• 検索結果がありません。

老舗のイノベーション― 変革マネジメントの理論 化を目指して―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "老舗のイノベーション― 変革マネジメントの理論 化を目指して―"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

老舗のイノベーション― 変革マネジメントの理論 化を目指して―

著者 神田 良

雑誌名 法と経営学研究所年報 = Annual Report of

Institute for Business and Law

巻 1

ページ 3‑26

発行年 2019‑09‑30

その他のタイトル Innovation of the Long‑Lived Company:In

Search for the Theory of Change Management

URL http://hdl.handle.net/10723/00003783

(2)

老舗のイノベーション

―― 変革マネジメントの理論化を目指して ――

神 田   良

はじめに

事業継承にとって最も大切なことは、事業そのものを継承させることである。事業の継承なく して、創業家による継承や、顧客の継承、取引先関係の継承などは不可能であるからである。事 業継承のマネジメントを考えるとき、いわゆる老舗と呼ばれる長期存続企業は最適の研究対象で あると思われる。長期間にわたって、また何世代にもわたって創業家が事業を継承してきたから である。

経営戦略の理論的な展開においても、企業内部の経営資源を的確に活用することで持続的競争 力を構築するプロセスや考え方を理論化しようとリソース・ベイスト・ビュー学派の理論構築に 貢献できる研究対象である。

すでに、筆者は日本の老舗企業を研究対象として、持続的な競争力の構築に関する理論化を試 みてきたが、そうした研究結果から示された示唆は、老舗が伝統を守るということではなく、む しろ老舗のイノベーション・マネジメントにこそ、時代を超えて老舗が存続してきた基盤がある ことであった。

老舗というと、一般に「伝統と革新」がその真骨頂であるといわれる。伝統を守りつつも、時 代に合わせて事業変革を続けてきたからこそ、現在までも存続しているのであるとの主張である。

われわれの研究では、老舗の経営のエッセンスはむしろ「革新と伝統」であるとの示唆も導き出 している。革新の連続が伝統につながるとの考え方を表明する老舗経営者も多く存在するように、

伝統ではなく革新に重きを置いて代々経営にあたってきた結果が、現在につながっているという わけである。つまり、革新のマネジメントにこそ、老舗の存続、持続的競争力の構築の基盤があ るわけである。

進化論を引用するまでもなく、変化を拒絶するものは、環境変化に適応できず、絶滅する運命 をたどらざるを得ない。企業も然りである。とはいえ、無謀に変化だけすればよいというわけで もない。変化を導入する際の適切な考え方、理論があると思われる。では、そうした変革のマネ ジメントはどうあるべきなのであろうか。こうした基本的な問いに対して、仮説的な答えを導き 出そうというのが、本稿の目的である。

1 .変革のマネジメントの全体像

老舗の変革マネジメントを理解するためには、まずは、全体像として、老舗がどのような変革 行動をとっているのかを把握する必要があろう。ここでは、筆者も参加した老舗の変革に関する 調査データ1)を用いて、老舗の変革行動の全体像を明らかにしてみよう。

(3)

1 - 1 .分析フレームワーク

老舗企業の基本的な特徴として、創業家が創業以来、長期間にわたって企業を所有して、経営 に携わっていることがあげられる。所有と経営への参加である。また、老舗は創業以来、家訓な どの企業理念を重視し、企業運営の精神的な支柱にしていることも特徴である2)。こうした基本 的な特徴が、どのように老舗の企業変革に影響を及ぼしているのであろうか。

また、老舗は一般的には創業家が所有していて、外部からの資金を導入することに消極的であ るため、企業規模は小さい。もちろん、経営に対する基本的な姿勢として、規模を追うのではな く、着実に企業を継続させることのほうに重きを置いていることも、相対的に規模を小さくさせ ている原因にもなっている。とはいえ、企業変革導入の相違によって企業成長の仕方が異なって くることも事実であろう。老舗企業の基本的な特徴と規模の関連性、さらには企業変革行動と規 模との関連性も考察すべきであろう。

さらに、企業変革は企業の存続のために行うものでもある。企業変革行動と企業の存続年数と の関係も明らかにすべきであろう。

企業の変革行動としては、まずは事業を展開するためのバリューチェーン上での変革がある。

具体的には仕入先・原材料調達、主力商品やサービス、生産方法・販売方法、販売先・顧客の変 更であり、広告宣伝などの販売促進での変更である。こうしたビジネスプロセスと関連して、経 営資源での変革もある。ヒトつまり人事制度や人材育成での変更、カネつまり資金調達や運用で の変更、そして無形資産であるブランドつまり社名や屋号の変更もある。

加えて、事業を運営するために組織を変革する組織編成での変更もあるし、事業そのものに関 連する変革、つまり事業拡大、業種・業態の変更、そして多角化もあげられる。企業理念つまり 社是や社訓の変更といった事業や企業運営に関する基本的な考え方での変更もありうる。しかも、

長期的に企業が存続していくためには、社会との関連、とりわけ業界や地域での活動においての 変革も不可欠となる。

継続変革型 N=91

変革移行型 N=38 変革定着型

N=51

伝統重視型 N=91

低 高

当代の変革 高

先代までの変革

図 1  老舗の変革行動類型

(4)

これらの変革行動をどのように実施してきたか(過去の変革行動:先代までの変革行動)、ま た実施しているか(現在の変革行動:当代の変革行動)と、時系列に沿って企業の変革行動の程 度( 5 点尺度)を質問票調査によって明らかにした。得られた回答から、それぞれの時点での全 標本の平均値を基準にして、平均よりも高い変革を遂げている企業(高変革企業)と平均値より も低い変革しか遂げていない企業(低変革企業)とに二分した。

こうして老舗企業の変革行動を 4 類型に分類した。つまり、先代までも、そして当代も変革に 相対的に消極的な企業である伝統重視型、先代までは消極的であったが当代になって積極的に なった変革移行型、その逆に先代までは積極的であったが当代になって消極的なった変革定着型、

そして先代、当代ともに変革に積極的な継続変革型である(図 1 参照)。

変革行動に関しては、過去と現在のほかに、将来の変革行動についても尋ねている。将来の変 革に関しては、ビジネスプロセスつまりバリューチェーン上の変革や事業そのものの変革につい てだけでなく、海外市場や高度情報化社会への対応、健康経営にかかわることにも尋ねている。

これまでの変革行動が将来に対してどのような影響を及ぼすのかも確認している。

こうした分析フレームは、図 2に示すとおりである。

老舗特性創業家の経営

  (創業家の経営者の有無)

創業家の所有   (所有の形態)

経営理念(有無)

伝統重視型

変革行動のパターン(変革行動の高低に基づく四類型)四類型

変革行動 低 変革行動 低

高 低 高

⇒ 高

変革移行型 変革定着型 継続変革型

先代までの変革(過去) 当代の変革(現在)

変革行動

将来の変革 規模従業員数

存続期間存続年数

図 2  分析のフレームワーク

1 - 2 .老舗特性と変革行動

創業家の所有と経営が企業変革にどのような影響を及ぼすのであろうか。

創業家の所有形態としては、株式の所有比率に応じて完全所有、過半数所有、少数所有に三分 類した。所有形態と変革行動類型との間の関連をみると、変革定着型が他の類型に比べて、完全 所有が少なく、少数所有の企業が多い傾向を示しているが、その差は有意ではない(表 1)。所 有形態と企業変革との間には、それほど強い関連性はないといえよう。

(5)

表 1  所有形態と変革行動類型

変革行動類型 所有形態

完全所有 過半数所有 少数所有 伝統重視型 66.3% 18.6% 15.1%

変革移行型 57.1% 28.6% 14.3%

変革定着型 44.2% 25.6% 30.2%

継続変革型 61.3% 22.5% 16.3%

χ2乗有意水準  0.228

一方、創業家の経営参加に関しては、有意な相違がみられる。経営者が創業家出身者であるか 否かと変革行動との関係をみると、変革定着型が、他の類型に比べて創業家出身の経営者が少な い(表 2 参照)。変革定着型は創業家の所有が緩やかになっている傾向を示していることを考慮 すると、この類型は創業家の所有と経営への関与が低くなっている企業群であることが推察され る。この点は、所有形態と企業規模との関連からも推察される。創業家の所有が緩やかになるほ ど、企業規模が大きくなっている(表 3 参照)。変革定着型では企業規模の拡大につれて、創業 家出身の経営者から非創業家経営者への移行が進んでいると思われる(表 4 参照)。

表 2  創業家経営者と変革行動類型 

変革行動類型 創業家経営者

伝統重視型 82.4%

変革移行型 86.8%

変革定着型 58.8%

継続変革型 78.0%

χ2乗有意水準  0.004

表 3  所有形態と企業規模 平均値:人

所有形態 従業員数

完 全 所 有 59.62 過半数所有 158.35 少 数 所 有 4,508.73 注:…5 %の有意水準で、少数所有が大きく完全所有

と過半数所有では差はない。

表 4  変革行動類型と企業規模 平均値:人

変革行動類型 従業員規模

伝統重視型 576.8

変革移行型 93.3

変革定着型 16,125.6

継続変革型 532.2

注:…有意水準 5 %で、変革定着型だけが、他の類型 よりも大きい。また、他の類型は、規模におい て有意な差はない。

経営理念についてみると、伝統重視型だけが、他の類型と比べて、社訓をもっていない割合が 高い(表 5 参照)。創業家の所有と経営と経営理念との関連では、創業家からの所有が緩やかな

(6)

になるほど(表 6 参照)、また創業家経営者がいない企業のほうが(表 7 参照)家訓を有している。

創業家との関連が薄くなるほど経営理念が重要になってくるようである。創業家経営者がいたり、

創業家の所有が強い場合、創業家そのものが企業の精神的な支柱の役割を果たすことになるため、

あえて会社として経営理念を明確にする必要はないのかもしれない。それに対して、創業家とい う精神的な支柱がないときには、経営理念に基づいて創業からの企業の基本的な考え方を共有す る必要性が高くなるものと思われる。この点は、社訓がある企業の企業規模が、社訓がない企業 よりも大きいこととも整合的である(表 7 参照)。企業規模が大きくなるにつれて、経営理念を 明確して共有を図ることが求められるのである。伝統重視型が完全所有支配であり、かつ創業家 経営者が経営にあたる割合が大きい(表 1 、 2 参照)ことからも、この点は整合的である。

表 5  変革行動類型と社訓 

変革行動類型 社訓あり

伝統重視型 61.8%

変革移行型 84.2%

変革定着型 86.3%

継続変革型 83.5%

χ2乗有意水準  0.000

表 6  所有形態と社訓

所有形態 社訓

完 全 所 有 38.4% 61.6%

過半数所有 25.0% 75.0%

少 数 所 有 18.5% 81.5%

χ2乗有意水準  0.007

表 7  社訓と企業規模

平均値:人

社訓 t検定

有意水準

従業員規模 33.6 3,743.4 0.025

では変革行動は存続年数に影響を与えるのであろうか。変革行動類型別に存続年数を比較する と、変革定着型と変革移行型との間に有意な差が示された(表 8 参照)。つまり伝統重視型、変 革定着型、そして継続変革型の間では存続年数に有意な差はなく、同様に伝統重視型、変更移行 型、そして変革定着型の間にも存続年数に有意な差が見出せなかったのである。変革定着型の存 続年数は一番長く、変革移行型の存続年数が一番短いことから、その間には有意な相違が示され たわけである。

変革定着型はすでにみたように相対的に規模が大きく、所有形態も創業家からの支配が薄く なっていることから、存続年数が長くなると、規模が大きくなり、所有形態も変化する確率が高 くなることを示唆しているものと思われる。もっとも所有形態と存続年数(表 9)、規模と存続 年数(図表10)の間には有意な関係は見出せなかったので、継続年数が長くなる老舗の中で規模 が大きくなり、かつ所有形態が変化した老舗だけの特徴を示しているのかもしれない。

(7)

表 8  変革行動と存続年数 

変革行動類型 存続年数平均値

伝統重視型 130.9

変革移行型 117.0

変革定着型 143.9

継続変革型 127.5

注:…変革移行型と変革定着型と存続年数のみが、

5 %の有水準で有意な差を示す。

表 9  所有形態と存続年数 平均値 年

所有形態 存続年数

完 全 所 有 134.04 過半数所有 127.86 少 数 所 有 129.24 注:…5 %の有意水準で有意差はない。

表10 規模と存続年数(相関係数)

存続年数 有意確率 従業員数(人) −0.014 0.795

こう考えると、老舗の変革マネジメントには多様なものがあり、存続年数という視点からすれば、

そうした変革行動の間に大きな優劣の差は存在しないという含意のほうが重要なのであろう3)

1 - 3 .変革行動:伝統重視型VS継続変革型

4 つに類型化された老舗の変革行動は類型化での基準からして、伝統重視型と変革移行型は先 代までの変革行動において類似性が高く、変革定着型と継続変革型は当代においてその類似性が 高い。そのため、変革行動において最も相違性が大きいものは、伝統重視型と継続変革型である。

前者は先代まで、そして当代においても変革に対して消極的あるのに対して、後者はともに積極 的であるからである。そこで、両者の間には、どのような変革行動の差があるのか、みてみよう。

とはいえ、個別的な変革行動においては、すべての行動項目で伝統重視型が有意に低く、逆に 継続変革型はすべての項目において高いことから、むしろ、変革行動のパターンにおける相違に 焦点を当ててみよう。

伝統重視型の老舗の先代までの変革行動では、まずは組織変革が重視されていて、それをヒト 資源やカネ資源の強化と連動させている。その次に事業の拡大、サプライチェーンの強化となっ ている(表11参照)。外部との連携を活用しての暖簾価値の向上の重要性は、それに続いている。

相対的に社内に目を向けた変革に重きを置いてきているように思われる。また、社名や屋号の変 更は最も重要性が低く、社是や社訓といった経営理念の変更は変革行動には入っていない。この 点は伝統を重視していることに一致しているものと思われる。

これに対して当代の変革行動では、バリューチェーン強化に最も重点が置かれ、それに次いで 外部との連携を通した暖簾価値の向上が重視されている。事業の拡大は同じように上位に位置づ けられていて、組織変革が優先順位を相対的に下げている。バリューチェーンの強化を中心にし て組織外との関連における変革に重きを移しているようである。

(8)

表11 伝統重視型の先代までの変革行動(因子分析)

注:0.500以上を関係性が強い項目として、網掛けで示してある。

因子

変革行動

1 2 3 4 5 6

ヒト・カネ資 源強化と連動

した組織強化 事業の拡大 バリューチェーン強化

社外活動と連 動した暖簾強

本業の強化 コーポレートブランド強化

組織編制 0.833 0.105 0.064 −0.012 −0.178 0.189

人事制度や人材育成 0.779 0.132 0.035 0.239 0.011 0.036 資金調達・運用 0.754 −0.061 0.045 0.108 −0.015 −0.187

多角化重視 0.161 0.783 −0.088 0.091 0.213 0.101

事業の拡大重視 0.056 0.748 −0.156 0.267 0.148 −0.101 販売先・顧客 0.106 −0.125 0.808 −0.009 −0.077 0.050 仕入先・原材料調達先 0.045 −0.106 0.743 0.175 0.154 −0.059 主力商品・サービス −0.166 0.458 0.577 −0.052 0.213 −0.117 製造方法・販売方法 0.148 0.479 0.505 0.117 −0.024 −0.329

暖簾の価値向上 0.044 0.130 0.059 0.873 0.042 0.115

広告宣伝など販売促進 0.250 0.260 0.232 0.608 −0.230 −0.081 業界や地域での活動 0.467 0.035 −0.024 0.576 0.128 −0.028

業種・業態 0.025 0.188 0.079 −0.218 0.815 0.006

本業・中核事業重視 −0.178 0.107 0.107 0.234 0.800 0.011

社名・屋号 0.033 −0.007 −0.103 0.058 0.019 0.903

社是・社訓 −0.090 0.466 0.193 0.007 −0.353 0.334

分散の% 14.3 12.6 12.2 11.0 10.5 7.3

因子抽出法:主成分分析…

回 転 法:Kaiser…の正規化をともなうバリマックス法

表12 伝統重視型の当代の変革行動(因子分析)

注:0.500以上を関係性が強い項目として、網掛けで示してある。

因子

変革行動

1 2 3 4 5 6

バリューチェーン強化

社外活動と連 動した暖簾強

事業の拡大 本業強化と連

動した理念強

組織強化と連 動したヒト資

源強化 カネ資源強化

仕入先・原材料調達先 0.778 0.152 −0.025 0.151 0.103 0.101 製造方法・販売方法 0.762 0.168 0.079 −0.061 0.166 0.148 主力商品・サービス 0.665 −0.055 0.268 0.208 −0.274 0.022

販売先・顧客 0.579 0.180 0.155 0.112 0.188 −0.401

広告宣伝など販売促進 0.220 0.753 0.025 0.006 0.139 −0.239 業界や地域での活動 −0.027 0.716 0.127 0.121 −0.115 0.258

暖簾の価値向上 0.211 0.618 0.306 0.012 0.066 0.182

多角化重視 0.126 0.108 0.828 0.106 0.167 −0.050

事業の拡大重視 0.112 0.228 0.824 −0.020 0.071 0.158

社是・社訓 0.087 0.100 −0.159 0.766 0.143 −0.110

業種・業態 0.232 −0.204 0.144 0.713 −0.092 0.215

本業・中核事業重視 0.057 0.314 0.173 0.568 −0.201 0.121 人事制度や人材育成 0.238 0.088 0.072 −0.076 0.817 0.074

組織編制 −0.064 −0.041 0.154 0.047 0.814 0.032

資金調達・運用 0.140 0.256 0.179 0.149 0.229 0.736

社名・屋号 −0.381 0.083 0.344 0.488 0.134 −0.411

分散の% 14.9 11.5 11.5 11.2 10.6 7.3

因子抽出法:主成分分析…

回 転 法:Kaiser…の正規化をともなうバリマックス法

(9)

変革継続型での先代までの変革では、主力商品やサービスの変革、仕入先や製造・販売方法の 変革を本業の強化と連動させて実施してきたことが、最も重要な変革行動であった。やはりバ リューチェーンの強化が中心であったようである。それに次いで、ヒト資源の強化を社外活動や 販促、暖簾価値の向上に結びつけて実施してきている。外部との関連性を強化するときに、ヒト 資源や暖簾資源の強化に連動させていることが特徴のようである。こうした本業の強化ののちに 事業を拡大することに注力し、組織変革を資金的な強化と結びつけている。社名などの変更や経 営理念の変革は最も重要性が低いものになっている。変革を継続的に遂げている老舗は、当代ま でに本業を中心として、その強化を続けてきたようである(表13参照)。

こうした本業強化は当代においても継続されており、事業の拡大は優先順位が低いものになっ ている(表14参照)。バリューチェーン強化に次いで、カネ資源強化と社名・屋号変更を連動さ せた本業強化、経営理念と連動させた組織強化、そしてヒト資源と連動させたブランド資源(暖 簾価値)の強化が変革対象となっている。多様な経営資源を活用して本業強化や組織強化、さら にはブランドの強化に結びつけているようである。

今後の変革については、伝統重視型は、ヒト資源の強化が最も優先順位が高く、次に国内市場 でのバリューチェーンの強化、それとは別に海外事業の強化、高度情報化へ対応となっている(表 15参照)。これに対して継続変革型では、バリューチェーン強化はヒト資源の強化と連動しており、

海外市場の開拓は多角化と連動している。伝統重視型と比べると、変革行動での変革対象の間で

表13 継続変革型の先代までの変革行動(因子分析)

注:0.500以上を関係性が強い項目として、網掛けで示してある。

因子

変革行動

1 2 3 4 5

本業強化と連動 し た バ リ ュ ー チェーン強化

社外活動・暖簾 強化と連動した

ヒト資源強化 事業の拡大 組織強化と連動

したカネ資源強

理念強化と連動 したコーポレー トブランド強化

主力商品・サービス 0.786 −0.087 0.090 0.037 0.117

仕入先・原材料調達先 0.758 0.240 −0.198 0.186 0.052

製造方法・販売方法 0.745 0.190 0.020 0.285 −0.060

業種・業態 0.720 −0.015 0.127 −0.157 0.301

販売先・顧客 0.578 0.412 0.107 −0.083 −0.279

本業・中核事業重視 0.577 −0.221 0.472 0.006 0.054

人事制度や人材育成 −0.218 0.646 0.314 0.276 0.025

広告宣伝など販売促進 0.431 0.644 −0.009 −0.020 0.031

業界や地域での活動 0.007 0.592 −0.020 0.146 0.015

暖簾の価値向上 0.232 0.510 0.140 −0.388 0.309

多角化重視 0.085 0.019 0.766 0.184 −0.195

事業の拡大重視 0.017 0.206 0.711 −0.032 0.153

資金調達・運用 0.101 0.028 0.177 0.795 0.020

組織編制 0.146 0.369 −0.012 0.714 0.255

社名・屋号 0.087 0.125 −0.201 0.010 0.791

社是・社訓 0.079 −0.051 0.370 0.238 0.629

分散の% 20.5 12.3 10.7 10.2 9.0

因子抽出法:主成分分析…

回 転 法:Kaiser…の正規化をともなうバリマックス法

(10)

表14 継続変革型の当代の変革行動(因子分析)

注:0.500以上を関係性が強い項目として、網掛けで示してある。

因子

変革行動

1 2 3 4 5

バリューチェーン強化

カネ資源・コー ポレートブラン ド強化と連動し た本業強化

理念と連動した

組織強化 ヒト資源と連動

させた暖簾強化 事業の拡大

主力商品・サービス 0.843 0.062 −0.062 0.007 0.167

製造方法・販売方法 0.791 0.136 0.273 −0.052 0.165

販売先・顧客 0.713 0.071 −0.237 0.110 −0.187

仕入先・原材料調達先 0.685 0.044 0.178 0.066 −0.002

本業・中核事業重視 0.268 0.680 −0.227 −0.093 0.311

業種・業態 0.531 0.612 −0.110 −0.023 −0.101

資金調達・運用 −0.102 0.568 0.112 0.251 0.241

社名・屋号 0.067 0.508 0.353 0.007 −0.327

組織編制 0.160 −0.179 0.722 0.133 0.008

社是・社訓 −0.037 0.280 0.712 −0.089 −0.029

暖簾の価値向上 0.244 0.123 0.077 0.734 −0.117

業界や地域での活動 −0.085 0.021 −0.071 0.725 0.076

人事制度や人材育成 −0.129 −0.256 0.464 0.517 0.301

多角化重視 −0.049 0.110 −0.138 0.013 0.760

事業の拡大重視 0.162 0.060 0.161 0.056 0.676

広告宣伝など販売促進 0.376 0.410 0.103 0.416 0.101

分散の% 18.5 11.4 10.5 10.2 9.5

因子抽出法:主成分分析…

回 転 法:Kaiser…の正規化をともなうバリマックス法

表15 伝統重視型の将来の変革行動(因子分析)

注:0.500以上を関係性が強い項目として、網掛けで示してある。

因子

変革行動

1 2 3 4 5

ヒト資源の 強化

国内バリュー チェーンの強

海外市場開拓 IT強化 カネ資源強化

従業員の育成・生産性の向上 0.868 0.157 0.210 −0.088 −0.057 トップマネジメントの能力強化 0.766 0.082 0.099 0.031 0.419

従業員の健康管理 0.693 0.160 0.059 0.405 −0.040

生産・販売方法の改革 0.073 0.814 0.127 0.006 0.008

新商品・サービスの開発 0.178 0.796 0.204 0.263 −0.095

国内販売先・販売チャネルの拡大 0.177 0.583 −0.012 0.140 0.319

海外市場への進出 0.148 0.134 0.901 0.071 0.075

海外顧客の開拓 0.140 0.142 0.898 0.135 0.034

インターネットビジネスの活用 0.008 0.105 0.152 0.875 0.106

高度情報化への対応力強化 0.431 0.399 0.117 0.581 0.169

資金調達能力の強化 0.084 0.005 0.023 0.200 0.860

本業以外の事業への多角化 0.014 0.422 0.231 −0.316 0.476

分散の% 17.7 17.3 15.2 12.7 10.9

因子抽出法:主成分分析…

回 転 法:Kaiser…の正規化をともなうバリマックス法

(11)

の連動がより強く意識されているようである。この点は、カネ資源強化が情報化への対応と結び つけられていて、カネ資源と情報資源の連動も意識されていることにも現れている(表16参照)。

伝統重視型と継続変革型の変革行動は、全体的にみて、やはり相違をみせている。もちろん、

こうした相違にもかかわらず、共通しているのは、本業を維持・強化するための変革行動がバ リューチェーンの強化を意識している点である。この点は先代までの変革だけでなく、当代、さ らには将来の変革行動においても見出せる。やはり、老舗が長期存続できたのは当然のことであ ろうが、ビジネスの骨格であるバリューチェーンを時代にあわせて変革してきたからなのである。

2 .事例にみる変革のマネジメント

老舗が存続を可能にさせたのは、それぞれが直面した、また直面している環境にあわせて変革 行動を選択的にかつ主体的に行ってきたからである。その結果が、多様な変革行動を生み出して きたと思われる。したがって、そうした変革行動をさらに深めて理解するためには、時系列的に 変革行動を整理して、そこに現れる変革の論理を究明することが求められる。もちろん、老舗と 呼ばれる企業群は多く存在しており4)、そこでの変革の論理にも多様性が存在する。少数の事例 研究から一般論を導き出すことは厳に慎まなければならない。

とはいえ、そうした老舗企業の変革に関する一般理論を構築するためには、インテンシブな事 例研究から作業仮説を抽出することが不可欠となる。もちろん、そうした事例研究にあたっては、

研究対象となる企業をどのような基準で選択するかが重要である。ここでは、老舗企業の変革を 創業以来、本業を変えることなく維持・強化してきている老舗と、事業環境の影響を受けて本業 を変更せざるを得ない老舗とを、代表的な事例として取り上げる。

表16 継続変革型の将来の変革行動(因子分析)

注:0.500以上を関係性が強い項目として、網掛けで示してある。

因子

変革行動

1 2 3

ヒト資源強化と連 動 し た バ リ ュ ー チェーン強化

多角化と連動した

海外市場開拓 カネ資源強化と連 動したIT強化

生産・販売方法の改革 0.797 0.315 −0.037

従業員の育成・生産性の向上 0.771 −0.009 0.243

新商品・サービスの開発 0.732 0.365 0.100

トップマネジメントの能力強化 0.648 −0.021 0.478

従業員の健康管理 0.611 −0.062 0.343

国内販売先・販売チャネルの拡大 0.568 0.224 0.218

海外市場への進出 0.261 0.872 0.077

海外顧客の開拓 0.272 0.863 0.122

本業以外の事業への多角化 −0.095 0.559 0.291

高度情報化への対応力強化 0.260 0.252 0.746

資金調達能力の強化 0.362 0.019 0.717

インターネットビジネスの活用 0.077 0.369 0.708

分散の% 27.0 19.2 17.8

因子抽出法:主成分分析…

回 転 法:Kaiser…の正規化をともなうバリマックス法

(12)

典型的な老舗というと日本の伝統産業を継承してきた企業をあげることができる。とはいえ、

そうした伝統産業は、その多くが衰退の憂き目に遭遇している。しかしながらそうした状況にあっ ても伝統産業を守り抜こうと努力を重ねている企業が存在する。一方、伝統産業の衰退に応じて、

そこで培ってきた技術・ノウハウを生かして、新たな事業領域に果敢に挑戦して企業存続を図る 企業も存在する。前者は伝統産業継続型企業であり、後者は伝統産業脱皮型企業と呼べよう。こ うした異なる変革行動を選択した企業を取り上げ、その変革行動の共通性と相違性を比較検討す ることをとおして、変革行動に関する仮説を導き出そうと試みるわけである。

具体的には、伝統産業継続型として仏壇産業の永樂屋を、伝統産業脱皮型として金銀糸産業の 尾池工業を取り上げる。両社の創業以来の変革行動をたどることで、老舗の変革行動の基本的な 考え方を整理してみよう。

2 - 1 .伝統産業継続型老舗:永樂屋5)

甲冑から平和産業へ

日本の社会や文化に密接に結びついて発展してきた伝統産業。しかし、その密接な関連性ゆえ に、社会や文化が変化すると、時には存続の危機に陥ることもある。しかもそうした伝統産業は、

地場産業ないしは地域産業として、地域の産業基盤であることもある。地域経済を守るためにも、

こうした伝統産業の継承は欠くことができない存在である。

仏壇産業は、そうした伝統産業の一つである。現在、日本には15の仏壇産地がある。多くはか つての城下町に存在している。江戸時代中期に始まったという彦根仏壇を扱う業者も、彦根城を 望む城下町の一角、「七なながり」と呼ばれる地域に集中している。そんな街中を歩くと、多くの 仏壇を陳列し、彦根仏壇とは何かを伝える、ひときわ目を引く店舗がある。それが永樂屋である。

彦根仏壇の始まりは、甲冑を製作して生計を立てていた職人集団が、戦がなくなり平和が訪れ たことにより職を失ってしまうという、存続の危機に直面したことがきっかけであったという。

そこで、それまでに培ってきた技を平和時に生かせる職業として、仏壇製作へと業種を変換した ことが、そもそもの始まりなのである。大きな環境変化に対応して、生き残りをかけて変身を遂 げたことが仏壇業の出発点であった。

彦根仏壇の製作は分業によっている。仏壇の本体を作る木地師、仏壇の中の屋根や柱などを作 る宮殿師、仏壇の中の細かい装飾を受け持つ彫刻師、金銀などを使って金属装飾を施す錺かざり金具師、

仏壇の耐久性を維持するための漆を塗る漆塗師、金箔で装飾する金箔押師と蒔絵で装飾する蒔絵 師の七つの職人の手作業から成り立っている。こうした職人は工部七職と呼ばれている。

永樂屋はこの七職の中の金箔押師としての流れを汲んでいる。創業は文政 3 (1820)年、榮助 が現在の彦根市で仏壇屋「夷えびす屋」を開業したことに始まっている。

永樂屋として

「夷屋」を継いだのは、二代目宮川榮次郎であった。その後三代目榮吉が事業を継承するが、

明治38(1905)年には、宮川合資会社を設立して会社としての礎を築いた。この事業を継いだの が榮吉の三男政吉であった。榮吉には男子が多く生まれた。政吉の弟、つまり榮吉の四男孝太郎

(13)

は家業で修業を積んだのちに本家から独立して、大正11(1922)年、現在の屋号・社名である「永 樂屋」を名乗って独り立ちした。興味深いことに、榮吉の五男、六男も北海道に渡って仏壇屋を 開業している。その仏壇屋は、現在も旭川地域に根を張っていて、「仏壇の宮川」として事業を 続けているという。夷屋として始まった仏壇事業は、今なお地域を超えて受け継がれているわけ である。

創業の地で分家として事業を継承した永樂屋は、次の世代に受け継がれるのであるが、孝太郎 の長男は太平洋戦争で戦死。次男は孝太郎の母の実家である岐阜の仏壇屋の養子となり、その地 で仏壇屋を生業とした。結果として、三男孝三が出征から戻って、長男家族から暖簾を買い取り、

五代目として永樂屋を引き継ぐことになった。職人気質の五代目は、家業として仏壇業に注力し、

戦後の永樂屋の基盤を堅固にした。

転機は現会長である、孝三の長男孝昭が入社してから訪れた。孝昭は高校を卒業したのち、京 都の仏壇業者で修業していたが、1 年足らずで戻ってくることを懇願され、会社に入ったのであっ た。しかし、この経験から京都の仏壇業の経営を知ることになった。家業として会社と家の区別 がない経営、慣行に従った商取引など、七曲がりの仏壇業者の経営に疑問をもったのである。そ れまでの旧態依然とした伝統産業のビジネス手法の改革に着手したのであった。

こうして昭和41(1966)年、株式会社永樂屋が誕生した。孝三社長、孝昭専務という布陣での 船出であった。

伝統工芸品産地として

株式会社としての新生永樂屋の船出は高度経済成長期によって迎えられた。幸いにも仏壇業界 は活況で、造れば売れるという時期であった。この波に乗って、事業の変革にも乗り出した。そ れまでは基本的には卸売りあった。しかし少量ではあったが、注文を受けて直売も行っていた。

そこで直売を増やすため昭和44(1969)年、現在の本社・本店がある地に 2 階建ての展示場を設 けた。来店客を増加させることで直売ビジネスを拡大しようと動き出したのである。

販売量の増大は生産量の増大を必須とする。そこで、工部七職の中で生産量を上げるときのボ トルネックとなっている漆塗工程を効率化しようと動き出す。そもそも漆塗職人が少ないことか ら、吹きつけ方式など、多くの新たな試みにも挑戦した。

既存工場では生産量に限界があったので、新たな工場も建設した。さらには、生産量の増加に 対応して、草津に販売店を開設した。昭和48(1973)年のことである。それまでは彦根仏壇業界 の慣行として、それぞれの問屋の販売テリトリーは不文律で決まっていた。永樂屋は岐阜、京都、

広島などと遠方地になっていた。そうした慣行を破っての本格的な販売拡大であった。ここでも、

業界内の革新者となったわけである。

時を同じくして彦根仏壇業界としても、大きな変化が訪れた。昭和49(1974)年、議員立法と して「伝統工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」が成立した。彦根業界の動きは早かった。

任意組合であった彦根仏壇同業組合を彦根仏壇事業協同組合に改組し、いち早く申請。翌昭和 50(1975)年には、全国仏壇産地の中で最初に「伝統工芸品産地指定」を受けた。永樂屋も「伝 統工芸品彦根仏壇製造店」の認定を得たのである。

(14)

彦根仏壇として地域ブランドを高めることに連動して、永樂屋ブランドの向上にも動き出した。

良品を大量生産できるようにと、鉄筋 2 階建ての尼子工場(現彦根工場)を新設するとともに、

さらなる仏壇の品質向上のため、京都の同業者の協力を得て職人を塗師修業に送り込んだ。高品 質品の大量生産を可能とさせるべく、漆塗工程の内製化を実現したのである。

販売革新を続ける

販売で、さらに革新を導入した。店売りが基本だった仏壇販売に、おそらく全国初だと思われ る訪問販売を導入した。待ちの営業から攻めの営業へと営業戦略を転換させたのである。昭和51

(1976)年のことである。まずは本店で、次に多店舗化を進めていた支店でも外商セールを開始 した。

さらに、商材でも工夫を加えた。それまでは仏壇に比べると単価が安く、利幅も低い線香やロー ソク、花立てや念珠といった仏具・消耗品も店で扱うことにした。これらはほとんどの仏壇店で は手間暇のかかる面倒くさい仕入れ品として扱われていた。仕入れや在庫、受発注も管理しなけ ればならない。こうした体制も整え、本格的に扱うことにしたのである。しかし、この商材はそ れまではとは異なる顧客を店に呼び込むことになり、日常的にこうした仏具を購入する客が、仏 壇を購入するときには永樂屋に頼むことになり、結果的に顧客層の拡大にもつながった。

時を同じくして、永樂屋の技術力が認められる出来事が起こった。彦根に続けとばかりに全国 の仏壇産地が伝統的工芸品産地として指定を受けた。そこで、各地の産地組合が協力して全国伝 統的工芸品仏壇仏具展の第 1 回が京都で昭和53(1978)年に開催された。そこに永樂屋が出展し た「真宗大谷派三方開永樂造り」が最高位の通商産業大臣賞に輝いたのである。全国的に永樂屋 そして彦根仏壇の知名度が上がったのであった。

知名度の上昇、店舗網の拡充に対応して、着実に顧客が広範囲に及ぶことになった。そこで、

永樂屋の事業に対する姿勢や考え方を正しく伝えたいとの思いから、昭和56(1981)年、「永樂 屋友の会」を発足させ、会報誌『えいらく』も創刊した。単なる仏壇の販促メディアとしてでは なく、「名刹の旅」や「湖国の伝統を尋ねて」と題した記事も載せ、仏教文化や伝統産業の維持・

継承にも寄与しようとしたものでもあった。こうして顧客と永樂屋を結びつけていったのである。

ビジネスモデルを革新

仏壇とは、そもそも仏様を安置する場所である。ご本尊は宗派に基づいて選び、お寺様とのつ ながりも重視するものである。仏壇は寺院と檀家を結びつける役割をもつべきものである。こう した基本を大切にしてビジネスを展開しようと、原点を見つめ直した。

仏壇の販売に際しては、まずは宗派を聞いて、ご本尊やその寸法を確認し、場合によってはお 寺様とも相談するように勧めて、仏壇を決めるようにした。他方で寺院に対しては、こうした姿 勢を理解してもらうとともに、檀家が必要とする商品カタログを届け続けた。個人の生活だけで なく地域に根ざした生活の中での仏壇の意味を問い直し、そうした意味を理解したビジネスへと モデルを転換したのである。また、寺院と檀家の絆の強化や仏教文化の維持・繁栄という視点も ビジネスに組み込んだ。

(15)

こうした対応が寺院からも理解され、それまでも寺院の内陣施工や寺院用仏具の購入も散発的 にはあったが、寺院施工も徐々に継続的に請け負うようになった。もちろん、こうした仕事は一 般家庭に仏壇を販売するのとは異なるスキルが求められる。経験を通して職人が熟練を積んでき ており、営業も寺院のニーズを的確に把握できるように努力してきた結果なのである。

近年、家庭での仏壇ニーズも変化してきている。その一つは核家族化、西洋化が進み、自宅に 仏間を設けることが少なくなっていることである。こうしたライフスタイルにあわせた仏壇も上 市している。市場の声を「あったらいいなこんなお仏壇」というテーマでデザイン募集し、壁掛 け仏壇「玉」などを開発した。

もう一つは仏壇をもつ家庭での変化である。仏壇も長年使っていると修復が必要になる。買い 替えるのではなく、愛着のある仏壇を解体して金箔を貼り直したり、漆を塗り替えたりと必要な 修復を施す「修復」、愛着ある仏壇の一部を生かして、その一部を使い新たな仏壇を作成する「輪 廻仏壇」にも取り組んでいる。いずれも高度な職人技があってはじめて可能となる。しかも、場 合によっては「仏壇仕舞い」という、仏壇を処分することにも対応している。仏壇のライフサイ クルのすべてに応えているのである。

継承人材の育成も

仏壇製造は標準化が容易でない職人技の塊である。しかし、高品質で安定生産を実現するとい う目標は他の製造業と同じである。品質向上を人材教育に活用するとともに、それをとおして顧 客満足のレベルアップを図ろうと平成15(2003)年、ISO9001認証を目指してISO委員会を発足 させた。翌年認証を取得し、その後継続審査を続けてきたが、平成27(2015)年、自社の基準に 基づくESQ(Eirakuya…Quality…Standard)を設定し、独自の活動へと方向を転換した。

人材育成に関しては、ものづくりへのこだわりといった技術的なことから、会社の歴史など多 様なテーマを社長が語る「社長塾」、社内の伝統工芸士が教える「塗バカ道場」と、社内の経営 資源を活用したものを中心に手作りで工夫した。さらには中堅クラスの経営参加を促す「経営参 画委員会」、「社内啓発推進委員会」など、横断的なプロジェクト組織を編成し、経営課題に社員 が取り組む機会を設け、生きた学びの場も提供した。

人材育成と並んで人材活用でも工夫を凝らしている。平成 6 (1994)年の大垣店の暖簾分けを 契機として、個人プレーではなくチームプレーでの仕事を重視する方向へと転換を図った。また 外商を中心として個人が市場を開拓していく狩猟型から、店舗への来客も含め顧客との関係性を 深め、紹介者を増やしていくことに重きを置く農耕型へとシフトさせた。この流れの中で中核的 な役割を果たしているのが女性社員である。永樂屋では女性活躍に早くから取り組んできた。そ うした実績は、平成 6 (2004)年の彦根市からの男女共同参画推進事業者としての表彰などをは じめとして、行政からも注目されている。

伝統産業では技術の継承、さらにはそうした産業を地域として維持・強化することが求められ る。そのためには、これを理解してその志を継いでくれる人材が不可欠である。宮川社長が地元 滋賀大学で講演し、地元小中学校に出向き彦根仏壇について語るのもこうした思いからである。

また彦根工場を見える化し、生産現場に顧客だけでなく、小中高生の訪問を積極的に受けている

(16)

ことも同じ意図からである。

人材の育成を社内だけでなく、地域にも広げることが伝統産業を存続させていくことなのであ る。

永樂屋の革新の流れ

永樂屋の革新をたどってみると、大きな変革は当代宮川孝昭社長が事業を受け継いだときには じまっている。革新移行型の変革行動モデルである。こうした変革はいくつかの意味をもってい る。その一つは卸から小売直販へと業態を変更させたことである。これによって、間接的にしか 情報が入ってこなかった仏壇を実際に使う使用者と、直接的に対話できる体制を作り上げたので ある。この体制を時代とともに変革して、絶えず市場に適した新たな仏壇を提供できるようになっ たと考えうる。実際、その後の展開をみると、線香などの日常的な消耗品を販売することで、日 常的に顧客と接触できるようになり、積極的な多店舗展開を仕掛けたり、外商セールスを導入し て、直接的に個人家庭に販売したりという販売革新も導入している。こうした革新は、一方で消 費者の生の声を聴き、新たな商品開発に結びつけることにつながるとともに、他方で、そうして つかんだニーズに対応した商品の価値や意味を、直に顧客に伝えることを可能にさせている。こ の意味で顧客との双方向の会話、つまり対話を可能とさせている。

もちろん、こうした販売革新の背景には、商品を提供できる生産体制を充実、強化させていく

表17 永樂屋の革新の流れ 江戸 初代 榮助 文政 3(1820) 壇屋「夷屋」を彦根に開業

2 代 榮次郎

明治 3 代 榮吉 明治38(1905) 宮川合資会社へ改組 大正 4 代 孝太郎 大正11(1922) 永樂屋を創業して、独立

昭和 5 代 孝三 職人として戦後の永樂屋の基礎を築く

6 代 孝昭 昭和41(1966) 株式会社へ改組

昭和44(1969) 卸業から直売へ業態拡大(販売革新)

金箔押から漆塗へと生産工程を拡大し、新工場を設立して生産拡大

(生産革新)

昭和48(1973) 生産拡大に伴い草津に直営店開設(流通革新)

昭和50(1975) 仏壇産地で日本初の伝統工芸品産地指定を受ける

伝統工芸品彦根仏壇製造店の認定を受ける(ブランド革新)

昭和51(1976) 外商セールを本格化させる(販売革新)

線香などの仏具・消耗品の小売りを開始(販売革新)

昭和53(1978) 第 1 回全国伝統工芸品仏壇仏具展で最高賞を受賞

昭和56(1981) 永樂屋友の会発足、会報誌『えいらくや』創刊(ブランド革新)

平成 平成 6(1994) 中国の安価な仏壇に対して、高品質なモノづくりを目指し、尼子工 場(現彦根工場)を建設(生産革新)

女性社員を含めて、社員教育に取り組む(人材革新)

寺院と檀家の関係を結びつけるビジネス、寺院の内陣施工や寺院へ の仏具販売を開始(ビジネス革新)

平成 9(1997) 各地で催事を開始(販売革新)

小型仏壇や輪廻仏壇の開発(製品&ビジネス革新)

仏壇仕舞いを開始(ビジネス革新)

(17)

ことも必要である。事実、永樂屋は絶えず生産革新を導入し、自社ですべての生産工程を実現で きるよう、内製化に取り組んでいる。これが高品質な仏壇へと特化した同社の製品戦略を可能と させている。

変革がもつもう一つの意味は、ビジネスモデルそのものの変革である。市場との対話から、自 社が提供する商品やサービスの意味を絶えず問い直し、ビジネスそのもの意味を時代の変化に対 応して進化させてきている。仏壇を単なるものとしてではなく、寺院と檀家とのつながり、さら にそれを基盤としながら先祖たちのつながりを確保するためのものであることを確認し、寺院、

檀家、永樂屋の三者関係を大切にするといったビジネスへと転換させていることは、この現れで ある。また、生活にあった仏壇である小型仏壇の開発、さらには輪廻仏壇や仏壇仕舞いは先祖と の新たなかかわり方へ対応するビジネスモデルを提供している。

革新の最後の意味は、従業員とのかかわり方である。伝統産業を継承していくためには仏壇を 製作するための七つの技術が不可欠である。しかし、伝統産業の常として、そうした技術を継承 する若手は少なくなってきている。技術を磨き、腕を上げていくことがキャリアとしての魅力を 失っているからである。永樂屋では、技術を継承させる仕組みだけでなく、職人がプライドをもっ て働ける環境づくりにも知恵を絞っている。働く環境の整備だけでなく、地元の若い人たちに職 業の重要性や魅力を伝えるのも、工場見学を受け入れて職人の働く姿を見てもらいつつ、見学者 に向けて自分の仕事の意味を伝える機会を提供するのも、こうした思いからである。

2 - 2 .伝統産業脱皮型:尾池工業6)

伝統産業の革新者

京都市下京区の木賊山町に古い佇まいを残す京町家。ここが尾池工業の本社である。この佇ま いからは、同社がハイテク素材を製造する世界的な会社であることは想像できない。

創業者尾池鉄太郎が伝統産業である金糸銀糸の商売を始めたのは明治 9 (1876)である。弱冠 14歳の少年が、伯父が営む金糸商に通って覚えた技術を基にしての開店である。金糸銀糸は西陣 織や京刺繍など特殊な用途に使われる商材で、零細家内工業によって供給されていた。金糸は紙 に貼り合わせた金箔を細く裁断(平箔)して芯糸に巻きつけて作られる。鉄太郎はこの平箔を作 り、それを下請けの撚り工に依頼し、仕上がり品を受け取って刺繍屋に販売するという商いを開 始したのである。

明治30年頃になるとジャガード機の導入により生産量を拡大した西陣織産元に対応して大量の 金銀糸が必要なり、撚り工と金糸商の間で商品を取り持つ中継人も増えてきた。安い加工賃の商 品の取り次ぎを嫌がる中継人が出るなどの不都合が出てきたので、鉄太郎は直接撚り工との取引 を始め、高い工賃を出しながらも仕入れ価格を低く押さえて必要数量を確保した。この商品調達 の改革により販売量も増大し、商売を大きくすることができたのである。

技術開発にも注力した。金は高価であることから銀箔・錫箔を使って表面を着色した紛(まが い)金糸は古くから流通していた。この着色料は椿の枯枝葉の灰汁から作られていたが、灰汁の 成分を分析してアルミナ酸アルカリを代用品として考案して、明治44(1911)年特許を取得した。

伝統産業に研究開発をとおして新風を吹き込む。創業者に始まる尾池の革新者としてのDNAが

表 1  所有形態と変革行動類型 変革行動類型 所有形態 完全所有 過半数所有 少数所有 伝統重視型 66.3% 18.6% 15.1% 変革移行型 57.1% 28.6% 14.3% 変革定着型 44.2% 25.6% 30.2% 継続変革型 61.3% 22.5% 16.3% χ2乗有意水準  0.228 一方、創業家の経営参加に関しては、有意な相違がみられる。経営者が創業家出身者であるか 否かと変革行動との関係をみると、変革定着型が、他の類型に比べて創業家出身の経営者が少な い(表 2 参照)。変革定
表 8  変革行動と存続年数  変革行動類型 存続年数平均値 伝統重視型 130.9 変革移行型 117.0 変革定着型 143.9 継続変革型 127.5 注:…変革移行型と変革定着型と存続年数のみが、 5 %の有水準で有意な差を示す。 表 9  所有形態と存続年数 平均値 年所有形態存続年数完 全 所 有134.04過半数所有127.86少 数 所 有129.24注:…5 %の有意水準で有意差はない。 表10 規模と存続年数(相関係数) 存続年数 有意確率 従業員数(人) −0.014 0.795 こう

参照

関連したドキュメント

明治33年8月,小学校令が改正され,それま で,国語科関係では,読書,作文,習字の三教

大正デモクラシーの洗礼をうけた青年たち の,1920年代状況への対応を示して」おり,「そ

特に、その応用として、 Donaldson不変量とSeiberg-Witten不変量が等しいというWittenの予想を代数

運用企画部長 明治安田アセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 大崎 能正 債券投資部長 運用企画部 運用企画G グループマネジャー 北村 乾一郎. 株式投資部長

渡辺 俊哉 企画ラインの主要職務や支社長等の多様な経験を有し、企画部長とし

このような状況のもと、昨年改正された社会福祉法においては、全て

  明治 27 年(1894)4 月、地元の代議士が門司港を特別輸出入港(※)にするよう帝国議 会に建議している。翌年

(4) 鉄道財団等の財団とは、鉄道抵当法(明治 38 年法律第 53 号)、工場抵 当法(明治 38 年法律第 54 号)、鉱業抵当法(明治 38 年法律第 55 号)、軌道