博 士 ( 工 学 ) 則 永 行 庸
学位論文題名
Drying Induced Change in rvIolecular Interaction between Coal and Water
(乾燥による石灰と水の分子相互作用の変化)
学位論文内容の要旨
石炭の有機質は炭素,水素,酸素,硫黄および窒素の五元素から成り,疎水 性の炭化水素骨格を有する.炭素含有率が65〜70%の褐炭は,石炭資源可採埋 蔵量の約23%を占め,露天堀ができるので安価であり,硫黄や窒素の含有量が 少ないなどという長所をもっが,含水率が湿炭基準で30‑‑‑70010と高く,利用す るには事前乾燥が不可欠であるという短所をもつ.さらに,乾燥の操作や深度 によってはガス化,液化などの反応性が低下することが知られている.既往の 研究では,石炭中では水分は細孔に凝縮したり,酸素を含む官能基と水素結合 した状態で存在するので,反応性の低下は乾燥中含水率の低下とともに細孔の 崩壊や含酸素官能基同士の水素結合形成などが起こって物理構造が変化するこ とに起因すると考えられている.しかしながら,このような結果は,乾燥前後 の石炭の溶剤による膨潤特性や反応性を定性的に比較して得た推定に基づくも のであり,乾燥による物理構造変化を定量的に直接観測して得たものではない,
そこで,本研究では含有水の凝固特性から含有水形態を,脱水と水再吸着特性 から細孔分布を解析すると同時に,石炭中の易動性水素量から石炭の分子運動 性の乾燥による変化を検討した.
本論文は,以上の研究成果を纏めたものである.6章から構成されている.
第1章 で は , 本 研 究 の 背 景 , 目 的 な ら び に 構 成 に つ い て 述 べ た . 第2章では,褐炭モデル分子の立体構造の乾燥による変化を,計算機支援分 子設計法によルシミュレーションした結果について述べた.シミュレーション では,まず元素分析と13C̲NMRによる化学構造分析結果に基づぃてモデル分子 を構築し,含水率測定値とほぼ同量の水分子を周囲に配置した.っぎに,水分 子数を順次減少させることにより乾燥過程をシミュレーションし,各含水率に おける最安定構造を分子力学および分子動力学に基づいて決定し,モデル分子 の水分子に対する排除体積と非共有結合性結合工ネルギーを算出した.その結 果,脱水率が80%に達するとこれらが急激に減少し,立体構造が安定化するこ とが明らかとなった.さらに,この安定化には水素結合に起因する相互作用が 最も寄与することを明らかにした.これらのシミュレーション結果は,以降の
章で述ぺる実験的研究における操作指針を与えた.
第3章では,褐炭を室温から123Kまで冷却したときの含有水の凝固特性を,
示差走査熱量測定法および ̄H‑NMR法により測定し,水形態を同定,定量した 結果を述べた,測定の結果,まず含有水は通常のバルク水と同じ凝固点と凝固 熱を有する自由水,230K近傍で凝固する結合水および123Kでも凝固しない不 凍水に分類できることを明らかにした.同時に,これらの水の上記両法による 定量結果は良く一致したので,測定法が妥当であることも確認できた,自由水 は石炭と相互作用をもたない水,結合水は石炭細孔に凝縮した水であるが,さ らに不凍水は,酸素および窒素含有率が高いほど量が多く,酸素あるいは窒素 原子当りの分子数は1〜2個であるので,水素結合を介して石炭中に分子スケー ルで分散する水と推定した.
第4章では,脱水と水再吸着過程における細孔構造の変化を,含有水の凝固 特性に基づいて解析した結果を述べた.実験では,含水率の異なる石炭に過剰 の水を加え て膨潤させ ,含有水の凝固を1H‑ NMR法により室温から170Kまで の温度範囲で観測し,得られたシグナルから未凍水量と温度の関係をガウス関 数で近似し て含有水の 凝固点分布 を求めた. その結果,凝固点分布曲線は 230K付近でピークをもつこと,ピークは含水率の低下とともに低温側にシフ トすることが明らかとなった,そこで,凝固点分布をGibbs‑Thompson式に基 づいて解析し,細孔径分布を推算した.推算結果から,不凍水の脱離により細 孔容積は不可逆的に減少し,細孔容積の減少には細孔径が約2nmの細孔の収縮 あるいは崩壊が寄与することが示唆された.
第5章では,乾燥に伴う分子運動性の変化を ̄H‑ NMR法による緩和特性に基 づいて評価した結果を述ぺた.すなわち,ソリッドェコー法により測定した自 由誘導減衰曲線を解析し,易動性水素分率の割合を求めた.その結果,易動性 水素は石炭含有水ぱかりでなく,マトリックス中にも含まれることを見出した.
さらに,後者の水素中の易動性水素濃度は不凍水の減少に伴い減少すること,
すなわち,不凍水の脱離により石炭マトリックス中の易動性水素が不動性水素 に転換すること,また水酸基を重水蒸気の吸脱着により選択的に重水素化した 試料を用いた実験から,易動性水素が水酸基の水素であることを明らかにした.
第6章では,第2章から5章までの結果を総括した.
以上,本研究は,脱水に伴う石炭と水の間の分子相互作用の変化をモデル分 子に関する計算機シミュレーションにより推定し,実験により細孔構造ならび に分子運動性を定量的に評価して,これらを含有水の形態との関係を明らかに したもので,その成果は石炭科学の分野に新たな一般化知見を与えるものであ る.
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
千 葉 忠 俊 伊 藤 博 徳 服 部 英 林 潤一郎
学 位 論文 題名
Dry.ing Induced Change in Molecular Interaction between Coal and Water
( 乾 燥 に よ る 石 灰 と 水 の 分 子 相 互 作 用 の 変 化 )
石 炭 の 有 機 質 は 炭 素 , 水 素 , 酸 素 , 硫 黄 お よ び 窒 素 の 五 元 素 か ら 成 り , 疎 水 性 の 炭 化 水 素 骨 格 を 有 す る . 炭 素 含 有 率 が65〜70%の 褐 炭 は , 石 炭 資 源 可 採埋 蔵量 の約23%を 占め , 露 天 堀 が で き る の で 安 価 で あ り , 硫 黄 や 窒 素 の 含 有 量 が 少 な い な どと いう 長所 を持 っが , 含 水 率 が 湿 炭 基 準 で30〜70%と 高 く , 利 用 す る に は 事 前 乾 燥 が 不 可 欠 で あ る と い う 短 所 を 持 つ . さ ら に , 乾 燥 の 操 作 や 程 度 に よ っ て は ガ ス 化 , 液 化 な ど の 反 応 性 が 低 下 す る こ と が 知 ら れ て い る . こ の 反 応 性 の 低 下 は , こ れ ま で , 水 分 が 細 孔 に 凝 縮 し た り , 酸 素 を 合 む 官 能 基 と 水 素 結 合 し た 状 態 で 存 在 す る の で , 乾 燥 中 に 細 孔 の 崩 壊 や 含 酸 素 官 能 基 同 士 の 水 素 結 合 形 成 な ど が 起 こ っ て 物 理 構 造 が 変 化 す る こ と に 起 因 す る と さ れ て い る . し か し な が ら , こ の よ う な 結 果 は , 乾 燥 前 後 の 石 炭 の 溶 剤 に よ る 膨 潤 特 性 や 反 応 性 を 定 性 的 に 比 較 し て 得 た 推 定 に 基 づ く も の で あ り , 乾 燥 に よ る 物 理 構 造 変 化 を 定 量 的 に 直 接 観 測 し て 得 た 結 果 で は な い . 本 研 究 は , 含 有 水 の 凝 固 特 性 か ら 含 有 水 形 態 を , ま た 脱 水 と 水 の 再 吸 着 特 性 か ら 細 孔 分 布 を 解 析 す る と 同 時 に , 乾 燥 に よ る 易 動 性 水 素 量 の 変 化 か ら 分 子 運 動 性 の 変 化 を 定 量 的 に 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 一 連 の 基 礎 研 究 成 果 を 纏 め た も の で , そ の 主 要 な 成 果 は っ ぎ の 点 に 要 約 さ れ る ・
@ 含 有 水 は , 石 炭 と の 相 互 作 用 を 持 た ず , 通 常 の バ ル ク 水 と 同 じ 凝 固 点 と 凝 固 熱 を 有 す る 自 由 水 , 細 孔 に 凝 縮 し ,230K近 傍 で 凝 固 す る 結 合 水 お よ ぴ 酸 素 あ る い は 窒 素 と 水 素 結 合 を 介 し て 石 炭 中 に 分 子 ス ケ ー ル で 分 散 し ,123Kで も 凝 固 し な い 不 凍 水 に 分 類 で き る .
◎ 細 孔 に 凝 縮 し た 含 有 水 の 凝 固 点 分 布 曲 線 は230K付 近 で ピ ー ク を 持 ち , ビ ー ク は 含 水
率とともに低温側にシフトする.凝固点分布曲線をGibbs―Thompson式により解析して 求めた細孔容積は,不凍水の脱離にとともに不可逆的に減少し,この細孔容積の減少 には主に半径が約2nmの細孔の収縮あるいは崩壊が寄与する.
◎易動性水素は含有水ばかりでなく,褐炭マトリックス中にも含まれ,後者に含まれ る全水素中の易動性水素の割合は不凍水の減少に伴い減少する.すなわち,不凍水の 脱離に伴って易動性水素が不動性水素に転換するが,このような易動性水素は水酸基 の水素である.・
これを要するに,著者は,石炭と水の間の分子相互作用の脱水に伴う変化を,細孔 構造ならびに分子運動性の変化として定量的に評価し,これらと含有水形態との関係 を初めて明らかにしたもので,その成果は石炭化学の発展に貢献するところ大なるも のがある.
よって著者は,北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める.