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農業水利システムを通じた広域的な 水質環境管理に関する研究

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 高 橋 順 二

学 位 論 文 題 名

農業水利システムを通じた広域的な 水質環境管理に関する研究

学位論文内容の要旨

(要旨)

  

農村地域における土地利用変化や経済社会活動の進展等、環境の変化は水循環にも影響 を及ぽレ、水質や生態系の悪化など水環境をめぐる問題か発生している。水田主体の農村 地域では農業用水が流域利水の大宗をなし、農業水利システムや河川等を通じた水循環は、

地域の水環境の基盤を形成している。新しい全国総合開発計画などで健全な水循環系の回 復や水環境保全が、

21

世紀の大き な施策課題となっている今日、これら諸課題に適切に 対応していくためには、農業水利システム及ぴそれを介した物質循環(水の動態と水を介 して循環する汚濁負荷物質)に着目し、生産環境・生活環境・自然環境が一体となった良 好な環境の保全・創出を図っていくことが重要となっている。しかしながら、農業水利に 関しては、従来水量の問題が中心として取り扱われ、広域的な水質保全の面からの取り組 みは十分なものとなっていない。そこで本論文では、農業水利システムにおける物質循環 を適正に管理・制御し、水の持続的利用と水環境を保全していく視点から、水源域から末 端の圃場レベルまでのさまざまな場の農業水利システムと水域の水質環境の関わりを明ら かに する と とも に、 農業 水利 シス テム を通 じた 水質 環境 管理 手法 に っいて論じた。

  

本論文は8章から なり、第1章では、研究の背 景を述べ、併せて農業水利システムと水 質 環 境 管 理 に 関 す る 既 往 の 研 究 成 果 を 総 括 し 、 本 研 究 の 位 置 づ け を 行 っ た 。

  

第2章では、我が 国の水資源の現状を量・質の面から分析し、これまでの水質保全施策 と現在の施策上の課題を整理した。また、農村の水質環境保全研究の流れを経済社会の変 化や農業農村整備事業との関連で整理し、各種の水質保全対策に係る技術の現状と課題を 明らかにした。これらに基づき、農業水利システムを通じた新たな水質環境管理の必要性 を論じた。

  

第3章では、我が 国のため池・農業用ダム湖の水質環境を多角的に分析し、閉鎖系の水 利システムの水質環境管理にっいて考察した。 まず、全国

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箇所のため池 を対象とし て、土地利用、農業、気象等の集水域特性及び水理諸元がため池の水質に与える影響につ いて分析を行った。その結果、山林面積率や水深は、ため池の水質濃度を低くする要因と して作用すること、日照時間が長く水深が浅いため池ほど水質濃度が高い傾向になること、

集水域における栄養塩の発生源の大部分は、非点源汚染源からのものであり、長期的には 集水域管理によって汚濁原因の構造的な除去が重要であることなどを明らかにした。農業 用ダム湖に関しては、全国の農業用ダムの水質・水利観測記録を分析することにより、計 画段階で比較的容易に得られるデ一夕から、ダム完成後の水質を概略予測する手法にっい て検討した。その結果、水理指標やフオーレンパイダーモデルは、利水目的で運用される 農業用ダム湖においても、水温成層の形成や窒素・リンの水質予測に有効であることを示 した。

  

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章 で は、 開放 系の 農業 水利 シス テム の水質環境管理について、 人為的な制御が

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(3)

の展開にも広く反映できるものと期待される。

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(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

長澤 松田 波多野 井上

学 位 論 文 題 名

徹明

    

豊 隆介

    

農業水利システムを通じた広域的な 水質環境管理に関す る研究

  

農村地域では農業用水が流域の水利用の大部分を占め、農業水利システムを通じた水循 環は、地域の水環境の基盤を形成している。健全な水循環の回復や水環境保全が大きな施 策課題となっている今日、水環境に果たす農業水利システムの役割を適切に位置付けるこ とが重要となっている。本研究は、水源域から圃場レベルまで種々の場の農業水利システ ムと水域の水質環境の関わりを明らかにするとともに、農業水利システムを通じた水質環 境管理の方法を提示することを目的としている。得られた結果の概要は下記の通りである。

1

.農業用ため池・ダムの水質環境管理

  

全国のため池の水理諸元及び土地利用、農業、気象等の集水域特性とため池水質との関 係の検討では、大きな山林面積率や深い水深は、ため池の水質濃度を抑制する要因となる こと、 畑地面積率の増加に伴い全窒素濃度が高くなること、集水域の窒素発生負荷の約

80

%は非点源排出負荷であることなど、集水域特性がため池水質に与える影響要因やその 度合いを明らかにした。また、農業用ダム湖では、ダム湖完成後の水質濃度(全窒素、全 リン)や水温成層を予測し環境管理を行う手法として、フオーレンバイダーモデルや水理 指標が有効であることを示した。

2

.河川から取水する農業水利システムの水質環境管理

  

水田域からの汚濁負荷流出制御・管理のためには、水質成分移動の媒体である排水量の 抑制、特に圃場での栽培管理用水量(強制落水、掛け流し)と無効雨量(圃場に貯留され ない降雨)の抑制が重要となること、強度の反復利用を行っている農業水利システムでは、

反復利用による水管理が水域の水質保全にプラス側に作用する場合が多いこと、などを明 らかにした。そして、水田域では公益性に配慮した水管理を行うことにより、水域の水質 保全に寄与できることを示した。

    ‑ 304

(5)

3

農業用水取水河川の汚濁負荷流出特性と水質環境管理

  

愛知県矢作川を事例とした負荷流出特性の検討を通じて、負荷流出の降雨依存性と大降 雨時の負荷流出集中性を明らかにした。負荷量算定モデルを用いた降雨時負荷量の推定値 と実測値の比較により、モデル係数の決定方法が推定精度に影響を及ぼすこと、モデル係 数は河川の大規模な出水時の負荷流出実態を適切に反映して決定する必要があることを明 らかにした。また、降雨時の負荷流出に及ぽす流量や降雨量以外の水文因子を統計手法に より抽出し、負荷量の推定精度向上に必要な条件を示した。

  

さらに、矢作川の農業水利システムとその下流域の湖沼の水質変動との関係を明らかに し、負荷流出制御に資する水質環境管理の方法を提案した。これと併せ、測定が比較的簡 便な濁度から栄養塩の水質濃度推定方法を提案するとともに、降雨流出成分のうち直接流 出負荷量と基底流出負荷量とを分離することにより、負荷流出対策の検討に必要な情報が 得られることを明らかにした。

4

.農業水利システムを活用した流域の水質環境管理

  

流域の水質環境管理に果たす農業水利システムの役割を明らかにし、農業水利システム の本来機能(農業生産性の向上)と調和した水質環境管理の展開方向、および農業水利シ ステムを活用した水質環境管理を行う際の具体的な手法を提案した。まず、水循環と水域 の水質環境の関わりを評価する方法として、多変量解析(因子分析)が有効であることを 示した。この解析によって、水質変動に及ぼす降雨以外の要因が抽出でき、河川流量など 集水域情報が十分でない水質観測地点で、自然度の高い河川、都市化の進行が水質に影響 している河川、農業水利システムによる水循環が影響している河川など、水質環境の相対 的な比較・評価が可能となった。さらに、農業水利システムと河川を介した物質の動態を 総合的に評価するとともに、各種水質保全施策の選択・評価を可能とする水質管理モデル を提案し、流域の水質環境管理に有効であることを示した。

  

以上のように、本研究は地域環境の保全・創出に果たしている農業水利システムの役割 を明らかにするとともに、流域の水環境保全に寄与する視点から農業水利システムを通じ た水質環境管理の手法を提案したものであり、学術的に高く評価される。これらの手法は、

既に環境保全型の農業水利事業計画立案のために用いられており、今後とも水質保全施策 の展開に広く活用できるものと期待できる。

  

よって審査委員一同は、高橋順二が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有する ものと認めた。

‑ 305

参照

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