戦後日本における住宅地の町並み変遷と中古住宅市場-海外との比較を通して- [ PDF
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(2) 改善の方が多いことが分かる。(図 5). この年を境に世帯数の増加率は減少傾向に入る。 一方、住宅着工数は、個人の住宅取得能力の向上に. 0. より、一時的な変化はあったものの減少することな く現在に至っている。 (図 2)その結果、総住宅数と. 増築. 総世帯数の差は広がりつづけ、それが余剰な住宅を. 模様替え. 50. 100. 150. 改築. 設備改善. 増加させることに繋がっている。(図 1). 新築(建替え) 特に計画していない 未回答. 3.中古住宅市場の概要 3−1.中古住宅ストックの現状. 図5. リフォーム計画アンケート. 1998 年の総務省統計局による「住宅・土地統計調 査」によると、1998 年におけるわが国の住宅総数は. さらにリフォーム動機を見てみると、 「もっと快適. 4400 万戸である。建築時期別にその構成を見てみる. に」という抽象的なものを除くと、 「設備が古い」と. と、約半数が 1981 年以降で約四分の三が 1971 年以. いう理由が最も多い結果となっている。また、ここ. 降に建てられたものである。また、1950 年以前に建. で注目すべき点は「間取りがよくない」 「家族構成の. てられた住宅の占める割合は約 5 パーセントである。. 変化」 「高齢者対応」など、住環境の変化がリフォー. (図 3). ムの動機となっていることである。(図 6) 日. 0. 19911981-1990 1971-1980 1961-1970 1951-1960 -1950 不詳. 100. 150. 住宅が古い 住宅が狭い 設備が古い 間取りがよくない 家族構成の変化. 0. 図3. 50. 500. 1000. もっと快適に 構造的な補強が必要 高齢者対応 その他 未回答. 1500 万. 建築時期別住宅ストックの構成. 図6. 3−2.住宅リフォーム市場の現状. リフォーム動機アンケート. 3−3.中古住宅市場におけるアメリカとの比較. 近年の住宅に関する工事費総額の推移を見てみる. 1968 年、わが国の総住宅数が総世帯数を上回って. と、増築、改築に関わる工事費は減少傾向にあり、. からは、世帯数に対して余剰な住宅ストックは増え. それに対して、設備等の修繕維持費が増加傾向にあ. つづけた。それでは、その中古住宅の流通性はどの. る。(図 4). ようなものであろうか。ここでは、近年の一年当た りの住宅着工戸数が近い(約 150 万戸)アメリカと. 兆. 比較する。それぞれの中古住宅の流通量を示したも. 8 6 4 2 0. のが(図 7)である。 万. 0. 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 増築・改築工事費. 200. 400. 1986 1989. 設備等の修繕維持費. 1992 図4. 600. 住宅リフォーム市場の規模. アメリカ 日本. 1995 1998. 住宅リフォーム・紛争処理支援センターが 2001 年に行った「平成 13 年度住まいのリフォームフェ. 図7. 日・米の中古住宅の流通量の比較. ア」来場者アンケート調査を参照すると、リフォー 1998 年における各国の住宅ストック数はアメリ. ム計画において増築、改築よりも、模様替え、設備. 56-2.
(3) カ約 1 億 1800 万戸に対して日本は約 5000 万戸であ. 英. 日. る事を考慮しても、1998 年の中古住宅流通量はアメ. 万. 200. 万. 150. リカは日本の約 30 倍であるから、流通比としては. 40 30. 100. 20. 50. 15 倍ほどの差があることになる。. 50. 10. 0 50. 60. 70. 80. 90. 0. 00. 1960. 1970. 1980. 1990. また、アメリカは中古住宅の流通量が住宅着工戸 数、つまり新築戸数を大きく上回っているのに対し. 独. 米. て、日本においては約 10 分の 1 に過ぎない。. 万. なぜこのように日本と海外で中古住宅の流通度合. 300. 万. 100. 200. 80 60 40. 100. 20. いに差が出てしまうのであろうか。. 0 1945. 4.戦後の住宅市場における海外との比較. 図9. 0 1955. 1965. 1975. 1985. 1995. 1960. 1970. 1980. 1990. 日・米・英・独の住宅着工数の推移. 4−1.住宅ストックの比較 建築時期別に示した住宅ストック量について、日. この時期はわが国において高度経済成長期の時代. 本と海外 3 カ国(アメリカ、イギリス、フランス). であり、ディベロッパーによる小規模開発などで土. を比較する。. 地は細かく区画割され、町の統一感などは二の次で 先を競って住宅が建てられた時代である。このよう 英. 日. な住宅は時代が経つにつれて需要と適合しなくなり、 1985-. 19911981- 1990 1971- 1980 1961- 1970 1951- 1960 - 1950 不詳. 姿を消していった。しかし、今なお、この頃に建て. 1965- 1984 1945- 1964. られた住宅は総住宅ストックの約 50%を占めてい. 1919- 1944 0 0. 500. 1000. 500. 1,000. 1500 万. 1,500 万. る。 (図 3)これらの時代と適合していない中古住宅 が中古住宅市場の流通の妨げになっているのではな. 米. 19901980- 1989 1975- 1979 1970- 1974 1960- 1969 1950- 1959 - 1949. いだろうか。そして、中古住宅市場の流通が潤滑に. 仏. いかなくなり、また誰も住まなくなった空家が増え. 19911981- 1990 1971- 1980 1961- 1970 1946- 1960 1919- 1945 0. 1,000 2,000 3,000 4,000 万. る、という悪循環を引き起こしているのではないか。 0. 200 400 600. 800 1,000 万. 5.わが国における中古住宅市場の展望 図8. 5−1.中古住宅市場の実情. 日・米・英・仏の建築時期別住宅ストック量. 前項までに、中古市場が活性化しない事は、わが 建築時期の分け方に多少の違いはあるが、ここ 20. 国において戦後から 1970 年代までの高度成長期に、. 年以内に建てられた住宅は日本が圧倒的に多く、. 先を競って建てられた住宅がいまなお残っている事. 1960 年以前の住宅は海外の方が多いことが分かる。. に原因があるという予測が立った。. (図 8)これはつまり、scrap and build を繰り返し. つまり、この時期に建てられた住宅をターゲット. てきた日本において、住宅の寿命が短いことを意味. にして対策を考えることが、問題の解決に繋がる。. している。. それでは具体的にどのような政策が有効であろう. 4−2.住宅着工数の比較. か。ただ単にこの時期の中古住宅を整備しようと呼. つぎに戦後の住宅着工数について日本と海外 3 カ. びかけたところで、何の利益も生み出さない劣悪な. 国(アメリカ、イギリス、ドイツ)を比較する。 (図. 住宅には誰も手を出さないであろう。つまり、経済. 9). 的な利潤を生み出す何らかのシステムを作ることが. この 4 つのグラフを比較すると日本の住宅着工数. 必要不可欠なのである。. 推移の特異性を見出せる。それは戦後から 1972 年に かけて恐ろしいスピードで住宅着工数は増加しつづ. 5−2.町並み保存の事例 ここで、町並み保存のシステムをいくつか挙げ、. けて、1980 年までほぼその勢いを保っている事であ. それを参考に考える。. る。これは世界各国の先進国の中で類を見ない。. 5−2−1.石川県金沢市 石川県金沢市は非戦災都市であり、500 年前から の古い街並みが残されている。しかし、京都や奈良. 56-3.
(4) のように 1000 年を越える歴史を持っていないため、. を満たし得る物件であるか否かを判定する。改修で. 古都保存法の適用地域に認定されず、国の補助が受. 性能回復が可能と判断した場合、国はその費用の一. けられない。そのため行政が積極的に条例を整備し. 部または全部を負担する。そして、直ちにこれを債. 街並み保存を行っている。主な活動として住宅建築. 券化し、民間資金に対して債券購入を公募する。 (図. 奨励制度、職人大学、まちづくり条例などがある。. 10). 5−2−2.神奈川県 足柄下郡真鶴町 真鶴町は人口 10000 人程度の小さな町で、「開発」 に対する「開発許可権」や建築に対する「建築確認 権」を持たないため、街並みのコントロールができ ない。そこで町は、開発をとめるべく給水規制の条 例を作り、現行都市計画に対抗した。 (ダウンゾーニ ングにより開発をコントロール)また、建築家、法 律家等専門家 3 人を招き、美の基準つくりを行った。. 図 10. 中古住宅流通のシステム案. その結果、専門家の参加により狭い行政裁量の中で、 民間は債券としてこの中古住宅の所有権を分割し. 法の網をくぐる条例を策定することが出来、さらに その様々な段階の中で住民の参加も増している。. て持っているので、住宅が改修され利益を生み出し. 5−2−3.愛知県犬山市. た場合は、その利益の一部が還元される。. 犬山市では市街地の商店主により問題の提起がな. このシステムの最も重要な点は、国と民間が共に. されたが、商店主の活動に限界があったため、行政. リスクを分担し、良質の中古住宅を再生し、美しい. とコンサルタントにより、 「城前・丸の内まちづくり. 町並みを実現する、ということである。. 検討会」が結成された。中心部の空洞化と観光客の 6.まとめ. 減少が背景となり、城下町が残るまちとして、歴史 的資産を活かしたまちづくりを、住民と共に考え進. わが国において中古住宅が流通しないということ. めていくために様々な住民参加の機会を行政が作っ. は、高度成長期に建てられた住宅が手を加えられず、. たのである。主な活動としては、21 世紀城下町まち. 現在、空家として残っていることに原因があった。. づくり構想、市民活動支援条例、TMO 市民フォーラ. つまりこの時期に建てられた住宅をターゲットに政. ム、住民の意見を知るためのワークショップの導入. 策を行わなければ、中古住宅市場の活性化は望めな. などがある。. い。またこの政策は、全国に点在する多くの中古住. 5−3.町並み保存システムに学ぶ中古住宅市場の. 宅の存在を考えると、国と民間が共にリスクを分担. 課題. し、中古住宅再生に向き合わなければならない。そ してシステムが確立した時に、少しずつ中古市場は. これらの事例において共通して言えることは、民 間が主体となって町を保存しようという動きが既に. 流通し始めるのである。. 成熟しつつあるということである。言い換えれば、. 【参考文献】. 住民が自分たちの地域の町並みを保存していこうと. 1)伊豆宏『変貌する住宅市場と住宅政策』東洋経済新報社. 行動を起こし活動しているにもかかわらず、行政が. 年1月. 十分にサポートできなかったためにこうした草の根. 8月. 的な町づくりが話題となっているのであって、行政. 政策』ミネルヴァ書房. としては大いに反省の余地があることを示している. 動産学事典』住宅新報社. と言えよう。. 【図版出典】. これは、中古住宅市場においても同じ事が言える。 5−4.中古住宅流通のためのシステム案. 2)島田晴雄『住宅市場改革』東洋経済新報社. ひとつの提案をする。. 1999 年 3 月. 争処理支援センター. 図 9 住宅金融公庫. 提出された際、国はその改修により一定の性能基準. 4)日本不動産学会編『不. 2002 年 4 月. 図 1、図 3 総務省「平成 10 年住宅・土地統計調査」. 図 2 日本. 図 4(財)住宅リフォーム・紛. 図 5、図 6「平成 13 年度住まいのリフォー. ムフェア」アンケート. まず、空家として現存する中古住宅の改修申請が. 2003 年. 3)小玉徹、大場茂明、檜谷美恵子、平山洋介『欧米の住宅. 建築材料協会「住宅着工統計」. 以上から、中古市場流通のためのシステムとして、. 1999. 図 7 島田晴雄著「住宅市場改革」 図 8、. 海外住宅データ(平成 16 年1月更新) 以上より作成. 56-4.
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