各種がん
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軟
な ん部肉腫(成人)
ぶ に く し ゅこの図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。 大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。 ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。 あなたらしく過ごすためにお役立てください。
がんの診療の流れ
「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかない でください。なるべく早く受診しましょう。 受診のきっかけや、気になっていること、症状など、 何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと 整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日 が決まります。 治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこ と、小さなことでも構いませんので、気が付いたこと は担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい 解決方法が見つかるかもしれません。 がんや体の状態に合わせて、担当医は治療方針を説 明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの 方と話し合ってください。あなたの希望に合った方 法を見つけましょう。 検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかること もあります。担当医から検査結果や診断について説 明があります。検査や診断についてよく理解してお くことは、治療法を選択する際に大切です。理解で きないことは、繰り返し質問しましょう。 がんの疑い 受 診 検査・診断 治療法の選択 治 療がんの診療の流れ
1. がん(肉腫)と言われたあなたの心に起こること ... 1 2. 軟部肉腫とは ... 3 3. 検査と診断 ... 5 4. 病期(ステージ) ... 7 5. 治療 ... 9 1 手術(外科治療) ... 10 2 薬物療法 ... 13 3 放射線治療 ... 13 6. 経過観察 ... 15 7. 転移 ... 16 8. 再発 ... 17 診断や治療の方針に納得できましたか? ... 18 セカンドオピニオンとは? ... 18 メモ/受診の前後のチェックリスト ... 19目 次
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. がん(肉腫)と言われた
あなたの心に起こること
がん(肉腫)という診断は誰にとってもよい知らせではあり ません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」 「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。 病気がどのくらい進んでいるのか、果たして治るのか、治療 費はどれくらいかかるのか、家族に負担や心配をかけたくな い…、人それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしま うのも当然です。しかし、あまり思いつめてしまっては、心に も体にもよくありません。 この一大事を乗りきるためには、がん(肉腫)と向き合い、現 実的かつ具体的に考えて行動していく必要があります。そこ で、まずは次の 2 つを心がけてみませんか。■
情報を集めましょう
まず、自分の病気についてよく知ることです。病気によって はまだわかっていないこともありますが、担当医は最大の情報 源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席 してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問し てください。 病気のことだけでなく、療養生活のこと、経済的なこと、薬 のこと、食事のことのような身の回りに関しては、看護師、 ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士などが専門的な経験や視あなたに心がけてほしいこと
がん(肉腫)と言われたあなたの心に起こること
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当医に確認することも大切です。他の病院でセカンドオピニ オンを受けることも可能です(セカンドオピニオンについては 18 ページをご覧ください)。 「知識は力なり」。正しい知識は、あなたの考えをまとめると きに役に立ちます。■
病気に対する心構えを決めましょう
がん(肉腫)に対する心構えは、積極的に治療に向き合う人、 治るという固い信念をもって臨む人、なるようにしかならない と受け止める人などいろいろです。どれがよいということはな く、その人なりの心構えでよいのです。そのためには、あなたが 自分の病気のことをよく知っていることが大切です。病状や治 療方針、今後の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、 いつでも率直に話し合い、その都度十分に納得した上で、自分 なりの病気に対する向き合い方を探していきましょう。 自分自身の気持ちを伝えることは、自分らしく病気と向き合 い、過ごしていくための第一歩です。あなたが自分の病状につい て理解した上で治療に取り組みたいと考えていることを、担当 医や家族に伝えるようにしましょう。率直に話し合うことが、担 当医や家族との信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合う ことにつながります。 ● 肉腫とは 胃がんや肺がんなどは、体や臓器の表面をおおう細胞(上皮細 胞)から発生する「がん」です。それに対して「肉腫」は、骨や筋 肉などの細胞から発生する「がん」で、胃がんや肺がんとは発 生する組織が異なります。 では、これから軟な ん ぶ に く し ゅ部肉腫(成人)について学ぶことにしましょう。2
. 軟部肉腫とは
軟部肉腫とは、軟部組織から発生した悪性腫瘍のことです。 軟部組織とは、肺や肝臓などの臓器と骨や皮膚を除いた、筋 肉、腱け ん、脂肪、血管、リンパ管、関節、神経を指します。軟部 肉腫は、手足、胴体、頭と う け い ぶ頸部、おなかの中など、体のいろいろ な部位に発生します。 図 1. 太ももに発生した軟部肉腫 軟部肉腫の種類はさまざまあり、分類が 30 種類以上ありま す。種類によって、よく発症する年齢や発生する部位が異なり ます。発生率が高いものとしては、脂肪肉腫、粘ね ん え き せ ん い に く し ゅ液線維肉腫お よび未分化/分類不能肉腫、平へ い か つ き ん に く し ゅ滑筋肉腫があります。 ※悪性線維性組織球腫は、WHO 分類の改定により、粘液線維肉腫および未分化/分類不 能肉腫に再分類されています。 軟部肉腫 太ももの筋肉2
軟部肉腫とは 年齢別でみると、高齢者では粘液線維肉腫および未分化/ 分類不能肉腫と平滑筋肉腫、中~高齢者では脂肪肉腫と線維 肉腫、若年者では滑か つ ま く に く膜肉腫し ゅと悪あくせいまっしょうしんけいしょうしゅよう性末梢神経鞘腫瘍が多くみら れます。また、小児の軟部肉腫の大部分は横お う も ん き ん に く し ゅ紋筋肉腫が占めて います。男女別では男女同数または男性にややできやすい腫瘍 が多いのですが、平滑筋肉腫、滑膜肉腫などは女性に多い傾向 がみられます。 発生部位は、肉腫の種類により違いがみられます。脂肪肉腫 と粘液線維肉腫および未分化/分類不能肉腫は特に太ももに 多く、滑膜肉腫は大きな関節の近くに発生します。平滑筋肉腫 は後こ う ふ く ま く腹膜や腸ちょうかんまく間膜などのおなかの中に発生することが多く、横 紋筋肉腫は頭頸部や膀ぼ う こ う胱の近くに多く発生します。線維肉腫 はいろいろな部位に発生しますが、比較的胴体に多くみられま す。 ● 軟部肉腫の症状 軟部肉腫の大部分は、皮下や筋肉の中にこぶのようにあらわ れます。症状としては痛みのない腫しゅりゅう瘤や腫はれですが、痛みがな いために放置してしまうことも多く、受診したときには腫瘤 が大きくなっていることがあります。 太ももなど筋肉の厚い場所に発生すると、太もも全体が大き く腫れたようになることもあります。手足にできた腫瘍が大 きくなると関節が曲がらなくなったり、座ることができなく なったりすることもあります。また、皮膚の色が変わったり、 潰瘍になったりすることもあります。3
. 検査と診断
検査は大きく 3 つに分けられます。1 つ目は、腫瘍の性質を 調べる生検です。2 つ目は、腫瘍の位置や広がりを検査するX 線検査、CT検査、MRI検査、PET検査、骨シンチグラフィなど の画像検査です。3 つ目は、身体機能を調べるための、血液検 査、尿検査、超音波(エコー)検査、心電図検査などです。1
生検
悪性腫瘍が疑われると、確実な診断をするために、病変に針 を刺して組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる針生検を行いま す。超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査をガイドに用いて、 針を刺せる適切な場所を見定め、局所麻酔を行いながら処置 を行うこともあります。また針生検では組織採取量が少なく、 診断には至らない場合や、確実な診断のためには外科的手術 によって生検を行います。 生検は、その後の治療内容に関わってくる非常に重要な検 査です。軟部肉腫は種類が多く、確実な診断には専門施設での 生検や診断が必要です。検査と診断
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X線検査、CT検査、MRI検査、PET検査、
骨シンチグラフィなどの画像検査
腫瘍の位置や広がり、リンパ節や肺、肝臓などへ転移がない かどうかを調べるために、X線検査、CT検査、MRI検査、PET 検査、骨シンチグラフィなどの画像検査を行います。 CT検査は、X線を使っ た検査で、体の内部を描 き出して腫瘍の広がりを 調 べ ま す( 図 2)。腫 瘍 と 血管の位置関係や、腫瘍 による血管浸潤の有無の 評価に有用です。最も転 移を生じやすい肺の評価 に有用です。 図2. CT検査の様子 MRI検査は、磁気を用いて体の臓器や血管を撮影する検査 で、腫瘍とまわりの筋肉や神経、血管などとの位置関係や腫瘍 の広がりなどを調べます。手術にはMRI検査が必要になり、造 影剤を用いることで腫瘍の広がりを評価します。 PET検査は、放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、 細胞への取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を 検出する検査です。一般的にはCT検査を併用したPET-CT検 査を行います。リンパ節転移や遠隔転移の診断で補助的に活用 することがあります。2
骨シンチグラフィは骨への転移を調べるのに有用となるこ とがあります。
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血液検査、尿検査、超音波(エコー)検査、心電図検査など
軟部肉腫では、診断に有用とされる腫瘍マーカーはありま せん。検査や治療に影響する腎臓の機能や肝臓の機能、貧血 などの状態を血液検査、尿検査、超音波(エコー)検査で調べま す。また心臓の機能を調べるために、心電図検査を行います。4
. 病期(ステージ)
予後因子となる組織学的悪性度(腫瘍のたちの悪さ)、腫瘍 の大きさ、腫瘍の発生深度(表在性、深在性)、リンパ節転移 の有無、遠隔転移の有無により、病期(ステージ)が分類さ れます。American Joint committee on Cancer(AJCC:米国が ん合同委員会)による第 7 版病期分類(表 1)と、Union for International Cancer Control(UICC:国際対がん連合)に よる第 7 版病期分類(表 2)では、組織学的悪性度の分類や 腫瘍の発生深度の扱いが異なるのですが、この病期をもとに、 年齢や全身状態を考慮して最も有効な治療法を決定します。
検査と診断
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病期(ステージ)表1. AJCC system (7th ed.)※1
病期 腫瘍のサイズと深度※2 リンパ節転移※3 遠隔転移※4 組織学的悪性度
ⅠA T1a、T1b N0 M0 Grade1 ⅠB T2a、T2b N0 M0 Grade1 ⅡA T1a、T1b N0 M0 Grade2、3 ⅡB T2a、T2b N0 M0 Grade2
Ⅲ T2a、T2b N0 M0 Grade3 Any T N1 M0 Any Grade※5
Ⅳ Any T Any N M1 Any Grade ※1 カポジ肉腫、デスモイド、先天性線維肉腫は除く
※2 T1:5cm 以下、T2:5cm より大きい、a:浅在性、b:深在性、AnyT:サイズや深度に関わらない ※3 N0:所属リンパ節転移がない、N1:所属リンパ節転移がある、AnyN:リンパ節転移の有無に関わらない ※4 M0:遠隔転移がない、M1:遠隔転移がある ※5 悪性度に関わらない
Edge, S. B., et al., eds.: AJCC Cancer Staging Manual, 7th ed., 2010; 291-6, Springer.
表2. UICC system (7th ed.)※6
病期 腫瘍のサイズと深度※7 リンパ節転移※8 遠隔転移※9 組織学的悪性度 ⅠA T1a、T1b N0 M0 低悪性度 ⅠB T2a、T2b N0 M0 低悪性度 ⅡA T1a、T1b N0 M0 高悪性度 ⅡB T2a N0 M0 高悪性度 Ⅲ T2b N0 M0 高悪性度 Any T N1 M0 Any Grade※10
Ⅳ Any T Any N M1 Any Grade ※6 カポジ肉腫、皮膚線維肉腫、線維腫症、血管肉腫、さらに硬膜、脳、管かんくう腔臓器、また
は実質臓器(乳腺肉腫を除く)から発生した肉腫は除く
※7 T1:5cm 以下、T2:5cm より大きい、a:浅在性、b:深在性、AnyT:サイズや深度に関わらない ※8 N0:所属リンパ節転移がない、N1:所属リンパ節転移がある、AnyN:リンパ節転移の有無に関わらない ※9 M0:遠隔転移がない、M1:遠隔転移がある ※10 悪性度に関わらない
Sobin, L. H.,et al., eds.: International Union Against Cancer, "TNM Classification of Malignant Tumours", 7th ed., 2010; 157-61, WILEY-BLACKWELL.
軟部肉腫は治療の難しい腫瘍の 1 つであり、最初の治療での 有効性により、患者さんの予後や治療後の生活に大きな違い が出ることもあります。したがって、軟部肉腫の治療は早期発 見とともに、専門家のいる病院で治療することが大切です。悪 性度の高い肉腫は手術だけではなく、薬物療法や放射線治療、 症状を和らげる対症療法を組み合わせた治療(集学的治療)を 行うこともあります。 図 3. 軟部肉腫(成人)の臨床病期と治療 臨 床 病 期 治 療 対症療法 治癒的切除可能 治癒的切除不可能 標準治療は確立されていない (高悪性度は全身化学療法を考慮する) 手術(外科治療) ・広範切除 (患肢温存術) 手術(外科治療) ・転移巣切除+原発巣切除 ±全身化学療法 切除縁評価 経過観察 追加広範切除 術後放射線治療 手術(外科治療) ・切離断術 放射線治療 対症療法 手術(外科治療) +補助療法 (術前・術後・術中 放射線治療など) Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 適切 不適切 孤立性の 転移巣 多発性の 転移巣 全身化学療法 転移巣切除 原発巣切除 放射線治療 (高悪性度は全身化学療法を考慮する)
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. 治療
治療
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手術(外科治療)
手術は、軟部肉腫における治療の要です。腫瘍が局所にとど まっている場合、その局所の腫瘍を除去するために手術を行い ます。再発を最小限にするためにも、手術前に腫瘍の性質をよ く調べ、切除する範囲を検討します。 腫瘍が徐々に成長するときに、腫瘍の周囲に反応層といわれ る膜のようなものをつくります。一見、この膜は腫瘍とは関係 ないように思われるかもしれませんが、この反応層の中にはす でに腫瘍細胞が入り込んでいます。したがって、反応層での切 除は高い再発率を招きます。正しい切除法とは、反応層の外側 で周囲の正常組織を十分含めて切除することです(広範切除)。 また、リンパ節転移が疑われる場合にはリンパ節郭か く せ い清を行うこ ともあります。 腫瘍を大きく切除したあとの再建技術は進歩してきており、 別の部位の皮膚、筋肉、骨などを用いて、切除部位で細い血管 を顕微鏡下でつないだり、静脈や人工血管を使って血管を移植 したりすることにより、手足を残して機能を温存する患か ん し肢温存 術が広く行われるようになってきました。現在、多くの施設で 患肢温存率は90%以上です。ただし、腫瘍が大きくなりすぎ て、血管や神経に浸潤している場合は、切離断術になることも あります。● 手術に伴う合併症 神経や手足の切離断術では、強い痛みが生じたり、数カ月痛みが 持続したりすることがあります。痛みには鎮痛剤が処方されま す。また、神経や血管を切除した手足や切断した部位に体液が滞 り、むくんだり、義肢や装具が合わなくなったりすることもあり ます。むくみの軽減には、むくんだ手足や切断した手足の先を包 帯で圧迫したり、やさしくマッサージしたりするのが効果的で す。看護師に説明を受けて、包帯の巻き方を練習しましょう。 治療によって手足や神経を切断した場合、手術後、失った手足が あたかもあるような感覚を覚えることがあります。これを「幻げ ん し肢」 といいます。幻肢痛は、幻肢に伴う不快な感覚や痛みのことで、し びれた感じがする、ピリピリする、チクチクするなど、人によって 痛みの表現はさまざまです。幻肢および幻肢痛は、手術による創きず の痛みが治まるころに始まり、新しい体のイメージができ上がる 1 ~ 2年で消えるといわれています。幻肢痛を感じたときは担当 医に相談しましょう。必要に応じて鎮痛剤や安定剤が処方されま す。 長期間にわたる寝たきりの生活や、足を切断して十分なリハビリ をしないまま車いす生活を続けると、切断した部位の関節が外側 を向いて硬くなる外がいてんこうしゅく転拘縮や、曲がったまま固まる屈くっきょくこうしゅく曲拘縮を起 こすことがあります。股関節がいったん外転・屈曲拘縮になって しまうと、起立歩行義肢を装着する際に支障を来すことがあるの で予防が大切です。特に幼児や高齢者は股関節の外転・屈曲拘縮 が起こりやすいので、担当医と相談しながら、関節を動かす訓練 などで予防します。
治療
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● 手術後に日常生活を送る上で 筋力の強化や動作の練習から、日常生活に戻る準備を始めます。 義肢を装着したり、松葉づえや車いすを利用したりする場合で も、障害を受けていないほう(健けんそく側)の手足はこれまで以上の筋力 を必要とします。理学療法士の指導を受けて、できるだけ早めに 手足の筋力を強化する訓練を始めましょう。ただし、以前できた ような動作を少しでも早く取り戻したいという気持ちが先走っ て無理をしたりすると、体に過剰な負担がかかったり、転倒しや すくなったりします。治療を受けた担当医やリハビリ担当医、理 学療法士、義肢装具士と相談し、近くの医療機関やリハビリ施設 を利用しながら、無理のない予定を立てていきましょう。 作業療法や装具については、個々の患者さんに合わせた工夫が不 可欠です。また、自宅の設備や職場環境の確認(段差や仕切りが障 害にならないか、エレベーターの位置など)や改善の検討も重要 になります。 義肢や装具を利用することは生活動作や行動の幅を広げます。義 肢や装具にはさまざまな種類がありますので、担当医やリハビリ 担当医から紹介された義肢装具士(義肢・装具製作担当者)に相 談して、生活環境や学業、仕事、通勤・通学状況などに応じた義肢 や装具を準備しましょう。 障害者手帳の交付、治療や介護費用の助成を受けられることがあ ります。院内のソーシャルワーカーなどにご相談ください。2
薬物療法
手術後の再発・転移の原因としては、いろいろな検査を行っ ても発見できないほどの小さな転移(微小転移)が残っていた ことが考えられます。このような微小転移を治療するため、術 前や術後に薬物療法を行うことがあります。また、肺転移巣や その他の転移巣の治療、あるいは手術ができない場合に、悪性 腫瘍の進行をコントロールするために薬物療法を行うことも あります。 細胞障害性抗がん剤(以下、抗がん剤)は静脈からの点滴、あ るいは内服(飲み薬)として投与され、血流に乗って全身に行き 渡り、腫瘍細胞へ到達します(全身化学療法)。通常、抗がん剤 は 1 種類投与されますが、場合によっては複数の抗がん剤を併 用することもあります(多剤併用療法)。 副作用には、吐き気、嘔お う と吐、食欲不振、脱毛などがあります が、症状を軽減する薬剤など、さまざまな支持療法が行われて います。3
放射線治療
腫瘍細胞を死滅させ、腫瘍を小さくするために行います。し かし軟部肉腫には、放射線治療が比較的効きにくいものが多 く、放射線治療が第一選択になることはほとんどありません。 補助療法として、手術後の再発を減らす目的で、腫瘍を切除し治療
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する場合、手術後に腫瘍の取り残しが考えられる場合などに行 うこともあります。また対症療法として、疼と う つ う痛を緩和するため に行うことがあります。 副作用として、皮膚、関節、骨の障害が照射した場所に起こ ることがあります。 ● その他の治療 軟部肉腫に対する免疫療法についての報告はさまざまあります が、まだ効果は明らかにされておらず、確立されたものはありませ ん。 ● 対症療法 症状を緩和する目的で行われる治療です。例えば、痛みが強いと きには、医療用麻薬を含めた痛み止めを使ったり、痛みの原因とな っているがんのある場所に対して放射線治療を行ったりして、つ らさを和らげることもできます。6. 経過観察
治療後の体の状況や再発の有無を確認するために、定期的 に外来通院し、X線検査やCT検査、MRI検査などの画像検査を 必要に応じて行います。 病状や受けている治療の状況により、日常生活で注意する ことや運動できる範囲は異なります。自分の体調と治療の副作 用をみながら、担当医とよく相談して無理のない範囲で過ご しましょう。 経過観察6
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転移7. 転移
転移とは、悪性腫瘍細胞がリンパ液や血液の流れで運ばれ て別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。軟部肉 腫は肺転移の頻度が高く、皮膚、リンパ節、骨に転移する可能 性もあります。 リンパ節転移単独の場合や、肺のみの転移で手術により完 全に切除可能な場合は、切除することにより予後がよいとい う報告もあり、手術を検討することがあります。 軟部肉腫が転移している場合の薬物療法は、悪性腫瘍の進 行を遅らせたり、つらい症状を和らげたりすることを目標に 行います。痛みなどの部分的な症状が強いときは、手術や放射 線治療を組み合わせて対症療法を行うこともあります。骨への 転移があるときには、痛みの悪化や骨折を減らすために骨吸 収抑制薬(骨を破壊する細胞の機能を抑え、骨吸収を抑制する 薬。BMA[Bone Modifying Agent]ともいいます)による治 療が検討されます。治療やケアの方針は、患者さんの症状や体調、あるいは希望 に応じて決めていきます。
8. 再発
再発とは、治療により悪性腫瘍がなくなったあと、再び悪性 腫瘍が出現することをいいます。再発には、もとの悪性腫瘍と 同じ場所あるいはごく近くに起こる局所再発と、転移により 別の場所にあらわれる遠隔転移があります。 局所再発の場合は、再度、手術を行って治癒(根治)を目指し ます。状況によって薬物療法や放射線治療を組み合わせます。 遠隔転移の場合は、切除により転移した病巣を取り除く場 合もありますが、病状により薬物療法あるいは症状緩和を目 的とした対症療法を行います。 再発8
診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは?
診断や治療の方針に納得できましたか?
治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいま す。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたい という患者さんも増えています。どちらが正しいというわけで はなく、患者さん自身が満足できる方法が一番です。 まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、 担当医に何でも質問してみましょう。治療法は、病状によって 異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、 自分に合った治療法であることを確認してください。 診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。セカンドオピニオンとは?
担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セ カンドオピニオンを聞く」といいます。ここでは、①診断の確 認、②治療方針の確認、③その他の治療方法の確認とその根拠 を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、「セカンド オピニオンを聞きたいので、紹介状やデータをお願いします」 と担当医に伝えましょう。 担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれま せんが、多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的 なことと理解しています。納得した治療法を選ぶために、気兼 ねなく相談してみましょう。メモ/受診の前後のチェックリスト
メモ
( 年 月 日) ● がんの種類 [ ] ● 病期(ステージ) [ ] ● 大きさ [ ] cm 位 ● 数 [ ] 個 ● 広がり・深さ [ ] まで ● リンパ節への転移 [ あり ・ なし ] ● 別の臓器への転移 [ あり ・ なし ]受診の前後のチェックリスト
□ 後で読み返せるように、医師に説明の内容を紙に書いてもらったり、 自分でメモをとったりするようにしましょう。 □ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝え ましょう。 □ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点につい て、聞いてみましょう。 □ 勧められた治療法が、どのようによいのか理解できましたか。 □ 自分はどう思うのか、どうしたいのかを伝えましょう。 □ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。 □ 症状によって、相談や受診を急がなければならない場合があるかどう か確認しておきましょう。 □ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、わかるようにしてお きましょう。 ● □ 説明を受けるときには家族や友人が一緒の方が、理解できて安心だと 思うようであれば、早めに頼んでおきましょう。 □ 診断や治療などについて、担当医以外の医師に意見を聞いてみたい場 合は、セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。がんの情報をインターネットで調べたいとき 近くのがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院、がん相談支援センターを探したいとき ◆◆◆がん情報サービス http://ganjoho.jp がん相談支援センターの紹介・患者必携についてのお問い合わせ ◆◆◆がん情報サービスサポートセンター 電話:0570-02-3410(ナビダイヤル) 平日(土・日・祝日を除く)10時 ~15時 ※通信料は発信者のご負担です。また、一部の IP 電話からはご利用いただけません。 サポート すべての冊子は、がん情報サービスのホームページで、実際のページを閲覧したり、印刷したりすること ができます。また、全国の国指定のがん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでご覧いただ けます。*の付いた冊子は、書店などで購入できます。その他の冊子は、がん相談支援センターで入手で きます。詳しくはがん相談支援センターにお問い合わせください。 がんの冊子 各種がんシリーズ 軟部肉腫(成人) 編集・発行 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター 印刷・製本 図書印刷株式会社 2016 年 10 月 第 1 版第 1 刷 発行 がんの冊子 各種がんシリーズ 肺がん/胃がん/大腸がん/肝細胞がん/乳がん/他 小児がんシリーズ 白血病/悪性リンパ腫/脳腫瘍/神経芽腫/他 がんと療養シリーズ がんと心/がんの療養と緩和ケア/もしも、がんと言われたら/他 社会とがんシリーズ がん相談支援センターにご相談ください/家族ががんになったとき/ 身近な人ががんになったとき がんを知るシリーズ 科学的根拠に基づくがん予防 がんと仕事のQ&A 患者必携 がんになったら手にとるガイド 普及新版* 別冊 『わたしの療養手帳』 もしも、がんが再発したら* 国立がん研究センターがん対策情報センター作成の冊子 執筆協力者(五十音順):内藤 陽一(国立がん研究センター東病院先端医療科/乳腺・腫瘍内科) 横山 雄章(国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科)
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