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行政評価の実施が自治体財政に与える影響について
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU14606 神戸 信一
1. はじめに
人口減尐・尐子高齢化など社会経済情 勢が大きく変化している中で,地方自治 体では,厳しい財政状況の中でも安全か つ良質な公共サービスが確実,効率的に 実施されるよう,地域の実情に応じ,自 主的な行政改革に取り組んでいる.特に 自ら実施した事業を的確に点検・評価す ることは,効率的な財政運営を行うため に重要であるとされる.必要な内部の手 続きや評価にあたって作成する資料の多 さから,評価疲れとも呼べる状況が指摘 されるが,効率的で開かれた行政運営を 行っていくためには,必要不可欠な仕組 みである.しかし,行政評価を導入して いる多くの地方自治体では,導入するこ とが目的であった初期段階から,評価結 果を踏まえどのように予算編成等へ反映 できたかなど,行政評価を実施すること による効果の把握が課題となっている.
一方で,地方交付税の財源保障機能に ついては,地方自治体の地方交付税への 依存がモラルハザードを助長して,地方 自治体の財政運営を非効率化していると いう指摘がある.
本稿では,行政評価について,行政内 部の評価及び外部有識者等による評価が 自治体財政に与える影響,また,評価結 果の公表や自治体ベンチマーキング型評 価の実施が自治体財政に与える影響につ いて,地方交付税によるモラルハザード も踏まえ,実証分析で明らかにした.
2. 理論分析
政府が活動していくための原資となる のは税金が大部分であるが,地方自治体 の首長を始め行政サービスの提供を決定
する者は,最尐の経費で最大の効果を上 げるため,無駄は省く必要がある.市場 競争が行われる最大の利点としては,民 間企業に費用削減の努力を強いることに あるが,政府には市場が持つ調節機能が 存在せず,意図的に努力しない限り,非 効率は是正されない.
地方自治体は,公共政策を独占的に執 行し,供給する権限を公的に与えられて おり,行政サービスの質が悪ければ住民 の選択が行われる可能性はあるが,その 地域における行政サービスを供給しなけ ればならない立場は変わらないため,独 占的に振る舞いがちになり,X非効率が 発生する.しかも,民間企業と比べて異 なる特性があることを考えると,X非効 率はより深刻な可能性が高い.
1 つには,倒産の心配がないことであ る.民間企業であれば,倒産リスクを回 避するため,不断の技術革新や業務改善 により費用削減を行うインセンティブを 持つが,地方自治体は国の支援が行われ ることもあり,そのインセンティブは生 じにくい.特筆すべき国の支援は,地方 交付税である.地方交付税の財源保証機 能が歳入と歳出の差額を補填しているた め,歳出拡大に対する地方自治体の負担 感は希薄となり,モラルハザードを助長 している可能性が高い.図 1 で示す展開 型ゲームの枠組みで説明すると,ここで の問題は,国による事後的な救済を地方 自治体が期待していることにある.仮に 国が事後的な救済を行わないとすれば,
地方自治体は 2 の利得を失う(財政破綻 する)ことになるため,1 の利得が失わ れるだけで済む財政再建の努力をしてい
2 たにも関わらず,そうしないことが事前 の時点で最適となってしまう.結果とし て,事前に放漫財政を続けることが選択 され,事後的に国が救済することが部分 ゲーム完全均衡となる.
図 1 地方交付税のソフトな予算制約
次に,2 つには,事業を行うための原 資をその事業から生み出さないことであ る.民間企業ならば,いくら費用をかけ るかが収益の大きさを左右するが,税収 等を基準にした予算とその支出との帳尻 が合えばよい地方自治体では,予算を使 い切ることが関心事となり,予算を有効 活用するインセンティブは生じにくい.
したがって,X非効率の是正を進める ためには,行政内部における自己点検・
評価やそれに基づく改善を行うことはも ちろんである.また,費用削減に対する 首長の意識が高い場合であっても,全て の職員に根付かせ,周知徹底させること は困難であると想定されることを踏まえ ると,行政内部における自己点検・評価 を監視する,又は外部(外部有識者や住 民など)が直接評価することが有効な手 段となる.
行政評価が実施されたとき,図 2 の状 況になる.行政内部における評価が実施 されると,総費用曲線は TC から TC’へ シフトする.ただし,そもそも費用削減 のインセンティブを持たない職員による 評価であり,実効性への期待は薄く,ま た,これまでの事業経過や政治判断等が 評価内容に影響を与える場合が想定され ることから,そのシフトは限定的なもの となる.一方,外部有識者等により直接 評価が行われた場合,自治体側が対象事
業を誘導するケースが想定され,完全な 第三者評価と言えない可能性があるもの の,明確な費用削減の意思をもって取り 組まれることを考えると,総費用曲線の シフト量は行政内部における評価と比べ より大きなものとなり,TC から TC’’へシ フトする.そのため,同じサービス水準 Q*を提供する場合,総費用 C と C’’の差 だけX非効率が是正される.
図 2 行政評価の実施が自治体財政に与える影響
3. 実証分析
3-1. モデルの概要
行政評価の実施による効果を表す指標と して,対数変換をした普通会計決算額等を 用いる.この際,普通会計決算額等の変動 に影響し得る他の要因として考えられる首 長の政治姿勢や行政サービス水準を極力同 一とすることにより,内部評価及び外部評 価の実施の有無による変動を捉えることが できる.そこで,次の推定モデルを用い,
固定効果モデルによる分析を行う.なお,
対象期間は,最新の決算データが公表され ている 2012(平成 24)年に存在する 812 市区を基準とし,平成の大合併が概ね完了 している 2007 年(平成 19)と 2012 年の 2 時点のパネルデータを作成した.この際,
対象とする団体は,2011(平成 23)年 3 月に発生した東日本大震災後の財政援助の
3 影響が強く表れている岩手県,宮城県,福 島県の 3 県に存在する 34 市を除いた.
【モデル(a-1)】
ln(普通会計決算額)it=α0+β1(内部評価
実施ダミー)it+β2(外部評価実施ダミ ー)it+β3(交付税依存度)it+β4(内部評 価実施ダミー*交付税依存度)it+β5(外 部評価実施ダミー*交付税依存度)it+ β6(コントロール変数)it+θi+εit 3-2. コントロール変数
①人口・面積等
人口は,対数変換をした国勢調査人口,
対数変換をした国勢調査人口の2乗,面積 は,対数変換をした面積,対数変換をした 面積の2乗である.また,年尐人口割合
(15 歳未満人口),老年人口割合(65 歳 以上人口)を使用する.
②首長の年齢等
首長の政治姿勢と行政評価の効果は相関 する可能性があるため,首長のキャラクタ ーを表す変数として,対象時期における首 長の年齢,首長の勤続年数を使用する.
③その他のコントロール変数
行政サービス水準を一定とするための変 数を使用し,月額保育料,認可保育所の定 員数,小児医療費助成制度の対象時期,特 別養護老人ホームの総定員数,高齢者向け グループホームの総定員数,人口 1 万人当 たり病院・診療所数,月額水道料金,公立 学校のパソコン 1 台当たり児童生徒数,1 月当たり被保護世帯数である.
3-3. 推定結果
表 1 モデル(a-1)・推定結果
表 1 のとおり,内部評価実施ダミーの係 数符号は正となり,統計的に有意な結果に
はならなかったが,外部評価実施ダミーの 係数符号は負となり,1%水準で統計的に 有意であった.しかし,外部評価実施ダミ ーと交付税依存度の交差項の係数符号は正 であり,5%水準で統計的に有意であるこ とから,交付税依存が高い自治体ほど,外 部評価を実施しても効果が減尐してしまう ことが示された.
3-4. 評価結果の公表が自治体財政に 与える影響の推定結果
【モデル(b)】
ln(2012 年度普通会計決算額)i=α0+β
1(内部評価実施ダミー)i+β2(外部評価
実施ダミー)i+β3(結果公表ダミー)i+
β4(交付税依存度)i+β5(内部評価実施
ダミー*交付税依存度)i+β6(外部評価 実施ダミー*交付税依存度)i+β7(結果 公表ダミー*交付税依存度)i+β8(コン トロール変数)i+εi
表 2 モデル(b)・推定結果
表 2 のとおり,結果公表ダミーの係数符 号は正となり,統計的に有意な結果にはな らなかった.また,結果公表ダミーと交付 税依存度の交差項の係数符号は負となり,
統計的に有意な結果にならなかった.
3-5. ベンチマーク型評価の実施が自治
体財政に与える影響の推定結果
【モデル(c)】
ln(2012 年度普通会計決算額)i=α0+β
1(ベンチマーク実施ダミー)i+β2(交付
税依存度)i+β3(ベンチマーク実施ダ ミー*交付税依存度)i+β4(コントロー ル変数)i+εi
被説明変数:普通会計決算額(対数)
説明変数 係数 標準誤差
内部評価実施ダミー 0.002 0.015
外部評価実施ダミー -0.039 *** 0.014
交付税依存度 % -0.015 *** 0.001
内部評価実施ダミー*交付税依存度 0.000 0.001
外部評価実施ダミー*交付税依存度 0.001 ** 0.001
観測数 1504
決定係数 0.529
(注1)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す.
(注2)他のコントロール変数は省略した.
被説明変数:2012年度普通会計決算額(対数)
説明変数 係数 標準誤差
内部評価実施ダミー -0.041 * 0.025
外部評価実施ダミー -0.024 * 0.014
結果公表ダミー 0.023 0.018
交付税依存度 % 0.001 0.001
内部評価実施ダミー*交付税依存度 0.001 * 0.001
外部評価実施ダミー*交付税依存度 0.001 * 0.001
結果公表ダミー*交付税依存度 -0.001 0.001
観測数 765
決定係数 0.989
(注2)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す.
(注2)他のコントロール変数は省略した.
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表 3 モデル(c)・推定結果
表 3 のとおり,ベンチマーク実施ダミー の係数符号は負となったものの,統計的に 有意な結果にはならなかった.また,ベン チマーク実施ダミーと交付税依存度の交差 項の係数符号は正となり,統計的に有意な 結果にならなかった.
4. 政策提言等
4-1. 政策提言
費用削減のインセンティブが低い職員 による内部のみの評価で留めず,住民や 第三者の視点による評価を実施すべきで ある.行政サービスを提供する地方自治 体自身による評価,及び職員の意識の醸 成は当然必要であるが,行政サービスを 受ける住民による評価を行うことによっ て,客観性や透明性が確保され,自治体 財政の効率性は高まる.しかし,評価者 及び自治体職員が持つインセンティブの 度合いによっては,単純に外部評価を行 えばよいとは言えない.どのような者を 評価者として選択するかについては,地 方自治体が何を望むのかに委ねられるだ ろうが,行政評価の実施効果を高め,有 効に機能させるためには,評価者を選択 した過程の明確化,評価者の氏名や評価 した内容,会議におけるやり取り等を公 表するなど,評価者・行政サイド双方が 適切な評価・対応を実施しようとするイ ンセンティブとなる取組みが重要である だろう.
また,地方自治体のコスト意識の欠如 を生み出す一因となっている現行地方交 付税制度のあり方も検討すべきである.
地方の課税自主権が尐ないことも大きな 原因だが,まず,地方交付税制度のあり 方を見直すべきでないか.具体的には,
現在認められている幅広い行政サービス への財源保障は止めるべきである.その 上で,地方交付税の本来の趣旨である予 算制約の範囲内で提供される基礎的なサ ービスのみ,国が責任を負い,全額を財 源保障すべきである.これまで余所の財 布をあてに実施していた行政サービスが 過剰なものであれば,地方自治体は,新 たに増税するか,他の行政サービスを縮 小・廃止せざるを得ず,事業の取捨選択 が進み,首長・地方自治体の職員,住民 双方のコスト意識が強くなる.
4-2. 評価結果の公表及びベンチマー キング型評価
近年,説明責任の確保が強く要請され ていることもあり,評価結果を公表する 地方自治体は増える傾向にあるが,現在 でも行政評価の実施団体のうち 4 分の 1 の団体で公表していない.国が示す基礎 的な行政サービスはもちろんのこと,そ れ以上の行政サービスの供給に関する情 報は,可能な限り,最終的な選択を行う ことになる住民に真に届く内容・方法に より公表すべきであろう.
本研究から評価結果の公表に関する有 意な結果を導くことはできなかったが,
現状の評価が居住自治体内のベンチマー クとなっており,住民側に選択する余地 がなく,地方自治体の運営への関心が低 いことに起因しているのではないか.一 部の地方自治体による自主的な取組とし て行われている自治体間ベンチマーキン グ評価は,全国的な取組として母数を増 やしていく必要があるだろう.また,評 価・分析に当たっては,ヤードスティッ ク競争を促進させるため,人口規模ごと のカテゴリーの設定や,行政評価の取組 を活かした指標の活用について,より深 く検討すべきだろう.
被説明変数:2012年度普通会計決算額(対数)
説明変数 係数 標準誤差
ベンチマーク実施ダミー -0.051 0.033
交付税依存度 % 0.002 *** 0.000
ベンチマーク実施ダミー*交付税依存度 0.002 0.002
観測数 765
決定係数 0.989
(注1)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す.
(注2)他のコントロール変数は省略した.