平成 28 年熊本地震
災害調査レポート(速報)
2016 年 4 月
目 次
1 地震・地震動の概要... 2 2 被害の概要 ... 3 3 現地被害調査報告(速報) ... 4 3-1 調査概要 ... 4 3-2 益城町の被害状況... 5 3-3 西原村の被害状況... 7 3-4 熊本市東区・宇土市役所 ... 9 3-5 地表断層 ... 11 4 企業の被害状況(速報) ... 13 5 おわりに ... 151 地震・地震動の概要
2016 年 4 月 14 日(金)午後 9 時 26 分、熊本県上益城郡益城町で震度 7 を観測する地震 が発生しました(前震)。さらに2016 年 4 月 16 日(日)午前 1 時 25 分、熊本県上益城郡 益城町・西原村で震度7 を観測する地震が発生しました(本震)。気象庁はこれらの地震を 「平成28 年熊本地震」と命名しました。地震の規模は、前震はマグニチュード 6.5、本震 はマグニチュード7.3 で、本震は 1995 年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)と同じマグ ニチュードです。今回の地震は、地震調査研究推進本部の長期評価の対象となっている活 断層(日奈久断層帯、布田川断層帯)によるものと考えられます。 防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET・kik-net)や気象庁・熊本県の観測波形を利 用して推定した本震(M7.3)の震度分布をみると、益城町から西原村西部にかけての震源 断層周辺に震度 7 の地域が分布するとともに、宇土市東部から阿蘇市西部にかけての地域 で震度6 強の地域が広がっています。木造建物の被害に影響を与える周期 1~2 秒の疑似速 度応答スペクトル(pSv)を求めると、益城町震度計の値は 1995 年兵庫県南部地震の JR 鷹取や2004 年新潟県中越地震の川口町震度計の記録よりもやや大きなレベルの値を示して います。 図1 推定震度分布 図2 疑似速度応答スペクトル (ともに本震(M7.3)のもの) 熊本市 宇土市 益城町 西原村 阿蘇市 南阿蘇村 h=5%2 被害の概要
熊本県内の被害状況は、4 月 26 日現在、死者 63 名(内、震災関連死 14 名)、行方不明 者1 名、重軽傷者 1,391 名以上、住家全壊 1,750 棟、半壊 1,715 棟、一部損壊 2,537 棟と なっています。本震の断層に近い嘉島町から南阿蘇村にかけての地域と宇土市で住家全壊 棟数が100 棟を超えています。特に益城町では 1,000 棟を超え、地震全体の被害の半分以 上を占めています。また、死者数は益城町と南阿蘇村で多く、死者(震災関連死を除く) の約7 割が 65 歳以上の高齢者で占められています。 図3 住家全壊棟数の分布 図4 死者の年齢区分別構成比3 現地被害調査報告(速報)
3-1 調査概要 平成28 年熊本地震で大きな被害が発生した熊本県上益城郡益城町・西原村を中心に、建 物の被害状況調査を実施しました。 調査日時 2016 年 4 月 22 日(金)~4 月 23 日(土) 調査地域 ① 上益城郡益城町 ② 上益城郡西原村 ③ 熊本市 ④ 宇土市 図5 調査地点概略図 ④宇土市 ③熊本市 ①益城町 ②西原村 (背景図には国土地理院の地理院地図を使用した)3-2 益城町の被害状況 益城町は、熊本市の東側に隣接する町で、震源断層の真上に位置し、今回の地震で最も 大きな被害を出した地域の一つです。町役場にある震度計では、前震・本震ともに震度 7 を観測しました。 益城町では、①kik-net 益城(防災科学技術研究所の強震観測点)周辺、②益城町役場周 辺、③県道28 号線沿い、④県道と秋津川の間の地域、の 4 地域を中心に現地調査を実施し ました。今回調査した地域は、kik-net 益城から秋津川に向かって地表面が傾斜しています (下り坂)。地形分類では、 kik-net 益城や益城町役場周辺 は火砕流台地面、県道28 号線 周辺が段丘面、秋津川周辺が 谷底低地に属しています。建 物被害の大きい地域は、県道 28 号線沿いや県道 28 号線か ら秋津川の間の地域です。こ れらの地域では 1 階部分が圧 潰している建物も複数確認さ れました。特に、瓦葺など屋 根材の重い建物や古い建物で 被害が大きくなっています。 秋津川 県道 28 号線 益城町木山交差点 益城町役場 (Kik-net 益城) ※この測線上に位置 していないため実際に は、さらに標高が高い 場所にある 火砕流台地面 段丘面 谷底低地 B A 建物被害が特に大きい地域 pSv[1s] = 436kine pSv[1s] = 382kine 益城町震度計 kik-net 益城 火山灰細屑物 段丘堆積物 低地堆積物 h=5% h=5% 図7 位置図と調査範囲の位置関係 ①kik-net 益城周辺 ②益城町役場周辺 ③県道 28 号線沿い ④県道 28 号線と 秋津川の間の地域 B A 図6 調査範囲(益城町)と断面位置図 (国土地理院の基盤地 図情報を使用した)
写真1 1階の壁面に亀裂が入った建物 (①kik-net 益城周辺) 写真2 石垣・石積擁壁・ブロック塀の被害 状況(②益城町役場周辺) 写真3 1階に大きな残留変形が残る共同 住宅(②益城町役場周辺) 写真4 1階が圧潰した木造住宅 (③県道 28 号線沿い) 写真5 1階に大きな残留変形が残るS造 店舗(③県道 28 号線沿い) 写真6 木山橋付近の被害状況 (④県道 28 号線と秋津川の間の地域)
3-3 西原村の被害状況 西原村は、益城町と南阿蘇村の間に位置する村で、村の中部を北東-南東走向の布田川断 層帯が走っています。村役場にある震度計では、前震では震度6 弱、本震では震度 7 を観 測しました。 西原村では、①村役場周辺、②風かざ当て地区、③古閑こ が地区、④名ヶみょうが迫さこ地区を中心に現地調査 を行いました。このうち、風当地区では瓦葺屋根の建物を中心に、多くの建物が倒壊して いるのを確認しました。この地区は大峯山麓の傾斜地に位置していることもあり、家を建 てるための整地に伴って作られた石垣や擁壁の被害が多くみられました。そのため、建物 の基礎の損傷など、地盤の変形が建物に影響を与えていると考えられる箇所が多数ありま した。一方で、村役場では、本震で震度7を観測していますが、調査した範囲では村役場 周辺に倒壊した住家は見られませんでした。 ①村役場 ②風当 ③古閑 ④名ヶ迫 図8 調査位置図(西原村) h=5% 図9 疑似速度応答スペクトル
写真7 壁の被害 (①役場付近) 写真8 外観上は被害が無く、営業を再開し ている郵便局(①村役場付近) 写真9 完全に倒壊した建物 (②風当地区) 写真10 建物は外観上の被害はないが敷 地が崩落した建物(②風当地区) 写真11 1階部分が圧潰した建物 (③名ヶ迫地区) 写真12 道路法面の崩壊により土砂が家 屋に入り込んでいる(④古閑地区)
3-4 熊本市東区・宇土市役所 熊本市東区の健軍・保田窪・西原地区の建物被害状況及び宇土市庁舎の被害を調査しま した。防災科学技術研究所の観測点K-NET 熊本(熊本市東区)、K-NET 宇土ともに、本震 で震度6 強を観測しました。 健軍地区では、健軍商店街にあった3 階建店舗の 1 階部分が圧潰し、建物が商店街のア ーケードの支柱に寄り掛かっている状況でした。また、商店街内及びその周辺の建物も、1 階部分に大きな残留変形の残っている建物や外壁に被害のある建物も複数確認されました。 保田窪・西原地区では、非木造建物を中心に調査を行いました。西原1 丁目では 5 階建 マンションの 1 階部分が圧潰しているのが確認されました。この他にも、高層マンション の中間階の壁面にせん断クラックが入ったマンションや外壁が落下した中低層建物等がみ られました。 本震の震源断層から少し離れた宇土市庁舎の被害状況を確認しましたが、5 階建庁舎の 4 階部分が圧潰していました。市役所周辺は低層建物がほとんどで市庁舎と同じような高さ の建物はありません。周辺の被害としては、一部で瓦屋根が落下した木造住宅もあります が、ほとんど被害はありませんでした。 h=5% 図10 調査位置図(熊本市) 図11 疑似速度応答スペクトル ①健軍 ②保田窪・西原 下江津湖 上江津湖 (基盤地図情報、国土 数値情報を使用した)
写真13 1階が圧潰したマンション
(熊本市東区西原1丁目) 写真14 写真13の1階部分の損傷状況
写真15 マンション中間階の壁面に入っ
たクラック(熊本市東区保田窪) 写真16 宇土市役所(宇土市)
3-5 地表断層 益城町および西原村にかけての 3 か所で地表面の変位を調査しました。これらは周辺の 地形とは関係なく連続していることから、地すべり等の質量移動ではなく、震源断層の延 長が地上に露出した地表断層であると考えられます。これらの地表断層の多くは北東-南東 方向で、地震のメカニズムと整合しています。一方で、益城町下陳地区では北西-南東走向 の亀裂も見られました。 図12 調査位置図(地表断層) ③西原村小森 ①西原村下棟 ②西原村堂園 図13 下陳地区の地表に露出する亀裂・変位
写真18 西原村小森での変位、 右横ずれ約 1m 写真19 益城町堂園での水平変位、 右横ずれ約 190 ㎝ 写真20 写真19の拡大 写真21 益城町堂園での右横ずれ変位と 周辺の建物被害 写真22 益城町下陳地区での右横ずれ変 位(約 1m) 写真23 北西-南東走向の亀裂、垂直変位 を伴い、畔による段差を越えて連続する
4 企業の被害状況(速報)
今回の地震では、熊本県を中心とした地域の企業の生産活動に影響が出ています。各企 業の公表資料や報道等からは、建屋や生産設備の被害、設備の点検、ライフラインの供給 停止、従業員の自宅の被災等の様々な原因により、工場の操業が中断されたことがわかり ます。今回の地震で何らかの理由で操業を中断した工場と震度(本震・前震の大きい方の 震度)の関係を業種別に整理した結果、震度 6 弱以上となると、様々な原因で操業が停止 していることがわかります。このうち、電機・精密機械産業は震度 5 弱程度でも操業が停 止するケースがみられます。この現象は、東日本大震災でも確認されており、高い加工精 度が必要な製造設備の場合、小さな揺れでも調整や修理が必要になることが一因と考えら れます。生産拠点の操業が中断する業種間の相対的な差は、東日本大震災の場合とほぼ同 様の傾向を示しており、電機・精密機械、自動車、鉄鋼・非鉄、素材・化学産業などが比 較的低い震度から操業が中断する一方、医療、食品産業等は操業停止となる震度がやや高 い傾向にありました。 なお、これらのデータはあくまで公表されたもののうち現時点で弊社が把握できたもの だけを対象にしており、同程度の震度であっても操業が中断していない工場や、逆に低い 震度であっても何らかの理由で操業が中断した工場もあることを念頭において見る必要が あります。 図14 操業が中断した震度の業種別の比較 今回の地震で操業が中断した各工場の震度 東日本大震災で操業が中断した震度の範囲(業種別) 凡例 業 種図15 操業中断が確認された工場の位置と推定震度分布
また、2007 年新潟県中越沖地震、2011 年の東日本大震災に続き、地震被害によってサプ ライチェーンは大きな影響を受けています。自動車産業では、熊本県の部品メーカーの被 災により、熊本県外に所在する大手自動車メーカーの複数の工場で操業停止となりました。 この影響は、海外大手自動車メーカーの北米の複数の工場にまで影響が及んでいます。