博 士 ( 工 学 ) 横 井 浩 史
学 位 論 文 題 名
Theories and Applications on Vibrating Potenial Method
( 振 動 ポ テ ン シ ャ ル 法 に 関 す る 理論 と そ の 応 用 )
学位論文内容の要旨
本 論文は ,場と の相 互作用 を用い た新し い情 報処理 法の構 築を試 みたも のである。周知のごと く 工 学の分 野で一 般的 に用い られて きた情 報処理 法は ,集中 管理方 式と分 散管 理方式 の2っに大 別 される 。すな わち, 前者 の特徴 として は,比 較的容 易に 制御が 可能で あるが,処理装置の故障 な どに弱 く,処 理速度 が装 置の能 カに依 存する などの 欠点 がある 。後者 はこの欠点を補う可能性 を 持ち, 複数の 処理装 置に 対して タスク として の情報 処理 の負荷 分散を 行い,高速処理性,対故 障 性に優 れた処 理が期 待さ れるう え,現 在この 分野の 研究 開発が 盛んで ある。今日までに検討さ れ ている 各種分 散管理 方式 では, 各処理 装置を 結線結 合し 相互通 信しつ つ,全体としての情報処 理 を実行 するこ とを前 提と してお り,そ こにお ける各 処理 装置は 個別的 であり,統一的に取り扱 う ことが 困難な ため, 結果 として 拡張性が悪くなる。さらに,すべての処理装置の実際の動きは,
手 続 き 的 記 述 に 依 存 し て い て 結 果 と し て 自 律 性 , 柔 軟 性 に 欠 け る 問 題 が 指 摘 で き る 。 一 方,自 然界に は, これら の結線 ・通信 に基 づく情 報処理 法以外 に,光 ,音,臭いなどの伝播 す る情報 を利用 した処 理法 が広く 用いら れてい る。一 般に 動物だ けでな く生命体すべての個体間 の 情報伝 達はこ の方法 によ ってい ること が知ら れてい る。 この方 法は゛ 場。と呼ばれる特殊な仲 介 媒体を 必要と するが ,多 種多様 ナょ情報を不特定多数の個体ヘ伝達できるという利点を備えてい る ことが 予想さ れる。 さら に,個 体群の 情報処 理は場 を通 じて相 互に情 報交換することにより,
自 己組織 的に行 われて おり ,そこ では, 各個体 群を管 理す る機能 を持っ ような特別な個体が存在 し ない場 合でも ,高度 な情 報処理 を実現 してい る場合 が多 い。こ のよう な自然界における自己組 織 的情報 処理方 式は, 工学 におけ る分散 管理の 研究に 対し て有効 な情報 処理機構を提供する可能 性 を 持 っ も のと 考 え る 。 自 己組 織 的 現 象 その も の の モ デル はHermann Hakenの研 究 に お け る 自 己 体 制 化, 物 質 の 原 子レ ベ ル の 性 質と 物 質 問 の相 互作用 を方程 式で記 述し たSchrodinger方 程 式,あ るいは ,これ を拡 張した 有機軌 道論は タンパ ク質 などの 生体内 物質の性質を表現する有
効な数理モデルなどが知られている。しかし,これらは特に情報処理機構の構築を意図したもの ではないゆえ,如何にして自然界における自己組織的情報処理方式を工学的に実現するかは未知 の課題である。このような認識の下で,本研究は,本課題へのーっのアプ口ーチとして,場の概 念を導入した情報処理法の理論構築とその応用を模索する。ここで提案する情報処理法は,基本 的には並列分散処理法であり,それは,次の要件を満たすような状態空間からなるものと仮定す る。
a)各種情報処理装置間の非緒線性:情報処理装置群間の双方向または一方向通信をも合む結 線による情報伝達方式を前提条件としないような情報処理機構。
b)情報処理モデル表現の統一性:処理対象モデルは一様に統一的に数式表現されるもののみ を扱う。
c)各情報処理装置挙動の自律性:情報処理の場に設定された因果律に従って,各情報処理装 置 は 自 律 的 に 、 全 体 と し て は 並 列 分 散 的 に 問 題 解 決 に 向 か う 挙 動 を 示 す 。 本論 文はこれらの要件a)b)c)を満たすような情報処理モデルとその応用に関するもので あり,3章から構成されている。
第一章において,まず必要となる情報処理装置,場,場を通じた複数情報処理装置間の情報伝 播機構等を定義することにより理論構築を行う。ここで展開する情報処理構造ではすべての情報 処理装置への情報の入出カは各装置と情報処理の場との相互作用によって媒介されるものである ため,情報処理の場を明示することが要求される。ここではこの場を2っに分けて設定する。す なわち,全ての装置の物理的存在が認識される場,いわゆる全体の場および,個々の情報処理装 置の張る場を考える。特に,全体の場は,情報の媒体であり,複数の情報が同時に伝播する場合 を考慮し,重ね合わせの可能な調和振動(個々の情報処理装置の張る場)によって構成されるも のであるとして振動場と呼ばれる。各情報処理装置は処理すべき対象問題に固有に設定された対 象問題表現形式にしたがって自律的に動作するものとする。また空間的相互作用能カを損なわな いで情報の入出カを可能にすることを目的として,それぞれの処理装置は装置に固有の場を持ち,
この場を通して全体の場と相互作用をするようにする。以降ではこれら処理装置は便宜上ユニッ トと呼ばれる。
伝達を前提としない伝播にカ点を置いた場における情報は,複数の情報が重畳された状態で同 時に存在する。これを統一的に演算処理することを可能とすることを目的として,情報を空間的
によっ て情 報の伝 播,装 置への 入出カ は統 一表現 され, 各ユニ ット は所定 の演算 によって,各ユ ニット 座標 上にお ける場 の状態 を観測 する ことが できる 。すな わち ,ユニ ット間 ,ユニットと場 の 相互 作 用 は 全て2者相 互作用 で置き 換えら れるこ とに なり, 情報処 理シス テム として 完全な 分 散管理 方式 が構成 される 。そこ で,目 的と する情 報処理 の一方 法と して, これら 情報処理装置,
場,場 を通 じた複 数情報 処理装 置間の 情報 伝播機 構を統 一的に 記述 するこ とによ り,ここで提案 する振 動ポ テンシ ャル法 が構築 される 。
第二 章では 本方法 の自己 組織 的性質 を示す ために ,生体 /生 体群の 基本的 機能を 振動場を媒介 した情 報交 換によ ってモ デル化 する試 みに っいて 記述し ている 。そ こでは ,個々 の生体を情報処 理装置 と見 なして ,次の ような 機能が シミ ュレー トされ ている 。生 体間の 情報交 換を通じた機能 分担, 生体 近傍の 場の状 態を情 報とし て受 け取る ことに より進 むべ き方向 を決定 する機能,生体 近傍の 場の 状態に 依存し て増殖 の可否 を決 定する 機能な どを対 象と した, これら 本方法によって 表現さ れた 機能は 情報処 理装置 群が周 囲の 振動場 の状態 に依存 した ある安 定状態 に到達する傾向 を示し た。 すナょ わち振 動場の 状態を 問題 空間であると捉えるならば,安定状態に到達する傾向は 問題空 間に おける 探索的 挙動で あると 見な すこと ができ る。ま た, 本方法 がこれ ら生体の多様な 機 能 を 実 現 可 能 で あ る こ と は , 問 題 解 決 機 と し て の 有 効 性 を 示 唆 す る も の で あ る 。 第三 章では ,本方 法を工 学的 諸問題 解決に 応用す る方法 と問 題解決 機とし ての能 カにっいて,
ここで は展 開した 緒理論 の有用 性,正 当性 を評価 するた めに, 種々 の工学 的応用 問題を対象とし て 計算 機 数 値 実 験を 試 み る 。 具体 問 題 と し て は巡 回 セ ー ル スマ ン 問 題 , ジョ ブ ショ ップス ケ ジ ュー リ ン グ 問 題, 空 間 配 置 問題 , 把持問 題,積 木問 題,ギ ヤーボ ックス 設計 問題, リンク 機 構設計 問題 にそれ ぞれア プ口ー チした 。こ の新し い情報 処理法 で処 理され るべき 問題は物理的相 互作用 と情 報処理 を同時 並列的 に処理 する ことが要求されるようナょ問題であり,対象とする問題 の表現 形式 は一様 に統一 的な全 領域関 数に より問 題の持 つ制約 条件 式を振 動場上 で表現するもの である 。最 後にこ れら問 題解決 の過程 を調 べるこ とによ って, ユニ ットの 情報伝 達,情報処理な どの相 互作 用によ り振動 場上の すべて のユ ニリト の局所 安定状 態を 探索す ること によってプログ ラムレ ス( 自律的 )に問 題解決 がなさ れる ことを 示した 。すな わち ,従来 の結線 情報処理を基本 とする 情報 処理法 とは異 なり, 新しく 場と いう媒 体を通 じて, 振動 により 情報処 理を実行できう る理論 の正 当性と 有用性 を明ら かにし た。
学位論文審査の要旨
主査 教授 嘉数侑昇 副査 教授 池田正幸 副査 教授.島 公侑 副査 教授 山田 元
並列情報処理は,その高速処理性,対故障性に優れた情報処理の可能性により,この実現に向 けて多くの研究が進められている。しかしながら,今日までに検討されている方式では,各処理 装置が結線結合し相互通信しっつ,全体として情報処理を実行することを前提としており,そこ 5ニおける各処理装置は個別的であり,統一的に取り扱うことが困難なため,結果として拡張性が 悪くなり,すべての処理装置の実際の動きは,手続き的記述に依存していて結果として自立性,
柔軟性に欠けることが指摘されている。本論文は,これらの問題に対するーっのアプ口ーチを目 的として,場の概念を導入した情報処理法の理論構築とその応用を行ったものであり,3章から 構成されている。
第一章において,まず必要となる情報処理装置,場,場を通じた複数情報処理装置間の情報伝 播機構等を定義することにより理論構築が行われている。ここで展開している情報処理構造では すべての情報処理装置への情報の入出カは各装置と情報処理の場との相互作用によって媒介され るものであるため,情報処理の場を明示することが要求される。それゆえ2っの場が設定される。
すなわち,全ての装置の物理的存在が認識される場,いわゆる全体の場および,個々の情報処理 装置の張る場である。特に,全体の場は,情報の媒体であり,複数の情報が同時に伝播する場合 を考慮し,重ね合わせの可能な調和振動によって構成されている(振動場)。また,各情報処理 装置(ユニット)は処理すべき対象問題に固有に設定された対象問題表現形式にしたがって自律 的に動作するものとしている。伝達を前提としない伝播にカ点を場における情報は,複数の情報 が重畳された状態で同時に存在するので,これを統一的に演算処理することを可能とすることを 目的として,情報を空間的広がりをもつ強度分布(ポテンシャル),その伝播媒介機構を波動と し,その表現に必要とされる座標系を各々のユニットに対して固定としている。これにより,例 えば振動場上の波動の相互干渉によって情報の伝播,装置への入出カは統一表現され,各ユニツ
られ ること により ,情 報処理 システ ムとして完全ナょ分散管理方式が構成される。これら情報処理 装置 ,場, 場を通 じた 複数情 報処理 装置間 の情報 伝播 機構を 統一的 に記述 する ことにより,ここ で提 案され る振動 ポテ ンシャ ル法が 構築さ れてい る。
第二 章では 本方 法の自 己組織 的性質 を示 すこと を目的 として ,生体 /生 体群の基本的機能を振 動場 を媒介 した情 報交 換によ ってモ デル化 する試 みに っいて 記述し ている 。そ こでは,個々の生 体を 情報処 理装置 と見 なして ,生体 間の情 報交換 を通 じた機 能分担 ,ある いは 人工虫の挙動模擬 実験 など人 工生命 問題 への適 用を試 みその 有用性 を検 証して いる。 さらに ,実 験結果によるとこ れら 本方法 によっ て表 現され た機能 は情報 処理装 置群 が周囲 の振動 場の状 態に 依存したある安定 状態 に到達 する傾 向を 示して いる。 すなわち振動場の状態を問題空間であるとして捉えるならぱ,
安定 状態に 到達す る傾 向は問 題空間 におけ る探索 的挙 動であ ると見 なすこ とが できる。また,本 方法 がこれ ら生体 の多 様な機 能を実 現可能 である こと は,問 題解決 機とし ての 有効性を示唆する もの である 。
第三 章では ,本 方法を 工学的 諸問題 解決 に応用 する方 法と問 題解決 機と しての能カにっいて,
展開 した諸 理論の 有用 性,正 当性を 評価す るため に, 種々の 工学的 応用問 題を 対象として計算機 数 値 実験 が 試 み ら れて い る 。 具 体 問題 と し てTSP, スケジ ュー リング 問題, 複数移 動ロボ ット 軌道 計画, 機構設 計問 題など にそれ ぞれア プ口一 チが なされ た。こ の新し い情 報処理法で処理さ れる べき問 題は物 理的 相互作 用と情 報処理 を同時 並列 的に処 理する ことが 要求 されるような問題 であ り,対 象とす る問 題の表 現形式 は一様 に統一 的な 全域的 関数に より問 題の 持つ制約条件式を 振動 場上で 表現す るも のであ る。最 後にこ れら問 題解 決の過 程を考 察する こと により,ユニット の情 報伝達 ,情報 処理 などの 相互作 用から振動場上のすべてのュニット,ユニットの情報伝達,情 報処 理など の相互 作用 から振 動場上 のすべてのユニットの局所的安定状態を探索することによルプ 口 グ ラ ム レ ス ( 自 律 的 ) に 問 題 解 決 が な さ れ る こ と が 明 ら か に さ れ て い る 。 これ を要す るに 著者は ,従来 の結線 情報 処理を 基本と する情 報処理 法と は別に,新しく場とい う媒 体を通 じて, 振動 により 自律分 散的情 報処理 を実 行可能 な理論 を提案 し, 本手法により物理 的相 互作用 と,情 報処 理を同 時並列 的に実行する・ことが要求されるような問題の安定解を求める 技術 が確立 され, 結果 しとて 統一的 かっ自 律的に 問題 解決が 図れる ような 情報 処理機構の構築可 能性 を提案 ・実証 され ていて ,精密 工学,ならびに情報工学の進歩に寄与するところが大である。
よ っ て , 著 者 は , 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。