は じ め に 社会福祉法人恩賜財団済生会滋賀県病院（以 下当院）（図）は，滋賀県南部の国道 号と 号とが合流し，名神高速道路の栗東インター チェンジがある交通の要衝の栗東市に所在しま す．当院は，総人口と小児人口が増加し大変活 気のある湖南医療圏（栗東市，草津市，守山市， 野洲市：人口約万人）の医療を担当していま す． 湖南医療圏の市は，東洋経済社の住み良さ ランキング（年版）では，全国 都市の 中でも住み良い町として，毎年上位番以内に ランニングされています．住み良さには，滋賀 県済生会支部の存在が，地域住民の安心度に大 きく貢献していると言えます（図）． 滋賀県済生会支部は，①済生会滋賀県病院， ②滋賀県済生会看護専門学校，③特別養護老人 ホーム・淡海荘，④訪問看護ステーションおよ び⑤介護老人保健施設・ケアポート栗東の施 設から構成されます．そして栗東市大橋地区に 「栗東医療・福祉ゾーン」を形成し，湖南医療圏 のみならず，その周辺市（湖南市，甲賀市など） の住民の医療，保健，福祉と看護教育に貢献し ています（図）． このような背景の中で，当院は，地域医療支 援病院，救命救急センター，災害拠点病院，脳 死下臓器提供病院，臨床研修病院，地域がん診 療連携支援病院などの施設指定を受けていま 病 院 だ よ り
「医療の質の向上が，病院を変え，束ね，
経営基盤を安定させる」を目指して
社会福祉法人恩賜財団 滋賀県済生会支部 済生会滋賀県病院 院長 杉 本 徹 〒‐ 滋賀県栗東市大橋‐‐ 図 新幹線側から見た凛とした佇まいの済生会滋賀県 病院 年 月に完成した白亜の病院が滋賀県済生 会支部のランドマークとして新幹線（京都駅を出 て東京への分後）の右車窓から見える 図 病院は滋賀県湖南医療圏の中核病院 湖南医療圏（栗東市草津市守山市野洲市： 人口約万人）（丸印内）のみならずその周辺市 （湖南市甲賀市など）の医療を担当しているす．また地域医療では，地域の医療施設・診療 所の先生方と密に連携した「地域完結型の医療」 を積極的に推進しています． 本稿では①済生会本部，滋賀県済生会支部と 当院の沿革，②当院の活動の現況と③今後の課 題と展望を報告します． 明治天皇は，明治（）年に貧しくて医 療を受けることができない国民に救いの手を差 しのべることを内閣総理大臣桂太郎に命じら れ，基金としてお手元金万円を下賜されま した（済生勅語）．同年月 日に「済生会」 が設立され，年に東京の深川と本所に診療 所が開設されました．そして本年月 日に， 創立周年を迎えました． 現在，済生会が運営する施設は，全国都道府 県に支部，施設（病院 ，診療所 ， 介護老人保健施設，特別養護老人施設 ，児 明治天皇の勅語で造られ本年 創立周年を迎えた済生会本部 童福祉施設など）で，全職員数は約 名を擁し，日本最大の医療・保健・福祉グルー プとなっています． 済生会滋賀県支部と病院の沿革 当院を含む済生会滋賀県支部の施設の沿革 を，表に示します．沿革は，大正 （） 図 済生会滋賀県支部の病院以外の 施設 支部は済生会看護専門学校淡海荘（特別養護老人ホーム）ケアポート栗東（介 護老人保健施設）滋賀県訪問看護ステーションと病院の 施設から成り「支部は一つ」 として医療・保健・福祉・看護教育を担う 表 済生会滋賀県支部と病院の沿革
年の大津診療所の開設にさかのぼることができ ます．その後，昭和（）年に済生会滋賀 県病院に昇格し，この年が病院創立の年になっ ており，本年月には創立 周年を迎えます． 病院は，救命救急センター，災害拠点病院，医 師臨床研修病院，地域医療支援病院，脳死下臓 器提供病院，地域がん診療連携支援病院などの 施設基準を持ち，湖南医療圏の中核病院の役割 を果たしています．当院の職員数は名（医 師名，看護師 名，事務 名など），ま た済生会滋賀県支部の職員数は名（平成 年 月現在）になります． 当院の活動の現況 代表的の施設基準から見た当院の活動の現況 を報告します． ）地域医療支援病院として （）「患者さんや職員が満足できる地域医療の 充実」 当院は，地域医療支援病院を平成年 月に 取得しました．この取得に際して，標語として 「患者さんや職員が満足できる地域医療の充実」 （平成∼年度の中期ビジョン）を掲げまし た．趣旨は，「患者さんに満足していただく病 院造りのみならず，職員の勤労意欲を高めるた めに，職員が満足できる病院造り」にあります． 患者さんの満足は当然ながら，職員の勤労意欲 の向上も重要です．「職員の満足度を高め，病 院の総合力を伸ばす」を目指してします． 地域連携は，当院の地域医療支援センター （地域医療連携室，社会福祉事業課，退院調整継 続看護室）が中心となり行っています．地域の 診療所・医療機関との連携により，入院から退 院までの円滑な流れが確立し，平成年度には 平均在院日数が日に短縮し，以降，約 日を維持しています．また平成年度以降，患 者さんの紹介率と逆紹介率は増加し，地域連携 が一層推進されています（図）． （）「医師の事務業務の軽減」のために医師支援 室の設置 滋賀県での先駆けとして平成年月に医師 支援室を設置しました．地域連携の推進と医師 図 紹介と逆紹介率の年度推移（平成 ∼年度）
の負担を軽減するため，メディカルクラーク が，「縁の下の力持ち」として，紹介状，礼状，診 断書，入院証明書の整理，問診の準備の聞き取 りなどで，ペーパーワークに忙殺される医師を 支援しています．これらの支援で地域医療連携 の効率化がはかれ，医師の事務業務が軽減さ れ，好評の様子です．当院の病床は床で医 師支援室のスタッフは名ですので，結果とし て医師事務作業補助（対 ）加算を取得して います（図）． ）救命救急センターとして （）「救急車は全て受入れ，断らない」 滋賀県下では，当院，大津赤十字病院，近江 八幡市立総合医療センターと長浜赤十字病院の 病院が，救命救急センターの施設基準を取得 しています．当院の救命救急センターでは （歩いて来院の）患者さんが大多数を占 め，軽症で「当院を受診すれば時間いつでも 診察してもらえるコンビニ患者さん」でした． 多くの患者の診療は，本来，心肺停止な どの致死的な患者さんを救命する救命救急セン ターの本来の役割を阻害し，医師の「燃え尽き 症候群」を招きます．そこで患者さんを 抑制し，真の救命救急センターの役割を果たす ため，平成年 月から救急受診時に熟練看 護師によるトリアージを導入しました．そして 多くの患者さんの中に潜在する生命に 関わる致死的患者さんを抽出し，緊急性の高い 患者さんから診察する効率的診療を実践してい ます．その結果，①平成年度の救急患者延数 は名（平成 度は 名）に減少し， 一方②救急車搬送数は名（日平均 台）（県内では大津赤十字病院の約名に次 ぐ）に増加し，③救急車応需率が％となり ました．現在，「救急車は全て受入れ，断らな い」を目標とする救命救急センターが，実現さ れつつあります（図）． （）「救命率の向上と後遺症の軽減」のためのド クターカ−運用の開始 現場で医師の診療が必要と判断された場合 に，救急科医師と救急部看護師を乗せた当院の ドクターカーの派遣を，本年月 日から滋賀 県内で初めて開始しました．「救命率の向上と 後遺症の軽減」をはかり，地域の住民に信頼さ れる病院造りを目指しています． ）災害拠点病院として （）東日本大震災の救護活動 滋賀県内には災害拠点病院が，計病院あり ます．当院は，大津赤十字病院の基幹災害医療 拠点病院に次ぐ，災害拠点病院の役割を果たし ています．そして東日本大震災発生の本年月 日の を始め，計 回に渡り被災地に災 害救護班を派遣しました．派遣した職員は計 名，また派遣延人数は 名となり，全国 の済生会病院の中で最も多い延人員を派遣しま した． （）「備えあれば憂いなし」の中規模災害訓練 これまで毎年，患者さんの少ない週末に災害 訓練を実施してきました．しかし東日本大震災 での経験を踏まえて，中規模の災害（琵琶湖西 岸断層帯地震）が発生の想定で，初めて平日（平 成年 月 日火曜日午後 時）に訓練を行い ました．模擬患者（済生会看護専門学校の学生 名を含む）約 名が次々と搬送される中， これまで最高の職員数（名）がてきぱきと 対応し，「備えあれば憂いなし」の災害訓練を実 施しました（図）． ）脳死下臓器提供病院として「命のリレー」 臓器移植法の改訂（平成年 月）によ 図 「医師の事務業務の軽減」のための医師支援室 メディカルクラークが「縁の下の力持ち」とし て医師の事務業務を支援し地域医療連携の効率化 をはかっています
り，家族承諾のみで脳死判定と臓器提供が可能 となりました．同法の改訂後の平成年 月 に，全国で例目，京滋では最初の脳死下臓器 提供を行いました．その結果，名の患者さん （心臓：国立循環器センター，膵臓・腎臓：大阪 大学，肝臓：京都大学と岡山大学，腎臓：近江 八幡市立総合医療センター）に，臓器提供が可 能となりました．救命救急センターとして， 「命のリレー」の臓器移植を支援します． ）臨床研修病院として「人を教えることは自 分を向上させる」 当院が目指す地域医療の充実には，有能な医 師の確保が必要です．当院の医師は名で，若 干名が不足しています．当院の臨床研修の充実 は，将来の病院の担い手を育成・確保し，また 上級医の教育・医療水準は，臨床研修医の指導 により向上します．平成年度は，名の研修 医がフルマッチで滋賀県内の病院の中では位 でした．また京都府立医科大学からは名のた すぎかけ研修医を受けています． 救命救急センターがあり救急・急性期の医療 が充実し，研修内容と指導が優れた当院の臨床 研修病院としての評価は年々向上し，滋賀県内 では，滋賀医科大学に次ぐ人気があります．ま た年間の初期研修後には，当院のみならず， 「後期研修医を大学へ」と大学での更なる研鑽 を推奨し実績をあげています． 図 「救急車は全て受入れ断らない」の救命救急センターとドクターカー 患者さんを抑制するため救急受診時に熟練看護師によるトリ アージを導入しましたまたドクターカーは「救命率の向上と後遺症軽 減」のため運用を開始しました 図 中規模災害訓練での模擬患者さんの診療（救命救 急センター） 初めて平日の勤務時間内にこれまで最高の模擬 患者さんと職員（計名）が参加した災害訓練を 実施しました
学生の臨床実習は，現在は京都府立医科大学 からは派遣をいただいていません．しかし近場 の滋賀医科大学からは，年間名（各 週間） が救急と内科の臨床実習に派遣をいただき好評 です． ）地域がん診療連携支援病院として 国が指名する「がん診療連携拠点病院」の基 準に準じた県独自の「地域がん診療支援病院」 の指定を平成年 月に受けました．地域の 方々に，安心で適切ながん医療を提供出来るよ う努力しています． ）テレビドラマ映画のロケ病院として 白亜の階建の凜とした佇まいの病院（図 ） を利用して，平成年 月からの約 年半で， 合計回，東映のテレビドラマのロケ撮影が行 われています．当院は，さしずめ，東映撮影所 の「栗東出張所」の役割を果たしていると言え ます．刑事，お母さんの最後の一日，科捜 研の女，京都地検の女，ホンボシ，警視庁警 護課などのテレビドラマが，当院を利用して， 撮影されています．職員のエキストラ出演も見 られます． ）「頼れる病院」で滋賀県内のランキング 位 週間ダイヤモンド（ダイヤモンド社 月 日発刊）の「頼れる病院」の全国都道府県別で， 当院（得点合計点）は滋賀医科大学（同 点）に次いで位にランキングされました．ち なみに京都府内では位は京都大学（同 点）， 以下京都第二赤十字病院（同点），洛和会音 羽病院（同点），京都第一赤十字病院（同 点）でした。一層の頼れる病院を目指します． ）平成 年度の病院経営の状況 平成年度の病院の診療実績は，診療報酬 ％の上昇，また神経内科の開設，血液内科 と整形外科などの活躍により，入院患者数が約 名（前年度 名），病床稼働率は ％（同 ％）と向上しました．その結果， 平成年度の病院収支は，①総収支，②医業収 支および③経常収支のつの指標がいずれも黒 字となりました．経常収支の黒字化は，新病院 が建設された平成年度以降で初めとなりま した． 今後の課題と展望 平成年度から標語として，「医療の質の向 上が，病院を変え，束ね，経営基盤を安定させ る」を掲げてきました．医療の質を向上させる ための上記の数々の行事と施設基準の取得の過 程で，病院が∼回の脱皮・進化・変化をとげ， 多職種の職員が医療の質と安全の向上を総合的 に話し合い・行動・チーム連携で束ねられ，そ の結果として病院の経営が安定してきました． 今後は，） （総合 的質管理）シンポジウムを院内で開催し，更に 医療の質と安全の向上を協議・実践し，）診療 体制を支える組織の強化（①職員満足度の向上， ②女性が安心して働ける環境造りのため院内保 育園の設置，③研修と資格取得の奨励の支援な ど），）経営の更なる安定化，）済生会の理 念である経済的に恵まれない人々への無料低額 診療事業と生活困窮者支援事業の更なる推進を していきます．そして「患者さん，職員，病院 と診療所，行政・救急隊に選ばれる病院造り」 を目指します． また済生会滋賀県支部の施設は，「支部は一 つ」として医療・保健・福祉・看護教育でお互 いの連携を最大限に活かし，短期のみならず， 中期・長期的目標を定め，地域の要望に応えて 行く必要があります． 今後とも，大学，関連病院，学友の皆さま， 関係各位のご支援とご指導をお願いいたしま す．
