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‘学 位論文内 容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 地球 環 境科 学)近 本喜光

    

学位論文題名

    Role of Moisture Field

in the Large

Scale SurfaCeHeatEXChangeS     

(大規模な海面熱交換に関わる水蒸気場の役割)

学 位論文内 容の要旨

  熱帯太平洋で卓 越するエルニーニヨ・南方振動(ENSO)は太平洋域だけでなく、熱帯全域 における対流圏気温構造にも影響することが知られている.このような対流圏気温の変化は降 水活動や大気水蒸 気場の変化をもたらし、大気下層における水蒸気場の変化を通して海面 水温変動を引き起こすと考えられる.しかしながら観測に基づく研究では海面付近における水 蒸気量の局所的な 平衡を仮定しており、この大規模な大気循環場の変化に伴う水蒸気量の 変化が海面の潜熱放出量に及ばす影響については詳しく吟味されてこなかった.そこで本研 究では観測データに基づく解析から、潜熱放出量の変化を表すバルク式を線形化することで 潜熱変化を風速偏 差に依存する項と大気海洋間における比湿差偏差に依存する項との和で 近似し、ENSOに伴 う(1)北部熱帯大西洋域、(2)南部熱帯大西洋域、(3)南太平洋域にお ける海面水温偏差 の形成に対する大気海洋間における比湿差偏差の役割について調べた.

  北半球冬季にお けるENSOの成熟期において、東部熱帯太平洋で正(負)の海面水温偏 差が現れた後、北部熱帯大西洋ではその後の2月にカリブ海域およびアフリカ西岸域で顕著 な正(負)の海面水温偏差が現れる.中でもカリブ海におけるこの海面水温偏差の形成には1 月の潜熱放出量の 変化が主要な要因であった.カリブ海における潜熱放出量の変化を表す バルク式を線形化 した解析結果はこの潜熱放出量の変化に対して海上風速偏差の寄与だけ でなく、大気海洋間における比湿差偏差の寄与も十分に大きいことを示していた.特にENSO の暖かいイベント 時において1月の潜熱放出量 偏差のうち64%を大気海洋間における比湿 差の変化が説明し ていた.この大気海洋間における比湿差偏差は海面水温偏差が小さいた めに、海面直上の 大気比湿偏差のみによって形成される.この大気比湿偏差は対流圏の平 均気温と高い正相 関を示していた.このことは、カリブ海における大気比湿偏差の増加が ENSOの暖かいイベントに伴う熱帯全域における対流圏気温の増加と関連することを示唆して bヽる.

  北半球冬季にENSOが成熟期を迎えると、その後の春季における熱帯大西洋の海面水温 偏差は赤道より北側で有意なシグナルを持っものの南側では振幅が小さいままであるといっ た赤道を挾んだ南北非対称構造を示した.このときの潜熱放出量の偏差もまた海面水温偏差 構造と同様に、赤道を挟んだ南北非対称構造を示していた.潜熱放出量偏差のバルク式を線

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形化した解析は、風速偏差の寄与が赤道を挟んだ北部と南部で逆符号かつ同程度の大きさ をもっといった南北反対称構造を示した.一方、大気海洋間における比湿差偏差の寄与は赤 道の南側で風速偏差の寄与に対して約3分の2程度の大きさを打ち消していた,これら2成分 の和の結 果とし て、潜熱 放出量の偏差と海面水温偏差はENSOに対して赤道を挟んだ南北 非対称構造を示す.この結果は南部熱帯大西洋の潜熱変動においても風速偏差だけでなく 大気海洋 間にお ける比湿 差偏差 もまた重 要な役割 を果た している ことを 示している.

  ENSOの発達に伴い、海面水温は赤道太平洋上で正(負)偏差、その周りで負(正)偏差 が現れた .この 負(正) の海面水温偏差は特に南太平洋で赤道から南緯40度付近までの 広範囲に わたり 潜熱放出 量の変化によって形成されている.潜熱放出量の変化を表すバ ルク式を線形化した解析結果はこの潜熱放出量の変化に対して南緯20度より北側では海上 風速偏差 の寄与 が、南緯20度より南側では大気海洋間における比湿差偏差の寄与が支配 項となることを示した.南緯20度以南における比湿差偏差は大気の子午面循環の強さと関係 しており、上昇流(下降流)偏差域で大気下層が湿潤(乾燥)化していた.これらの観測事実は ハドレー循環の変化が大気下層の比湿偏差をもたらし、大気海洋間における比湿差偏差を通 し て 南 太 平 洋 に お け る 海 面 水 温 偏 差 を 形 成 し て い る こ と を 示 唆 し て い る .   熱帯域で は、海 面水温変 動が大気海洋間における比湿差偏差を通して大気下層の比湿 変動を引き起こすと一般的に考えられており、海洋から大気への影響として理解されていた.

しかしながら、本研究では大気下層の比湿変動がENSOの遠隔作用によって引き起こされる と、それによって大気海洋間における比湿差偏差をもたらし、さらには海面水温偏差の形成に 寄与する場合もありうることを示してきた.海面の熱交換過程において大気下層の水蒸気分 布の変動 が潜熱 放出量に 大きく寄与することを示した本研究は,大気中における大規模 な水循環 過程の 変化が海 面水温偏差を形成し,その形成された海面水温偏差が今度は大 気のカ学 場や熱 力学場の 変化を 引き起こ すことで 新たな 大規模水 循環過 程の変化をも たらすフイードバック過程の存在を示唆している.

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学位論文審査の要旨

主査

  

助教授

  

谷本陽一 副査

  

教授

  

山崎孝治 副査

  

教授

  

藤吉康志 副査

  

助教授

  

渡部雅浩

副査

  

講師

  

植田宏昭(筑波大学生命環境科学

    

研究科)

    

学位論文題名

    Role of Moisture Field

in the Large

Scale SurfaCeHeatEXChangeS     

(大規模な海面熱交換に関わる水蒸気場の役割)

  熱帯太平洋で卓越するエルニーニョ・南方振動(ENSO)は太平洋域だけでなく、熱帯全 域における対流圏気温構造にも影響することが知られている.このような対流圏気温の変 化は大気水蒸気場の変化をもたらし、.大気下層における水蒸気場の変化を通して海面水温 変動を引き起こすと考えられる.しかしながら観測に基づくこれまでの研究では海面付近 における水蒸気量の局所的な平衡を仮定しており、この大規模な大気循環場の変化に伴う 水蒸気量の変化が海面の潜熱放出量に及ばす影響にっいては詳しく吟味されてこなかった・

そこで申請者は観測データに基づく解析から、潜熟放出量偏差を表すバルク式を線形化す ることで潜熱偏差を風速偏差に依存する項と大気海洋間における比湿差偏差に依存する項 との和で近似し、ENSOに伴う(1)北部熱帯大西洋域、(2)南部熱帯大西洋域、(3)亜 熱帯太平洋域における海面水温偏差の形成に対する比湿差偏差の役割について調べた.

    北半球冬季におけるENSOの成熟期に伴い東部熱帯太平洋で正(負)の海面水温偏差が 現れた後、北部熱帯大西洋ではその後の2月にカリブ海域およびアフリカ西岸域で顕著な 正(負)の海面水温偏差が現れる.中でもカリブ海におけるこの海面水温偏差の形成には 1月の潜熱放出量偏差が主要な要因であった,カリブ海における潜熱放出量偏差を表すバ ルク式を線形化した解析結果はこの潜熱放出量の変化に対して海上風速偏差の寄与だけで なく、大気海洋間における比湿差偏差の寄与も十分に大きいことを示した.この比湿差偏 差は海面水温偏差が小さいために、海面直上の大気比湿偏差のみによって形成される,こ の大気比湿偏差は対流圏の平均気温と高い正相関を示した.このことは、カリブ海におけ る大気比湿偏差の増加がENSOの暖かいイベントに伴う熱帯全域における対流圏気温の増 加と関連することを示唆する.

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    北 半球 冬季 にENSOが 成熟期 を迎 える と、 その 後の 春季 にお ける熱帯大西洋の海面水温 偏 差お よび 潜熱 放出 量偏 差は赤 道よ り北 側で 有意 なシ グナ ルを 持っものの南側では振幅が 小 さい まま であ ると いっ た赤道 を挟 んだ 南北 非対 称構 造を 示し た.潜熱放出量偏差のバル ク 式を 線形 化し た解 析は 、風速 偏差 の寄 与が 赤道 を挟 んだ 北部 と南部で逆符号かつ同程度 の 大 き さを もっ もの の、 比湿 差偏 差の 寄与 は赤 道の南 側で 風速 偏差 の寄 与に 対し て約3分 の2程 度 の 大 きさ を 打 ち 消 し て い る こ とを 示し た.こ れら2成 分の 和の 結果 として 、潜 熱 放 出量 の偏 差と 海面 水温 偏差はENSOに対 して 赤道 を挾 んだ 南北 非対称構造を示す,この結 果 は南 部熱 帯大 西洋 の潜 熱変動 にお いて も風 速偏 差だ けで なく 比湿差偏差もまた重要な役 割を果たしていることを示している.

  ENSOが成 熟期 を迎 える 前の北 半球 春季 から 秋季 にか けて 、海 面水温は赤道太平洋上で正

(負)偏差、その周りの亜熱帯域で負(正)偏差が現れた.この太平洋亜熱帯域における負(正)

の 海 面 水 温 偏 差 は 北 半 球 側 で はENSOが成 熟 期 を 迎 え る1年 前 の12月か ら2月 に か け て 、 南 半 球 側 で は そ の 後 の2月 か ら4月 にか けて 形成 され てい た, これ らの 海面 水温偏 差の 形 成 に対 し、 潜熱 放出 量偏 差が主 要な 要因 であ った .潜 熱放 出量 偏差を表すバルク式を線形 化 した 解析 結果 は風 速偏 差だけ でぬ く比 湿差 偏差 の寄 与も 潜熱 放出量の変化に対して重要 と なる こと を示 した .こ れら亜 熱帯 域に おけ る比 湿差 偏差 は大 気の子午面循環の強さと関 係 して おり 、上 昇流 (下 降流) 偏差 域で 大気 下層 が湿 潤( 乾燥 )化していた.これらの観 測 事実 は局 所的 なハ ドレ ー循環 の変 化が 大気 下層 の比 湿偏 差を もたらし、大気海洋間にお け る比 湿差 偏差 を通 して 亜熱帯 太平 洋に おけ る海 面水 温偏 差を 形成していることを示唆し ている.

  熱帯 域で は、 海面 水温 変動が 大気 海洋 間に おけ る比 湿差 偏差 を通して大気下層の比湿変 動 を引 き起 こす と一 般的 に考え られ てお り、 これ は潜 熱放 出を 通した海洋から大気への影 響 とし て理 解さ れて いた .しか しな がら 、申 請者 は、ENSOに伴 う熱帯対流圏全体の変化が 大 気下 層の 比湿 変動 を引 き起こ し、 それ が海 面水 温偏 差の 形成 に寄与することを示した,

海 面の 熱交 換過 程に おい て大気 下層 の水 蒸気 分布 の変 動が 潜熱 放出量に大きく寄与するこ   とを 示した解析結果は,大気中における大規模な水循環過程の変化が海面水温偏差を形成   し, その形成された海面水温偏差が今度は大気のカ学場や熱力学場の変化を引き起こすこ   とで新たな大規模水循環過程の変化をもたらすフイードバック過程の存在を示唆している.

    審 査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、大   学院 課程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)の学位を受け   るのに十分な資格を有するものと判定した。

参照

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