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目次 はじめに 1 章電力自由化とは何か 1 電力自由化とは 2 電力自由化の目的 3 電力自由化の歴史 2 章成功事例と失敗事例から学ぶ海外の電力自由化 1 ドイツの事例 2 成功事例 テキサス州 3 失敗事例 カリフォルニア州 3 章国内の電力自由化の今 1 日本の現状 2 インタビュー 日本に

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大学生と電力自由化

東京都市大学 枝廣研究室

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目次 はじめに 1章 電力自由化とは何か ① 電力自由化とは ② 電力自由化の目的 ③ 電力自由化の歴史 2章 成功事例と失敗事例から学ぶ海外の電力自由化 ① ドイツの事例 ② 成功事例―テキサス州 ③ 失敗事例―カリフォルニア州 3章 国内の電力自由化の今 ① 日本の現状 ② インタビュー「日本における電力自由化の現状をどうとらえているか?」 ③ 大学生アンケート 4章 様々な立場から見る日本の電力自由化―インタビュー調査から ①「電力自由化の定義をどのように考えているか?」 ②「電力自由化のメリット・デメリット(不安点)は何か?」 ③「3.11 が電力自由化に与えた影響は何か?」 ④「学生をターゲットとして見ているか?」 ⑤「これからの日本のエネルギーはどうあるべきか?」 5章 国内の自由化普及に必要なこと ① インタビュー「電力自由化の普及にこれからどのようなことが必要だと思うか?」 ② インタビュー「電力自由化で日本の未来は変えられると思うか?」 おわりに

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はじめに 電力は私たちの生活にとても身近なものであると同時に、必要不可欠なものである。今年 2016 年 4 月から開始された新たな政策である「電力小売り全面自由化」(以下「電力自由 化」と記す)が与えた影響や現状を本書では取り上げていく。また、それを現在の若者に知 ってもらい、将来のエネルギー選択に活かしてほしいと考える。 地球温暖化の進行や化石燃料の有限さから問題視されている火力発電。2011 年に起きた 東日本大震災から 5 年経った現在でも傷跡が多く残る東京電力福島第一原子力発電所の事 故(以下「福島原発事故」と言う)により、多くの危険があると知られた原子力発電所。現 在の日本はこれらの発電方法に多く依存している。だが、電力自由化により、太陽光発電や バイオマス発電などの再生可能エネルギーや FIT 電気といったクリーンなエネルギーの普 及が期待されている。本書では、電力自由化が始まり半年以上経った今、現状はどうなって いるのか。さらに、これからの日本のエネルギーの在り方について調査し、考察を行った。 また、著者である私たちが大学生であるという点から「若者と電力自由化」についても考 察した。現在の若者の生活の中心にあるのは、SNS やインターネットではないだろうか。 とても便利なツールであることは間違いないが、これらによって若者のコミュニケーショ ン能力の低下や人間関係の希薄化が生まれているのではないかという声もある。さらに、直 近の国政選挙での20代の投票率は35%程度となっており、以前よりも回復傾向にある ものの、まだまだ少なく、若者の政治離れの深刻さがうかがえる。 人間関係の希薄化や政治離れの深刻さを考えてみると、若者が意思表示をしなくなって きているのではないだろうか。この問題と、電力自由化の間にはどのような関係があるのだ ろうか。 電力自由化により、自分たちで電力会社を選べるようになった。つまり、もしも国民の大 半が再生可能エネルギー重視の企業を選べば、火力発電や原子力発電は将来的になくなる かもしれない。このように、電力自由化は日本の将来のエネルギー政策に大きな影響を与え ることが考えられる。それだけでなく、国や企業へ直接的な意思表示ができる。地球温暖化 や原発事故などを踏まえると、もはや自分たちで社会を変えていかなければならないので ある。 将来、自分たちがエネルギー・電力会社を選ぶ時が来るであろう。そうなったときのこと を少しばかり考えるきっかけとして、読んでいただければ幸いである。

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第1 章 電力自由化とは何か 電力自由化とは 電力自由化とは一体何なのか。電力自由化が始まる前は、東京電力を始めとした北海道か ら沖縄まで、地域ごとの大手電力会社が独占して電力供給を行っていた。そして、消費者は、 日本政府が規制している電気料金を電力会社に支払い、普段の生活の中で電気を使用する というのが一般的であった。しかし、電力自由化が始まったことで、電力会社を選択できる ようになっただけでなく、一般企業も新電力会社(Power Producer and Supplier の略で PPS)として電気料金プランを提供できるようになった。そのため、今までよりも電気料金 が安くなるプランを契約できたり、新電力会社の提供するサービスを利用できたりと、消費 者の生活に大きなメリットが得られるようになったのである。 以上のことより、今回の電力自由化は、一般家庭や中小商店を意識したものであると言え る。 それでは一体、今回の電力自由化で何がどう変わって、私たちの生活にどのような影響が あるのかを考えてみることにする。 今回の自由化は具体的に、「発電の自由化」、「電力小売り自由化」、「送・配電の自由化」 などと表現することが適切である。 「発電の自由化」とは、従来からある地域の電力会社(一般電気事業者)とは別に、誰も が新電力会社(特定規模電気事業者)になれることであり、これは業者目線からの電力自由 化である。 「電力小売り自由化」とは、消費者がどの電力会社からでも電気を購入できることであり、 これは消費者目線からの電力自由化である。 今回の電力自由化で行われていないのが「発送電分離」である。「発送電分離」という言 葉を聞いたことがあるだろうか。現状では日本の電力会社は、電気をつくる「発電事 業」、電気を送る「送電事業」、そして私たちの家庭や工場などに電気を届ける「配電事 業」の3 つを全て行っている。「発送電分離」とは「発電事業」とそれ以外の事業を分離 することである。今年から電力自由化の制度は始まったものの、送電や配電といった電力 の流通に関する部分は自由化されていない。この分離が実現すると、送電や配電のネット ワークを発電設備から切り離して独立させ、すべての電力事業者が平等に利用できるよう になり、既存の電力会社の地域独占が崩れる。そうなれば、電気料金の価格下降が期待で きるのである。 一連の電力システム改革の最終段階で、この「発送電分離」を実現することが検討されてい る。経済産業省の方針では、2020 年までに法的分離を行うことになっている。

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現在 送配電の分離後 電力自由化の目的 何故、電力自由化が始まったのか。その目的は3つある。 1つ目は高額な電気料金の抑制である。実は、これが電力自由化の最大の目的であると言 われている。海外の電気料金と比べると、日本の電気料金は比較的高い水準にある。多くの

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先進国ではすでに電力自由化が始まっており、日本の電気料金水準を世界と合わせるため にも、日本での電力自由化は重要なことであった。 電力自由化が行われ、新電力会社が参入しやすい環境となったことで、企業同士に競争が 生まれ、電気料金を抑制することができる。また、電力会社以外の事業者が参入し、自社製 品とのセット売りや、ポイント付加などの新しいサービスも生まれた。 これまで、消費者は決められた電力会社からしか電力を買うことができず、値段や発電内 容にこだわることができなかった。しかし、電力自由化により選択肢が増え、消費者がそれ ぞれのライフスタイルや、価値観にあった電力会社の選択ができるようになった。 2 つ目は電力の安定した供給ができることである。福島原発事故のように、発電所が災害 による何らかの被害を受けると電力供給ができなくなる。福島原発事故では、計画停電を行 うことで電力を供給し続けることができたが、電力自由化で多くの事業者が参入したこと で、電力の供給源が集中しなくなり、どんなときでも安定した電力供給が可能になる。 しかし、多くの消費者には、新規参入事業者に切り替えると、電気が止まるのではないか という不安がある。しかし実はその心配は無用だ。なぜなら、電力を家庭に届けるために送 配電網を利用するが、この送配電はこれまで利用していた地域の電力会社だけが政府から 許可されており、新規参入事業者が電力を調達することができなくても送配電を担う電力 会社が補うので、新規参入事業者に切り替えても、電力は確実に届くように定められている のだ。 3 つ目は再生可能エネルギーの普及である。これまで、再生可能エネルギーで作られた電 力は、その地域内でしか利用することはできなかったが、電力自由化によって地域外からも 利用することが可能となったことにより、CO2を排出しない太陽光発電や風力発電を利用 している電力会社を、私たちは別の地域からも選ぶことができるようになった。新規参入事 業者の中にも、再生可能エネルギーの研究に取り組んでいた事業者が多くいるので、今後、 さらに再生可能エネルギーが普及していくと考えられている。また、再生可能エネルギーに よる発電が増えることで電気の地産地消にもつながり、より安定した電力供給ができるよ うになる。 再生可能エネルギーの普及を後押しする取組はそれだけではない。日本は2030 年までに 二酸化炭素を約 80%削減する目標を達成するため、スマートメーターと HEMS が導入さ れた。スマートメーターとは電力使用量だけでなく、電気がどのように使用されているか計 測できる装置であり、HEMS とは、電気を「見える化」するシステムである。これらを電 力会社の切り替え時に設置することで、CO2の排出量が分かりやすくなり、消費者の省エネ 意識を高める効果が期待される。 電力自由化の歴史 日本では、2016 年 4 月から家庭での電力自由化が開始された。 そもそも電力自由化が話題になったのは、まだ記憶に新しい東日本大震災が起こったか

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らである。電力自由化は主に電気事業法の改正を基にして行われている。 家庭以外の電力自由化をみると、1995 年にすでに制度改革が行われている。電気事業法 改正である。この改革により、新規参入事業者が電力会社の送配電網を使って他の電力会 社に送電する「卸託送」の規制も緩和されただけでなく、電力を供給する事業に、独立系 発電事業者(IPS)の参入が可能になり、電力会社が他の電力会社や卸電力事業者以外か らも電気を購入することができるようになった。 その後、1999 年に電気事業法の改正がされた。主な対象となったのは、顧客向けの小売 り電力であり、この結果、特定規模電気事業者(PPS)の新規参入が可能となった。PPS は電力自由化の新たなプレーヤーとして電力供給の仕組みに組み入れられ、売電など実際 のビジネスを活発に行うようになり、安定供給についてもバックアップで担保されるよう になった。 さらに、2003 年の電気事業法改正では、2004 年から 2005 年にかけて小売りの自由化 の範囲が契約(使用)規模50 キロワット以上の高圧部分の顧客に拡大した。これにより 日本の電力販売量の約6 割が自由化対象となった。 そして、電力自由化の最終段階に位置づけられるのは、2013 年から検討されてきた電気 事業制度改革である。東日本大震災と福島原発事故を契機にした日本の電力システム改革 の見直しが2013 年 4 月に閣議決定され、広域系統運用の拡大や小売り・発電の全面自由 化が柱になっている。 また、2015 年を目途に行われるのが「広域的運用推進機関(広域機関)」の設立であ る。これは、一般家庭まで含めた小売りの自由化を前に、全国レベルで電気の需要と供給 を調整するための機関であり、2014 年 8 月、経済産業省資源エネルギー庁が正式に設立 を認可し、2015 年 4 月 1 日に業務が開始された。 そして、2016 年に実行されたのが小売りと発電の全面自由化だ。現在、地域の電力会社 にしか認められていない家庭などへの電力供給が自由化されることで、消費者が自由に電 力会社を選ぶことができるようになった。 このように日本の電力自由化は段階を追って進められ、日本の経済社会に組み込まれて きた。これから2020 年までの間は、まさに電力自由化は最終段階を迎えるであろう。

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第2 章 成功事例と失敗事例から学ぶ海外の電力自由化 ドイツの事例 海外では、日本よりも進んで電力自由化の取り組みが行われている。特に、欧米諸国では 早い時期から電力自由化の取り組みが行われているが、その中でも、電力の先進国と言われ ているのがドイツである。 ドイツでは、1998 年に新しいエネルギー事業法が施行され、電力自由化が実施された。 そして、施行後には 100 社を超える新規参入事業者が生じることとなった。しかし、危機 を感じた既存の大手 4 大事業者の対抗策により、新規参入事業者の倒産が相次いでしまっ た。その結果、ドイツの発電市場における大手4 大事業者のシェアが、電力自由化前の 5 割 から一時期は 8 割を占める事態となり、大手電力会社による寡占化が進行することとなっ た。これでは電力自由化した意味がなく、全くの逆効果である。しかし、最近では、再生可 能エネルギー事業者の増大や、日本の福島原発事故を発端とした脱原子力の影響などによ り、これまでの消費者や事業者の考え方が改められ、2012 年の時点で、4 割台にまで低下 するようになった。 電力の先進国と言われているドイツだが、そのドイツならではの電力事情として、「シュ タットベルケ」というものがある。これは、ドイツ各地において地方自治体が出資する水道・ 交通・ガス・電力事業や、生活インフラの整備・運営を担う小規模のインフラサービス企業 である。この企業は、企業としての利益優先ではなく、地域の要望を最も重視しており、地 域に密着したサービスの提供や地域雇用の創出などを行っている。そのため、地域や消費者 からの高い信頼性と安心感を勝ち取っており、これはあまり他の国にはみられないもので ある。現在、ドイツ国内に電力会社は約900 社存在し、その高い信頼性により、ドイツの電 力小売市場において約20%のシェアを維持している。 電気料金の面で見てみると、電力自由化前と比べて、産業用電気で一時は 2~3 割ほど低 下した。しかし、近年、燃料価格の上昇の影響や再生可能エネルギーへの需要増加に伴う買 い取りコストの増大等により、料金水準は上昇している。EU 統計局資料によると、ドイツ の電気料金水準は未だに EU 内では最も高い部類に位置している。このことについては世 界的にも話題になっている。 現在、ドイツは再生可能エネルギーへの転換の努力を続けており、2022 年までに国内に ある17 基の原子力発電所を全て稼働停止することを決定した。また、省エネルギーの推進 とともに、2025 年までに電力構成の 40~45%を再生可能エネルギーで供給するという目標 を掲げている。 この分野においては、ドイツは世界の最先端であり、まさに「電力の先進国」と言えるで あろう。 成功事例―テキサス州 アメリカ合衆国では、1990 年代に電力自由化が始まった。アメリカ合衆国は連邦制であ

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るため、日本のように全国同時に電力自由化が導入されるわけではない。それゆえ、電力 自由化をうまく運営できた州とそうでない州ができた。 成功したテキサス州では、電力自由化が2002 年に実施された。テキサス州の電力自由 化と言う場合、正確にはテキサス州の面積の75%をカバーしているテキサス電力信頼度協 議会(ERCOT)のエリアにおける小売自由化を指す。この中に大手私営電力5社と公営電力 2社が存在するが、大手私営電力5社が自由化対象である。テキサス州が電力自由化に成 功したポイントは3つあると考えられる。 1つ目は、「送配電分離」である。既存の大手電力会社は発電・送配電・小売りの分割 をした。このことを送配電分離という。従来、発電と送配電設備を所有していた大手電力 会社を発電会社と送配電会社に分離した。電力の小売りの自由化が進む中、送配電事業は 引き続き規制の下に置かれている。大手電力会社の電力シェアを分割することで、新電力 会社の新規参入を促し、競争を促すという狙いがある。これにより競争環境が整ったと言 える。 2つ目は、「価格水準を調節する」ということである。電力自由化によって電気料金が 需要と供給の関係に放り込まれると、電気料金が不安定になるということがある。価格水 準を調整するのは不安定性に効果的な対策である。競争を煽りつつも、電気料金の不安定 性をカバーするというバランスのとれた運用であった。 3つ目は、「規制を導入する」ということである。発電設備や価格においてさまざまな 規制を行い、新規参入企業を増やし電力自由化を行いやすくしていた。 失敗事例―カリフォルニア州 残念ながら失敗に終わってしまう場合も少なくない。そんな中でもっとも大失敗となっ たのがアメリカ合衆国のカリフォルニア州である。 アメリカ合衆国は1990 年代から、今回の日本と同じタイプの電力自由化を実施した。そ れだけでなく、発電コストのかかる再生可能エネルギーの高額での買い取りを義務化する 政策をとっている。これは、州全体で再生可能エネルギーの占めるシェアを上げるためのも ので、環境問題に配慮したものである。さらに、値上げに関しては、州の認可が必要となっ ており、大幅な値上げはできない制度になった。 この政策や制度を見る限りでは、一般家庭にとってデメリットはほとんど無いように思 える。太陽光発電などの再生可能エネルギーの高値での売電も可能であり、大きく電気料金 が値上げされることもないから、メリットばかりに思える。 しかし、この政策・制度は電力会社を苦しめることになった。再生可能エネルギーの買い 取り、さらに原油価格の高騰による発電コストもアップ、それなのに電気料金を値上げでき ない。当然ながら、州内の多くの電力会社が赤字に陥った。2001 年には、カリフォルニア 州最大手の電力会社が破たんし、州内の電力は大きく混乱することになった。これが原因で、

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大規模な停電が起こるなど、大きなトラブルとなった。

停電には至らなかった他の州でも市場の混乱によって、最終的には電気料金が電力自由 化前と比較すると100%近い値上げとなったケースもない。

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第3 章 国内の電力自由化の今 インタビュー「日本における電力自由化の現状をどうとらえているか?」 日本経済新聞のデータによると、今現在の電力の切り替え率は約3%とまだまだ普及が進ん でいないように思われる。 インタビュー調査から読み取れた現状として、「消費者の切り替えが思いのほか少ない。 競争基盤の整備がまだ十分進んでいないのも原因。原子力発電が、強力な参入阻止要因にな っている面もある。しかし、そもそも今現在の電力自由化はまだ途中であり、今後の改革の 進展が重要。また非自由化の時代は連系線(注:電力会社の系統を相互に接続する設備)の 投資不足など電力の安定供給のための投資が不足している面もあったが、改革により安定 供給の観点からもこの点は改善している。」と東京大学の松村教授は話す。 実際に、日本の現状はまだわずかしか進んでいないという考えもあるが、その一方で電力 自由化の切り替えは少しずつではあるものの確実に伸びている。 実際に「今現在2%電力切り替えが進んでいるが、これを早いとみるか遅いとみるかは人 それぞれであり、メディアでは遅いと言われている一面も見られるが、まだ開始してから半 年くらいなのに2%切り替えているというのはなかなかなのではないかと思う。」と一般社 団法人エネルギー情報センターも話している。また、株式会社エネットも「他国と同様、訪 問販売・価格競争が先行してスタートしており、システム/制度の混乱が収まっていない現 状を鑑みれば上出来である。サービスの選択肢といった意味では価格面に留まっており、今 後に期待(AI・ソーラーPPA・グリーン電力・DR・EV)される。」と話す。 また、他の視点として、「今現在、離脱率(既存の電力会社から新しい電力会社にスイッ チした比率のこと)が 3%、電力の卸売取引所で取引されている電力の比率も 3%であり、 この二つの 3%という数字には大きな相関があることが考えられる。」と東京理科大学の橘 川教授は話す。 日本の電力自由化の現状として、切り替え率は2%~3%ではあるものの、まだまだ制度 や環境が整っていないことを配慮すると、なかなか進んでいるのではないだろうか。しかし、 日本は海外と比較してみてもやはり資源に乏しいことから、私たちは自らの意思でエネル ギーを選択できるようになったという現状を生かしきれていない。課題も多いが、電力自由 化の現状としては、まずまずの出来であるということが分かった。 大学生アンケート 現在の大学生はこの電力自由化をどう認識しているのだろうか。 私たちは東京都市大学の世田谷・横浜・等々力の3 キャンパス 120 人の大学生を対象に アンケート調査を行った。 調査の中で、「電力自由化」という言葉自体の認知はかなり高いことが見て取れた。電力 自由化の醍醐味である「電力会社を自由に選ぶことができる」という点でも、認知度は7 割

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近くあったが、「再生可能エネルギーを選択することができる」や「地域の枠を超えて電力 会社を選択できる」といった、選択の内容についての質問では、「知らない」という回答が 急増。やはり電力自由化は、大学生にとって耳にしたことはあるものの、興味を持つまでに は至らないのだろうか。 「家庭や家族で電力自由化について話したことがあるか」という質問では、家庭での認 知・興味について質問をした。「ご家庭やご家族で電力自由化について話したことがあるか」 という質問に対して「話したことがある」と答えた人は全体の約 12%であった。続けて自 由化後、実際に電力会社を変更した人は 1 人。実際に切り替えた人はまだごくわずかであ るものの、家族の間で話題となっている点から、切り替えるという行動につながるための段 階にきている家庭は若干あるようだ。 大学生の電力自由化に対しての考えが顕著に出たのが、これらの問いには、調査対象全員 に電力自由化とは何かを説明した上で回答してもらった「電力自由化は必要だと思うか」 「電力自由化に対するあなたの考え方をお答えください」「もし電力会社を変更するならば 最も重視するものは何ですか」という質問への回答だった。 「電力自由化は必要だと思いますか」という質問に対して、「必要であると思う」と答え た人は全体の約半数、「考えたことがない」と答えた人は3 割近くいた。「電力会社を選ぶ際 に最も重視すること」という質問では、「料金が安くなること」と「ライフスタイルにあっ た料金プランを選べること」の 2 つの項目が全体の 8 割近くを占めた。それに対して「再 生可能エネルギーを選ぶことができる」を選んだ回答者は、3%に満たないくらいとごくわ ずかだが、前項目にあったように、認知度の低さも要因として考えられそうだ。 このアンケート調査全体から、電力自由化の言葉の認知度は高いものの、実際にどのよう なプランがあるのか等の内容に認知は低いことが分かった。電力自由化の中で、選択を求め られるとき、現在の大学生の中では、「価格」が基準となっており、再生可能エネルギーや 地元の電力であるかという基準を持っている人はごくわずかであった。 なお、本調査で用いたアンケート用紙と回答結果は以下の通りである。

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第4 章 様々な立場から見る日本の電力自由化―インタビュー調査から

私たちは電力自由化の現状や今後などについて電力自由化に関わる様々な立場から、学 生団体・電力会社・NGO など計 8 つの団体・個人を挙げ、インタビュー調査を行った。

インタビューには、学生団体「A SEED JAPAN」、教育機関「東京理科大学 橘川武郎教 授」、「東京大学 松村敏弘教授」、再生エネルギー事業企業「株式会社Looop」、「みんな電 力株式会社」、新規参入企業「株式会社エネット」、NGO「FoE JAPAN 吉田明子さん」、 「一般社団法人エネルギー情報センター(EIC) 森正旭さん」からご協力いただいた。 インタビューでは、 1.「電力自由化の定義をどのように考えているか?」 2.「電力自由化のメリット・デメリット(懸念点)は何か?」 3.「3.11 が電力自由化に与えた影響は何か?」 4.「学生をターゲットとして見ているか?」 5.「これからの日本のエネルギーはどうあるべきか?」 などの5 つの質問を中心にお話を伺った。 1.「電力自由化の定義をどのように考えているか?」

まず8 人全員から挙がったのが「自由」というキーワードが挙がった。A SEED JAPAN とFoE JAPAN、松村教授は、「消費者が自分の好きな事業者を自由に選択できる。」と回答 した。これは私たち消費者から見た視点で、電力事業に今までなかった「消費者による自由」 を電力自由化がもたらしたと考えられる。また、橘川教授も同様に、「これまで自由化され ていなかった家庭などが今回の電力自由化により、100%自由化された」と述べている。 これに対し、株式会社Looop とみんな電力株式会社、株式会社エネット、EIC は、「自由 競争できる環境ができ、自由化でより良いサービスや価格を提供することができるように なる。」と回答しており、消費者よりも事業者側の目線で考えていることが分かった。 このことから、今回の電力自由化は、消費者・事業者双方に対して、大きな変化をもたら したと言える。それは、私たち消費者が、自分で使う電気を自分で選ぶことができるように なったことと、電力自由化によって新電力会社の参入が容易になったことで、より自由競争 ができる環境になり、より良い価格やサービスを提供できるようになったということであ る。これこそが電力自由化の概念である考えられる。 2.「電力自由化のメリット・懸念点は何か?」 インタビュー内容を整理すると、電力自由化のメリットとしては、消費者が自由に電力会 社を選択できるようになることで、今までの地域独占状態による電気料金の値上がりに歯 止めがかかり、安さを求める価格競争が起こることによって、施行前よりも安く電力を買う ことが可能となったということが挙げられた。また、いろいろな業種の電力会社が参入でき るようになるので、今まではなかったサービスや新たな着眼点と洞察から、生活を豊かにす

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るサービスがどんどん出てくるといった点も挙げられた。 細かい業種ごとに分けてみると、橘川教授は、「需要家が自由に電力会社を選択できるよ うになること。副次的なメリットは、電力会社の経営が締まること。」などを指摘された。 松村教授は、「大正時代から今に至るまでの長い期間、遠隔地に大電源を設置し、それを消 費地まで大送電線で運ぶというビジネスモデルであったのが、このビジネスモデルにとら われることなく、消費者の近くに分散型電源を置くビジネスモデルもこれと競争できるよ うになった。」と回答した。 今回の電力自由化の関連事業者として、株式会社エネット、株式会社Looop、みんな電力 株式会社の3社の代表者にお伺いしたところ、株式会社エネットは、『サービスを向上させ、 お客様の選択肢を増やす、お客様の選択を通じてサービスがさらに向上する』。株式会社 Looop は、「私たちのような新規参入企業にとって電力市場に参入できるチャンスができ、 新たなビジネスチャンスを得ることが出来たことや、電気を買って消費者に売るという売 り買いのチャンスが出来たこと。」みんな電力株式会社は、「一番は電力市場の大きさと捉え、 今現在の電力市場はおよそ15 兆円あり、そこに参入することにより多くの可能性がある。」 ということをそれぞれ回答した。 また、EIC は、『電力市場で小売りだけでも、18 兆円、約 20 兆円あるのですが、18 兆円 というとGDP で 3%以上、3.5%。日本の一大産業で電力というのは国の政策にも強くかか わっているような、相当経済的にも食い込んでいる。コンビニは10 兆円、そういうコンビ ニ全部の売り上げを合わせてもかなわないし、18 兆円というのは本当に多い市場である』 と回答した。 このように、電力市場は長年独占市場であったのと、膨大な市場ということもあり様々な 可能性が隠れているということを、インタビュー内容から読み解くことが出来た。この電力 市場はこれから先、様々な可能性のある、将来性の明るい点が、電力自由化のメリットとし て挙げられると考えられる。 懸念点についても、同様にインタビューした。 大学教授のような教育関係者は、電力自由化で期待されている電気料金の低価格化は生 じないかもしれないと考えている。その理由として、「自由化ということは、それまでの市 場を市場メカニズムに任せるということを指すが、市場メカニズムの価格は、需要と供給の 関係によって決まるためである。今現在、需要は下がっており問題は起きないが、今後供給 力不足に見舞われてしまうおそれがある。今までの場合、作った電力のコストに利益を上乗 せして料金を決めることができたが、今後はそれが出来なくなった。つまり、電気を作って も売れない可能性が出てくるのである。」と橘川教授は話す。 さらに、新規参入企業の担当者は、切り替え率が低いことと、取引関係も含めて、業界自 体が新しい環境で不慣れな部分があること、福島原発の廃炉の費用を新電力会社が負担し なければならなくなるかもしれないことによるコストの増加を懸念した。また「電力自由化

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を始めると、今まではやらなくても良かったことをやるようになるため、システム上のコス トが発生する」と株式会社エネットは指摘する。さらに、「この業界には小売りガイドライ ンという、電気を売る際のガイドラインが決められており、それを守らないといろいろな指 導を受けたりすることになるが、多くの企業は実際のところ、このガイドラインをすべて完 璧に順守されているわけではない」ことも指摘した。また、「スマートメーターなどの設備 は、どちらにせよ今後設置していくことになるので、コスト増とは思わないが、実際のとこ ろ、電力自由化を契機にスマートメーターを設置が増加したため、そういった意味ではお客 様からみれば、スマートメーターも見かけ上は余計なコストがかかっているように見える かもしれない」と話す。このように消費者側の誤解も解かなければいけないのではないか。 3.「3.11 が電力自由化に与えた影響は何か?」 インタビュー調査から3.11 が与えた影響は、大きく 2 つあると考えられる。 1 つ目は、既存の電力システムの問題点が 3.11 により浮き彫りになったことである。「3.11 以前までは電力業界には競争がなく、まさに地域独占状態だった。最初に、法人向けの電力 自由化が開始されたが、系統があまり開放されなかったことや、電気をA 地点から B 地点 に送るということでさえいろいろな制約があり、新しく参入するという会社はさほど多く なかった。しかし、3.11 以降、あることが起こってしまった。それは、一律の計画停電と、 電力使用制限である。これは、人々への電気使用抑制を促すことが行われた上に、対象エリ アは一定時間全ての電気を落とすということである。各企業が持つ発電施設を利用するシ ステムがなかったことや、他の地域の電力を使用することができなかったため、計画停電せ ざるをえなかった」と株式会社エネットは話す。 しかし、この計画停電によって、多くの人々に大きな問題意識を与えた。「余っている電 力を使えたらよかったのではないか?」、「地域独占の電力システムでいいのか?」というこ とを考えるようになったのである。 2 つ目に FIT(固定価格買取制度)の設立である。 EIC は、「再生可能エネルギーの普及を 考えると、大きく分けてFIT か RTS の 2 つの制度があった。この制度(RTS)は、再生可 能エネルギーの普及において、ある一定のキャップをつけるものである。例えば、東京電力 に対して、太陽光発電を何万キロワット普及しなければならないという義務が課され、太陽 光発電は価格が高い分、普及させなければいけないないというものであった。だが、この制 度はあまり機能しなかった。これに対し、FIT は価格の上下で普及を後押しするという制度 であり、何万キロワットつけなければいけないという義務はないうえに、太陽光の電力を高 く売ることができるという仕組みであるため、これから太陽光発電を設置する人がさらに 増えていく。設置者がどんどん増えてきたことで電力はいろいろな動きが出てきたのであ る。実は、このFIT が注目されることも、3.11 が大きくかかわっている。当時の首相であ った菅直人首相が退任する際、その1 つの条件として FIT を成立させるということを挙げ たのである。そのような背景からFIT が成立した」と話す。

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FIT 自体はすでに 2009 年に太陽光発電の運用が開始されていた。3.11 以前は、地球温暖 化への影響などを最優先に考え、火力発電が問題視されてきてきた。そして、CO2の排出が ほぼない原子力発電から莫大なエネルギーを得るようになった。しかし、福島原発事故によ って、原子力発電の安全性というものに人々が不安を感じるようになったため、地球にやさ しく、安全なエネルギーの普及が目指され、FIT 成立がなされたのである。 これらの動きにより、人々が電力を自由に選べるようになり、各地域によるヘルツの違い などの垣根をなくしていくようなシステムが必要と考えられ、現在の自由化が実現された。 つまり、3.11 というものが電力システムの問題点を明らかにして、人々の行動意識にも大 きな影響を与えた。再生可能エネルギーの発達や電力自由化とは大きなかかわりがあるの である。 4.「学生をターゲットとして見ているか?」 インタビューの結果、全体的に、学生はターゲットとして見られていないことがわかった。 その理由として、株式会社エネットは『学生は電気の使用量が少なく、電力会社を切り替え ても電気料金が安くなりにくい。』と回答した。確かに、多くの学生は実家暮らしであるた め、自らの意思のみで電力会社を選択し、切り替えることは難しい。また、一人暮らしをし ている学生は、自分の意思で電力会社を選択し、切り替えることができるが、一般的な家庭 に比べると電気の使用量が少ないので、電力会社を切り替えても電気料金が安くなりにく い。そのため、学生をターゲットとしていない電力会社がほとんどなのである。 電力自由化のターゲット層は、電気の使用量が多い家庭であり、電気の使用量が多ければ 多いほど、相対的に電気料金は安くなる。つまり、学生だけでなく、電気の使用量が少ない 家庭も、電気料金が安くなるとは限らない。一人暮らしの学生の光熱費は、平均して7000 ~9000 円台と言われているが、実際は家にいる時間も少ないので、この金額より低い場合 が多い。そんな学生に電力会社の切り替えは必要なのだろうか。しかし、多くの事業者は切 り替えの際に、特典やサービスの充実や、電力の供給源を「見える化」して、分かりやすく している。これらに注目することで、自分の納得のできる電力会社を選択し、電気を使うこ とができる。自分で選べるということは、私たち学生にとって意味のあることだと考える。 これからの社会を担う私たち学生が、電力自由化について知るということは大変重要で ある。今後、さらに電力自由化が私たちの生活に広がっていくと思われる。将来、私たち学 生が自立し、社会人として生活を始めるとき、納得のいく電力会社を選択するために、今か ら電力自由化について知り、意識を持つ必要がある。 5.「これからの日本のエネルギーはどうあるべきか?」 想像してみよう。 2020 年の東京オリンピック。

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2050 年、私たちに子どもがいるとき。 自分の生活する将来、自分の子どもが生きる未来。 私たちはエネルギーとどのように付き合っていくべきなのか。 行ったインタビューの中では、再生可能エネルギーの利用が重要であるという意見が多 くみられた。 橘川教授は「原子力依存度を可能な限り下げることと再生可能エネルギーを可能な限り 使っていくことが大切である」と語る。福島原発事故をきっかけに、社会での捉われ方が大 きく変わった原子力発電だが、その後も日本各地で点々と再稼働が目立つなど、まだまだ縁 を切れる将来は遠いように思える。株式会社 Looop 電力は「再生可能エネルギーをもっと 増やしていくべきだと思う。日本には化石燃料の資源がない。省エネする事によって、エネ ルギー自給率を上げていく必要がある」と話す。 日本のエネルギーの在り方、それを決めるのは私たち国民の選択と決断。自分たちの使う エネルギーを自ら選択できる電力自由化によって、私たちは自分の将来を選択することが できる。将来を担う私たち学生の選択によって、近い将来の日本のエネルギーが決められて いくのだ。

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第5 章 国内の自由化普及に必要なこと 第4 章では、電力自由化の定義など、質問項目への回答を紹介した。この第 5 章では、今 後の普及に向けて必要なことに焦点を絞ってインタビュー内容を紹介する。 インタビュー「電力自由化の普及にこれからどのようなことが必要だと思うか?」 電力自由化の普及に必要なこととして、大きく分けて二つの“視点”が挙げられた。 まず1 つ目としては、私たち電力利用者側の視点である。この度の自由化で新たに、携帯 電話会社が参入。家庭の電気と携帯電話・スマートフォンとセット契約することでお得に利 用することができる“セット割”が誕生した。携帯電話会社のテレビ CM でも耳にしたこ とがある人は多いのではないだろうか。「携帯を買い替える時に一緒に買い替えればいいみ たいな消費者が増えてしまってもこれまでの経済構造、つまり大手電力会社による地域独 占状態は変わらない。やはり必要なことは教育。エネルギーに関しても本当の意味での教育 が必要だと思う。あとは自分の住む地域に市民発電はあるのかというところからまずは関 わっていくことも必要なことである。例えば、それぞれの大学に市民発電のマップが置いて あるとか、新しく入学してきた学生がそのマップを見て、「この電力会社にしようみたいに 引っ越してきた学生がその場で電力を学校で選べる仕組みとかあったら面白い」とA SEED JAPAN は話す。 やはり小さい時から学校等を通じて身近にあるものについて関心を寄せ、知っていくこ とが大切なのではないだろうか。仮に学校以外でも、家族でこの電気がどのようにして自宅 まで流れてきているか一緒に絵を描いてみたり、水力や太陽光などの再生可能エネルギー などについても話す機会を設けたりすれば、大人になってからも意識を変えられるであろ う。また電力自由化の話しから、お金について考えてみたり、環境問題や社会問題というカ テゴリーに含ませつつ、ビジネス性などについても話してみたりも面白いかもしれない。気 候変動や生物多様性などの分野とは色合いが違う印象があるからだ。これらを一つの切り 口として関心を持てば、電力自由化の普及につながっていくと考えられる。 次に、2 つ目として、電力供給側の視点である。「新規参入者のマーケットシェアは予想 外に少ない。しかし仮に今のシェアが二倍になったとしても、シェアとしてはたいしたこと ない。総括原価と地域独占に守られていた時代に大半の電源を旧一般電気事業者が囲い込 んでしまっており、この市場構造が変わらない限り、新規参入者のマーケットシェアは簡単 には増えないだろう。今後は、発電市場の競争の活発化、発電市場の競争の基盤の整備が電 力自由化の深堀に関して重要。新規参入者は売る電気がなければシェアを拡大できないか ら、競争も活性化しない。売るものを調達できるようにすることが重要。これがなければ、 販売だけ自由化しても、ほとんど競争は機能しない。この点は多くの人が勘違いしている。 販売市場に多くの販売代理店が参入したとしても、東京地区で東京電力が発電市場で独占 的に行動できれば、小売市場でもたいした競争は起きない。この発電市場の部分を活性化さ

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せないといけない。更に旧一般電気事業者がエリアをまたいで競争するのが理想。それらを 促す制度設計が大事になってくる」と松村教授は話す。 今現在、2016 年 4 月の電力自由化によって、電気をどこから購入するかの選択肢は増え たものの、私たちが家庭や学校で使うその電気の供給先はいまだに東京電力など、その地域 に昔からあるいわゆる大手なのだ。 電力自由化の普及には今までに依存しない公平な競争環境が必要であろう。今はやはり 既存の電力会社は設備を持っている部分は大きいといえそうだ。こういった環境が改善さ れてくると、新電力会社と既存の電力会社が公平な競争環境ができると考えられる。 インタビュー「電力自由化で日本の未来を変えられると思うか?」 「電力自由化で日本の未来は変えられると思うか?」という質問に対して、「これだけで 変わるとは、とても思わない。しかし、電力自由化によって、『国民が主役になれる』可能 性が高い。突き破ることが難しそうな課題に対しても、自分が主役になれる可能性が出てき た。こういった話が出てくると日本も少しずつ良くなってくると思います」と橘川教授は話 す。 インタビューで出てきた「国民が主役になれる」という言葉。私たちは知らず知らずのう ちに、この日本という国の主役が誰なのか忘れてしまっていたのかもしれない。電力自由化 を一つのきっかけとして、国や政府の日本を動かしている人たちに向けて、自らの意思表示 ができるようになった。それを顕著に表すのが原子力依存度だと言えるであろう。仮に、日 本に住んでいる人全員が、使用する電気の供給源を原子力から再生可能エネルギーに移行 させた場合、国や政府は原子力発電所を廃炉とするだろう。 つまり、私たちは国を自らの意思で大きく変えることのできる選択肢を手に入れている のである。しかしながら、原子力発電所を廃炉にして再生可能エネルギーを使用したほうが いいと考える国民は多いものの、その結果、負担する月々の電気料金が高くなる可能性があ ることを示唆すると、変えようとする動きが激減してしまうという現状も見られる。 また、株式会社Looop電力からは、「電力自由化で日本の未来を変えるために行っている。 エネルギーは電気だけの話ではなく、様々なエネルギーがある。将来的には、世の中のエネ ルギーがすべて電気になる時代がくるかもしれない」というメッセージをいただいた。 電力自由化だけで、日本を変えることは難しいかもしれないが、一つのきっかけとして日 本の未来を変えていくこと、そして、主役である私たち自身の意識を変えていくことは十分 に可能なのではないだろうか。また、電力自由化によって日本の未来を変えていこうとして いる人たちや企業も確実にいるということが分かった。

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おわりに 今回の電力自由化で、決められた地域ごとの電力会社から自分のライフスタイルに合っ た電力会社を自由に選べるようになった。だが、実施から半年以上経った現在でも、変更し ている世帯はまだ少ない。この本を手に取っていただいた方には、電力自由化の仕組みや電 力会社の選び方など知っていただければ幸いである。さらに、将来のエネルギー社会や次世 代の人々のことを考えるきっかけとなり、読んでいただいた方の行動に変化を生み出せる ことを願っている。 この電力自由化では、料金の低下や、サービスの向上といった表面的な部分にばかり目が 行ってしまっている。それだけでなく、私たちにとって、本当に必要なエネルギー社会とい うものをこれからは考えていく必要があるのではないだろうか? これからの社会の中心となるのは、私たち若者である。社会を担い、作っていくためにも 今から考え、行動をしていかなければならない。そして、いつか自分でエネルギー選択をす る際にはそれを活かし、自信を持った選択をしてほしいと思う。私たちが行動を変えること は、10 年後、20 年後の未来の社会を変えていくことにつながる。選択肢が増えたのに、行 動をしないのはとてももったいないことではないだろうか? 3.11 によって大きく変化した電力業界。再生可能エネルギーを扱う企業や新規参入事業 者が多くなっている。それでも、原子力発電や火力発電企業のままでいいのか? みなさん、今一度考えてみませんか。 枝廣淳子研究室 学生一同

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引用・参考文献 電気事業連合会HP https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_jigyo/germany/detail/1231566_4782.html 電力自由化の歴史 - JX エネルギー - JX グループ http://www.noe.jx-group.co.jp/denki/useful/useful05.html 電力の小売全面自由化って何? - 経済産業省・資源エネルギー https://www.google.co.jp/?gws_rd=ssl#q=%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E8%87%AA%E7 %94%B1%E5%8C%96+%E6%AD%B4%E5%8F%B2 ENEJOYS https://enejoys.jp/contents/article/5327/ https://enejoys.jp/contents/article/2258/ エネシフト https://eneshift.jp/kaigai/ エネチェンジ https://enechange.jp/articles/camreport_germany https://enechange.jp/articles/college-students-living-alone-utility-costs 株式会社シュタットベルケジャパンHP http://www.stadtwerke.jp/ 海外各国の電力自由化事情 https://www.tainavi-switch.com/deregulation/283/ 国際環境経済研究所 http://ieei.or.jp/2012/05/special201204006/ 経済産業省資源エネルギー庁 http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalizatio n/

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日経テクノロジー http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140905/374487/ 日本の電力自由化、これまでの経緯と現状とは? | エネチェンジ https://enechange.jp/articles/liberalization_steps タイナビ Switch https://www.tainavi-switch.com/contents/57/ https://www.tainavi-switch.com/contents/227/ https://www.tainavi-switch.com/contents/275/ https://www.tainavi-switch.com/contents/419/

参照

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