黒字 に保 ち,派生的発行 (短期貸付) によって基軸通貨を供給すれば,基軸通貨 の信認 維持 と供給量拡大 とは両立可能であ り,ジレンマが生ずべ き必然性 は存在 しな

い。

流動性 ジレンマは単一基軸通貨制故 の制度的必然だか ら新 たに 『複数基軸 通貨金為替本位制』 を施行 して従来 の制度的欠陥を除去すべ し」 と説 く小島氏 の主張 は,信用通貨供給 メカニズムへの充分 な理解 を欠 くもの と言 わざ るを得 ない。小島構想 の最大 の問題点 はここにあると筆者 は見 る。 そ して,小 島構 想

‑の反論 において,この点 の指摘を全 く行 わなか った村野氏 に対 して も,筆者 は同様 の批判 を向けざるを得 ないのである

5.金 (Gold) をめ ぐる論点

本稿 において は,銀行行動理論 の分野で通常用 い られ る本源的発行(primary issue),派生的発行 (derivativeissue)とい う用語 をそのまま用 いたが,これ

らの用語 は 「本源的発行が主であ り,派生的発行が従である」 とい う通貨主義 的旧観念 を用語 自体 の中に含んでお り,次 の2つの理 由(1),(2)か ら,好 ま しく ない用語であると筆者 は考 え る。

(1)横山昭雄氏 (1977年)が指摘 されたように,手続 き的 に本源的発行 が先 で 派生的発行が後 とい う関係 は,現代 の金融構造 の下で はもはや存在 しない。 横 山氏 は市中銀行 の預金通貨発行 について この点 を指摘 されたのであるが,筆者 は基 軸通貨国居住者 による基軸通貨発行 について も同様 の ことが言え ると考 え 手続 き的 に,基軸通貨国通貨当局 の金預か り (ない し金購入) が先 で,塞 軸通貨国金融市場 におけるバ ンク ・アクセプタンス等短期貸付 けが後 だ,など

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複数基軸通貨金為替本位制」論争 について 107 とは誰 も考 えまい。

(2)信用通貨発行者 が派生的発行 (短期貸付 ・回収 の厳格 な繰 り返 し) によ っ て通貨 の自己環流力 ・決済力を常 に入念 に保守 ・点検 し,その通貨への経済社 会の信認が高 まるにつれ,発行通貨残高 に対 して通貨発行者が交換性維 持 の た めに必要 とす る リザ‑ヴ (市中銀行 に とっての‑イパ ワー ド・マネー準備,塞 軸通貨国 にとっての金準備) の比率 は,ヨリ低 くて済むよ うにな る

以上 2つの理 由か ら,筆者 は,本源的発行 を交 換発行 (conversionissue) と呼び,派生的発行 を貸 出発行 (lendingissue)と呼んで,両者間 に敢 えて主 客関係 や因果関係を含味 させない方が好 ま しい と考 える。 ただ し,本稿 で は説 明の便宜上,すでに多 くの人 々の耳 目にな じんだ学界慣用語法 に従 うことと し

た 。

さて,小島氏 のように 「タレ流 し発行が基軸通貨制 (とりわけ単一基軸通貨 刺) の制度的必然で ある」 と主張す るのは,流動性 ジ レンマ論者 の多 くが陥 る 素朴かつ決定的な ミスであるが,流動性 ジレンマ論者 の中 には,これ とやや異 な った論法 (ない し表現) を とる論者 もいる。彼 らは,表現上,タ レ流 し発行 が基軸通貨制 の制度的必然だ とは直接言 わず,その限 りで は一見,派生 的発行 ルー トの存在 を認識 しているかのよ うに も見え るのであるが,とにか く 「基軸 通貨発行残高増大 に伴 う基軸通貨国の金準備率 の低下 は,それ 自体 『悪』 で あ り,基軸通貨 の信認 を低下 させ る」 と主張す る。 このような主張 を行 う流動性 ジレンマ論者 の一人が,他 な らぬ 「元祖」 ロバ ー ト・トリフイン (1960年) で ある。 10

この言 わば 「元祖流動性 ジレンマ論」 の問題点 は,上記(2)の点への認識 が稀 薄であることであ る。即 ち,元祖流動性 ジレンマ論 は,基軸通貨 発行残 高 の増 大 が タ レ流 し発行 によるのか派生的発行 によるのか とい う相違 を重視せず,前 近代 の金匠 (ゴール ド・ス ミス) さなが ら,ただ信用通貨発行残高 と金準備量 との比率だけを信用通貨 の信認維持 に際 してのバ ロメーターと考えるのである。

これ は,派生的発行が信用通貨 の信認維持 において果たす機能 (近代的銀行原 理)を無視又 は軽視 した考 え方である。 この意味で,元祖流動性 ジレンマ論 に

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おいて も,やはり派生的発行 の概念 は実質的 に欠落 していると言 え る。

奇妙 な ことに,この金 (ない しリザーヴ) と信用通貨 の信認 との関係 をめ ぐ る論点 に関 して は,小島氏 は極 めて銀行原理的視点 に近 い主張 (氏 のいわゆ る

金観」)を展開 している。即 ち,小 島氏 (19892,P.18)は 「現 代 の国民 通貨 は 『管理通貨』であ り,.(中略)信認 の基礎 は,国民経済 の もつ生産 力 と

I

資産であ って,金で はない。 この ことは国際流動性 ‑国際通貨 について も等 し く妥当す る」 と述べている。 さ らに小 島氏 (19892,P.18)は,複数基軸 通貨金為替本位制構想 における金準備 の役割 を,複数基軸通貨諸国間 に国際収 支節度遵守 の 「シグナル」 を鳴 らすための 「尺度」 として規定 し,この 目的 に 役立つな らば複数基軸通貨諸国間の 「決済資産」 としては 「必ず しも金でな く て もよい」 と述べてお り,氏 の考 え方 (金観」)が心情 として は銀行原理 的視 点 に極 めて近 い ことがわか るのである。11それだ けに,氏 が銀 行原理 その もの (米 ドルの派生的発行 によ り流動性 ジレンマが回避可能であ る こと) を充分 明 確 に認識 していなか った ことが惜 しまれ る なお,これ と対照的なのが村野氏 であ り,小 島氏 の 「金観」 を再三批判 した後,筆者 の貨幣論 はケイ ンズの,ま たその系譜 の もので はない ことを断 ってお きたい」 (村野論 文19898,P.

18)と述べ,自 らの考え方が銀行原理的視点か ら遠 いことを認 めている

銀行原理的視点か らは,信用通貨の信認を支 える主力 は派生 的発行 の際 に生 じた 「流動性債権」であ り,本源的発行 の際 に生 じた 「リザーヴ」 はむ しろ従 である。少 な くとも,信用通貨発行者が派生的発行 において優良債権維 持 に努 め,通貨 の決済力 に対す る保守 ・点検 を常 に入念 に行 って行 くほど,信 用通貨 の信認根拠 は 「リザーヴ」か ら 「流動性債権」へ とヨ リ比重 を移 して行 く 準備 ・金交換性 は (少 な くとも量的には)信用通貨 の信認 を支 え る主力ではな

くな り,信用通貨発行者 (基軸通貨国) に財務節度 (国際収支節度) を守 らせ, チェックす るための技術的一手段 に過 ぎな くなる もし信用通貨発行者 (基軸 通貨国) に金交換性 を賦課せず とも財務節度 (国際収支節度) が 自主的 ・裁量 的に守 られ るな らば,金準備 はもはや 「飾 り」 (ケイ ンズ1930P.268の表現 を用 いれば 「ゴール ド・カモ フラージュ」)ということにな る そ して,この

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複数基軸通貨金為替本位制」論争 について 109 よ うな方 向を 目ざ して信用通貨制 を運営 して行 くべ きであ る,とい うのが ( 稿 の立脚す る)銀行主義及 び管理通貨主義 の考 え方 であ る。12・13

6.今後の国際通貨体制 について

最後 に,今後 あるべ き国際通貨体制 につ いて,筆者 の考 えを小 島 ・村 野 両氏 の考 え と比較対照 しつつ述べ る。

筆者 は,現行 の ドル単一基軸通貨制 を各国通貨当局 間の協定 によ って変更 す ることは可能 でな く,また,将来 のために必要不可欠 で もないと考 え る 基 軸 通貨 た る通貨 は,各国通貨 当局で はな くマーケ ッ トが認定す るのであ り,また, 既 に説 明 したよ うに,タ レ流 し発行 による基軸通貨 の信認低下 は単一基軸 通貨 制故 の制度 的必然 で はないか らであ る。小 島構想 の中核 は,タ レ流 しで信 認 の 下 が った ドルの うち公的残高分 をマル クや円のよ うな‑ ‑ ド・カ レンシーで代 替 ・置換す ることで あ る14。 これだけな らば,かつ て の ローザ ・ボ ン ドやSD

R代替構想 と基本的 に同 じ過剰 ドル回収 ・非流動化策 とい うことであ り,筆 者 は支持す る しか し小 島構想 の場合 ,部分 的金決済 で米国 に国際収支節 度 回復 請求 の 「シグナル」 を鳴 らす とい う 「ルール」 を制度 に組 み込 む点 や,金 を再

び主要通貨間為替 レー ト固定 (アジャス タブル ・ペ ッグ) の中核 に据える点や, ドルを代替 ・置換 したマル クや円 も ドル と同格 ・無差別 の 「基軸通貨」 と して

国際流動性」 を形成す る点 ,な どが特徴点 で あ り, これ らの点 につ いて は筆 者 は (その現実性 や望 ま しさに関 し)疑問を抱 く。

筆者 は,今 日の米国 は金決済 に反応 して国際収支節度 を取 り戻すな ど とい う オー トマテ ィズムをいきな りルール と して受 け入れ られ るよ うな状態ではな く,

政治経済学的 に」無理 が あ ると考 え る。 この点で は筆者 は村 野氏 と同意 見 で ある。 (ただ し筆者 は,各国間の裁量的経済政策協 調 につ いて まで非 現 実 的 と して退 けることは しない。) また,小 島構想 にお いて,マ ル クや 円が ドル と同 格 ・無差別 の 「基軸通貨」 と して 「国際流動性」 を形成す る,とい う点 につ い て も,筆者 は疑問を抱 く ちなみに,英文稿 において小 島氏 は "‑ When all theconstituentkeycllrrenCycountriesfallsindeficit,theycannotincrease

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officialinternationalliquiditywithoutaliquiditydilemma.Itbecomes necessary in such a situation to invite some other major Surplus countrytojoininthescheme." (Kojima,Jun e1989,も.8n.6)と述 べ ているが,基軸通貨国 とい うのは,あ くまで もマーケ ッ トが決 める (認定する) のであ り,ある国の国際収支状況が良好 だか らといって通貨当局間協定 で その 国が基軸通貨国 になれ るもので はない。同様 に,一旦 ある国がマーケ ッ トの認 定を得 て基軸通貨国 にな った以上 ,その国 は,経済運営の ミスか ら国際収支状 況 (及 び対外貸借 ポジシ ョン)が悪化 したか らといって通貨当局間協定 によ り

その座 を他国 に譲る (あるいは肩代 わ りして もらう)わけにはいかないのであ る。仮 にそのよ うな形で通貨当局間協定 によ り,複数基軸通貨群」 を構 成 し

基軸通貨」 を名乗 る通貨 グループのメ ンバ ーが変 わ って も,冷徹 な マーケ ッ トは新 しいメ ンバーを信認 しないであろ う 小島構想 においては 「公的国際流 動性」 における基軸通貨複数化が提唱 されているが,公的国際流動性だか らマー ケ ッ トの信認 は当初得 られな くて も後か らつ いて来 ると楽観で さようか ?マー ケ ッ トの信認不充分 な 「基軸通貨」を,その名を与 えた各国通貨当局 自身 が本 当に基軸通貨 として信認す るであろうか ?筆者 は疑問を抱 く。信用通貨への信 認 は上 (当局)か ら与 え られ るもので はな く,下 (マーケ ッ ト)か ら育 ち上 が るものであ る 少 な くとも国際社会で はそれが現実 の姿であ り,各国通貨 当局 と言 えども一この現実 を 「協定」 によって変更 (又 は修正)す ることは無理であ ると筆者 は考 える

筆者 は,国際通貨制度 を通貨 当局 間協定で変 え るよりも,ドル単一基軸通貨 ・ 管理 フロー トという,マーケ ッ トが選 んだ (少 な くともマーケ ッ ト主導 で成立

した)現行制度 の下で,裁量 的国際協調政策 によ り国際経済 ・金融秩序 回復 を めざす方 が現実的であると考 え る もちろん,すべて に先立 って まず重要 なの は,米国の経済社会 自身 が健全 な実体生産活動,節度 ある消費生活及 び財政運 営 とい ったモ ラルを取 り戻す よ う自助努力す ることである。〔この点では,ゲー

ムのルール」重視 の小島氏 も,「ルールの非現実性」を協調す る村野氏 も,(当 然 なが ら)同意見である (小 島論文1989 7,P.36)筆者 は,裁量 的国 際

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複数基軸通貨金為替本位制」論争について 111 協調 によって,米国の自助努力 を促 しつつ,現行 の ドル単一基軸通 貨 ・管理 フ

ロー ト制下で米国の対外流動性貸借 ポジション改善 をめざすべ きであ り,これ が最 も現実的な対処法である,と考 え る。 まず は各国 も協力 して米国の経常収 支赤字幅を徐 々に減 らし,経常収支赤字<長期資本収支黒字 のケースによ る基 礎収支黒字状態を続 けて米国の対外流動性貸借 ポジシ ョンを改善 しつつ,米 国 の対外純債務残高増加速度 を減 らして行 くのである。15 (なお,この間において, マルクや円が部分的 に基軸通貨的な役割 を担 うようになるか も知 れぬが,それ はあ くまでマーケ ッ トが判断 して決めることである。)

次 に,こうして米国の経常収支赤字幅を減 らして基礎収支黒字状態を続 けた 結果,将来,米国が対外流動性貸借 ポジシ ョン均衡国 さ らには経常収支均衡 国 にカムバ ックした後 は,どうすべ きか ?村野氏 (1989 5月,8月) は,この 問題‑の明確 な解答を与 えていない。再 び米 国の 「国際収支赤字」化 によって ドルを供給す るのか ?それ とも米国の 「国際収支均衡」 のまま世界経済 が成長 し続 け,「ドル不足」 の再来 を招 くのか ?それで はまた流動性 ジ レンマの繰 り 返 しであ り,流動性 ジレンマ論者 による国際通貨制度改革案提唱 (かつての ト リフイン 「世界中央銀行」構想 か ら今回の小 島 「複数基軸通貨金為替本位制」

構想 に至 るような) の繰 り返 しになろう これで は事 の本質 が解決 された とは 言 えぬ。小島氏のように (村野氏 も同様 と考 え られ るが) タレ流 し発行 (とり わけ米国経常収支赤字 のケース)以外 に ドル供給 ルー トが存在 しないと考 えて いる限 り,この繰 り返 し ・堂 々め ぐりか ら逃 れ る途 はない。 この問題へ の解 答 を示 さず,ただ当面 における米国の国際競争力強化及 び 「国際収支」改善 を主 張す るだけでは片手落 ちである

筆者 は,銀行原理的視点か ら,この問題への解答 を次 のように与 え る。 米 国 は将来,対外流動性貸借 ポジシ ョン均衡及 び経常収支均衡状態 にカムバ ック し た後 において は,基礎収支を均衡 に保 ったまま,ひきつづ き経常収支 改善 ( 字化及 び黒字幅拡大) を続 け,且つ派生的発行 によ り基軸通貨 ドルを拡大 す る 世界経済 に向 けて供給 して行 くべ きであ る,と。経常収支 をひきっづ き改善 し て行 くことにより,基礎収支均衡 の内訳 は,経常収支‑長期資本収支‑0のケ‑

(12)

112 40 3

スか ら,経常収支黒字 ‑長期資本収支赤字 のケースへ と変 わ って行 く。 これは, 米国が対外流動性貸借 ポジシ ョン均衡状態 を保 ちつつ,対外純債務残 高 を縮小

し,対外純債権 国へ とカムバ ックの歩 みを続 けることを意味す る。

7.

以上 を踏 まえ,筆者 の主張 をまとめ ると次 の通 りである。

(1)現行 の ドル単一基軸通貨制 を通貨 当局間協定 によって変 えることは可能で はない し,また,将来 のために必要不可欠で もない。 ある通貨 を基軸通貨 と し て信認 し流通 させ るか否かにつ いて最終的決定権を もつのはマーケットであり,

また,タ レ流 し発行 による基軸通貨 の信認崩壊 (流動性 ジレンマ) は,単一基 軸通貨制故 の制度的必然ではないか らである。今 日の国際通貨問題 の解決方向 は,制度 の変更 とい う方 向で はな く,現行 の基軸通貨国 アメ リカの経済 モ ラル 回復 をめざす方 向一本 に しぼるべ きであ る

(2)アメ リカが今後 ,経常収支及 び基礎収支 の改善 によって対外流動性貸借 ポ ジシ ョンを改善 し均衡 に維持 しつつ対外純債務 を縮小す る,とい うシナ リオに 沿 って各国が米国の自助努力を促 し,且つ米国 に協力す ることが望 ま しい。 そ のために,(SDR,マル ク建 て債,・円建 て債等を用 いた) タレ流 し分 ドル残高 の回収 ・非流動化策や各国間経済政策協調 を適宜裁量的に発動 し,各国間でバー ドゥン ・シーェァを行 うことが望 ま しい。 この シナ リオを円滑 に進 めて行 くに際 し,為替 レー トの固定化 は (アジャスタブル ・ペ ッグを含 め)好 ま しくな い と 筆者 は考え る。現行 の管理 フロー トを維持 し,為替 レー ト伸縮可能性 を国際金 融 システムの安全弁 として常時確保 してお くべきである。アジャスタブル ・ペ ッ

グの欠陥 (小宮1975年 ,第6章参照) は,為替投機 の 「一方的選択権」 を助長 し,再 び外国為替市場 を混乱 させかねない。為替 レー ト固定宣言 は,経済 ・金 融政策面での国際協調が実績 を積んだ後 に総仕上 げとして可能 となるのであり,

まず為替 レー トを固定宣言 してか ら各国をルールで しぼるとい うのは極 めて危 険なや り方であ って今 日の国際社会 にはそ ぐわないと筆者 は考え る

(3)米国が将来,対外流動性貸借 ポジション均衡かつ経常収支均衡国にカムバ ッ

(13)

複数基軸通貨金為替本位制」̲論争について 113 ク した後 において は,米国 はひ きっづ き経常収支 の改善を進 め,経常収支黒字 ‑ 長期資本収支赤字 とい うパ ター ンで基礎収支均衡 を保 ちつつ,対外純債務 を縮 小 して行 くべ きであ る そ して,もはやかってのよ うな タ レ流 し発行 に よ る ド

ル供給 は繰 り返 さず,今度 は専 ら派生的発行 によ って ドルを世界経済 に供 給 し て行 くべ きであ る 即 ち,かつての基軸通貨国 イギ リスが行 って いた よ うに, そ して現代 の先進国経済 において個 々の市 中銀行 が行 ってい るよ うに,将 来 の アメ リカ も,銀行原理的信用通貨制 (基軸通貨制)運営方式 を明確 に認識 し実 施すべ きであ る。

(4)村野氏 は国際 「政治経済」 の現実 に極 めて悲観 的であるが,現状 の打解 を めざすか ぎ り,や は り国際協調以外 に途 はない と筆者 は考 え る そ してそれを, アメ リカが 「絶対 的地位」 か ら 「相対 的強国 に下降」 (村野論文19898,P.

23)した今 日における銀行原理的基軸通貨制運営 の補強手段 と して活用すべ き であ ると考 え る。村野氏 (1989 8,PP.2324)は,「一 国 の通 貨 ・金 融政 策 の独立性 の確保 の要求 はとりわけきわめて強固であ る」 と述べ,これを 「通 貨高権」 の名 の下 に容認 され るが,通貨高権 とは国際収支節度か らの逸 脱 権 ま で も含 むのであろ うか ?筆者 は,そ こまでの容認 はすべ きでない と考 え る

(5)今後,通貨高権」 の大義名分 の下 に米国が国 際収支 節度 回復 へ の 自助努 力 を怠 り,各国が国際協調 ‑の努力 を怠 るな らば,マーケ ッ トがかつ て の 「ブ

ラック ・マ ンデー」 のよ うな暴力的反応 を (株式市場 のみな らず外国為替市場 にまで)示 して も,致 し方 ない と筆者 は考 え る 経済 ・金融 の営 み及 び政 策 に モ ラルや節度 が回復 しない状況下で は,そのよ うなマーケ ッ トの反応 が唯一 の 教訓 となろ う。

(6)第二次大戦後 の米国 に国際収支節度 か ら逸脱す る格好 の理論的口実を与え, 今 日なお多 くの研究者 が国際通貨問題 の本質及 び解決方 向を見誤 る原因 とな っ てい る点 で,流動性 ジ レンマ論 の弊害 は極 めて大 きか った (今 なお大 きい) と 筆者 は考 え る. 英国 マ ク ミラン ・レポー トの銀行原理的視点が第二次大戦後 の 米国経済学界 に受 け継 がれず,流動性 ジ レンマ論 が通説 とな って今 日に至 った ことは,米国 にとって も世界 にとって も大 きな損失 であ った と言わ ざるを得 な

(14)

40 3号

1)小島論文 (1989 2月) における次 の記述 を見 られたい。 「現行 の よ うに ドルだけが事実上 の基軸通貨であるため,総合収支赤字国が国際流動性 を 補給す ることにな り,基軸通貨 の信認が不安定 になるのであ ってはな らな い。次節で 『複数基軸通貨金為替本位制』を提案す る所似である」(P.ll 下段)「だが結局,国際流動性補給 の大部分 を,唯一 の基軸通貨US ドル

の世界への放出に頼 って きた。 それは米国が経常収支赤字に陥ることによっ て のみ補 給 され た(P.19上段) "Up to thepresent,international liqllidity(theU.S.doller)hasbeensuppliedonlythroughcontinued deficitsoftheAmericanbalanceofpayments,afurthersourceof lossofconfidencein thedoller. Thisliquidity dilemma willbe rectifiedif,besidestheU.S.doller,suchcurrenciesastheJapanese yenandWestGerman mark arebackedwithgold;thecountrywith a balanceofpaymentssurplusprovidesinternationalliquidity‑"

(Kojima,June1989,pp.1‑2)小島氏 (1989 2月) は,公的準備 とし ての米 ドル残高が米国の総合収支赤字 のみによって供給 され,民間保有分

も含 めた全体 としての米 ドル残高が米国の経常収支赤字 のみによって供給 された と述べ,しか もそれが ドル単一基軸通貨制 の制度 的必然 であ った と

して議論 を展開 している なお,小島氏が米国の 「総合収支」 と言 うとき, それが grossliquiditybalance,netliquiditybalance,officialreserve transactionsbalanceのいずれを意味す るのか明記 されていない。 (文脈 か ら判 断 して officiaLreservetransactionsbalanceで はな いか と思 わ れ る。)

2)流動性 ジレンマ論者が基軸通貨国の 「国際収支赤字」 と言 うとき,その定 義が しば しば唆味である この点 につ いて尾 崎英二氏 (1964,P.184) ,流動性 ジレンマ論が,単純 に国際収支赤字 とい う不明確 な表現を使 っ で怪 しまないところに,すでにその論理 の不確実 さが認 め られ る」 と述 べ ている 小島論文 において も総合収支 の定義が不明確である

(15)

複数基軸通貨金為替本位制」論争 について 115 3)本稿では以下,流動的」 ・非流動的」 な る言葉 を多用 す るが,あ る債

権 (資産)又 は債務 (負債)が流動的か非流動的かを分類す る際 に,万人 が納得す るよ うな明確 な分類基準が存在す るわけではない。国際収支続計 で用 い られ るよ うな,満期1年未満か1年以上かを基準 と した 「短期」 ・

長期」 の分類が 「流動的」 ・非流動的」 の分類 に厳密 に対応 す るわ け で もない。 しか し,こうした分類上 の グ レイ ・ゾー ン問題 に拘泥 して いて は,本稿 で扱 うよ うな議論を進 めて行 くことが不可能 となる よって本稿 では,ある分類基準 によって流動的な債権 ・債務 と非流動的な債権 ・債務 とが ブラック&ホワイ ト式 に分類可能であると し,さ らに,この分類 が国 際収支統計で用 い られ る短期 ・長期 なる分類 と著 しくかけ離れた ものでは ないと して,以下議論を進 めて行 くことにす る

4)対外流動性債権」が基軸通貨 の信認 を支え るメカニ ズムは以下 の通 りで ある。 いま,非基軸通貨国居住者Aに対 して派生的発行 された基軸通貨 が その後国際取引の過程で非基軸通貨国居住者Bの所得 とな り,Bが これを 外国為替市場で売 った と しよう。す ると,近 い将来,基軸通貨 国居住者 へ の短期債務返済 に充て るために自国通貨 を売 って基軸通貨 を買 い求 めるA の行動が外国為替市場 に生ず る。 〔この とき,返済義務 に迫 られ たA国 に 対 し,基軸通貨国が安易 な追加融資を しない ことが肝心である も しここ で安易な追加融資をすれば,そのような基軸通貨発行 はキ ン ドルバ ーガー

(1985,p.44)のいわゆ る wildCatbankingとな り, もはや銀行原理 的な意味での派生的発行で はな くなる。〕 また,この とき非基軸 通貨 国居 住者CAに (返済用の)基軸通貨 を貸 してや った として も,近 い将来, 今度 はCへの返済 のためにAはや はり外為市場で基軸通貨を買 い求 めねば な らない。つ ま り,派生的発行 された基軸通貨 は,流通 のプ ロセ スで た と え外国考替市場 に一時的な 「基軸通貨売 り」圧力をか けて も,基軸通貨 国 か らの安易な追加融資がないか ぎり近 い将来 いずれかの非基軸通貨 を代価 とす る新 たな 「基軸通貨買 い」圧力を再 び外国為替市場 にかける これが 基軸通貨 の為替価値 を常 に下か ら支 える。基軸通貨国の 「対外流動性債権」

が基軸通貨 の信認 を支え るのは,このよ うなメカニズムが働 くか らである。

5)国際金融関係 の文献で は (小島論文 も含 め) しば しば 「ドルのたれ流 し」

とい う表現が,明確 な定義 な しに用 い られ る しか しその場合 で も,「た

(16)

116 40 3

れ流 し」 とい う表現 において,「基軸通貨国が通貨発行 特権 を乱用 して通 貨価値 の管理義務 を怠 り,満足 な価値 (ない し決済力) の裏付 け もせず に ず さんな通貨発行 を行 っている」 とい う非難 のニュア ンスが込 め られてい ることは明白である。 したが って,「タレ流 し発行」 に関す る本稿 で の定 義 は,世間一般 の用語法 を同一 の趣 旨でい っそ う明確化 した もの と筆者 は 考え る なお,本稿で定義 した 「タレ流 し発行」 に英訳 を与 えるとすれば, deficitfinancingissueが適切である。

6)当初 は派生的発行 したっ もりだ ったに もかかわ らず,後 にその分 の債権 が 不良化 し,回収不能 とな った場合,その分 の基軸通貨 は 「対外贈与」 の一 部 として タレ流 し発行分 に含 めるのが妥当である。

7)FederalResereBulletin (1964 6月 号〜1977 8月 号 ) 所 載 の

"ShortTerm LiabilitiestoForelgnerSReportedbyBanksintheU.

S.(payableindollers)"を ドル残高 の統計的対応物 と し,"ShortTerm ClaimsonForeignersReported byBanksintheU.S.(payablein dollars)"を ドル建て米国対外流動性債権 の統計的対応物 と して,1960

〜1976年 までの各年末時点 における 「ドル建て米国対外流動性債権 ÷ ドル 残高」 の比率 (C/Lレシオ) を計算す ると,次 の表 の通 りである。

'60 '61 '62 '63 '64 '65 '66 '67 '68 C/L 0.1725 0.2195 0.2115 0.2339J9:0.288491841 0.2752 0.2702 0.2659

'69 '70 '71 '72 '73 '74 '75 '76一

即 ち, ドル残高 の うち,派生的発行残高 の占め る比率 は,1961年 か ら1973 年 まで常時20%台を保 っていたに過 ぎない。 そ して,1971年以前 にお いて

は,米国か らの金引 き出 しはあって も,米国‑の金売 り渡 し (預 け入 れ) はほとん どな く,差 し引 きで は米国の金準備減少が (1969年 を弱 い例外 と して)続 いていた (ドルの本源的発行残高 はゼ ロどころか常時マイナスで あった)。 したが って,1か らこの時期 (1961年 か ら1971年) のC/ L シオを差 し引いた残 り70数パ ーセ ン トに,このネ ッ ト金引 き出 しによ って 消滅 した ドル残高 の シェアを加えた比率 (少 な くとも70数パーセ ン ト以上) が,この時期 (1961年か ら1971年) において タ レ流 し発行残高 の常時 占め ていた シェアだ った ことになる ちなみに滝沢健三氏 (1975,P.17) の 計算 によると,第二次世界大戦以降1970年末 までの 「戦後25年間の ドル残

参照

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