247
249
-試料
M1
Haemophilus influenzae
同定検査サーベイの成績【評価対象】
1.結果 1)同定菌名 参加50 施設における同定菌名の回答状況を表 1 に示した。Haemophilus influenzae の回答を評価A とした。全施設がH. influenzaeと回答しており、100%正解と良好な成 績であった。 2)同定機器/方法別の同定成績 同定機器/方法別の成績と用手法の内訳を表 2、3 に示した。用手法が 40 施設(80.0%) と最も多く、その他はマイクロスキャンWalkAway(ベックマン・コールター社)が 4 施 設(8.0%)、バイテック 2(ビオメリュー・ジャパン社)が 3 施設(6.0%)、質量分析に よる同定が3 施設(6.0%)であった。いずれの方法でも 100%の正解率であった。 2.まとめ 1)同定結果 今回使用した菌株はH. influenzaeである。H. influenzaeは市中呼吸器感染症の一般 的な原因菌でありその他、急性中耳炎・副鼻腔炎や化膿性髄膜炎を起こす菌として重要で ある。ヒトや動物の上気道に常在している偏性寄生菌であり、ヒトの常在菌叢として認め られるものも多いが、今回は本菌が呼吸器感染症以外でも病原菌として検出されること を再認識してもらう目的で出題した。 H. influenzae はパスツレラ科ヘモフィルス属のグラム陰性短桿菌で、グラム染色に よって推定が可能な場合がある。チョコレート寒天培地を用いて炭酸ガス培養を行うこ とにより灰白色のコロニーを形成する。本菌は発育にX 因子(ヘミン)、V 因子(NAD) を必要とするため、V 因子を壊す酵素を多く含むヒツジ血液を使用した血液寒天培地に は発育しない。しかし、その酵素量が著しく少ないウマやウサギ血液を使用した血液寒天 培地や V 因子破壊酵素が加熱処理により熱変性されたチョコレート寒天培地には発育が 可能である。また、本菌とブドウ球菌を同一のヒツジ血液寒天培地上に培養すると、黄色 ブドウ球菌が産生する V 因子によってそのコロニー周囲に小さく発育を認める(衛星現 象)。その他、ウサギ・ウマ血液寒天培地での非溶血性、ポルフィリンテスト陰性などが 特徴的な性状である。チョコレート寒天培地上のコロニーの外観は、同じパスツレラ科のPasteurella multocidaによく似ているが、P. multocidaはX 因子、V 因子の要求性が陰 性であることから鑑別が可能である。
2)
同定機器、付加コメント同定方法は、40 施設(80%)が用手法、7 施設(14%)がマイクロスキャンなどの同 定機器、3 施設がバイテック MS(ビオメリュー・ジャパン社)、MALDI バイオタイパー
250
-(Bruker 社)の質量分析装置を用いていた。すべての施設で評価 A のH. influenzaeと 回答していた。用手法にはID テスト HN-20 ラピッド(日水製薬社)を使用している施 設が23 施設(57.5%)と最も多く、次いで X 因子・V 因子要求性による鑑別方法が多く 使用されていた。V 因子要求試験を行う場合、分離培養に用いるチョコレート寒天培地な どからX 因子を持ち込まないように注意する必要がある。 表1 同定菌名の回答状況 (試料 M1) 評価 同定菌名 回答数 正解率 A Haemophilus influenzae 50 100% 計 50 100% 表2 同定機器/方法別の回答状況(試料 M1) 評価 同定菌名 M AL D I バ イオタ イパー バイテッ ク MS バイテッ ク 2 コン パクト 30 バイテッ ク 2, バイ テック 2 X L マイクロ スキャ ン W al kA w ay 40 , 4 0 S I, 40 P lu s マイクロ スキャ ン W al kA w ay 96 , 9 6 S I, 96 P lu s 用手法 計 A Haemophilus influenzae 1 2 1 2 1 3 40 50 正解(評価A)率(%) 100 100 100 100 100 100 100 100 表3 用手法の内訳と回答状況(試料 M1) 評価 同定菌名 Rap ID NH XV マル チディ スク その他の 極東製 品 アピ NH ID テスト HN -20 ラ ピッド クリスタ ル N /H 同 定キッ ト ヘモフィ ルス ID 4 分 画培 地 タキソ XV 因子 ストリ ップ その他の BD 製品 計 A Haemophilus influenzae 2 3 2 1 23 2 5 1 1 40 正解(評価A)率(%) 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100251
-試料
M2
Staphylococcus lugdunensis
同定検査サーベイの成績【評価対象】
1.結果 1)同定菌名 参 加 50 施 設 に お け る 同 定 菌 名 の 回 答 状 況 を 表 4 に 示 し た 。Staphylococcus lugdunensisの回答のみを評価A とした。Coagulase-negative Staphylococcusの回答は 評価B(許容正解)とし、それ以外の回答を評価 C とした。回答の内訳はS. lugdunensisが48 施設(96%)、Coagulase-negative Staphylococcusが1 施設(2%)、Staphylococcus epidermidisが1 施設(2%)であった。 2)同定機器/方法別の同定成績 同定機器/方法別の成績を表 5 に示した。マイクロスキャン WalkAway が 31 施設(62%) と最も多く、次いでバイテック2 が 7 施設(14%)、用手法が 6 施設(12%)、質量分析 法が3 施設(6%)、フェニックス(日本 BD)が 2 施設(4%)、ライサス(日水製薬)が 1 施設(2%)であった。用手法の 6 施設は従来法や各種同定キットを使用して結果を確 定していた。 2.まとめ 1)同定結果 今回使用した菌株は、臨床分離株のS. lugdunensis である。本菌はコアグラーゼ陰性 ブドウ球菌(Coagulase-negative staphylococci, CNS)の一種であるが、その病原性の強 さから他のCNS とは区別すべき菌種であり、正確に同定ができているかを確認するため に実施した。同定結果の正解(評価A)率は 96%であり良好な成績であった。 2)同定方法、附加コメント 同定方法については、多くの施設で各種自動機器を使用して菌種同定をしており、用手 法の施設は全体の12%であった。自動機器のみではなく、グラム染色やカタラーゼ試験、 コアグラーゼ試験などの従来法を実施し、菌の形態や基本的な性状確認も実施しており、 同定手順に問題は認められなかった。S. epidermidisと回答した 1 施設については自施 設の同定方法について再確認をお願いしたい。 付加コメントについては起因性、感染対策共にほとんどの施設が正しく選択できてい たが、感染症法のコメントで「5 類感染症として取り扱う」と回答している施設があった。 コメントは評価対象外ではあるが、感染症法における各分類の把握は重要なことであ り、届出対象疾患ならびに対象微生物について正しく認識しておいていただきたい。
252
-表4 同定菌名の回答状況(試料 M2) 評価 同定菌名 回答数 (%) A Staphylococcus lugdunensis 48 96 B Coagulase-negative Staphylococcus 1 2 C Staphylococcus epidermidis 1 2 合計 50 100 表5 同定機器/方法別の同定成績(試料 M2) 評価 同定菌名 マイクロ スキャ ン W al kAw ay 40 , 40 S I, 40 P lu s マイクロ スキャ ン W al kAw ay 96 , 96 S I, 96 P lu s バイテッ ク 2, バイ テック 2X L バイテッ ク 2 コン パクト 30 用手法 質量分析 法〔バ イテッ ク MS 〕 質量分析 法〔 M AL D I バ イ オタイパ ー〕 フェニッ クス 10 0 ライサス , ライサ ススエ ニ ー 計 A S. lugdunensis 22 9 5 2 4 2 1 2 1 48 B Coaglase- negative Staphylococcus 1 1 C S. epidermidis 1 1 計 22 9 5 2 6 2 1 2 1 50 正解(評価A)率(%) 100 100 100 100 67 100 100 100 100 96試料
M2
Staphylococcus lugdunensis
薬剤感受性検査サーベイの成績【評価対象】
1.結果 1)回答状況 薬剤感受性検査サーベイ参加48 施設について、抗菌薬回答状況を指定抗菌薬別、方法 別に表6 に示した。一部、薬剤が不採用などの理由で未回答となった施設もあり、Oxacillin(MPIPC)、Cefazolin(CEZ)、Gentamicin(GM)、Vancomycin(VCM)は 48 施設、
Cefoxitin(CFX)は 46 施設、Benzylpenicillin(PCG)は 45 施設の回答となった。253
-2)検査方法 感受性検査機器/方法別の回答状況を表7 に示した。マイクロスキャン WalkAway が 34 施設(71%)で最も多く、次いでバイテック 2 が 6 施設(13%)、用手法が 4 施設(8%) 〔CLSI ディスク法 3 施設、ドライプレートの目視 1 施設〕、フェニックスが 2 施設(4%)、 ライサス1 施設(2%)、IA20MICmkⅡ(栄研化学)1 施設(2%)であった。 3)感受性成績 参加48 施設の感受性結果状況について微量液体希釈法、E-test およびディスク拡散法 の結果を表8、9 に示した。今回使用した菌株は、メチシリン耐性のS. lugdunensis で あり、正確に感受性結果およびカテゴリー判定を導くことが出来ているかを確認するた めに実施した。 微量液体希釈法で回答された各指定抗菌薬に対する正解率はPCG、GM、VCM が 100%、 MPIPC、CEZ、CFX が 98%であった。また CLSI ディスク法での正解率は MPIPC、 PCG、GM、VCM が 100%、CFX が 80%、CEZ が 66%であった。今回使用した菌株に おける薬剤感受性検査のカテゴリー判定はMPIPC、PCG、CEZ、CFX 、GM は R(耐 性)、VCM は S(感性)となり、これらの回答を評価 A とした。GM の I(中間)の回答 は評価B(許容正解)とし、それ以外の回答を評価 C とした。GM の判定を I(中間)と 回答している施設はバイテック2 を使用している 6 施設であった。バイテック 2 は感受 性検査検証システムを用い、広範囲のデータベースを基に感受性結果を検証し結果を導 くものであり、他の測定機器とは測定原理が異なる。その違いによる機種間差でこのよう な結果になったものと推測される。判定を間違いとは言い切れないため今回は評価B(許 容正解)とした。 メチシリン耐性であるか否かは他のβ-ラクタム系薬の判定や治療抗菌薬選択にも大き く影響を及ぼす大変重要なことである。微量液体希釈法でMPIPC、CEZ、CFX を S(感 性)と報告した施設、CLSI ディスク法で CFX、CEZ を S(感性)と報告した施設、こ の 2 施設については感受性検査の実施方法や手技について、早急な改善が必要であるこ とを認識していただきたい。 2.まとめ S. lugdunensisは皮膚軟部組織感染症から分離され、敗血症、髄膜炎、心内膜炎などの 重篤な感染症の原因菌として報告されている病原性の高い菌種である。コアグラーゼ陰 性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci, CNS)の一種であるが、他の CNS と 比較して生化学的性状や臨床症状において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)と の類似点が多いことから鑑別には注意を要する菌種のひとつである。 薬剤感受性検査においてもMPIPC と CFX に関して、S. aureusと同じ判定基準を用 いることがCLSI のドキュメントに記載されている。この両薬剤を検査し、いずれかの結 果がR(耐性)の場合は、MPIPC を R(耐性)と報告するとされている。254
-S. lugdunensisを含むCNS の MPIPC ディスク法は、微量液体希釈法や CFX ディス ク法に比較してmec A 遺伝子との特異度が低く信頼性を欠くとの理由から MPIPC ディ スク法での判定基準はCLSI M100-S19 の改訂で削除された。 またVCM についても、ディスク法と微量液体希釈法の相関を調査した結果、ディスク 法ではS(感性)と I(中間)が分けられないことが判明し、VCM の感受性判定は微量液 体希釈法で実施することが、同じくCLSI M100-S19 の改訂で決まった。さらに、CLSI M100-S23 の改訂では「Oxacillin 耐性 Staphylococci は、抗 MRSA 活 性をもつ新規 Cephalosporin を除く、すべての現行市販品β-lactam 抗菌薬に耐性であ る。」「抗MRSA 活性をもつ薬剤を除くその他のβ-lactam 剤の日常検査は推奨されない。」 と記載されており、Staphylococcus spp.のβ-ラクタム系薬(ペニシリン系薬、β-ラクタ マーゼ阻害剤合剤、セファロスポリン系薬、セファマイシン系薬、カルバペネム系薬)の 判定基準が大幅に削除された。 Staphylococcus spp.の薬剤感受性検査は、上記のような詳細な判定基準が決められて おり、その基準に基づき検査を実施しカテゴリー判定を導かなければならない。メチシリ ン耐性を感性と報告することは治療失敗につながる重大なエラーであるので C 評価の施 設については、正しい感受性結果を導き出せる検査体制を整える必要があることを認識 していただきたい。 表6 指定抗菌薬別・方法別の回答状況(試料 M2) 検査方法 抗菌薬別回答数(%) MPIPC PCG CEZ 微量液体希釈法 45(94) 38(84) 45(94) E-test 2(4) CLSI ディスク法 3(6) 5(11) 3(6) 合計 48(100) 45(100) 48(100) 検査方法 抗菌薬別回答数(%) CFX GM VCM 微量液体希釈法 41(89) 45(94) 45(94) E-test CLSI ディスク法 5(11) 3(6) 3(6) 合計 46(100) 48(100) 48(100)
255
-表7 感受性検査機器/方法別の回答状況(試料 M2)測定機器 回答数 (%)
マイクロスキャン Walk Away 40, 40 SI, 40 Plus 22 33 69
マイクロスキャン Walk Away 96, 96 SI, 96 Plus 11
バイテック 2, バイテック 2 XL 4 6 13 バイテック2 コンパクト 30 2 用手法 CLSI ディスク法 3 4 8 用手法 ドライプレート目視 1 フェニックス 100 2 2 4 マイクロスキャン auto SCAN-4 1 1 2 IA20 MICmkⅡ 1 1 2 ライサス(RAISUS), ライサススエニー 1 1 2 合計 48 100 表8 微量液体希釈法(試料 M2) 測定薬剤 MIC 符号 MIC 値 (㎍/mL) 判定値 機器名称 回答合計 (%) 評価
MPIPC > 2 R Walk Away
フェニックス 100 ライサス auto SCAN-4 31(69) A ≧ 4 R バイテック2 6(13) > 4 R Walk Away IA20 MIC mkⅡ 7(16) = 2 S 用手法 1(2) C 合計 45(100) PCG ≧ 0.5 R バイテック2 6(15) A > 1 R フェニックス 100 2(5) = 4 R IA20 MIC mkⅡ 1(2.5) = 8 R Walk Away 用手法 15(37.5) > 8 R Walk Away auto SCAN-4 15(37.5) = 16 R Walk Away 1(2.5) 合計 40(100)
256
-CEZ ≦ 2 R Walk Away
フェニックス 100 4(9) A ≦ 4 R Walk Away バイテック2 11(24) = 4 R Walk Away IA20 MIC mkⅡ auto SCAN-4 3(7) ≦ 8 R Walk Away ライサス 25(56) = 8 R バイテック2 1(2) = 2 S 用手法 1(2) C 合計 45(100) CFX = 4 R フェニックス 100 1(2) A > 4 R Walk Away バイテック2 auto SCAN-4 34(83) = 8 R ライサス IA20 MIC mkⅡ 2(5) ≧ 8 R バイテック2 3(7) = 4 S 用手法 1(2) C 合計 41(100) GM > 8 R Walk Away フェニックス 100 ライサス IA20 MIC mkⅡ auto SCAN-4 用手法 39(86) A = 8 I バイテック2 6(13) B 合計 45(100) VCM ≦ 0.5 S Walk Away バイテック2 15(33) A = 0.5 S Walk Away 3(7) ≦ 1 S Walk Away IA20 MIC mkⅡ ライサス 8(18)
257
-= 1 S Walk Away フェニックス 100 バイテック2 auto SCAN-4 用手法 16(36) ≦ 2 S Walk Away 2(4) = 2 S フェニックス100 1(2) 合計 45(100) 表9 ディスク拡散法(試料 M2) 測定薬剤 阻止円径 (mm) 判定値 ディスク拡散法:CLSI 標準法 回答合計 (%) 評価 MPIPC 6 R 栄研 3(100) A 合計 3(100) PCG 16 R 栄研 1(20) A 19 R 日本BD 1(20) 9 R 栄研 1(20) 6 R 栄研 日本BD 2(40) 合計 5(100) CEZ 27 R 栄研 1(33) A 25 R 栄研 1(33) 27 S 栄研 1(33) C 合計 3(100) CFX 24 R 栄研 1(20) A 23 R 栄研 1(20) 20 R 日本BD 1(20) 10 R 日本BD 1(20) 27 S 栄研 1(20) C 合計 5(100) GM 6 R 栄研 3(100) A 合計 3(100) VCM 22 S 栄研 1(33) A 20 S 栄研 2(67) 合計 3(100)258
-試料
M3
Granulicatella adiacens
同定検査サーベイの成績【評価対象外】
1.結果 1)同定菌名 参加50 施設における同定菌名の回答状況を表 10 に示した。Granulicatella adiacensの回答を評価A とした。 nutritionally variant streptococci(NVS)とGranulicatella elegansの回答は評価B(許容正解)とし、それ以外の回答を評価 C とした。回答の内訳 は17 施設(34%)がG. adiacens、22 施設(44%)が NVS、3 施設(6%)がG. elegans
であった。また、α-Streptococcus、Peptostreptococcus sp.回答不能と回答した施設は それぞれ 2 施設(4%)、Aerococcus urinae 、Gemella haemolysans はそれぞれ1 施設 (2%)であった。 2)同定機器/方法別の同定成績 同定機器/方法別の成績を表 11 に示した。用手法、その他で同定していると回答した施 設が19 施設と最も多く、次いで同定キットのアピストレップ 20 が 10 施設であった。同 定機器/方法別の評価 A 正解率は、質量分析・ラピッドID32 ストレップアピが100%であ ったが、一般的に使用されるキットや用手法では低い正解率であった。 2.まとめ 1)同定結果 今回使用した菌株はG. adiacensである。一般的なTSA を基礎培地とするヒツジ血液 寒天培地には発育せず、チョコレート寒天培地に発育する(培地メーカーや菌種・菌株に よっては発育せず)。発育に L-システインや、ビタミン B6を必要とし、これらが含まれ るブルセラ HK 寒天培地や変法 GAM 寒天培地には良好な発育を示す。また、この性質 により衛星現象を確認できる。このような性質を示すレンサ球菌は NVS と呼ばれ、G. adiacens、G. elegans、Granulicatella balaenopterae、Abiotrophia difectivaの2 属 4 菌種が含まれている。ヒトの臨床材料より分離されているのは、G. adiacens、G. elegans、
A. difectivaで、血液培養陽性の培養液ではグラム陽性の双球菌または連鎖球菌が確認で き、集落のグラム染色ではグラム不定の球桿菌様に染まるのが特徴である。
また、感染性心内膜炎患者の血液から分離されたviridans group Streptococci の 5~10% がNVS との報告があり、NVS による感染性心内膜炎は、他のStreptococcus属による症 例よりも治療の失敗や再発が多いとされている。原因の一つとして、菌種の同定が難しく、 適切な抗菌薬治療が適切な期間行われないことが挙げられる。そのため、今回各施設がど のように同定しているかを調査する目的で出題した。 今回使用したG. adiacensは、G. elegansとの生化学的性状による鑑別が出来ず、確実 に同定することが難しいものであった。アピストレップ20 などの同定キットでは、鑑別
259
-に必要な酵素反応が偽陰性となり、生化学的性状で最後まで分類できないため培地の発 育状況などからNVS と回答している施設も多く、この 2 つについては評価 B とした。そ れ以外の菌名については、菌を分離した時点でNVS を推定することは可能であり、NVS による感染症が治療の失敗や再発が多いことから、正確に菌種を推定する必要性を考慮 しα-Streptococcus、Peptostreptococcus sp.、回答不能、A. urinae 、G. haemolysans と 回答された場合を評価対象外ではあるが評価C とした。 近年、遺伝子検査や質量分析などの同定方法が導入されることで菌種が増加し、従来の 同定キットでは正確に同定できない菌種も多いことが判っている。同定キットの性能で は分類の難しい菌種が存在すること、使用している培地の性能を再度確認するなど、日々 の同定検査について注意していただきたい。 2)同定方法、付加コメント 同定方法は、13 施設(26%)が同定機器を用い、37 施設(74%)が用手法であった。 バイテックMS、MALDI バイオタイパーといった質量分析装置、バイテック2を使用し ている10 施設(20%)は、評価 A のG. adiacensと回答していた。一方、フェニックス を使用している2 施設(4%)は、評価 C の回答となった。用手法で同定している 37 施 設(74%)の内訳は、その他用手法(衛星現象の確認など)が 19 施設(38%)と最も多 く、正解(評価A)率は 0%であった。同定キットを使用している施設では、アピストレ ップ 20 による同定 10 施設(20%)、クリスタル GP 同定検査キットによる同定 5 施設 (10%)、ラピッドID32 ストレップアピによる同定2 施設(4%)、Rap ID STR による同 定1 施設(2%)となり、用手法の同定正解率は 20~100%ではあったが評価 C となる回 答は2 施設(4%)であった。 表10 同定菌名の回答状況 (試料 M3) 評価 同定菌名 回答数 (%) 計(%) A G. adiacens 17 34 17(34%) B NVS 22 44 25(50%) G. elegans 3 6 C α-Streptococcus 2 4 8(16%) Peptostreptococcus sp. 2 4 回答不能 2 4 A. urinae 1 2 G. haemolysans 1 2 計 50 100
260
-表11 同定機器/方法別の回答状況 (試料 M3) 質量分析 による 同定 アピスト レップ 20 ラピッド ID 32 スト レップ アピ フェニッ クス バイテッ ク 2 Rap ID S T R クリスタ ル GP 同定 検査キ ット その他用 手法 合 計 A G. adiacens 4 4 2 6 1 17 B NVS 6 1 2 13 22 G. elegans 3 3 C α-Streptococcus 2 2 Peptostreptococcus sp. 1 1 2 回答不能 1 1 2 A. urinae 1 1 G. haemolysans 1 1 計 4 10 2 2 7 1 5 19 50 正解(評価A)率(%) 100 40 100 0 86 0 20 0261
-フォトサーベイ
設問
1:Trichomonas vaginalis【評価対象】
設問1 は、22 歳の女性で腟の掻痒感と帯下異常を自覚症状とするトリコモナス腟炎の症 例であった。Trichomonas vaginalisは性感染症(STI)の原因微生物の一種であり、鞭毛 を有する原虫である。検査材料としては主に尿と腟分泌物などが用いられる。生鮮検体で波 動膜を動かし活発に運動する栄養型が観察でき、腟分泌物のグラム染色でも常在菌である Lactobacillus sp.の減少とともに好中球よりもやや大きめの鞭毛を有する虫体が確認され た場合は本微生物を推定することが可能である。また細菌性腟症を合併している場合もあ るため、注意深く観察する必要がある。 推定微生物名の回答成績を表1に示した。Trichomonas vaginalisを評価A とし、それ以 外を評価C とした。 本設問へ回答した総施設は 54 施設であり、52 施設(96.3%)がT. vaginalisと回答し、 きわめて良好な成績であった。一方、2 施設(3.7%)がChlamydia trachomatisと回答さ れており、本微生物のグラム染色での特徴を再度確認していただきたい。 表1 推定微生物名の回答 評価 推定微生物名 回答数 (%) A Trichomonas vaginalis 52 96.3 C Chlamydia trachomatis 2 3.7 合計 54 100
設問
2:Aerococcus urinae または Aerococcus sp .【評価対象】
設問2 は、60 歳代男性における化膿性脊椎炎の症例であった。Aerococcus sp.は尿路感 染などの原因菌となるが、化膿性脊椎炎や腸腰筋膿瘍といった膿瘍性疾患も引き起こすこ とが知られている。 血液培養のグラム染色では、クラスター状のグラム陽性球菌が観察されたが、35℃、5% 炭酸ガスによる24 時間培養では、ヒツジ血液寒天培地にα溶血の示す直径 1mm 程度のコ ロニーを認めた。以上の特徴はAerococcus spp.を疑う大きな手掛かりとなる。コロニーの 生化学性状はカタラーゼ陰性、ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)試験陽性、ピロリドニ ルアリルアミダーゼ(PYR)試験陰性でありA.urinaeとAerococcus christenseniiが考え られ、両者の鑑別性状は前者がβ-グルクロニダーゼ(β-GUR) 試験陽性、後者は陰性であ る。しかし本症例では β-GUR の性状の記載が無く、両者の鑑別は不可能であったが、
262
-Aerococcus spp.の代表菌種であるAerococcus viridansはLAP 試験陰性、PYR 試験陽性で あり推定菌から除外できた。
推定微生物名の回答成績を表 2 に示した。今回提示した生化学性状からは A.urinae と
A.christenseniiの区別が不可能と考え、A.urinaeとAerococcus sp.の両者ともに評価 A、 それ以外の回答をすべて評価C とした。
本設問へ回答した総施設は54 施設であり、46 施設(85.1%)がA.urinae、4 施設(7.4%) が Aerococcus sp. との回答でありきわめて良好な成績であった。不正解とした S.mirelli group、α-Streptococcus およびEnterococcus faecalis と回答した施設はAerococcus sp.との 鑑別をグラム染色像と生化学的性状の両方からの再度確認していただきたい。 表2 推定微生物名の回答 評価 推定微生物名 回答数 (%) A Aerococcus urinae 46 85.1 Aerococcus sp. 4 7.4 C S.mirelli group 2 3.7 α-Streptococcus 1 1.9 Enterococcus faecalis 1 1.9 合計 54 100
設問
3:Bordetella pertussis【評価対象】
設問3 は、8 か月男児における百日咳の症例であった。咽頭分泌物のグラム染色では、グ ラム陰性の短桿菌が多数観察された。培養検査では、ヒツジ血液寒天培地およびチョコレー ト寒天培地のいずれの培地にも発育を認めず、本菌の選択培地であるボルデテラCFDN 培 地に 1mm 程度の光沢をもつ白色のコロニーの発育を認めた。グラム染色上の形態から、 Haemophilus spp.との鑑別が必要となるが、Haemophilus spp.はチョコレート寒天培地に 発育する特徴を有するため本菌とは一致しない。また、コロニーの生化学的性状は、オキシ ダーゼ陽性、カタラーゼ陽性、運動性陰性であったことから、Bordetella pertussisが推定 される。同じBordetella属の、B. parapertussisはヒツジ血液寒天培地に発育を認め、オ キシダーゼ陰性という点で鑑別が可能である。 本菌は、百日咳の主な原因菌であり、患者の上気道分泌物による飛沫、および直接接触す ることにより感染する。いずれの年齢でも感染するが、ワクチン接種前の乳児や未接種の小 児が中心となる。1994 年以降、DPT 三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)の 接種開始年齢が生後3 か月に引き下げられた。本症例は、生後 8 か月の乳児であったが、 DPT ワクチンは未接種であった。1 歳未満の乳児、特に生後 6 か月以下では死亡率が高く263
-なるほか、感染力が非常に高いため、周囲への集団感染を容易に引き起こす。本菌が疑われ る場合は可能性を臨床に伝えることは重要である。 推定微生物の回答成績を表 3 に示した。B. pertussisを評価A とし、それ以外の回答を すべて評価C とした。 本設問へ回答した施設は54 施設であり、51 施設(94.4%)がB. pertussisと回答し、き わめて良好な成績であった。不正解としたB. parapertussisおよびH. influenzaeと回答し た施設は B. pertussis との培地への発育および生化学的性状の違いを再度確認していただ きたい。 表3 評価 推定微生物名 回答数 (%) A Bordetella pertussis 51 94.4 C Bordetella parapertussis 2 3.7 Haemophilus influenzae 1 1.9 合計 54 100設問
4:Arcanobacterium haemolyticum【教育問題(評価対象外)】
設問4 は、糖尿病未治療患者の下肢壊疽およびそれに起因する菌血症の症例であった。 血液培養陽性時のグラム染色ではグラム陽性桿菌を認め、35℃、48 時間の炭酸ガス培養 にてヒツジ血液寒天培地にβ溶血を示す半透明で灰白色のコロニーが分離された。形態学 的 に 類 縁 の Corynebacterium 属 や β 溶 血 を 示 す グ ラ ム 陽 性 桿 菌 と し て Listeria monocytogenes との鑑別が重要であるが、どちらもカタラーゼ陰性を根拠に否定すること ができる。 上 記 の 性 状 を 示 す グ ラ ム 陽 性 桿 菌 と し て 鑑 別 が 必 要 な 菌 種 は 、Arcanobacteriumhaemolyticum、Trueperella pyogenes、Trueperella bernardiaeであるが、これらの中で 設問に示したCAMP 試験の結果がえられるのはA. haemolyticumのみである。CAMP 試 験は、通常Streptococcus agalactiae(GBS)の鑑別に用いられることが多い。Stapylococcus aureusの出すβ-ヘモリジンにより GBS の溶血が増強されること利用した検査であるが、 被検菌では逆に溶血が減弱されている。この現象は CAMP inhibition(抑制)反応と呼ば れ、A. haemolyticumがS. aureusのβ-ヘモリジン産生を抑制するホスホリパーゼ D を産 生することによる。また、キシロース陰性という性状もA. haemolyticumと合致している。 本菌は、多形性を示すグラム陽性桿菌であり、膿瘍や創傷部からの分離例ではその多くが、 他の菌種と混在して検出される。そのため、本菌を見逃さないためには注意深く集落を観察 することが重要である。