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ライフスキルの育成と発達障がい学生の支援

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Academic year: 2021

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ライフスキルの育成と発達障がい学生の支援

江原 由美子

*

Training for life skills

and supporting students with developmental disabilities

Yumiko EHARA

In this paper, from a case study, I show that students with developmental disabilities have difficulties with regard to scholastic and employment success due to lack of self-understanding, lack of self-management skills and lack of interpersonal skills. Life skills are necessary for stable scholastic performance and employment, and are the foundation that supports the independent life after graduation. Moreover, the lack of life skills is seen regardless of the presence or absence of a disability. Therefore, I argue that at College of Technology, we must think about how to nurture life skills for all students as a part of career education, and provide support for training for students with a shortage life skill.

Key Words: Life skills, Students with developmental disabilities, Career education

1.はじめに

ライフスキルとは,

WHO

の定義によると,「日常生 活で生じるさまざまな問題や要求に対して,建設的か つ効果的に対処するために必要な能力」 である1)。近 年,日本では,発達障がい児・者への支援や教育にお いて,このライフスキルが注目されている。ライフス キル・トレーニングや,ライフスキル教育を取り入れ たキャリア教育の取り組みも,行われるようになって きた。しかし,ライフスキルの不足により,問題や困 り感を抱えている発達障がい児・者は,依然として多 い。

高等専門学校

(

以下,高専

)

に在学する発達障がい学 生にも,ライフスキルの不足から,修学や就労に問題 が生じているケースが見られる。また,高専には,親 元を離れ,学生寮や下宿,アパートで生活している学 生が多く存在する。そのため,ライフスキルの不足が 生活面での困難に繋がり,それが修学や就労に影響を 及ぼしているケースも散見される。しかし,高専にお ける学生支援では,ライフスキルはあまり注目されて おらず,育成に向けた取り組みも,個別の支援にとど まっているように思われる。

そこで本稿では,高専に在学する発達障がい学生を 対象とし,その事例から,ライフスキルの不足により 生じうる問題について検討する。そして,それらの問

題の解決や未然防止を目指し,ライフスキルをいかに 育成していくべきか,考察を行う。

2.ライフスキルとは何か

ライフスキルを構成する領域として,

WHO

は,「意 志決定」「問題解決」「創造的思考」「批判的思考」「効 果的コミュニケーション」「対人関係スキル」「自己意 識」「共感性」「情動への対処」「ストレスへの対処」を 挙げている 2)。これは総合的なスキルであり,先行研 究には,発達障がい児・者に必要なライフスキルや,

学校で必要なライフスキル等,細分化・焦点化して論 じているものも見られる。

発達障がい児・者に必要なライフスキルについて論 じているものとしては,小貫ほか

(2009)

や,梅永

(2015)

等がある。

小貫ほか

(2009)

は,「「発達障害」のある子・者が最 低限必要とするライフスキルの領域」として,以下の

5

点を挙げている3)

Ⅰ.社会システム理解

(

社会資源を有効に利用でき るスキル群

)

Ⅱ.対人関係調整

(

社会で出会うさまざまな人との 対人的スキル群

)

Ⅲ.生活管理

(

生活全般を健康に送るスキル群

)

Ⅳ.自己理解

(

自分を知り,自分を活かせるスキル 群

)

Ⅴ.余暇活用

(

就労・学校時以外の時間を充実した

原稿受付 平成29925

*総合理工学科 先進科学系

(2)

ものにするスキル群

)

梅永

(2015)

は,発達障がいの子に必要なライフスキ ルとして,①身だしなみ,②健康管理,③住まい,④ 金銭管理,⑤進路選択,⑥外出,⑦対人関係,⑧余暇,

⑨地域参加,⑩法的な問題を挙げている。①~⑤は,

衣食住に関わるスキル,⑥~⑩は地域生活に関わるス キルとされている4)

学校で必要なライフスキルは,子どもの年齢や所属 する学校によって,変化する部分がある。高校段階の 子どもを対象とした,石隈監修,熊谷・田中・菅野編

(2016)

は,青年期に学習してほしいライフスキルの軸

として,「自己を知る」「他者・集団とつきあう」「学習 を工夫する」「キャリアについて考える」の

4

つを挙げ ている5)

また,社会適応や自立支援という観点から開発され た心理検査もある。発達障がい児・者に適用できるも のとしては,「日本版

Vineland-

Ⅱ 適応行動尺度」「

ASA

旭出式社会適応スキル検査」「

CLISP-dd

発達検査」等 がある。

このように,ライフスキルについては,様々な観点 からの研究が進んでおり,実践に活かす手法が考えら れている。しかし,高校・大学段階の学生が在学する,

高専におけるライフスキルについては,ほとんど考え られてこなかった。高専は実践的な技術者を養成する 学校であるが,卒業後に技術者として活躍するために は,知識や技術だけではなく,社会に適応し,自立し た生活が送れることが不可欠である。高専においても ライフスキルの重要性を考え,その育成に取り組んで いく必要があるのではないかと思われる。

3.事例検討

それでは,高専で必要となるライフスキルや,将来 を見据えて育成していくべきライフスキルには,どの ようなものがあるであろうか。以下,発達障がいを有 する学生の事例から検討を行う。なお,紹介する事例 は,研究への利用に関する承諾を得たものを本とし,

個人が特定されないように手を加えたものや,複数の 事例を組み合わせたものとなっている。

3.1 自己理解の不足に関する事例

発達障がいを有する学生には,複数の問題を同 時に抱え,やむを得ず進路変更に至る学生もいれ ば,問題なく学生生活を送り,順調に就労へと移 行していく学生もいる。そのような両極端の結果 となるのはなぜか,事例から検討する。

[事例

1

A

は寮生だったが,遅刻や欠課が目立った。成績不 振に陥っていたものの,危機感はなかった。穏やかな

性格ではあったが,自己肯定感が低かった。そのよう な中で,問題行動を起こす学生と仲良くなって生活が 乱れ,退寮に至った。退寮後は,学校近くのアパート で一人暮らしを始めた。生活のリズムがさらに乱れ,

授業への遅刻や欠課が増加した。成績もさらに下降し たが,危機感を持つことができなかった。その結果,

複数の科目で単位を修得できず,原級留置となった。

[事例

2

B

は寮生で,授業中の居眠りが目立った。しかし,

それが自身の障がい特性と関わっていることを自ら教 員に説明し,理解を得た。進級を機に退寮し,学校近 くのアパートで一人暮らしを始めたが,生活のリズム が乱れることはなく,順調に学校生活を送った。課題 やレポートが集中すると,精神的に不安定になること があったが,必要に応じて周囲に支援を求め,対応し た。

事例

1

2

はどちらも,寮生活からアパートでの一人 暮らしへと生活環境が変化した学生の例である。事例

1

A

は,退寮前から修学や生活面で問題を抱えてお り,退寮後もそれを改善できなかった。一方,事例

2

B

は,退寮前も退寮後も,全く問題がなかったとい うわけではないが,自分で対処し,改善できていた。

この

2

例では,退寮前の状況が良好であるか否かが,

退寮後にも影響を及ぼしていると言える。しかし,そ れよりも注目しなくてはならないのは,自己理解の度 合いではないかと思われる。

事例

1

A

は,修学や生活面で危機感を持てず,問 題にうまく対処できなかった。そして,自己肯定感が 低く,適切とは言い難い交友関係を持ってしまったた めに,状況をさらに悪化させてしまった。これは,自 分の特性が理解できていなかったことが原因ではない かと考えられる。自分には,「時間の管理がうまくでき ない」「きまりがきちんと守れない」「周囲に流されや すい」といった点があると分かっていれば,それらに 気を付けて生活し,問題の悪化を防ぐことができたか もしれない。一方,事例

2

B

は,自分の特性を把握 し,それを周囲に伝えて,理解や支援を得ていた。そ のため,問題が生じても,早期に対処でき,状況の悪 化を回避できたのだと思われる。

この

2

例から,自己理解が進んでいるか否かが,修 学や生活への適応に関わると考えられる。高専に入学 する学生は,年齢的に,それまでの学校や家庭での生 活で,修学や生活に関するスキルをある程度は身に付 けている。しかし,自己理解が進んでいなければ,ス キルを身に付けていたとしても,うまく活用できない 可能性がある。例えば,スケジュールの管理がうまく できない学生が,そのことを理解できていなかったと する。その学生が仮に体調管理のスキルを身に付けて

(3)

いたとしても,スケジュールの管理ができなければ,

趣味に熱中して寝る時間が遅くなり,体調を崩してし まうということが起こりうる。そして,スケジュール の管理が不得手だという自覚がなく,ルーズな学生生 活を送ってしまうと,遅刻や欠課,課題未提出等に繋 がり,成績にも影響が出る可能性がある。

このように自己理解は非常に大切なものであるが,

それを行うのは,必ずしも簡単なことではない。青年 期は,心身の成長や変化が著しく,アイデンティティ の危機に直面する時期である。自分と向き合い,他者 とは違う自分を認めることには,精神的な負担が伴う 場合がある。発達障がいを有している学生は特に,自 身の障がいの受容も必要となる。しかし,学生の中に は,診断を受け,障がいを受容できている者もいれば,

診断を受けていても,受容を拒否している者もいる。

また,保護者が診断名を告げていない者や,保護者が 診断を受けさせていない者もいる。当該学生の状況を 勘案して,障がい受容に対する支援をどうするか,決 めなくてはならない。その際,基本は,本人や保護者 の意志を尊重することであろう。ただ,卒業後に社会 に出た時のこと,さらには保護者亡き後のことも考え ると,障がいの受容を含めた自己理解は必要である。

障がい受容がまだ困難だと思われる場合も,個々の学 生に合わせ,自己理解を促す支援を行っていくべきだ と考える。

また,自己理解は,いわゆる定型発達の学生でも,

十分にできているとは言い難い。例えば,履歴書やエ ントリーシートで,自分の性格や,長所・短所の欄が なかなか書けないという学生は,意外と多い。障がい の有無に関わらず,自己理解が進むような指導や支援 を行う必要があると思われる。

3.2 自己管理スキルの不足に関する事例 一方,自己理解はできていても,自身ではスキルの 不足を補えない学生も存在する。

[事例

3

C

は寮生で,自室は物が散乱していた。整理整頓が 苦手で,教科書やプリント類もすぐになくしてしまう ため,課題やレポートの提出もできていなかった。厳 しい教員の授業は真面目に受けていたが,それ以外の 教員の授業では集中力が続かず,すぐに居眠りをして しまっていた。成績不振に陥っていたが,自己肯定感 が低く,改善しようという気力を失っていた。

[事例

4

D

は寮生だが,寝坊による遅刻や授業中の居眠りが 目立った。課題やレポートも,期日までに出せないこ とが多く,成績不振に陥っていた。

D

はそれらを気に していたが,なかなか改善できずにいた。一つ一つの

作業が丁寧で時間がかかる上,スケジュールの管理が 苦手で,やることに優先順位を付けることができない ようであった。

事例

3

C

は,整理整頓のスキルが不足しており,

スケジュールの管理も苦手であった。事例

4

D

は,

見通しを立てて物事を行うことや,スケジュールの管 理が苦手であった。どちらも,自分のできないことや 苦手なことに気付いてはいたが,どうすれば良いのか 分かっていなかった。このような時,自ら支援を求め られる学生もいるが,自分の弱さを見せることへの恥 ずかしさやためらいが強く,誰かに相談することすら できない学生もいる。保護者の元で暮らしている通学 生であれば,保護者が何らかの変化に気付き,助けて もらえる可能性もある。しかし,保護者の元を離れて 寮生活や一人暮らしを送る学生は,成績不振に陥って 初めて,支援が必要な状況であると分かることも少な くない。

このような学生に対しては,担任や授業担当教員,

部活動の顧問教員,寮関係の教職員,学生相談や支援 担当の教職員等,関わりのある人間が情報を共有して,

できるだけ早期に困り感に気付き,不足しているスキ ルを身に付けられる支援・指導を行っていかねばなら ない。支援・指導は,まず,構造化・見える化等,当 該学生にとってやりやすい方法を見つけ,そのスキル を指導する。そして,学生が自身でそれを行えるよう に,支援をしていけばよいと考える。具体的には,物 を置く場所を決め,片付けの手順を示したり,カレン ダーや手帳を使って,スケジュールの確認や優先順位 を付けて作業を行う練習をしたりすること等が挙げら れる。

発達障がいを有する学生は,小中学校でいじめを経 験している場合も多く,自己肯定感が低いことが少な くない。自己肯定感は,成功体験により自信を持つこ とができれば,向上すると思われる。そのため,スキ ルを身に付けて,できるという自信に繋げ,苦手なこ とにも前向きに取り組めるように支援や指導を行って いくことは重要だと言える。支援や指導は,学生が卒 業後の長い人生を自分らしく生きられるようにするこ とを第一に考え,場合によってはスモールステップに より,行っていくべきである。

ところで,整理整頓やスケジュールの管理が苦手な 学生は,定型発達の学生の中にも存在する。そのため,

障がいの有無に関わらず,修学や就労で必要となる自 己管理スキルを身に付けられるよう,指導や支援を行 えることが望ましい。高専においては,

LHR

等を用い,

キャリア教育の一環として,ライフスキルの育成を目 指すべきではないかと考える。

3.3 対人関係スキルの不足に関する事例

(4)

円滑な社会生活を送るには,対人関係のスキル が必要不可欠である。しかし,発達障がいを有す る学生は,その特性から,他者とのコミュニケー ションが苦手であることが多い。

[事例

5

E

は,不可解に思われる言動をすることがあり,学 校には仲の良い友達がいなかった。ある日,クラスの 男子が教室の後ろでボールを使って遊んでいたところ,

E

がいきなりそのボールを取り上げ,窓から外へ投げ 捨てた。その後,

E

は自らボールを取りに行って教室 の床に置き,自分の席に戻った。

[事例

6

F

は交友関係に問題はなく,授業態度も良好であっ た。しかし,ある教員の科目のみ,学年の途中から急 に成績が下降した。

F

と担当教員に話を聞いたところ,

F

は,「担当教員が苦手だから,この科目は諦めた」と 答え,担当教員は,「

F

は授業態度が悪く,やる気が見 られない」と述べた。

事例

5

E

は,他者とのコミュニケーションが全般 的に苦手で,他者には理解しづらい行動をすることが あった。しかし,一見不可解な言動も,

E

の立場に立 てば筋が通っているものだった。事例

5

のボールを取 り上げ,窓から外へ投げ捨てたのは,教室の後ろでボ ールを使って遊んでいることに怒り,それを注意しよ うとして手が出てしまったのだと考えられる。そして,

自らボールを取りに行って教室の床に置いたのは,注 意のためとは言え,他者のボールを外へ投げ捨てるこ とは悪いことだと考え,持ち主にボールを返そうとし たのだと思われる。

だが,筋が通ってはいても,態度や行動だけで相手 が気持ちを察し,理解してくれるとは限らない。社会 人になって多種多様な人と仕事をする場面では,自分 のことを伝える努力は必要不可欠である。将来のこと を考え,他者とのコミュニケーションが苦手な学生に は,ソーシャルスキル・トレーニングを通じて,コミ ュニケーション能力の育成を図る必要があると思われ る。

また,事例

6

F

は,交友関係に問題はなかったが,

特定の教員とのみ,コミュニケーションを取ることを 拒絶した。

F

にはこだわりの強さが見られ,他の学生 や教員が,取り立てて気にしない事柄に対しても,気 にすることがあった。

F

と担当教員の関係悪化の発端 は,教員の言動に,

F

にとって受け入れ難いものがあ ったからではないかと思われる。また,

F

は相手の言 動が気になった場合,自分の考えを相手に伝えて,円 滑な交友関係を維持していた。しかし,この事例では 相手が教員であったため,自分の考えを伝えることを

躊躇してしまったものと考えられる。教員が

F

を理解 することができていれば,相手を拒絶するほどの関係 悪化は避けられたかもしれないが,それもできなかっ た。

このようなケースでは,当事者同士による問題解決 が難しいことが少なくない。周囲の人間ができるだけ 早期に気付き,関係修復が不可能になる前に,介入を 行った方がよい。そして,同様の事態が起こらないよ うにするため,学生に対しては,対人理解に関するソ ーシャルスキルや,アサーションのトレーニングを行 い,対人関係のスキルを向上させていくべきだと考え る。また,教員に対しては,講演会や研修会を通して,

発達障がいへの理解を深めてもらうようにしなければ ならない。

対人関係スキルも,自己理解や自己管理スキルと同 様に,障がいの有無に関わらず,苦手としている学生 がいる。全学生に対してコミュニケーション能力の向 上を目指した指導を行うと共に,特に苦手とする学生 に対し,個別の指導を行っていくことが望ましいと思 われる。

3.4 状況や環境の変化による問題の顕在化 また,発達障がいを有する学生には,入学当初や低 学年の間は学校生活に適応しているように見えても,

高学年になって問題が顕在化する場合がある。

[事例

7

G

は,勉強にも部活動にも真面目に取り組み,委員 会や校外での活動にも積極的に参加していた。学生は もちろん,教員からの信頼も厚かった。しかし,高学 年になって,課題やレポートの提出が遅れるようにな った。そしてそれがストレスとなり,体調を崩してし まった。

[事例

8

H

は大人しい性格で,交友関係はさほど広くはなか った。成績や生活面で問題となることはなく,順調に 学生生活を送っていた。しかし,

5

年になって就職活 動を始めると,面接で落ちることが続き,なかなか内 定をもらうことができなかった。

事例

7

G

は,高学年になって,学習内容が高度に なり,課題やレポートが増えた結果,それにうまく対 応できなくなった。このように,修学面で一定のスキ ルを獲得している学生でも,状況が変化すれば,それ までのスキルを使うだけではうまくいかなくなること がある。また,事例

8

H

は,コミュニケーション能 力が高いというわけではなかったが,学校生活や日常 生活で支障を来すようなこともなかった。そのため,

本人も周囲も気に止めていなかった。しかし,就職活

(5)

動の面接では,緊張もあって,面接官の質問にうまく 答えることができなかった。このように,コミュニケ ーション能力に関して,一定のスキルを獲得している 学生でも,環境が変われば,対応できないことがある。

これらについても,学生の変化にできるだけ早く気 付き,対応していくことが重要である。自己理解がで きていて,一定のスキルを身に付けている学生でも,

常にうまくいくわけではない。研究や就職活動は,定 型発達の学生においても,極度のストレスとなる場合 がある。発達障がいを有し,ストレス耐性の弱い学生 には,修学や就労に関するつまずきが,精神疾患等の 二次障害に繋がらないよう,見守る必要があると考え る。

4.高専で育成していくべきライフスキル

先に示した事例から,高専では発達障がい学生 の支援において,自己理解の促進と,不足してい るライフスキルの育成に力を入れるべきではない かと考える。学校として修学や就労に力を入れて いるため,そこでのつまずきに目が行きがちでは あるが,成績不振の原因は,学力不足ではなく,

ライフスキルの不足であることも多い。就労にお いても同様である。

不足しているスキルは,個々の学生で異なる。

しかし,全般的に不足が目につきやすいのは,自 己管理や対人関係に関するスキルであり,まずは それらの育成に力を入れるべきではないかと思わ れる。ここで言う自己管理とは,整理整頓,スケジ ュールの管理,金銭の管理,体調の管理,衣食住を適 切に保ち行うこと等であり,小貫ほか

(2009)

の「Ⅲ.

生活管理」に当たるものである6)。国立高専には全 ての学校に学生寮があり,学生に対し,生活面で の指導が必要となる場合もある。卒業後のことを 考えても,自己管理に関するスキルの育成は,重 要である。また,対人関係に関するスキルは,社 会生活を送る上で最重要とも言えるスキルである。

ライフスキルは,円滑な修学や就労,卒業後の自立 した生活を支える基盤となるものである。スキルの不 足が目立つ学生には,個別の指導や支援が必要であろ う。しかし,ライフスキルの不足は,発達障がいを有 する学生のみに見られるものではない。定型発達の学 生にも,スキルの不足により問題を抱えている学生は 存在する。また,問題を抱えていない学生にも,より 良いスキルを身に付けることは,役に立つと言える。

例えば,スケジュール管理や整理整頓に関して,より 良いスキルを身に付けることは,生活を豊かにするこ とに繋がる。ライフスキルの育成は,全ての学生に対 して有益なものであると思われる。

そこで,全ての学生に対し,ライフスキルの育成を

行ってはどうかと考える。キャリア教育の一環として,

低学年の

LHR

や,高学年の就職・進学に関する指導の 中で,ライフスキルに関する内容も扱ってはどうだろ うか。また,スキルの中には,各科目の授業で指導で きるものもある。例えば,体調管理は保健体育,金銭 の管理や法律,税金の知識等は政治経済,書類やメー ルの書き方等のビジネスマナーは国語,といったふう である。余暇の過ごし方に関しては,課外活動から学 べることも多いであろう。

全ての学生に対するライフスキルの育成は,個別の 支援にまでは至らない学生や,障がい受容ができてお らず,個別の支援を拒絶している学生への支援ともな る。これからの高専では,専門的な知識や技術だけで はなく,社会人として必要なライフスキルを身に付け た学生を送り出せるよう,考えていくべきではないか と思われる。

5.まとめ

本稿では,事例検討から,発達障がいを有する学生 において,自己理解や自己管理スキル,対人関係スキ ルの不足が,修学や就労に影響を及ぼしていることを 示した。そして,一定のスキルを身に付けていても,

状況や環境の変化により,対応が困難になる場合があ ることを述べた。

ライフスキルは,安定した修学や就労に必要なもの であり,卒業後の自立した生活を支える基盤となるも のである。発達障がいを有する学生で,ライフスキル の不足が目立つ学生には,その育成を目指した個別の 支援が必要である。

しかし,ライフスキルの不足は,障がいの有無に関 わらず見られるものである。また,ライフスキルは全 ての学生に必要なものであり,キャリア教育の一環と して,その育成を考えていくべきではないかと思われ る。

参考文献

1) 川畑徹朗・西岡伸紀・髙石昌弘・石川哲也監訳,JKYBライフス キル教育研究会訳:WHO・ライフスキル教育プログラム,大修 館書店,1997

2) 1)と同書

3) 小貫悟+東京YMCA ASCAクラス:LDADHD・高機能自閉症 へのライフスキルトレーニング,日本文化科学社,2009 4) 梅永雄二:15歳までに始めたい! 発達障害の子のライフスキ

ル・トレーニング,講談社,2015

5) 石隈利紀監修,熊谷恵子・田中輝美・菅野和恵編:ライフスキル を高める心理教育 高校・サポート校・特別支援学校での実践,

金子書房,2016 6) 3)と同書

参照

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